心房中隔欠損症(ASD)の治療:アンプラッツ法?それとも? 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月17日

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◾️心房中隔欠損症でお薬以上の治療が必要な時は

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症状があるとき、

たとえば運動に支障が出る、疲れやすい、呼吸困難、

あるいは奇異性脳梗塞などがあれば薬以外の治療が必要となります。

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あるいはQp/Qsつまり肺血流と全身の血流の比が2を超える

(肺に血が流れ過ぎてさまざまな問題を起こします)ときも同様です。

肺高血圧が合併すればQp/Qsが1.5以上で治療を勧めるというカナダ心臓協会のガイドラインもあります。

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お薬では対処できない状況のとき、

かつては外科の心臓手術が唯一の治療法でしたが、

現在はカテーテルによる治療法と外科手術が選択肢となっています。

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◾️心房中隔欠損症に対するカテーテル治療

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カテーテルによる治療法ではAmplatzer

アンプラッツ法などでカテーテルで2枚のディスクをもちいて

心房中隔の遺残部を挟み込む形で穴を閉じるのです(右図)。

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そのためにははさみしろが必要となるため、

直径30mm以下の小さ目のASDで、

その縁の組織が5mm以上あることが必要です。

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これは周辺の重要部分たとえば冠動脈洞や肺静脈などをつぶさないためにも重要です。

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この基準に合うASDは、全体の半分から3分の2ぐらいと言われています。

残りの患者さんは心臓手術による外科治療が必要となります。

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実際、最近の報告で、アンプラッツのディスクが隣接する大動脈基部を圧迫し、結局そこが後日破れて大きな事故になったというのがありました。アンプラッツ法は外科手術に比べるとまだまだ歴史が浅く、不明なことが多く、長期にわたって注意が必要です。

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◾️カテーテル治療と比べての外科手術は

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外科治療では従来からの胸骨正中切開(下図の左)、

胸骨部分切開、あるいは昔からの右開胸(下図の中)、

さらに右小開胸によるポートアクセス手術(下図の右)などがあります。

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患者さんが比較的若い方が多いため、私たちは創が見えにくく、

骨を切らないため痛みも軽く社会復帰も早いポートアクセス手術を多用しています。

MICS_ASD.

ポートアクセス手術では

肋骨と肋骨の間、

つまり肋間から心臓にアプローチするため、骨を切らずにすむのです。

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また女性の患者さんの場合は乳腺の下のしわの部分の皮膚を切るため、創はあまり見えません。

私たちの経験では男性の場合でも創がある程度脇(わき)に近い位置に切るため、目立たないという利点があります。

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◾️外科手術のその他の特長は

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Cameraroll-1323102677.918984ポートアクセス法では、

右房が拡張し心房細動が合併する場合にはメイズ手術もできますし、

僧帽弁閉鎖不全症が併発しているときには僧帽弁形成術も可能です。

さらに三尖弁閉鎖不全症があれば、それも三尖弁形成術で治すことができます。

これもアンプラッツ法と違うところです。

写真は心房中隔欠損症をポートアクセス法で手術した患者さんの、術後1か月の創です。

これから創は次第に薄くみえにくくなって行きます。すでに社会復帰して仕事をこなしておられます。

このくらい小さい創ならカテーテル治療じゃなくても満足できますと言って頂きました

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ポートアクセス手術は患者さんの身体とこころの負担を軽くするために役立っています
上記の病気はカテーテル治療ではやりづらいものが多いため、

ポートアクセス手術をはじめとする外科治療の貢献と思います。

ロボット手術と比べても仕上がりの美しさでもそん色なく、患者さんの自己負担もはるかに軽いため、お役に立っているものと思います。

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こうして心房中隔欠損症も患者さんにとって比較的負担の軽い治療が主流となっているのは喜ばしいことです。

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Heart_dRR
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 肺高血圧症をともなう成人の心房中隔欠損症ASD

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患者さんは 55歳男性。

1心房中隔欠損症 ASD三尖弁閉鎖不全症 TR

そして血圧の3分の2に達する高度な肺高血圧症と動悸(複数の種類の不整脈が出ていました)のためハートセンターへ紹介・来院されました。

よくここまで我慢されましたねと思えるほどの状況でした。

 

胸骨正中切開ののち心膜を開けますと右心系は著明に拡張していました(写真左)。

見渡す限り右心系(つまり右房と右室)という所見で、長年の右心への負荷を示すものでした。

 

体外循環・大動脈遮断下に右房を切開(メイズ切開)しました。

2_asd 3_asd心房中隔欠損症 ASDは大きめで、40 x 25 mmのサイズがあり、単心房に近い血行動態でした(写真左)。

これを自己心膜パッチを用いて閉鎖しました(写真右)。

 

術前に動悸を訴えられていたことと、右房の高度な拡4  6_tap張があったため、

三尖弁輪―冠静脈洞―IVCを結ぶ峡部を冷凍凝固でアブレーションしました(写真左)。

ここで大動脈遮断を解除し、心拍動を再開しました。

三尖弁は弁輪の拡張が著明でしたが、弁葉にはとくに問題がないため心拍動下にリングをもちいて三尖弁形成術を施行いたしました(写真上右)。

逆流がないことを確認してから右房を縫縮しつつ閉鎖しました。

エア抜きののち、体外循環を容易に離脱しました。
経食エコーにて心房中隔欠損症ASDでのシャントの消失とTRの消失および良好な心機能を確認しました。

肺動脈圧は血圧の4分の1にまで改善しました。入念な止血ののち、無輸血で手術を終えました。

右房が小さくな7り、心膜腔にはかなりの空きスペースができました

(写真左、黒い部分は一時的ペースメーカーのケーブルです)。

 

術後経過は順調で出血も少なく、血行動態も安定し、翌朝一般病室へ戻られました。

術前からの不整脈のためしばし薬で治療し、軽快ののち退院されました。

 

心房中隔欠損症ASDは放置すると命にかかわる重症になり得る病気です。

健診などでこの病気を指摘されたら、まよわずまず専門家にご相談下さい。

一部の施設では最近はポートアクセス法ミックス手術、MICS)にて小さい創での手術が可能となっています。

私たちも少ない苦痛と早い社会復帰を考えて積極的にこの方法をもちいています。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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