事例:心室中隔欠損症VSDと動脈管開存症PDAの合併例

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心室中隔欠損症(VSD)は先天性心疾患つまり生まれたときからの心臓病のなかで頻度が高いものです。多くはこどものころに検診などで診断がつき、手術で治しますが、中には大人になってから手術になることも少なくありません。

動脈管開存症(PDA)も同様に先天性心疾患でこどもの間に手術することが多いのですが、ときに大人になってから行うことがあります。

この2つの病気を併せ持つ患者さんは少なくありませんが、多くはこどものときに手術を受けて治します。

下記の患者さんは30代歳男性で、心室中隔欠損症II型(VSD、動脈管開存症PDAで米田の外来へ来られました。

心不全が進行しつつあったため2つの疾患を同時に治すことにしました。
 

図1体外循環下に体温を軽く下げつつ、主肺動脈を縦切開しました。

PDAは約6x3mm大で血液が噴出していました(写真左、セッシの少し先にPDAからの血液噴射が見えます)。

図2PDAを軽く押さえつつ、これをプレジェット付き糸で直接閉鎖しました。

念のため、もう一組のプレジェット付き糸にて、先ほどと直角の向きにPDA閉鎖部を補強しました(写真右、PDAからの出血は止まりました)。

この間、体温は28℃で体外循環流量はとくに一時低下させることなくPDA閉鎖の操作は完了しました。

図3 ここで上行大動脈を遮断し、心停止を得て右房を横切開しました。

 VSDは膜様部中隔にあるII型で、直径5mm大、周囲に白色の繊維組織が増成し自然閉鎖の途中で止まったような所見でした

(写真左、左側セッシ 図4の少し先の黒いくぼみがVSDです)。

三尖弁中隔尖の根元から糸をかけ、VSD辺縁部の繊維組織とつなぐ形で直接閉鎖しました

(写真右、2つのプレジェットで挟み込んでVSDを閉鎖したのが見えます)。

16分で大動脈遮断を解除しました。

自然に心拍を再開しブロックもありませんでした。

主肺動脈ついで右房を2層に閉鎖し、4度にわたるエア抜きののち、60分で体外循環を離脱しました。

離脱はカテコラミンなしで容易でした。

写真左図5は右房閉鎖前の三尖弁OKを示すもので、右房側にプレジェットが一つだけ残ります。

刺激伝導系には影響を与えない位置につけてあるのを示します。

経食エコーにてVSD、PDAともシャントが消失しているのを確認しました。

体外循環前に触知したスリルも消失していました。

心臓も開胸直後よりかなり小さくなりました。入念な止血ののち手術を終えました。

術後経過は順調で出血も少なく、血行動態も良好で、肺動脈圧は術前の30台から20台前半まで改善し、全身状態も良いため術当日夜、人工呼吸を離脱しました。

翌朝、一般病室へ帰室されました。

術後経過も順調で、手術後10日で元気に退院されました。

あれから4年経った現在も、元気に外来へ健診にこられます。ちょっと遅れながらも完全に心臓病を治し、ある意味後れを取り戻したと思うとうれしくなります。

動脈管開存症PDAは小児期には結さつまたは離断・縫合するのが普通ですが、元来消滅していく組織ですので、成人期には小児期の方法で閉鎖しようとしますとちぎれて大出血のもとになります。

とくにPDAが石灰化しているときにそのリスクは高くなります。

そこで体外循環下に低体温として、循環停止に近い形で肺動脈側から閉鎖するのが一般的です。

その場合低体温にしますと出血傾向が強まり、時間もかかり侵襲が大きくなりますので、上記の工夫をして侵襲を下げ短時間で操作が完了するようにしいます。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 心室中隔欠損症と大動脈弁閉鎖不全症

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患者さんは30台後半の男性。

健診で心室中隔欠損症VSD大動脈弁閉鎖不全症を指摘されハートセンターへ来院されました。

1心室中隔欠損症は I 型と呼ばれる心室中隔の高い部位に発生したもので、

その欠損(穴)に大動脈弁が落ち込んで次第に大動脈弁閉鎖不全症が発生してきていたため手術になりました。

体外循環・大動脈遮断下に主肺動脈を切開し、

肺動脈弁ごしに心室中隔欠損症にアプローチしました(写真左)。

2_vsd予想どおり、大動脈弁の一部が穴を覆い、

一見心室中隔欠 4_2損症の穴は小さくなっているように見えましたが、

実際には大動脈弁が徐々に壊れ始めているという所見でした

(写真左と右)。

そこで穴の周囲の筋肉組織や肺動脈弁の付け根のしっかりした組織を活用して糸をかけ、

ゴアテックスのパッチを縫いつけ、穴を閉じるとともに、

大動脈弁を守るようにしました(写真上右と下)。5_vsd

実際手術前には心エコーにて大動脈弁の一部が少し穴に落ち込み、

軽 い大動脈弁閉鎖不全症が発生していたのが見えていました。

それらが手術の後には治っていました。

もし必要なら大動脈弁の形成手術も準備してはいましたが、そうするまでもなく、きれいに治りました。

手術後、心室中隔欠損症は消え、大動脈弁も肺動脈弁も正常でした。

 

このタイプの心室中隔欠損症は時間とともに大動脈弁の閉鎖不全(逆流)という新たな病気が発生してくるため、通常はこどもの間に手術することが多いのですが、何らかの理由でその時期を逸し、大人になって手術を受けるケースが現在もちょくちょくあります。

 

健診などで心雑音を指摘されたら一度は心臓専門医に念のための診察を受けられるのが安全上、勧められます。

大動脈弁の破壊が高度になりますと人工弁が必要となり、その場合はワーファリンを一生飲む必要が生じるなどのリスクが出てきます。

やはり予防や早期治療が有利です。

なお当時は普通の創で手術しましたが、現在はミックス法にて約10cmの小さい創で手術することが多くなりました。患者さんの心の傷もより小さくなればと思います。

 

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5) 心室中隔欠損症(VSD)―二次的な合併症(病気)が起こるまでに治療を 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月17日

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◾️心室中隔欠損症(略称VSD)とは?

心室中隔欠損症(略称VSD)のおおよその位置を示します。おおよそというのはVSDに4タイプがあり、位置が少しずつちがうからです。治し方も違います。心室中隔に生まれた時から穴があいている病気です。その穴の位置によって4つのタイプ(膜様部中隔近傍欠損、漏斗部中隔欠損、筋性部欠損、流入部欠損)に分かれます。

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◾️治療が必要なのは?

心室中隔欠損症の穴が中かそれ以上のサイズであれば心臓手術で穴を閉鎖します。

穴をとおる血液の量が多いときや、左心室に負担がかかっているとき、術後にもどりそうな肺高血圧があるときなどがこれに該当します。

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穴が中ないし小の場合は自然に閉鎖することが多いため直ちに手術治療の対象にはなりません。

この小さめの穴が成人になっても閉鎖しなかったケースが私たちの治療の対象になっています。

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◾️心室中隔欠損症VSDで注意が必要なのは

心室中隔欠損症VSDの位置が高い場合、大動脈弁が逸脱して大動脈弁閉鎖不全症となることがあり、大動脈弁形成手術弁置換手術の適応になることがあります。 (手術事例 心室中隔欠損症と大動脈弁閉鎖不全症)

これはVSDという穴のなかに大動脈弁の弁尖(ひらひらと開閉する部分)が吸いこまれるように入り込み、結果として弁尖が落ち込んで行き、弁尖がきちんとかみ合わなくなって弁逆流になるのです。こどもの間にオペで治すことが多いのはこの弁逆流が起こるまでに根本からなおすためなのです。

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A324_004また心室中隔欠損症VSDの穴が小さい場合でも、感染性心内膜炎(IEと略します)が起こることがあり、注意が必要です。

虫歯を抜いたりケガをしたときにばい菌が血液中にはいると、心室中隔欠損症VSDのジェットの陰にあるよどみのなかでばい菌が繁殖すると考えられています。

もしIEが発症すればたとえ抗生物質などのお薬で治っても再発の危険性が高いというEBM(証拠)もあり、実際IEになって初めて手術を決断されたケースを複数経験しています。

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Ilm14_bk04018-sいずれの場合でも心室中隔欠損症VSDの手術は安全に対処できていますが、大きな手術になればリスクは多少とも上がるのが普通ですから、あまり無理に手術時期を遅らせないという配慮も安全上大切と考えます。

心室中隔欠損症VSDは他の心臓病と合併することがよくあります。たとえば動脈管開存症PDAなどがそのひとつです。(心臓手術事例

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◾️成人期の心室中隔欠損症

学童期の健康診断が発達して時が経ちますが、現代でも50代、60代になって心室中隔欠損症のため来院されるかたが少なくありません。

A306_017心臓は巨大になり、二次的な問題が起こっているケースが多いですが、それでも全身の体力が保たれていれば安全に手術でき、その後の経過は良くなります。

そういうことで長年の心室中隔欠損症VSDがそのままになっている方も、息切れ動悸その他の症状があれば、専門家に相談することが安全上、勧められます。

VSDのタイプにもよりますが、。

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◆患者さんの想い出1:

Aさんは10代女性で心室中隔欠損症VSDのためミックス手術をもとめて私の外来へ来られました。

若い女性ですし、それ以外は健康なためミックス手術の良い適応と判断しました。

オペはスムースに進み、術後経過も良好でまもなく元気に退院されました。創は長さ8㎝ほどで夏服を着ても見えにくいものになりました。

Aさんは将来は看護師さんになりたいと言ってくれました。心臓手術の機会に病院の内容を知ってそう言って下さったことをうれしく思います。襟を正してますます頑張りたく思いました。

Aさん、よかったら私たちのチームに将来加わって下さい。手術を乗り越えた経験が多くの患者さんたちを助けてくれることでしょう。

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◆患者さんの想い出2:

Bさんは心室中隔欠損症VSDの手術を希望して来院されました。手術操作自体はそう大変なものではないのですが、年齢60代のBさんの心臓は長年の負担のためかひどく弱っていました。

左室駆出率で17%、つまり健康な心臓の4分の1ぐらいのちからしかない、そこまで弱っていたのです。さらに三尖弁閉鎖不全症も合併していました。

まだまだお若いご年齢ですし、患者さんも前向きであるため私たちもこれまでの心不全治療の経験を活かし全力あげて取り組むことにしました。

心室中隔欠損症VSDを丁寧に閉じ、三尖弁を形成して手術は完成しました。

術後経過は通常より神経を使いましたが、まもなくお元気に退院されました。

心不全用のお薬を駆使し、外来で引き続いて治療した結果、Bさんの心機能は大きく改善し、駆出率では50%まで回復しました。

ネバーギブアップの精神で臨んだのが良かったのでしょうか。Bさん、これから健康生活を楽しんで下さい。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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