お便り50: 大動脈二尖弁と上行大動脈瘤の患者さん

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大動脈二尖弁は100人にひとりの割合で発生する病気です。

本来3枚ある弁尖つまり弁のひらひら動く部分が2枚になっており、弁尖に力が過重にかかり次第に壊れていくことが知られています。

そのままとくに問題なく人生を送られる方も多数あるのですが、次第に弁が壊れて弁膜症として治療が必要になることも多々あります。

この大動脈二尖弁はかつては弁の病気と考えられていましたが、数年前、大動脈の病気でもあることが大動脈壁の遺伝子解析で解明されました。

私たちは以前から大動脈二尖弁の患者さんの大動脈は通常よりかなり弱いと考えていましたので、手術のときにも、このままでは将来瘤(こぶ)になると確信した場合は安全な限り、人工血管で取り換える治療をしてきました。

近年は、この大動脈二尖弁を比較的早期に形成つまり修復すれば、長持ちするというデータを得て、可能な場合に大動脈弁形成を行っています。

P1140323c下記の患者さんは大動脈二尖弁を勉強して私にメールで連絡を取ってこられました。

じっくり相談し、長期的にもっとも患者さんに有利な方法で心臓手術しました。

弁は破壊が強かったため、あえて弁形成せず、生体弁で、かつ将来のもしもの再手術を回避できるよう、カテーテル弁(TAVI)に対応できるかたちで大動脈弁置換を行いました。
また上行大動脈は拡張し薄く弱くなっていたため、これを人工血管で置換(取り換えること)し、かつ将来瘤になる恐れがある近位弓部大動脈にも人工血管を外張りの形で縫い付けるラッピングにて補強・保護しました。

創もミックス法(MICS)にて通常の半分程度の小さい創で手術を完了できました。

将来のさまざまな問題をできるだけ予防し、また対応できるようにしましたが、これも患者さんやご家族とじっくり長期計画を相談できたおかげです。

外来や入院中はこうして質疑応答をし、一緒に考え、大いに語る、これもこれからの医療の大切なポイントと思います。

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米田正始 先生

このたび、先生にお世話になりました
****でございます。

PtLetter50予定通り、先日2日に退院させていただきました。

昨年末、不躾ながら突然メールを差し上げました
ところから、あっという間に入院・手術・退院と今に至り、
この間、夢の中にいたような気持ちでおります。

いままで、他の病院に通院し、手術の時期について
悩んでおりましたことが嘘のようです。

初めて先生にお目にかかった時、何の迷いもなく
すべてお任せする気持ちになりました。

入院中も、回診のたびに先生方に、小さな疑問にも
丁寧にお答えいただき、毎日小さな不安が払しょくされて
いきました。

なかなか、お医者様にくだらない質問をするのは勇気が
いることですが、そんな心配もないほど、親切にしていただきました。

たまたま見つけた先生のWEBサイトから、先生に巡り合え
ましたことを、周りのものが、「神様のお導き」では、なかったかと
申しましたが、本当にそう思います。

先生方には、感謝の気持ちで一杯です。
簡単には言葉にはできません。

それでも、まずはお礼をと思いメール差し上げました。
本当にありがとうございました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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上行大動脈瘤――治せる病気です、油断めされぬよう【2025年最新版】

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AscAoAneu最終更新日 2025年1月3日

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■手術が必要となるのは、、、

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上行大動脈瘤は

上行大動脈が拡張つまり大きく膨らんで、

破裂したり解離(壁が内外に裂けること)すると突然死する病気です。

瘤のでき方に、こぶができる真性瘤と最初から壁が裂ける解離性などがありますが、

ここでは真性瘤について解説します。

 .

上行大動脈は何らかの原因で拡張しこぶになります。

正常径の1.5倍の直径になると瘤と呼ばれるため、

その直径が45mmになればそれは瘤と言えましょう。

 .

上行大動脈瘤が発生する理由としてはさまざまなものがあります。

.

解離は別項で解説するとして、

動脈硬化によるもの、

大動脈二尖弁(にせんべん)にともなうもの、

大動脈炎・高安病・ベーチェット病・梅毒などの炎症によるもの、

マルファン症候群などの結合組織疾患に由来するもの、

先天性、その他があります。

 .

Aneurysm rupture上行大動脈瘤の直径が5cmを超えると破裂する恐れがでてきて、注意が必要です。

通常その直径が6cmになれば心臓血管手術が必要ですが、

その拡張スピードや背景の疾患によっては5cm前後でもオペが必要になることがあります。マルファン症候群などの結合組織疾患の方は4.5 cmで手術する方向にあります。

瘤の形がいびつで破れやすいときも同様です。

 .

■その診断は、、、

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037上行大動脈瘤の診断は胸部レントゲンやエコーである程度めどがつきますが、

それぞれ上行大動脈瘤の診断には死角があり完全な検査法ではありません。

CTスキャンが役立ちます。

造影剤なしでもかなりのところまで診断がつきますから、

まず単純CTで調べるのが良いでしょう。

 .

福島原発事故以来、CTスキャンが被ばく量の多い検査法として有名になりましたが、

私たちのところでは技師諸君の工夫によってその6分の1あるいはそれ以下に下げることができます。

それよって早期診断がより安心してできるようになりました。

 .

■上行大動脈瘤の手術は

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その部を人工血管で取り換える、いわゆる上行大動脈置換術が基本です。

しかしその患者さんの状態に応じてさまざまな工夫ができます。

たとえば高齢者や全身状態の悪い方、あるいはエホバの証人の信者さんなど、

安全のためにあまり大きな手術にしたくない状況であれば、

こぶの部分を閉じるときに細くし、

さらにその外側に人工血管を巻いて大動脈を守るようにしています。ラッピングと呼びます。

 .

David & Bentallまた上行大動脈瘤が大動脈弁の形をゆがめて大動脈弁閉鎖不全症が合併しているときには

大動脈弁置換術または大動脈弁形成術を併せおこなったり、

デービッド手術で患者さん自身の弁を温存した大動脈基部再建をしたり、

弁が壊れているときにはベントール手術で大動脈基部をすべて取り換える手術を行います。

これらは心臓外科手術の中ではやや大きめのものとなりますが、

経験豊富なエキスパートならかなりの安全なオペとなっています。

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■さらに私たちの努力は

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私たちはこれをさらに進めて、なるべく小さい創で術後の痛みを減らし社会復帰をうながすよう、

ミックス手術(MICS手術つまり小切開低侵襲手術)法をつかって上記の手術を Median MICS行うようにつとめています。

右の図はミックス手術の皮膚切開の一例を示します。

 

新しいポートアクセス法MICSの経験の蓄積により、現在は上行大動脈置換には右小開胸をもちいた、いわゆるポートアクセスMICSでも手術できるようになりました。

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患者さんの安全確保とともに早い社会復帰や痛みの軽減、そして見えにくい傷跡でこころの傷も小さくなるなどのメリットがあり、今後が期待されています。

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■患者さんの想い出

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上行大動脈瘤はあまり大きくなると危険な病気です。

というのはもし破れてしまうと即死状態で病院まで行く時間がないことさえあるためです。

Aさんは70代女性で上行大動脈瘤のため私の外来へ来られました。

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弁はそう悪くないのですが、上行大動脈のみ悪くすでに直径 7㎝を超えて危険な状態でした。
手術ではこれを人工血管に取り換え、将来瘤になりそうなところも補強して万全を期しました。

術後経過は順調でまもなくお元気に退院されました。

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上行大動脈瘤だけではあまり症状もなく、理性で内容を判断し、私たちを信じてオペを受けて頂く必要があります。もちろん患者さんが十分納得いくように画像その他をお見せして証拠にもとづく医療というスタンスでお話しするようにしています。

手術で元気になられたAさんがこれから永く元気に暮らせることを楽しみにしています。外来で定期健診し安全を確認しながら進んでいきましょう。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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