いい心臓・いい人生 【第九十九号】第31回日本冠疾患学会にて

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いい心臓・いい人生 【第九十九号】第31回日本冠疾患学会にて
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発行:心臓外科手術情報WEB

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編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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この12月15日と16日に大阪にて日本冠疾患学会学術総会が開催され出席して参りました。この学会は循環器つまり心臓や血管の内科と外科が協力して患者さんのベスト治療を創り上げようという趣旨で続いているもので、近年叫ばれているハートチームを長年提唱・実践して来た進歩的かつヒューマンな学会です。

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今年は天理よろづ相談所病院循環器内科・中川義久先生と滋賀医大心臓血管外科・浅井徹先生がそれぞれ内科系会長と外科系会長を務められました。

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私はこの学会の理事および評議員として学会前日から会議に参加し3日間忙しく過ごしました。またシンポジウムで2つの発表を行い、さらに治療成績を上げようと提案をさせていただきました。

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まず1日目午前中のシンポジウム「慢性虚血性心不全IMR, LV dysfunction,高度虚血をどうするか」で「慢性虚血性心筋症や虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する外科治療ーー非移植対象患者においての2工夫」と題して、新しい手術の成果を報告しました。

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これらの病気は今なお難病として、心臓手術をギブアップされる患者さんも全国的に少なくないという現実があります。かといってお薬だけでは限界があり、時間と共に患者さんたちは亡くなって行かれます。海外では補助循環つまり人工心臓や心移植という選択肢が多いのですが、日本ではまだまだですし、そもそも60-65歳を超えたり糖尿病あるいは腎不全その他の病気があれば恩恵に預かれないのです。

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そのため左室をチューンナップしてパワーアップを図る左室形成術や、乳頭筋を適正に吊り上げて左室と僧帽弁の両方を直す僧帽弁形成術を行って来ました。

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今回はそれらを単独で、あるいは組み合わせることで、これまで治せなかったような重症患者さんたちを治せたことを報告しました。

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京大病院で勤務していた10年以上昔でも、当時としては良い成績(全国平均の半分の死亡率)を上げていましたが、現在の手術成績は当時とは比較にならないほど改善し、隔世の感があります。昔、お助けできなかった患者さんたちのことを想い出しながら発表しました。

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新しい左室形成術は来年2018年のアメリカ胸部外科学会AATSでも発表できることになり、ちょっと盛り上がりました。

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学会2日目の午後には外科ビデオセッション「急性心筋梗塞合併症に対する手術術式の検証」という目玉セッションがあり、私は「簡便で再現性が高い、原因療法としてのExclusion法を目指して」というタイトルでいわゆるDavid-Komeda法の改良型を報告しました。

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心室中隔穿孔という病気はしばしば緊急または準緊急で手術が必要な怖い病気で、夜中などに若手中心のチームでも安全確実に患者さんを救命できるよう、工夫をこらし、30年近く前に発表した手術法をとことん改良しました。

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多数のご質問をいただき、これから日本中で多くの患者さんたちを救うのに役立てば幸いです。こうした機会をくださった中川・浅井両会長に感謝申し上げます。

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また1日目の海外招請講演で香港のSong Wan先生が虚血性僧帽弁閉鎖不全症への外科治療のお話をされました。その際、私の術式も紹介・評価くださり、光栄に思いました。

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本学会ではお薬などの内科的治療やカテーテルでのPCIつまりステント治療と冠動脈バイパス手術のうまい使い分けや協力などでも多くの優れた発表やディスカッションがありました。また冠動脈と弁膜症その他病変の合併における治療や、教育講演やコメディカルの方々へのセッションでも充実していました。

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ハートチームシンポジウムでは本学会ならではの内科と外科の協力的ディスカッションが多くなされ、素晴らしいことと改めて感心しました。

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全員懇親会では会員寄付のワインなどを飲みながら楽しいひと時を過ごしました。
盛会のうちに本学会は終了し、多くの成果と想い出が得られたと思います。

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中川先生、浅井先生、関係の皆様方、ありがとうございました。

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平成29年12月16日
米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第九十八号】日本胸部外科学会総会

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いい心臓・いい人生 【第九十八号】日本胸部外科学会総会
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編集・執筆:心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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恒例の胸部外科学会総会がこの9月26日から29日にかけて札幌で開催され
ました。
心臓血管外科の領域では日本では最高峰の学会のため私も参加いたしましたので
少しご報告します。

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今回は北海道大学の松居喜郎教授が会長で、いつものパワー溢れる雰囲気が
学会総会にも反映され熱い会になりました。

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私は発表したい演題がいくつもある中で、2つに絞って発表することになり
ました。ひとつは左室形成術のシンポジウム、いまひとつは機能性僧帽弁
閉鎖不全症のセッションでした。

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シンポジウムでは「日本から発信する虚血性心筋症に対する外科治療戦略」
というテーマで、これまで治療成績の改善に努力して来た左室形成術の成果を
発表しました。

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その冒頭に畏友メニカンティ(Lorenzo A. Menicanti)先生が基調講演として
イタリアでの経験をお話されました。ドール手術で有名なDor先生の直弟子
だけあって、豊富な経験をもとに有用なお話でした。彼も従来型のドール手術
では不十分と、左室の細長いジオメトリーを回復させるためにいくつもの工夫
をしていることを知り、我が意を得たりと思いました。

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私は須磨久善先生や磯村正先生らが考案されたSAVE(セーブ)手術のきれいな
ジオメトリーと、Dor先生のドール手術の簡便さを併せ持ついいとこ取り
手術(一方向性ドール手術)の長期成績を発表しました。重症患者さんを相手
にして、病院死がない、つまり全員お元気に退院されていることをお示しでき
ました。かつて京大病院で助けられなかった重症患者さんを今なら助けられる
という、弔い合戦のような気持ちでの努力を示しました。

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併せて、さらに侵襲を下げた、新しい方法・心尖部凍結左室形成術
(Frozen Apex SVR)を発表し、これからは重症心不全の患者さんを補助循環・
人工心臓なしで社会復帰してもらえることを示しました。発表の後、メニ
カンティ先生もブラボー!と言って下さり恐縮ものでした。これからもっと
多くの心不全患者さんたちのお役に立てればと思います。

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機能性僧帽弁閉鎖不全症のセッションでは、私が15年前に開発し、改良を
重ねて来た乳頭筋前方つり上げによる僧帽弁形成術(乳頭筋最適化手術、PHO)
の長期成績を発表しました。あの世界の心臓外科の最高峰・AATS(アメリカ
胸部外科学会)で今年4月に発表した内容を新しく改訂したものでした。

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乳頭筋を前方へ吊り上げるのは近年は日本ではかなりコンセンサスが得られ、
名だたる先生方がこれを活用してくださっているのは考案者としてうれしいこと
です。しかし15年以上の経験を活かしてこれからさらに改良を加え、かつ多くの
心臓外科の先生方に使って頂けるよう、情報提供をしなければと思いました。

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また学会3日目午後の重症心不全研究会では上記Frozen Apex SVRをさらに詳しく
お話し、貴重なご意見を頂きました。高名なScott Rankin先生が興味を持って
参加して下さったため、松居会長の依頼もあって、私がRankin先生の通訳を務め
させて頂きました。大変関心を持って下さり、何度も質問をして下さったため、
通訳し甲斐のあるセッションでした。

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その他HOCM(肥大型閉塞性心筋症)のセッションでは日本屈指の豊富な経験を
もとにコメントをいくつかさせて頂きました。まだ闇雲に心筋を切除している、
あるいはよく見えないため不十分に切っている、という印象の発表もあり、
心配になりました。

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またビデオセッションで心室中隔穿孔VSPの発表では、私がトロントで発表
し、改良を重ねて来た心筋梗塞除外術Exclusion法の進化について行けないため
に本来守るべき右室を切ってパッチを張る方法へと進んだ旨の発表がありました。
これはもっと誰にでもできる汎用性のある術式を完成させなかった私たちの責任
であることを痛感しました。幸い若い先生方にもできる改良型をすでにジャーナル
などで発表しており、今後もっと啓蒙活動したく思いました。

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学会そのものはよくデザインされた、有意義で楽しい内容でした。70回総会という
節目の学会でもあり、歴史を振り返り未来を考えるセッションも良かったと思い
ます。海外からの招請演者が多く、国際色が豊かになりました。

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ただ目玉商品とも言われたビデオセッションが、やや玉石混合で、えっ?なぜ?
というようなレベルの発表もあり、このあたりがまだまだ日本の学会の課題
と、友人と話していました。日本の学会が真にハイレベルになるためには、
しがらみではなく内容本位の演題選別をしなければならないと以前から言われて
いますが、これを再認識しました。

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会長の松居先生と北海道大学の皆様、お疲れ様でした。また学会の成功、
おめでとうございました。

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平成29年10月1日
米田正始 拝

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元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第九十七号】江東豊洲心臓血管外科カンファランス

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いい心臓・いい人生 【第九十七号】江東豊洲心臓血管外科カンファランス
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編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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この9月2日に東京にて恒例の江東豊洲心臓血管外科カンファランス
が開催され、畏友山口裕己先生のお招きで私も参加して参りました。
昭和大学江東豊洲病院内の講堂で開催されましたが、すでに開院から4年とお聞きし、真新しい綺麗な病院と感心したのが昨日のように思い出されます。

 

今回は心房細動をテーマとして内科と外科の積極的な先生方が多数集まる面白い会になりました。
心房細動はどこにでもある病気ですが、そのためにどれだけ多くの方々がいのちを落としたり、寝たきりになったりしておられるか、まだまだ世間の理解は進んでいない病気です。中でも元気に仕事や家庭で活躍していた方が突然こうした悲劇に見舞われるという被害は甚大です。
心房細動の怖さは何と言っても脳梗塞が起こることで、その原因は左房の中で血栓ができることです。

 

かつてはワーファリンというお薬をきちんと使えばかなり脳梗塞は予防できるということでこれが標準的治療でしたが近年使い易いDOACというタイプの薬が使えるようになってさらに成績が上がりました。加えてカテーテルによるアブレーションという治療が進歩して、より根本的に治せるようになりました。
こうした最近の進歩をこの領域のエキスパートである奥村謙先生(前・弘前大学教授)が講演されました。私は以前から奥村先生のお仕事はよく存じており、加えて研究会前夜の食事会で最近の進歩を伺っていましたので、一層ちからが入り聴き入ってしまいました。

 

それから筑波大学の瀬尾由広先生が不整脈治療の豊富な経験から心房性僧帽弁閉鎖不全症のお話をされ、そうした概念がない時代、20年近く昔からこれに取り組んで来た私としてはようやく我々の時代が来たという気持ちで拝聴しました。
心房細動などで左心房が拡張すると僧帽弁や左室基部が変形し、弁が噛み合わなくなります。そのため僧帽弁形成術には特別な方法が必要となるのです。

 

私は20年前に少し違う角度でこの病気を見ていました。左房が巨大になるとカテーテル治療はもとよりメイズ手術も効かなくなる、何とかしようと左房縮小するメイズを開発しました。すでに多数の患者さんのお役に立っていますが、これからもっと多数の方々のお役に立てる日が来れば最高です。
この後心房性僧帽弁閉鎖不全症の診断と治療というテーマで東京大学の大門雅夫先生や宮崎の畏友・渡邉望先生、金沢大学の竹村博文先生らが興味深い症例を交えて発表されました。昭和大学江東豊洲病院の光山晋一先生は山口先生お得意の後尖パッチ拡大の成果を発表されました。
ランチョンセミナーは畏友・天野篤先生のいつの世代でも心臓外科医で活躍できるために、という熱く楽しいお話でした。皆さんご存知の通り、天皇陛下を冠動脈バイパス手術で救われた私たちの誇りとする天野先生で時間の経つのを忘れて傾聴しました。最後に先生はいつまで現役で心臓手術をされますか!と質問させて頂きました。質問の真意は、当分止めないでね!というところにありましたが、その通り回答頂き、嬉しいひとときでした。
午後から左心耳切除にまつわるトピックスが論じられ、それからメイズ手術の最近の話題に移りました。
私は心房縮小メイズを日本で最初に提唱したものとして、最近の成果を披露いたしました。巨大左房となり、もう看取りしかないと言われた患者さんたちを多数元気に社会復帰していただいたことをご報告しました。これからこの方法を自分だけでなく、多くの心臓外科医にも使って頂きたいという願いを込めてお話しました。
最後に心房細動アブレーションの最新治療のセッションがありました。興味深い内容揃いでした。内科のカテーテル治療と心臓外科の手術は常に協力し、お互いに補いあって、弱点を補強しながらベスト治療を提供すべきで、お互いの治療法を良く理解することがその第一歩で、良いセッションだったと思います。
都合でこのセッションの終わりごろに会場を後にしました。
山口先生、関係の皆さまがた、素晴らしい会をありがとうございました。

 

平成29年9月10日
米田正始 拝
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いい心臓・いい人生 【第九十六号】ソウルに行って参りました

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いい心臓・いい人生 【第九十六号】ソウルに行って参りました
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編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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お盆が過ぎましたが残暑がまだまだ続くこの頃です。皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

この8月17日から19日まで韓国のソウルに行って参りました。第19回国際弁膜症
シンポジウムに呼んでいただいたためです。

 

北朝鮮からグアム島にもしミサイルが発射されたら、場合によっては大変なことになる
のでは、という声もある中で、まあ関係者も人の子、お互いを滅ぼすような愚かなことは
するまいと考えて行ってきました。ソウルの雰囲気は全く平和なものでした。

 

今回会長のChang先生は韓国の名門・延世大学の教授で長年の友でもあり、是非おいで
と言われて断ることができなかったという事情もあります。

 

延世大学を訪問するのは3回目で、前回は10年ほど昔のことで、懐かしい思いでした。
日本の大学と比較すると、欧米の良いところがふんだんに取り入れられており、というより
欧米の大学にそっくりで、韓国は昔、良いものを導入したと改めて思いました。

 

病院の規模や内容、もっと具体的には手術数まで欧米レベル、日本の大学病院の5倍から
10倍はあり、まさに大学病院の名にふさわしいものでした。10年前、すごいなあと
感心した延世大学病院のメインの建物は今見ても立派なものでした。まあ日本では民間
病院が頑張って良い環境を創り、大学とコラボし支援するというのが現実的なのでしょうか。

 

シンポジウムでは世界の弁膜症手術のエキスパートが集まっており、私はその末席を汚せる
ことを光栄に思いました。それぞれが最新の成果を披露し、お互いにしっかりと
ディスカッションして学ぶ、そうした貴重な場となりました。また循環器内科の先生方も
韓国を中心に多数参加され、大変好ましいことでした。

 

例えば加齢性の僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術ではドイツのペリエ先生やイタリア
のアルフィエリ先生などお馴染の大家が最近の進歩をお話されました。最近の自分の経験
から色々意見交換でき、直接得られる貴重な一次情報でした。またスタンフォード
大学の畏友・Joseph Woo先生が持ち前の芸術的手術を披露され、また感心しました。
リウマチ性僧帽弁膜症に対する弁形成術はアジアが世界をリードしていますが、その中でも
トップランナーである畏友・Taweesak先生の最近の手術が見れたのも良かったです。
毎年、確実に進歩している内容を突っ込んで見たところ、よく見てくれてるねとお礼を
頂きました。特に心膜パッチを使わずに複雑形成ができるところが素晴らしいと思いました。

 

アジア弁膜症アカデミーの代表であるSaw先生やバンクーバーの Jian Ye先生らと久しぶり
に、それも中身のある話ができたのも良かったです。

 

心房細動の治療では本家本元のJ Cox先生(元セントルイスのワシントン大学)が開発の
苦労話から最新の技術、そしてこれからの方向性までをユーモアを交えて話しされました。
私がCox先生のお話を初めてお聴きしたのはまだトロントで修行していた1990年ごろだった
と思います。世の中にはこんなにすごいものがあるのかと感銘を受けたのを覚えています。
いつかはこうした手術をと思い、2000年代に入って心房縮小メイズを開発し、ちょっと
恩返しした気になっていました。Cox先生は心房縮小してこそメイズ手術の真価が発揮される
と言ってくださり、光栄でした。

 

Cox先生の直弟子でもある東京医大教授・新田隆先生が心房細動の病態の研究を発表され、
5年や10年では成し得ない、優れた研究で、同先生がもしアメリカ国民ならCox先生の
後継者になられたのではないかと思いました。

 

心不全に対する左室形成術はSTICHトライアルという欠陥研究のために現在下火になって
います。大阪大学医学部長の澤芳樹先生がこのSTICHトライアルの問題点を講演され、
内科の先生方にも少しは真実がご理解いただけたのではと期待してしまいました。

 

私はこの春にボストンのAATS100周年大会で発表した機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する
僧帽弁形成術、PHOと呼ばれる前方吊り上げ術の成果をお話ししました。
カテーテル治療であるMクリップではなし得ない、左室を甦らせるこの手術に賛同して
下さる先生が増えてきて、嬉しいことです。アメリカでもヨーロッパでも是非使いたい
と言って下さる大家が増え、これからが楽しみです。

 

2日間のソウル滞在で、北からグアムにミサイルが飛ぶこともなく、平和に楽しく熱い
時間を過ごせました。ご招待下さったChang先生や、参加の先生方に感謝申し上げます。
また出発直前に大きな心臓手術のお手伝いをし、うまく行ったのを確認してから飛行機に
乗ったのですが、その後も患者さんをしっかりと守ってくださった氏家敏己先生はじめ
医誠会病院の皆様に感謝申し上げます。

 

敬具

 

平成29年8月20日

 

米田正始 拝

 

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福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第九十五号】弁形成手術とお若い女性患者さん

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いい心臓・いい人生 【第九十五号】弁形成手術とお若い女性患者さん
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編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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大型台風が去った後、また猛暑日が復活しているこの頃ですが、皆様いかがお過ごし
でしょうか。

私は相変わらず病院内で皆さんと賑やかに、忙しくさせていただいております。

 

高齢化社会のため心臓外科の世界も患者さんが高齢化し、老年科のような雰囲気に
なっているとよく言われます。

長年、社会のために尽くして来られた方々を大切にし、しっかり治してまた楽しく
暮らせるようなお手伝いをすることは大きな意義あることと思います。

 

同時にこれから将来がある若い患者さんたちの心臓手術には重責を担っているという
緊張感と将来の社会への貢献のような夢を感じます。

 

私の外来や病棟には10代から40代までのお若い患者さんたちもよく来られます。
中でもこれからこどもさんを産みたいという方々が弁形成手術を求めて全国から
お越しになります。あるいはこれから社会人としてしっかり仕事に打ち込みたいと
MICSでの弁形成や弁置換術を受けに来られます。この夏もそうした患者さんたちが
手術を受け、元気になって順次退院して行かれています。

 

とくにこれからあるいは将来こどもを産みたいという若い女性の場合は弁形成が
うまく決まるかどうかで、人生設計が違ってきます。そうした患者さんたちを意識
した項目をHPに載せました。

 

題して「これからこどもを産みたい患者さんにーーー妊娠・出産に合う心臓手術」

これからこどもを産みたい患者さんにーーー妊娠・出産に合う心臓手術 【2025年最新版】

です。ご参考になれば幸いです。

 

最近も遠方例えば沖縄からも同様の状況で若い患者さんが来られました。バーロー
症候群という、僧帽弁形成術としては難易度の高い病気でしたが、首尾良く進み
逆流もゼロとなりお元気になられました。MICSで傷跡も見えにくく、いっそう
喜んで頂けました。

 

中には弁形成術を希望しながら、熟練外科医がいない病院で希望が叶わなかった
という女性患者さんも多くおられます。そうした残念を繰り返さないように、
よく調べ、よく考え、よく相談して納得いく治療を一緒に創っていただければと
希望します。

 

厳しい暑さの折柄、皆様ご自愛ください。熱中症対策は十分にお願いします。

 

敬具
平成29年8月10日
米田正始 拝

 

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いい心臓・いい人生 【第九十四号】小林真央さんの一件で思うこと

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いい心臓・いい人生 【第九十四号】小林真央さんの一件で思うこと
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編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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大雨や猛暑が交錯するこの頃ですが皆様体調を崩したりしておられないでしょうか。

 

乳がんで闘病しておられた小林真央さんの一件では本当に悲しい気持ちになりました。
人生まだこれからという時に命を奪われる、まだお子さんたちも小さいのに。

 

しかしその後、報道で伝えられる内容は、どこまで真実で正確かはわかりませんが、
残念な思いがさらに強くなるものでした。

 

様々なご事情があって乳腺のしこりの後の精密検査や治療が遅れぎみであったこと
は聞いていました。

 

しかし本来受けるべき治療、真央さんの場合は癌の根治術ですね、これを受けられ
なかったということは残念極まりないことです。

 

私は心臓外科医で乳がんの専門家ではありません。しかしかつて研修医の頃に、30
名以上の乳がん患者さんの治療に参画させていただきました。中には手遅れに近い
ほど、癌が大きくなり、リンパ節に転移していた患者さんも何名かおられました。

 

もう30年以上も昔のことですが、それでも患者さんも私たちも頑張り、そのほとんどの
方々は長生きしておられました。少なくとも1年やそこらで亡くなることは診断時に
よほど末期の患者さん以外にはありませんでした。

 

がんにも色々あり、急速に大きくなり、早く転移する、悪性度が高いものもあります。
しかしそうしたタイプでも渾身の治療で長期生存を得た方も少なくないのです。

 

医学にはまだまだ未完成、未熟なところがあります。しかしこれまでの多数の患者さんの
データをもとに検討し、より多くの患者さんがより確実に治るよう、常に検討し改善を
続けて来たのも事実です。

 

週刊誌などでこの薬は無意味とかこの手術はダメなどの記載が見られることがあり
ますが、それらは一面の真理をついていることはあっても全面的にそうであるとは
限らないのです。これらの疑問は医師に聴くのが一番です。例えばある優れた薬で
気になる副作用が玉にキズという状況なら、その薬が患者さんにとって必要不可欠
ならば、副作用を毎回チェックし大丈夫という確認を取りながらその薬をうまく使う
ようにします。もし副作用がダメだからとその薬を使わないと、元の病気のために
患者さんがやられてしまいます。患者さんが一番得する、高い妥協点を毎回相談確認
しながら確保するわけです。

 

しかしそうした無用な疑心暗鬼が皆の心にある中で真央さんが本来あるべき治療を受け
られなかったことを残念に思うのです。
それは民間療法や気功などをどうこう言うのではなく、科学的データに基づいた治療を受け
つつ、他の治療法を併用したらもっと良かったのではと思うからです。

 

済んでしまったことをとやかく言うのではなく、真央さんのようなケースは少なくない、
これからも起こり続けると感じるため、この一文をお書きしたくなったのです。

 

がんと同じことは心臓病、心臓手術でも経験することがあります。
重症でも心臓手術を受ければ95%助けられるという実績があっても、手術は怖い、
手術は嫌ですと、その他の治療法や民間療法を選び、死んで行った方を何人も見て
来ました。

 

手術を最初から好きな人はいません。でも手術で大多数の患者さんが助かり、逆に手術
しなければ大半が遠からず亡くなるというデータが出ている状況では、冷静に、問題を
直視し、患者さんに真に益する道を選んで欲しいと思います。また患者さんだけでなく、
ご家族はじめ周囲の方々にも真剣に考えて戴きたいのです。

 

自分が生きるか死ぬかの状況になれば、人間、誰でも不安になりますし、時には動転し、
どうしたら良いかわからなくなることさえあるのです。そうした時に、周囲の方々が
患者さんを精神的に支え、冷静に科学的に判断できるよう応援して欲しく思います。

 

小林真央さんの一件ではそうした昔の残念な患者さんたちを想い出し、悲しい思いに
なりました。
困った病気になれば、心を許せる人たちとじっくり考え、相談し、医師にもどしどし
質問し、情報を十分に得て、後悔を残さないようにしたいものです。多くの医師は
喜んで支援してくれるでしょう。現実から逃げても逃げおおせるものではないのです。

 

追伸:心臓病で普段から飲水制限をしておられる皆様へ、猛暑で汗をかく時はいつもの
飲水制限は適切でないこともあります。体調がおかしければ早めに医師にご相談
ください。一般的には体重が減っておれば発汗に応じて飲水を増やして良い場合が多い
です。

敬具
平成29年7月15日
米田正始 拝

 

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いい心臓・いい人生 【第九十三号】カナダでも頑張りました

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 いい心臓・いい人生 【第九十三号】カナダでも頑張りました
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           発行:心臓外科手術情報WEB
           https://www.shinzougekashujutsu.com
      編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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暑い季節になって参りましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。

私は6月22日からしばしカナダのオタワに出張しておりました。
大動脈弁形成術サミットという、心臓血管外科の中でも特化したワンポイントを
深く追求する学会に参加して参りました。前回のメルマガにお書きしました
アメリカ胸部外科学会100周年記念大会から2ヶ月も経っていないため遠慮
しながらの出張でした。

心臓血管外科はもともと専門的領域ですが、その中でもこの大動脈弁形成術と
いう領域はさらに専門的なものです。つまりそれがこなす外科医はごく少数と
いうわけです。

そのため世界の各地でエキスパートが細々と努力を続けているという印象があり、
皆さんのノウハウを結集してレベルを上げようとヨーロッパやアメリカで研究会
が開催されていました。せっかくだから、それを一つにまとめて最高のものをと
いうことで、今回、初めて欧米の専門家が結集して合同の研究会つまりサミット
をオタワで開催することになったのでした。

超専門領域の割には世界中から多数の心臓外科医が参加しました。日本からは
さすがに少なかったようです。

私も大動脈弁形成術に力を入れているため、参加しました。これまでの努力が
評価され、発表の機会をいただけたことも光栄でした。

このサミットでは2日間で合計6例のライブ心臓手術が供覧されました。ベルギー
のクーリー(Khoury)先生やドイツのシェーファーズ(Schaefers)先生、我が恩師
デービッド(David)先生はじめおなじみの顔ぶれで執刀しておられました。

様々な意見交換がされ、大いに参考になりました。自分ならこうする、こうしたら
さらに良くなるというのもあり、楽しく充実したひと時でした。内容的にはデービ
ッド手術や二尖弁への弁形成というおなじみの手術でした。

ライブ手術以外に多数のプレゼンがあり、参考になりました。

弁形成や自己弁温存手術のおかげでスポーツや(女性の場合)妊娠・出産、あるい
は仕事に打ち込む、様々な楽しみを持つ、ということが可能となり、患者さんへの
利点は大きいものがあります。

私自身の経験でも野球やスキューバなどを楽しむためにこの手術を受けて下さった
患者さんがおられ、またこの手術のおかげで妊娠・出産を無事果たしたという方も
あり、そうした方々を想い出しながら勉強できました。

しかしこれだけの充実した内容の中にあって、MICSで大動脈弁形成をやっている
施設はなく、この意味では私たちは一歩先んじているという感を持ちました。これ
からこうした手術をより完成させ、より多くの患者さんたちのお役に立てるように
とも思いました。

サミットの間に恩師デービッド先生や同じく恩師ミラー先生(D Craig Miller)ら
と話し(というより議論)ができ、また心エコーの大家、メイヨクリニックの
サラノ先生とも相談できたことが収穫でした。

こうした交流が次の患者さんの治療に活かされるため、前向きに取り組もうと思い
ました。

このサミットに出席するために、ほぼ同じ時期に地元大阪で開催された関西胸部
外科学会には早引きせざるを得ませんでした。代演を務めたり留守を守って下さ
った医誠会病院心臓血管外科の先生方・関係の皆様に感謝申し上げます。


暑さが本格化し、脱水や熱中症が気になる時節になりました。皆様どうかご自愛
ください。

                           敬具


平成29年6月25日


米田正始 拝

               

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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いい心臓・いい人生 【第九十二号】アメリカでちょっと頑張りました

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いい心臓・いい人生 【第九十二号】アメリカでちょっと頑張りました
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編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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夏の訪れが近いことを感じさせるこの頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

ただいまアメリカ(ボストン)でこのメルマガをお書きしております。

 

前回のメルマガでお伝えしましたように、アメリカ胸部外科学会(略称AATS)の
100周年記念集会(於ボストン)に参加し、日本での成果を発表いたしました。

 

機能性僧帽弁閉鎖不全症は心筋梗塞の後や、大動脈弁膜症、特発性拡張型心筋症の
患者さんによく起こる二次的な病気で、予後を悪くします。つまり寿命を縮めて
しまう怖い病気です。寿命だけでなく心不全症状が患者さんを大変苦しめて
しまうのです。

 

この病気に長年取り組んで来た、その成果を発表いたしました。これまで手遅れ扱い
されて来た患者さんも多数含まれていたのですが、そのほとんどが5年経っても生存して
おられ、心機能もかなり改善し、元の病気によっては正常レベルにまで達していて
お元気に暮らしておられることを示しました。

 

カテーテル治療ではできない心臓外科手術の貢献であり、ハートチームで内科の先生方
にもっと協力できる内容として受け容れて頂くことができたようです。
座長の先生がドクターコメダはこの領域の世界のリーダーですと紹介くださり、
思わず赤面してしまいました。これまで多くの方々の協力があったればこその結果
で、関係の皆様や頑張ってくださった患者さんたちに改めて御礼申し上げます。

 

このアメリカ胸部外科学会はさすがに心臓血管外科領域での世界最高峰学会と言われる
だけあって、自分たちがこの領域を切り拓き、世界に貢献するという気迫が随所に
感じられます。

 

今回の100周年記念大会の会長であるDr. Sundtの講演にもその気迫や志の高さが
感じられ、素晴らしいと思いました。もともと物腰の柔らかい、謙虚な先生ですので、
その講演タイトル「always learning」(いつも学ぶ、学び続ける)は頷けるもの
でした。仲間に対して敬意を持たねばチームはできないという当然の、しかし意外に
難しいことも彼の経験と言葉で言及していました。

 

患者さんを助けようと必死に頑張る中で、頑張らない(ように見える)人をなぜ
一緒に頑張ってくれないのかと批判的に見てしまい、いつのまにか傲慢に陥って
いたこと反省させられました。

 

今回もアメリカ・カナダだけでなくヨーロッパ、アジア、豪州から多数の仲間・旧友
が参加しておられ、楽しく懐かしいひと時を過ごすことができました。海外の恩師
たちと再会でき感無量でした。普段あまり話する機会のなかった日本の先生方とも
歓談できました。

 

この学会の直前にニューヨークで開催された僧帽弁の研究会(Mitral Conclave)
でも2題発表でき、かつ多くの先生方と意見交換(というより雑談放談)でき
貴重な時間を過ごせました。

 

このところちょっと考え込んでいたいくつかの疑問点を彼らにぶつけて、一緒に
悩みながら検討できたのは幸運でした。付き合って下さった先生方、ありがとう。

 

もうすぐ帰国の途につきますが、留守を守ってくださった医誠会病院と仁泉会病院の
皆様に感謝しつつ、お土産選びに悩みつつ(アメリカの特産品というのはありそうで
あまりないのです)この報告を閉じたく思います。

季節の変わり目です、皆様ご自愛ください。

 

敬具

 

平成29年5月2日

米田正始 拝

 

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いい心臓・いい人生 【第九十一号】成果をアメリカで発表して参ります

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いい心臓・いい人生 【第九十一号】成果をアメリカで発表して参ります
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編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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あちこちで桜が満開になっています。お花見など楽しんでおられるでしょうか。

 

私は相変わらず仁泉会病院と医誠会病院で患者さんたちと向かい合い、
毎日汗を流しています。

 

さて心臓血管外科さらには胸部外科関係の学会として世界最高峰と言われる
アメリカ胸部外科学会が今年は100周年を迎え、大変な盛り上がりが期待
されています。

 

このアメリカ胸部外科学会では毎年、世界中から主だった人たちが集まり、
英知を結集した発表やディスカッションを行い、それは直ちに患者さんに還元
できるため、私は多少無理をしてでもスケジュールを合わせて参加しています。

この学会の正会員の一人であるため、義務として参加しなければという事情も
あります。

 

そのアメリカ胸部外科学会100周年の総会(5月1日から)で、私たちが
この15年あまりの間、京都大学病院、名古屋ハートセンター、そして高の原
中央病院、仁泉会病院と医誠会病院などで行って来た、機能性僧帽弁閉鎖
不全症に対する乳頭筋前方吊り上げ術が評価を受けて発表できることになり
ました。

 

内容は、これまで予後が悪いと言われて来た機能性僧帽弁閉鎖不全症の患者さん
たちがこの心臓手術で心機能が回復し、長期の生存率が高く、心臓の機能が正常
近くまで回復しお元気になられるケースが多いことが示された、というものです。
SHDカテーテル治療が元気な時代にあって、外科治療が優れているという外科の
心意気を評価されたのかも知れません。

 

この数年間以上、欧米の大きな学会たとえばヨーロッパ心臓胸部外科学会や、
アメリカの僧帽弁学会(Mitral Conclave)あるいはアジア弁膜症アカデミー
などでも発信して来ましたが、アメリカ胸部外科学会総会それも100周年の
会で発表というのは大変光栄なことです。

 

これまでご支援くださった皆様に心から感謝申し上げます。
何よりも、手術を受けそして頑張ってリハビリや外来をこなし、お元気になって
下さった多数の患者さんたちに、あらためて御礼を申し上げます。

 

こうした新しい心臓手術では患者さんがお元気になられ、楽しく暮らして
戴くことは、単にその方だけの喜びで止まらないのです。

 

同じ病気で苦しむ全国の方々にもその恩恵が届く可能性があるのです。また
その成果を受けて、心臓外科仲間でもこの手術を使って下さるというケースが
徐々に増えています。

 

皆様への感謝と、より多くの人たちのお役に立てることを願ってアメリカで
頑張って参ります。皆様、今後もご鞭撻やご指導をお願い申し上げます。

 

敬具

 

平成29年4月7日

 

米田正始 拝

 

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いい心臓・いい人生 【第九十号】 テレビドラマ「A LIFE」完結

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いい心臓・いい人生 【第九十号】 テレビドラマ「A LIFE」完結
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編集・執筆: 心臓血管外科専門医・指導医 医学博士 米田正始
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春の訪れを感じさせてくれるこの頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

まだインフルエンザは流行しているようで、つい最近もウィルス性の肺炎の
患者さんが来られ、安全のためしばらく入院して頂くことになりました。

 

さていろんな話題を集めたテレビドラマ「A LIFE」が先日、全10回の放送を
終えて完結しました。木村拓哉の主演がSMAP解散のあおりで印象を悪くし、
視聴率が下がるのではないかという予想とは違い、立派な結果を残したという
意味でも話題になりました。

 

私は最初は観ていなかったのですが、医誠会病院手術室の皆さんが面白いから
観たらと言って下さるので第三回から観始め、ビデオ撮りしたものをみるため
遅れて「完結」しました。

畏友・天野篤先生が医療監修しておられるだけあって、心臓外科らしいところ
がちょくちょくあって楽しめました。

 

デービッド手術とかバイパス手術とか、虚血性僧帽弁閉鎖不全症への
僧帽弁形成術、ドール手術、メイズ手術その他、私たちにはいつもの
おなじみの手術がいろいろ出てきて、多くの人たちとくに病院の職員の方々に
関心をもっていただければと思いました。

 

ドラマでは主人公の沖田がシアトルで心臓外科手術のちからをつけて、日本に
戻り大活躍しますが、若い医師の間で、「海外でチャンスを得てうまく行けば
良いが、何もできずに帰国し、もともとの立場も失って大変」などの話がある
くだりなどは結構リアルです。

 

また外科医があらゆる手を尽くし、策を練り、技術や方法を駆使して難手術を
成功させるというのもリアルです。そこに患者の地位や収入が関係ないのも
そのとおりです。この点良くできたドラマと思いました。

 

その一方、大手術を医局の医師全員でじっと見学する姿などは、どんなにヒマな
病院でもできない、テレビドラマならではの演出でした。まして最終回は
脳外科の手術を心臓外科スタッフが終始食い入るように見るという現実には
あり得ない光景でした。そもそも心臓外科医が脳外科の手術をするなどは
架空の世界のできごとですが、まあそこはドラマですから。

 

オペナースが医局に自由に出入りしてどんどん意見を言うなども現実には
少ない光景ですが、外科医が驚くほどしっかり勉強してがっつりサポートする、
ときには指導さえするなどは、理想の姿で、これからこうした光景が増えれば
などと思ってしまいました。

 

手術のシュミレーション練習を5万回行うなどは、熱心な心臓外科医のなかでは
珍しいことではありません。実はあれば業界の常識なのです。ただそうした
光のあたりにくい努力を現代の若い先生方がどれほど続けられるかはわかりません。

 

良い手術をすれば病院全体がそれを認めるという雰囲気も、日本では一流
病院ではあり得ても、それ以外ではなかなかないことです。むしろ良い手術が
できない外科医や医師ができる外科医を陰で陥れることが横行するのが日本の
病院でよく見られる光景です。そういう意味でも面白いドラマでした。

 

「A Life」は大変好評であったため、続編があるのではないかという説が
出ています。できればそうなるとまた楽しめるのではと期待したくなりました。

今回放送された10回分はネットで観ることができるようですので医療ドラマに
関心のおありの方は調べてみて下さい。

 

敬具

 

平成29年3月25日

米田正始 拝

 

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