最終更新日 2025年9月23日
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◆自己心膜を使った大動脈弁再建術とは?
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大動脈弁閉鎖不全症や大動脈弁狭窄症に対しては、従来「弁形成術」または「弁置換術」が選択されてきました。
しかし弁が変形し、短縮してしまったケースでは形成術だけでは十分に逆流を防げないことがあります。
そこで登場したのが 「自己心膜を用いた大動脈弁再建術」 です。
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患者さんご自身の心膜を利用して大動脈弁の弁尖を再構築する方法で、自然に近い弁の働きを取り戻すことを目指します。
この治療は「弁形成術」と「弁置換術」の中間的な位置づけともいえ、“弁再建術” と呼ばれることもあります。
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◆大動脈弁形成術の進歩と限界
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二尖弁による大動脈弁閉鎖不全症や、大動脈解離・心室中隔欠損症に伴う弁逆流などは、大動脈弁形成術で対応できることが多くなってきました。
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しかし弁尖が短縮してしまうと、形成術を行っても十分に噛み合わず、再び逆流が起きるリスクがあります。
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そこで自己心膜を弁尖として追加し、延長・再建する手術が発展してきました。
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◆日本と韓国で磨かれたノウハウ
この分野は、日本の尾崎先生による自己心膜弁再建術、韓国のSong先生によるウシ心膜を用いた手術が国際的に有名です。
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尾崎法:患者さん自身の心膜を厳選し、弁尖のサイズに合わせて精密に作製する方法。
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Song法:弁の上下を安定化させる固定を併用し、長期耐久性を重視。
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私たちはこれらの方法を学び、日本・韓国双方の長所を取り入れつつ実践しています。
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◆自己心膜による大動脈弁再建術のメリット
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若い患者さんに有利
生体弁は10年程度で劣化することが多く、特に20代・30代の方や妊娠・出産を希望される女性では短期間で再手術が必要になることがあります。
自己心膜による再建術は、こうした若年層の患者さんにとって有力な選択肢です。 -
抗凝固薬ワーファリン不要
機械弁のように一生ワーファリンを服用する必要がなく、スポーツや妊娠・出産、日常生活での制限が少なくなります。 -
腎不全・血液透析患者さんにも有効
生体弁の劣化が早い患者さんでも、自己心膜を利用することで耐久性が期待できます。
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◆弁形成術との関係 ― 総合的な戦略
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もちろん、可能であれば 弁形成術が第一選択 です。
弁形成が難しい場合のバックアップとして、自己心膜を用いた弁再建術が役立ちます。
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弁形成術 → ベストな方法。自然弁を最大限に活かす。
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自己心膜弁再建術 → 弁形成が成立しないときの有力な代替手段。
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生体弁や機械弁(大動脈弁置換術) → 状況に応じて選択。将来的にはTAVIによる「Valve-in-Valve」も視野に。
このように、患者さんごとに最適な組み合わせを選ぶ「オーダーメイド治療」 が大切です。
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◆今後の展望
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自己心膜弁再建術はまだ進化の途上にありますが、
「ワーファリン不要で自然な弁機能を再現」できる可能性を持ち、今後さらに広がることが期待されます。 -
長期成績や再手術時の対応についても研究が進み、より安全で安心できる治療になるでしょう。
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◆まとめ
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自己心膜を用いた大動脈弁再建術は、「弁形成」と「弁置換」の間を埋める新しい治療法 です。
特に若年層や妊娠を考える女性、透析患者さんなどに大きなメリットがあります。
大動脈弁の病気でお悩みの方は、ぜひ 弁形成・弁再建・弁置換を総合的に扱える心臓外科専門医 にご相談ください。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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