①セーブ手術―左室の形とサイズを整え悪いところをほぼ処理できるが、、【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月29日

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◾️セーブ手術とは?

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拡張型心筋症に対する左室形成術のうち、バチスタ手術で治す場所(左室側壁)とは違う場所(心室中隔)がやられている患者さんに行う手術です

図 ドールとセーブ.

この方法の利点は左室の形や大きさを自由に調整できること、病変部を残さずカバーできる、心基部まで形成できるなどが挙げられます。

その一方、時間がある程度かかり、熟練が必要という弱点もあります。

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たとえば左室駆出率(健康人では約60%台)が20%を割る患者さんでも、状況によっては駆出率10%前後の方でもこれまで多数の患者さんを救命した実績を持っています。

(註:左室駆出率とは左室が一回の拍動で左室内の血液の何%を送り出せるかという数字です。正常は60%台、30%で明らかな心不全、20%で外国なら心移植、10%でそろそろ人工心臓ついで移植という指標です)

左室拡張の強い症例ほど改善度は大きい傾向があります。

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◾️セーブ手術の成果と限界

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A308_043重症でも待機手術の患者さんでは約90%の成功率を出して来ました(拡張型心筋症・事例3)。

小さなこどもの患者さんでもこのセーブ手術は威力を発揮しています(拡張型心筋症・事例4)  。

ただ全身状態の悪い患者さんや高齢者、ステロイド服用者などでは全身の体力の限界があり、これらの患者さんの治療成績を良くするためには、手術や全身管理のさらなる改善が必要と考え、さまざまな改良を加えて来ました。

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◾️ドール手術変法(一方向性ドール)へ

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2008年に、それまでの100例以上の左室形成術の経験をもとにして、セーブ手術の良さつまり左室の形をきれいに整えながら、ドール手術のように簡便に短時間でできる方法を工夫し、良い成績を上げました。(事例1

A310_053かつて重症心不全に対して左室形成術を行った患者さんは集中治療室(ICU)に3-5日はおられましたが、ドール手術変法以後はほとんどのケースで手術翌日に元気に一般病棟へ戻られます。

その余裕の分だけ安全性が向上し、この方法での左室形成術の死亡例はありません。セーブ手術をやっていたころより、患者さんも看護師さんたちも私たち医師も皆、楽でいいなあとよく思います。

 

この新しい手術(方向性ドール手術と呼んでいます)を国内はもとより、国際学会などでも発表を始めています。セーブ手術はさらに進化しつつあるのです。

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さらにこのドール手術変法を改良し、現在はより侵襲が少ない(体にやさしい)「心尖部凍結型」左室形成術で一層の成績改善に取り組んでいます。→もっと見る

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患者さんの想い出1はこちら:

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患者さんの想い出2はこちら:

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 3 セーブ手術

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患者さんは12歳女子、5年前の僧帽弁手術の際に発症した虚血性心筋症が悪化し心停止を来たし心肺蘇生ののち緊急手術となりました。虚血以外の理由で悪くなった可能性がある部位(拡張型心筋症の疑い)もあり慎重に対処しました。

311.薄くなった左室前壁(矢印)を切開して左室内に入ります。心臓は動かしたままで手術を進めています。

術前に心臓が一度停止していた重症例では、

術中に一度心臓を止めると動きが再開しない心配があったためです。

またこうすることで、左室の悪い部分と良い部分がより明瞭にわかるためもあります。

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322.セーブ手術のパッチの糸をかけているところです。

ドール手術ではこれだけ心室中隔の基部までやられているケースでは左室が術後、丸くなり心機能がより低下する心配があります。

そこで形を歪めないセーブ手術を施行しました。

最近はこうしたケースでも安心して使えるドール手術を開発し、

術後の左室の形の良さと左室機能の改善を確認できています。

333.昔のオペで取り付けられた弁が血栓弁になっていたため、これを再弁置換中(矢印)です。

通常は左心房から行う操作ですが、

この場合は時間の節約(つまり患者さんの体力の保護)のため左室経由で行いました。

通常と逆の位置から人工弁を入れるため、その向きに注意して入れます。

当然とはいえ、重要なチェックポイントです。

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344.セーブ手術のパッチが左室内に入ったところです。

左室はうんと小さくなりました。

新しい左室はパッチ(矢印)の奥にあり、

パッチの手前のスペース分だけ左室が小さくなりました。

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35_25.左室を閉鎖しつつあるところです。

長い心不全と入院生活のため回復には時間がかかりましたが、着実に回復し、学校生活にもどりました。

その後も順調に回復し、普通の生活を取り戻しておられます。

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361_26.セーブ手術前後の左室短軸エコーを示します。大きさが比較できるようスケールを合わせました。矢印が5cmです。

術後どれほど心臓が小さく、また動きが改善したかが見て戴ければ幸いです。

重い心不全でもあきらめてはいけないことを教えてくれたケースです。

手術から7年以上たちました。現在も元気に、かつ前向きに暮らしておられます。

世の中の人たちの役に立ちたいと、勉強し、ボランティア活動などもやっておられる姿を見て、私は感動を禁じ得ませんでした。

この患者さんの治療成功は、左室形成術と小児科・内科・外科・麻酔科・ICU・病棟・関連チームの協力で行う集学的治療の威力を示すもので、京大小児科の馬場先生・土井先生らが海外のジャーナルで発表して下さいました(英語論文244番)。

 

手術前に手術の説明をしたときに、手術を受けますとみずから言ってくれた少女の勇気が今も忘れられません。

こうした心臓外科医あるいは臨床医として患者さんやチームから戴く感動は何物にも代えがたい大切なものです。

 

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