最終更新日 2020年2月24日
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◾️弁形成術とは、、、
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文字どおり心臓の弁を形成つまり修復・修理し、弁の機能を元の正常な状態にするオペです。
そのため多くの場合、弁置換術つまり人工弁に取り換える手術と対比して語られます。
(写真左は弁形成術、写真右は弁置換術のものです。)
つまり弁形成術は弁置換術の弱点が少ない、より優れた心臓手術というわけです。
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◾️弁形成術がどう優れているの?
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弁置換のばあい、それが機械弁(金属の弁)の場合は一生涯ワーファリンという血栓予防のお薬を毎月血液検査を受けながら続ける必要があり、
毎年1-2%の割合で脳出血や脳梗塞が起こります。
生体弁(ブタやウシの柔らかい弁)の場合はワーファリンは不要ですが、
若い患者さんでは10年ぐらいで壊れて再手術が必要という懸念があります。
とくに10代や20代前半では10年以内に壊れるという報告が多いです。
その一方、弁形成術の場合はワーファリンも再手術も不要な場合が多く、自然で優れているのです。
ただここで注意が必要なのは、弁形成術が弁置換より優れているのは、
弁形成術がばっちり決まる場合
つまり長持ちすることが確実である場合の話であるということです。
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◾️弁形成術、僧帽弁に使うと、、、
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僧帽弁形成術は昔からさまざまな努力がなされてきましたが、現代のものは1970年代のフランスのカーパンチエCarpentier先生にそのルーツを見ることができます。いわゆるFrench Correctionと言われるものですね。
その後デュランDuran先生や我が恩師デービットDavid先生はじめ多数の心臓外科医の臨床成績が発表され、弁形成術はかなり確立した感があります。
現在はニューヨークのAdams先生らがこの領域のリーダーで交流をもっています。
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◾️弁形成術、大動脈弁に使うと、、、
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一方、大動脈弁形成術はデュラン先生やその後、川副先生らのお仕事が発表され、徐々に進歩してきましたが、僧帽弁ほど多数で多様で長期のデータが蓄積されているとは言えず、まだまだ特殊な手術という傾向がありました。
しかし近年、ドイツのシェーファーズ先生が弁尖の「effective height」有効高という弁形成の考え方を導入され、それまで感覚的にやってきた部分がより客観的にできるようになりました。またかつての弁尖を主に治す形成術に、弁の根元や頂上部の大動脈基部の調整まで加えることで成績が上がりました。現在はまだ特殊な手術という印象ですが、将来、大動脈弁形成術は僧帽弁形成術と同じぐらい高い評価を受けるかも知れません。
なかでも10代-20(ー40)代などの若い患者さんの場合は弁形成術のメリットが光る可能性があります。というのはこの年代の患者さんが生体弁による手術を受けても数年しか持たないことが多いからです。
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私たちは10-40代の患者さんでは二尖弁の大動脈閉鎖不全症を中心に、患者さんにメリットが大きいと考えられるケースで積極的に弁形成術を行うようにしています。
また三尖の大動脈弁でも自己心膜パッチを必要最小限使用して形成することもあります。
ただし弁尖全部を変えるのは弁形成ではなく事実上、弁置換であるため、長期間のデータがなく、慎重に適応を考えるようにしています。
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◾️弁形成術。ご高齢の患者さんでは、、、
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なおご高齢の患者さん、たとえば80歳を超えたり体力のない方など の場合、
生体弁が20年前後持つと予測される状況の時、とくに弁形成が複雑高度なものになるケースでは前向きに弁形成よりも生体弁による弁置換を行うこともあります。
その方が確実に短時間で完了するからです。
要はその患者さんが一番得する方法を、その患者さんの日々の生活の視点から選ぶことと考えます。
もちろん前述のように、若い患者さんなどの場合は弁形成のメリットが大きく、生体弁の弱点がやや目立つケースが多く、安全を確保しつつ万難排して弁形成術を完遂することが多いです。
◾️弁形成術、三尖弁に使うと、、、
三尖弁の場合はほと んどの場合、弁輪(弁の付け根)の拡張が原因であるため、弁形成術ができます。
ペースメーカー由来の三尖弁膜症では弁形成術が難しいと一般に言われていますが、私たちは僧帽弁形成術で培ったノウハウを応用し工夫して弁形成術を完遂しています。
三尖弁では弁置換術の長期生存率があまり良くないため、弁形成術のメリットがいっそう光るからです。
そうした現実を考え、弁形成術を適切に、そしてより洗練された形で提供することが心臓外科医として重要と思います。
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メモ: 弁形成手術は経験やノウハウの蓄積が大切です。
世界的にこうした認識から弁形成手術は心臓外科医なら誰でも行うというのではなく、スペシャリストだけが行う手術となっています。
それによってその質が確保でき、またそうしたオペに何度も参加して学ぶことで選ばれた若手医師の教育も成り立つわけです。
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メモ2: いずれの弁の形成術の場合でも、ミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術、代表例がポートアクセス手術)のいくつかの方法の中からその状況に最適のものを選んで行うようにしています。
私たちの経験では僧帽弁や三尖弁の心臓手術ではポートアクセス法で安定した成績を出すことができています。
大動脈弁でもポートアクセス法を活用していますが、患者さんの状態に合わせて正中切開のミックスなども選択肢に入れて安全を期しています。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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