第二回日本ローカーボ食(糖質制限食)研究会

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第二回日本ローカーボ食研究会(糖質制限食の研究会です)の学術集会がこの2月5日に名古屋で開催されました。

この研究会は昨年2011年に発足し、同年6月に第一回学術集会を開催し、幸い多くの先生方や栄養士さん、コメディカルの方々や食品企業の皆様らのご助力で盛会に終えることができました。

それを受けて今回はさらに内容あるものを目指して開催されました。

IMG_0420b8題の一般演題発表およびディスカッション、そして灰本元先生の教育講演、さらに8題の演者をパネリストとしたパネルディスカッションで賑やかに討論がなされました。その詳細は日本ローカーボ食研究会のホームページをご参照ください。

一般演題ではローカーボ食(糖質制限食)の指導に難渋した症例をいくつかの施設から発表され、苦労と工夫が論じられました(写真は準備中です)。

また効果的で安全な治療法としてのローカーボ食(糖質制限食)をもちいた経験を小早川医院の小早川裕之先生や四日市糖尿病クリニックの東盛亜美先生らが発表されました。

ローカーボ食指導の上での血糖値コントロールの課題を西伊豆病院の野々上智先生が、また同様の課題を不安定ローカーボとして灰本クリニックの篠壁多恵先生が発表されました。

ローカーボ食(糖質制限食)に難渋した症例の経験を中京クリニカルの中村了先生や、名古屋ハートセンターの白戸絵里奈先生・田中舞子先生が発表されました。膵臓の石灰化著明な糖尿病でのローカーボ治療経験を中京クリニカルの前田恵子先生が発表されました。

こうした難渋例や教訓例のご検討は、ローカーボ食(糖質制限食)治療が進化していることを示すものと感じました。

お酒にもダイエットに良いものからそうでないものまでいろいろありますまた前回にひきつづいて、小又接骨医院の村坂克之先生のアルコールの研究のご発表があり、皆の注目を集めました。前回の結果、つまり赤ワインや辛口白ワインは血糖値をほとんど上げないという事実は愛飲家患者さんには朗報だったのですが、今回は純米酒や本醸造酒も良い結果で、今後うまく活かせばより楽しいダイエットが実現できそうな有用情報でした。糖質ゼロや糖質減量ビールもかなり行けるとはありがたい限りのお話しでした。

ちなみに私ども名古屋ハートセンターの症例は、高度肥満と脳梗塞既往のため手術も術後リハビリもままならない重症例に弓部大動脈置換術+大動脈弁置換という大きな手術をローカーボ食(糖質制限食)を効果的にもちいてスムースに乗り切るという、心臓手術や血管手術の新たな補助手段としてのローカーボ食の応用の一例として発表したものでした。同時に、軽快退院後、体重リバウンドと肥満再発・心不全再発で再入院するという、ダイエット指導のむずかしさも示したものでした。皆さまからご教示をいただき、うれしく存じました。

この会の御大である灰本 元先生の教育講演「海外大規模研究から」は糖尿病コントロールの最適レベルはどこにあるかという課題、あるいはそれに関連して糖尿病患者さんに多い低血糖のリスクや心臓死、あるいはがんをどう予防するかという課題など、まさに全人的治療の一環としてのローカーボ食(糖質制限食)治療の位置づけや最適法の探求というスケールの大きな内容でした。

パネルディスカッションでは安井廣迪先生の総合司会のもと、灰本元先生と私、米田正始の司会で進めさせていただきました。

個々の発表の際に論じきれなかったいくつかのポイントをもう少し掘り下げてみました。たとえば大酒のみの代謝はどうなるか、とくにTCAサイクルがアルコールで「占拠」されてメタボになるメカニズムや、脂肪を食べてはいけないと刷り込まれた患者さんをどう教育するか、そもそも脂肪を食べて血中脂肪が下がる理由、ローカーボ食(糖質制限食)がうまく遂行されていることを確認する指標は何がベストか、内蔵脂肪を簡便に計測する器械、などなど、内容ある議論をしていただき、司会者としてうれしく存じました。

これらのご発表や議論はちかぢか、一冊の本として出版予定です。発表者の皆様にはぜひよろしく執筆お願いするとともに、読者の皆様には乞うご期待です。

研究会のあとはローカーボ食(糖質制限食)企業の展示とともに懇親会が行われ、賑やかに歓談のときが持てました。クラシエ薬品の新しいスポーツ飲料、大塚食品のヘルシーなごはん、楽園フーズの新しいパン、サントリーの新しい試み、その他今後が期待される食品が展示試食されました。

新しいヘルスケアを担うこの研究会が多くの方々のご協力でさらに発展することを期待しつつ、第二回研究会を終了しました。みなさん、どうもありがとうございました。次回は半年後になる予定です。よろしくお願い申し上げます。

2012年2月6日

 

米田正始 拝

 

日本ローカーボ食研究会のホームページはこちら

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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第一回日本ローカーボ食(糖質制限食)研究会

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昨日、日本ローカーボ研究会(糖質制限食の研究会です)の第一回研究会(学術集会)が名古屋で開かれました。

 

立ち上げて間もない新たな研究会の、それも第一回集会とあって、

少人数で親しくアットホームにやろうと考えていましたが、

IMG_0013ふたを開けてみますと70名を超える方々のご参加があり、会場は満員の盛況でした。

 

今回は初めての集まりのため、世話人を中心として基調講演を行い、

そこからより多くの方々のご意見や次の活動へとつないでいこうというスタンスでした。

まずこの会の代表世話人である灰本元先生(春日井市の灰本クリニック)からご挨拶がありました。

 

基調講演は医史学と漢方内科の大家である安井廣迪先生(安井医院)で進められました。

Ilm15_bb02002-s まず(1)灰本クリニック 灰本 元先生が、ローカーボ食(糖質制限食)の現状と課題を概説されました。

8年以上の経験の中から築き上げて来られた安全なローカーボ食の方法が、

この1年間でさらに磨きがかけられたと感嘆いたしました。


ついで
中村 了先生(中京クリニカル)が

 (2)ローカーボ食(糖質制限食)の症例: 糖尿病と肥満について実際の治療経験の中からお話しされました。

プライマリケアと地域医療を熱心に進めて来られた中で、

ローカーボ食(糖質制限食)を無理なく患者さんが実践できるよう工夫されているのが良くわかりました。


名大名誉教授(生物学) 加藤 潔先生は

 (3)稲作民にとってのローカーボ食(糖質制限食)というテーマでご自身の20年以上の糖尿病対策のご経験を披露されました。

いかにも本物の学者らしい、緻密なデータの集積に感心しました。

CIMG1918 不肖、私(米田正始)は

(4)血圧管理へのローカーボ食(糖質制限食)の応用というテーマで、心臓外科医の立場からなぜローカーボ食に関心をもち、なぜそれを推進するようになったかをお話ししました。

まず名古屋ハートセンター心臓外科での実際の心臓手術事例を3例ほど提示しました。

患者さんの術後の苦痛をやわらげ早い社会復帰をうながすMICS(低侵襲心臓手術)ポートアクセス法)の実際を供覧し(写真はポートアクセス法での僧帽弁形成術のあとの創です、右乳腺のすぐ横にある短い線が創部です)、それがメタボの方の場合どのように難しくなるか、また術後もどういう対策が必要かなどを解説するなかでローカーボ食の意義をお話ししました。

さらに急性大動脈解離緊急手術で助かった若い患者さんが108kgの体重のままでは長期的な健康は守りきれないことからローカーボ食(糖質制限食)で肥満を減らす中で高血圧を改善する様子をお示ししました。

さらにオフポンプ冠動脈バイパス手術でカテーテル治療PCIではできないような長期安定した状態を示すなかで、二次予防のためローカーボ食(糖質制限食)でのメタボ改善が役立つことを示しました。

そのうえで実家の内科外来でローカーボ食で体重を大きく減少させるのに成功された患者さんのデータの中から、高血圧の治療への貢献を示しました。

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小又接骨院 村坂克之先生は 

(5) 食事と飲酒前後の血糖値測定の体験というテーマで、実にユニークな講演をされました。

堂々としたご体格と酒のことなら何でも聞いて下さいといわんがばかりのお酒好きの先生が、

さまざまなお酒、たとえば赤や白のワインからビール、日本酒、焼酎、梅酒その他の飲用後の血糖値の変化を自らが被験者となって調べられました。

ワインは赤だけでなく白でも辛口なら血糖値はそう上がらないことや、焼酎やシャンパンも良いことが示されました。

しかし血糖値が上がる甘口ワインやビールなどのほうが酔い心地が強かったとされたあたりはお酒を心から愛する先生の想いが伝わり納得してしまいました。

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最後に灰本クリニック 管理栄養士 篠壁多恵さんが(6)ローカーボ食(糖質制限食)の指導方法 というテーマで有効なローカーボ食指導の実際を紹介されました。

医師の講演とはまた一味ちがう、管理栄養士さんからの、実用性あふれるお話しでした。

笹壁さんはこれまで実によく勉強し毎日の医療の仕事から論文を含めた学術的ことまでこつこつと積み上げて来られた方ですが、

その努力の一部がよく見える充実した内容でした。

 

この会が今後、医師や医療、厚生省、製薬会社といった従来のパラダイムから、

さまざまな医療者、農水省、食品会社といった、

より幅広い枠組みで展開することを予想させてくれる内容でした。

 

IMG_0101基調講演のあと、安井廣迪先生の司会でパネルディスカッションが行われ、さまざまな質疑応答が行われました。

満員御礼の会場にはローカーボ食(糖質制限食)を医療の中ですでに実践しておられる先生方や栄養士さん、看護師さんらも多数おられ、

これからの大きな展開を予感させてくれる熱い雰囲気でした。

ご参加も名古屋市内各地はもとより東海地方全域、さらに関西や裏日本、中には下関から来て下さったかたもあり、うれしく思いました。

料理000679m

研究会のあと、懇親会が行われました。普通の研究会後の懇親会と違うのは、

ローカーボ食品(糖質制限食品)がメーカーさんのご協力で並べられ、実際に味見をしながら説明が聞けたことです。

まだlow carbo+high fatまでは熟し切れない傾向を感じながらも、

これからの展開が楽しみになる、すでに基盤はできつつあることを感じました。

 

ご参加の方々と直接お話ししていますと、従来の食事療法とローカーボ食(糖質制限食)が違いすぎて、なかなか受け入れられないのではないか、というご意見もあり、

実際糖尿病学会やそのジャーナルではローカーボは排斥される傾向があるようで、

いつの時代もパイオニアは大変だと思いました。

しかし患者さんが元気になるという結果が蓄積され、より多くの患者さんや市民が賛同・参加され、

より多くの医師・医療者・健康関係者が集うようになればおのずと道が拓けるように感じました。

 

昔ある先生から別件で教えられた、パイオニアの概念を以下に記します。

 

「10人の人間がいる中で新しいことをする人が1人いるとき、彼は単なる変わり者だ。誰も彼を相手にしないかも知れないし、迫害さえする人もあるかも知れない。

しかし新しいことをする人が3人になれば、少し事情は違ってくる。その3人はもはや変わり者ではなくパイオニアであり、他の7人は正常人というよりは時代遅れだ。

新しいことをやる人が5人になれば、残る5人はもはや焦りと不安にかられる存在に堕落するかも知れない」と。

 

良いものは良い、という信念をもちつつ、着実に結果を残して行く、

また従来の方法を実践する人たちを決して批判したり無視したりするのではなく、

一緒に勉強するというスタンスで進めるのが望ましいように思った研究会でした。

次回は半年後ですが、より多くの先生方・医療者・健康関係者の方々のご発表やご参加を頂けるのが楽しみです。

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執筆:米田 正始
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日本ローカーボ食(糖質制限食)研究会に期待します

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この5月に日本ローカーボ食研究会が立ち上がりました。ローカーボ(糖質制限食)とはご飯や麺類、パンなどの炭水化物をうまく減らした食事のことです。

メタボ全盛の現代、患者さんの健康を守るには適切なダイエットが必須であることはこれまでも多くの方々が考えて来られたことです。

Ilm09_ag04009-s 私は心臓血管外科の専門医で、これをライフワークとして、ひとりでも多くの患者さんをお助けすることにちからを入れてまいりました。たとえ他の病院でダメと言われたかたでも、自分たちの経験上、助かる可能性がある程度以上あれば、救命努力して来ました。京大病院でも豊橋ハートセンターでも名古屋ハートセンターでも、多くの方々のご協力のおかげで、多くの患者さんのお役に立つことができ、その都度、患者さんや周囲の方々の頑張りから感動を頂いて、また次の心臓手術や治療への糧にしてきました。

しかしメタボはさまざまな生活習慣病の原因です。糖尿 Ilm19_ca03020-s 病、高血圧、虚血性心疾患腎臓病血管病動脈瘤弁膜症心不全、など枚挙にいとまがありません。手術や薬だけ頑張ってもメタボ対策を立てないと、本当に患者さんをお助けしたことにはならないと痛感していました。

そんなとき、名古屋で実力派の開業医・灰本元先生と偶々出会い、そこでの勉強の中から、ローカーボ食(糖質制限食)の研究会を立ち上げようというお話を聞き、ぜひやりましょうということになりました。内科医の中村了先生、漢方医学の安井広迪先生、生物学の加藤潔先生、老年科の井口昭久先生といった、多彩かつ多才な先生方とともに、準備を進めてまいりました。また灰本クリニックの栄養士・笹壁さんやコメディカルの方々の積極的参加がこの会のバランスを一層優れたものにしていると思います。

ローカーボ食(糖質制限食)のユニークさや利点はこのホームページのローカーボダイエットのページや、立ち上がった日本ローカーボ食研究会のホームページをご参照いただくとして、これからこの食事療法をもっと科学的に解明し、正しい情報や方法を啓蒙していくことが必要と考えています。

というのは世の中のダイエット法には商業主義に走ったものや、中には危険な民間療法のようなものまであるため、それらと一線を画し、多くの患者さんの治療に役立つ、一般の方々のメタボ予防にも役立つ、医学的・科学的で安全安心なものを確立する必要があるからです。

Cj009b-s また開業医の先生からや内科・内分泌代謝内科・循環器科・老年化その他の先生方や製薬業界の方々の積極的なご参加が必要です。それによってこのローカーボ食(糖質制限食)という医学的方法は正しく成長し、人類に貢献するレベルに達すると信じるからです。

しかし現実は、ローカーボ食(糖質制限食)によって、たとえば糖尿病や高脂血症が大きく改善し、薬の売り上げが減るなどといった近視眼的な見方も一部にあるようです。それは本末転倒であり、患者さんが元気に長生きできるようになって初めて医療も製薬業界も長期的な繁栄があると信じます。

こうしたことを踏まえ、日本ローカーボ食研究会では勉強会・研究会開催とともに、ホームページなどで世界の医学論文を紹介したり、さまざまな建設的議論を通じて医療関係者や一般市民にまで情報提供を行う予定です。

皆様の積極的なご参加やご支援をお願い申し上げます。

(追記: この研究会のHPに私のブログが掲載されました。ご参考まで)

 

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