いい心臓・いい人生 【第129号】 AATS(米国胸部外科学会)2019にて

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いい心臓・いい人生 【第129号】 AATS(米国胸部外科学会)2019にて
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

今年もAATSの時節となりました。今年は5月4日から7日まで、私の古巣でもある
トロントでの開催で、行って参りました。ニューヨークで僧帽弁国際シンポに参加
して、そのままハシゴしての参加でした。

.

今年はニューヨークのDavid Adams先生が会長で、彼らしく大改革した学会内容と
なりました。これまでは少ない数(およそ100題あまり、近年はポスターを含めて
200題ほど)の優秀演題を一会場で皆でじっくり聴き、時間をかけて十分議論する
というのがAATSの伝統的なスタイルでした。世界の心臓血管外科の最高峰という
矜持に満ちた運営だったとも言えましょう。ここで演題が選ばれることは光栄で
あり、そもそもこの学会は会員数600名限定の超ハイソで、この学会員になること
が栄誉なことと思われていたものです。

.

しかし数の力という点でこうした運営は限界が見えて来たのでしょうか、会員数も
近年急に増え、学会での発表もこれまでの形態を改め、教育講演的なものをまず
1-2置き、ついで選ばれた演題2-4つを置くという、より教育的配慮の強い構成
になりました。その分、かつて初日にあった卒後教育セッションは廃止になりまし
た。

.

ある意味、日本の学会運営に少し近づいたという感もありますが、数の力、そして
国際協力の力を前面に出し、これからの胸部外科を守り発展させようという意欲の
見られる構成でした。
国際協力の一環でしょうか、日本始め米国外の座長や講演が増え、私も心筋梗塞後
VSD(略称VSPまたはVSR)の講演を依頼されました。中でも難易度が高い後壁
VSDの担当となり、ちょっと力が入りました。

.

前壁VSPは畏友、ジョンスホプキンス大学のJohn Conte教授が講演されました。
彼はスタンフォード大学で一緒に勉強した仲で、相変わらず緻密で質の高い講演で
大変参考になりました。
彼がSTSデータベースで検討したところ、VSPは心筋梗塞後1日目での手術の死亡率
は90%もあり、以後は日数とともに低下し、梗塞後3週間で死亡率1桁となること
を示し、これは心筋がstunnedつまり気絶心筋状態になるためと推察しました。
確かに気絶心筋状態では私の方法(Exclusion法とかDavid-Komeda法とか呼ばれる
方法)でも右室サンドイッチ法でもその他の方法でも成績が安定せず、もっと改良が
必要という印象がありました。
そこで彼らが工夫したのは、補助循環を用いて気絶心筋が回復したタイミングで手術
することでした。

.

もう一つ面白いと思ったのはVSPは時間とともに周囲の心筋が繊維化し縮んで行く
ためVSPの穴としては大きくなって行く、そのため単純に穴だけ閉じても後で裂け
て再発しやすいという考えでした。

.

私の発表は1990年に発表したExclusion法をもっとやりやすくした2017年版で、
帯状パッチでVSPを遠巻きにして縫い付け、それもやりやすい水平マットレスで行い、
糊を塗ってからもう一回縫合することで完全にシャントを止めるというものでした。
この方法は便利!使えると上記のJohn Conteらにも言っていただき、嬉しいこと
でした。また時間とともにVSPの穴が大きくなっても私の方法なら対応できるため
有利であることも知って頂きました。

.

上記の補助循環とうまく組み合わせ、気絶心筋症例に使えば、成績はさらに改善する
ものと思いました。これからの展開が楽しみになりました。ともあれおかげさまで
AATSで3年連続発表または講演ができ自分なりのノルマを果たした気分です。

.

今年のAATSでは弁膜症、冠動脈、大動脈などでも同様に例年以上にレベルの高い
討論が聞かれ、大変有意義でした。ミックスでも内視鏡やロボットを含めて完成度
が上がったという印象でした。カテーテルで入れる人工弁やクリップの最新情報も
得られ、方向性がよくわかりました。内科の先生の参加もあり有意義なディスカッ
ションになりました。全米データベースの積極活用も面白いと思いました。

.

トロントの恩師、旧友たちに再会できたのも良かったです。恩師の多くは現在も
お元気で、私は昔の修練医に戻った気分でした。会長ディナーではカナダが生んだ
高名なジャズシンガー、Diana Krallのコンサートがあり、ここはカナダだ!と
嬉しくなりました。

.

30年前に住んでいたトロントの街を歩いてみました。意外に昔のままでタイム
スリップしたような気持ちになりました。この歳になっても、あの頃の夢をまだ
持ち続けて日々仕事に精出せること、皆さんと患者さんに感謝しながらトロントを
後にしました。

.

令和1年5月20日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

いい心臓・いい人生 【第128号】 Mitral Conclave(僧帽弁国際シンポ)にて

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いい心臓・いい人生 【第128号】 Mitral Conclave(僧帽弁国際シンポ)にて
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

恒例になったこの僧帽弁シンポジウムに参加してきました。2年に一度のシンポですでに5回目のため早10年が経ちます。5回とも皆勤で発表して来ました。

.

世界の僧帽弁オーソリティが集まるため内容も豊富で、何より直接議論ができ本音が聞けるという隠れたメリットもあり大いに活用させて頂きました。

.

時代の流れでカテーテルによる大動脈弁や僧帽弁の治療にかなりのセッションが当てられていました。こうした方法は患者さんの状態や年齢によってうまく活用すれば心臓手術と住み分けや併用もでき、治療成績の向上に繋がるため悪くないと思いました。

日本はデバイスラグのため新しい道具がすぐには使えず、とりあえず今後の方向性を考えるという役立て方であったのは残念ですが。

.

外科手術の方ではいつも通り、様々な状況にあわせた手術特に弁形成術を見たり討論することができました。特に新しいものはありませんでしたが、毎回完成度が上がっていると思いました。

.

私自身の発表は、事務局の手違いで2つの発表のうち1つがプログラムに載っておらず、会長のアダムズ(David Adams)先生に聞いてみたところ、平謝りして早速プログラムの中に入れてくれました。それが虚血性僧帽弁閉鎖不全症のセッションでの講演でした。

.

私が発明・改良した2つの手術つまり乳頭筋最適化と心尖部凍結型左室形成を組み合わせたもの(Dual Repair)発表でしたが、欧米特に北米ではこれほど重症の患者さんに手術はしないためちょっと飛びすぎてピンと来なかったかも知れません。しかし欧米といえども心臓移植には数の限りが強いため、看取りになる患者さんが多すぎるという現実があり、後で色々なご質問をいただきました。

これから日本発の心臓手術で世界に貢献できればと思いました。

.

と思っていたら、早速トロントの旧友から話があり、私も昔大変お世話になったトロント大学の先生がひどい虚血性僧帽弁閉鎖不全症・虚血性心筋症になってどうにもならず、日本まで手術を受けに行きたいとご本人が希望しているということで、もしお役に立てるならこんなに光栄なことはないとお返事しました。かつて自分を教え育ててくれた恩師に、弟子がここまで成長したことをお見せしたいものです。

.

この僧帽弁国際シンポは今回もニューヨークで開かれ、学会の後は街を散歩しました。地元の人が行くような普通のレストランでヤンキースの野球を見ながら大型のハンバーガーを食べる(美味!)、隣の人たちは大声ではしゃいでいる、アメリカいいなあと思うひと時でした。

.

令和1年5月13日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

いい心臓・いい人生 【第127号】 第49回日本心臓血管外科学会にて

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いい心臓・いい人生 【第127号】 第49回日本心臓血管外科学会にて
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

この2月10日から13日まで日本心臓血管外科学会のため岡山へ行って来ました。

川崎医大教授の種本和雄先生が会長で、一言で申し上げれば「入魂の素晴らしい学会」
でした。

.

科学的な学術集会としてのレベルはもちろんですが、普段あまり光が当たらない領域も
重点的に取り上げ、また同先生が力を入れて来られた専門医制度、医療安全や盲点になり
がちな知識技術の強化、重要であるにもかかわらず見過ごされがちなメディカルアート、
患者さんの命をかけての勝負とどこか共通する将棋の名人の話、実用的な手術ビデオ、
はては懇親会での力のこもったお酒・ワインとチーズ、などなど入魂の学会でした。

.

私自身は学会での勉強や交流を楽しみながら、わがチームの新しい手術を報告しました。
複雑僧帽弁形成術の会長要望セッションで私たちの連続ループ法を発表しました。従来法
より効率が良いため、これまでおいそれとはできなかった複雑僧帽弁形成術が可能となり、
しかもミックスでも使いやすいため関心は持っていただけたらようです。

.

さらに最近話題の心房性機能性MRに対する心房縮小メイズを発表し、有益なコメントや
質問をいただきました。この手術は12年前にメジャージャーナルにてオリジナルで発表
した内容の発展型でこれから多数の患者さんを助けるものと期待しており、関心を持って
くださる先生方が多かったのは嬉しいことでした。発表の翌日のシンポジウムで倉敷中央
病院の古市先生、小宮先生、島本先生らがその12年前の論文を引用して下さり、それを
ゲストコメンテーターのウェルズ先生(Francis Wells、ケンブリッジ大学)が高く評価
して下さったため誇らしいひと時でした。しかし多くの心臓外科医に活用して頂いてこ
その新術式ですので、これから啓蒙活動を進めようとEBM社の朴先生らと相談していました。

.

補助循環のセッションで、補助循環へのブリッジまたは代替治療としても役立つ新しい左室
形成(心尖部凍結型左室形成術)を発表し、良いコメントをいただき、今後に繋げる発表と
なりました。

.

なお会長要望のMICSの功罪セッションでは様々な観点からの議論があり有意義でした。
ロボット導入が急に進んでいるという印象を得ましたが、あまり良くないという発表もあり、
むしろ3D内視鏡は有望との印象でした。なぜかMクリップ(カテーテル治療)の発表も海外
からあり、DCMに対するMクリップの成績が1年死亡率30%と悪いことがわかりました。対象
にもよるのですが、私たちの成績(PHO乳頭筋吊り上げ等)はこれを遥かに凌駕しているため
今後さらに精進したく思いました。

.

楽しく有意義な4日間でした。留守を守って下さった医誠会病院の皆様に感謝申し上げます。

.

平成31年3月15日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

いい心臓・いい人生 【第126号】 新しい左室形成術がメジャージャーナルの表紙を飾りました

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いい心臓・いい人生 【第126号】 新しい左室形成術がメジャージャーナルの
表紙を飾りました
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

朝夕凍りつくような日々が続きますが、皆様風邪などひいておられませんか。
私は相変わらず走り回る生活です。

.

さて以前から力を入れて来た左室形成術、つまり拡張型心筋症や心筋梗塞、虚血性
心筋症で壊れた心臓を治す手術ですが、年々改良が進んで治療成績も上がり、
アメリカ胸部外科学会や日本の主要学会などでも発表して参りました。この新しい
左室形成術は Frozen Apex つまり心尖部凍結型の左室形成術と仮称して、極めて
短時間でできて侵襲(体への負担が少ない)が小さいため、世界中でお役に立てる
ようアメリカのメジャージャーナルに投稿していましたが、受け容れられ、出版
されました。それも表紙を飾るという名誉ある形で、これまで多くの仲間たちの
支えのおかげで進んで来た仕事だけに嬉しさもひとしおです。

.

このHPの米田正始の論文のページをご覧ください。

英語論文―新しい手術法や治療法などを発信して来ました。ご参考に


この一番末尾のところです。

.

医学や医療が進歩した今でも拡張型心筋症や虚血性心筋症で命を落とす方は大変
多いです。心移植できれば元気になるのですが、そのチャンスは多いとは言えず、
たとえ移植してもらえても、5年10年と経つうちに拒絶反応や感染、冠動脈の
悪化、あるいは悪性リンパ腫などの広義のがんに悩まされるケースがあとを絶ち
ません。

.

まず患者さんご自身の心臓を、安全確実に修復する、この努力を私は20年以上
に渡って続けて参りました。京大病院で左室形成術を開始した頃は、奇跡の生還
もあれば努力の甲斐なく亡くなられた方もありました。元気になられても、そこ
までの間、幾多の困難に打ち勝ち、耐えて健康をものにした、そういう印象が強く
ありました。その間のチームの皆さんの苦労は大変でした。何よりも患者さん
たちのご苦労とご努力は大きなものでした。

.

左室形成術やその後の治療に改良を加え続け、最近は手術の翌日に呼吸のくだが
抜けて、食事も開始できる、IABP(心臓を補助する風船)などの補助循環が
要らないというケースがほとんどになりました。手術前から危険な不整脈が出て
いた方でも、術後は減ることはよくありますが、増えることはまずありません。
私は手術の当日や心配な時は何日か病院のICU(集中治療室)の近くで寝泊まり
していますが、手術後の患者さんの状態が良く、安定しているおかげで結構休め
ます。新しい左室形成術の良さを実感するひとときです。

.

しかし患者さんの前向きのご協力あっての治療であることに変わりはありません。
さらに改良を続けねばならないのです。

.

こうしたこともジャーナルでは評価されたようです。これからこの左室形成術を
さらに磨いて、世界に普及できれば、という方向性を理解いただけたようです。
多数の心不全患者さんを救うための新しい治療を日本から発信するという大仕事
をこれからも続けて行きたく思います。皆さんのご協力とご支援に感謝しつつ。

.

平成30年12月22日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

いい心臓・いい人生 【第125号】 メラトニン ーーー不眠症の方に朗報?

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いい心臓・いい人生 【第125号】 メラトニン ーーー不眠症の方に朗報?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

京都では紅葉がピークを超えたところですが、皆様如何お過ごしでしょうか。
今年の京都は2つの台風が直撃したため、今もあちこちで木が折れたり倒れたり
傷跡が随所にみられます。そのためか紅葉もどこか元気はありませんが、何とか
紅葉のレベルは維持できているという印象です。

.

ところで最近、不眠症でお困りの患者さんや友人に出会うことが増えました。
若い時と比べると、眠りが浅いとか、夜中に一度眼を覚ますとなかなか寝付け
ないと言った訴えを耳にします。睡眠剤を服用して何とか対処しているが、もう
一つスッキリしないとも言われます。そもそも睡眠剤は本物の睡眠をもたらす
のではなく、ぼーっとするだけのものだからです。しかも次第に効きが悪くなり
量も数も増えて行き、運が悪ければ昼も夜もぼーっとするだけで不眠は続く
という最悪のケースも散見されます。

.

この原因は様々ですが、一つには睡眠ホルモンと言われるメラトニンが不足して
いるためと考えられます。メラトニンは脳の松果体から分泌される自然の睡眠
ホルモンで、こども時代が100とすれば、年齢とともに減っていき、60代には
ほとんどゼロになると言われます。

.

そういえば若い時には寝付けないなどということは少なかったように皆さん
思われる事でしょう。私も若い頃は病院で当直していて夜中に起こされても、
用事が終わればすぐころりと寝付いたものですが、最近は一度起きるとすぐ
寝付けないという印象がありました。

.

メラトニンは眼から入る光の情報で分泌量が左右され、光の少ない夜になると
眠くなる、逆にスマホなどで青い光を夜遅くまで見ている人がメラトニン分泌
を減らし不眠になる、などが指摘されています。年齢だけでなくスマホや
パソコンなどを使う現代だから一層メラトニンが大切という意見もあります。

.

そこでメラトニンをアメリカから取り寄せ(日本では売っていません)て使って
見ました。メラトニンが話題になったのはちょうど私がアメリカに留学していた
1990年代前半頃で、当時からノウハウが蓄積され、副作用もほとんどない、
むしろ抗酸化作用のおかげでアンチエイジングにも役立つなどの情報を得たため
この機会に使って見たわけです。

.

すると1回目はちょっとフラフラしましたが、2回目からは程よく眠くなり、
ぐっすり眠れて、たとえ夜中に一度起きても、またすぐ眠れるという、若い頃
のような状態で、しかも朝起きるとスッキリして眠気を引きずらないため
気に入りました。

.

周囲の人たちで不眠を訴える方々にも使っていただき、中には良く効く方もあり
結構好評です。心臓手術の後や、心臓病の患者さんには睡眠不足は不整脈などの
原因にもなるため、役立つように思っています。なおこれが効かない人はまだ
メラトニンがある程度しっかりと分泌されているのかも知れません。

.

ともあれこの自然のホルモンは50-60代以上の不眠症の方とくに心臓病関係
の方々には役立つ可能性があるものと思いましたので、ここにご紹介します。
私のお勧めは3mgの小さいカプセルまたは錠剤で、これを午後9時までに飲む
とちょうど良いタイミングで効くと思います。アメリカから直輸入する必要が
あり、iHerbなどのネット販売が便利です。一錠約20円程度でしょうか。そう
高価ではありません。

.

脳梗塞後とか重い心不全があるなど、体調に不安のある方々はメラトニンを
試す前に主治医の先生の許可を得てください。
この記事が皆様の健康管理の一助になれば幸いです。ぐっすり眠り、楽しい朝
を迎えてください。

.

平成30年12月6日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

いい心臓・いい人生 【第124号】 アジア弁膜症シンポジウム(4)

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いい心臓・いい人生 【第124号】 アジア弁膜症シンポジウム(4)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

熱い議論で盛り上がったアジア弁膜症シンポジウムも最終日になりました。
朝の会場へのの道のりは、さらに秋の到来を示す紅葉が進んでいました。
(今回も内容は医療者または弁膜症患者さん向けです。それ以外の方は
すみませんが、読み飛ばして下さい)

.

まず現在のガイドラインを見直すセッションで、手術や治療の進化をガイド
ラインが必ずしも反映していないことがあり、患者さんを預かる身としては
うまく対応する必要があることを痛感しました。

.

弁膜症を持つ妊婦さんの治療もその一つでした。妊婦さんの心臓は、子宮
と赤ちゃんのため心拍出量が50%前後も増えるため、僧帽弁狭窄症や
大動脈弁狭窄症などの狭窄病変には不利であることや、凝固系が亢進する
ため、血栓ができやすく、要注意であることなどを話しされました。

.

感染性心内膜炎の手術などでも検討の余地あることをDr. Pandyが示されました。
子どもの弁膜症の治療では、タイのDr. Azhari Yakub、サウジアラビアの
Dr. Zohair Al Halees、ベトナムのDr. Van、Dr. Peenutchaneeらがそれぞれ
の立場から論じられました。

.

次のセッションは付随病変をどこまで治すかというもので、まず虚血性MRを
どう扱うかという昨日の延長線上の議論がDr. Chanからなされました。
弁膜症に伴う心房細動AFはDr. James WongとDr. Choosakが概説されました。
北京のDr. Mengは左心耳閉鎖の話をされ、最近は挿管なしつまりマスクにて
MICSで左心耳閉鎖を積極的に行なっていることを紹介されました。
脳梗塞の予防に役立つため、これからの前向き医療と思いました。
Dr. Chanは三尖弁閉鎖不全症の手術とその適応について、最近の考え方を
紹介されました。これまでより積極的に弁形成する方向にあり、頷けるもの
でした。

.

ランチオンは中国国産の生体弁のお話でした。アメリカの生体弁をもとにした
中国版という印象ですが、まだ1年のフォローアップ成績しかないためちょっと
心配になりました。

.

午後は小開胸による弁膜症手術、いわゆるMICSのセッションでした。
タイの畏友Dr. Weerachai Nawarawong、マレーシアの畏友Dr. Jeswant Dillon、
中国のDr. HaiboがそれぞれのMICS経験談を紹介しました。いずれも興味深い
立ち上げ時の苦労話などが含まれ、楽しく拝聴しました。通常の正中切開の
弁膜症手術と違い、ラーニングカーブが強いことからどこでも誰でもやるべき
手術ではないとする意見もあり、やはりMICSはエキスパートだけがやる手術
と思いました。

.

サウジのDr. KhalielはMICS開始にあたっては、入念な準備が必要で、時代に
遅れないよう努力すべきとのことで、当然と思いました。

.

最後のセッションはカテーテルで入れる生体弁、いわゆるTAVIがテーマでした。
シンガポールからDr. Chua Yeow Leng、タイからDr. Pranya Sakiyalak、
中国からDr. Zhang Haibo、日本からは京都大学湊谷謙司教授の名代・川東
正英先生、韓国からDr. Byung Chul Chang、サウジからDr. Feras Khalielが
それぞれのお国と施設の現状を紹介されました。

.

カナダ・バンクーバーのDr. Jia Lin SoonがTAVIの文献的考察と私見を、韓国の
Dr. Chanが公正なハートチームになっているかについて論じました。かつては
外科医が主体となる経心尖部アプローチも一部あったが、現在はほとんどゼロ
で、手術死亡もほぼゼロになった。しかし遺残ARは予後を悪くする。バルブ・
イン・バルブは安全な手技になったがPPMつまりサイズミスマッチが一部に
あり、レジストリーが必要、などが論じられました。

.

ここでも熱い議論があり、コマーシャルベースに偏りすぎて、患者不在になって
いるのではないかという批判も見られました。厳しくても嘘のない本物のディス
カッションで、さすがMuluシンポジウムと思いました。良い医療が患者さんに
益するものである以上、見かけの便利さで患者さんに不利な結果をもたらす物
は許してはならない、という良心が伺え、誇らしいことでした。

.

最後のディナーでも皆和気藹々と楽しいひと時を過ごすことができました。
なおこのシンポのお土産は、信楽の大小屋さんの一輪挿しと、静岡の道楽苑さん
のお茶セットでなかなかの好評をいただき、嬉しく思いました。

.

今回のシンポジウムでは日本の弁膜症外科の良さを世界に知っていただきたく、
もっと多数の同胞の先生方をノミネートさせて頂いておりましたが、事務局の
様々なご都合で理想通りには進みませんでした。この分は次回以後に持ち越し
たく思います。また4日間全出席が義務ということで、せっかく講演依頼した
先生にも、参加できないというケースが発生し、お許し頂けましたら幸いです。

.

その次回のアジア弁膜症シンポジウム(Muluシンポジウム)は北京にて2年後に
開催されることになりました。次期会長のMeng Xu先生、よろしくお願いします。
参加の皆さん、立派な発表とディスカッションありがとうございました。
お世話になったトラベルラボパートナーズの妹尾さん、石倉さん、国島さん、
お疲れ様でした。

.

平成30年11月16日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

いい心臓・いい人生 【第123号】 アジア弁膜症シンポジウム(3)

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いい心臓・いい人生 【第123号】 アジア弁膜症シンポジウム(3)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アジア弁膜症シンポジウムの3日目、会場付近の紅葉がもう少し進んで秋の京都らしい
雰囲気になって来ました。(本日のメルマガも医療者向けですみません。ただし
弁膜症や心筋症・心不全をお持ちの読者には参考になるかも知れません)

.

近年日本でも話題のテーマが多い一日でした。
Dr. Susupaus Attapoomが大動脈弁形成術の現況を概説しました。eH、GH、AVJなど
エキスパートの間ではすでに知られたことが多かったのですが、良くまとまっていました。
Dr. Kaushal Pandyが大動脈基部手術の基本とも言えるベントール手術を概説しました。
私の恩師が開発したデービッド手術の時代でも、なおベントール手術は最後の砦として
価値あるものと再認識しました。

.

中国のDr. Tian Xiang Guは二尖弁の様々な特徴を開設しました。二尖弁のタイプ
例えばR+N型とR+L型では大動脈病変の起こり方が違うことを示されました。大動脈
側の要因と、血流やジェットの要因が複合した結果とは思いましたが、今後の検討
テーマになるものと思いました。

.

韓国アサンのDr. Joon Bum Kimは彼の研修医時代からの友人(というよりこの道の
可愛い後輩)で、韓国の若手ホープとして精力的に研究を進めているのがわかる発表
でした。治療成績の向上に従って、大動脈基部の手術タイミングは徐々に早くなりつつ
あり、三尖大動脈弁でも直径45mmなら手術する方向に進みつつあるようです。
AATSコンセンサス2018を元に検討することが望ましいと思いました。

.

日本から私がご指名させていただいた東京の国原先生は複雑な大動脈弁形成術を紹介
されました。とくに二尖弁ARの三尖化+ヤクー手術+シェーファー糸の組み合わせは
立派と思いました。現時点でこれが最も良い複雑大動脈弁形成術のようです。今後これ
をどう簡略化し、確実な長期予後を実現するかが課題と思いました。

.

サウジアラビアのTash Adel先生は万策尽き果てた場合のVADつまり補助循環の話を
されました。虚血性MRを含む機能性MRにMVRつまり弁置換をやると、心室がなかなか
リバースリモデリングしない、つまり良くならないことも示されました。弁置換をでき
るだけ避けて弁形成できるよう努力している私にとっては、わが意を得たり!の心境
でした。

.

同じサウジのMaie先生は内科の立場からARやMRの後の壊れた心室はなかなか戻ら
ないことを示されました。私の経験ではそれらはかなり良く回復するので、乳頭筋の
吊り上げをやれば、とお勧めしました。しかし彼らの患者さんはリウマチ性が多い
ため心筋炎が関与している恐れあり、この点からも検討して下さいとお願いしておき
ました。

.

午前中後半は僧帽弁のセッションでした。
世界で最もリウマチ性僧帽弁弁膜症の手術をやっているベトナムのバンファン先生が
その手技を披露されました。肥厚した二次腱索の切断や交連部のマジック糸や、心内膜
炎の時の二重心膜によるMAPなど様々なテクニックを紹介されました。
北京のXu Meng先生は同様にリウマチ性僧帽弁の治し方を解説されました。

.

ここから機能性MRの話となり、Dr. John Chanがこの病気での弁形成の現況を概説
されました。
そこで私がこれまで開発して来た「心室を治すことで弁逆流を治す」方法をお話し、
これが病態の本質に触れる治療であり、これからもっと多数の患者さんを助けられる
でしょう、と結論しました。
ディスカッションの時間が足りず、後で個別で相談しましたが、上記Dr. Chanも関心
を持ってくれ、彼が主宰する機能性MRの単行本の改訂版にはぜひ君の手術を描いて
くれと言っていただき嬉しいことでした。

.

日本から私が指名させていただいた山口先生はお得意の僧帽弁の弁尖拡大法を披露
されました。
Dr. Yeoはカテーテルで治療するMクリップの世界の現況を紹介されました。COAPT
トライアルその他で多数の研究がなされていますが、まだかなりばらつきがあり、
何れにしても弁を操作するだけなので、左室自体を直さないという弱点は残ります。
私たちが目指す心室治療の補助的な位置付けに終わるように、個人的には思っています
が、まずは心室の外科治療を世界に普及させることが先決なので、まだまだ気を抜け
ません。

.

オレゴンのDr. Anthony Furnaryは例のSMRを用いて、同じ世代の健康人との対比
において、僧帽弁形成術後はSMR2.3、僧帽弁置換術後は2.7とあまり違わないという
結果を報告されました。これは納得行く数字で、彼の病院での僧帽弁形成術とは
単なる弁輪形成術なので、あまり良い成績が出なかったのは当然です。ぜひ私たちの
新しい方法を使って下さいとお勧めしておきました。

.

熱いディスカッションは時間の都合で打ち切りになり、午後は皆でまた遠足に行き
ました。後で皆さん秋の京都は素晴らしいと何度も言っていただき、光栄でした。
夜のディナーには皆さん定刻に戻られ(立派です)賑やかなひと時を過ごしました。

.

平成30年11月15日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

いい心臓・いい人生 【第122号】 アジア弁膜症シンポジウム(2)

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いい心臓・いい人生 【第122号】 アジア弁膜症シンポジウム(2)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

アジア弁膜症シンポジウムの2日目からは趣を変えて北山にあるしょうざん
リゾートで開催しました。(今回のシリーズは医療者向けです。一般の皆様、
申し訳ありませんが、読み飛ばして下さい)
紅葉が始まり、会議場からそれが大きく広がる光景はなかなかのものでした
(自画自賛ですみません)。

.

まず人工弁の選択のセッションで機械弁の推進派としてYan Li先生と、Morakat
Bundit先生が、生体弁の推進派としてインドのKaushal Pandy先生とPrathanee
Sompop先生がそれぞれの経験を披露されました。

.

アジアの心臓弁膜症外科は症例数が多いため、欧米の学会とは一味違う説得力
があり、勉強になったと思います。
せっかく生体弁を使っても、その患者さんの半数近くがワーファリンを服用
しているため、もっと機械弁を使ったらどうか、とか、機械弁の突然の機能不全
は現在も怖い合併症であるとか、再手術は今や安全にできるため生体弁の寿命
はそれほど気にしなくても良いとか、それぞれ意味のあるお話でした。

.

さらに長期成績について、シンガポールのOon Cheong Ooi先生とアメリカ・
オレゴンの畏友Anthony Furnary先生がそれぞれの視点から発表されました。

.

とくにFurnary先生はこれまでの16000例近い多数の経験の解析を一歩進めて、
SMRという考え方、つまり同世代の健康人と比べてどれほど生体弁や機械弁の
患者さんの長期成績が追いついているかを検討されました。

.

機械弁AVR(大動脈弁置換術)はSMR2.0(同世代の健康人の2倍の死亡率)
であるのに対して生体弁AVRでは1.17とかなり良好でした。しかも20年成績で、
ブタ弁1.33に対して心膜弁1.12と同じ生体弁でも意外に生存率に差があり驚き
ました。僧帽弁では生体弁は機械弁のSMRより良好であるものの、二葉機械弁
とでは差がないことも示されました。

.

私のこれまでの人工弁選択で良かったためほっとしましたが、これらをさらに
詰めて行く必要があると思いました。様々な有益情報を活かして、この場合
はこうする、あの場合はああする、というキメ細かい対応策ができれば心強い
ことです。

.

午前中の後半は大動脈弁の治療についてで、治療タイミング(Dr. Chartiburns
Peenutchamee)、人工弁サイズミスマッチ(我らの代表 Dr. Huat Seong Saw)、
低流量低圧較差AS(大動脈弁狭窄症)(Dr. James Wong、TAVIが選択肢に
なるというのは理解できるところでした)の議論がなされました。

.

それから最近話題の短時間で植え込める生体弁(いわゆる縫わなくても良い
sutureless弁)のセッションとなり、今後の方向性をDr. Abu Khudairが、
Perceval弁を韓国の畏友Dr Byung Chul Changが、Intuity弁をマレーシアの
畏友Dr. Jeswant Dillonが発表しました。

.

Sutureless弁はTAVIよりも弁周囲逆流が少ない分、長期生存率が良いという
のは外科には嬉しいニュースでした。アジアは症例数が多いだけでなく、
新しい器械や弁が自由に使えて羨ましい限りでした。

.

午後はネットワーキングということで、4班に分かれて京都散策をして頂き
ました。嵐山界隈と金閣寺龍安寺界隈で、大変好評でした。他文化に関心や
理解がある人たちが多いため、案内のし甲斐がありました。歩きながら議論
の続きをしている人もあり、感心しました。

.

定刻までに全員戻らないと困る、冷めたスープなど出せないと生真面目過ぎる
シェフが主張するため遅刻者が出ないよう、神経を使いました。広いエリアを
散策したのに皆さん全員遅刻せず、お見事でした。(続く)

.

平成30年11月14日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

いい心臓・いい人生 【第121号】 アジア弁膜症シンポジウム(その1)

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いい心臓・いい人生 【第121号】 アジア弁膜症シンポジウム(その1)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
発行:心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

秋も深まって参りましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。

.

さて以前にもご案内いたしましたアジア弁膜症シンポジウム(愛称ムルシンポ
ジウム Mulu Heart Valve Symposium)をこの11月7日から10日まで京都
にて開催させていただき、盛況のうちに幕を閉じました。御礼とともにご報告
申し上げます。

.

一日目は京都の東部を楽しんでいただこうという趣旨もあって東山にあるソウ
ドウという会議場(通常は結婚式場で使われる事が多いようです)にて開催し
ました。

.

この会議場は寧年坂のすぐ近くにあり、場内から五重の塔が近くに見える絶好
のロケーションでいかにも京都という雰囲気で最初から盛り上がりました。
ディベートではひどく壊れた僧帽弁には弁形成と弁置換のどちらが良いか、

というテーマで白熱した議論が展開されました。

.

始めに弁形成の賛成派としてベトナム・ホーチミン市のヴァンファンNguyen
Van Phan先生が話されました。リウマチ性僧帽弁弁膜症では世界トップの
2500例の実績を持つ同先生が様々な手技と成績を披露されました。
あの弁形成パイオニア・パリのカーパンチエCarpentier先生の直弟子でもある
同先生は、長期予後が不明な奇抜な方法よりもむしろ着実に信頼おける方法で
治す、無理はしないというスタンスでした。

.

これに対して北京のジャンHaibo Zhang先生は長時間クランプの欠点を示し、
確実に弁置換する利点を強調されました。弁形成にも積極的な同先生には嫌な
役を押し付けて申し訳ないと後で謝っておきました。

.

それから南京のチェンXin Chen先生が弁形成(変性疾患のMRに対しては
弁置換はクラスIIIつまりやっては行けない、65歳以上の高齢者でも弁形成の
メリットは大きいと)、マレーシアの大御所ヤクーAzhari Yakub先生が弁置換
の応援(弁形成の経験が少ない術者では無理な弁形成は良くない)をされ
ました。

.

リウマチ性僧帽弁弁膜症の弁形成には高度な技術が必要で、欧米にはリウマチ
がほとんどないため、アジアの弁形成技術レベルは近年世界トップクラスの
水準になりました。そこでこのトピックスは大変参考になったものと思います。

.

自分の長所と限界をわきまえ、確実に長期予後をベストな点に持っていく、
そこでその外科医にぴったりの弁形成と弁置換の住み分けが自ずとできて行く
と思います。自分自身の経験でも10年前に弁形成できなかった難症例が今は
できる、という状況に時々遭遇します。同じ基準で弁形成すべきとかすべき
でない、とは言えないわけです。

.

熱いディスカッションの後は、恒例になったMuluレクチャーで今回はサウジ
アラビアのアルハーレス Zohair Al Halees先生がロス手術の復活について、
同先生の長年の経験をお話しされました。

.

近年、大動脈弁形成術の進歩で、エキスパートの間では何とかロス手術を避け
ようという空気を感じますが、このロス手術は適切にやれば素晴らしい長期
予後を出せるだけの内容があり、弁形成のバックアップとしてもうまく使えば
患者さんに益するものと実感できました。
君のおかげでロス手術のすごさを改めて勉強できたよ、と御礼を言うと、無口
な同先生は満面の笑みで返してくれました。

.

それからソウドウの見事なパーティ会場へ場を移しディナーとなりました。
皆様をどうしてもベストシーズンの京都でもてなしたいという理事会の強い
ご希望で高価な参加費になったことをお詫びしたところ、そりゃ当然でしょ
と応援して下さる方が多く、持つべきものは友達と感動いたしました。帰途
ライトアップの五重の塔を眺めながら皆さん京都は素敵と口々にお褒め下さり
光栄の至りでした。(つづく)

.

平成30年11月13日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

心臓外科手術情報WEB について――まず正しい情報を得る、すべてはそこから


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

いい心臓・いい人生 【第120号】 日本胸部外科学会2018

Pocket

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

いい心臓・いい人生 【第120号】 日本胸部外科学会2018

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

発行:心臓外科手術情報WEB

http://www.shinzougekashujutsu.com

編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

変な台風が急ぎ足で通り過ぎましたが皆様如何お過ごしでしょうか。

.

2つの台風の合間を縫うような形で恒例の日本胸部外科学会総会が東京で開催

され参加して参りました。日本の心臓血管外科の学会としては最高峰に位置する

学会で、専門医資格維持に必要ということもあり皆と一緒に参加しました。

.

 

今回は東京医科歯科大学の荒井裕国先生が会長を務められ、先生らしい親切で

内容たっぷりてんこ盛りの会で真面目に参加した人間の一人として、ぐったり

疲れるほど充実していました。

.

海外からの招請演者も豪華な顔ぶれでした。

.

弁膜症・ミックス関連ではニューヨークのDavid H. Adams(僧帽弁形成術で

ますます磨きがかかっています)、バンコックの Taweesak Chotivatanapong

(リウマチ性僧帽弁膜症の弁形成が年々完成度向上)、モナコのGilles

Dreyfus、シシリーのKhalil Fattouch(虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する

乳頭筋吊り上げの仲間、私が発明した乳頭筋前方吊り上げもきちんと引用して

くれてありがとう)、ライデンのRobert JM Klautz(SAMや機能性逸脱の話は

分かりやすかったです)、ミュンヘンのRudiger Lange(複雑僧帽弁形成術や

直視下MICSで話題を)、ザーランドのHans-Joachim Schaefers(大動脈弁

形成術がいよいよ佳境に)、ローマのHugo Baron Vanerman(MICS手術の

パイオニア、ますます冴えるご指導に感謝)、香港のSong Wan(抜群の安定感

ある弁形成)、スタンフォードのJoseph Woo(若きリーダー、大変柔軟性ある

頭と腕で、私発明の乳頭筋前方吊り上げも綺麗に活用)、シドニーのTristan

D Yan(MICSのホープ)らが講演されました。

.

個人的にも旧交を温めたり、新たなプロジェクトで色々と相談ができ、大変

有意義なひと時でした。

.

冠動脈関係ではバンコックの Suchart Chaiyaroj、オンタリオ・ロンドンの

Bob B Kiaii(MICSバイパスがさらに完成度を上げる)、ソウルのKi-Bong Kim、

オックスフォードのDavid Paul Taggart、大動脈関係ではボストンのDuke Edward

Cameron(日本のreimplantation手術のレベル向上にも貢献)、ボローニャの

Roberto Di Bartolomeoはじめ錚々たるゲスト陣でした。

.

私自身はテクノアカデミー・虚血性心疾患の部で心筋梗塞後のVSDいわゆるVSPに

対する心筋梗塞除外術、通称David-Komeda手術と呼んで頂いている手術の歴史と

新型の解説を加えました。この手術を中心とした左室アプローチでしか治せない

病態、代表的な3つ(左室自由壁破裂合併、虚血性心筋症や心不全合併例、

心筋解離が高度で心室中隔が二つに割れたケース)をお示しし、若い先生にも

使って頂ける簡便な新型術式を披露しました。若手がこの手術で優れた成績を

上げているのをご紹介しました。さらにこれから左室形成術のリバイバルを引き

起こすかも知れない心尖部凍結型左室形成術をご紹介し、これによって左室内操作

に慣れればVSPへの左室内手術ももっと快適安全になる事をお示ししました。

左室は心臓外科の最後のフロンティアの一つである事、若い先生方に是非とも

挑戦して欲しいこともお話しました。

.

VSP以外でも僧帽弁形成術のラピッドセッションで新しい連続ループ法の威力を

お示ししました。これは複雑僧帽弁形成術特にMICSで活躍する事をお示しし、

上記タイのTaweesak先生らからも良いご意見を頂きました。

.

近年の学会の流れに沿って若手育成のためのセッションやアワード(賞や留学

支援など)のセッションも増え、親切で楽しい学会への脱皮努力が感じられる

良い内容でした。

.

また心臓血管、呼吸器、食道の3本柱を持つ胸部外科総合学会ですが、年々

3つに分化する傾向が見られ、今後どのように統合性を維持するか、学会

そのものの存在価値を問われる状況になっていることも教えられました。

心臓外科医が日本外科学会に参加しても居場所が少ない、内容も薄いと感じる

(専門医資格維持のために止む無く参加)のと同様のことを呼吸器や食道の先生方

がこの学会に対して感じておられるのであれば、やはり抜本的な改正が必要なの

かも知れません。

.

ともあれ極めて充実し、また楽しい4日間でした。会長の荒井先生、東京医科歯科

大学の皆様、お疲れ様でした。

.

平成30年10月7日

.

医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー

心臓血管外科専門医・指導医

米田正始 拝

.

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

Copyright (c) 2009 心臓外科手術情報WEB

http://www.shinzougekashujutsu.com

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。