お便り89: 先天性僧帽弁閉鎖不全症と心房中隔欠損症のエホバ信者さん

Pocket

僧帽弁閉鎖不全症なかでも先天性僧帽弁閉鎖不全症にはさまざまなタイプがあります。

他の心疾患を合併したり、病気ではなくても構造が通常とはちがうこともあります。

患者さんは40代女性で心房中隔欠損症(ASD)と先天性僧帽弁閉鎖不全症のため来院されました。


こどもの時から内蔵逆位つまりお腹の内A335_001蔵が左右反対に位置していると言われていました。

半年前から息切れや疲れなど心不全症状が強くなり、近くの総合病院では修正大血管転位症とまで言われて不安になり、米田正始の外来へ来られました。

幸いその病気はありませんでしたが、下大静脈(IVC)が欠損しており、手術にも工夫が必要な状態でした。

しかもエホバの証人の敬虔な信者さんで、絶対無輸血をご希望のため、血液を一滴も無駄にできない条件下での心臓手術でした。

いつものように先天性心疾患の専門家も含めたハートチームで検討し手術に臨みました。

手術は安全とお若い患者さんであることも考慮し、MICS法(ミックス)で小さい創で行いました。

いつもと違うばしょに脱血管を入れて人工心肺を回し、安全確保ののち心臓を止めて、中にはいりました。

心房中隔欠損症を一時的に広げて、そこから僧帽弁形成術を行いました。

心房中隔欠損症はSinus Venosusタイプというやや複雑なタイプでこれをパッチで修復しました。Sinus Venosusタイプでは上大静脈(SVC)のルート確保も大事ですが、これも問題なくクリアーしました。

手術は無輸血でゆうゆうと完了しました。

術後経過良好で、小さい不整脈はあったものの落ち着いたため術後8日目に元気に退院されました。

以下はその患者さんのご家族からの礼状です。

 

*********患者さんからのお便り**********

 

米田正始先生

拝啓


木村由紀さまメール新緑の鮮やかな緑が目に眩しく感じられる季節になっておりますが、米田先生のますますの御活躍を心よりお喜び申し上げます。

先月4月8日に米田先生に妻の手術していただきました、****と申します。
先月末に退院致しましたが、米田先生に直接感謝やお礼の言葉をお伝えできずにおりましたので、失礼ながらまずはメールをと思いお送りしております。

昨年末に妻の心臓の疾患が見つかりましたが、私たち夫婦にとってはまさに「寝耳に水」の状態で、一時は目の前が真っ暗になったことを思い出します。
 

妻が幼少期に検査を受けていたことは知っておりましたが、その後検診でひっかかったことや活動の制限なども無かったため、すっかり安心しておりました。
 

昨年の夏ごろから体調が悪くなっておりましたが、まさか心臓だとは思わず、しかも手術が必要なほどだとは夢にも考えませんでした。


ちょうどその時期、私たちはエホバの証人の聖書教育活動を増し加えるために、生活拠点などを変える予定で動き出しておりました。

 

ですので、今からという時に病気が見つかり、目標を見失ったようで、特に妻の落胆ぶりは本当に大変なものでした。

しかも無輸血での手術が必要になりますので、どんな病院で治療を受けることができるのか、という不安も同時に押し寄せておりました。

しかし米田先生のホームページを拝見し、メールをさし上げたところ、すぐに返信を頂いて診察の予定を整えていただきました。

そして診察で先生のお話をお聞きした時点で、すでに治ったかのような安心感を抱くことができました。

私たちの宗教信条をご理解していただき、「神様が応援してくださるように頑張ります」とおっしゃって頂いた時には、先生にお願いして本当に良かったと心から感じました。
そして手術も無事に成功に導いていただきました。

術後の先生からのご説明では、妻の心臓の血管の状態が非常にまれな配置になっていたようで、様々なご苦労をお掛けした中で素晴らしい手術を施していただいたことに重ねて感謝致します。

術後、一時期体調が安定せず、様々な面で皆様にご苦労を致しました。
北村先生、深谷先生、木村先生の治療や、看護師の方々の献身的で温かく優しい看護にも心より感謝しております。

なんとなくバタバタした状態での退院になってしまいましたので、きちんとお礼ができず本当に申し訳ございません。

妻は体調の回復に合わせて、改めて皆様への感謝をお伝えしたいと申しておりますので、甚だ失礼ではございますが今しばらくお待ちいただければ幸いでございます。

ただ今回不正脈が取れないまま退院になってしまいましたので、どのくらい動いていいものかまだ不安も残っております。
入院中は心電図で先生方や看護師の皆様に見守って頂いていたので安心だったのですが、今は目安になるものがありませんので、何となく不安感が取れずにおります。
また術後血圧が急激に下がったりして調子を崩した時期がありましたので、そのトラウマのようなものが少し残り、「またあんな風になったら」、という怖れも残っております。

不整脈に関しては、以前の米田先生の診察の際に、「時間があったらメイズ手術もできるかもしれない」とお聞きしておりました。
インフォームド・コンセントは、米田先生が緊急手術のため木村先生に行なっていただきましたが、その際にお聞きしたところ、「この程度の不正脈ならメイズ手術は必要ないと思います。」とおっしゃっていただきました。
退院前には木村先生からは、もし収まらない場合は「カテーテルアブレーション」という治療が今後必要になるかもしれないともお聞きしました。

入院中電気ショックも2度も行なって頂きましたが不整脈が収まりませんでしたので、今後自然と不整脈が収まる可能性はあるものなのでしょうか?
もしかしますと、今後メイズ手術を受ける必要はありますでしょうか?
また現時点で、どの程度動いてもいいのでしょうか?

妻も入院中は先生たちがいらっしゃるので何も聞かなくてもお任せしておけば大丈夫とばかり安心しきっていておりましたが、いざ退院してみますともっと先生方に教えていただく必要があったと反省しております。

1ヶ月後の検診が予定されておりますが、その時までよくわからずにいて、運動過多あるいは運動不足になってはいけないとも感じております。
このようなメールでご相談して本当に申し訳ありませんが、もし宜しければ教えていただければ本当に嬉しく思います。

せっかく米田先生の素晴らしい手術で健康な心臓にしていただきましたので、当初考えていた計画をまた再開できれば、とも願っております。

そのような目標を再び頭に思い浮かべることができるようにしてくださった米田先生に本当に感謝しております。

今後の米田先生の引き続きのご活躍を心よりお祈りしております。

敬具

平成25年5月5日

 

******************************

 

そう心配するような状態ではなかったのですが、患者さんがかなり神経質になっておられるようなので早速お返事をお書きしました。

すでにかなり落ち着いており、まもなく薬も切って行けるでしょうとお伝えしました。

それから次のお返事を頂きました。やはりコミュニケーションは大切ですね。

 

**********患者さんからのお便り続編***********

 

米田正始先生

早過ぎるご返信に驚くと共に、本当に恐縮しております。
先生のお言葉を頂いて、不安が全く無くなりました。

妻も心配が一気に吹き飛び、今朝から意欲的に動き始めております。

深夜3時ごろにご返信を頂いているようですが、先生を寝不足にさせてしまったのではないでしょうか。

入院中にしっかりお聞きしなかったこちらの不手際で、米田先生にお手数をおかけして本当に申し訳ございません。

これほどまでに患者を気遣ってくださる先生のような方に巡り合うことができて、私たち夫婦は本当に幸せ者です。

妻からの感謝は、また改めてお伝えさせていただきます。

本当にありがとうございました。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

お便り 1 僧帽弁閉鎖不全症の患者さん

Pocket

10_001b先天性僧帽弁閉鎖不全症のためハートセンターで僧帽弁(複雑)形成術を受けられた関西在住の30代女性からのお手紙です。

 

将来の妊娠には弁置換ではなく弁形成が必須のためお互い頑張りました。

先天性の僧帽弁閉鎖不全症は比較的稀な病気で、当初は診断がつかない複雑な状態と所見ということでご相談を受け、

その後他大学の先生らのご意見も頂きながら確定診断に至り、無事僧帽弁形成術を完遂しました。

 

元気に退院され遠方ながら外来に定期健診に来て下さいます。

 

****************************

この度の手術入院では、大変お世話になりありがとうございました。

医師の皆様、看護師の皆様、スタッフの皆様、どの方も親切に思いやりを持って接して下さり毎日、ゆったりとした気持で過ごさせて頂くことができました。

昨年に病気が見つかって色々と不安に思う毎日の中、米田先生には、メールでご相談を重ねさせて頂きましたが、患者側のどんなに小さな不安事項に対しても、誠実に1つ1つ丁寧にご説明頂き、最後の手術前のご説明を頂いた後は、自分でも不思議なくらい手術に対する不安は全くなくなり、逆に手術後、回復できることを楽しみな気持ちで全信頼を託して手術に臨むことができました。

素晴らしい先生に巡り逢えたことを本当に嬉しく思っております。

 

術後も、いつも笑顔で医師や看護師の皆様から経過のご説明や励ましのお声かけを頂き気持の面でも随分とバックアップ頂いたように感じております。本当にありがとうございました。

 

入院生活は、とても快適でした。

普段、仕事に家事に育児にとバタバタした生活をしていた私にとっては部屋でゆっくりと過ごしたりいつもきれいに清掃された明るい雰囲気の院内をリハビリを兼ねて歩き回ったりするのは日常から解放された気分で、かなりリフレッシュさせて頂きました。

院内の所々に置かれているきれいなお花や小物も心を和ませてくれました。至るところに細やかな気配りが感じられ、また若い方が多くいらっしゃって明るく活気がある素敵な病院だなあ、、、という印象を受けました。

(中略)

本当に快適に過ごさせて頂きました。これも一重に病院の皆様の温かいお心遣いのお蔭と感謝申し上げます。

末筆になりますが、ハートセンターの益々のご発展と皆さまのご活躍を心よりお祈り申し上げます。ありがとうございました。

2009年4月*日

 

********* その後頂いたメールから (2009.5.) ***********

一般人にとっては、どんなに今の医療技術が発達していて

安全率が高いとお聞きしても、やはり心臓にメスを入れるということは

少なからず最悪のケースの「死」を連想してしまいます。

 

頭の中で手術をした方が良いと理解できても

気持ちも含め100%「手術を受けさせていただこう」と決心がつくまでは

かなり葛藤がありました。

 

しかし、手術が無事に終わり、順調に回復して

日常生活が軌道に乗りつつある今、思い切って手術をしてよかったと感じる日々です。

 

手術前は常に、風邪をこじらせたらどうしよう。。。無理をしては体にこたえ
る。。。など

自身の行動を随分セーブしていて、そんな自分にストレスを感じていました。

 

術後は心臓が正常にもどったことによる安心感から、メンタル的にも元気になり

家族からは声の張りが違うとまで言われるくらいです。

 

これからは、いろいろと楽しみながら過ごせそうです。

導いてくださった米田先生には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

 

**********************

いつしか7年の歳月がたちました。IMG_2109

外来でこの患者さんのお元気なお姿を拝見するたびにうれしく思っていましたが、もともとの念願であった赤ちゃんのニュースはまだでした。

名古屋から郷里の奈良へもどり、新たなハートセンターで仕事をしているなかで、外来お会いするたびにじっくり頑張りましょうねとお話していました。

 

そんなある日、うれしいメールが届きました。

あれから7年たって、ついに夢が実現しつつあるとのお知らせでした。

人間、ネバーギブアップだとあらためて思いました。

 

患者さんには無理をなさらず、ゆっくりと着実に安産へと進んでいただければと念じております。

次の外来で赤ちゃんにもお目にかかれることを楽しみにしております。

 

**********患者さんからのお便り************

.

米田先生

 

ご無沙汰しております。

お元気でいらっしゃいますか?

 

私の方は、やっと不妊治療が上手くいって、妊娠18週目を迎えました。
順調に育てば、10/**が予定日です。

 

現在、****センターの周産期科に定期検診に行っています。
お蔭様で、心臓の検査結果は、妊娠出産に問題ないとのことで、
手術いただきました先生へ改めて感謝申し上げます。

赤ちゃんの経過も今のところ順調です。

 

取り急ぎ、ご報告まで。

無事に出産できましたら、
赤ちゃんと一緒に先生に会いに行けますことを
楽しみにしております。

.

*********************

IMG_0419 あれから数か月が経ちました。

そしてうれしいニュースが届きました。

.

可愛い赤ちゃんが元気に誕生したそうです。

これからも皆さん健康管理で元気に楽しくお過ごしください!

.

******患者さんからのお便り******

.

米田先生

.

先日は、お忙しい中、アドバイスいただき、ありがとうございました。

.

お蔭様で10月**日(*)に30**g、5*.*cmの
元気な女の子を出産しました。

.

母子ともに、昨日退院しました。
やっと待望の二人が授かり、とても嬉しいです。

.

赤ちゃんの写真を添付致します。
手術いただきました弁は出産後も逆流ゼロで、順調です。

.

こちらの病院の検査技師さんが、
「すごく上手に手術されていますね~。どちらの先生に手術していたただいたのですか~?」
と尋ねてこられました。
ありがとうございます!

.

ではまた、外来でお会いできる日を楽しみにしています。
取り急ぎ、ご報告まで…。

.

 

 患者さんからのお便り・メールへもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 .

.

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 先天性僧帽弁閉鎖不全症

Pocket

患者さんは 30代前半の女性で、

複雑な僧帽弁閉鎖不全症 MRのため、関西のある大学病院からハートセンターへ紹介されました。

将来の妊娠出産を希望され、そのため僧帽弁形成術を求めての来院でした。

 

1四次元エコーにて僧帽弁前尖に裂隙(裂け目、クレフトと呼びます)が認められ、

そのクレフトが僧帽弁輪(弁の付け根)までおよぶという珍しい形でした。

 

全身麻酔のもと、体外循環・大動脈遮断下に右房を切開しました(写真左) 。

右房内にはとくに問題ありませんでした。

 

心房中隔を縦切開し、左房に入りました。

2僧帽弁はクレフトが正中線より後交連寄りにあり、

そのクレフトは僧帽弁輪(前方中央部)に達していました(写真左)。

 

いわゆる心内膜床欠損症に近い形ですが、

心室中隔欠損症 VSDはなく、その部に白色でたるんだ組織が残っており、VSDが自然閉鎖した可能性を示唆しました。

 

前尖の辺縁部とくにクレフト部には肥厚が見られました。(写真上左)。

 

乳頭筋は単乳頭筋に近い所見で、

前乳頭筋が発達し前尖の3/4を支え、後乳頭筋は小さく前尖の後交連側1/4を支えていました。

また後尖P3に腱索断裂が見られました。

 

3前尖の巨大なクレフトを弁の先端から弁輪まで縫合修復しました。

前尖は肥厚があるため、

かみ合わせを少しでも良くする目的で工夫しました

(写真左)。4

さらにP3の腱索断裂部をP2の近傍の腱索付着部に連結 し、

逸脱しないようにしました

(写真右)。

逆流試験にて逆流はほぼ消失していたため、

硬性リング30mmで全周性に弁輪形成し、

5_ok再度逆流試験OKを確認(写真左)して

から心房中隔を閉鎖しました。

 

77分で大動脈遮断を解除しました。

心拍動下に右房を閉鎖し、体外循環を離脱しました。

離脱は強心剤なしで、容易でした。経食エコーにて僧帽弁の逆流消失と良好な心機能を確認しました。

無輸血で手術を終えました。

 

術後経過は良好で、術翌日には一般病棟へもどられました。

遠方のため通常よりゆっくり滞在して頂き、十分な運動がこなせるようになった術後2週間で軽快退院されました。

今後は妊娠や出産も十分可能な状態となり、患者さんやご家族のご希望を叶えることができ大変うれしく思っています。

 

先天性の僧帽弁閉鎖不全症は通常の後天性のそれより複雑で検討すべき点が多く、そうした経験のあるチームがお役に立つと思います。

先天性の専門家のご協力を得て、多角的視点で最良の手術・治療を目指すようにしています。

 

弁形成術ができるかどうかで、その患者さんやご家族のその後の人生が変わりますので、ぜひご期待に沿いたいものです。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

僧帽弁形成術について へもどる

2b) 僧帽弁疾患 へもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。