【テスト】2) 虚血性心筋症とは?―多くは心筋梗塞で心筋がやられた状態ですが【2023年最新版】

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最終更新日 2020年2月29日

1.虚血性心筋症とは

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心臓に血液を送る冠動脈 (左図の赤く細い血管) が狭窄 (狭くなる) したり閉塞して心筋がやられる状態を虚血と言います。

虚血が悪化し心筋梗塞になった後、左室(ポンプの部屋)心筋が壊れて動きが悪くなり、血液が十分送れなくなる状態を虚血性心筋症と呼びます。

虚血によって起こった心筋症という意味です。通常の心筋梗塞以外でも、カテーテル治療PCI
を繰り返した後にも見られることがあり、これは細い枝がつぶれたり、組織片が詰まったりして心筋梗塞を何度か起こしたためと考えられています。
川崎病のために冠動脈瘤(こぶのように大きくなり、その中に血栓ができます)ができ、そこでできた血栓が心筋梗塞を繰りかえして起こることもあります。

2.虚血性心筋症では左室のどこがどう壊れるの?

虚血性心筋症は心筋梗塞のため左室心筋の一部が失われ、動きが悪くなったため、それを補うべく左室全体が大きくなったり形がくずれてしまい、梗塞にやられていない部分まで動きが損なわれる状態です。

図 梗塞後リモデリング

さらに左室全体の形が崩れて丸くなるために、僧帽弁という左室入り口にある弁もゆがみ、弁が逆流することがよくあります。これを虚血性僧帽弁閉鎖不全症といい、これによって状態が大きく悪化します。

このように虚血性心筋症が悪くなると命にかかわる状態になってしまいます。この状態では胸痛がないことも多く、患者さんご自身では状態がわかりにくいため油断は禁物です。

3.症状は?

体を動かすときの息切れや動悸などがよく見られます。虚血が進行中の場合は胸痛も起こります。心不全が進めば、息切れが強くなり横になって寝られなくなったり(これを起坐呼吸と呼びます)下肢がむくんだりします。

4.虚血性心筋症の治療は?

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しかしこの病気はかなりの部分、治せる病気です。一般的には心不全の治療をお薬やリハビリ、あるいはASVという空気マスクなどの内科的治療が行われます。

外科手術は現在あまり一般的ではありませんが、心不全や心不全治療の経験が豊富なエキスパート心臓外科医にご相談頂ければ、これは薬が良いとか、このタイプは心臓手術で治せる、などの方針が立ちます。
心筋梗塞のために失われた心筋はもどりませんが、梗塞の周囲にある心筋を回復させることはある程度可能ですし、梗塞でやられなかった心筋を守ることはかなりの程度までできるのです。
そうすることで虚血性心筋症といえども寿命を延ばせる可能性が出て来ます。
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あきらめるとそれまでですが、粘り強く、心筋や心臓を守ることが生きることにつながるわけです。

メモ: もうひとつの視点として虚血にはマクロとミクロがあります。
マクロとは冠動脈のどこかが詰まったり狭くなったりしている状態で、大きなものはカテーテル治療バイパス手術でほぼ治せます。
ミクロとはもっと細い血管が詰まった状態で、従来治療では治せませんが、お薬も必ずしも十分には効きません。

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こうした状態に対して私たちは再生医療とくに血管新生治療を行っています。日本では認可をとるのに時間がかかるため、とりあえずタイの国際心臓病院で行っています。そこでは再生医療患者さんの大半はアメリカから来ておられます。はやく日本でもこれを実現したいものです。虚血性心筋症を治す切り口がさらに増えれば幸いです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 虚血性心筋症に対する新しい左室形成術 その2

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虚血性心筋症は現在も重症でしばしば心移植しか治療法がないと言われます。

そうはいっても心移植はなかなか順番が回ってきませんし、補助循環(いわゆる人工心臓)を使っている人たちが優先することが多いですので、普通の心不全の症状では逆に治療法に困ることがあるのです。

患者さんは60代男性で起座呼吸を主訴として来院されました。

つまり心不全としては4段階の4、つまり最重症に入ります。

過去20年間に4回のPCIつまりカテーテルによるステント治療を受けておられます。しかし心不全が悪化し、来院されました。心エコーにて左室駆出率28%つまり健康者の半分以下、そして僧帽弁閉鎖不全症の増悪も認められました。このままではもう、あまり長くは生きられないという状況でした。

しかしよく見ればまだ心筋がかなり残存している所見があり、左室の悪い部分が比較的明瞭で、心図1SVG-4PD臓手術とくに冠動脈バイパス手術左室形成術そして僧帽弁形成術で改善できると判断しました。

体外循環下、心拍動下にまず静脈グラフトを右冠動脈に取り付けました。

さらに左室を前壁で開け、中を調べました。

図2左室切開前壁と心室中隔の前部分が心筋梗塞でやられており、それ以外は比較的壊れていませんでした。

これは治せるという所見です。

そこでDor手術の簡便さとSAVE手術のきれいな形の両方をもつ、私が開発した方向性Dor手術を行いました

通常のフ 図3四分割Fontan糸ォンタン糸と呼ばれる糸を4分割して梗塞部分と健常部分の境界部にとりつけました。

そしてその糸をくくることで左室の短軸つまり横方向に主に縮小させました。

左室はかなり小さくなり、予定のサイズまで戻りました。

それと同時に形を長細い、洋なし型に整えました。

図4左室縮小前 図5左室縮小後

左写真の左側は縮小前、同右側は縮小後の姿です。

主に横方向に小さくしていますが、

心尖部が瘤化しているため長軸方向にもある程度は縮小しています。

これで左 図6パッチ縫着後室のパワーアップに役立つのです。

最後にパッチを縫い付けて左室形成術を半ば完成させました。

そのうえで、左房を開けて僧帽弁を調べました。

やはり左室 図9MAPと吊り上げ後が悪化したために弁が閉じなくなっただけで、弁そのものは良好でした。

そのため私が考案した乳頭筋の前方吊り上げを行い、それも前尖と後尖のどちらもが前方へ引かれるように工夫し、リングをつけて完成しました。

弁はきれいに閉じるようになりました。

図10LITA-LADと左室閉鎖後最後に左室の切開部を閉じ、内胸動脈LITAを前下降枝にバイパスし、操作を完了しました。

術後経過は良好で、まもなくお元気に退院されました。

あれから5年が経ちますが、お元気に普通の生活を送っておられます。

その後もこの左室形成術で多数の患者さんをお助けできていますが、昔、救命できなかった患者さんのことを想いだしてはさらに精進しお役に立てるような心臓手術を磨いていきたく思うのです。

 

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執筆:米田 正始
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事例: 虚血性心筋症に対する新しい左室形成術

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虚血性心筋症拡張型心筋症に対する左室形成術は適切な患者選択によって大きな成果を上げることができます。しかしこのことは循環器内科の先生方に十分知られているとは限りません。

つまり左室形成術によって救命し、さらに元気を回復できる、そうした患者さんが恩恵を受けられないというケースが全国で発生しています。

現在、全国の仲間の協力で重症心不全研究会が立ち上がりEBMデータを蓄積し、多くの内科医・臨床医のご理解を頂けるように努力しています。

ここで提示する事例は関東在住の30歳代前半の男性で、3か月前に大きな心筋梗塞をわずらい、近くの病院で治療を受けて何とか退院されました。ところが心不全が次第に悪化し、複数の有名な病院でも心臓手術は無理と断られ、私の外来へ来られました。

術前検査で左室Dd(拡張末期径)89mm、左室駆出率0%(計算上)と危険な状態でした(末尾ちかくにある術前後のエコーの比較をご参照ください)。左冠動脈前下降枝は完全閉塞しており、これが原因の虚血性心筋症と考えられました。

こういう患者さんをこれまで長年、お助けしてきましたのでお引き図1左室切開受けすることにしました。

まず体外循環を回し、

心拍動のままで左室を開けました(写真右)。

左室内には血栓があり、

図2左室血栓摘除これが脳へ流れれば脳梗塞になるため完全に摘除しました。

写真左は血栓摘除中の様子です。

ついで心筋梗塞でやられた部分とそうでない部分の境目に糸をかけ(これをフォンタン糸と言います)、

通常のDor手術(ドール手術)ではこの 図5新フォンタン糸かけ後フォンタン糸をただ締めてくくるのですが、

これを前もって4分割し、

主に横方向に左室を小さくするという私の考案した「方向性Dor」という左室形成術を行いました。

図7パッチ縫着後左室がSAVE手術(セーブ手術)に負けないきれいな洋ナシ形で、

しかもより短時間で正常サイズに近づいたところでパッチを縫着し、

左室を閉鎖して仕上げました。

僧帽弁が術前にかなりゆがんでいたため、僧帽弁形成術を併せ行いまし 図9MAPた(写真右下)。

 

術後経過はおおむね良好で、一度だけ歓談中の不整脈発作でお互い冷や汗をかきましたが、チーム全員が努力して患者さんを守り抜き、元気に退院して行かれました。

図10術前後の心エコー真左は術前後の心臓の様子をエコ―でみたものです。

ほとんど動いていなかった左心室がかなり回復し、形もきれいで安定度が増したのがわかります。

あれから6年以上の月日が経ちますがお元気と聞いてい ます。

左室形成術は適応を選び、うまく使うと患者さんに大変お役に立つ手術です。

本来心移植をしても不思議でないほどの重症患者さんですので楽な治療ではありませんが、心移植の数が限られていることから、患者さんにお役に立つ心臓手術と申せましょう。

こういう重症の患者さんは手間がかかり赤字になりしかもリスクも高いため病院からは嫌われることが多いのですが、日々治療法を改善しながらチームを育てて多くの皆さんの理解を頂きながら患者さんの救命ができるように努力しています。

 

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手術事例: 虚血性心筋症に心室中隔穿孔(VSP)を合併した80代男性

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心筋梗塞後の心室中隔穿孔(略称VSP)は緊急手術を要する、きわめて重い病気です。

多くの場合、心臓手術しなければ、あるいはそのタイミングが遅れれば患者さんは死にいたります。何とかそれを避けねばなりません。

そこで私たちは患者さんが来院されると同時に、心臓と全身を守る治療を開始し、それと並行して素早く確定診断をつけて緊急手術へと進みます。

かつては比較的元気な左室に急性心筋梗塞が起こり、つづいて心室中隔穿孔が合併して緊急手術になった方が多かったのですが、最近はすでにうんと悪化した心臓に合併するというケースがみられるようになりました。まさに絶対絶命の状況です。

こうした患者さんをお助けすることに力をいれています。

患者さんは84歳男性です。

胸痛のため当院へ来院されました。

来院時、心エコーにて駆出率19%(正常は60%台ですから、19%は心移植に近いレベルです)と左室機能の極度の低下を認め、心尖部に瘤つまりこぶのような広がりがあり、以前に心筋梗塞を患われた跡がみられました。

つまり梗塞で左室の一部が死んでしまい、それが圧に負けて次第にこぶのように大きくなってしまったわけです。左室全体のちからも落ちて、いわゆる虚血性心筋症という重症の状態です。

 

血圧が十分にはでないショック状態のため、集中治療室ICUで強心剤の点滴を受けつつ、カテーテル検査に臨みました。

その結果、左冠動脈前下降枝が100%閉塞し、回旋枝も90%狭窄となっていました。そこでこれらの枝にカテーテル治療PCIでステントを留置し、改善を見ました。循環器内科の先生方のご努力に感謝です。

 

ところがその3日後、突然状態が悪化し、心エコーにて心室中隔穿孔が認められました。つまり心室中隔に穴が開いたわけです。

その穴を通って左室の血液が右室へと流れ込み、心不全と肺の強いうっ血が起こり危険な状態でした。

そこでただちにIABPという心臓補助のバルン(ふうせん)で状態を維持しつつ、まもなく緊急手術へと進みました。

 

図1左室切開後体外循環(人工の心肺です)・心拍動下に観察しますと左室前壁は心尖部から左室基部側2/3まで広い範囲にやられて薄くなっていました。

これを切開して左心室の中に入りました。

すでに壊れたところを切るため、心臓や患者さんへの影響はありません。


左室内を観察しますと、心室中隔と左室前壁が広い範囲にわたって薄くなり、その根っこがわ近くに直径6mmの穴が開いており(これが心室中隔穿孔VSPです)、その周辺部組織も死んでいました。

右上図の矢印がVSPです。周囲の心筋が壊死してぐちゃぐちゃになっているため、良く見ないと分かりにくいものです。

そこでまずこのVSPをプレジェット付き糸で直接閉鎖しました。

 

左室の瘤化した図2 4分割Fontan糸部分を形成しないと術後心機能が危険なレベルのため、私たちが考案した一方向性Dor手術を行うことにしました。

この方法では左室の洋ナシ型形態を保ちつつ、必要な左室縮小ができるからです。

神が創られた形に戻す、これがいちばん自然で良い結果が期待できるのです。

左室の中で、心筋梗塞・瘢痕部と正常部の境目に 図3 4分割Fontan糸完成後糸をかけ、おもに横方向にこの糸を引き、縫縮しました。

上図はその糸をかけているところです。

これできれいな形を取り戻すことができました。

右図はその糸をかけてくくった後の姿です。

上図とくらべて左室が細長い、自然な形にもどっているのが見えるでしょうか。

自然な形こそパワーを出しやすくする秘訣なのです。これはその後のいくつもの研究で証明されています。

図4パッチ縫着後そのうえで大きめのパッチを縫着し、パッチが良く膨らむようにしました。

これにより適正な左室容積が保てると判断したためです


左図はパッチをつけた後の姿をしめします。この時点ではまだわずかな圧しかかかっていませんが、すでにきれいに膨らみ、新しい左室の姿の一部を示しています。

体外循環を比較的少ない強心剤で無事離脱しました。

経食エコーでもVSPシャントつまり血液の漏れは消失していました。左室も適正な形と容積になり、動きも改善しました。

薬剤溶出ステントのための抗血小板剤プラビックスが3日前まで入っていたため、入念に止血を行いました。

術後経過は順調で、血行動態は改善し肺動脈圧も術前の50台から30台へ改善し、尿量も十分で術当夜には覚醒されたため抜管し、翌朝、一般病棟へ退室されました。

その後も経過が良く、術後2週間で元気に退院されました。

心臓手術から5年の時間が経ちます。すでに89歳におなりですがお元気に外来に定期健診に来られます。駆出率も38%にまで改善しておられます。

ご高齢だからといって、あるいは重症だからといって、内容を吟味せずに諦めるのは間違いと私は考えています。患者さんを比較的高い確率で救命でき、かつその後は楽しく暮らせる見込みが高ければ、頑張るべきと思います。

 

天皇陛下の冠動脈バイパス手術のあとで執刀医の天野先生が言われたのは、陛下がお元気で公務に復帰された時点で手術成功と言える、でした。このVSP患者さんの場合も同様で、本来の元気で楽しめる生活に戻ったところで成功だったと言えると思います。そしてその成功が5年以上維持できたとなれば、これは患者さんにとって極めて良い心臓手術になりましたと言っても支障ないと思います。

 

患者さんやご家族の頑張りに敬意を表するとともに、今後もお身体を大切に永く楽しく生きて頂きたく思います。

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お便り99: 虚血性心筋症術後7年、新たな心臓病を乗り切る

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虚血性心筋症は心筋梗塞のあとで、梗塞をまぬがれた心臓部分が次第に大きく弱くなる病気です。

時間とともに重症化し、長くは生きられない状態となります。

しばしば虚血性僧帽弁閉鎖不全症を合併し、いっそう寿命を短くしてしまいます。

私たちはこの20年以上、虚血性心筋症や虚IMG_5510b血性僧帽弁閉鎖不全症の手術に取り組んで参りました。年々その成果が上がるようになり、この数年間は死亡率もかなりゼロに近づきました。

さてこのお便りの患者さんは7年前、米田正始がまだ京大病院で仕事をしていたころに、虚血性心筋症のため手術させて戴いた方です。遠く長野県から来て下さいました。手術前、心臓とくに左室のパワーは正常の3分の1以下に落ち込んでいました。

当時はまだ珍しい手術であったセーブ手術と septal reshapingと呼ばれる心室中隔の形成術を含めた左室形成術、さらに僧帽弁形成術やメイズ手術そして冠動脈バイパス手術をセットで行いました。すべて心臓を動かしたまま行いました。

大きな手術でしたが患者さんはよく頑張って下さり、お元気に退院されました。この手術は学会などでも発表し評価を頂きました。

その後患者さんはお元気に暮らしておられましたが、あれから7年が経ち、大動脈弁が新たに壊れ大動脈弁閉鎖不全症となって心臓に負荷がかかって左室がまた拡張し、僧帽弁閉鎖不全症や三尖弁閉鎖不全症を合併し、心不全になって来院されました。

心の絆のおかげでしょうか、名古屋で仕事をしていた私をたずねてきて下さいました。

すでに80歳近いご年齢で消耗されやせ細っておられる、2度目の手術、それも3つの弁がやられている、もともと大きな心筋梗塞のあとで心臓のパワーが落ちているうえに、最近のあらたな大動脈弁閉鎖不全症のためいちだんと心臓が弱っている、といった厳しい状況でした。

患者さんは死んでも良いから生きるチャンスを下さいと、私を信頼してきて下さったのです。

私はその信頼に是非応えたく、この7年間に培ったノウハウを結集した心臓手術を行いました。

体への負担を最小限にするため、大動脈弁手術の負担だけで大動脈弁と僧帽弁の両方を治しました。通常は僧帽弁形成術では左房を開けるのですが、左房はそのままに、大動脈弁経由で乳頭筋を手直しし(私たちが開発した新しい手術です)、そのまま大動脈弁を置換して短時間で、最小限の剥離で一気に直しました。あと心臓が拍動した状態で三尖弁を修復し、その間に心臓を回復させてうまく行きました。

7年前はICU(集中治療室)を出るまで7日もかかりましたが、今回は僅か1日で退室できました。

この7年間の努力の成果が功を奏し、まもなくお元気に退院して行かれました。いのちを預けてくれた患者さんの期待に沿えてこんなにうれしく思ったことはありません。

以下のお手紙はその患者さんと、ご家族の皆さんからのものです。

 

********* 患者さんからのお便り ********

前略 

暑かった夏も去り、ようやく住み良い季節となりました。早速御礼状を差し上げるべきところなのに、すっかり遅れてしまい申し訳ありませんでした。

この度は、先生には、二度にもわたり、命を救って頂きまして御礼の申し上げようもない程、心より感謝致しております。本当にありがとうございました。いつの日かお会いする日を楽しみです。

 名古屋ハートセンターに在職中に、運良く手術をして頂けたことを、家族も含め、ラッキーだったと喜んでおります。

九月二日、無事に退院でき、その後、長野**病院の心臓センターの**先生にかかり、一週間検査入院もし、リハビリに通ったりし、今のところ、お陰さまで、何とか日常生活を送っております。

先生に助けて頂いた命なので、今後は大事にして余生を送りたいと考えております。今後ともよろしくお願い致します。

先生のますますの御活躍を祈っております。御礼まで。

米田正始先生

****

********* ご家族からのお便り **********

前略

先生には、ますます心臓病で苦しんでおられる人達のため命を救う、尊い使命に頑張る日々をお過ごしの事と尊敬申しあげております。

先日は、奈良の病院へ勤務された先生からわざわざごていねいな便りを頂きまして、本当に恐縮致しております。ありがとうございました。早速に御礼状をと思いながら、今頃になってしまいましたことを、お詫び致します。

名古屋ハートセンター退院後、長野**病院に診察に行き、退院後はリハビリに通ったり、家から歩いて十五分位なので、二週間に一度の約束で診察に行くことになりました。

何とか認知症の方もあまり進むこともなくて、今のところ一安心致しております。

唯こちら信州は、朝夕の温度が低く、寒くなって、体温と血圧が低いので、これからの厳しい冬を迎えるので心配ですが・・・ 

十月一日に名古屋ハートセンターへ、術後に診察に行き、問題ないと言って頂きました。 米田先生にお目にかかって、御礼を一言申し上げたく楽しみにしておりましたが、退院の時もお会い出来なかったので、主人は大変残念がっておりました。
 

次回の診察日は、二月初め頃と言われましたが、本人は、元気な姿を先生に、御礼申し上げたいので、奈良まで行きたいと楽しみにしております。それをはげみに、元気で生きていたいと、リハビリも頑張っております。体重も二キロほど増え、食欲はあまりありませんが、あわてずに療養していくと申しております。私も頑張ります。

 
「先生にお逢い出来て良かった!!生きていてよかったなァ」そんな感謝の心で、今回が無駄にならないよう、この命を大切にして生活すると、私も主人も、心に決めております。

先日信州そばを持っていきましたが、逢えず残念、信濃で名づけた「信濃スイート」の、りんごの収穫が始まりましたので、一つだけ、近々送ります。ほんの御礼の心ばかりですので、受けて下さい。お願い致します。

ありがとうございました。乱筆にて失礼。

平成二十五年 十月 十三日 
**妻** 子供たち一同

 

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お便り86: 虚血性僧帽弁閉鎖不全症の再々手術で

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虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心筋梗塞のあと心臓が次第に壊れて強い心不全になる病気です。

一般には心臓の力が心移植レベル近くまで落ちて、全身の体力も衰弱状態となれば、心臓手術も拒否、あとはお薬でなるべくそっと持たせた後、お見送りをするだけということが多いです。

つぎの患者さんもそのお一人です。

ある日、沖縄から一通のメールが届きました。

その方のお義父さん(80歳近いご年齢)が危篤状態で何とか助けて下さいとのことでした。

患者さんは大動脈弁置換術を昔受 A335_009け、その後何年も経ってからこんどは冠動脈バイパス手術を受けられました。さらにペースメーカーの植え込み術まで必要あって受けられ、心不全がいよいよ悪化して近くの病院に入院されました。

心臓のちからはひどく落ちていました。

もうあまり生きられない、しかし手術は危険、そもそも沖縄本島でもこの手術ができるところはない、かといって飛行機で本土まで行くことさえ危険すぎるという状況で、本土でも受け入れてくれる病院はわからないというなかで、思い余って私にメールを送ってこられたのでした。

これまでも同様の患者さん・ご家族と向き合ってきた経験から、現地の状況はよく理解できました。

沖縄の主治医の先生が送って下さったデータを拝見し、虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症が悪化しており、しかもせっかくのペースメーカーもそのリード線が三尖弁を圧迫して高度の三尖弁閉鎖不全症を合併していました。すでに2度の心臓手術を受けておられ心臓は周囲の組織に癒着しており、かつ上行大動脈も拡張ぎみで、うかつに触れない状態でした。

このままでは死を待つだけの状態、しかしこの虚血性僧帽弁閉鎖不全症もペースメーカー三尖弁閉鎖不全症も再手術も私たちがちからを入れて来た病気で、手術そのものはできると考えました。

そこで当院の心臓外科医を沖縄まで派遣し、患者さんに随伴する形で守りながら名古屋までお越し頂きました。

治療戦略をチーム全員でとことん検討しました。冠動脈に新たな狭窄ができていたため、これをまず内科の先生がカテーテル治療(PCI)で応急治療してくれました。いわゆるハイブリッド治療ですね。

そして手術ではできるだけ体に負担をかけぬよう、ミックス手術を応用して右胸をやや小さ目に開け、これまでで最も有効と考えられる乳頭筋最適化術(PHO手術)を行い僧帽弁形成術としました。

さらに右房も開け、私たちの方法で三尖弁形成術を無事に完成しました。

手術前は強心剤の点滴なしでは血圧が十分には出せないほど重症でしたが、術後は次第にお元気になられ、毎日心臓リハビリで運動をこなし、栄養をつけ、心臓と全身の体力をつけて頂きました。

もとの状態よりはるかにお元気に退院され皆、うれしく思いました。

以下はその患者さんのご家族からのお礼のメールです。

こうした重症になりますと、いつもうまく行くとは限りません。しかし多くの方々が元気に生還し長生きしておられるのも事実です。やはりネバーギブアップで、まず相談と思います。

お互い、一緒に考えてそんすることは何もないと思います。

 

********患者さんのご家族からのお便り********

 

米田先生へ

おかげさまで義父は孫と話したり、少し外を歩いたりと、元気に過ごしております。

もちろん以前のように苦しがって不安で夜中に病院に行くようなこともなく、家族みな安心しております。

これも米田先生はじめ、チームの先生方のおかげです。

わたくしが3か月前、一番初めに先生にメールでご相談したとき、先生はお忙しい身でありながら、しかも紹介でもない見ず知らずの私に、3時間後にすぐさまお返事くださいましたね。

あの時は涙が止まりませんでした。


そしてこちらの病院では、高齢で余病が多く三度目の手術になることと心臓の弱り方からして、空路で転院させるのも危険だと言われた状況下、名古屋からわざわざチームの先生が迎えに来ていただいたこと、無事に手術を成功させていただいたこと、元気に帰していただいたこと、本当に本当に感謝しております。

またこれまで長年にわたって義父を守り、米田先生のところまでいのちをつないで下さった地元の病院の先生や関係の皆さんにも感謝の気持ちで一杯です。

本来なら、そちらに出向きお礼を申し上げたいところですが、取り急ぎメールにて失礼いたします。

また近況報告させていただきます。

****

 

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お便り 4 虚血性心筋症の患者さん

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Asagao_b3年半前に虚血性心筋症(心筋梗塞などのあと強い心不全が起こる状態です)に対して冠動脈バイパス手術 と 左室形成術(バチスタ手術と同じタイプの手術です)を受けて頂いた患者さんからのメールです。

当時米田は京大病院に勤務しておりましたので手術も京大病院で行いました。

虚血性心筋症は原因が虚血でも結果的には拡張型心筋症となり、心臓のパワー不足が問題となります。

手術前はずいぶん悪い状態でしたが、心臓の機能回復は著明で、

お元気になられた患者さんの姿を拝見しますと私たちも本当に勇気づけられたものです。

 

昨今は虚血性心筋症だけでなく状態が悪い患者さんや重症の患者さんの手術や治療を手控えることを安全管理と勘違いする病院が全国的に増えました。

しかしそれは患者さんのための安全管理とは言えないと思います。断られた患者さんは死んでいくしか道がないからです。

多数の重症の患者さんが大きな手術のあと、長年月元気に人間らしく暮らしておられることがこの治療の大切さを物語っています。

***************************

米田正始 先生

 

寒中お見舞い申し上げます。


私は2005年10月に京大病院で先生の執刀により、左室形成術僧帽弁三尖弁の弁輪形成術、冠動脈バイパス術を同時に受けさせていただき、一命を取り留めさせていただきました**と申します。

 

現在は、最初に入院した病院でフォローの診察を受けておりますが、お蔭様で順調に回復し(駆出率 55%、07年12月)、2ヶ月に一度の通院と利尿剤・ワーファリンの服用だけで、元気に過ごしております。

 

昨春からは勤務先で小さいですが研究所の所長に就任し、若い人に負けないよう研究開発に明け暮れています。

 

先生と京大病院との一件は少し遅れて知り、署名活動も終了間際にほんの少ししかお手伝いできませんでした。
(中略)。

 

ずいぶん遅きに失するの感はありますが、あらためて御礼をさせていただくとともに、 今後も私のような重症患者の救命にご尽力いただけますようお願い申し上げます。


私も先生と同じ年の生まれで、梗塞を起こしたのは50歳の秋でした。

長期の開発プロジェクトが山場になっていたのと、新しい研究開発担当役員との軋轢で、
何とか結果を出さなければと、休みもほとんど家に居ないような働き方をしていました。


あとから考えれば、この時にもう少し体をいたわるような動き方をしていれば、避けられていたのかもしれません。その年の春の定期健診では循環器関係は異常なしで、何の用心もしていなかった中での突然の降板宣告でしたから、入院した当初は言葉では表現のしようの無い精神状態でどうしようもありませんでした。


先生のお陰で再チャレンジの機会を与えられ、「生かされている」自分を大事にしながら、
以前のようにがむしゃらにやるのではなく、若い人に成功体験を積ませながら、次の世代の人たちに何が残せるかを考えて仕事をしていきたいと思っています。

ながながと綴ってしまいました。申し訳ありません。
向寒の折、先生自身もご無理をなさらずにご自愛ください。

遅ればせながら御礼と近況報告まで。


********** そのあとまたメールを頂きました **********

米田先生


ご無沙汰しております。
(中略)

見た限りでは、私が心臓の大手術をしたようには見えないらしく、
事情を知らない人は、お構いなしに無理難題を押し付けてくれますので、
それはそれなりに困るのですが・・・。


今年の冬は昨年、一昨年に比べて随分楽に過ごせました。
毎年毎年、徐々に体力が戻っているのを実感します。

階段を駆け上がったりするのでなけれは、特別に不自由を感じることもありません。
実は、このメールも東京の主張先から発信しております。


現在の私がこのように第一線で居られるのも、ひとえに米田先生のお陰です。
誠にありがとうございました。

また、私のような人が不幸にしておられたら、是非、人生の再チャレンジができるように、
先生のご尽力をお願い申し上げます。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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7) 虚血性心筋症に対する左室形成術にはどういうものがあるの?【2022年最新版】

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図 梗塞後リモデリング最終更新日 2022年1月30日

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◾️まず虚血性心筋症とは?

心筋梗塞のため左室の筋肉つまり心筋が失われ、左室の形が歪んだり全体のパワーが不足し心不全になる状態です。しばしば虚血性僧帽弁閉鎖不全症という僧帽弁の逆流を伴います。この虚血性心筋症が重くなると患者さんは長く生きられない、あるいは心不全のため日々苦しい状態になってしまいます。

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◾️それに対する左室形成術とは?

左室形成術とは左心室の壊れた部位(右図の左室の壁が薄いところ)を切り取ったり縫い縮めたり左室形成術パッチを貼ったりしてサイズと形を整える治療法です。

上手く手術するとそれによって左心室はパワーをある程度以上取り戻し、患者さんはその分元気になれるのです。
虚血性心筋症は上記のように心筋梗塞やそれに準じた状態が原因となって起こりますので、左室のなかで比較的良いところと悪いところがはっきりしており、経験豊富な心臓外科医なら左室を効果的に「組み立て」なおし、そのパワーアップを図ることができます。

言い換えれば、良いところがもっと力を発揮できるように、整えるのです。

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◾️左室形成術の試練

2009年にスティッチトライアル(Stich Trial)という多施設で の臨床研Nurse_shock究が発表されましたが、識者の間でも話題になるほどの欠陥研究で、私たちが心臓手術しないような軽い虚血性心筋症を主にあつかい、それにごく簡単な左室形成術を行って、それほどメリットがないという、ひどいものでした。

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しかしアメリカのNIHという政府機関が予算を出して行なった研究のため、権威だけはあり、内容をご存知ない循環器内科の先生方が虚血性心筋症の患者さんを心臓外科に紹介されなくなったことは大変不幸な出来事でした。手術を受ける機会が奪われ、かといって心移植は年齢や他病のため適応外となり、死んで行った方が多くありました。
虚血性心筋症の患者さんの救命に力をいれてきた私たちはこの結果を踏まえて、より重症の患者さんでもより安全に効率よく治療ができるように、全国や海外の仲間と協力して検討を進めています。

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◾️心臓外科の巻き返し

以来、超重症の方を助けるべく、バチスタ手術とその他の左室形成術

ドール手術(Dor手術)(事例2)を改良したセーブ手術(SAVE手術)(事例3)(心臓の形を自然できれいに保ち、傷んだ部分を十分に修復し心臓の力が最大限に発揮できます)や

バチスタ手術(変法)改良バチスタ手術とも呼んでいます、心臓の先端部分を温存し自然の構造を守るのが特長です。心筋症のページをご参照ください)を用いてさらに成績を改善しました。

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さらにセーブ手術の良さとドール手術の簡便さを併せた術式(一方向性ドール)を考案し、比較的短時間できれいに仕上がるため、術前に体力が消耗した患者さんの安全性を向上するために役立っています。(事例1)(事例2

この1方向性ドールを始めてから、左室形成術単独での手術死亡や病院死亡はありません。

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◾️多角的な工夫を

また左室形成術に加えて両室ペーシング(CRTと略します)という方法を併用することで一層術後の心機能を改善させています(事例4)。

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5_2心臓や全身の状態にもよりますが、心臓移植しかない(しかし年齢等の制約で移植ができない)と言われていた患者さんがこれらのオペで元気になられたというケースが多数あります。

改良バチスタ手術と一方向性ドール手術は左室を修復する場所におうじてきれいに使い分けています。

適応があれば80歳代のご高齢の方にも左室形成術を行い元気になって戴いています(事例5)。

またオーバーラップ手術(Overlap手術)(事例6)という方法も使うことがあります。

手技が簡便というメリットがあるからです。

ただ効果が左心室の根っこ部分にはあまり効かずかつ病変部を残すため長持ちしない心配が強く、動物実験でもあるていどそれを確認しているため、ケースバイケースで活用しています。

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◾️そしてさらなる展開

A318_066不全・心筋症に対する左室形成術ではあちこちの病院から手術依頼があり、それに応えていますし、近隣地域はもとより遠方の移動できない重症患者さんのために出張してオペした実績も多数あります。

より大きなチーム医療が役立つ領域です。

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そして2014年からより進化した左室形成術である心尖部凍結法を開始しています。短時間ででき、調節性に富むため安全性がこれまでの左室形成術より数段高いと考えています。実際、重症の患者さんも順調に元気になられ、この手術単独では手術死亡がこれまでありません。かつて救えなかったレベルの患者さんたちが救えるようになりつつあるのです。

こうして心移植の対象とならない方(重い糖尿病や腎不全など)や、補助循環(人工心臓)を避けたい方々などにお役に立っています。心不全で苦しい方はご相談ください。

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◆患者さんの想い出1:


左室形成術にも多数の想い出があります。それは虚血性心筋症をはじめ、重症の患者さんが左室形成術を受けられるため苦労も多く、かつ元気になられたときの喜びも大きかったためです。
京大病院に奉職していたころ、ちょうど20年ほどまえに、40歳前後の若者Aさんが虚血性心筋症で来院されました。
そこで当時としてはまだ珍しかったドール手術と言う左室形成術を行い、心臓は劇的に改善し、Aさんはお元気に退院して行かれました。
当時のことですから、現在よりは完成度も低く、リスクも高かったのですが、患者さんは見事に応えて下さり、健康を回復されました。その後、左室形成術は多数のいのちを救うことになりますが、その記念すべき第一歩としていまも忘れられず、感謝しているのがこの患者さんなのです。

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◆患者さんの想い出2:
Bさんは大阪から当時私がいた京大病院へ搬送されて来ました。まだ40代の若い男性ですが、大きな心筋梗塞のため虚血性心筋症となり、左室駆出率がなんと10%未満(正常は60%台)という厳しい状態でした。左室のごく一部しか動いていませんでした。欧米なら当然心移植というレベルの心臓でしたが当時の日本ではまだごく一部のひとしか恩恵にあずかれない状況でした。

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Bさんとよく相談のうえ、リスクは高くとも、左室形成術で頑張ろうということになりました。Bさんは男らしい性格の方で、このまま何もできずに延命を図るよりも、いちかばちかでも心臓手術をやってくれとのことでした。厳しい病気であることは理解しているので、死ぬか元気に生きるかどちらかにして下さいということでした。同様の患者さんをそれまで何名もお助けして来た私は左室形成術をお引き受けしました。術式としてセーブ手術という方法を選びました。ちょうど良いサイズ・形で左室はまとまりましたが、やはりちからが不十分です。

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Bさんは徐々に回復して行かれましたが、まだIABPという補助ポンプがどうしてもはずれません。何とかはずせても、数日間でまた必要になるのです。これでは先がないということで補助循環(人工心臓)を装着することにしました。死ぬか元気に生きるかどちらかが良い、その中間つまりただ生きる状態は困ると言っておられたため、しばらく我慢して下さい、いずれ元気に生きられるからまずは機械で生きて下さいとお願いし、了解を頂きました。その時には安全を考慮し、人工物であるパッチをはずし、自己組織だけでできるオーバーラップ法に切り替えてから人工心臓を付けました。これでBさんは元気さを回復されました。

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その後私は京大でトラブルに巻き込まれ、いずれ京大病院を去ることを考えるようになり、Bさんには今後のことを考えて移植センターに転院して戴きました。 あれから3年が経ち、Bさんが無事心移植を受け、お元気になられたことを聞きました。Bさんの心臓では左室形成術といえども十分ではなかったのですが、とりあえず心移植までのつなぎを果たせたこと、安堵しました。Bさん、これからお元気な生活を楽しんで下さい。あのとき、苦しいなかを補助循環にOKを下さりありがとう。

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症は治療が難しいと聞きますがへ進む

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2) 虚血性心筋症とは?―多くは心筋梗塞で心筋がやられた状態ですが【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月19日

1.虚血性心筋症とは

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虚血性心筋症(ischemic cardiomyopathy) とは、心臓の筋肉(心筋)が十分な血液を受けられずに壊れ、心臓のポンプ機能が低下する病気です。

  • 主な原因は 心筋梗塞

  • 冠動脈(心臓に血液を送る血管)が狭くなったり詰まったりすると心筋が壊れ、心臓が弱っていきます。

  • 繰り返すカテーテル治療(PCI)や川崎病後の冠動脈瘤によっても起こることがあります。

*虚血性心筋症は拡張型心筋症と並び、心不全の代表的な原因疾患です。

*冠動脈の閉塞や狭窄に対しては、冠動脈バイパス術やPCIが行われます。

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2.心筋梗塞後に心臓のどこが壊れる?

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心筋梗塞が起こると、左心室の一部が壊れて動かなくなります。すると心臓全体が大きく変形し、やがて 「リモデリング」と呼ばれる悪い形の変化 を起こします。

図 梗塞後リモデリング
  • 左室が 丸く拡張 → ポンプ効率が低下

  • 僧帽弁が歪む → 弁がしっかり閉じず、逆流が発生

  • 虚血性僧帽弁閉鎖不全症 へ進行し、心不全が悪化

胸痛がなくても進行することが多いため、注意が必要です。

*左室の形態変化により発生する虚血性僧帽弁閉鎖不全症も重要な合併症です。

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3.虚血性心筋症の症状

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代表的な症状は以下です:

  • 運動時の 息切れ・動悸

  • 進行すると 胸痛・起坐呼吸(横になれない)

  • 下肢のむくみ

  • 重症では 失神や呼吸困難

この病気の怖いところは、患者さん自身が気づきにくいまま進行する 点です。

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4.虚血性心筋症の治療法

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内科的治療

  • 心不全治療薬(ACE阻害薬・ARB・β遮断薬・SGLT2阻害薬など)

    166529996
  • リハビリ・運動療法

  • ASV(非侵襲的呼吸補助)

これらで心不全の症状を和らげます。

外科的治療

  • 左室形成術(リバースリモデリング手術)
     → 壊れた部分を修復し、左室を適切な形に戻す手術→もっと読む

  • 僧帽弁形成術:虚血性僧帽弁閉鎖不全症を合併している場合に有効

  • 冠動脈バイパス手術(CABG):虚血を改善し心筋を守る

心筋そのものは再生しませんが、「残された心筋を守る・回復させる」 ことが治療の目標となります。

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5. 最新の研究と治療の展望

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  • 左室形成術:従来の「STICHトライアル」では効果が過小評価されましたが、専門施設では良好な結果が得られています。

  • 再生医療・血管新生治療:日本ではまだ研究段階ですが、海外(例:タイ国際心臓病院など)では臨床応用が進んでいます。

  • ハートチームでの治療選択:内科・外科・リハビリ科が連携して最適な治療法を選ぶことが大切です。

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6. まとめ

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  • 虚血性心筋症は 心筋梗塞などで心臓の筋肉が壊れた状態

  • 自覚症状が少ないまま進行し、心不全や僧帽弁逆流を引き起こす。

  • 薬・リハビリ・外科手術 を組み合わせれば改善が可能。

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  • 左室形成術や新しい再生医療も選択肢に。

  • 早期発見と適切な治療 が命を救います。

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➡ 関連記事はこちら

  • [心筋梗塞後の心室中隔穿孔(VSP)]

  • [僧帽弁閉鎖不全症と治療法]

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