事例 腱索「転移」(トランスロケーション)術

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患者さんは46歳男性。

虚血性心筋症同・僧帽弁閉鎖不全症・慢性心房細動に対して腱索「転移」術・左室形成術 Dor手術、心房縮小メイズ手術などを施行。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症は弁そのものの疾患ではなく左室の疾患です。

左室が心筋梗塞のため変形し拡張した結果、僧帽弁が異常に引っ張られ、うまく閉じなくなった状態だからです。


このため単に弁を治すだけでは本質的な治療になりません。

可能な限り左室そのものを治すことが理想的です。

しかし左室を治し切れない状態のときに僧帽弁そのものを治す方法が必要です。

腱索「転移」法はそのために開発した方法で僧帽弁形成術のひとつです。

 

51_31.僧帽弁前尖が二次腱索に引かれて閉じなくなっています。

これをテザーリングtetheringまたはテンティングtentingと呼び、安定した弁形成術にはこれを解決することが大切です。

手術ではまず二次腱索を切断し、ついで二次腱索と同じ力のかかり方を人工腱索にて再建します。

つまり各乳頭筋の先端と僧帽弁輪前正中部をつなぎます。

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2.腱索転移により前尖は自由に動けるようになりテザーリングは解消(A)、

52_2しかも乳頭筋と弁輪の連続性は人工腱索によって保たれて心臓の力は守られています(B)

左室壁と僧帽輪が乳頭筋を介してつながっていることは左室のパワー効率を保つために重要です。

これはスタンフォード大学のCraig Miller先生やパリのCarpentier先生らが二次腱索の重要性を説いて来られた内容を考慮してのことです。

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しかもこの方法で乳頭筋が自然と同様に前方に引かれるため、最近問題になっている後尖のテザリングはかなり解消しています。

この方法が生理的と言われる所以です。私たちが開発した新術式を権威あるJTCVS誌が表紙に掲載して下さいました


さらに単に二次腱索を引くだけの方法よりも拡張期テザーリングが起こりにくく、引きすぎが予防できるため拡張機能も守られやすいと考えています

この方法は光栄なことにアメリカのトップジャーナルの表紙にも掲載して頂きました(写真右)

日本国内でも和歌山日赤医療センターの青田先生はじめ、いくつかの有力施設で活用いただき、光栄に思っています。

 

現在はこれをさらに改良した両弁尖形成術(Bileaflet Optimization法)によって、前尖のテント化はほぼ解決、後尖のテント化も効果的に取れるようになりました。

2011年のアメリカ胸部外科学会AATSの僧帽弁部門であるMitral Conclave 2011にて発表いたしました。

川崎医大循環器j内科の吉田清先生らとの共同研究です。多くのご質問やご意見をいただき、うれしく思っています。


テント化がきれいに取れれば、弁形成の効果は長持ちします。患者さんにとっての恩恵は大きいでしょう。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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