大震災のとき健康を守る方法――5 不整脈

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Cgex032-s元々危険性のある不整脈をお持ちの患者さんにとって、震災で薬を失うことは急を要する危険な事態です。

心臓手術を受ける患者さんのなかには弁膜症や心筋梗塞などのためオペを受けたかたが少なくありません。

その弁膜症や心筋梗塞などが不整脈を誘発しやすいのです。

震災後、できるだけ早く、病院に行きましょう。

それまでにせめてできること、それはなるべく十分な睡眠をとることです。

震災時にはそれさえままならぬものですが、睡眠不足と思えば、さまざまな工夫を凝らして少しでも睡眠時間を確保するようにして下さい。

腎臓が悪くなければ、バナナやみかんなども不整脈を減らすのに役立ちます。

カリウムが多く含まれているからです。

また心の安静も大切です。なにしろ震災の後という状況ですから、大変な精神的ショックやストレスが不整脈を増幅しがちです。

できるだけ語りあい、できればときには笑うことも体を不整脈から守ることがあります。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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大震災のとき健康を守る方法――4 糖尿病

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Ilm03_bd03018-s心臓手術の患者さんのなかに、糖尿病の方は多数おられます。

糖尿病の場合、血管がやられやすく、狭心症・心筋梗塞や動脈閉そくその他の病気になりやすいからです。

また糖尿病から慢性腎不全・血液透析となりそこから心臓や血管が病気になるということも多くあります。

 

糖尿病のお薬やインシュリンはできれば余裕をもって手元におくようにして下さい。

個々の患者さんに応じて治療メニューになっているため、その人にベストの内容は他の人にはベストではないことが多いからです。

しかし避難するためにそれらを放棄せざるを得ないこともあります。

その場合、まず糖分の摂り過ぎに注意し、余った分は保存食なら翌日以後に計画的に食べると良いでしょう。

その間に薬や病院を探して下さい。

機会があれば主治医の先生にこうした震災時の対策を相談しておくのも良いでしょう。

 

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福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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大震災のとき健康を守る方法――3 高血圧症

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Ilm16_cd05007-s大きなストレスがかかると高血圧は悪化します。

そうした患者さんも薬は多少の余裕をもって所持しておかれると良いでしょう。

せめて数日間でも。

緊急事態で薬もすべて失ったという状況でしたら、せめてラジオ体操で体を温めたり、こんなときこそ皆で少しの笑顔でもだしてリラックスすることは血圧を下げるために有意義です。

これは心臓手術のあとの方でも、それを受けたことのない方でも同じです。

大震災の直後にリラックスも笑顔も難しいのは当然予測されるのですが、まずいのちを守るためにそうしましょう。

周囲にお薬の予備を持っている方があれば、近くの医師や看護師さんらの意見をもらいながら、同じ薬または同じタイプの薬をわけてもらえれば、その間に病院へ行く方法を考える時間が稼げます。

 

くすりが十分入手できない状況では、塩分はいつも以上に制限してほしいのですが、食べ物自体が極度に不足しているときにはぜいたくは言えないということもあるでしょう。

せめて塩辛い部分だけでも残すようにして、かつ水分確保につとめて下さい。

こうして病院へ行き、もとのお薬を再入手するまでの間、できるだけ体を守りましょう。

 

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大震災のとき健康を守る方法――2 血液透析

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心臓手術を受ける患者さんのなかには、もともと血液透析を受けておられた、いわゆる慢性血液透析の患者さんが少なくありません。

Ilm09_ag07002-sそうした患者さんは冠動脈狭窄や大動脈瘤や動脈閉そくをはじめ、心臓弁膜症などの病気にもなりやすいからです。

その心臓手術後、血液透析の患者さんが大震災に会われて、もし透析ができない状況になれば、これも大変です。

 

1日以内、遅くとも2-3日以内に透析病院を探す必要があります。
 

その間、せめてカリウムを含む食べ物は避けて下さい。

たとえばバナナやみかんなどですね。

近くに適切な病院が見つからない場合は、他府県でも構いませんから、早く透析病院を探して下さい。

カリウムが極端に高くならなければ、その間、心臓はちゃんと動きますし、いのちを守ることが可能です。

あわてず、落ち着いて、しかし油断なく、大切な透析の再開をはかりましょう。

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心臓手術を受けた患者さんが大震災のとき健康を守る方法――1 機械弁

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1.    人工弁(機械弁)をおもちの患者さん:

StJudeValveこれはとくに重要です。ワーファリンが1-2日切れてもただちに大問題になることは少ないですが、一日も早くワーファリンを再開することが生きるために必要です

そのために日頃からワーファリンを少し余裕持って温存しておくことと、普段の使用量を覚えておくことが役立ちます

 

もしプラザキサが入手可能なら安全に大変貢献します。

75㎎カプセルを2つ、それを一日2回服用できればかなり血栓は予防しやすいでしょう。

機械弁の抗凝固療法としてプラザキサが十分であるという確証はまだありませんが、理論的にはかなり良いことが予想されます。

このままではダメというときの緊急避難としては良いでしょう

一日も早く病院を探してワーファリンを再開する、それまではせめて脱水を防ぐ、バイアスピリンやパナルディン、プラビックス、アンプラーク、エパデールその他の抗血小板剤が手元にあれば、あるいはご家族や友人が持っておられたら、1錠でも飲んでおけば、約数日―1週間はある程度以上の効果があります。

病院へ電話やメールの問い合わせは通常できませんが、私の患者さんの場合はできる限り対応できます。それからツイッターやフェイスブックなら連絡がつくことがありますので、覚えておいて損はありません。

ともあれ大丈夫なうちに至急、病院へ行く手段を考えて下さい。

 

納豆

納豆は小さい容器1つ分でもワーファリンを完全に中和します。機械弁の患者さんは決して食べないように。

そしてくれぐれも納豆を食べないように。

 

食べたら1日以内に死亡のリスクが起こります。

 

機械弁ではなく、心房細動のためにワーファリンを飲んでおられる方も、上記よりは多少余裕はあるものの、できるだけ早くワーファリン再開への努力をお願いします。

この場合も上記の抗血小板剤の一粒でも役に立ちます。

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【第三十二号】 東海テレビに出演いたします

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【第三十二号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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いつのまにか汗ばむ季節になりましたが皆様には如何お過ごしでしょうか。

私は相変わらずばたばたと忙しくさせて頂いております。

心臓手術は年々進化し、これまでどおり重症の患者さんから逃げずに頑張る
とともに、より確実に、かつ小さい創で早い社会復帰ができるような工夫も
しています。

そういう努力がどこからか伝わったのでしょうか、
東海テレビという、東海地方ではおなじみのテレビ局のスタイルプラスという
日曜日の人気番組の担当の方から連絡がありました。

その番組のなかの仕事人列伝というコーナーで心臓外科医としての仕事ぶりを
紹介したいというわけです。

今週1週間、毎日記者の方とカメラマンさんに追いかけられての仕事でした。
そのつど患者さんのOKを頂いて、インタビューにも応じて頂きました。
みなさん、手術前後のストレスのある時期にもかかわらず、笑顔で応対して
くださり、頭が下がる思いでした。

こうした番組を通して、心臓手術をあきらめて死を待っている患者さんたちや、
ベストタイミングを逸してしまった方々に元気を出して健康を勝ち取って
いただきたく、番組の取材に協力しました。

そういえばかつて京大病院に勤務していたころ、全国版の1時間テレビに出演
したときに、当時の院長さんから、そんな品のないことをしたらいけない、と
「ご指導」されたことを思いだしました。私はお高くとまった学者ではいたく
ない、庶民のお茶の間で啓蒙活動をするのも教授の立派な仕事と思っていまし
た。まあ見解や人生観の違いなのでしょうね。

この放送は6月3日、日曜日の正午からです。私が出るのは15分ほどらしい
ですが、なるべくお役にたつ内容のあるものに仕上げて頂けるものと期待して
います。

皆様のご意見を頂けましたら幸いです。
なお東海テレビが見れないエリアの方々には、後日、動画を私のHPに載せる
ことを考えております。

それでは皆様、6月3日でテレビでお会いしましょう。

敬具

平成24年5月26日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓血管情報WEB
http://www.masashikomeda.com
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元・京都大学医学部教授
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第二回豊橋ライブ・TAVIコースにて

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第二回豊橋ライブに参加して参りました。

 

技術の伝承をメインテーマとした実際的な勉強会研究会で、おもに内科の会ですのでPCI(冠動脈のカテーテル治療)が中心ですが、最近の流れのなかでTAVI(TAVR、カテーテルで行う大動脈弁置換術)のセッションもまる一日あり、それに参加しました。

 

豊橋ライブ2012TAVIの会場では、大動脈弁の解剖整理から始まり、心エコー、外科治療の現状とTAVIへの期待、バルーン大動脈弁形成術、TAVIの総論、Sapien弁とCore Valveの使い分け、Transfemeralアプローチ、Transapicalアプローチ、合併症や対策、コメディカルの役割などが半日かけて論じられました。

いずれも基礎から応用までをきちんとまとめられた聴きごたえのあるものでした。

 

Massyの林田健太郎先生の見事なオーガナイズによるものでした。

林田先生ご自身の講演、さまざまな合併症と対策も実に示唆に富む、貴重な内容の連続でした。

 

東京ベイ・浦安市川医療センターの渡辺弘之先生(最近、榊原記念病院から異動されました)のエコーの講義は圧巻でした。

高齢者などの重症ASの手術適応のなかで、こんなになるまで放置するほうが問題と、すばり本質を突く鋭い内容でした。

 

私の担当は外科治療の現況とTAVIに期待するものでした。

 

大動脈弁狭窄症ASは高齢化社会のため増加の傾向にあり、患者さんの重症化も進んでいます。

その中で死亡率や合併症を最小限に抑える努力をして成績を予想死亡率の3分の1近くまで下げているところをご紹介しました。

そうした中で全身状態が悪い患者さんとくに超高齢の方を中心にTAVIが役立ちそうなお話しをしました。

 

また生体弁での大動脈弁置換術AVRの患者さんで、将来再手術が必要になったとき、TAVIによるバルブインバルブつまり新しい生体弁を古い生体弁の中で広げることは、患者さんにとって大きな福音になることをお話ししました。

そうした考え方をすでに治療方針に組み込み、大動脈弁形成の患者さんでも、生体弁AVRの患者さんでも、将来必要におうじてTAVIの恩恵が受けられるような心臓手術を現在すでに行っていることをお示ししました。

 

そしてSutureless valveつまり手術中にTAVIのように入れる方法の良さをご紹介しました。PARTNER試験という臨床研究で、超ハイリスク例ではTAVIと外科AVRの成績に差があまりないことが示されましたが、今後外科がさらに良い仕事ができる可能性が示唆されたわけです。

 

ランチオンでは豊橋ハートセンター・名古屋ハートセンターの大川育秀先生の司会で、榊原記念病院の田端実先生がASの治療戦略をハートチームの観点から話されました。

田端先生は心臓血管外科の若手のホープでTAVIを含めたMICS手術で活躍中の先生です。

 

この中でTAVIのあとはPLVつまり隙間からの血液の漏れが起こるケースが多く、しかもその漏れが軽度でも患者さんの生存率が下がるというデータが紹介されました。

 

私もこの研究には注目していたため、少し討論に参加しました。

まだまだ外科のAVRは患者さんの役に立つとあらためて思いました。そのためには外科の治療成績をさらに向上させることが大切で、その観点で上記の Suturelessバルブはこれから期待できると思いました。

 

午後にはビデオライブが2つあり、1つはTransapicalアプローチ(小さく左胸を開けてそこからTAVIを行います)、もうひとつはTransfemoralアプローチ(下肢の付け根の動脈からTAVIを行います)の実例でした。

小倉記念病院の白井伸一先生や川崎市立川崎病院の古田晃先生、昭和大学藤が丘病院の若林公平先生ら熱い若手のディスカッションが良かったと思います。

すでに大御所の渡辺弘之先生はここでも存在感のあるコメントをして下さいました。

 

私はTransapicalアプローチの方のコメンテーターのひとりでしたので、外科の観点からさまざまな議論をさせて頂きました。

倉敷中央病院の小宮達彦先生と田端先生そして私と外科系が3名参加していましたので活発な論議ができ、Transapicalアプローチの問題と解決が比較的まとまったように思いました。

出血がきれいに予防あるいはコントロールできればこの方法は安全で応用範囲も広く、患者さんに益するものであるとあらためて実感しました。

 

一日中TAVIばかり議論した最後の締めくくりは「ハートチームの構築」のシンポジウムでした。

それぞれの施設でこのハートチーム作りのためにどういう努力をしているかが紹介されました。

 

私たち名古屋ハートセンターでは毎朝、循環器内科と心臓血管外科の医師および一部コメディカルが集まり、親睦や密な連携をかねた症例検討を行っていることをご紹介しました。

以前からこうした会を開きたく思っていましたが、事情あって計画倒れでとどまっていました。

構造改革が実ってようやくこの4月から実現したもので、ようやく先進的な施設の先生方と一緒に議論できるレベルになって少しうれしく思いました。

 

休憩時間ほとんど無しの充実した一日を終えて、豊橋ライブはめでたくお開きになりました。

鈴木孝彦先生や関係の皆様方に厚く御礼申し上げます。

 

平成24年5月26日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
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東海テレビのスタイルプラスで出演いたします

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緑が美しい季節になりました。みなさま如何お過ごしでしょうか。

名古屋ハートセンターは開設4年目、年々手術数も質も向上し、いまや北海道から沖縄まで、全国あちこちから患者さんが来て下さる心臓専門病院になりました。

大変光栄なことと、うれしく思うとともに、その責任の重さを感じています。

そうした中で地元では有名な番組、東海テレビのスタイルプラスから取材申し込みを戴きました。

東海仕事人列伝というコーナーで、6月3日日曜日正午から私、米田正始の仕事風景や患者さんとの協力場面などを通じて、心臓外科医療の実際をご紹介下さる予定です。

僧帽弁形成術などの心臓手術を小さい創で、骨をなるべく切らず、患者さんの体やこころの負担を軽くし、早い仕事復帰や社会復帰をはかる、ミックス手術ポートアクセス手術の現場や、難手術のひとつと言われる再手術を通じて、これまで何を求めて努力して来たか、あるいは医療のありかたはどうか、などが放送されそうです。

一部の大学病院などではなかなかできない、患者さん目線のキメの細かい、しかし足腰が強く迅速でベストタイミングで質の高い医療や心臓手術を提供するハートセンターの雰囲気も見て頂ければ幸いです。

また番組内容に対するご意見やご指導を頂けましたら、ぜひ参考にさせて頂きたく思います。

それではみなさん、6月3日にはよろしくお願い申し上げます。(追記:その放映録画はこちら

 

名古屋ハートセンター

心臓血管外科統括部長(豊橋ハートセンター副院長兼任)

米田正始 拝

 

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心臓外科の施設集約問題とは

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心臓外科の施設集 113約つまり施設(病院)の数を減らし一施設あたりの手術数を確保するかが問題になって10年近い時間が経ちました。

心臓血管外科専門医の資格を取る条件として当時は20例の心臓手術を執刀すればあとは書類や筆記試験などで合格できました。

20例の執刀経験ではまだ研修医に毛がはえた程度で、患者さんの命を預けるにはあまりにも少ないということが議論されていました。

数年以上前、経験量が少ない心臓外科医が執刀して高い死亡率を出すような事例がメディアでも問題となり、それがきっかけになってせめて50例の執刀経験を必須にすることになりました。

欧米では200-300例の執刀経験が独り立ちする前の必須条件です。

 

その後、手術数の少ない施設(病院)の治療成績つまり死亡率などが悪いことが次第に証明され、実際、手術にときどきしか入れない、例数の少ない施設では若手が腕を磨けないことが問題となって行きました。

 

その議論のさなか、数年前に厚生労働省が開心術が年間100例以下の施設の保険点数を下げるという措置を突然取りました。

ちなみに日本の一施設あたりの心臓外科の手術数は約60例と言われています。つまり多くの施設がこの厚生省指針で点数削減となり、それらの施設を中心に猛反対が起こりました。

Ilm23_dh03006-sらに地方では広いエリアに一か所だけ、少な目の例数をこなす施設があり、それが県内に点在するパタンが少なくなく、上記の厚労省の例数制限は地方医療の崩壊をもたらすという議論もでて、あえなくこの厚労省方針は消えました。

 

しかしその後も心臓外科をめぐる医療の質やその将来にわたっての確保という観点から施設集約は日本心臓血管外科学会などで議論検討されています。

 

そもそもなぜ症例数が少ない日本で、これほど心臓外科の施設が増えたのでしょうか。

心カテbひとつの原因として指摘されるのは、カテーテルによる冠動脈インターベンション(PCI)が全国で普及し、もしもの冠動脈穿孔や心停止などのときに救援してくれる心臓外科が必要なため、心臓外科の設立を病院とくに循環器内科が強く望んだといういきさつがあります。

なかでも冠動脈内の石灰化などを削って治す、ローターブレーターというカテーテル治療の施設基準として心臓外科の存在が必須となり、ローターブレーターをやりたい循環器内科や病院はなんとしても心臓外科を、となったのです。

 

その要望は当時人材を供給していた大学へと送られ、大学医局は自分のところから医師を派遣しないと他大学・他医局から医師が送られ、その施設は他大学のものになってしまうという危機感から、かなり無理をしてでも医師を派遣したのです。

そうして全国に過剰な数の心臓外科施設ができ、上記のように年間、わずかな数の手術しかできない構造ができてしまったのです。

これは患者さんにとっても、医師やコメディカルにとっても不幸なことです。

 

Ilm19_ca05020-sところが面白いことにこの2-3年、心臓外科・心臓血管外科の閉鎖があちこちで起こりつつあります。結果的に施設集約が進み始めたのです。

ただそれは良識や話し合いによって起こったのではなく、単に、心臓外科のような厳しい分野に若い医師が集まらなくなり、現場でチームを組むことができなくなったためなのです。

さらに数年前に研修制度が変わり大学医局にいる研修医の数が激減したため、雑用をこなすために中堅医師を呼び戻すことになり、そのためますます医師を病院へ送れなくなったのです。

思わぬ原因で施設集約が急速に進んでいます。

 

ともあれ患者さんを守る、そして質の良い医療を必要なときにいつでも迅速に提供する、これが何より大切です。

こうした観点から、有力な施設の心臓外科に患者さんと医師が集まり、良い治療成績を出すようになればとりあえず結構なことです。その「改革」が良識や見識あるいは話し合いによってできたのではないのが少々さみしいところですが、日本の医療業界がある種の「ムラ社会」であることを考えると致し方ないのかも知れません。

患者さんの観点からは、心臓手術はご自身のいのちや将来にかかわる大問題ですから、情報を集め、複数の医師や病院の話を聴き、ベストの治療を選ぶことが大切です。

医療の主人公は患者さんなのですから、たったひとつの命を預けるのに遠慮は要りません。

若い先生方には、例数が少なく、立派な心臓外科医になれないような施設にこだわることはありません。今は売り手市場ですし、臨床の腕とそれをアピールする学会活動があれば引く手あまたです。患者さん中心の、医師の実力第一時代にあった人生設計が、やる気さえあればできるのです。

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心臓外科のEBM(証拠にもとづく医学・医療)

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EBMは教授にもとづく医学医療ではなく、科学的データにもとづく医療とよく言われたものですEBMとはevidence based medicineの略称で、経験にもとづく医学医療や、教授や権威筋による医療などと対比して使われることもあり、「根拠(証拠)に基づく医療」の意味です。

多数の臨床試験で有効性が証明されている治療法を指します。心臓外科の例でいえば、最近のバイパス手術とカテーテル治療の比較をしたSyntaxトライアル(シンタックストライアル)でのバイパス手術が例として挙げられます。

EBMは、1991年にマクマスター大学(カナダ)で生まれ、その後広がって行きました。

当初は広く文献を調べ、目の前の患者への適応を判断し、診療することでしたが、しだいに個々の診療内容がどの程度、疫学的、統計的に効果を保証されているか、といった意味で使われることが多くなっています。

日本の医療界には1990年代後半に導入され、1999年ごろからかなり一般的になりました。心臓外科領域でもそのころから次第に認識されるようになりました。

EBMの証拠(エビデンス)にはいくつかのレベルがあります。

ランダマイズつまり無作為化が大切ですもっとも評価が高いのは、無作為化で比較した臨床試験データが多数ある場合で、その次は一つある場合、以下、臨床試験データや治療前後の比較報告、症例報告、専門家の意見、の順番になっています。

無作為化の臨床試験とは「二重盲検試験」とよばれるもので、患者をくじ引きで2グループに分け、医師にも患者にもどちらに当たるかを知らせず、片方に評価目的の薬、片方に偽薬などを与えるのです。

医師や患者の思い込みを排除し、治療効果を正しく確認するわけです。

ただし、患者にも医師にも歴然とわかる治療法は評価が1ランク落ちることになります。

厚生労働省は厚生省時代の1999年度(平成11)から標準治療として、EBMにかなった診療ガイドラインづくりを始めました。

学会独自のものも含め、多くのガイドラインが完成しています。

Ilm09_aj06018-sEBMでは、常に最新で最良の知識を得ることが出来ます。

したがって、EBMが普及すれば、知識の新陳代謝が活発な医師、つまり、患者さんにとってのよい医師が増えることにつながるのです。

また多くの情報を共有し合うことによって、患者さんと医師は、同じ視点に立てるようになるでしょう。

これからの医療は、そのような患者・医師の信頼関係、協力関係の上に実現されていくものと考えられます。

EBMによって、医療の質が高まり、患者さんがその恩恵に浴することが大いに期待されます。

しかしEBMは診療の参考にはなるものの絶対的なものではありません。

第一にデータ蓄積までに時間がかかるので、特定の医師しかしていない新しい治療は、たとえ有効でもEBMにはなりません。

とくに重い疾患では患者にとって生きるか死ぬかの状況で無作為化そのものが患者に対して大きな負担や苦痛、リスクとなる懸念もあります。

心臓外科の関係でも Ilm09_dd01002-s無作為割り付けの研究ができていない領域があり、それは重症例や手術による死亡率がまだ高い疾患の場合です。

たとえば全身状態が悪い患者さんでのバチスタ手術やバイパス手術などはなかなか無作為割り付けはできません。それは倫理上の問題があるからです。

また、日本の漢方薬のような多数成分の複合治療は高レベルのEBMにはなりません。

質のよい臨床試験はお金がかかるので、資本力の強い製薬企業などに有利、といった欠陥もあります。

EBM全盛のなかで、反省や反発もあります。

EBMを補う考えとしてNBM(narrative based medicine)も重要視されつつあります。

Ilm17_bc01015-sNBMは多数の統計ではなく、個々の患者との対話を重視し、病気の背景を理解し、全人格的な対応をする医療です。

narrativeは「対話に基づく医療」という意味です。

最終的にはEBMとNBMの組合せが大切になるものと予想されます。心臓外科の場合も同様でしょう。

 

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