腋窩動脈大腿動脈バイパス (Axillo-Femoral バイパス)

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腋窩動脈大腿動脈バイパス(Axillofemoral Bypass)は文字どおりこの2つの動脈をバイパスでつなぎ、下記のような状況で下肢虚血に威力を発揮します。 図2

たとえば下肢虚血で腹部 大動脈などが閉塞しているとき。ルーリッシュ症候群なども含まれます。

 

とくに腹部を開けて手術するのに何らかの問題があるときなどにも役立ちます。すでに何度も開腹手術を受けた患者さんで、しかも高齢や全身状態が悪いときなど。

あるいは腹部大動脈が原因の下肢虚血にステントグラフトが使えないとき。大動脈にすでに入っている人工血管が感染して治らないとき。その他の状況です。先天性心疾患で大動脈縮窄症などのため下半身が虚血になるときなどもそうです。

 

左図のように腋窩動脈と大腿動脈をバイパスでつなぎ、そのための人工血管は体の表面近く、脂肪の奥を走行させるた Axillobifemoralbypassめ、胸もお腹も開ける必要がないのがこの術式の特徴です。

つまり体への侵襲(負担)が軽いのです。そのおかげで高齢者や重症の患者さんにも使えるのです。

手術は全身麻酔で行いますが、そのあと、まもなく食事や運動ができます。

ただしこの手術は、大腿動脈よりも先(つまり足側)の動脈に別の狭窄や閉塞があれば効果は減ります。それらに対しては必要に応じて別のバイパス手術やカテーテルによるPTA(血管形成)を併用します。右上図ではFFバイパス(大腿動脈大腿動脈バイパス)が併用されています。

 

さてASO閉塞性動脈硬化症が高度な患者さんの場合は足へ向かうにつれて動脈が細く悪くなるという、先細り状態の方が少なくありません。

こうなるとせっかくの腋窩動脈大腿動脈バイパスや追加した大腿膝窩動脈Femoropopliteal bypassも十分には効かない恐れがあります。お先真っ暗状態のためカテーテルPTA治療も効きません。

こうした場合に下肢にあら 188485295たな動脈を創る血管新生治療が役立ちます。再生医療、英語でtissue engineeringとか regenerative medicineなどと呼ばれる方法で患者さんの下肢を守ることがある程度以上できます。

かつて私が勤務しておりました京大病院では臨床試験としてこの血管新生治療で複数の患者さんを治療させていただきました。bFGFという自然で良く効くホルモンを下肢の中でじっくりと効かせることで副作用なく、効果の高い治療法です。ただ今新たな施設で治療が行えるよう準備中です。くわしくはこちらへどうぞ。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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大動脈―大腿動脈バイパス手術 (Aorto-Femoralバイパス術):最強の治療法?

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大動脈ー大腿動脈バイパス(青い矢印の部分が人工血管となります) 下肢の動脈硬化、血管閉塞に対する治療法のなかで、

大動脈ー大腿動脈バイパス手術(略称 Aorto-Femoralバイパス手術)は腸骨動脈などに長い区間の閉塞や狭窄がある場合行われます。

 

この大動脈-大腿動脈バイパス手術では、開腹(お腹を開けることです)する必要がありますので、

全身麻酔が必要なしっかりした手術にはなりますが、

安全性は極めて高く、手術操作を加える部位でのリスクは低いです。

また血液も自然な方向に流れますから長期間の安定性に優れます。

 

手術は全身麻酔のもとでお腹を開け、

腹部大動脈に人工血管(通常ダクロン製)を縫いつけ、それをお腹の中から下肢の付け根付近に通して、

そこにある大腿動脈に縫いつけます

(上図の青線の部分が人工血管です)。

 

腸骨動脈等が短い部位の閉塞であればカテーテル治療(PTAまたはPPI)がまず試みられますが、

動脈の閉塞部位が長いとか、血管壁の状態が悪ければ

外科手術が優れているという報告が多いです。

 

大動脈‐大腿動脈バイパスは長期成績良好ですが、

手術を乗り切るためにはある程度の体その患者さんの体力や状態や必要度に応じて治療法を選ぶのが良いです 力が必要です。

手術前に危篤状態とか超高齢者で歩くこともできないなどの状態では

別の手術法(多少効率は落ちても体への負担が少ない方法)やPTA、PPIなどを考えるのが有利です。

 

たとえば腋窩動脈から体の側面の皮下を通して大腿動脈までバイパスをつける腋窩動脈‐大腿動脈バイパス手術(Axillo-Femoralバイパス手術)とか、

腸骨動脈の閉塞が片側なら、良いほうの大腿動脈から血液をもらってくる大腿動脈‐大腿動脈バイパス手術(FFバイパス手術)などが

次善の策とは言え安全を考慮した現実的良策として選ばれることがあります。

 

そのあたりの判断は患者さんの状態を見ながらご家族を含めたチームで十分相談の上、決定することが大切です。

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大腿動脈―大腿動脈バイパス術 (F-Fバイパス術): 幅広い応用が【2025年最新版】

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最終更新日 2025年 9月17日

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◆ 大腿動脈バイパス術(F-Fバイパス術)とは?

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FFバイパス

大腿動脈―大腿動脈バイパス術(Femoro-Femoral Bypass:F-Fバイパス術) は、
片側の大腿動脈(外腸骨動脈)が閉塞して血流が遮断されたときに、
もう一方の健常な大腿動脈から血液を「借りて」流すことで下肢の血流を改善する手術です。

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  • 人工血管(ゴアテックスなど)を使用

  • お腹を大きく開けず、左右の下腹部に小切開を加えてバイパスを作成

  • 全身への負担が少なく、高齢者や合併症のある患者さんでも比較的安全に施行可能

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◆ 他の治療との違い・使い分け

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下肢の血流障害(閉塞性動脈硬化症など)に対する治療には以下の方法があります。

  1. カテーテル治療(PTA・ステント留置術)
     動脈の狭窄が軽度の場合に有効。

  2. 腹部大動脈から下肢への人工血管バイパス
     重症例に理想的だが、体力的に負担が大きい。

  3. F-Fバイパス術
     お腹を開けずに済むため、
     体力の低下している患者さんや心臓・肺に持病がある方 にも選択可能。

つまり、F-Fバイパス術は 「低侵襲で安全性が高い選択肢」 といえます。

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◆ F-Fバイパス術の特徴とメリット

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  • 小切開で可能 → 開腹手術を避けられる

  • 術後回復が早い → 手術直後から食事が可能、社会復帰もスムーズFFバイパスで術後まもなく食事も再開でき早く回復します

  • 心臓・肺への負担が少ない → 心不全や呼吸器疾患のある方にも有利

  • 既往手術がある方にも適応 → 腹部の手術歴があっても実施できるケースが多い

  • 麻酔法が選べる → 全身麻酔が難しい場合、脊椎麻酔や局所麻酔で対応可能

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◆ F-Fバイパス術+他治療の併用(ハイブリッド治療)

FFバイパス+FPバイパス

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  • 足の末梢側にさらに狭窄・閉塞がある場合
     → F-Fバイパス+FPバイパスF-Fバイパス+カテーテル治療 を組み合わせる

  • 動脈硬化が多発しているケース
     → 複数の血行再建法を併用 し、全体の血流改善を図る

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このように、F-Fバイパス術は単独でも有効ですが、他の治療と組み合わせることで効果を最大化できる柔軟な手術法 です。

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◆ まとめ:大腿動脈バイパス術(F-Fバイパス)は「体に優しい血流改善手術」

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大腿動脈―大腿動脈バイパス術は、

  • お腹を開けずにできる低侵襲手術

  • 高齢者や心肺機能が低下した患者さんにも適応可能

  • カテーテル治療や他のバイパス術との併用も可能

という特徴を持ちます。

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下肢の血流障害(閉塞性動脈硬化症など)で歩行障害や安静時の痛みにお悩みの方 は、
F-Fバイパス術を含む最適な治療選択についてぜひご相談ください。

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4b) 下肢の閉塞性動脈硬化症に効く手術は―正しい選択を

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近年、高齢化や食生活の変化のため動脈硬化症が増えており、下肢の閉塞性動脈硬化症もずい下半身を支える動脈です。これらが詰まったり狭くなったりすると治療が必要になりますぶん増えました。

よくあるパタンは腸骨動脈(腹部大動脈がおへそのあたりで左右に枝分かれした直後の動脈です)や大腿動脈(腸骨動脈より足側の動脈です)、その先にある浅大腿動脈膝窩動脈などが細くなったり詰まったりする形です。いわゆるASOですね。

歩くと足が痛むのは要注意です。こうなりますと、ある程度歩けば下肢が痛みます。そこで休憩すると痛みが取れますが、再び歩きだすと、しばらくしてまた痛みます。下肢の動脈の状態が悪くなればなるほど、その歩ける距離が短くなり、さらに悪化すれば、安静時つまりじっとしていても痛くなります。

脊柱管狭窄症という脊椎(つまり背骨)の一部が狭くなって神経痛が出る病気と症状が似ることがあり、診断が大切です。

ASOがさらに悪化すれば、足に潰瘍ができて強い痛みに苦しんだり、足が腐ってきて痛みと毒素が全身を侵すため、命を救うために足やゆびを切断する場合もあります。

上記の太い動脈レベルでの病気(狭くなったり詰まったり)で、かつその足側の動脈がまずまずのサイズと形を保っていれば、下肢血管のバイパス手術によって改善します。痛みも改善し、歩く距離も伸びる方が多いです。

下肢動脈の血行再建のためのバイパス手術を示します具体的には動脈が狭くなったり詰まったりする病気の部位によって、大動脈―大腿動脈バイパスとか大腿動脈―膝窩動脈バイパスなどがあります。左に模式図を示します。

また状態の悪い方、超高齢の方などには負担が少ない方法として、大腿動脈ー大腿動脈バイパス(左図)や腋窩動脈ー大腿動脈バイパスなどで安定化を図ることもあります。

カテーテルで動脈を広げる治療(PTAと略します)も近年進歩し、状態の悪い患者さんや、病変部が短い患者さんあるいは糖尿病血液透析などの基礎疾患が比較的穏やかな方には適応になることがあります。

それらの選択は内科の先生方とも相談して、もっとも患者さんに合うものを選ぶようにしています。

 

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11) 心臓の再生医療―着実な進歩 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月22日

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◼️心筋幹細胞

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2011年1月29日、NHKテレビ追跡AtoZにて「世界初の心臓再生技術」が放映されました。

京都府立医大チームの皆様にエールを贈りたく思います。

この再生医療は京都大学探索医療センターにて開発研究中に米田正始も参加させて頂いていたもので、

そこで用いられる心臓幹細胞を守り育てる基盤として米田が京都大学再生研究所の田畑泰彦教授と開発してきたbFGF徐放ゲル(bFGFビーエフジーエフは体内にある生理物質で血管を増やし細胞を守ります。

徐放とは徐々にbFGFを放出することで効き目を飛躍的に増やす方法です)が活用されていることを光栄に思います。

このbFGF徐放ゲルをシート状にして心臓の表面に置くと、約4週間かけてbFGFが徐放され、新しい血管が生まれ、また移植した細胞を守ります。

私が数年以上前、京大病院で行った再生医療の臨床試験ではこのシートを単独で使い、

あわせて患者さんの大網(たいもう)という血管豊かな組織をその上にかぶせ、

患者さんの心臓に新たな血管ができたことを世界へ発信しました(英語論文242番、2009年)。

このシート単独でも効果が見られたため、そこに細胞移植を加えた府立医大チームの方法は期待できると思います。

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◼️ iPS細胞

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そして2012年に京都大学の山中伸弥教授がノーベル医学賞Shinya_yamanaka10を受賞されたiPS細胞のこれからの展開が大いに期待されています。

たとえば胎児心筋細胞の移植では心機能の改善や不整脈の予防効果が報告されています。iPSなら倫理的な問題もなく、胎児心筋細胞を創ることがおそらくできるでしょう。

これまで不可能であったことが可能になるのです。

さらに2020年1月に大阪大学の澤芳樹教授らのチームがiPS細胞由来の心筋シートを心臓の周りに貼り付ける再生医療・臨床治験の一例目を報告されました。これからこの技術が発展し、弱った心臓のパワーアップができる日が楽しみです。
さて、心臓の再生医療には2つの代表的考え方があります。

対象は当面おもに末期の虚血性心疾患の患者さんです。

たとえばバイパス手術PCIがもうできないほど血管が悪いとか、虚血性心筋症のために心臓の力が極端に落ちているケースです。

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◼️ 心臓再生医療の内容

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心臓の再生医療は次の3つを軸に発展して来ました

1.血管を造り、心臓の虚血(血液の流れが足りない状態、酸欠と同じです)を治す。

つまり血管新生治療です。

2.心筋(心臓の筋肉、当然パワーがあり力強く動きます)を造る。つまり心筋再生治療です。
3.それ以外に移植細胞などが出すサイトカイン(ある種のホルモン、成長因子)による治療があります。

いずれもこれまで多くの研究がなされて来ました。私たちも京都大学時代にネズミやブタ、イヌなどを使って新たな治療法・再生医療の開発に取り組んできました。

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しかしこれまでのところ、2.の心筋を造る、つまり心筋の再生はまだ実用化には届かなかったのです。

それは心筋は自ら動く力を持っており、それだけの特徴を持つほど成熟した細胞と言えるのですが、

成熟した細胞は増えにくいという特性があり、

多数の細胞まで増やさないと心臓の仕事をするだけのパワーにはならないという問題があります。だからと言って増えやすい未熟な細胞ではあまり動くだけの力がなく、

たとえ数だけ増えてもES細胞。延々と増え続け、さまざまな細胞になれる特徴を将来治療に活かすべく研究が進んでいますIPS細胞。自分自身の細胞から作ったES細胞のような意味合いがあり、今後の発展が期待されます。まだ再生医療には使えないのが残念です。心臓のパワーアップという治療目的に沿うことはできません。

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そこで今後ES細胞(写真左)やiPS細胞(写真右)のように、増えやすい性質をもった細胞をまずたくさん造り、

それをうまく成熟させて力強く動く細胞に育てるという技術が開発されれば、

上記2.の心筋再生医療は実用化に向かって行くでしょう。

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しかしながらこれまでの実績だけでも心臓の再生医療は決して捨てたものではありません。

というのは1.の血管新生治療は現在の技術でもかなりできます。

3.も状況と方法によっては使えます。

これまで細胞移植で多少の効果が見られた理由は3.のサイトカインだったという報告が増えています。

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 ◼️とくに血管新生について

Bonemarrowmncell_nature.

血管新生治療の代表的な方法の一つが、骨髄単核球細胞移植(写真右)があり、

これは全身麻酔下に骨髄を刺して細胞を得る方法と、GCSFというお薬で細胞を血液へ追い出してから捉える方法があります。

いずれの場合でもある程度血管新生ができ、下肢では虚血改善の報告があります。

ただしこの方法は手間がかかる割にはできる血管が毛細血管(細すぎてあまり役に立ちません)がほとんどという弱点があります。

このハイドロゲルにbFGFなどの成長因子をしみこませて使います。その効果は私たちのデータでは細胞移植より強いです。これを克服すべく、私たちが行ってきた再生医療はbFGFという血管を造る自然のホルモン(タンパク質)を遺伝子を使わずに、ハイドロゲル(左写真)と混ぜて心臓の表面で直接効かせるという方法です。

効果があり、それ以上に全身に影響を与えない局所治療という特長を持ちます。それで高齢者や腎不全、網膜症がある患者さんにも使えるわけです。

京都大学時代にはこの方法と大網(お腹にある網状の 組織で多量の血管や成長因子を含みます)をセ心臓の再生医療(血管新生)を患者さんに行っているところですットにして使い、

血管造影で改善が肉眼で見えるほどの結果を出しましたが、

私が京大病院を去ってからはこの臨床研究は停止したままです。

日本では自施設でハイドロゲルを造らねば使えないため、

とりあえずタイで認可を受け、バンコック心臓センターにて臨床試験を再開しました。

新しい臨床試験では低侵襲(つまり患者さんの体への負担が少ない)を意識して、小切開で、人工心肺(体外循環)を使わず、かつお腹の組織を使わない方法を開発して使っています。

右の術中写真のように、心臓の表面に固定するだけです。

残念ながらこのプロジェクトは現地のリーダーであるArom先生が病気のため逝去され、中断された状態です。今後さらに場を求めていく予定です。

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◼️ 下脚の血管新生

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なおこの方法はバージャー病やASOなどの下肢の虚血では京大病院にて 7名の患者さんに使用し、成果を上げました。

5.動脈硬化症 6) 新しい再生医学の治療法などをご参照ください。)

その後数年経って、この治療法が京都大学で再評価され、探索医療センターの目玉プロジェクトとして2回目の臨床試験が行われ、良好な結果が報告されました。

この再生医療の恩恵がもっと多数の患者さんたちに届くよう、あらたな場を検討しています。

仁泉会病院心臓血管外科の米田正始の外来に予約して来院頂ければご相談にお乗りします。

あるいはメール等でご連絡下さい。

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執筆:米田 正始
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5. 動脈硬化症―ゆっくりと来る悪魔、予防や早期治療が大切 【2020年最新版】

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最終更新日 2019年12月29日

1. 動脈硬化症とは

動脈硬化症は高齢化そして栄養やストレス過多の現在、増える傾向にある現代病です。
動脈硬化は脂肪などが血管の壁に貯まって起こります。
動脈は全身にあるため、動脈硬化は全身病となります。

たとえば心臓とか脳あるいはお腹や下肢にもよく起こります。
同じ理由で、下肢の動脈の悪い方は心臓等の動脈も悪いことがよくあります。
高血圧症は動脈硬化の全身への現われです。

いずれも平素から注意が大事で、また原因の除外や予防も大切です…

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2. 心臓の動脈硬化症は

心臓は数分も休めば命にか かわる重要臓器ですので、心臓の動脈硬化症つまり冠動脈病変は要注意です。
予防や早期治療が役立つだけに油断はしないようにして下さい
右図は冠動脈の動脈硬化の結果、心筋梗塞が発生したところを示したものです…

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3. 大動脈の動脈硬化症 にはどういうものが?

大動脈(右下図)も人間の動脈で最大のものであるだけに硬化が進めば危険な状態になります。
一般には大動脈瘤の形でくることが多いのですが、心臓と違って胸の痛みなどの症状がはっきりしないことが多く、その分要注意です。

いったん瘤が破裂してしまうと激痛が走りますが、まもなく命を落とすことが多いため平素から注意し、早期発見することが望まれます…

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4. 下肢の閉塞性動脈硬化症 では?

高齢化にしたがって下肢の動脈硬化症も増加傾向にあります。
下肢の病気は命にかかわらないと思われがちですが、お年寄りなどでは下肢の動脈硬化のため下肢が腐り、切断となると体力が弱まり命にかかわることが増えます。

軽症ならカテーテルによる血管内治療PPIでより負担少なく治せます。
重症になっても下肢の閉塞性動脈硬化症には各種バイパス手術で治せるものが多数あります。
血管の長い完全閉塞などでは、これまでの長期データでバイパスが有利な傾向が示されています。
バイパスの受け皿となる血管がなくなると手術も困難となるため、下肢の調子があまり悪くならないうちにご相談されることを勧めます…

続きを見る

1. 下肢の閉塞性動脈硬化症に効く手術は

詳細はこちら

2. 腋窩動脈大腿動脈バイパス(Axillo-Femoral バイパス)

詳細はこちら

3. 大動脈―大腿動脈バイパス手術 (Aorto-Femoralバイパス術) とは?

詳細はこちら

4. 大腿動脈―大腿動脈バイパス術 (F-Fバイパス術)について

詳細はこちら

5. 下肢のASOが重症化したら?

下肢の閉塞性動脈硬化症が悪化し、しかもカテーテル治療やバイパス手術ができない状態のときでも再生医学とくに新しい血管を創る血管新生療法なら対処可能です。

ただし下肢がすでに死んでしまった状態ではいくら血管を創っても死んだ組織は生き返らないため手遅れとなります。
再生医学とは死んでしまった組織を生き返らせるという意味ではなく、血管などを創るという意味です。
そこを注意し、早目にご相談されることが大切です…

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6. 新しい再生医学の治療法

詳細はこちら

7. bFGFを用いた血管新生の特長は?

治療法のなかった下肢ASOに威力を発揮するでしょう。
現在準備中の臨床試験にご期待ください…

続きを見る

8. 病診連携の講演会から

平成25年10月に奈良市で行われた米田正始の講演の一部です。
弁膜症、虚血性心疾患、大動脈などのまとめと、下肢の虚血の再生医療についても簡略ご説明します。
音声がやや小さいためボリュームを上げてご覧ください。ご要望にお応えし字幕をつけました。
医療者の方々向けです。一般の皆様にはちかぢか一般向けを予定しています。

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bFGFを用いた血管新生療法の特長は―動脈を創れるのがユニーク

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bFGF(ビー・エフジーエフ)たんばくの徐放(じわりと効かせる)の方法は

bFGF徐放を用いるとサイズの大きな血管が作れます。これによって血のめぐりはかなり改善します1.遺伝子治療ではなく、

そのためウィルスの運び屋(ベクター)などの危険性あるものを使わずにすむ、

そのため将来がんなどの病気が起こる心配が少ない、

 

2.下肢以外の体にはbFGFがほとんど行かない

(たとえば血の中のbFGFの濃さは健康人と同じです)

そのため副作用 が起こりにくい、

 

3.骨髄から細胞を押し出すタイプの薬(G-CSF)も必要ないため、

その副作用も心配ない、などなどの利点があります。

 

またbFGFは骨髄細胞などの場合よりも太い血管、といっても小動脈ですが、とにかく動脈が創れるため、血液をより多く流せるうえに長持ちしやすいと言うメリットもあります。

血管新生療法のなかでも一番望ましい動脈新生というわけです。

顕微鏡写真でbFGF徐放ではより大きいサイズの血管(動脈)ができることを示しています。

 

bFGF徐放では、患者さんに単に筋肉注射するだけでOKです。遺伝子やウィルス・細胞その他を使う必要もなく、安全です。4.下肢に筋肉注射するだけなので15分もあれば終了します。

つまりどこも切らずにすみます。

いずれは外来でもできるようになると考えますが、当面は安全のため手術室で下半身の麻酔をして行っています。

現在この方法は高い評価をうけて京大病院探索医療センターの主要プロジェクトとして、2010年9月から京大病院にて臨床治験が行われ、成功裏に終了しました。

 


メモ1: 骨髄細胞、正確には骨髄単核球細胞は、かつてはそれ自体が新たな血管を造るものと考えられていましたが、その後VEGFという血管を造るたんぱくを分泌することで血管を造ることが判りました。

しかしVEGFは毛細血管しか作れないことがすでに示されており、結局骨髄単核球細胞は動脈を造れないことがわかりました。つまり効果が不十分なのです。

この点でもbFGFへの期待が生まれています。

それはbFGFが血管平滑筋細胞を集める作用があり、その結果、動脈壁を造るのに役立つという特徴があるからです。

 

■患者さんの想い出: Aさんはまだ20代の若い男性でしたが、バージャー病のため膝から下の動脈がほとんど閉塞し、足指が腐って2本も切断され、さらには足に皮膚潰瘍ができ強烈 A307_080な痛みのために立つこともできなくなりました。その結果、仕事も失い、家で失意と苦しみの日々を送っておられました。

ひょんなことから米田正始の外来へ来られ、精密検査の結果、これは治せる、少なくとも良くできる、とbFGF血管新生治療の臨床試験を受けて頂くことになりました。

これがこの治療法の世界第一例目だったのです。といっても何年もかけてさまざまな観点から安全性と効果を検討してきましたので、理論だけでなく実際の安全性と効果にも自信を持っていました。少なくともこれ以上はできない、というレベルに達していました。

再生医学とか血管新生といえば大げさで大変な治療と思われるかも知れませんが、実際には痛み止めをしておいて、筋肉注射するだけなのです。治療は半時間ほどで完了しました。

その結果はすばらしいものでした。日を追うにつれて足の状態は改善して行きました。

最初は足が少し温かくなり、動きが次第に軽くなり、皮膚潰瘍が徐々に小さくなり痛みも軽くなって行きました。退院時にはすでに治療前よりあきらかな改善を見ていましたが、治療後3ヶ月の外来では皮膚潰瘍がすっかり治り、痛みも消え、普通に歩行できるまでに回復されたのです。

A310_038その結果、Aさんは仕事復帰され、社会人としての立派な生活を取り戻されたのです。

後で知ったこと(というより忘れていたこと)なのですが、Aさんのお母さんは京大病院に勤務する看護師さんでした。昔、私がごたごたに巻き込まれて京大病院を去るときにも、自分の息子を助けてくれた先生がなぜ去らねばならないのですかと言ってくださったとお聞きしました。こんなにうれしいことはありません。汗と涙が十分に報われた想いです。

Aさん、いつか再会したいものですね。

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6) 新しい再生医学、血管新生療法―これから多くの患者さんのお役に立てれば

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Q: こうした従来の治療法でだめなとき、何か方法はあるのですか?

A: 上記の従来治療をどのように駆使しても閉塞性動脈硬化症ASOでは下肢の血流が不足し、下肢を切断する危険が迫っている場合には、

下肢に新しい血管を造って下肢を救う血管新生療法という試みがあります。

これは再生医学の一つです。

 

動物実験のデータ。bFGF徐放は多数の血管を作ることで血のめぐりを改善します。写真で一目でわかるほどの効果があります。 

左図はbFGF徐放(bFGFは塩基性繊維芽細胞増殖因子というたんぱく質、徐放は徐々に放出する方法です)の動物実験の写真です。

 

bFGFで目に見える血管が沢山できているのがわかります。

目に見えるというのが大切で、比較的大きな血管とくに動脈ができるのです。

血管新生療法の効果十分です。

こうした実験を糖尿病高コレステロールの動物でも十分に行い、効果と安全性を確認してから下記の臨床試験に入りました。

 

これまで実績があるのは骨髄の細胞(たとえば骨髄単核球細胞)を下肢に注射して血管を作る方法で一定の成果が報告されています。

 

私達はこれをさらに立派にすべく、bFGFを下肢で4週間じっくりと効かせる(徐放)方法を京都大学再生医科学研究所の田畑泰彦先生らと開発しこれまで7名の患者さんに臨床試験として使用しました。

痛みが消え、下肢の皮膚潰瘍が治るケースが多く、今後さらに展開させたく考えています。

 

これまでは京大病院でこの血管新生療法を行ってきましたが、2007年に米田正始が退職してから止まっていました。

2010年9月から、この治療法の良さがあらためて評価され、京都大学探索医療センターの目玉プロジェクトとして第二のシリーズが行われました。その結果、良好な成績が確認されて各種学会でも発表されています。

同時に大規模な企業化も検討しており、何よりも安全第一のため様々な準備、設備、倫理委員会や法律遵守のための手続きなどが必要なため時間をかけて取り組んでいます。

bFGF徐放の再生医療にてASO患者さんの足が治りました

写真はバージャー病の患者さんの治療前後の比較をしたものです。ASOでも同様の効果が出ています。

安全重視のためまず最少量のbFGFを使っていますが、それでもこれだけ効くことから皆勇気づけられ、今後徐々に量を増やして一層の効果を期待しています。

 

将来的にはES細胞iPS細胞などの万能細胞を使えるようになれば良いのですが、現時点ではこれらはまだまだ実験段階で、効果も安全性も未確定なため、

自然で体にやさしいbFGF徐放による血管新生療法を進める努力をしています。

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5.動脈硬化症 7) bFGFを用いた再生医療の特長はへ進む

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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下肢の閉塞性動脈硬化症ASOが重症化したときの手術法は?

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Q: 下肢の閉塞性動脈硬化症ASOが重症化したらどういう治療法があるのですか?

下肢の比較的太い血管が動脈硬化のために細くなったり詰まったりしている場合、カテー下肢のASOのとき、下肢動脈を手術で再建する方法をいくつか示します。手術はカテーテル治療では治しづらい状態のとき、威力を発揮し、効果が長持ちしやすいです テルで広げる(PTAPPIと呼ぶ治療法です)ことで血流がまた流れるようになれば下肢の状態は改善する可能性が高くなります。

 

またカテーテルでPTAできない状況では、下肢バイパス手術で血液が流れるようにできるケースが多くあります。

バイパス手術には

腹部大動脈から大腿動脈へのバイパス(大動脈-大腿動脈バイパス手術(Aorto-Femoralバイパス術))や、

大腿動脈から膝か動脈へのバイパスさらにはもっと末梢へのバイパス、

あるいは左右の大腿動脈同士をつなぐ大腿動脈‐大腿動脈バイパス術(F-Fバイパス術)

などもあります(右図をご参照下さい)。

 

しかしそれらの方法ができない、あるいは血液が十分流れないときは様々な工夫が必要になります。

お薬で血液をサラサラにして流れをよくするとか、血液(赤血球)を柔らかくしてせまいところでもより流れやすくするとか、

点滴などで下肢の細い血管をできるだけ広げるなどの方法である程度の改善が見込めるケースも多々あります。

 

それらの治療法でも軽快しない場合は再生医療を考える必要があります。わたしたちの行ってきた再生医療、血管新生治療は安全に自然に動脈を誘導することが示されています。

 

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5.動脈硬化症 6) 新しい再生医学の治療法 へ進む

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元・京都大学医学部教授
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4) 下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO)では?―足が腐ってからでは手遅れ

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Q: 下肢の動脈硬化症では足が腐ったりすると聞きましたが?下肢へ血液を送る動脈を示します。これらの動脈のどれかが狭くなったり詰まったりすると下肢が痛んだり、悪くすると腐ったりしてしまいます

A: 下肢の動脈硬化はとくにASO(閉塞性動脈硬化症)として大きな社会問題になっています。

糖尿病慢性腎不全・透析の患者さんなどの場合、起こりやすい病気です。タバコも原因となります。

高齢化社会になり、しかもメタボリック症候群が増えた現在、国民的病気という心配もでてきています。

 

閉塞性動脈硬化症ASOでは、右図の動脈のどれかが狭窄(狭くなる)したり閉塞(詰まる)します。

あるいはそれらの動脈の枝がやられても起こります。

 

また若い方に多いバージャー病は動脈硬化とは少し原因が違う形ですが、ASOと同様に下肢バージャー病など下肢の動脈が閉塞する病気では足が腐ることがあり注意が必要ですに血液が流れにくくなり同じ問題が生じます。

下肢の動脈が次第に細くなり閉塞すると下肢が腐ってしまい(左図)、痛みのみならず生命の危機に陥ることも多くあります。

そうなると命には代えられないということで下肢をやむなく切断しなければならないケースもあります。

 

日本では毎年1万人以上の方がこのために下肢を切断されているというデータもあります。

下肢を切断されたらとりあえず命は助かっても患者さんの生活は悲惨です。

健康を害し、寿命も短くなるというデータが知られています。

仕事がある方の場合は失業にもなりかねませんし、お年寄りであれば身の回りのことができなくなったり運動不足から体調も悪くなり、大変困った状況になってしまいます。

 

また近年は心臓などのカテーテル検査・治療に関連したコレステロール塞栓で足などの動脈が詰まり、強い痛みとともに下肢が腐り(壊死(えし)と呼びます)、切断に至ることも増え、注意が必要です。

(患者さんからのお便り14をご参照)

 

もし下肢とくに足や足の指が冷たくなり色が変われば早めに心臓血管外科専門医にご相談されることをお勧めします。

専門医がわからない場合は循環器や内科あるいは血管関係の医師でもよいでしょう。

手術で治るケースが多数あり、それができない状況の時でもカテーテル治療や再生治療(血管新生)があるため、手遅れになるまでにご相談下さい。

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5.動脈硬化症 5) 下肢のASOが重症化したら?へ進む

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執筆:米田 正始
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元・京都大学医学部教授
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