③ドール手術―古典的な手術、改良により効果が上がった 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月12日

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◾️ドール手術とは?

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左室形成術の一つで、かなり早い時期に発表された、古典的な方法です。

左室の病気の場所や程度に応じてさまざまな左室形成術を使い分けます。この図の方法以外にバチスタ手術が活躍することもあります

モナコの大御所(当時) Vincent Dor先生(写真右下)が考案された左室形成術です。

ドール手術は比較的簡便な良い方法で、慣れた術者なら短時間ででき、

病気の場所ややり方によっては有用なことがよくあります。

とくに心尖部に近いところに病変がある場合、ドール手術は良い選択になります。 Dr. V Dor

心筋梗塞部と健常部の境目に糸(フォンタン糸、Fontan suture)をかけ、梗塞部を縮め、あるいはそれ以上広がらないようにしたうえでパッチで梗塞部を守る、実に理にかなった素晴らしいアイデアと今なお感嘆と敬意をもってDor先生の見識を振り返っています。

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◾️ドール手術の限界は

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しかしそれほど優れたドール手術にもやはり限界が見えます。

心室中隔の基部まで病変部が及ぶようなケースでは普通にドール手術を行うと左室が丸くなり(球状化)、心機能とくに拡張機能が悪くなり、患者さんは元気になれません。

重症例ではいのちの危険があることさえあります。

一部でパッチを楕円形にすれば良いという議論も聞かれましたが通常はそれでは不十分と考えます。というのはパッチを縫着するまでに、つまりフォンタン糸を結んだ段階で左室はすでに丸くなっているからです。

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◾️そこで次の段階へ

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私たちはこのドール手術の簡便さつまり短時間でできて患者さんの負担が少ない利点と、セーブ手術のジオメトリー温存・心尖部温存できる特長を活かした新しいドール手術を用いています。

方向性Dor手術などと呼んでおり、くわしく検討中ですが、

これまで13例すべて順調で、その中には超重症も含まれており、新しいドール手術は心筋症・心不全の治療成績をさらに改善するかも知れません。(事例1)(事例2

これまで国内外の学会で発表し、より改良を図って参りました。

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こうしてドール手術は完成度の高いものに育ちましたが、この数年間はさらに改良を加えた心尖部凍結型左室形成術を中心に左室形成を行うようになり、その低侵襲性(つまり体への負担が少ない)ゆえ治療成績の一層の向上が見られています。

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患者さんの想い出:

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左室形成術を強化する方法

心筋症・心不全 にもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 2 ドール手術

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患者さんは70 歳、男性。主訴は起座呼吸(仰向けになると息苦しくなる、心不全の症状です)。

17回の冠動脈カテーテル治療 PCIと47回(!!)にもわたる冠動脈造影 CAGの後、心不全症状を繰り返すため患者さんも手術を決意され転院して来られました。

左室造影で駆出率 13% (健康人の4分の1以下)の虚血性心筋症と II度の虚血性僧帽弁閉鎖不全症を認めました。

21_21.梗塞を起こした左室心尖部と

左室前壁(矢印)を切開しました。

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222.フォンタン糸と呼ばれるタバコ縫合(広がっている部分を口すぼみ状に小さくできます)

を行い左室を小さくしています。

これによって左室は悪い部分を中心に小さくなり、

健康な部分の力が発揮しやすくなります。

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233.パッチを縫着し新しい左室が概ねできました。

ドール手術の長所(短時間で患者さんの負担少なくできます)を活かし、

短所(注意しなければ左室が丸くなり十分に良くならない恐れがあります)を補う努力・工夫をしながら手術をしています。

この手術から5年以上経った現在、より左室の形を守れてセーブ手術よりシンプルな「方向性ドール手術」を開発し、成績の改善をみています。

244.左室を閉鎖したところ

出血しないように入念な止血法を用いています。

現在はこの写真の方法をより強化した3枚フェルトと止血材圧着法を用いています。

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255.MAP(僧帽弁輪形成術)で仕上でます。

こうすることで左室基部が改善することを

すでに証明ずみです

(論文のページをご参照下さい)。

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266.CABG(バイパス手術)を行いオペ完了へ向かいます。

内胸動脈をできるだけ有効に使います。

このバイパスグラフトをつける主な目的は

心室中隔とくに基部の心筋をできるだけ回復・保護することにあります。

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277.15MHz高速エコー・ドップラーでバイパスのグラフトのフローとそのパタンが良好であることを確認します。

弁形成手術で経食エコーをもちいて

術中に納得行く結果を得てから手術終了するのと同様に、

バイパス手術でも安心できる形を確認してから手術を終了します。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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