11b) 冠動脈瘤ーー重症では注意が必要 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月2日

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◾️冠動脈瘤とは?

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冠動脈瘤とは心臓に血液を送るたいせつな冠動脈の壁が壊れてこぶのように膨らむ病気です。Fotosearch_CAR05005

右図のうち赤い線は冠動脈を示します。ちなみに青い線は冠静脈です。(やや下のほうから見た図です)

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冠動脈瘤の成因として、先天性つまり生まれつきのタイプから後天性つまり生まれてから川崎病などの感染その他の原因で発症するタイプがあります。先天性心疾患である冠動脈瘻が原因で発生する冠動脈瘤もあります。

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◾️冠動脈瘤が悪化するとどうなるの?

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冠動脈瘤はその中で血流がよどんで血栓ができると心筋梗塞となりますし、瘤があまり大きくなると破裂して大出血します。いずれの場合でもいのちにかかわることがあり、油断禁物です。

とくに瘤破裂などが起こりそうな場合は心臓手術の適応となります(手術事例 冠動脈瘤)

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◾️冠動脈瘤を早期発見するために

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かつて冠動脈瘤の精密検査といえばカテーテル検査というやや大がかりな検査が必要でしたが現在はCTスキャンでとくに痛みや苦痛なく、10分ほどの短時間でかなり詳細までわかります。A309_085

造影剤は必要ですが、それも静脈からの点滴のため苦痛が少なく、点滴や飲水などを工夫することで腎臓への負担も最小限に出来ます。

さまざまな工夫により放射線被曝も少量に抑えることができており、患者さんにとって朗報です。

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予防が第一で、ついで早期発見です。見つかればほとんどの場合打つ手があります。

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◾️冠動脈瘤の治療は?

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冠動脈瘤が破裂しそうな時や、瘤の中に血栓ができて心筋梗塞などが発生しそうな場合には外科手術が考慮されます。

瘤を切開し、中にある血栓を摘除し、瘤をきれいな動脈に形成することが治療です。狭窄などがあれば冠動脈バイパスを付けることもあります。瘤が小さく、破裂や血栓の心配が少ない場合、しかし増大傾向がある時には瘤を外から包み込み、これ以上の拡大や進行を防ぐこともあります。これは体外循環を使わないオフポンプで出来るため患者さんの体の負担が軽くて済みます。

冠動脈瘻が原因で冠動脈瘤ができている場合は、瘻を徹底して閉鎖するようにしています。それにより長期の安定性が得られやすいからです。

私たちはその患者さんの冠動脈瘤と全身の状態に合わせて上記の手術法を選択しています。そして15MHzの高速エコーで瘤の内側の状態を確認しながらベストな形成を行なっています。

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◾️冠動脈瘤と川崎病との関係について

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この病気は川崎病の後遺症として起こり得ること 巨大な冠動脈瘤が知られています。

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写真右は川崎病の既往のある50代男性の冠動脈瘤(赤い矢印)です。巨大な瘤の中に血栓が多量にでき、それが下流へ流れて重要な冠動脈を閉塞させ心機能が大変低下していました。

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瘤や合併する冠動脈狭窄のために手術が役立つことが多々あります。

川崎病に特有な血管の炎症やそれによる血管内膜の破壊が強いケースほどバイパス手術は役に立ちます(心臓手術事例)。

というのはバイパス手術でもちいる内胸動脈グラフトが血管を守るホルモンを出せるからです。

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カテーテル治療PCIで使うステントとくに薬剤溶出性ステントは血管内膜を傷めるため川崎病では一層不利な状態になります。

なので、かつてこどもの頃、川崎病で冠動脈に多少でも病気が発生したかたは、定期健診を受けられることをお勧めします。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り97: 冠動脈瘤の患者さん

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冠動脈瘤は心臓に血液を送る冠動脈がこぶのように膨らむ病気です。これにはいろいろなタイプがあります。


Ilm17_da05008-sこどもの頃に患った川崎病(MCLS)の後遺症として大人になってから冠動脈瘤が大きくなったり心機能が低下したりすることもありますし、複数の瘤ができることもよくあります。また冠動脈ろうに合併することもあります。

冠動脈瘤そのものが大きく、破裂する懸念があればそれを修復する必要があります。瘤を切開して小さくするとか、瘤を潰すとか、外側にガードを付けるなどさまざまな方法があります。瘤の影響で血液の流れが低下しているときには冠動脈バイパス手術が必要なこともあります。個々の患者さんの状態に応じて適切な治療法を選ぶ必要があります。

私たちは再発しないよう、完治を狙った手術を行っています。将来瘤になりそうなところもなるべくガードをつけて予防するようにしています。必要なところには冠動脈バイパスをつけて安全を確保します。

以下の患者さんは70代男性で冠動脈瘤のため来院され、ハートセンターで手術を受けました。しっかりと治療させていただき、いつしか心の絆ができたことをうれしく思っています。

これからも永くお元気でいて頂けるよう、何かと応援したく思います。

 

********患者さんからのお便り******


私の心臓疾患治療体験談

私は米田先生のお陰で冠動脈バイパス3本、冠動脈瘤2個の心臓手術を受け、命拾いをしました。以下に私の体験談を披露し、同様の心臓病治療中の皆さんの参考に供したいと思います。

私の祖父が7月の暑い日中に畑に出て、49歳心臓発作で急死。父は82歳、心筋梗塞で急死しています。しかし私は若い時は自分自身の健康状態から、遺伝的因子など考えにも及びませんでした。

1964年〔40歳〕の頃  会社の健康診断で血液・レントゲン検査があり、血糖値が高く精密再検査

を要することになり、E会社勤務の帰途中のK市民病院(愛知県)を選び通院することにした。そこで運動前後の心電図等検査結果は心電図に本来プラスに出るべき波形が逆にマイナス方向の波形があり不整脈と診断された。

当時は仕事に紛れ、あまり自覚症状も無く治療薬も飲んだり飲まなかったりしていた。或るときは主治医から何の説明もなく心臓に放射線治療〔約1時間〕受けたが、此れが適切であったか今も理解できない。その後主治医から私の不真面目さからか他の病院に掛かるよう指示され、以後上飯田病院〔名古屋市内〕に通院することになった。

1974年〔50歳〕の頃  上飯田病院に変てってからも仕事に追われ、通院が不規則であった。

   私は毎朝仏壇の前で読経中、或る時に胸の動悸や息苦しさがあり声を出す事が出来ない事があった。また当時の私は各地への営業出張が多く、ある時には電気技術者対象の講演で聴講者の前での講話続行が苦しく、時には緊張すると息苦しさが激しかった

1984年〔60歳〕の頃  60歳でE社を定年退職し、同年Y社に再就職したが、ここでも地方出張が多く通院はほとんど出来なかった。

まもなく上飯田病院から中度の心疾患者として名城病院〔名古屋市内〕を紹介され、以来同循環器内科部長のI主治医に掛かることになった。当時私の体重は80kg、胴囲98cmと肥満の頂点にあり、これ等は心臓病に悪影響したと思われる。

ここで初めての麻酔のもと腕からの心臓カテーテル検査で血管の一部に狭窄部があることが確認された。しかしこの時手術は見送られ、引続き投薬のみが続行された。

1990年〔65歳〕の頃  その後Y社を退職し、自宅近くのS社に再々就職した。この頃から運動不足を自覚し、毎早朝の時間を利用し、矢田川河川敷の千代田橋から三階橋まで往復約5キロメータを2時間かけてのウオーキングしたことがある。

その後もウオーキング距離は2キロと短くなったが毎朝6時30分のNHKラジオ体操にも参加するなどの健康つくりに専念した。お陰で体調はよく心疾患はすっかり忘れるまでになった。

2000年〔70歳〕の頃  毎朝のウオーキングに左足が痛く次第に歩くテンポも遅く歩行距離も更に短くなり、また手足の痺れ、息苦しさがあった。また或る時には風呂上りに悪寒を催す等体力の変調が見られた。                               

2008年[75]の頃   平成20年10月26日朝5時ごろから矢田川河川敷ウオーキングで、天神橋まで来たとき激しい息苦しさに襲われ苦しい中にも我が家に戻り、ベットに付くが苦しさは収まらず救急車の酸素吸入状態で名城病院に搬送された。

原因は不整脈と診察され入院翌日に電気ショックをうけ1週間後に退院した。

2009年1月16日   名城病院で初めてのカテーテル検査から10数年も経過し、ここにきて再度116日カテーテル検査があった。

この検査結果報告に初めて妻や子供達も参集するよう指示があり、この場で初めて冠動脈瘤、血管膨張部・狭窄部等があり、このままでは冠動脈瘤がいつ破裂するかわからず早期の心臓手術が必要とされた。

病気治療の無知な私達は10数年間経過するまでカテーテル検査を怠り、今に至り早急に「心臓手術をしなければ命がない。」とアドバイスされた。

ここまで病状が悪化したことに対し不害さを思い知らされ病院を変える事にした。

一般的に大病院は多くの患者が通院しており、主治医にもよるが1人の診察に時間が掛けられず適格な病状診断が出来ない場合も多いかと思われる。私も循環器内科薬冶療のみに頼ったことが反省させられる。早速[名医のいる病院]等の雑誌やインターネットで名医探索をした。

2009年3月13日   インターネットその他で我が子たちが心臓手術の名医を調査してくれた果、

開業後の知名度もなかったが名古屋ハートセンター米田先生と決め、3月13日同病院に入院し再検査した。

主治医は副医院長米田正始先生にお願いするとし、316日〔月〕米田先生執刀のもと補佐に深谷・北村先生が付き午前10時~午後17時ごろまでの極めて長時間で難易度の高い心臓手術が行われた。

米田先生の術前後の説明その他資料等から総合すると手術は先ず喉から呼吸気管、下部には排尿管を通し、そして胸部切開手術が開始された。

私の破裂寸前の冠動脈瘤は心臓の表と裏側に位置している。このため表側のバイパス血管手術後、予め用意された手術視野の悪い心臓裏側にある冠動脈瘤の手術には心臓の位置を変えなければならない。これには人工心肺装置を使う方法もあるが、弊害もあるので今回は新しく開発された手術法の拍動する心臓の動きを部分的に抑える器具をもちいてのオプキャブ (OPCAB)法が採用された。この手術には胸骨は或る程度大きな切開となるものの手術の安全確実な方法とのことであった。

まだまだ難易度の高い手術もあるが、私の手術はバイパス3本、血管外部からの狭圧補助管2箇所を一部は自分の足の血管を採用して今回の難手術は成功した。

そして入院20日後の4月1日〔水〕無事に退院することが出来た。 しかし術後と言ど脳梗塞、心不全不整脈、心筋梗塞、肺炎等に依然として注意が必要との事であった。

     今回私は優れた心臓外科手術の名医米田先生にも恵まれ、また医療費は高齢者医料補助による患者負担費10分1として計算すると約130~150万円掛かったことになるが、補助のお陰で大きな手術ながら低額費で済んだ。

私は死の一歩手前で助かつたが、これも献身的な皆さんのお陰と深く感謝する共に大変ご心配をお掛けし申し訳なく茲に心からお礼を申し上げる次第である。        

2009723日 退院後は自宅近くの北病院浅海先生に米田先生の指示で事後治療をお願いする事になった。その約5ケ月後早朝散歩の3歳年上の友人からの勧めで私も2カ月後北病院で肺炎予防ワクチン注射をお願いし此れが災いしたか ?

やがて胸苦しさを覚え、私は名古屋ハートセンターに駆け込みレントゲン検査を受けた結果、胸水が溜っているとの診断で再入院。米田先生の術後は「肺炎余病等の注意」が現実となり同先生のご指導のもと緊急処置で胸水1200ccを抜き取った。

7月31日に退院し、名城病院気管支内科に転医したが、胸水病原菌を調査したいと云うものの胸水抜き取りは躊躇され、排尿剤の服用のみで苦しい思いが続いた。

一方友人は寒くもないのに毎日マスクを掛け、異常を訴えていたが、その1年後に肺炎で病死した。私には病名、外科的処置等は判らないが、私も緊急処置がなかったら同じ運命の危険性もあったかと思う。

 

今回私の心臓疾患等の経緯から、術後約5年経過。お陰さまで今日の健康回復に感謝し毎日を過ごしている。

今日其々の地域には大学病院等の大病院もあり、手術事例、件数等も記載した書籍もあるが、意外と主治医の経験不足もあると聞く。今毎週BS日テレ放映中の[韓国ドラ・ホジュン官邸医官への道]は主演ホンジュンは旅の行く先々で貧乏急患が担ぎ込まれ、他の医師は断る中で危険な急所に針を正確に打ち適切なアドバイスで処置する民への芳心が米田先生とダブリ鑑賞している。

経歴、人柄もまた重要な信頼要素でもあり、この種の情報は米田先生のホームページネット等を参考とすれば理解できる。

この種の情報は人から人に伝わり、また寝たきり防止のためにも同病者の体験談等も参考にすべきだと思う。

米田先生は京大心臓手術専門医から米国大学等にも留学し、心臓手術を研鑽され、今日なお専門医の第一人者として若い医師の指導育成にも力を注いでいる。

今回の「かんさいハートセンター」の開設は地域住民の健康と活性化に大いに役立つものと期待される。

 

      人の病気は加齢と共に進化し、また抵抗力も弱まり判断力も鈍くなるが、薬治対応等だけでは健康回復が遅れ、多病を併発しやすい場合がある。

いずれにしても自我流対応の遅れが致命傷となる。油断せず時には信頼できる主治医の病院に代えたり、手術等の早期治療を図ることが最も大切であると学んだ。

 

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執筆:米田 正始
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医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 冠動脈瘤

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患者さんは75歳男性で胸痛を主訴としてハートセンターへ来院されました。

精密検査の結果、冠動脈に複数の瘤ができ、破裂する危険性があるため手術を行うことになりました。

冠動静脈ろうはなく、また川崎病の既往も所見もない、純粋な冠動脈瘤です。

 

1.冠動脈造影にて3つの瘤がみつかり、そのうち左冠動脈前下降枝と中間枝の瘤が破裂しそうな状態でした。

鈍縁枝の瘤は軽度の拡張と動脈の狭窄が主体でした。

そこで手術治療になりました。通常のバイパス手術より複雑なためもとの病院では手術困難と言われ紹介されて来られました。

 

普通の動脈瘤とは違い、冠動脈瘤では瘤やその付近から枝が出ている場合、瘤を単につぶしてしまうと心筋梗塞になりますし、血管が細いため大動脈のように人工血管で瘤を置き換えることもできません。

 私たちは冠動脈バイパス術と瘤の閉鎖またはカバーを組み合わせて、瘤破裂と虚血・梗塞の両方を予防するようにしています。

これによって短期と長期の安全を確保しやすいと考えています。

 

瘤は先天性の可能性が高いと思われますが、原因がはっきりしないため、もしもの新規瘤発生の事態も考え、将来再手術になっても安全に手術できるよう、

図4 瘤は静脈と脂肪の下内胸動脈グラフトは1本とし、静脈グラフトを1本(シーケンシャルというスキップ吻合にて2本相当)というデザインにしました。

 2.冠動脈瘤がある左室基部を観察しましたが、冠静脈と脂肪に覆われて見えません

(写真左のグラフトの向こう側)。

オフポンプで剥離するには出血が多くなる可能性があり、オンポンプの方がむしろ安全で簡単と判断しました。

図1 LITA-LAD 図3 SVG-IM 3.まず左内胸動脈を左冠動脈前下降枝にバイパスをつけました

(写真左)。

4.ついでオンポンプで大伏在静脈を鈍縁枝につけ、これをさらに中間枝に吻合しました。

鈍縁枝は細くかつ心基部にあったためスムースなレイアウトにするため逆U字型のデザインを使いました(写真右)。

 

図5 瘤を露出 図6 LAD瘤を閉鎖 5.ここで主肺動脈をかわしながら、前下降枝と中間枝の瘤を露出しました

(写真左)。

6.前下降枝の近くに重要な冠動脈中隔枝があったため、これを傷つけないよう注意して瘤全体を押さえ込みました

(写真右)

図7 IM瘤を閉鎖  7.同様に中間枝の瘤も押さえ込み閉鎖しました

(写真左)図8 瘤を覆う

 

8.2つの瘤はもとどおり、心外膜と脂肪組織で覆い、周囲組織と癒着しづらいようにしました。

9.3本のグラフトのフローはいずれも拡張期型の良好なフローパタンを示しました。

容易に体外循環を離脱しました。00028456_20090323_CT_509_8_8

 

術後経過も良く、術翌日には一般病室へ戻られました。

術後のマルチスライスCTにて全部のバイパスグラフトがきれいに流れているのを確認しました。

また将来の万一の事態に備えてもとの冠動脈に PCI ができるよう、もとの冠動脈も細いながらも残すことができました(写真右)。

こうした内科外科の垣根を越えた、様々な治療オプションを確保しておくことが、長期的に患者さんをよりしっかり救うことにつながると信じます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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