最終更新日 2025年9月20日
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◆拡張型心筋症とは?
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拡張型心筋症(DCM:Dilated Cardiomyopathy) とは、心臓の主なポンプである 左心室(左室)が異常に拡大し、壁が薄くなってしまう病気 です。
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その結果、心臓が十分に血液を送り出せなくなり、心不全を引き起こします。
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*拡張型心筋症と似た病態に虚血性心筋症があります。心筋梗塞が原因で心筋が傷む点が特徴で、治療法も異なります。
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症状は以下のように進行します:
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初期:運動時の息切れ・動悸
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進行期:安静時にも息苦しい、起坐呼吸(横になれない)
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末期:強い心不全、下肢のむくみ、胸痛、失神
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◆拡張型心筋症が怖い理由
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DCMは「悪循環」に陥る病気です。心筋症の中でも要注意と言われるゆえんです。
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左室が拡大
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壁への負担が増える(ラプラスの法則)
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壁がさらに薄くなり、ポンプ機能が低下
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心室がさらに拡大し悪化
このサイクル(悪循環)が続くことで、やがて死に至ることもあります。
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さらに、左室の変形で 僧帽弁や三尖弁が閉じなくなり、逆流(機能性僧帽弁閉鎖不全症) を起こすことが多く、心不全を加速させます。
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◆拡張型心筋症の治療法
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1. 内科的治療(第一選択)
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心不全治療薬(ACE阻害薬、ARB、ARNI、β遮断薬、MRAなど)
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利尿薬による症状緩和
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心臓リハビリテーション
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在宅で使えるASV(非侵襲的換気補助)
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2. デバイス治療
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CRT(心室再同期療法):両心室をペースメーカーで同調させ、心臓の効率を改善
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ICD(植込み型除細動器):致死性不整脈から命を守る
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カテーテルアブレーション:重度の不整脈治療
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3. 外科的治療
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左室形成術(リバースリモデリング):壊れた部分を補強し、左室の形を整えて機能を回復
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弁形成・弁置換術:弁膜症を合併した場合に有効
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冠動脈バイパス術(CABG):虚血が原因の続発性DCMに
※左室形成術は一時期「STICHトライアル」で過小評価されましたが、専門施設では今も有効例が多く報告されています。
*外科的な選択肢として左室形成術があり、心臓の形態を整えることでポンプ機能を改善できる場合があります。
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4. 補助循環・人工心臓
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重症例では 補助人工心臓(VAD) を装着
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5年生存率は約65%と、心移植に匹敵するレベルに改善
5. 心移植
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日本でも1998年以降に実施可能に
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ドナー不足はあるものの、拡張型心筋症の最終治療法
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6. 再生医療(研究段階)
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iPS細胞やES細胞から作った心筋細胞を移植する研究が進行中
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心筋を直接修復する治療法として期待
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◆アフターケアの重要性
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手術後や治療後も、薬物療法を組み合わせて 心機能を長期的に保護
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心臓リハビリで体力回復
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定期的なフォローアップで悪化を防ぐ
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◆まとめ:拡張型心筋症は「治療可能な難病」
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難病指定ではあるものの、薬・手術(たとえば左室形成術)・デバイス・補助循環 を組み合わせれば改善できる病気
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体力があるうちに専門医へ相談することが、救命につながります
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患者さんやご家族は、むやみに恐れず、早めに治療選択肢を検討することが大切です
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患者さんやご家族にお願い:心不全が悪化し、ICUに入るなど、危険な状態になってから手術相談をされる方が今なお少なくありません。手術に耐える体力があって初めて手術ができますので、ある程度体力がある(例えば何とか歩ける)うちにご相談頂けますと、それだけお役に立ちやすくなるでしょう。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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