HOCMフォーラムに参加して

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閉塞性肥大型心筋症、別名HOCMは今なお難病として課題が多数残っています。

私たちはこの病気に HOCMフォーラム2014
対して積極的に治療を行い良い成績をあげて来ました。

東京でこの研究会が開催されたため参加しました。榊原記念病院の高山守正先生が代表幹事で、今回は日本医大の高野仁司先生が当番でした。

テーマは「治療困難なHOCM症例に対する戦略の工夫」で、まさにタイムリーなものでした。ことしの日本循環器学会総会でこのテーマで私たちが発表したときにも多数のご質問をいただき、うれしく思ったものです。

始めに榊原記念病院の歌野原祐子先生がHCMのMRI診断、CT診断、病態に迫るというタイトルでお話されました。MRIがこれからさらに有用になること、中でもLGE(心筋の壊れたところが造影剤で光って見えること)所見が重要で、これが患者さんの予後を教えてくれること、さらに左室構築がわかることなどを示されました。

左室流出路狭窄があるとき、これを外科で心筋切除(モロー手術)すれば患者の生命予後が改善すること、さらにこのHOCMの病態の中に乳頭筋の異常がかなり含まれていること、そしてこれをより正確に行えるよう画像診断の組み合わせが役立つことなどを解説されました。

乳頭筋の異常は私たちも以前から取り組んできた課題で、悪い心筋をかなり切除でき、それによってさらに狭窄が解除されることを実感してきました。これがより正確なデザインと評価で完成度が上がるのではと楽しくなってきました。

日本医大の坪井一平先生は新しいHOCMガイドラインを解説されました。日進月歩のこの領域で、ガイドラインはとくに大切です。欧米が日本に先んじていることを感じました。

植え込み型除細動器ICDの適応基準や、心臓突然死のリスクファクター(年齢、左室壁厚、左房径、左室内圧較差、心臓突然死の家族歴)がさらに重要になったことを示されました。

榊原記念病院の矢川真弓子先生は同院でのICD経験やカテーテルによるアルコールアブレーション治療(PTSMA)の成績を検討されました。拡張機能はβ遮断剤では改善しないが、アブレーションでは改善しやすいというのはなるほどと思いました。心筋内カルシウムを調節することの重要性ですね。

 それから内科的、外科的症例の検討が数例ありました。どの症例も興味深く拝聴しました。

とくにPTSMAでうまく行かなかったケースが異常腱索のためであり、心臓手術で改善したというのはなるほどと思いました。高度あるいは広範囲の心室中隔肥厚があるHOCM症例の手術を積極的に手掛けている経験からDiscussionをさせて戴きました。心臓外科医が少数しか参加していなかったため、質問を頂いたり、多少でもお役に立てたとすれば光栄なことです。

Na₋Ca交換剤であるシベンゾリンの有用性と課題も聴けて良かったです。

特別講演として高山守正先生がゲストスピーカーの代演を見事にこなされました。欧米と日本の新たなガイドラインが望むHCMの臨床というホットなテーマでした。

心臓突然死と心不全の克服、心臓MRIで肥厚心筋の中で壊死が進むことへの対策、利尿剤への警告、ACEやARBが適しないこと、同じβ遮断剤でもカルベジロールはあまり良くないこと、などなど盛りだくさんの内容でした。

内科のPTSMAと外科の心筋切除(モロー手術)の使い分けでは、若い患者さんには外科手術であとあと薬があまり要らないように配慮しておられるのも賛同できました。

それからComplex Caseへの診断治療というテーマで何例かの症例が検討されました。

大動脈弁置換術後にHOCMが悪化し、PTSMAで救命できたケースには私もコメントさせて頂きました。同様のケースがあり、これは生体弁ごしにモロー手術を行って無事に切り抜けたのですが、確かにこの病気は経験豊富なプロのチームでこそ安全にできることを実感しました。

それから榊原記念病院心臓外科の内藤和寛先生が外科症例の検討をされました。

手術適応は若く、心室中隔肥厚(30mm以上)、弁膜症とセットの場合、腱索乳頭筋の異常があるとき、内科のPTSMAが不成功のとき、など、理にかなったものと思いました。

最近増えている広範囲の心室中隔肥厚例に対して、経僧房弁アプローチと経左室心尖部アプローチを紹介されました。それぞれ興味深いところで私たちの経大動脈弁アプローチの改良型と対比してDiscussionさせて戴きました。

こうして心臓手術が磨かれていけばうれしいことです。

心臓の構造のため、PTSMAでは約3分の1に右脚ブロックが発生し、外科の心筋切除では左脚ブロックが発生しやすいことを考えると、前者のあとで後者の治療をするときには注意が必要であることもわかりました。

ファイアサイドセッションは東邦大学の佐地勉先生が小児・若年の多彩な心筋症のレビューをされました。さすがこの道のオーソリティで、幅広い遺伝子異常の研究と実用化から始まり、さまざまな心筋症から私たちがちからを入れている左室緻密化障害にいたるものまでカバーされ、勉強になりました。

教育セッションIIでは高知大学の北岡裕章先生がHCMの診断基準を、九州大学ハートセンターの有田武史先生が心エコーによる左室流出路の考察、そして市立宇和島病院の濱田希臣先生が非閉塞型肥大型心筋症の薬物療法を解説されました。

いずれも心臓外科医の私にとっては貴重な勉強の場となりました。

有田先生のお話のなかで乳頭筋の異常は上述のお話とあいまって大変面白く思いました。私個人の経験では前乳頭筋の異常がよく目につくと感じていましたが、有田先生が引用された報告も同様でした。これと榊原記念病院の先生方が示された後乳頭筋の異常と合わせてかなり高精度の治療ができるものと確信しました。

濱田先生のお話は熱いお人柄のおかげか大変迫力があり、有用なメッセージを頂きました。とくにシベンゾリンの有用性は納得いたしました。拡張機能を改善すればHCMの患者さんには大きな福音となるでしょう。

帰りの電車の都合で最後までは参加できませんでしたが、大変有益で楽しいHOCMフォーラムでした。高山先生、高野先生、関係の先生方、お疲れ様でした。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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HOCMの手術にもミックス法は使えるの? 【2025年最新版】

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Ilm03_ba01013-s最終更新日 2024年12月31日

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◾️HOCM肥大型閉塞性心筋症のミックス手術とは

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傷跡が目立たない ミックス手術つまり小切開手術は手術後の痛みを軽減し、心臓リハビリを促すことで肺炎その他の合併症を減らし、患者さんの仕事や楽しい生活を早期に取り戻すのに役立ちます。

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私たちのチームではこのミックス手術は僧帽弁膜症ASD心房中隔欠損症だけでなくさまざまな病気の患者さんに活用しています。

より多くの患者さんたちに、手術の恩恵が届くようにという考えからです。

HOCM(肥厚性閉塞性心筋症)あるいはIHSS(特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症)の手術(モロー手術と呼びます)のときにも活躍するのです。

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◾️HOCMへのミックス手術、これまでの動き

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最近までミックス法の頂点ともいえるポートアクセス法つまり右小開胸で胸骨をまったく切らない方法までは使わず、それより少し穏やかな胸骨下部部分切開法をもちいたミックスを使って成果をあげて来ました。

186218630これなら胸骨は手術後も安定が良く、痛みも減りますし、創も低い位置にとどまり、夏服などでもあまり見えません。

上記のように合併症を減らし、安全性を高めるのにも役立ちます。

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HOCMに対するモロー手術では、ときに僧帽弁形成術などを併用することもあります。僧帽弁そのものが壊れている場合などですね。このような場合にも上記の胸骨下部部分切開によるミックス法は対応できます。これは役に立ちます。
通常こうした複雑な心臓手術にはミックスは不向きという意見もあります。それは経験とたゆまぬ研究で支えられたノウハウがあってのことです。私たちの方法では大動脈弁越しに左室心尖部まで見えるためさまざまなタイプのHOCMに対応できるのです。

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MICS3◾️HOCMへのミックス、新しい動き

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さらにこれを改良し、ポートアクセスつまり胸骨を切らずに傷跡が一層目立たないHOCM手術を進めています。右図の右側のように。

僧帽弁を一部切り開いて左室に入ります。異常心筋を切除したあと僧帽弁形成術で僧帽弁を元通りに治すわけです。

良い方法と思ったのですが、僧帽弁を一度切ってまた元通りに戻す際に弁尖が小さくなり、やむなくパッチを使う必要があるとう報告がありました。パッチは年々劣化するため長期的には問題あり、これでは低侵襲とは言えないと指摘されています。

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そのため、傷跡は通常の正中切開とあまり変わらないものの、術後の痛みが軽く、退院後まもなく仕事復帰やクルマ運転復帰ができる「もうひとつのミックス」を私たちは使っています。美容目的ではなく、安全と早い仕事復帰が目的の方には良い選択肢と考えています。傷跡が小さいだけがミックスの全てではない、要は個々の患者さんが一番得する方法は何か、ということです。

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IHSS(HOCM)の手術事例 2

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患者さんは59歳女性です。息切れを強く訴えておられました。

大動脈弁下狭窄症 (IHSS)(別名HOCM 閉塞性肥大型心筋症)大動脈弁狭窄症のためハートセンターへ紹介・来院されました。

発作性心房細動という頻脈発作をよく起こされ、手術まえにも何度も救急外来へ来られるという状態でした。

この病気はときに肥大型閉塞型心筋症HOCMと紛らわしいことがあります。

1

ともあれこのままでは患者さんは仕事や生活もままらなず、突然死の危険さえあるため手術することになりました。

体外循環・大動脈遮断下にまず左房を開けました。

左房は正常サイズでしたので、冷凍凝固を用いたメイズ手術を施行し(写真左)、左房を閉鎖しました。

写真は僧帽弁輪周囲部を治療しているところで、この部の治療の有無が重要というデータがセントルイスのグループから発表されています。

Aここで上行大動脈を切開しました。

大動脈弁は3尖で硬くなっており(写真左)、弁および石灰を摘除しました。

大動脈弁そのものの狭窄(狭くなること)も手術が必要なレベルでしたが、それ以上に弁の下、つまり左室の出口付近が狭くなっていましたので、異常に張り出した心筋を切除することにしました。

Ihss大動脈弁輪ごしに左室流出路を観察しました。

異常心筋の張り出しが著明でした(写真左)。

写真で左室の出口の大半が異常心筋で覆われ、普通なら見える左室内部がほとんど見えません。

写真で左室の出口の下半分に見えているのは僧帽弁前尖です。

Ihss_2トロントのウィリアムズ先生直伝の方法(モロー手術の変法)で、異常心筋を切除しました。

左室の出口にあった異常心筋の張り出しは、心筋の切除のあとは大きく減り、奥の方に僧帽弁や乳頭筋が見えるまでになりました。

つまりそこではもう狭さくはないわけです。

このIHSS(HOCM)の異常心筋の切除に際しては、刺激伝導系(心臓内の神経)に注意しつつ、そこには触れないよう距離を置きました。

合計10x30x8mmの心筋を切除できました。深い部位の作業でしたが腱索・乳頭筋などへの損傷はありませんでした。

Avr生体弁(ウシ心膜弁)を用いて大動脈弁置換を行いました(写真左)。

人工弁越しに左室がよく見えるようになりました。

また人工弁はこの患者さんのご体格では十分ななサイズを満たしていました。

心拍動下に右房をメイズ切開し、冷凍凝固をもちいて右房Photoメイズ手術を施行しました。(写真左)

手術の後、経食道エコーにて大動脈弁(人工弁)には問題なく、

左室流出路の狭窄は大きく減少し、僧帽弁にも異常なく、血行動態も良好でした。

術後経過は順調で元気に退院されました。

手術前に頻発し患者さんを苦しめた不整脈発作は術後は出なくなり解決しました。

 

このIHSSに対する異常心筋切除術は患者さんの安全やQOL生活の質の向上におおいに役立つのですが、日本ではこの手術の経験が豊富なチームが少なく、遠方からも患者さんが来られます。

IHSSはかなり安全に治せる病気ですのでご相談いただければと思います。

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12) 肥大型閉塞性心筋症 HOCM―突然死に注意、しかし治せる病気です 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月10日

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■HOCMとは?

図4 IHSS日本語

肥大型閉塞性心筋症(Hypertrophic Obstructive Cardiomyopathy:HOCM

、別名 IHSS 特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症) は、左心室の出

口付近(流出路)が心筋の肥厚によりトンネル状に狭くなる病気です。

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主な症状

  • 運動時の息切れや動悸

  • 胸痛

  • 失神発作

  • 病状が進むと突然死のリスクも

軽度であれば経過観察や薬物療法で対応できますが、重症化すると左室の出口が「蓋をされたように」塞がり、強い心不全や致死的不整脈を起こす可能性があります。

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■HOCMの外科治療

異常心筋の形態に応じて治療法が選択されます。

  • 膜様の狭窄 → 膜の切除+周囲の異常心筋を除去IHSS術前後エコー

  • 繊維筋症による狭窄 → 広範囲の心筋切除(モロー手術:Morrow procedure)+必要に応じて僧帽弁形成

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手術効果(症例画像より)

  • 術前:心室中隔の肥厚とSAM(僧帽弁前尖の収縮期前方移動)で流出路が狭窄

  • 術後:左室流出路が広がり、僧帽弁の動きも正常化

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■カテーテル治療(PTSMA)の位置づけ

経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)では、冠動脈からアルコールを注入して異常心筋を縮小させます。

ただし課題もあります:

  • 冠動脈と肥厚部位の位置が合わないと効果が不十分

  • 過剰焼灼で壁が薄くなりすぎる可能性

  • 約10%で完全房室ブロック → 永久ペースメーカーが必要

したがって症例ごとの適応判断が重要です。

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■HOCMに見られるSAMとは?

SAM(Systolic Anterior Motion:僧帽弁前尖収縮期前方移動) はHOCMでよく見られる現象です。

血流が僧帽弁前尖を吸い込み、弁が閉じなくなるため僧帽弁閉鎖不全を引き起こします。
これは異常心筋による構造的問題であり、心筋切除術によって弁の動きが自然に改善することが多いです。 (事例1 )

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Williams pic
ウィリアムズ先生は先天性心疾患の外科で世界的に高名な心臓外科医ですが、優れた教育者としても知られています.

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A307_116当院の経験と手術技術

  • トロント総合病院 Prof. W.G. Williams (右)直伝のモロー手術を継承

  • 術前シミュレーションに基づく設計 → 狭窄の完全解除、再発ほぼゼロ

  • 日本国内外での発表・学会報告を通じて技術を研鑽

  • 高齢者から若年者まで幅広い症例に対応

これまでに多くの患者さんが息切れ・胸痛・失神発作から解放さ

れ、社会復帰されています

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■日本の現状と課題

193237727.

残念ながら、HOCMの認知度は低く、循環器内科医でも十分な対応ができないケースがあります。

  • 失神発作を放置 → 心内膜炎から脳梗塞・死亡に至った例

  • 「治せない病気」と説明されたが、外科手術で改善できた例

👉 専門性の高い心臓外科医による評価と経験豊富なチームでの手術が不可欠です

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■今後の展望

  • 技術の進歩により、左室流出路だけでなく心室中部・心尖部まで安全に形成可能

  • 必要に応じて大動脈弁狭窄症や不整脈(心房細動)などの合併症も同時に治療(事例2 へ)

  • 患者さん一人ひとりに合わせた包括的な手術戦略が可能になっています

■まとめ

  • HOCMは突然死を起こし得る重い病気

  • しかし、熟練した専門チームによる外科治療で改善できる病気です

  • 息切れ・胸痛・失神などの症状がある場合は、早めに専門医へご相談ください

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患者さんの想い出

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