お便り87: ミックス法で自己心膜の大動脈弁形成術(再建術)

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比較的お若い患者さんの大動脈弁閉鎖不全症大動脈弁狭窄症に対してはこれまで機械弁をもちいた大動脈弁置換術が一般的でした。

A335_007しかしそれでは一生涯、ワーファリンという血栓予防のお薬が不可欠で、毎月、一生涯病院に通って検査を受け、薬の量を調整する必要があります。

それを避けるため生体弁を若い患者さんに使うことは増えましたが、その場合は将来何度か再手術を受ける必要があるという問題が残っていました。

これを解決すべく開発されたのが自己心膜による大動脈弁形成術(別名・大動脈弁再建術)です。

以下の患者さんはこの自己心膜大動脈弁形成術を受けて元気になられたかたです。

それも小さい創のミックス法で行いました。

比較的遠方からお越し頂いただけのものが提供できてうれしく思います。

これから永い間、のびのびと楽しく、くらして頂ければ幸いです。

**********患者さんからのお便り**********


拝啓

先生 この度は色々お世話になりありがとうございました。

2月13日に手術して頂き、約40日経過し、主人も大分普段の生活に戻りつつあります。

入院中は皆様に本当に良くして頂き、名古屋ハートセンターに決断して、夫婦共々つくづく良かったと思っております。

2月22日の退院の時には出張されていて御礼を申し上げる事が出来ませんでしたが、3月19日の診察の時、お会いする事が出来、主人も喜んでおりました。

そして、9月頃より奈良高の原でハートセンター開院のお話しをして下さり、有難い限りです。

自宅からは車で一時間弱で行ける距離だと思いますので、是非高の原での診察を望んでおります。

次回、名古屋ハートセンターの予約は8月ですが、主人の体調さえ良ければ、9月に延ばしてでも先生に診て頂けたら有難いです。

これから先、先生の「心臓外科手術情報WEB」等、注意しながら見、診察予約できる日を確認したいと思っていますので、これからも引き続き宜しくお願い申し上げます。
一番最初の問い合わせメールの件、(一時間で返信して下さいました)そして今回、前もって高の原開院の件をお話しして下さった事を、先生の御実家近く?の**病院に職員として勤務している娘に話しましたら、本当に親切な先生だと感動していました。

勿論私達夫婦も感謝に堪えません。
では、9月頃に受診させて頂く日、楽しみにしております。

敬具
平成25年3月25日

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り70 自己心膜で大動脈弁形成術(再建術)をミックス法で受けた患者さん

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自己心膜をもちいた大動脈弁形成術あるいは再建術は最近世界の注目を集めています。

Ilm23_cd01001-s大動脈弁の弁尖つまりひらひらと開閉する部分を自己組織で取り換えるため、厳密には弁形成というよりは弁置換との中間型と考えることもできます。そこで私たちは誤解を避けるため、大動脈弁再建術と呼ぶことが多いです。

ともあれ、この方法は大動脈の根っこの部分に直接自己心膜を縫い付けるため、自然の弁に近い性質をもっています。そのため弁尖の動き方に無理がなく、縫い代の無駄がほぼゼロのためサイズが人工弁よりかなり大きくなり、長持ちしやすい構造です。

将来のTAVI(カテーテル弁)にもいっそう対応しやすく、再手術もそれだけ減らせるという期待が持てます。

以下の患者さんはこの自己心膜による大動脈弁形成術(再建術)をもとめて埼玉県からお越し下さいました。

遠方から来たかいがあったと言って頂けるよう、しっかりと頑張りました。もとは二尖弁というひろひら部分が2枚でしたが、手術後はきれいな3枚になりました。そして良い結果でよろこんで戴けてうれしい限りです。

ミックス法で創も小さ目にできました。こころの創があまりつかないようにしました。

その患者さんからのお便りです。

*********患者さんからのお便り*********

 

米田先生様

この度、17日に退院しました**です。
米田先生、北村先生、深谷先生、看護師のみなさんには
大変お世話になりました。

お便り70自分の病気が発見された時は頭の中が真っ白で脱力感で
何も考える事が出来ませんでした。時間が過ぎていく中
不安や恐怖感がでてきて男ながら涙がでる日々がありました。

そんな日々色々と病気の事を調べていく中、米田先生のサイトを
見つけ読んでいくにつれて米田先生にお願いしたいという気持ちが
でできました。

そして、すぐにメールしたら何時間後には返信がきて翌日には
検診日を決めて埼玉から名古屋までかなり遠かったですが
米田先生にお会いでき色々とお話して「米田先生に手術をお願い
しよう」と思いました。

そして入院日、手術日を決めていく中なんと手術日が子どもの
誕生日に決まりまたまたそこで涙が溢れてきました。

いよいよ手術当日も不安や恐怖感でいっぱいの中看護師の方、
北村先生が盛り上げてくれた事感謝の気持ちでした。

術後も看護師さんには大変お世話になりありがとうございました。

本当に先生方、看護師の方には感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。

 

埼玉県在住

*****

 

********上記のメールをこのHPに掲載する許可依頼をしたところ下記のコメントを頂きました********

 

米田先生様

こちらこそ少しでもお役になれば喜んで掲載していただければ
と思います。

他の患者さんへ

自分は大動脈逆流症と地元のお医者さんに言われた時は
頭の中が真っ白になり何も考えられませんでした。

時間がすぎていくにつれて「何で自分なんだ」と思って涙を流しながら日々を
過ごしてきました。

毎日毎日不安や恐怖感でいっぱいでした。

でも、名古屋ハートセンターの米田先生と出会い「弁形成が出来るんだ」
という期待の気持ちを思い手術する決意を決めました。

 
自分自身が諦めずにインターネットや本とかで調べていけば
納得出来る病院、先生が必ず見つかると思います。

 

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福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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自己心膜による大動脈弁形成術(大動脈弁再建術)の位置づけ【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月27日

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◾️大動脈弁閉鎖不全症への手術、選択肢は

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大動脈弁閉鎖不全症(略称AR)の外科手術には大きな展開があり、どれが一番良いか、わかりづらいという声をお聞きすることが増えました。

そこで治療方針を整理してみます。

年齢によって方針がかなり異なります。そこで年齢別に記載します。

まず手術法として次のようなものがあります

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A弁形成と再建シェーマ21.大動脈弁形成術: 文字通り患者さんご自身の弁を修復して正常に作動するようにします。成り立つ場合はこれがベストで基本と言えましょう。

2.自己心膜による大動脈弁再建術(または大動脈弁形成術): 心臓を包むような形である自己心膜を採取し、薬剤で安定化してから大動脈弁の弁尖(ひらひら部分)を切り取り、大動脈弁輪に縫い付けます

3.生体弁による大動脈弁置換(AVR):ウシ心膜で組み立てた生体弁を大動脈弁の付け根に縫着します

Artificial valves3b. ステントレス生体弁によるAVR: 3.の応用ですが、より自然に近い生体弁を同様に取り付けます

4.機械弁によるAVR: パイロライトカーボンなどの金属で造られた人工弁を大動脈の付け根に縫い付けます

5.折りたたんだ生体弁をカテーテルで心臓までもって行き、取り付けるTAVI(タビ、またはTAVR): これは主にオペができないような重症の患者さんや、2回目以後の手術を回避するために使います。

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◾️大動脈基部拡張を伴う場合は

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David & Bentallなお同じARでも大動脈の基部全体が大きくなっている大動脈基部拡張症を合併しているときにはできるだけデービッド手術という自己弁を温存する、一種の弁形成を積極的に行っています。これが標準手術と考えています。

自己弁が壊れすぎて使えないときには人工弁を付けた人工血管で大動脈基部を全部とりかえるベントール手術を行います。

これらの方法をその患者さんの年齢、ライフスタイル、体の状態などを勘案してベストなものを選びます。

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それでは年代別に私たちの方針をご紹介します。もちろん患者さんとの相談が大切で、ケースバイケースで柔軟性を持って臨んでいます。

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Ilm03_bc02023-s◾️10代:

ARでは極力弁形成を行います。まだ弁がそれほど短縮・肥厚などの変化を来していないことが多く、弁形成術が成立しやすいこと、またこの年齢では生体弁は数年しか持たないことなどが理由です。機械弁はワーファリンが一生必要で、かつ青春時代の生活の合わない面も多いため、あまり勧めていません。とくに女子の場合はワーファリンを飲むと妊娠出産が危険になるため全力あげて弁形成をしています。

大動脈基部拡張があればもちろんデービッド手術を選びます。
将来もし弁が疲労し壊れれば、再手術か上記のTAVIを考慮します。

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Clco123-s◾️20-30代:

10代に準じた対応です。大動脈弁の変化変形が進むことがやや増え、弁形成が成り立ちにくいときには2.の自己心膜による大動脈弁形成(再建)を考えます。患者さんの仕事や生活状況によっては機械弁を選ぶこともあります。ただ近年の弁形成の進歩はエキスパートの手術なら弁形成成功率はうんと高くなりました。

大動脈基部拡張があればデービッド手術を、自己弁がかなり壊れているときには生体弁または機械弁によるベントール手術を患者さんと相談ののち選びます。

この年代でも女子には極力弁形成や自己心膜弁再建を考えます。生体弁はせいぜい10年しか持たないことが多いからです。

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◾️40-50代:

弁形成に適するケースがやや少なくなり、弁形成が不向きな場合は自己心膜による大動脈弁形成術または再建を考慮します。患者さんのご希望によっては機械弁を使うこともあります。ただし近年の弁形成技術の進歩(有効弁尖高などの活用)により、この年代でも弁形成ができることが増えました。

大動脈基部拡張があれば20-30代と同様です。

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Health_0084◾️60代:

軽い病変なら弁形成が可能となりました。弁形成に難がある時には自己心膜による大動脈弁形成術または再建術や、生体弁によるAVRを考えます。この年代では生体弁は10数年持つ可能性がありますので。

大動脈基部拡張があれば40-50代と同様です。

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◾️70代ー90代:

主に生体弁によるAVRを考慮します。より短時間で、確実に手術が仕上がりやすいことと、このご年齢では生体弁が20年近く持つからです。

大動脈基部拡張があれば生体弁をもちいたベントール手術を勧めます。再手術その他で通常のベントール手術がやや不利な場合はステントレス弁を入れ子のように大動脈基部に入れ込むミニルート法を選ぶこともあります。患者さんの体への負担が減ります。

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こうした様々な方法をその患者さんの状態やご希望にに合わせて駆使することで、オーダーメイド医療に近い、その方にベストの治療法が使えるものと考えます。

なお大動脈弁狭窄症の場合もARに準じる一面はありますが、弁の破壊が進んでいる場合が多く、弁形成よりも自己心膜による弁形成(再建)や人工弁の比率が上がります。

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◾️そしてミックスが

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ミックス手術のさまざま。これ以外にも有用な方法があります。

それから小さい創で、痛みを軽減し、より早い社会復帰をはかるためミックス手術(低侵襲小切開手術)を行っています。その場合上記の手術法との組み合わせが大切です。

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たとえば弁形成ではより良い視野が必要なため、やや軽いミックスで行うことが多く、弁置換ではポートアクセス法など、積極的なミックスと組み合わせやすくなります。

安全性を優先し、その患者さんの状態に応じて組み合わせを考えるようにしています。

やはり心臓手術にかぎらず、医療はすべてしっかりした相談から始まるのです。

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自己心膜をもちいた大動脈弁再建術、そのコンセプト 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月23日

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◆自己心膜を使った大動脈弁再建術とは?

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大動脈弁閉鎖不全症や大動脈弁狭窄症に対しては、従来「弁形成術」または「弁置換術」が選択されてきました。
しかし弁が変形し、短縮してしまったケースでは形成術だけでは十分に逆流を防げないことがあります。

そこで登場したのが 「自己心膜を用いた大動脈弁再建術」 です。

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患者さんご自身の心膜を利用して大動脈弁の弁尖を再構築する方法で、自然に近い弁の働きを取り戻すことを目指します。

この治療は「弁形成術」と「弁置換術」の中間的な位置づけともいえ、“弁再建術” と呼ばれることもあります。

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A弁形成と再建シェーマ2◆大動脈弁形成術の進歩と限界

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  • 二尖弁による大動脈弁閉鎖不全症や、大動脈解離・心室中隔欠損症に伴う弁逆流などは、大動脈弁形成術で対応できることが多くなってきました。

  • しかし弁尖が短縮してしまうと、形成術を行っても十分に噛み合わず、再び逆流が起きるリスクがあります。

  • そこで自己心膜を弁尖として追加し、延長・再建する手術が発展してきました。

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◆日本と韓国で磨かれたノウハウ

日本と韓国のノウハウを集めて自己心膜による大動脈弁再建手術を進めています.

この分野は、日本の尾崎先生による自己心膜弁再建術、韓国のSong先生によるウシ心膜を用いた手術が国際的に有名です。

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  • 尾崎法:患者さん自身の心膜を厳選し、弁尖のサイズに合わせて精密に作製する方法。

  • Song法:弁の上下を安定化させる固定を併用し、長期耐久性を重視。

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私たちはこれらの方法を学び、日本・韓国双方の長所を取り入れつつ実践しています。

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◆自己心膜による大動脈弁再建術のメリット

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  • 若い患者さんに有利
    生体弁は10年程度で劣化することが多く、特に20代・30代の方や妊娠・出産を希望される女性では短期間で再手術が必要になることがあります。
    自己心膜による再建術は、こうした若年層の患者さんにとって有力な選択肢です。

  • 抗凝固薬ワーファリン不要
    機械弁のように一生ワーファリンを服用する必要がなく、スポーツや妊娠・出産、日常生活での制限が少なくなります。

  • 腎不全・血液透析患者さんにも有効
    生体弁の劣化が早い患者さんでも、自己心膜を利用することで耐久性が期待できます。

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◆弁形成術との関係 ― 総合的な戦略

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もちろん、可能であれば 弁形成術が第一選択 です。
弁形成が難しい場合のバックアップとして、自己心膜を用いた弁再建術が役立ちます。

  • 弁形成術 → ベストな方法。自然弁を最大限に活かす。

  • 自己心膜弁再建術 → 弁形成が成立しないときの有力な代替手段。

  • 生体弁や機械弁(大動脈弁置換術) → 状況に応じて選択。将来的にはTAVIによる「Valve-in-Valve」も視野に。

このように、患者さんごとに最適な組み合わせを選ぶ「オーダーメイド治療」 が大切です。

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◆今後の展望

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  • 自己心膜弁再建術はまだ進化の途上にありますが、
    「ワーファリン不要で自然な弁機能を再現」できる可能性を持ち、今後さらに広がることが期待されます。

  • 長期成績や再手術時の対応についても研究が進み、より安全で安心できる治療になるでしょう。

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◆まとめ

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自己心膜を用いた大動脈弁再建術は、「弁形成」と「弁置換」の間を埋める新しい治療法 です。
特に若年層や妊娠を考える女性、透析患者さんなどに大きなメリットがあります。

大動脈弁の病気でお悩みの方は、ぜひ 弁形成・弁再建・弁置換を総合的に扱える心臓外科専門医 にご相談ください。

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自己心膜―便利で有用な手術材料、しかし注意点も【2025年最新版】

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Pericard

最終更新日 2025年1月5日

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◾️心膜とは

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心膜は心臓の周囲にある袋状の膜です(左図)。

普段は心臓を包み守っているのですが、

これが心臓手術に役立つため、

昔から心臓外科医に愛用されてきました。

患者さんご自身の心膜を自己心膜と呼び、

比較的しっかりした強度があり、かつご自身の組織ですので拒絶反応が起こらず、

炎症も起こりにくく、

そのまま使えば生きた組織なので感染にも比較的強いという特長もあるからです。

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◾️自己心膜の活用例

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たとえば心房中隔欠損症(略称ASD)の閉鎖には現在も自己心膜がしばしば使われます。

心膜周囲の組織をきれいにはがしてから使えば、

血栓もできにくく、フィットも良いため安全な手術材料として重宝されています。

 

心筋梗塞のために左室が壊れたときに、これを自己心膜のパッチで左室形成することもあります。

心筋こうそく後の心室中隔穿孔(心室中隔に穴が開きます)でも使うことがあります。

 .

Pericard4 弁膜症でも、たとえば感染性心内膜炎のそれも重症で

弁の付け根に膿が貯まり抗生物質も効かなくなる弁輪膿瘍でも

感染組織をすべて取り去ったあと、

自己心膜で再建することがあります

(右図はその一例です)。

生きた自己心膜は人工物よりは免疫抵抗力があるからで、実際役立つことが多いです。

大動脈弁輪拡張や大動脈基部再建でも使うことがあります。

 .

自己心膜だけでなくウシやブタの心膜も使いやすく有用で、

大動脈手術左室形成術などに活用することがありますが、

これらはグルタルアルデハイド処理してあるため抵抗力がなく、感染がらみの場合は弱くなります。

そのため感染性心内膜炎などの場合はグルタルアルデハイド処理していない自己心膜が有利です。

 .

図 マノージャン法 自己心膜は肺動脈や大動脈、あるいは僧帽弁大動脈弁の修復や拡大(右図)にも活用されることがあります。

大動脈は圧が高いため、自己心膜がしっかりしているケースではそのまま使用することもありますが、

心膜が薄いケースでは二重にして用いたり別のパッチで裏打ちすることもあります。

肺動脈や右室は圧が低いのですが、

先天性心疾患のなかには高圧の場合もあり、

そうしたときに何らかの補強がされることもあります。

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◾️弁形成術への活用

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僧帽弁の形成術では弁葉の補てんや拡張のために自己心膜を使うことがあります。

そのままでは時間とともに縮んだり石灰化しやすいため

グルタルアルデヒドで処理してから使うことも多いです。

長期成績が徐々に明らかになり、今後有望な方法として、

弁置換術に問題がある場合などに使うようにしています。

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大動脈弁の形成術でも心膜を使うことがありますが、

従来の方法つまり弁を自己心膜で大きくする方法などは成人とくに高齢者では報告があまりなく、あっても良くない成績です。

今後の研究が待たれます。

 .

いずれの場合でも、弁の先端部に自己心膜を使うことは一般に少なく、

これはこうした使い方の長期の安定性が悪いという報告によるものです。

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◾️自己心膜で弁尖を置換すると?

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それでは弁全体を自己心膜で取り換えるのはどうでしょうか?

 

AVrepair peridard leaf extention 畏友・故Duranデュラン先生の報告(Duran C 他. Eur J Cardiothorac Surg 2005;28:200-5
)でも、

自己心膜大動脈弁手術にて10年で86%が再手術回避できており、

これは45歳で生体弁大動脈弁置換を受けた患者さんの成績(Banbury MK 他. Ann Thorac Surg 2001;72:753-7)と同じです。

つまり45歳より年上の患者さんでは生体弁はもっと長 Health_0152持ちするため、

45歳以上の患者さんでは自己心膜手術は患者さんには不利、

早めに再手術が必要となるわけです。

 .

自己心膜で弁全体を取り換える手術として考えられる弱点として以下が挙げられます。

.

1.心膜の構造と弁葉・弁尖の構造は違い、

心膜は必ずしも高圧での頻繁な折れ曲がり(心拍数70として一日10万回、一年で3650万回)に強いとは限らないこと


2.縫い付けるために針孔が多数でき、そこがミシン目効果を生じて、

ちょうど切手をちぎるときのように、弁がちぎれやすくなる


3.カルシウム(石灰)が沈着しない処理は特許や企業秘密でまだ一般化していないためカルシウム対策が少ない

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弁の先端部の一部だけ自己心膜で取り換える場合は力のかかり具合や折れ曲がりが少ないため必要な場合は使えると考えていますが、

弁の先端部全部を取り換えるのは何らの長期保証がなく、

しかも高齢者の場合は生体弁が16-20年も持つことが示されているため

ワーファリンなしの生活という意味でも生体弁のほうが有利と考えられるからです。

 .

一方、弁の根本の部分が感染性心内膜炎などで壊れたり穴が開いたときに自己心膜で補てんするのは

それほど折れまがらず比較的安定度が良い部位のためよく使われます。

 .

このように自己心膜はさまざまな活用法がありますが、

グルタルアルデハイド処理だけではその限界があることを知って使う必要があると考えます。

また心膜を取るためにあとでそこが欠損となり、

術後の癒着を増やすという副作用もあります。

癒着はもしもの再手術時にやや不利な状況をもたらすためゴアテックスシートなどを使用して予防に努めますが、

その効果には限界があります。

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◾️自己心膜での弁尖再建、最近の流れは

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Sick_0345歳以下の若い患者さんの場合は生体弁の耐久性が低下するため自己心膜手術の意義が出てくる可能性があります。

しかし自己心膜の耐久性も低下する恐れがあるため、まだこれからの研究課題です。

 .

私たちはこの方法を比較的若い患者さんに使い、良好な印象を得ていました。60歳前後までは生体弁の耐久性がやや弱いため、自己心膜をうまく使うようにシフトしつつあったのです。ただその後、自己心膜弁は長期的に感染性心内膜炎が起こりやすいというデータが出てきています。

逆流が起こらないように大きなサイズに設計されているため、乱流が起こり、このため感染性心内膜炎をおこしやすいのではないかという忠告を内科の先生から頂きました。

また生体弁のようなカルシウム処理もできないため、自己心膜が将来石灰化する恐れが否定できません。

まだまだ改良しなければならないのかも知れません。

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また生体弁の手術の後なら、カテーテル弁(TAVI)が安全に行いやすいため、

2度目の手術が安全に回避できるという利点があることもこれからの医療では念頭におく必要があります。自己心膜での弁尖再建(置換)では将来の TAVIが安全にできる保証はありません。大きな自己心膜弁尖が冠動脈入口部を塞ぐ恐れが大きいからです。

 

その後、私が現在手術をしている一宮西病院の澤崎先生が自己心膜での弁再建を改良され、それまでの方法よりも自然な血流が得られるためIE(感染性心内膜炎)も少ないというデータを得たため、この方法を愛用しています。またこの方法なら将来のTVI(バルブ・イン・バルブと呼びます)にも安全に対応できるため将来性があると思います。

 

総合的に患者さんの安全とQOL(生活の質)向上を考え、

オーダーメイド的にその方に一番適したものを提供する医療が今後主流になるでしょう。

同時に医学の鉄則は「患者さんに良いことはする、

しかし良いかどうか不明なことはしない」ですので、

慎重に検討を進めることが大切です。

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