最終更新日 2025年9月17日
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◆ 僧帽弁の感染性心内膜炎とは?
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「感染性心内膜炎(IE)」とは、心臓の弁に細菌が付着して繁殖し、弁が破壊されてしまう病気です。
僧帽弁でも、大動脈弁と同様に小さな傷や細菌感染をきっかけにIEが起こることがあります。
発症すると以下のような重大なリスクがあります:
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弁が壊れ心不全が進行
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細菌が全身に広がり敗血症を起こす
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菌の塊(疣贅)が脳に飛んで脳梗塞や後遺症を引き起こす
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最悪の場合、命を落とす危険も
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◆ 僧帽弁に感染性心内膜炎が起こりやすい人は?
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僧帽弁閉鎖不全症 を持つ方
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僧帽弁逸脱症(MVP) がある方
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特に僧帽弁逸脱症は頻度が高く、IEの主要な原因のひとつです。
逸脱症だけであれば手術は不要ですが、感染によって弁が破壊されると手術が必要になります。
つまり、僧帽弁の基礎疾患を持つ方は、感染性心内膜炎に対する注意と予防がとても大切です。
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◆ 手術が必要になるケース
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僧帽弁の感染性心内膜炎で以下のような場合、心臓手術が適応となります:
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薬や点滴では改善しない心不全がある
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抗菌薬でも感染が抑えられない
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脳梗塞など菌の塊による合併症が出ている
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手術の基本方針は 僧帽弁形成術(弁を温存して修復する手術) を優先することです。
しかし感染で弁が大きく壊れている場合は形成が難しく、人工弁置換術が必要になることもあります。
とくに若い女性では、機械弁を入れるとワーファリンを一生内服する必要があり、妊娠や出産に大きなリスクが生じます。
👉 そのため、僧帽弁形成術の経験豊富な外科チームに任せることが最善です。
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◆ ミックス手術(小切開・低侵襲手術)は可能?
感染性心内膜炎は高齢者だけでなく、10~30代の若年層や40~50代の働き盛りにも起こりま
す。
そのため創をできるだけ小さく、胸骨を切らない MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:ミックス手術) が喜ばれています。
特に「ポートアクセス手術」による僧帽弁手術は、
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傷が小さい
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骨を切らないため回復が早い
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将来の生活や仕事復帰に有利
というメリットがあります。
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当院でも LSH法という創が目立ちにくいアプローチ を導入しており、「目立たない傷なら将来も安心」「また必要なら同じ手術を受けたい」といった患者さんの声もいただいています。
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感染性心内膜炎の再発予防 ― 日常生活でできること
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最も大切なのは 予防と再発防止 です。
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歯科治療(抜歯など)の際は必ず主治医と歯科医師に相談し、抗生物質を事前に服用
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うがい(イソジンガーグル等)を血のにおいが消えるまで継続
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切り傷・擦り傷はすぐに流水で洗浄、必要なら病院で消毒と抗生物質を処方してもらう
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発熱が続く場合や体調が悪いときは、早めに心臓専門医に相談
これらを徹底することで、再発や重症化を防ぐことができます。
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◆ まとめ
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僧帽弁の感染性心内膜炎は命に関わる重病
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基礎疾患(僧帽弁閉鎖不全症・僧帽弁逸脱症)がある人は特に注意が必要
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手術はできる限り僧帽弁形成術を優先し、人工弁置換は慎重に判断
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若年層や働き盛りには MICS(小切開手術) が有効
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再発予防には 歯科治療・外傷・感染対策の徹底 が欠かせない
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感染性心内膜炎でお悩みの方、また「手術が必要かもしれない」と言われた方は、ぜひ一度ご相談ください。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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