大動脈基部拡張症 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月17日

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◆ 大動脈基部拡張症とは?

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大動脈基部拡張症(aortic root dilation / aneurysm) とは、心臓と大動脈の境目である「大動脈基部」が異常に広がる病気です。AoRootCrossSection

  • 進行すると 大動脈基部が破裂 したり

  • 大動脈弁が壊れて逆流(大動脈弁閉鎖不全症) を起こしたりする

とても危険な疾患です。

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主な症状

  • 運動時の 息切れ・動悸

  • 進行すると 胸痛・失神発作

  • 基部が破裂すれば ショック状態から命に関わる緊急事態 となります

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◆ 大動脈基部の構造と役割

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大動脈基部は心臓外科で「難所」といわれる部分です。深い場所にあり、周囲に重要な構造物が密集しています。

地下1階(基部の下部)

  • 心室中隔(心臓を左右に分ける壁)があり、とても脆弱

  • 近くには 刺激伝導系(心臓の電気信号の通り道) が走り、損傷すると心ブロック・ペースメーカー依存になる可能性があります

地上1階(大動脈弁輪)

  • 左室と大動脈の境目

  • 吊り橋のような構造で、大動脈弁がスムーズに開閉できる仕組みになっています

地上2~3階(バルサルバ洞~STジャンクション)

  • バルサルバ洞:弁がやわらかく閉じるための「ショックアブソーバー」

  • 冠動脈の入り口:心臓を養う血管の起点

  • STジャンクション:大動脈基部から通常の大動脈へ移行する境界

このように精密な構造があるため、拡張や変形が生じると 弁の逆流や血流障害 に直結します。

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◆ 大動脈基部拡張症の原因

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大動脈基部拡張症は、以下の患者さんに多く見られます。

  • マルファン症候群などの遺伝性結合組織疾患

  • 二尖弁(大動脈二尖弁) の方

  • 大動脈炎症候群

  • 感染性心内膜炎(IE)

特にマルファン症候群では若年でも発症するため、定期的な画像検査(心エコー・CT)が重要です。

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◆ 大動脈基部拡張症の治療法

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拡張が進行し、破裂のリスクが高い あるいは 大動脈弁の逆流が強い 場合は外科手術が必要となります。

主な手術方法

212450209
自然が一番です。手術もできるだけ自然な自己弁温存で。
  • デービッド手術(弁温存基部置換術)
     → 自分の大動脈弁を残して基部を人工血管に置換。拡張が軽ければフロリダスリーブ手術で同じ効果。

  • ヤコブ手術(リモデリング術)

  • ベントール手術
     → 弁尖が修復不能な時に、大動脈基部+大動脈弁+冠動脈をまとめて人工血管・人工弁に置換

  • ロス手術
     → 自分の肺動脈弁を大動脈弁に移植する特殊手術

基部だけでなく、大動脈弁や冠動脈の状態に応じて最適な術式を選びます。

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◆ 予防と定期健診の重要性

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大動脈基部拡張症は自然に治ることはありません

  • 直径が一定以上に拡大した場合(例:50mm以上)は手術が推奨

  • 進行速度が速い場合も注意が必要

  • 定期的なCT・心エコーによる経過観察 が生命予後に直結します

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◆ まとめ

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  • 大動脈基部拡張症は 大動脈の根元が膨らむ危険な病気

  • 放置すると 破裂や大動脈弁不全で命に関わるリスク

  • マルファン症候群・二尖弁の方は特に要注意

  • 治療は デービッド手術・ベントール手術などの外科治療が中心

  • 定期検診と早期治療 が長期予後のカギとなります

➡ 大動脈基部手術について詳しく読む → [こちらをご覧ください]

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大動脈弁のリンク

◆ 弁置換術とは?

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス法によるもの

弁閉鎖不全症 

◆ とくに「二尖弁」 について

弁形成術 

◆ ミックス手術(MICS)によるもの

◆ 自己心膜をもちいたもの

◆ 自己心膜による大動脈弁形成術(再建術)

 

ステントレス弁 

大動脈基部 の手術

ベントール手術 

◆  ミニルート法(インクルージョン法)

◆  デービッド手術 

◆ ミックス法でのデービッド手術

大動脈弁輪拡大術(大動脈基部拡大術)

◆ マルファン症候群について: 弁も大動脈も守りましょう

◆  日本マルファン協会での講演と質疑応答 2010年8月

大動脈炎症候群 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例:大動脈炎にデービッド手術を施行

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大動脈炎症候群(大動脈炎)は今も油断ならない病気です。

放置すると大動脈だけでなくあちこちの動脈がやられてその結果、眼が見えなくなったりします。大動脈のどこかの部分が瘤つまりこぶのように広がると破れる心配がでてきます。大動脈基部が壊れて広がると破裂の恐れもありますし、大動脈弁閉鎖不全症となって弁膜症を合併してしまいます。

若い女性が多いだけに、弁膜症となると長持ちする機械弁をと短絡すると将来の妊娠や出産に大きな困難を残しますし、生体弁では長持ちしません。

ライフスタイルを含めた長期的なプランにしたがって治療戦略を立てる必要があり、とくに予防と二次予防つまり治療のあとの再発防止も大切です。

術前3DCT患者さんは20代前半の女性で近くの大学病院にて大動脈炎症候群の診断でステロイドによる治療を受けておられました。

しかし病気が進み、大動脈基部は拡張し(左写真)、その結果、大動脈弁は寸足らずとなり大動脈弁閉鎖不全症を合併していました(右図)。

労作時の息切れが強くなり、ときどき胸痛を覚えるようになって私の外来へ来られました。

ステロイド剤が一日 術前AR10mgを割ったタイミングで、手術することになりました。

ステロイドが多量に入った状態では創が治りにくくなったり、酷い時には人工弁や人工血管がはずれることもあり得るからです。

そもそもこの患者さんの将来設計とくに妊娠出産のためには自己弁(弁尖)を温存するデービッド手術が必須で、極力これを行う方向で準備しました。

弁尖は大動脈炎にはやられないというデータがあるからです。

Bavaria先生とこの準備に当たっては、

大動脈基部再建手術の世界的権威であるペンシルベニア大学のバーバリア先生(Prof. Joseph Bavaria)の御意見もいただき、

私の意見(弁尖はこの病気にやられないから温存する)を支持していただき、

勇気百倍で手術に臨みました。

手術Ao拡張と癒着手術ではさすがに大動脈基部の拡張と炎症のため、

周囲組織と癒着し(右図)、壁はもろく弱くなっていましたが、

大動脈弁の弁尖はきれいで温存すべき所見でした(左下図)。

手術大動脈基部展開そこでまず大動脈弁の弁輪部と弁尖および左右冠動脈入口部を残して大動脈基部を切除し、

これをダクロン人工血管の中に入れ込み、縫着しました。

ついで3つの弁尖が正しいレイアウトになるように3交連部の三次元位置を調整してから大動脈弁輪部付近の大動脈壁を縫着し、

手術右冠動脈吻合中最後に左右冠動脈入口部を人工血管に縫合しました(右図)。

人工血管を上行大動脈の遠位部に連結して手術を終えました。

手術吻合完成術後経過は良好で、

術翌日には集中治療室を退室して一般病棟へ戻られました。

大動脈炎のコントロールがたいせつなため、

しば 術後3DCTし入念にステロイドを調整し、CRPも1.9まで低下改善したため、

術後約2週間で元気に退院されました。

術後ARなしその後は膠原病の専門の先生と、私たちの外来の両面からフォローし、

お元気にかつ大動脈炎症候群も軽快安定した形で暮らしておられます。

今後は健康生活を楽しむとともに、

二次予防つまり大動脈炎を再燃させないように外来でしっかり見守って行く予定です。

 

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執筆:米田 正始
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元・京都大学医学部教授
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お便り61: ミックスのデービッド手術のため三重県からお越し下さった患者さん

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デービッド手術は現在も大きな心臓手術のひとつで、心臓外科の豊かな経験を必要とする領域のひとつです。

Mie ilm23_ea01001-sこの手術は患者さんご自身の大動脈弁を温存し、必要に応じて手直しつまり弁形成して、その外側を人工血管で守るという、繊細なデザインと手技を必要とします。

そのため豊富な経験が必要で、手慣れている施設が少ないのです。

とくにこのデービッド手術をミックス(MICS)つまり小切開低侵襲手術で小さい創で行うにはさらに経験や技術が求められます。

以下の患者さんは、こうした手術をもとめてやや遠方からお越し下さいました。

もとの病院ではセカンドオピニオンの依頼状さえ当初は拒否されるという厳しい状況の中を勇気を出してご自分の信念を貫かれました。

なんとなくその場の流れに負けてしまうと、機械弁をもちいたベントール手術になりかねない、それもあまり熟練しないチームで、実績のない中での手術という現実を見抜いてのことでした。

現代は、医師や病院を選ぶのは患者さんの権利です。

じっくり考え、多角的に意見をもとめたり情報を集めてから心臓手術を受けるというのはごく普通のことなのです。

それを否定するような医師や病院は考え方の根本から間違っていると申せましょう。

 

お手紙は当院のご意見箱に記名入りで入れて下さいました。

 

**********患者さんのご家族からのお便り********

PtLetter61他の病院でセカンドオピニオンを拒否され、家族は途方にくれ頭の中は真っ白になり、ネットで調べていた名古屋ハートセンターにメールをしました。

メールの返事もすぐに頂き、早い対応をして頂き、大手術となり、術後も回復よく元気にして頂きました。

ハートセンター心臓血管外科は国内、世界にもない最高の医療だと思います。

全国でも心臓疾患に悩みの方、ぜひハートセンター心臓血管外科にご相談され検査される事をお勧めします。

私たち家族に命を頂き、感動と感謝でいっぱいです。

米田先生、北村先生、深谷先生、小山先生、お世話になった全スタッフの皆様ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いします。

平成24年5月7日

三重県********

*******

 

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執筆:米田 正始
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ミックスでのデービッド手術【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月27日

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◾️デービッド手術にもミックスは可能?

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低侵襲化の波のなかで、私たちは複雑な弁形成手術に対しても、より患者さんにやさしいミックス(MICS、小切開低侵襲の心臓手術)を行っています。

と言ってもデービッド手術とくに手術前の大動脈弁閉鎖不全症が強いときは必ずしも簡単な手術ではありません。

やはり自己弁温存が、弁逆流を起こすことなく完遂することを第一目標術後写真bにするのが正しいと考えています。

その基本姿勢を守りつつ、できるだけ創を小さく、また早期の社会復帰ができるよう、皮膚の小切開法ミックスや、胸骨部分切開法でのミックス手術を探求しています。右写真はその一例です。まだ術直後でテープがついています。

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◾️ミックスのデービッド手術が喜ばれるのは

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デービッド手術を受けられるのは比較的若い患者さんが多いため、ミックスは一層よろこばれます。

創の美しさもさることながら、それによって気持ちが前向きになるとか、積極性が出る、自信がつく、などもあるようです。夏服が楽しみやすいというのも利点のひとつです。

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David & Bentallぎゃくに、ご高齢の場合はデービッド手術でなくても、つまり生体弁をもちいたベントール手術でも、その生体弁は20年近く持つため十分意義があると思います。

ある一定時間内に確実に完遂でき、あとの結果も安定しているという意味でご高齢の患者さんにはベントール手術の方が益することが多いという印象です。

そのためご希望がある場合はベントール手術でミックスを行うこともあります。

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安全性を確保しつつ、その患者さんの年齢や仕事、ライフスタイル、もちろんご希望などを十分勘案し、ベストの選択をすることが望ましいと考えています。

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参考ページのIndex:

MICSとは

ポートアクセス法にかかる費用は?
危険なの

その術後の痛み軽減について社会復帰が早いわけは?

美容について

胸骨「下部」部分切開法とは

ビデオ 心臓手術:連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
大動脈弁

ミックスによる弁置換

同、弁形成
ポートアクセス法による弁置換術

患者さんやご家族からのお便り

お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん

お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

お便り48: ミックス手術ですみやかに社会復帰された患者さん

お便り50: 大動脈二尖弁と上行大動脈瘤の患者さん

お便り61: ミックスのデービッド手術のため三重県からお越し下さった患者さん

お便り62: ミックスの弁形成術と冠動脈バイパス手術を受けた患者さん

お便り66: バルサルバ洞破裂と心室中隔欠損症などを克服した患者さん

お便り67: ミックスで右室二腔症の手術を受けられた患者さん

お便り70: 自己心膜で大動脈弁形成術(再建術)をミックス法で受けた患者さん

お便り71: ミックス手術で大動脈二尖弁形成を受けた15歳の患者さん

お便り72: 二弁置換とメイズ手術をミックス法で受けた患者さん

お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動をミックス法手術で克服

お便り78: ベントール手術をミックスで受けられた患者さん

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事例: 慢性大動脈解離への自己弁温存式大動脈基部再建手術(デービッド手術)

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慢性大動脈解離つまり大動脈解離のあと、手術を受けても月日が経って、手術以外の部位が膨らんで瘤(大動脈瘤)になることがあります。

いくつかのパタンがありますが、いずれにせよ、瘤が破れれば死亡しますし、そうでなくとも、場所によっては大動脈弁が瘤の影響を受けて弁膜症さえ合併することがあります。

つぎの心臓手術の事例はそうした慢性大動脈解離のケースです。

胸部XP
患者さんは51歳男性で、8年前、急性大動脈解離のため、近くの病院で上行大動脈置換術を受けられました。

それからはお元気に生活しておられましたが、徐々に大動脈基部つまり大動脈の一番根本の部分が拡張し瘤になったためハートセンターの米田外来へ来院されました。

胸部X線写真(右写真)ではかつての解離の跡かたで弓部大動脈大動脈がやや突出して見えましたが他には異常所見ありませんでした。

PreopCT2造影CT(左写真)にて以前手術を受けられた部位つまり上行大動脈は人工血管で安定していましたが、その根本の、大動脈基部とくにバルサルバ洞と呼ばれるふくらみ部分が直径60mmと異常に拡大し、破れそうになっていました。

さらにその基部の拡張のため、そこに付いている大動脈弁が閉じられなくなり、大動脈遮閉鎖不全症つまり逆流が発生し始めていました。

そこでガイドラインに沿って、瘤の破裂や弁膜症を防ぐため手術をすることになりました。

手術では以前の手術で人工血管が使われているため、その人工血管と周囲の組織との癒着が強く、そのままでは心臓や大動脈の中に入れないため、丁寧に剥離を進めました。あとで出血しやすい状況のため、入念に止血しながら進めました。

AvalveOKそして体外循環という、一種の人工心臓を回して安全確保ののち、心臓を止めて、大動脈と心臓の中に入りました。

まだ51歳とお若いご年齢のため、人工弁をもちいるベントール手術ではなく、患者さんご自身の大動脈弁を温存・修復してきれいな形にまとめつつ、大動脈を人工血管でとりかえるデービッド手術を行いました(写真右)。

米田の恩師・デービッド先生に直伝して戴いた方法にその後の磨きをかけた方法で手術を進めました。

PostOpCT無事、人工血管の中に患者さんの大動脈弁が入り、逆流なくきれいに開閉し、かつ左右冠動脈の根本部分も人工血管につないで修復は完成しました。

術後のCTでは大動脈基部はきれいに安定し、もはや破れる心配は消えました。大動脈弁の逆流も解消し、心機能も良好でした(写真左)。

手術後10日でお元気に退院されました。

術後まる2年が経ちましたがお元気に定期健診のため外来へ来られます。

この手術のおかげで、ワーファリンは無しで、かつ長期間の安定が期待でき、再手術の見込みはかなり低いと考えられます。

つまり機械弁をもちいたベントール手術では大動脈基部の安定は図れても、ワーファリンが一生必要ですし、生体弁をもちいたベントール手術では基部の安定やワーファリン無しはできても、10年あまり後に再手術が必要となります。

やはり親からもらった自然の弁を活かしつつ、大動脈のみ人工血管に代える手術が望ましいわけです。

今は外来に定期健診にてお元気な顔を拝見するのが楽しみなこのごろです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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事例: デービッド手術を受けたマルファン症候群の患者さん―安心生活へ

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マルファン症候群の患者さんは結合組織が弱いため、

大動脈や弁がしばしば壊れます。

また同じ原因で目が強い近視になったり背骨が曲がったりすることがあり、

きちんとした予防や定期健診などによる早期発見、早期治療が大切です。

また日頃から勉強や相談をして病気の理解に努め、

いざという時に備えることが長期の安全に役立ちます。Ilm16_ad03009-s

 

次の患者さんも定期健診の中から、次第に大動脈の基部が拡張し、

ガイドラインを満たすサイズになったところで

十分な医学的準備と心の準備のもとに心臓手術を受けられ、

心配を解決し、妊娠出産などの人生の次のステップへのスタートとされました。

 

PreopCT 患者さんは34歳女性でマルファン症候群のため脊椎側彎をもっておられます。

大動脈基部が次第に拡張し直径50mmに達したこと、

さらにそのために大動脈閉鎖不全症が起こりつつある状態から

デービッド手術という患者さんご自身の大動脈弁を温存する大動脈基部再建手術をすることになりました。

 

最近結婚され、妊娠出産をご希望という事情もあり、

デービッド手術のあとなら大動脈解離などが起こりそうな部位もなく、

かつワーファリンも不要なため、

じっくり相談の上、このタイミングで手術することになりました。

手術では、体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開し、

 
PreopEchoLAx 大動脈弁が3尖とも長期間使えるだけの質を持っていることを確認し

デービッド手術に適していることを確認しました

(手術写真は準備中です)。

 

まず大動脈弁輪のすぐ下に糸をかけ、

人工血管が弁輪をも守れるようにします。

人工血管に微調整の切れ込みを入れてから大動脈基部の外側へ落とし込みます。

サイズの調整を正確に行い弁の構造に無理がかからないようにします。


人工血管の内側で3つの交連部を適切な高さに吊り上げて、これを固定します。

そして弁のすぐ近くの大動脈組織を人工血管に隙間なく縫い付けて弁の再建は完成です。

水テストや心筋保護液注入テストで弁に漏れがないことを確認します。

必要があれば弁尖の形成を追加します。


ここで左ついで右の冠動脈入口部を人工血管に小穴をあけてそこへ縫い付けます。

冠動脈がねじれたり折れたりしないように工夫しています。

冠動脈入口部の吻合に漏れがないことを確認し、

人工血管を上行大動脈の遠位部と連結して操作は完成です。

PostopCT 術後経過は順調で、出血少なく、

心不全や不整脈もとくに無く、

術翌日には一般病棟へ戻られ、

心臓リハビリ(運動)ののち、術後 1週間あまりで元気に退院されました。

 

心臓手術からまる2年が経ちました。

お元気にしておられ、心臓も大動脈も安定しています。

 

今後も外来でフォローアップ・健康診断を行いつつ、

長期的な安全対策とくに脊椎の治療などを専門医と相談しながら検討しています。

大動脈の他の部位は現時点でまったくきれいなため、予防策もより効果が期待できます。

 

大動脈基部拡張症の患者さんとくにマルファン症候群や大動脈二尖弁の患者さんは

大動脈壁が構造的に弱いため、破裂や解離などへの注意や対策が必要です。

逆に、こうしたことを注意しておけば安全性は大きく高 PostopEchoLAx まります。

この患者さんの場合はデービッド手術によって妊娠出産の安全性が高くなり、

より安心した人生の設計が立てられるようになりました。


このデービッド手術は大動脈基部がもっと拡張し、

大動脈弁閉鎖不全症(つまり弁の逆流)が強くなってからでも可能な手術です。

しかし高度の逆流になってあまり弁が壊れてから形成するよりは

まだ比較的良い状態が保たれているうちに弁を守る手術をするほうが長期的に有利です。

そうしたことは患者さんやご家族の方々とのきめ細かい相談によって解決できるのです。

David & Bentallメモ: ベントール手術でも生体弁をもちいたものであれば、

このデービッド手術と同様のことができます。

ただしその場合、妊娠出産によって生体弁が急速に劣化し、

数年後に再手術となることもあり、

この点でデービッド手術は有利です。

自然の弁はカルシウムなどを自ら掃除するちからがあるからです。

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