虚血性心筋症や拡張型心筋症に対する左室形成術は適切な患者選択によって大きな成果を上げることができます。しかしこのことは循環器内科の先生方に十分知られているとは限りません。
つまり左室形成術によって救命し、さらに元気を回復できる、そうした患者さんが恩恵を受けられないというケースが全国で発生しています。
現在、全国の仲間の協力で重症心不全研究会が立ち上がりEBMデータを蓄積し、多くの内科医・臨床医のご理解を頂けるように努力しています。
ここで提示する事例は関東在住の30歳代前半の男性で、3か月前に大きな心筋梗塞をわずらい、近くの病院で治療を受けて何とか退院されました。ところが心不全が次第に悪化し、複数の有名な病院でも心臓手術は無理と断られ、私の外来へ来られました。
術前検査で左室Dd(拡張末期径)89mm、左室駆出率0%(計算上)と危険な状態でした(末尾ちかくにある術前後のエコーの比較をご参照ください)。左冠動脈前下降枝は完全閉塞しており、これが原因の虚血性心筋症と考えられました。
こういう患者さんをこれまで長年、お助けしてきましたのでお引き受けすることにしました。
まず体外循環を回し、
心拍動のままで左室を開けました(写真右)。
左室内には血栓があり、
写真左は血栓摘除中の様子です。
ついで心筋梗塞でやられた部分とそうでない部分の境目に糸をかけ(これをフォンタン糸と言います)、
通常のDor手術(ドール手術)ではこの フォンタン糸をただ締めてくくるのですが、
これを前もって4分割し、
主に横方向に左室を小さくするという私の考案した「方向性Dor」という左室形成術を行いました。
左室がSAVE手術(セーブ手術)に負けないきれいな洋ナシ形で、
しかもより短時間で正常サイズに近づいたところでパッチを縫着し、
左室を閉鎖して仕上げました。
僧帽弁が術前にかなりゆがんでいたため、僧帽弁形成術を併せ行いまし た(写真右下)。
術後経過はおおむね良好で、一度だけ歓談中の不整脈発作でお互い冷や汗をかきましたが、チーム全員が努力して患者さんを守り抜き、元気に退院して行かれました。
ほとんど動いていなかった左心室がかなり回復し、形もきれいで安定度が増したのがわかります。
あれから6年以上の月日が経ちますがお元気と聞いてい ます。
左室形成術は適応を選び、うまく使うと患者さんに大変お役に立つ手術です。
本来心移植をしても不思議でないほどの重症患者さんですので楽な治療ではありませんが、心移植の数が限られていることから、患者さんにお役に立つ心臓手術と申せましょう。
こういう重症の患者さんは手間がかかり赤字になりしかもリスクも高いため病院からは嫌われることが多いのですが、日々治療法を改善しながらチームを育てて多くの皆さんの理解を頂きながら患者さんの救命ができるように努力しています。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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