事例:大動脈炎にデービッド手術を施行

Pocket

大動脈炎症候群(大動脈炎)は今も油断ならない病気です。

放置すると大動脈だけでなくあちこちの動脈がやられてその結果、眼が見えなくなったりします。大動脈のどこかの部分が瘤つまりこぶのように広がると破れる心配がでてきます。大動脈基部が壊れて広がると破裂の恐れもありますし、大動脈弁閉鎖不全症となって弁膜症を合併してしまいます。

若い女性が多いだけに、弁膜症となると長持ちする機械弁をと短絡すると将来の妊娠や出産に大きな困難を残しますし、生体弁では長持ちしません。

ライフスタイルを含めた長期的なプランにしたがって治療戦略を立てる必要があり、とくに予防と二次予防つまり治療のあとの再発防止も大切です。

術前3DCT患者さんは20代前半の女性で近くの大学病院にて大動脈炎症候群の診断でステロイドによる治療を受けておられました。

しかし病気が進み、大動脈基部は拡張し(左写真)、その結果、大動脈弁は寸足らずとなり大動脈弁閉鎖不全症を合併していました(右図)。

労作時の息切れが強くなり、ときどき胸痛を覚えるようになって私の外来へ来られました。

ステロイド剤が一日 術前AR10mgを割ったタイミングで、手術することになりました。

ステロイドが多量に入った状態では創が治りにくくなったり、酷い時には人工弁や人工血管がはずれることもあり得るからです。

そもそもこの患者さんの将来設計とくに妊娠出産のためには自己弁(弁尖)を温存するデービッド手術が必須で、極力これを行う方向で準備しました。

弁尖は大動脈炎にはやられないというデータがあるからです。

Bavaria先生とこの準備に当たっては、

大動脈基部再建手術の世界的権威であるペンシルベニア大学のバーバリア先生(Prof. Joseph Bavaria)の御意見もいただき、

私の意見(弁尖はこの病気にやられないから温存する)を支持していただき、

勇気百倍で手術に臨みました。

手術Ao拡張と癒着手術ではさすがに大動脈基部の拡張と炎症のため、

周囲組織と癒着し(右図)、壁はもろく弱くなっていましたが、

大動脈弁の弁尖はきれいで温存すべき所見でした(左下図)。

手術大動脈基部展開そこでまず大動脈弁の弁輪部と弁尖および左右冠動脈入口部を残して大動脈基部を切除し、

これをダクロン人工血管の中に入れ込み、縫着しました。

ついで3つの弁尖が正しいレイアウトになるように3交連部の三次元位置を調整してから大動脈弁輪部付近の大動脈壁を縫着し、

手術右冠動脈吻合中最後に左右冠動脈入口部を人工血管に縫合しました(右図)。

人工血管を上行大動脈の遠位部に連結して手術を終えました。

手術吻合完成術後経過は良好で、

術翌日には集中治療室を退室して一般病棟へ戻られました。

大動脈炎のコントロールがたいせつなため、

しば 術後3DCTし入念にステロイドを調整し、CRPも1.9まで低下改善したため、

術後約2週間で元気に退院されました。

術後ARなしその後は膠原病の専門の先生と、私たちの外来の両面からフォローし、

お元気にかつ大動脈炎症候群も軽快安定した形で暮らしておられます。

今後は健康生活を楽しむとともに、

二次予防つまり大動脈炎を再燃させないように外来でしっかり見守って行く予定です。

 

大動脈炎症候群のページにもどる

デービッド手術のページにもどる

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合 わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例:大動脈炎症候群にベントール手術を

Pocket

患者さんは 57歳女性、大動脈炎症候群大動脈基部拡張大動脈弁閉鎖不全症AR、高血圧のため手術となりました。

手術前から大動脈炎に対して長年ステロイド剤を服用してこられました。

内科の先生のご尽力でステロイドは一日7.5mgまで減量されていました。

Photo 

 

手術では上行大動脈のなかほどから基部まで拡張著明でした(写真左)。

ARのため左室も拡張し機能低下していました。

全体に組織はぜい弱で少しの伸展で裂ける傾向が見られました。

大動脈の炎症のための拡張とステロイド剤の影響が考えられました。

体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開し、離断しました。

Photo_2大動脈弁は3尖でいずれも肥厚と短縮が見られました(写真左)。

大動脈炎症候群では大動脈壁が炎症で壊れ、弁そのものは壊れにくいのですが、

この患者さんでは長期の弁逆流のため二次的に弁も壊れていました。そこで

これらをすべて切除し基部置換(ベントール手術・ベンタール手術)することにしました。

大動脈基部は拡張し、右冠尖バルサルバ洞の冠動脈入口部と弁輪の間に石灰化が見られました(写真左)。

                                                                                                                                    .

Photo_3弁をすべて切除し、さらに大動脈基部を剥離展開しました。

まずバルサルバ洞付きダクロン人工血管30mm径の内側にATS機械弁27mmを縫着したものを作 り、

この人工血管を大動脈弁輪に縫着しました。 

  .

弁輪が大動脈炎症候群で弱っている可能性を考え、大動脈の外からも糸をとおし、二重縫合とし一層の安全を図りました。

2  

 ここで左冠動脈入口部をボタン状にくりぬき、

上記のバルサルバ洞付き人工血管に

直径4mm程度の穴をあけて

縫合しました

(写真左)。

 

Photo_4同様に右冠動脈入口部もボタン状にくりぬき、

上記人工血管に直径5mmの穴をあけて縫合しました

(写真左)。

これによって、

大動脈壁は基部付近には事実上残さない形になり、

かつ冠動脈入口部付近のわずかな大動脈壁も

ほぼ人工血管で守られる形になりました。

Photo_5上行大動脈遠位部に人工血管を縫合し(写真左)、

146分で大動脈遮断を解除しました。

大動脈基部置換手術(ベンタール手術)完成です。

体外循環からの離脱はカテコラミンなしで容易に行えました(写真左)。

経食エコーにて大動脈弁や左室右室の機能良好、および左右冠動脈入口部の良い形態を確認しました。

術後は通常の基部置換よりは慎重に治療し概ね順調で、感染などのステロイド剤の副作用もなく、再開し3週間で元気に退院されました。

あれから3年以上が経ちますが、お元気に暮らしておられます。

大動脈炎の患者さんとくにステロイド服用中の患者さんは手術ができないと言われることがよくあるようですが、心臓外科の専門家の間では必ずしもそうではありません。まずは相談です。

さらに弁尖の破壊が軽ければ、患者さんご自身の弁を温存するデービッド手術が可能です。やはり相談がたいせつです。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

1.弁膜症のなかの大動脈炎 のページへもどる

3.大動脈疾患の中の大動脈炎 のページへ戻る

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。