胸部大動脈瘤の治療ガイドライン

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胸部大動脈瘤はその部位によって心臓や脳、脊髄、腹部内蔵、などの重要臓器と関連するため、心臓血管手術の中でも昔から大きな手術として扱われて来ました。

近年は専門チームでの手術成績が格段に良くなり、病気の性質上、破れてしまうと手遅れになることが多いためもあって、やや早めに手術する方向にあります。

それだけに確実に、安全に治す必要があるとともに、今後破れる恐れの高い状態をより正確に把握し判断する努力も大切です。

日本循環器学会の胸部大動脈瘤における治療の適応ガイドラインはこうした意味でもお役に立つでしょう。以下、ガイドラインからの抜粋、要約です。

 

クラスI つまり強くお勧めできる治療法は

最大短径6cm以上に対する心臓血管手術

 

クラスIIa つまりお勧めできる治療法は

最大短径5-6cmで、痛みのある胸部・胸腹部大動脈瘤に対する心臓血管手術

最大短径5cm未満、症状なし、COPDなし、マルファン症候群を除く、の胸部あるいは胸腹部大動脈瘤に対する内科治療つまり点滴やお薬による治療

 

このように基本的に最大短径6cm以上か、それ以下でも症状があるときに手術となるわけです。

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なおこのガイドラインには、マルファン症候群やのう状瘤を除く、と明記されています。

写真右は嚢状瘤の一例です。

マルファン症候群やのう状瘤つまりポコッと局所的に膨らむ瘤では6cmより小さい瘤でも破裂することが知られています。

そこでもう少し小さい段階でも心臓血管手術を行うことがあるわけです。

実際、直径5cmあまりの上行大動脈瘤をもつマルファン症候群の患者さんを定期健診していたところ、ある日突然A型解離を発生され、緊急手術でお助けした経験が昔、10年以上前にありました。

直径5cm程度でも解離が起こる恐れがあるため、もし強い胸痛発作がおこればすぐ病院へ来て下さいと平素から打ち合わせをしていたのが役立ちました。

その場合、当時の大学病院では緊急対応しづらいことも考え、近くの民間施設においでと伝えておいたのが功を奏し、ただちにその病院で合流し、緊急手術、軽快退院されました。

やはり備えあれば憂いなしですね。

 

またステントグラフト(EVAR)をもちいた治療も進化を続けています。

胸部大動脈瘤のなかでも下行大動脈瘤ではEVARは活躍の方向にあり、それ以外の弓部大動脈瘤などでもこれまでの手術が危険すぎるときなどに、弓部血管バイパス術と併用してEVARを行うこともあります。

今後が期待される領域でしょう。

 

これからもガイドラインをきちんと守って早め早めに対策を立てるのが良いでしょう。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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慢性大動脈解離の治療ガイドライン

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大動脈解離つまり大動脈の壁が内外に裂けて血液がその隙間に流れ込む病気では、タイプによって緊急手術しなければまもなく死亡することが多くあります。

いわゆる急性大動脈解離のA型と呼ばれる、主に上行大動脈が解離で壊れるときですね。

その一 Aortic Dissect方、B型といわれる、下行大動脈が解離する病気では通常手術ではなく、点滴やお薬で治します。

 

しかしいずれの場合でも、その後時間が経って、解離した大動脈や手術した以外の部位 の大動脈が膨らんできて破れそうになれば、つまり慢性大動脈解離の状態になれば手術が必要がことがあります。

 

以下はその慢性の大動脈解離の患者さんのための治療ガイドライン(抜粋・要約)です。

 

◆大動脈解離における亜急性期および慢性期治療の適応

 

クラスI つまりつよくお勧めできる場合は

 

大動脈の破裂、大動脈径の急速な拡大(6か月間で5mmを超える)にたいする心臓血管手術

大動脈径の拡大(60mm以上)をもつ大動脈解離例に対する心臓血管手術

そのいっぽう、大動脈の最大径50mm未満で合併症や急速な拡大のない大動脈解離には内科治療(つまり点滴やお薬など)が強く勧められます

 

クラスIIa つまりお勧めできるのは

 

お薬によりコントロールできない高血圧をもつ偽腔開存型大動脈解離に対する心臓血管手術

大動脈最大径55-60mmの大動脈解離に対する心臓血管手術

大動脈最大径50mm以上のマルファン症候群に合併した大動脈解離に対する心臓血管手術

 

クラスIIb つまりお勧めできるかどうかは微妙、ケースバイケースなのは

大動脈最大径50-55mmの大動脈解離に対する心臓血管手術

 

詳細は日本循環器学会のホームページなどのガイドラインの項をご参照ください

 

定期検診(健診)は大切ですなおステントグラフト(略称EVAR)は複雑に偽腔(解離腔)が入り込む慢性解離には使えないことが多いです。また大動脈基部などにも使えません。将来の展開は期待されますが。

 

ともあれ大動脈解離は急性期を無事乗り切ってお元気になられたあとも、定期健診を受けて、安全を確保することが安全上必要な病気です。

ゆめゆめ油断されることのないように、お願いします。

 

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1)Q: 安心して心臓血管手術を受けるためには、どれくらいの症例数が必要でしょうか?

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症例数や手術数は有用な情報ですが、落とし穴に注意するひつようがありますA: 心臓血管外科医個人の症例数として年間最低100例、理想的には200例を目安と考えればよいでしょう。

年間実績のほかに注目したいのは、医師個人の通算 (累計)実績数です。

大手術・難手術などを安全にこなすには少なくとも通算1,000例は欲しいです。

名医やスーパードク ターと言われるひとたちは数多くの経験を重ね反省・検討することで、さまざまな状況に対して即座に適切な手を打てるからです。

心臓手術の技術や治療の質を上げるためには量(つまり症例数)が伴うという面があります。

このことは欧米・豪州はもちろんアジアも含めた世界の常識になっていますが、なぜか日本だけは遅れています。

 

しかし一部の先駆的な人たちの努力のおかげで最近は症例数の重要性がメディアなどである程度認識される方向にはあります。

それを意識してか、心臓血管手術の症例数を病院グループの合計で発表しているところもあります。

これはその病院そのものの実績とは違います。

患者さんにとっては誇大広告で有害です。

同様にステントグラフト(カテーテルで人工血管を大動脈瘤の中に入れます)の数もカウントしていることがあり、これもその病院の心臓外科手術の実力とは違うため、注意して読む必要があります。

 

意外に見落とされる重要ポイントとしては一人あたりの症例数があります。

全体としてまずまずの例数があっても、そこに多数の心臓血管外科医がいる場合、個々の医師はあまり心臓手術にタッチしていないわけで、安全上は好ましいことではありません。

たとえば年間200例の心臓血管手術をこなしていても、医師の数が10人とか15人ではひとりあたりはほとんど無いのも同然となります。

治療の内容が大切です

心臓血管外科では症例数以外では、手術死亡率という判断基準があります。

当然、低いほうが望ましいです。

ただ、患者さんの状態とか疾患の程度などでリスクが変わりますから、 緊急や重症の手術を主に手がけている病院や心臓血管外科医では、その率が高まります。

逆に、簡単な心臓手術を主にやれば死亡率は一見低そうに見えます。

それらを考慮した真実を知るにはどうすれば良いでしょうか。

これを解決するのがリスク補正と全国データベースです。

次ページ(JACVSD)をごらん下さい。

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7. 病院や医師の選び方 (セカンドオピニオンも含めて)にもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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