事例: 慢性大動脈解離への自己弁温存式大動脈基部再建手術(デービッド手術)

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慢性大動脈解離つまり大動脈解離のあと、手術を受けても月日が経って、手術以外の部位が膨らんで瘤(大動脈瘤)になることがあります。

いくつかのパタンがありますが、いずれにせよ、瘤が破れれば死亡しますし、そうでなくとも、場所によっては大動脈弁が瘤の影響を受けて弁膜症さえ合併することがあります。

つぎの心臓手術の事例はそうした慢性大動脈解離のケースです。

胸部XP
患者さんは51歳男性で、8年前、急性大動脈解離のため、近くの病院で上行大動脈置換術を受けられました。

それからはお元気に生活しておられましたが、徐々に大動脈基部つまり大動脈の一番根本の部分が拡張し瘤になったためハートセンターの米田外来へ来院されました。

胸部X線写真(右写真)ではかつての解離の跡かたで弓部大動脈大動脈がやや突出して見えましたが他には異常所見ありませんでした。

PreopCT2造影CT(左写真)にて以前手術を受けられた部位つまり上行大動脈は人工血管で安定していましたが、その根本の、大動脈基部とくにバルサルバ洞と呼ばれるふくらみ部分が直径60mmと異常に拡大し、破れそうになっていました。

さらにその基部の拡張のため、そこに付いている大動脈弁が閉じられなくなり、大動脈遮閉鎖不全症つまり逆流が発生し始めていました。

そこでガイドラインに沿って、瘤の破裂や弁膜症を防ぐため手術をすることになりました。

手術では以前の手術で人工血管が使われているため、その人工血管と周囲の組織との癒着が強く、そのままでは心臓や大動脈の中に入れないため、丁寧に剥離を進めました。あとで出血しやすい状況のため、入念に止血しながら進めました。

AvalveOKそして体外循環という、一種の人工心臓を回して安全確保ののち、心臓を止めて、大動脈と心臓の中に入りました。

まだ51歳とお若いご年齢のため、人工弁をもちいるベントール手術ではなく、患者さんご自身の大動脈弁を温存・修復してきれいな形にまとめつつ、大動脈を人工血管でとりかえるデービッド手術を行いました(写真右)。

米田の恩師・デービッド先生に直伝して戴いた方法にその後の磨きをかけた方法で手術を進めました。

PostOpCT無事、人工血管の中に患者さんの大動脈弁が入り、逆流なくきれいに開閉し、かつ左右冠動脈の根本部分も人工血管につないで修復は完成しました。

術後のCTでは大動脈基部はきれいに安定し、もはや破れる心配は消えました。大動脈弁の逆流も解消し、心機能も良好でした(写真左)。

手術後10日でお元気に退院されました。

術後まる2年が経ちましたがお元気に定期健診のため外来へ来られます。

この手術のおかげで、ワーファリンは無しで、かつ長期間の安定が期待でき、再手術の見込みはかなり低いと考えられます。

つまり機械弁をもちいたベントール手術では大動脈基部の安定は図れても、ワーファリンが一生必要ですし、生体弁をもちいたベントール手術では基部の安定やワーファリン無しはできても、10年あまり後に再手術が必要となります。

やはり親からもらった自然の弁を活かしつつ、大動脈のみ人工血管に代える手術が望ましいわけです。

今は外来に定期健診にてお元気な顔を拝見するのが楽しみなこのごろです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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慢性大動脈解離の治療ガイドライン

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大動脈解離つまり大動脈の壁が内外に裂けて血液がその隙間に流れ込む病気では、タイプによって緊急手術しなければまもなく死亡することが多くあります。

いわゆる急性大動脈解離のA型と呼ばれる、主に上行大動脈が解離で壊れるときですね。

その一 Aortic Dissect方、B型といわれる、下行大動脈が解離する病気では通常手術ではなく、点滴やお薬で治します。

 

しかしいずれの場合でも、その後時間が経って、解離した大動脈や手術した以外の部位 の大動脈が膨らんできて破れそうになれば、つまり慢性大動脈解離の状態になれば手術が必要がことがあります。

 

以下はその慢性の大動脈解離の患者さんのための治療ガイドライン(抜粋・要約)です。

 

◆大動脈解離における亜急性期および慢性期治療の適応

 

クラスI つまりつよくお勧めできる場合は

 

大動脈の破裂、大動脈径の急速な拡大(6か月間で5mmを超える)にたいする心臓血管手術

大動脈径の拡大(60mm以上)をもつ大動脈解離例に対する心臓血管手術

そのいっぽう、大動脈の最大径50mm未満で合併症や急速な拡大のない大動脈解離には内科治療(つまり点滴やお薬など)が強く勧められます

 

クラスIIa つまりお勧めできるのは

 

お薬によりコントロールできない高血圧をもつ偽腔開存型大動脈解離に対する心臓血管手術

大動脈最大径55-60mmの大動脈解離に対する心臓血管手術

大動脈最大径50mm以上のマルファン症候群に合併した大動脈解離に対する心臓血管手術

 

クラスIIb つまりお勧めできるかどうかは微妙、ケースバイケースなのは

大動脈最大径50-55mmの大動脈解離に対する心臓血管手術

 

詳細は日本循環器学会のホームページなどのガイドラインの項をご参照ください

 

定期検診(健診)は大切ですなおステントグラフト(略称EVAR)は複雑に偽腔(解離腔)が入り込む慢性解離には使えないことが多いです。また大動脈基部などにも使えません。将来の展開は期待されますが。

 

ともあれ大動脈解離は急性期を無事乗り切ってお元気になられたあとも、定期健診を受けて、安全を確保することが安全上必要な病気です。

ゆめゆめ油断されることのないように、お願いします。

 

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お便り47: 心が通じ、大きな手術を乗り切った患者さん

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AoDissect2慢性大動脈解離は、大動脈解離のあと、

解離つまり壁が内外に裂けた状態がそれなりに一時安定した状態です。

そのままで行けることもありますが、

しばしば二次的に解離腔が拡張し、

大動脈瘤つまりこぶのように膨らむことがあります。

こうなると破裂の恐れが強くなり、

心臓血管手術が必要となります。

破裂してからでは体がもたず、手術が手遅れになって命を落とすことが多いからです。

 

下記の患者さんは78歳の女性で、

A型大動脈解離つまり上行大動脈 Ilm10_de02003-s心の解離を発生され、

近くの総合病院に緊急入院し、

内科治療を受けられました。

たまたまお薬や点滴で落ち着き、

そのまま退院して普通に生活しておられました。

しかし時間とともに解離した大動脈がこぶのように膨らんできて(慢性大動脈解離)、

そろそろ手術をという話が持ち上がりました。

しかしその病院での対応になっとくできず、

名古屋ハートセンターの私の外来に来られました。

 

図 トータルアーチ時間をかけて相談しているうちに、次第に打ち解け、

前向きに治療・手術に取り組む決心をして下さいました。

比較的ご高齢の患者さんにとってはかなり大きな手術ですが、

生きるため、そして活発に生きるために覚悟を決めて頑張って下さいました。

解離を起した弓部大動脈をすべて人工血管で取り換える、

弓部大動脈全置換という手術を行いました。

結果は順調で翌日には病棟へ復帰され、まもなくお元気に退院されました。

その後は普通の健康生活を楽しんでおられます。

 

Ilm20_ae04023-sその患者さんのご家族からのお礼のメールです。

病院の事務へ送られてきました。

簡潔な文章の中に患者さんのお心が感じられうれしく思いました。

 

また外来の定期健診でお会いしたいものです。

結局、人間はこころのつながり、信頼関係が一番大切で、

こころが一つになったとき、ベストの結果がでるものと思います。

 

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Subject: ありがとうございました〓

 

21年9月に母親の大動脈オペをしていただき、今は普通の生活をしています〓

 

当時の母親は***のDrの対応が不満でオペを拒否していましたが、

米田Drの 優しく思いやりのある対応ですぐにでもオペをと希望した母を今だに笑い話になってます〓

 

あれだけ、嫌がっていたのに スタッフのみなさんも大変親切にしていただいて、退院するのを嫌がった事も思い出 しました

 

父親を二月に亡くし、その間入院している忙しい事でお礼が遅くなりました。

本当にありがとうございました。

米田先生は私たち家族の恩人です。 ありがとうございました。

 

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