お便り31 大動脈弁形成術の患者さん

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若い患者さんでも弁膜症は少なからずあります。

大動脈弁の内容が2枚(通常は3枚)になる状態を二尖弁と呼びます。

それ自体は病気とは限らないのですが、

弁が壊れやすく、手術が必要になることがよくあります。

 

Ilm10_de02004-s この二尖弁という状態は生まれたときからのものですので、

10代や20代という若い時期に手術が必要になることもあります。 

その場合、人工弁による弁置換が世間一般では多いのですが、

この若さでは生体弁はあまり長持ちせず、機械弁が多いです。

しかしそのために何十年もワーファリン(血栓予防薬)を飲み続ける必要があり、

男性患者さんでは格闘技のような激しいスポーツや多忙な仕事に支障がでたり、

女性患者さんでは妊娠出産が難しくなります。

そこで弁形成術の意義が大きくなります。

 

しかし大動脈弁形成術は難しく、

それをこなしている病院は少ないのが現状です。

 

またそのため内科・循環器内科の先生でさえ、弁置換のみを考えてご説明されるケースが多いようです。

そのために弁形成の時期を逸することがあるのは残念です。

 

以下はハートセンターにて大動脈弁形成術を受けられた20歳代の患者さんの奥様からのお手紙です。

大動脈弁形成術は無理という誤解・雑音に迷ったあと、勇気を出して、私の外来に来られました。


お役にたてて本当にうれしく思いました。

**********患者さんの奥様からのお便り*******

先日大動脈弁の手術でお世話になった、**の妻の**です。

米田先生には本当にお世話になりありがとうございました。

 

お便り31実物 結婚して2年になりますが結婚直前に大動脈弁閉鎖不全症重度と診断されて、

いつか手術をしなければならないと聞いたときには不安がいっぱいで気が遠くなる思いでした。

それからいろんな病院で検査をしてきましたがさまざまな見解があり、

いつ手術をすべきなのか一向に判りませんでした。

そんな時にインターネットでハートセンターを知り一度診てもらおうと思ったのです。


米田先生に診てもらい夫婦一緒に今後の話をして頂いた時の米田先生のすごく自信に溢れている「形成術で手術しましょう!!大丈夫です!!」の言葉がずっと抱えていた不安を吹き飛ばすかのようにすっごく安心感がありました。

結果的にも手術は大成功をして、米田先生にお願いして本当によかったなと思いました。

入院生活はとてもきれいな病院でほかの先生がたもすごく親身に接して頂きましたし看護師のかたもすっごく明るく元気な方たちばかりで快適な入院生活がおくれたと聞いています。

私も毎日仕事帰りにお見舞いに行く際に遅い時間の面会にも嫌な顔をひとつせずいろいろ教えてくださったりで看護師さんとお話しするのも楽しかったです。

 

形成術がもしかしたら駄目だったかもしれないところを形成術でしていただいたこと、

本当に米田先生にお願いしてよかったと思います。感謝しております。

 

また、通院の際は米田先生は忙しいと思いますのでなかなかお目にかかる機会は少ないと思いますが遠くでちょっとでも気にかけてくださいね☆

(米田註:私は自分が手術した患者さんの悩みや質問には必ずお答えするようにしています。ご心配あればメール、手紙、外来、お電話、その他の方法でいつでもどうぞ。)


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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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④大動脈弁形成術は有用?―若い患者さんほど有用、中年の方も 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月14日

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◆ 大動脈弁形成術とは?

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大動脈弁形成術は、壊れた大動脈弁を人工弁に置き換えず、弁尖や弁輪・大動脈基部の形を整えて自分の弁の機能を回復させる手術です。
人工弁に取り替える大動脈弁置換術(AVR)と比べ、条件が合えば抗凝固薬を避けられる・心機能を自然に保ちやすいといった利点があります。

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◆ これまでと今の違い(形成術の進化)

大動脈弁形成術の基本コンセプトを示します

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以前の形成術(弁尖中心)

かつては弁尖だけを整える手法が主流で、適応が限られる長期耐久性が不安定という課題がありました。結果として、高齢者や中年の方では生体弁の耐久性向上もあり、置換術が選ばれやすい状況でした。(弁膜症 事例8)(事例、10代の患者さん)

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現在の弁形成術(ジオメトリー重視)

Effective Height2.

近年は、弁尖だけでなく**AV接合部(弁輪の付け根)やST接合部(弁輪頂部)を含めた“弁の幾何学”**を総合的に整えるアプローチが普及。


これにより、これまで形成が難しいとされた症例でも良好な修復が期待できるようになっています。

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◆ どんな人に特に有用?

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若年者(10代〜30代前半)A301_049

  • 生体弁が長持ちしにくい(石灰代謝が活発で劣化が早い)

  • 機械弁はワーファリン(血栓予防薬)の長期服用が必要で、スポーツや妊娠計画に制約
    大動脈弁形成術は第一選択になり得る治療です。二尖弁(BAV)の方にも有用なケースが多く、のびのびとした日常生活につながります。

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A301_075中年層(30代後半〜50代)

  • 生活・仕事の制約を避けたい方、抗凝固薬を可能な限り回避したい方では、適応が合えば形成術を優先します。

  • 一方で高度石灰化弁組織の質によっては置換術が安全なケースもあり、**個別評価(画像・術中所見)**が重要です。

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お便り71 :ミックス手術で大動脈二尖弁形成を受けた15歳の患者さん)

お便り121: 決意して二尖大動脈弁を弁形成で克服した中学生の患者さん)

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◆ ロス手術(肺動脈弁自家移植)という選択肢

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ご自身の肺動脈弁を大動脈弁に移植する手術(ロス手術)は、若年者で有力な選択肢ですが、

  • 二尖弁の方では肺動脈弁の強度が十分でない場合がある

  • 日本では**肺動脈弁の代替(ホモグラフト)**の入手が難しい
    ため、**小児や特殊な感染症(基部膿瘍など)**に限られることが多いのが現状です。

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◆ 自己心膜による再建(再構築)の位置づけ

.Pericard.

自己心膜(ご本人の心膜)で弁尖を作り直す再建は、有用な選択肢として研究・臨床が進んでいます。

  • 歴史的には心膜弁の耐久性に課題がありましたが、近年は設計・材料・手技の工夫で改善が報告されています。

  • とはいえ、長期成績や感染リスクなど、追加検証が必要

  • 若年〜中年で形成術が不適なケースに限って、慎重に適応を検討します。
    ※「弁形成」と「弁再建(置換に近い概念)」は異なるため、**最優先は可能な限りの“真の形成”**です。

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◆ MICS(低侵襲)での大動脈弁形成

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MicsAVRb

私たちは、可能な症例で**MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲手術)**を導入。

 

  • 傷跡が目立ちにくい

  • 痛み・出血を抑えやすい

  • 仕事や学業への復帰が早い
    といった利点があり、とくに若年者の方から高い満足度をいただいています。

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◆ 形成か置換か――私たちの方針

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  1. 形成可能なら形成を第一選択

    • 二尖弁を含む若年者では最優先で検討

    • 中年でも条件が整えば積極的に形成

  2. 形成が不適なら置換

    • 機械弁:長持ちするがワーファリン必須

    • 生体弁ワーファリン不要だが若年では耐久性に限界

  3. 自己心膜再建

    1. 適応を厳密に絞って選択肢に加える(若年〜中年で形成不適例など)

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さらに大動脈基部拡張が原因なら、私の恩師が開発した**デービッド手術(自己弁温存)**なども検討し、人工弁回避の可能性を広げます。

参考:いい心臓・いい人生 【第九十三号】カナダでも頑張りました(大動脈弁形成術サミット) .

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◆ 将来展望:再治療の選択肢も拡大

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  • TAVI(タビ)(経カテーテル大動脈弁置換)の進歩により、将来的に生体弁が劣化したときに“弁中弁”で再治療できる選択肢が広がっています。

  • **Sutureless Valve(縫合不要の生体弁)**は、MICSとの相性が良く、治療の幅を広げる可能性があります。

  • これらのオプションも踏まえつつ、**現時点では「形成が可能なら形成を主軸」**に、安全第一で個別最適化を図ります。

人工弁のタイプについて.

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◆ まとめ:若いほど形成術のメリットが大きい

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  • 若年者ほど形成術の恩恵(抗凝固回避・自然な心機能・QOL)が大きい

  • 中年でも適応が合えば形成を優先

  • 形成不適なら置換や自己心膜再建を慎重に選択

  • MICSで傷跡・回復への配慮も可能

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「置換しかない」と言われた方も、形成の可能性を一度はご相談ください。
生活・仕事・学業の目標に沿った最適な治療選択を一緒に考えます。

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患者さんの想い出

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 大動脈弁形成術

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患者さんは17歳男性。

大動脈弁閉鎖不全症 III-IV度、二尖弁です。

患者さんの年齢や希望を考慮して大動脈弁形成術を施行しました。

8年後も健康な日常生活を送っています。

 

81_21.III度以上の大動脈弁閉鎖不全症が認められます。

高校生で機械弁の大動脈弁置換術AVRは毎月病院通いとなるのはかわいそうですし、

生体弁は成長期でカルシウムの代謝が盛んなため長持ちしません。

 

ロス手術では肺動脈弁のホモグラフトが日本では入手困難という問題と長期成績に疑問のデータもあるため選択肢からはずしました。

大動脈弁形成手術がこの患者さんに最も適切な術式との判断に至りました。

 

822.大動脈弁尖の余剰部分を形成するため評価とデザインをしているところです。

弁の形を直すことは難しくないのですが、それが長持ちするように、耐久性のあるものにすることは、必ずしも簡単ではありません。

組織そのものが弱い、あるいは病気で壊れていることがしばしばあり、肉眼では見えないレベルの病変も少なくないからです。

.

83_33.交連部の形成中です。

この患者では交連部に小穴があいていたため、

弁中央部ではなく交連部で形成し、

穴の部分を補強しました。

.

.

..

.

844.問題にならない程度の軽微な逆流のみ残し大動脈弁形成は完了しました。

もうすぐ術後10年になり、この大動脈弁形成術は患者さんに役立ったと言えるかもしれません。

青春時代をワーファリンなしで行けるというのは様々な点で患者さんに大きなメリットがあります。

 

現在ゴアテックス糸を用いた弁の形成・補強や自己心膜・ゴアテックスをもちいた弁の補充その他の工夫が報告されています。

まだ僧帽弁形成術ほどの完成度には至っていませんが、わたしたちも海外の仲間たちの経験と私たちのこれまでの大動脈弁形成術のデータを突き合わせ、より安定度の良い自己心膜による弁形成術を進めています。


それと並行して、ポートアクセス法(創が小さく仕事復帰も早いです)をもちいて大動脈弁形成術や大動脈弁置換術を行うことも推進しています。患者さんはご自身の仕事や生活にもっとも適したものを選べるわけです。

今後さらなる進展が望まれる領域です。

 

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事例 大動脈弁形成術

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患者さんは17歳男性。

大動脈弁閉鎖不全症 III-IV度、二尖弁です。

患者さんの年齢や希望を考慮して大動脈弁形成術を施行しました。

8年後も健康な日常生活を送っています。

 

81_21.III度以上の大動脈弁閉鎖不全症が認められます。

高校生で機械弁の大動脈弁置換術AVRは毎月病院通いとなるのはかわいそうですし、

生体弁は成長期でカルシウムの代謝が盛んなため長持ちしません。

 

ロス手術では肺動脈弁のホモグラフトが日本では入手困難という問題と長期成績に疑問のデータもあるため選択肢からはずしました。

大動脈弁形成手術がこの患者さんに最も適切な術式との判断に至りました。

 

822.大動脈弁尖の余剰部分を形成するため評価とデザインをしているところです。

弁の形を直すことは難しくないのですが、それが長持ちするように、耐久性のあるものにすることは、必ずしも簡単ではありません。

組織そのものが弱い、あるいは病気で壊れていることがしばしばあり、肉眼では見えないレベルの病変も少なくないからです。

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83_33.交連部の形成中です。

この患者では交連部に小穴があいていたため、

弁中央部ではなく交連部で形成し、

穴の部分を補強しました。

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844.問題にならない程度の軽微な逆流のみ残し大動脈弁形成は完了しました。

もうすぐ術後10年になり、この大動脈弁形成術は患者さんに役立ったと言えるかもしれません。

青春時代をワーファリンなしで行けるというのは様々な点で患者さんに大きなメリットがあります。

 

現在ゴアテックス糸を用いた弁の形成・補強や自己心膜・ゴアテックスをもちいた弁の補充その他の工夫が報告されています。

まだ僧帽弁形成術ほどの完成度には至っていませんが、わたしたちも海外の仲間たちの経験と私たちのこれまでの大動脈弁形成術のデータを突き合わせ、より安定度の良い自己心膜による弁形成術を進めています。


それと並行して、ポートアクセス法(創が小さく仕事復帰も早いです)をもちいて大動脈弁形成術や大動脈弁置換術を行うことも推進しています。患者さんはご自身の仕事や生活にもっとも適したものを選べるわけです。

今後さらなる進展が望まれる領域です。

 

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