バーロー症候群(Barlow’s syndrome)―形成できないというのは昔話?

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故バーロー先生が初めて記載された病気です

◾️まずバーロー症候群とは?

それは僧帽弁の弁尖つまりひらひら開閉する部分が大きく広がり過ぎて余り、モコモコと凹凸した弁のことです。

以下もう少しご説明します。

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バーロー症候群(Barlow’s syndrome)は欧米にはよく見られる僧帽弁の病気で、

人口の1-6%に発生するというデータもあり遺伝的要素のある疾患です。

故バーロー先生(右写真)初めて記載され、その名が残っています。

別名フロッピー弁症候群(floppy-valve syndrome、弱い弁という意味)とか膨らんだ僧帽弁症候群(Billowing mitral valve syndrome)などともいうように、

バーロー症候群とFED弁が伸びて組織が瘤のように余ってしまい、

きれいに閉じなくなった状態を指します。

 

左図の上がバーロー症候群の僧帽弁で前尖がもこもこと瘤化し変化していることがわかります。

左図の下が一般的な後尖逸脱のある僧帽弁で弁そのものの変化は軽いです。fibroelastic deficiency略してFEDとも呼ばれます。

 

著者は北米や豪州でこのバーロー症候群の手術を多数経験しましたが、

近年は日本でも増えている印象があります(バーロー症候群の手術事例1)。

僧帽弁クレフト(裂隙)など先天性僧帽弁閉鎖不全症に合併するものもあります(手術事例)。

甲状腺疾患やマルファン症候群手術事例)、

あるいはリウマチ性弁膜症などで多く見られる傾向があります。

 
Ilm09_ad10002-s◾️バーロー症候群の症状は?

症状は当初はあまりないことが多いのですが、

弁の逆流が増えるにしたがって次第に動悸や倦怠感、めまい、息切れ、胸痛(狭心症とは違う形の)、偏頭痛などがあります。

 

バーロー症候群(Barlow’s syndrome)では弁尖がしばしば2つとも左房へ落ち込み弁の逆流(僧帽弁閉鎖不全症)が発生します。

その原因として考えられるのは、組織が変性し、弁尖が伸びてしまうことで、

その組織変性は他の変性性の病気と関連していると考えられています。

バーロー症候群の患者さんの25%では関節の異常や高いアーチ状の口蓋、

あるいは側彎やろうと胸、などの骨格の異常などが見られます。

 

◾️バーロー症候群の診断と治療は

診断は心エコーにてつきます。

弁尖の位置や形、かみ合わせ具合等でわかりますし、

僧帽弁閉鎖不全症としての重症度ももちろんわかります。

 

中等度から高度の僧帽弁閉鎖不全症になると、

突然死や心房細動、腱索断裂、心不全、

あるいは感染性心内膜炎への注意が必要となります。

こうなると心臓手術が必要となり、それによって突然死が防げます。

とくに胸痛や易疲労感、めまいなどを感じたら要注意です。

(参考:僧帽弁閉鎖不全症の治療ガイドライン

 

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◾️バーロー症候群の手術特に弁形成術は

手術では弁葉そのものが比較的柔らかいため、僧帽弁形成術が可能です。

ただし前尖・後尖含めた弁の大半を修復する必要がしばしばあり、

熟練したチームでのみ形成可能です。

 

たとえば前尖の大半が逸脱していることも多く、

しかもその前尖がしばしば瘤化しています。

そうなると前尖を適切に切除し、

さらに人工腱索を多数立てて適切なかみ合わせを再現する必要があります。

私たちの経験では12本前後の人工腱索を前尖に立てればきれいにかみ合うようになります

手術事例)。

 

さらに難しいのは、後尖も壊れていることが多く、

そちらも三角切除や人工腱索などで再建する必要があります。

つまり前尖の人工腱索の長さ決定の通常の指標としている後尖の位置そのものがずれているため、

前尖・後尖とも新たに造りなおすような工夫が求められるわけです。

弁が瘤化しているため背丈も高く、SAM(前尖が前方に移動して左室の出口をふさぎ問題となります)対策も必要です。

人工腱索の4−6本も短時間で確実に立てられないチームでは

バーロー症候群の僧帽弁形成術が困難というのはそうした要求の多い手術だからです。

 

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◾️エキスパートが行う弁形成なら

しかしいったんきれいに弁形成術ができると、長期予後は良好です。

これは弁輪にリングをつけて弁全体をガードし、

腱索もしっかりした人工腱索で置き換わることと、

前尖後尖のかみ合わせが良好になれば弁葉に対するストレスが大きく軽減されるからです。

 

バーロー症候群と言われた僧帽弁閉鎖不全症の患者さんにおかれましては、

病気を無用に恐れることなく、また油断することもなく、

しっかり正面から向き合って治す、これがお勧めできる方針です。

 

私たちはバーロー症候群の僧帽弁形成術といえども傷跡の小さいミックスで行なっている稀有な病院の一つです。お役に立てれば幸いです。

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◆患者さんの想い出1:

Aさんは30代女性でバーロー症候群のため大学病院から紹介されて来院されました。

エコーを拝見するとたしかに僧帽弁の全体が落ち込み逆流が高度になっていました。

若い女性ですし弁形成術のメリットが大きく、ぜひとも弁形成という状況でした。

それもミックス法で小さい創で手術を行うことが患者さんのこころの創を軽くするためぜひそうしようと考えました。

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手術ではさすがにバーロー症候群といえる所見で僧帽弁が前尖後尖ともあちこちで落ち込んだり余ったりしてかみ合わなくなっていました。

前尖のA2部を三角切除して整え、A3部にゴアテックス人工腱索を立てて位置決めをしっかりやりました。後尖のP1とP2は変化あり、高くなりすぎていたため、高さを下げる調整をしました。大きめのリングで整え、逆流は消えました。

これらを小さい創で行いました。

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術後経過は順調でまもなくお元気に退院して行かれました。

Aさん、これから楽しくお過ごし頂ければ幸いです。バーロー症候群はエキスパートなら僧帽弁形成術が可能です。読者の皆様には妥協なく専門家の意見をもらわれるのが良いでしょう。

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◆患者さんの想い出2:

Bさんは約20歳の女性です。僧帽弁閉鎖不全症、それもバーロー症候群と言われて遠方から私の外来へ来られました。

ご年齢と全身の血管に動脈硬化がなかったこと、そして私たちのポートアクセス手術がかなり熟練の域に達したことから、バーロー症候群の複雑僧帽弁形成術でもポートアクセス法でオペできると判断しました。

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手術では前尖の三角切除を2か所行ったうえで、ゴアテックス人工腱索を合計10本立てました。そのうえでリングを用いて仕上げをしました。

これらの操作を長さ5㎝の小さい創ごしにやりました。

術後経過は順調でまもなくお元気に退院して行かれました。

Bさん、これからは健康人として楽しくやって下さい。

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米田正始   医誠会病院スーパーバイザー 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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