第30回市民公開健康講座
最新の心臓手術と科学的ダイエット
高の原中央病院特任院長・ハートセンター長
米田 正始氏
高の原中央病院栄養科長・管理栄養士
余呉 淳子氏
第30回市民公開健康講座(奈良新聞社主催)が昨年12月18日、奈良市学園前南3丁目の奈良市西部会館で開催され、約200人が参加した。
同講座は、広く県民に健康について正しい知識を啓発し、考えてもらおうという趣旨で行われている。
今回は高の原中央病院特任院長でハートセンター長の米田正始氏が「最新の心臓手術と科学的ダイエット」をテーマに講演した。また同病院栄養科長で管理栄養士の余吾淳子氏が「糖質制限食とは」をテーマに講演した。
狭心症の治療についての基本的な考え方は、まず適切な予防・食事・運動を行うとともに内服治療を行います。それで効果がなければ、カテーテル治療(PCI)を行います。さらに必要であればバイパス手術を行います。
PCIの特長は、低侵襲つまり皮膚を切らずに治療ができるという点です。一方で、バイパス手術は切らなければなりませんが、安定性が良く長生きできるのが特長です。天皇陛下もこの手術を受けられましたので、強い薬を使わずに公務に励んでいただけるのです。
バイパス手術に使う内胸動脈は、NOS一酸化窒素合成酵素を作りますから、動脈硬化を防ぎます。このため、内胸動脈は冠動脈より「若い」のです。そこでバイパス手術は、血液透析を受けている患者さん、90歳前後の高齢者の方、脳梗塞後や頚動脈狭窄のある方、低肺機能の方、ASO末梢血管病変のある方、癌や感染をお持ちの方にも効果が高いのです。透析や重い糖尿病患者さんの場合、冠動脈が高度に石灰化していますが、この場合もバイパス手術は役立ちます。透析歴30年の患者さんでも内胸動脈はやわらかかくきれいだったという経験があります。
MIDCAB手術 (創がちいさいバイパス手術)は内科治療とのハイブリッド(合同治療)に適しています。と言いますのは、創が小さく、早い社会復帰ができることと術後の長期成績が良いからです。
虚血性心疾患では、リスクファクターのある患者さんは注意が必要です。
糖尿病、高血圧、高脂血症、家族歴、喫煙その他透析、肥満(メタボリックシンドローム)、ASO、ストレスなどが該当し、痛みはさまざまです。痛くない場合もあります。病気の有無を調べるには、苦痛のないCTで検査するのがいいでしょう。けっこうきれいに見えます。医師に相談してください。
▽弁膜症の手術
心臓弁膜症は問診や心雑音、胸部X線で心拡大があれば要注意です。心房細動(略称AF)も要注意で、検査には3次元エコーが威力を発揮します。息切れやだるさ、ふらつき、胸痛があれば、我慢せずに医師に相談してください。
弁膜症の手術には、弁形成術が一番です。僧帽弁閉鎖不全症MRや三尖弁閉鎖不全症TR、大動脈弁閉鎖不全症ARでも形成は行えます。ただし弁形成のエキスパートの場合ですが。ワーファリンが不要になるので、QOL(生活の質)が向上します。若者や妊娠希望者、活発な生活を望んでおられる方には朗報です。90歳を過ぎても活発に活躍したい方には役に立つ手術です。
ちなみにワーファリンとは、これまで患者さんの生命を守ってきたもっとも素晴らしい薬のひとつです。副作用もほとんどありません。しかし服用には手間がかかり、妊娠出産は危険です。一生涯ワーファリンを服用するということは大変なことです。ですから弁形成手術でワーファリンを服用しなくていいようにしているのです。
ポートアクセス(小開胸)
僧帽弁手術は、左半側臥位で第4肋間開胸を行います。うんと小さい創になります。より一層、エキスパートだけができる手術ですが(写真右は術後の創です)。
弁形成術にこだわるのは、患者さんの人生を変えるインパクトがあるからです。たとえば妊娠・出産や激しいスポーツ・仕事が可能になり、QOL(患者さんの生活の質)が向上します。またより長生きすることができるのです。
では弁形成術が不適応なときはどうすればよいのでしょうか。その多くは、弁の破壊が高度な場合ですが、私たちは自己心膜による弁再建を行います。この手術は弁形成を上回る性能があり、弁形成に準じた長期安定性があると見込まれています。
弁膜症手術には、弁置換もあります。機械弁は60歳以下で通常の生活を志向するときに、生体弁は60歳以上や若くても危険な仕事をする方などに使用します。90歳でも手術可能です。自己心膜AVRを開始し、今後はカテーテルで入れる弁(TAVI)も行います。
▽急性大動脈解離
急性大動脈解離は、強い胸痛が発生し大動脈が裂けます。発生2日で患者さんの半分が死亡します。しかし手術すれば、95%以上は救命する実績を持っています。
たとえば、ある患者さんは開胸したところ、上行大動脈が解離していました。低体温・循環停止で大動脈を切開し、GRF糊で大動脈を処理します。遠位部を吻合し、大動脈弁を形成して循環を再開します。さらに近位部を吻合して出来上がりです。
大動脈疾患では、強い胸痛、腹痛腰痛があれば直ちに医師に相談ないし病院に搬送してもらってください。手足または心臓に虚血症状がくることもあります。胸部瘤では直径6㌢㍍、腹部瘤では5㌢㍍が手術適応の目安です。胸部はレントゲン、腹部は触診で検査します。エコーも有用です。
大動脈弁狭窄症 (AS)は、心臓の弁が狭くなる病気です。重症ASの自然予後は悪く、手術を受ければ99%程度の生存率ですが、受けないと発症から1-2年以内に多くは死亡します(右図)。無症状のASでも自然予後はよくありません。
たとえばある患者さんは、AS、三尖弁閉鎖不全症TRと僧帽弁閉鎖不全症Mr、心房細動のため来院しましたが、糖尿病、心筋梗塞後、睡眠時無呼吸症候群、呼吸機能障害、腎機能障害もありました。硬化石灰化した大動脈弁を切除し、生体弁で弁置換し三尖弁形成術を施行しました。
治せる病気で治療を受けずに命を落とすのはもったいないです。たとえば大動脈弁狭窄症、腹部大動脈瘤、狭心症、多くの僧帽弁疾患、胸部大動脈瘤の大半は治療が可能です。それらの病気と診断されたら、十分な相談のうえ、心臓手術を検討して下さい。
▽ローカーボ・ダイエット(糖質制限食)
なぜ心臓外科医がダイエットの話をするのでしょうか。
それは手術のしっ放し、薬の使いっ放しでは患者さんが十分に健康にはならないことがあるからです。
ローカーボ+高脂肪食とは、炭水化物を減らし、その分脂肪分を増やします。これはうまいタイミングが大切です。カロリー摂取量はかえず、空腹感が少なく長続きします。タンパク質はこれまで通りです。
その結果どうよくなる のでしょうか。
インシュリン分泌を減らすことができ、体脂肪が減り体重が減ります。血糖値HbA1cが下がります。中性脂肪TGが下がります。善玉コレステロールHDLが増えます。メタボリック症候群が改善します。これによって二次的に高血圧が改善します。血圧や脂肪の薬も効きやすくなります。心臓や腎臓などにも良い影響が期待できます。もちろん糖尿病も改善します。
ではどうやってローカーボ+高脂肪食を食べるのでしょうか。
基本パターンは、一日1食、夕食だけ炭水化物を食べないようにします。朝食・昼食は炭水化物を低脂肪で食べます。
夕食では炭水化物なし、カロリー自由、脂をたっぷり摂ります。お酒は蒸留酒のみOKです。つまりウィスキーやブランデー、ジンなどです。体重を早く減らしたい人は1日2食、朝と夕食を炭水化物なしで食べます。脂肪と炭水化物を同時に食べるのは最悪です。
炭水化物の多い食品とは、穀類ではお米、麺類、パン、イモ類ではサツマイモ、ジャガイモ、野菜ではかぼちゃ、とうもろこし、れんこん、にんじん、そらまめ、果物ではバナナ、お菓子ではスナック菓子、洋菓子、和菓子、おかき、飲み物では醸造酒つまりビール、日本酒、発泡酒、白ワイン。とジュース、炭酸飲料、牛乳です。
油を上手に食べることがコツです。
素材からは肉やハム・サーセージ・ベーコンなどの加工品、調味料からは油、バター、マヨネーズ、生クリーム、和食よりも洋食・中華がよく、煮物より油炒め、揚げ物、甘い味付け、あんかけ、衣の量に注意してください。
チーズ、ホウレンソウ、ピーナッツ、アーモンドはOKです。 牛乳、ヨーグルト、にんじん、栗、ピーナッツバター、佃煮類は要注意です。
マヨネーズ、サラダ油、唐揚げ、ステーキはOKです。とんかつソース、カレー、シチュー、イチゴ、砂糖入りの菓子、はちみつは要注意です。
油を上手に食べるには、生ハムオードブル、焼肉、ローストチキン、サーモンムニエル、アスパラベーコン、レバニラ、肉野菜炒め、ロースとビーフ、ビーフステーキ、串森、にら玉、ロールキャベツ、フライドチキン、ベーコンエッグ、チキンサラダ、さんまの塩焼き、鶏の唐揚げ、ピーナツなどがいいでしょう。
▽まとめ
心臓病は正しく対処すればこわくはありません。
まず予防、次に早期発見と正しい治療です。息切れ、胸の痛みや不快感、動悸などの症状があります。さらに下肢のむくみ、疲れやすい、失神発作も要注意です。健診などで心雑音とか心臓が大きいとか心電図がおかしいと言われたらまず医師に相談を。
そして正しいローカーボダイエットもお忘れなく。肥満の3大要因は炭水化物、タンパク質、脂肪とされてきました。しかし、脂肪は肥満の原因ではありません。糖質含有の多い食品を食べ過ぎるのが原因なのです。 砂糖や米は、体内でその糖質が脂肪に変化します。これは腎臓、肝臓、膵臓などにも影響を与えます。
ここで注意するべき8カ条を示します
①減らすのはカロリーではなく糖質です
②辛いけれども主食と砂糖を抜きましょう
③夕食から糖質制限を始めましょう。ごはんを抜いて肉や魚は食べましょう
④増やすのは葉野菜、青魚、きのこ、海藻、赤身肉です
⑤油は量よりも質を重視
⑥運動するときは食べてもOKです
⑦1日3食+水分補給を怠りなく
⑧主食を食べるときは非糖質の食品を少量
アルコールはビール、日本酒、赤ワインは控えたほうがよく、ウイスキー、ジン、ブランデーはOKです。
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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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