バーロー症候群(Barlow’s syndrome)―形成できないというのは昔話? 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月13日

1.バーロー症候群とは?

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バーロー症候群(Barlow’s syndrome)は、僧帽弁が過剰に伸びて「フロッピー弁(floppy valve)」のようになり、閉じが不完全となる病気です。欧米で多く報告されており、人口の1〜6%に発生するとされ、遺伝的要素が関与すると

考えられています。

別名として「フロッピー弁症候群」や「Billowing Mitral Valve Syndrome(膨らんだ僧帽弁症候群)」とも呼ばれます。

かつては「形成困難」と言われていましたが、現在は弁形成術の進歩により多くの症例で修復可能となっています。

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2.主な症状と合併症

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初期には自覚症状が乏しいこともありますが、逆流(僧帽弁閉鎖不全症)が進行すると以下の症状が見られます:

  • 動悸、易疲労感、息切れ

  • 胸痛(狭心症とは異なるタイプ)

  • めまい、偏頭痛

また、中等度以上になると以下のリスクが高まります:

  • 心房細動

  • 腱索断裂

  • 心不全

  • 突然死

  • 感染性心内膜炎

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3.診断方法と治療の基本

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診断には心エコー検査が用いられ、弁尖の形態や逆流の程度を正確に評価できます。

治療の必要性

  • 軽症例 → 経過観察

  • 中等度〜重度 → 手術(僧帽弁形成術が第一選択)

※胸痛やめまい、日常生活での息切れがある場合は早めの受診が推奨されます。(参考:僧帽弁閉鎖不全症の治療ガイドライン

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4.バーロー症候群の僧帽弁形成術

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バーロー症候群では前尖・後尖ともに弁組織が余りやすく、複雑な形成術が必要です。

主な手術内容

  • 前尖の切除・再建

  • **多数の人工腱索(必要なら12本まで)(手術事例4)**による強固な補強

  • 後尖の三角切除や余剰弁尖切除・減高、人工腱索追加

  • SAM(収縮期僧帽弁前尖運動)を防ぐ工夫

このため、高度な技術と豊富な経験をもつ心臓外科医チームでなければ成功が難しいとされています。

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5.専門チームによる治療で得られる安心と成果

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経験豊富なエキスパートによる僧帽弁形成術では、長期予後は良好です。

  • 弁輪にリングを装着 → 再発防止

  • 腱索を人工腱索で強固に置換 → 弁の耐久性向上

  • 前尖・後尖のバランス調整 → 逆流防止と心機能維持

さらに当院では、**小さな切開で行う低侵襲心臓手術(ミックス)**も導入し、患者さんの回復を早めています。また医学的にミックスが不適切と考えられる患者さんにはミックスではなくても術後の痛みの軽減をもたらす方法を用います

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まとめ

バーロー症候群は「治せない病気」ではなく、エキスパートによる弁形成術で十分に改善可能な疾患です。

  • 正しい診断と治療で生活の質を大きく改善できる

  • 形成手術は人工弁よりも自然な心機能を維持できる

  • 傷跡の小さいMICSや痛みの少ない正中アプローチも選択可能

「形成できない」と諦める必要はありません。
もし他院で「手術は無理」と言われた方も、ぜひ一度ご相談ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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