いい心臓・いい人生 【第129号】 AATS(米国胸部外科学会)2019にて

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いい心臓・いい人生 【第129号】 AATS(米国胸部外科学会)2019にて
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発行:心臓外科手術情報WEB

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編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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今年もAATSの時節となりました。今年は5月4日から7日まで、私の古巣でもある
トロントでの開催で、行って参りました。ニューヨークで僧帽弁国際シンポに参加
して、そのままハシゴしての参加でした。

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今年はニューヨークのDavid Adams先生が会長で、彼らしく大改革した学会内容と
なりました。これまでは少ない数(およそ100題あまり、近年はポスターを含めて
200題ほど)の優秀演題を一会場で皆でじっくり聴き、時間をかけて十分議論する
というのがAATSの伝統的なスタイルでした。世界の心臓血管外科の最高峰という
矜持に満ちた運営だったとも言えましょう。ここで演題が選ばれることは光栄で
あり、そもそもこの学会は会員数600名限定の超ハイソで、この学会員になること
が栄誉なことと思われていたものです。

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しかし数の力という点でこうした運営は限界が見えて来たのでしょうか、会員数も
近年急に増え、学会での発表もこれまでの形態を改め、教育講演的なものをまず
1-2置き、ついで選ばれた演題2-4つを置くという、より教育的配慮の強い構成
になりました。その分、かつて初日にあった卒後教育セッションは廃止になりまし
た。

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ある意味、日本の学会運営に少し近づいたという感もありますが、数の力、そして
国際協力の力を前面に出し、これからの胸部外科を守り発展させようという意欲の
見られる構成でした。
国際協力の一環でしょうか、日本始め米国外の座長や講演が増え、私も心筋梗塞後
VSD(略称VSPまたはVSR)の講演を依頼されました。中でも難易度が高い後壁
VSDの担当となり、ちょっと力が入りました。

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前壁VSPは畏友、ジョンスホプキンス大学のJohn Conte教授が講演されました。
彼はスタンフォード大学で一緒に勉強した仲で、相変わらず緻密で質の高い講演で
大変参考になりました。
彼がSTSデータベースで検討したところ、VSPは心筋梗塞後1日目での手術の死亡率
は90%もあり、以後は日数とともに低下し、梗塞後3週間で死亡率1桁となること
を示し、これは心筋がstunnedつまり気絶心筋状態になるためと推察しました。
確かに気絶心筋状態では私の方法(Exclusion法とかDavid-Komeda法とか呼ばれる
方法)でも右室サンドイッチ法でもその他の方法でも成績が安定せず、もっと改良が
必要という印象がありました。
そこで彼らが工夫したのは、補助循環を用いて気絶心筋が回復したタイミングで手術
することでした。

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もう一つ面白いと思ったのはVSPは時間とともに周囲の心筋が繊維化し縮んで行く
ためVSPの穴としては大きくなって行く、そのため単純に穴だけ閉じても後で裂け
て再発しやすいという考えでした。

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私の発表は1990年に発表したExclusion法をもっとやりやすくした2017年版で、
帯状パッチでVSPを遠巻きにして縫い付け、それもやりやすい水平マットレスで行い、
糊を塗ってからもう一回縫合することで完全にシャントを止めるというものでした。
この方法は便利!使えると上記のJohn Conteらにも言っていただき、嬉しいこと
でした。また時間とともにVSPの穴が大きくなっても私の方法なら対応できるため
有利であることも知って頂きました。

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上記の補助循環とうまく組み合わせ、気絶心筋症例に使えば、成績はさらに改善する
ものと思いました。これからの展開が楽しみになりました。ともあれおかげさまで
AATSで3年連続発表または講演ができ自分なりのノルマを果たした気分です。

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今年のAATSでは弁膜症、冠動脈、大動脈などでも同様に例年以上にレベルの高い
討論が聞かれ、大変有意義でした。ミックスでも内視鏡やロボットを含めて完成度
が上がったという印象でした。カテーテルで入れる人工弁やクリップの最新情報も
得られ、方向性がよくわかりました。内科の先生の参加もあり有意義なディスカッ
ションになりました。全米データベースの積極活用も面白いと思いました。

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トロントの恩師、旧友たちに再会できたのも良かったです。恩師の多くは現在も
お元気で、私は昔の修練医に戻った気分でした。会長ディナーではカナダが生んだ
高名なジャズシンガー、Diana Krallのコンサートがあり、ここはカナダだ!と
嬉しくなりました。

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30年前に住んでいたトロントの街を歩いてみました。意外に昔のままでタイム
スリップしたような気持ちになりました。この歳になっても、あの頃の夢をまだ
持ち続けて日々仕事に精出せること、皆さんと患者さんに感謝しながらトロントを
後にしました。

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令和1年5月20日

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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第128号】 Mitral Conclave(僧帽弁国際シンポ)にて

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いい心臓・いい人生 【第128号】 Mitral Conclave(僧帽弁国際シンポ)にて
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発行:心臓外科手術情報WEB
http://www.shinzougekashujutsu.com
編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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恒例になったこの僧帽弁シンポジウムに参加してきました。2年に一度のシンポですでに5回目のため早10年が経ちます。5回とも皆勤で発表して来ました。

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世界の僧帽弁オーソリティが集まるため内容も豊富で、何より直接議論ができ本音が聞けるという隠れたメリットもあり大いに活用させて頂きました。

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時代の流れでカテーテルによる大動脈弁や僧帽弁の治療にかなりのセッションが当てられていました。こうした方法は患者さんの状態や年齢によってうまく活用すれば心臓手術と住み分けや併用もでき、治療成績の向上に繋がるため悪くないと思いました。

日本はデバイスラグのため新しい道具がすぐには使えず、とりあえず今後の方向性を考えるという役立て方であったのは残念ですが。

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外科手術の方ではいつも通り、様々な状況にあわせた手術特に弁形成術を見たり討論することができました。特に新しいものはありませんでしたが、毎回完成度が上がっていると思いました。

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私自身の発表は、事務局の手違いで2つの発表のうち1つがプログラムに載っておらず、会長のアダムズ(David Adams)先生に聞いてみたところ、平謝りして早速プログラムの中に入れてくれました。それが虚血性僧帽弁閉鎖不全症のセッションでの講演でした。

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私が発明・改良した2つの手術つまり乳頭筋最適化と心尖部凍結型左室形成を組み合わせたもの(Dual Repair)発表でしたが、欧米特に北米ではこれほど重症の患者さんに手術はしないためちょっと飛びすぎてピンと来なかったかも知れません。しかし欧米といえども心臓移植には数の限りが強いため、看取りになる患者さんが多すぎるという現実があり、後で色々なご質問をいただきました。

これから日本発の心臓手術で世界に貢献できればと思いました。

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と思っていたら、早速トロントの旧友から話があり、私も昔大変お世話になったトロント大学の先生がひどい虚血性僧帽弁閉鎖不全症・虚血性心筋症になってどうにもならず、日本まで手術を受けに行きたいとご本人が希望しているということで、もしお役に立てるならこんなに光栄なことはないとお返事しました。かつて自分を教え育ててくれた恩師に、弟子がここまで成長したことをお見せしたいものです。

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この僧帽弁国際シンポは今回もニューヨークで開かれ、学会の後は街を散歩しました。地元の人が行くような普通のレストランでヤンキースの野球を見ながら大型のハンバーガーを食べる(美味!)、隣の人たちは大声ではしゃいでいる、アメリカいいなあと思うひと時でした。

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令和1年5月13日

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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

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いい心臓・いい人生 【第127号】 第49回日本心臓血管外科学会にて

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いい心臓・いい人生 【第127号】 第49回日本心臓血管外科学会にて
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編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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この2月10日から13日まで日本心臓血管外科学会のため岡山へ行って来ました。

川崎医大教授の種本和雄先生が会長で、一言で申し上げれば「入魂の素晴らしい学会」
でした。

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科学的な学術集会としてのレベルはもちろんですが、普段あまり光が当たらない領域も
重点的に取り上げ、また同先生が力を入れて来られた専門医制度、医療安全や盲点になり
がちな知識技術の強化、重要であるにもかかわらず見過ごされがちなメディカルアート、
患者さんの命をかけての勝負とどこか共通する将棋の名人の話、実用的な手術ビデオ、
はては懇親会での力のこもったお酒・ワインとチーズ、などなど入魂の学会でした。

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私自身は学会での勉強や交流を楽しみながら、わがチームの新しい手術を報告しました。
複雑僧帽弁形成術の会長要望セッションで私たちの連続ループ法を発表しました。従来法
より効率が良いため、これまでおいそれとはできなかった複雑僧帽弁形成術が可能となり、
しかもミックスでも使いやすいため関心は持っていただけたらようです。

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さらに最近話題の心房性機能性MRに対する心房縮小メイズを発表し、有益なコメントや
質問をいただきました。この手術は12年前にメジャージャーナルにてオリジナルで発表
した内容の発展型でこれから多数の患者さんを助けるものと期待しており、関心を持って
くださる先生方が多かったのは嬉しいことでした。発表の翌日のシンポジウムで倉敷中央
病院の古市先生、小宮先生、島本先生らがその12年前の論文を引用して下さり、それを
ゲストコメンテーターのウェルズ先生(Francis Wells、ケンブリッジ大学)が高く評価
して下さったため誇らしいひと時でした。しかし多くの心臓外科医に活用して頂いてこ
その新術式ですので、これから啓蒙活動を進めようとEBM社の朴先生らと相談していました。

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補助循環のセッションで、補助循環へのブリッジまたは代替治療としても役立つ新しい左室
形成(心尖部凍結型左室形成術)を発表し、良いコメントをいただき、今後に繋げる発表と
なりました。

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なお会長要望のMICSの功罪セッションでは様々な観点からの議論があり有意義でした。
ロボット導入が急に進んでいるという印象を得ましたが、あまり良くないという発表もあり、
むしろ3D内視鏡は有望との印象でした。なぜかMクリップ(カテーテル治療)の発表も海外
からあり、DCMに対するMクリップの成績が1年死亡率30%と悪いことがわかりました。対象
にもよるのですが、私たちの成績(PHO乳頭筋吊り上げ等)はこれを遥かに凌駕しているため
今後さらに精進したく思いました。

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楽しく有意義な4日間でした。留守を守って下さった医誠会病院の皆様に感謝申し上げます。

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平成31年3月15日

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医誠会病院心臓血管外科スーパーバイザー
心臓血管外科専門医・指導医
米田正始 拝

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拡張型心筋症と左室形成術、、患者さんの想い出

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Aさんは60代男性で岐阜県から当時米田正始 Sick_29が勤務していた京大病院へ来られました。

ことの起こりはその娘さんがメールでご連絡下さったところからです。先生、私の父を助けて下さい、あと1週間のいのちと言われました、と。

さっそく電話等で連絡し、主治医の先生とも相談しました。拡張型心筋症の末期状態で、とても搬送できる状態ではない、しかしご家族とご本人さまがどうしてもと言われるのであれば、協力します、とのことでした。

相談の結果、ヘリコプターで岐阜の病院 ILM09_CF02003から京大病院(ヘリポートがないため例によって近くの賀茂川の三角州を代用)へ搬送戴きました。

診察の結果、確かにあと1週間の拡張型心筋症と言われるのはよく理解できる状態でした。駆出率も10%台で心臓はほとんど動かず、危篤状態でした。

それからまもなく心臓手術となりました。

手術では左室形成術で左室のとくに悪い部分を小さくし、あとは左心室の形を整え、ベストの大きさに造りかえるという作業をしました。

同時に僧帽弁形成術なども行い万全を期しました。

165772220術後経過は当時のことですから、さすがに大変でした。ICUで1週間以上かけてじっくりと心不全を治し(当時の看護師さんたち、ありがとうございました)、

それ以後は着実に体力をつけて状態が改善して行きました。

今ならもっと短い期間でICUを出ることができると思いますが、当時としては左室形成術を受けた最重症の患者さんはそれぐらいはかかることがよくありました。

入院期間も長く、1か月以上かかりましたが、最後は歩いて笑顔で帰宅して行かれました。来院時はヘリでしたが、退院時は自家用車で、印象的でした。

患者さんの娘さんには、あなたの勇気ある Ilm08_cf05003-s行動のおかげでお父さんが助かったんですよ、立派です、とお礼を申しました。娘さんはただじっと聴いてくれました。

半年後、ご家族からの年賀状を頂きました。昨年までのお正月は(心不全で)息苦しく、病院の救急外来に急いでいくこともよくありましたが、今年は久しぶりに穏やかで平和なお正月を皆で楽しんでいます、と。

ご家族の温かい団らんが眼に見えるような年賀状でした。

194304509それから数年経ちました。その病院の先生とお話しする機会があり、8年経った現在もお元気にしておられるとのこと。本当にうれしく、皆の努力が報われた想いでした。拡張型心筋症の末期の患者さんが移植なしでこれほど長くそれもお元気に暮らしておられることは珍しいと思います。

この喜びを当時の京大病院で一緒に苦労してくれた医師や看護師の皆さんと分かち合えればと思いました。患者さんがICUで苦しそうに闘病しておられた姿しか知らない看護師さんたちに、この幸せな姿を知って頂ければ、心臓外科での努力の意義を実感して頂けると思いました。

ともあれ患者さんのこうしたお姿を見るにつけ、あきらめてはいけない、可能性がある限り全力を尽くさねばならない、あらためてそう思うのです。

追伸:2018年に大学病院でも手術を断られた患者さんが金沢から来られました。その方の手術も大変でしたが、結局お元気に退院されました。その時にご家族(医師)が上記の患者さんが現在もお元気に暮らしておられることを友人医師から聞きましたと教えて下さいました。手術から10数年経った後の感動でした。

 

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2. 心筋症・心不全 にもどる

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執筆:米田 正始
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左室緻密化障害、、患者さんの想い出2

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15年あまり前、2例目の左室緻密化障害のオペをハートセンターにて執刀させて戴きました。

Bさんは約20歳の男性で左心室の中に狭窄があり、緻密 Ilm14_bf01002-s化障害のために左室の半分近くが肉柱や繊維でうずまる中に筋肉の突出がありました。

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これらの組織をしっかりと切除したくても僧帽弁を支える乳頭筋の根本さえ左室緻密化障害でスポンジ様になっていたためなかなか思う存分の手術操作ができません。

ひとつひとつ確認しながら、左室を狭くしている異常心筋を切除し、乳頭筋を守りながらその周辺の肉柱を丁寧に切除しました。

これにより心室の中に血液が入りやすくなり、その機能が改善しました。

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術前は軽い仕事でも息切れがあったのですが、術後はそうしたことが起こらなくなりました。仕事にも打ち込んでもらいやすくなりました。

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Nurse_thinkただ仕事が忙しく、外来にも次第に来られなくなり、まあ元気で仕事に忙しいのであればまだしも幸いなのですが、心臓を守る薬を止めるということは、今後確実に心機能が悪化し下降線をたどることになるのです。

実際、その後いちど外来に来られたときに心エコーを調べると、それまでほとんどなかった肺高血圧が発症し、左室の拡張機能が低下し始めていることが判明しました。薬を使えばある程度以上はその進行を抑えられるのです。

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Bさん、君は若く将来があるというのに、せっかく左室緻密化障害の心臓を改善したのにまたダメにしてはいけない。忙しくても、時々でもいいから病院へ来て薬を続けて下さい。君だけでなくご家族のためにも体を大切に!

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拡張型心筋症と左室形成術

2. 心筋症・心不全 にもどる

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左室緻密化障害、、患者さんの想い出

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左室緻211474435密化障害に対する左室形成術を初めて行ったのは15年ほど前のことです。

左室を開けると線維や肉柱だらけでとても左室として機能できない状態でした。これらのうち、悪いことをしている組織を切除し、薄くなった左室部分をパッチで形成して左室はきれいな形になりました。

手術のあとで世界初のものになったことを知りました。

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患者さんはその後もお元気に暮らしておられ、3年ほど前の患者さんの会にもご参加くださいました。お元気なお姿を拝見し、感動したものです。今年も年賀状でお元気なご様子をうかがい、うれしく思いました。

Ca011d-s当時50代の女性で、術前は危険な状態でした。しかし心臓手術が効を奏し、すっかり元気になられた経過から、左室緻密化障害に左室形成術が役立つことがあることを示すことができたと思います。これがきっかけとなって、世界中の患者さんに手術治療のチャンスが与えられることになればうれしいことです。

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しかしこうして元気になられる患者さんはごくごく一握りであり、左室緻密化障害の患者さんのほとんどは若いうちに心不全や血栓、塞栓などで死亡されます。

これからこの病気の克服へ向けてデータを蓄積し、危険を薬や外科手術で回避できるときには回避し、それをまた世界に発信していくことが重要と思います。

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拡張型心筋症と左室形成術

2. 心筋症・心不全 にもどる

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執筆:米田 正始
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サルコイドーシス心筋症、、患者さんの想い出

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B 023さんは30代前半の女性です。サルコイドーシス心筋症(サルコイド心)のため心室中隔が瘤化し、かつ機能性僧帽弁閉鎖不全症が合併していました。

看護師という忙しいお仕事を以前のようにこなせなくなって来院されました。心不全が進行していたのです。

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左室機能も駆出率で正常の半分まで低下し逆流も高度になっていました。

これでは仕事はもちろん、健康もまもれない状態でしたので、心臓手術することになりました。近い将来の妊娠出産をも考えると、このままでは危険と言う判断ができたことも一因です。

オペといってもサルコイド心でよくやられる心室中隔(右下写真の矢印)の形成は心臓の神経があるところなので、それを傷つける恐れが高く、そうなると永久ペースメーカーが必要となります。患者さんのご希望でペースメーカーだけは絶対避けたいとのことでしたので、今回は僧帽弁だけを治すことにしました。

サルコイドーシスAT MR MVP

僧帽弁輪形成術で弁輪をリングで小さくし、かつサルコイドーシス心筋症で起こる心室のゆがみのため、乳頭筋という弁を支える筋肉の位置がずれているための逆流なので、腱索という弁を支える糸を人工腱索をもちいて長さ調整(通常とは逆の方法で)することで弁逆流を止めました(右写真の下図)。

弁はきれいに作動するようになりました。まもなくお元気に退院され、仕事にも復帰されました。外来で定期健診をする中で、術後2年ほどの間に、左心室はかなり改善し、駆出率も50%台にまで回復しました。これなら心室中隔の瘤もほとんど気にならないというレベルまで持ち直したのです。

これは上記の心臓手術で僧帽弁閉鎖不全症が治り左室の負担が取れたことと、術後の粘り腰で使ったお薬の効果が出たことが役立ったと思います。

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手術から3年半経ち、患者さんから結婚しましたというご報告を、笑顔で戴きました。

現在の心臓なら妊娠出産も安心してできます、ぜひかわいい赤ちゃんを早く産んで下さいとお願いしました。

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左室緻密化障害とはへ行く

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サルコイドーシス心筋症、、患者さんの想い出

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サルコイドーシス心筋症( 211247569サルコイド心)の患者さんの経過はある意味劇的なことが多く、心に強く残っています。

50代で心不全のため私の外来に来られたAさんは左室後壁がやられて左室瘤となり、そのために僧帽弁閉鎖不全症も併発して心不全がどうにもならない状態でした。

サルコイドーシス心筋症SVR+MVP前後左室形成術で心室を修復し、さらに僧帽弁形成術を行ってきれいに治りました(写真左)。

心臓もうんと小さくなり元気になられました。サルコイドーシス心筋症に外科手術が役に立つことを実感しました。

その後、サルコイドーシスの進行で左心室ついで僧帽弁の形が歪み、僧帽弁閉鎖不全症が再発したため、またオペになりました。さすがに弁形成の限界を感じたため、僧帽弁置換術を行い、患者さんはまた元気になられました。

その都度、笑顔で頑張って下さった患者さんに頭が下がります。同時にサルコイドーシスそのものの進行を抑える根本的な治療法の確立を目指す必要性を痛感しました。それでこそ、心臓手術の意義が真に確立するものと思います

しかしまずは目の前の患者さんの状態をベストに保ちつつ、内科外科で協力して少しでも長持ちする心臓を確保することが急務と考え、努力を続けています。

 

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オーバーラップ法、、患者さんの想い出

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Aさんはまだ40代の若い男性でしたが、心筋梗塞のため左室の大部分を失い、強い心不全のため入院してこられました。

左室のほとんどが動いていない、しかし一部がかろうじて残っている、という状況で、その残っている部分がフルにちからを発揮できるように左室を形成すれば救命できるかも知れないと判断し、手術になりました。

セーブ手術を行ったのですが、力はある程度はでるもののIABPという補助装置からなかなか離脱できず、結局当時の左室補助装置LVASを装着するに至りました。

その際にはセーブ手術のパッチ越しにLVASのカニューレつまり血液を吸い出す管を入れるのは安全上良くないと判断し、セーブ手術のパッチをはずしてオーバーラップ法に変換し、そこへカニュラを入れました。LVASはきれいに作動しました。

その段階でこの左室は残存心筋が少なすぎるためこれ以上回復することはできないと判断し、心移植のリストに載せて頂きました。

その後私は京大病院を去り、患者さんも移植ができるセンターへ移られました。

後日、無事心移植が行われ、Aさんは元気に退院して行かれたとの吉報を頂きました。

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その他の左室形成術 ③ドール手術

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セーブ手術、、患者さんの想い出2

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Bさんは当時12歳の女の子でした。小児循環器科の先生方がそれこそ手塩にかけるようにして守ってこられたいのちを私たちがバトンタッチする形で手術に臨みました。詳細はこちらをごらんください「懐かしの患者さんに再会しました」。

当時、我がチーム員といえども、この子が元気に生還し、まして10年以上生きてくれるとは思わなかったでしょう。それほどいのちの素晴らしさ、ばっちり決まったときの左室形成術・セーブ手術の凄さ、チーム医療の強力なこと、心臓外科医という苦労だらけの職業をしていてもなおこの職業について良かったと思える、そういう感動を与えてくれたBさんでした。

Bさん、これからもお元気で、前向きの人生を歩んで下さい。君の歩いた道は、そのまま多数の心不全の患者さんたちへの勇気づけになるでしょう。

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