昨日、日本ローカーボ研究会(糖質制限食の研究会です)の第一回研究会(学術集会)が名古屋で開かれました。
立ち上げて間もない新たな研究会の、それも第一回集会とあって、
少人数で親しくアットホームにやろうと考えていましたが、
ふたを開けてみますと70名を超える方々のご参加があり、会場は満員の盛況でした。
今回は初めての集まりのため、世話人を中心として基調講演を行い、
そこからより多くの方々のご意見や次の活動へとつないでいこうというスタンスでした。
まずこの会の代表世話人である灰本元先生(春日井市の灰本クリニック)からご挨拶がありました。
基調講演は医史学と漢方内科の大家である安井廣迪先生(安井医院)で進められました。
まず(1)灰本クリニック 灰本 元先生が、ローカーボ食(糖質制限食)の現状と課題を概説されました。
8年以上の経験の中から築き上げて来られた安全なローカーボ食の方法が、
この1年間でさらに磨きがかけられたと感嘆いたしました。
ついで中村 了先生(中京クリニカル)が
(2)ローカーボ食(糖質制限食)の症例: 糖尿病と肥満について実際の治療経験の中からお話しされました。
プライマリケアと地域医療を熱心に進めて来られた中で、
ローカーボ食(糖質制限食)を無理なく患者さんが実践できるよう工夫されているのが良くわかりました。
名大名誉教授(生物学) 加藤 潔先生は
(3)稲作民にとってのローカーボ食(糖質制限食)というテーマでご自身の20年以上の糖尿病対策のご経験を披露されました。
いかにも本物の学者らしい、緻密なデータの集積に感心しました。
(4)血圧管理へのローカーボ食(糖質制限食)の応用というテーマで、心臓外科医の立場からなぜローカーボ食に関心をもち、なぜそれを推進するようになったかをお話ししました。
まず名古屋ハートセンター心臓外科での実際の心臓手術事例を3例ほど提示しました。
患者さんの術後の苦痛をやわらげ早い社会復帰をうながすMICS(低侵襲心臓手術)(ポートアクセス法)の実際を供覧し(写真はポートアクセス法での僧帽弁形成術のあとの創です、右乳腺のすぐ横にある短い線が創部です)、それがメタボの方の場合どのように難しくなるか、また術後もどういう対策が必要かなどを解説するなかでローカーボ食の意義をお話ししました。
さらに急性大動脈解離の緊急手術で助かった若い患者さんが108kgの体重のままでは長期的な健康は守りきれないことからローカーボ食(糖質制限食)で肥満を減らす中で高血圧を改善する様子をお示ししました。
さらにオフポンプ冠動脈バイパス手術でカテーテル治療PCIではできないような長期安定した状態を示すなかで、二次予防のためローカーボ食(糖質制限食)でのメタボ改善が役立つことを示しました。
そのうえで実家の内科外来でローカーボ食で体重を大きく減少させるのに成功された患者さんのデータの中から、高血圧の治療への貢献を示しました。
小又接骨院 村坂克之先生は
(5) 食事と飲酒前後の血糖値測定の体験というテーマで、実にユニークな講演をされました。
堂々としたご体格と酒のことなら何でも聞いて下さいといわんがばかりのお酒好きの先生が、
さまざまなお酒、たとえば赤や白のワインからビール、日本酒、焼酎、梅酒その他の飲用後の血糖値の変化を自らが被験者となって調べられました。
ワインは赤だけでなく白でも辛口なら血糖値はそう上がらないことや、焼酎やシャンパンも良いことが示されました。
しかし血糖値が上がる甘口ワインやビールなどのほうが酔い心地が強かったとされたあたりはお酒を心から愛する先生の想いが伝わり納得してしまいました。
最後に灰本クリニック 管理栄養士 篠壁多恵さんが(6)ローカーボ食(糖質制限食)の指導方法 というテーマで有効なローカーボ食指導の実際を紹介されました。
医師の講演とはまた一味ちがう、管理栄養士さんからの、実用性あふれるお話しでした。
笹壁さんはこれまで実によく勉強し毎日の医療の仕事から論文を含めた学術的ことまでこつこつと積み上げて来られた方ですが、
その努力の一部がよく見える充実した内容でした。
この会が今後、医師や医療、厚生省、製薬会社といった従来のパラダイムから、
さまざまな医療者、農水省、食品会社といった、
より幅広い枠組みで展開することを予想させてくれる内容でした。
基調講演のあと、安井廣迪先生の司会でパネルディスカッションが行われ、さまざまな質疑応答が行われました。
満員御礼の会場にはローカーボ食(糖質制限食)を医療の中ですでに実践しておられる先生方や栄養士さん、看護師さんらも多数おられ、
これからの大きな展開を予感させてくれる熱い雰囲気でした。
ご参加も名古屋市内各地はもとより東海地方全域、さらに関西や裏日本、中には下関から来て下さったかたもあり、うれしく思いました。
研究会のあと、懇親会が行われました。普通の研究会後の懇親会と違うのは、
ローカーボ食品(糖質制限食品)がメーカーさんのご協力で並べられ、実際に味見をしながら説明が聞けたことです。
まだlow carbo+high fatまでは熟し切れない傾向を感じながらも、
これからの展開が楽しみになる、すでに基盤はできつつあることを感じました。
ご参加の方々と直接お話ししていますと、従来の食事療法とローカーボ食(糖質制限食)が違いすぎて、なかなか受け入れられないのではないか、というご意見もあり、
実際糖尿病学会やそのジャーナルではローカーボは排斥される傾向があるようで、
いつの時代もパイオニアは大変だと思いました。
しかし患者さんが元気になるという結果が蓄積され、より多くの患者さんや市民が賛同・参加され、
より多くの医師・医療者・健康関係者が集うようになればおのずと道が拓けるように感じました。
昔ある先生から別件で教えられた、パイオニアの概念を以下に記します。
「10人の人間がいる中で新しいことをする人が1人いるとき、彼は単なる変わり者だ。誰も彼を相手にしないかも知れないし、迫害さえする人もあるかも知れない。
しかし新しいことをする人が3人になれば、少し事情は違ってくる。その3人はもはや変わり者ではなくパイオニアであり、他の7人は正常人というよりは時代遅れだ。
新しいことをやる人が5人になれば、残る5人はもはや焦りと不安にかられる存在に堕落するかも知れない」と。
良いものは良い、という信念をもちつつ、着実に結果を残して行く、
また従来の方法を実践する人たちを決して批判したり無視したりするのではなく、
一緒に勉強するというスタンスで進めるのが望ましいように思った研究会でした。
次回は半年後ですが、より多くの先生方・医療者・健康関係者の方々のご発表やご参加を頂けるのが楽しみです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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