自己心膜をもちいた大動脈弁再建術、そのコンセプト 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月23日

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◆自己心膜を使った大動脈弁再建術とは?

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大動脈弁閉鎖不全症や大動脈弁狭窄症に対しては、従来「弁形成術」または「弁置換術」が選択されてきました。
しかし弁が変形し、短縮してしまったケースでは形成術だけでは十分に逆流を防げないことがあります。

そこで登場したのが 「自己心膜を用いた大動脈弁再建術」 です。

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患者さんご自身の心膜を利用して大動脈弁の弁尖を再構築する方法で、自然に近い弁の働きを取り戻すことを目指します。

この治療は「弁形成術」と「弁置換術」の中間的な位置づけともいえ、“弁再建術” と呼ばれることもあります。

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A弁形成と再建シェーマ2◆大動脈弁形成術の進歩と限界

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  • 二尖弁による大動脈弁閉鎖不全症や、大動脈解離・心室中隔欠損症に伴う弁逆流などは、大動脈弁形成術で対応できることが多くなってきました。

  • しかし弁尖が短縮してしまうと、形成術を行っても十分に噛み合わず、再び逆流が起きるリスクがあります。

  • そこで自己心膜を弁尖として追加し、延長・再建する手術が発展してきました。

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◆日本と韓国で磨かれたノウハウ

日本と韓国のノウハウを集めて自己心膜による大動脈弁再建手術を進めています.

この分野は、日本の尾崎先生による自己心膜弁再建術、韓国のSong先生によるウシ心膜を用いた手術が国際的に有名です。

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  • 尾崎法:患者さん自身の心膜を厳選し、弁尖のサイズに合わせて精密に作製する方法。

  • Song法:弁の上下を安定化させる固定を併用し、長期耐久性を重視。

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私たちはこれらの方法を学び、日本・韓国双方の長所を取り入れつつ実践しています。

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◆自己心膜による大動脈弁再建術のメリット

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  • 若い患者さんに有利
    生体弁は10年程度で劣化することが多く、特に20代・30代の方や妊娠・出産を希望される女性では短期間で再手術が必要になることがあります。
    自己心膜による再建術は、こうした若年層の患者さんにとって有力な選択肢です。

  • 抗凝固薬ワーファリン不要
    機械弁のように一生ワーファリンを服用する必要がなく、スポーツや妊娠・出産、日常生活での制限が少なくなります。

  • 腎不全・血液透析患者さんにも有効
    生体弁の劣化が早い患者さんでも、自己心膜を利用することで耐久性が期待できます。

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◆弁形成術との関係 ― 総合的な戦略

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もちろん、可能であれば 弁形成術が第一選択 です。
弁形成が難しい場合のバックアップとして、自己心膜を用いた弁再建術が役立ちます。

  • 弁形成術 → ベストな方法。自然弁を最大限に活かす。

  • 自己心膜弁再建術 → 弁形成が成立しないときの有力な代替手段。

  • 生体弁や機械弁(大動脈弁置換術) → 状況に応じて選択。将来的にはTAVIによる「Valve-in-Valve」も視野に。

このように、患者さんごとに最適な組み合わせを選ぶ「オーダーメイド治療」 が大切です。

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◆今後の展望

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  • 自己心膜弁再建術はまだ進化の途上にありますが、
    「ワーファリン不要で自然な弁機能を再現」できる可能性を持ち、今後さらに広がることが期待されます。

  • 長期成績や再手術時の対応についても研究が進み、より安全で安心できる治療になるでしょう。

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◆まとめ

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自己心膜を用いた大動脈弁再建術は、「弁形成」と「弁置換」の間を埋める新しい治療法 です。
特に若年層や妊娠を考える女性、透析患者さんなどに大きなメリットがあります。

大動脈弁の病気でお悩みの方は、ぜひ 弁形成・弁再建・弁置換を総合的に扱える心臓外科専門医 にご相談ください。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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ステントレス僧帽弁 臨床研究会

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この7月28日に第一回ステントレス僧帽弁臨床研究会が東京でありました。

当番世話人かつこの弁の生みの親である加瀬川均先生のお招きで私も参加・発表等させていただきました。

ステントレス弁とは通常の生体弁とはちがい、弁がケージの中に入っていない、自然な形の弁です。まして自己心膜で造る弁ですから、性能だけでなく耐久性も期待できます。弁形成に力を入れて来た心臓外科医なら誰でも心躍る弁です。

実はこの歴史は永く、1990年代にさかのぼり、当時北米で修業していた私も関心があってその基礎研究や検討をやったことがあります。

ちょうど大動脈弁のステントレス弁が実用化したころで、当然の流れとして僧帽弁にも注目が集まったわけです。

第一回ステントレス僧帽弁臨床研究会トロントでデービッド先生と僧帽弁のホモグラフトを検討していたこともあり、ステントレス弁と構造がよく似ているため気運の高まりがありました。

しかし当時、期待を集めたステントレス僧帽弁とくにクアトロ弁はまもなく音もなく消えて行きました。

その経緯も不明で、ただ消滅したため、何か問題があったものと考えていました。

そうした経験の中で、今回、加瀬川先生が10年間の基礎研究ののち満を持して新しいステントレス僧帽弁を臨床応用されたことを、夢よもう一度、という気持ちでお聞きしたものです。加瀬川先生が開発された弁はNormo弁と呼ばれ、正常僧帽弁に近づけようという願いが込められた名称でした。

第一回研究会ですので基調講演として加瀬川先生がコンセプトを話されました。

ついで日本発のイノベーションをどう展開するかというテーマでシンポジウムが組まれました。

こうした新たなデバイスの開発に詳しい早稲田大学の梅津光生先生、大阪大学の澤芳樹先生、東京女子医大の山崎健二先生、さらには厚労省や内閣官房医療イノベーション推進室の方々まで参加されました。

それからこの弁の生みの親のひとりでもある梅津先生のランチョン講演と動物実験報告、そして臨床実施例報告がなされました。

残念ながら私は他の学会のためこの部分までは参加できませんでしたが、活発な議論であったようです。

それからシンポジウムII「僧帽弁形成術に限界はあるか」が持たれ、神戸中央市民病院の岡田行功先生と私、米田正始で座長をさせて頂きました。

東京慈恵医大の橋本先生、長崎大学の江石先生、岡田先生らが僧帽弁形成術の難症例を披露されました。

たとえば広範囲の活動性細菌性心内膜炎(IE)やバーロー症候群の高度なもの、あるいはECDなどの先天性がらみのケースや再手術例、さらにリウマチ性僧帽弁膜症などですね。

いずれも弁形成は可能ですが、その限界に近いこともあり得るケースで、こうしたときにNormo弁は役立つかも知れないと思われました。

そして僧帽弁形成術の大御所であるPatric Perier先生が僧帽弁の各パーツのどの部分がどこまで治せるかを講演されました。大変有用なお話しでした。限界を知ること、また努力して限界点を上げること、いずれも大切と思いました。

シンポジウムIIIでは”Normo弁の良い適応について考える”というテーマで、榊原記念病院の高梨秀一郎先生、不肖・米田正始、京都府立医大の夜久均先生、東京大学の小野稔先生、そして私の共同研究者でもある川崎医大の尾長谷喜久子先生が症例や最新のデータを発表されました。座長は慶応大学の四津良平先生と産業医大の尾辻豊先生でした。

ここでも感染性心内膜炎(IE)やリウマチ性弁膜症、先天性心疾患とくにECDその他が論じられました。

尾長谷先生はステントレス僧帽弁にも対応できるだけの情報を提供するtransgastric TEEつまり胃から見る経食エコーとそれによる乳頭筋の詳細な形態情報を示されました。新たな領域を開拓するのは本当にやりがいがあると感じました。

私もリウマチ性MSRつまり僧帽弁狭窄症兼閉鎖不全症という形成しづらいケースやECDの再手術例でこれまた弁の変形が強く形成が難しいケースを供覧し、有益なご意見を頂きました。

壊れた僧帽弁の弁膜症を事故で壊れたクルマにたとえて、ガタガタに壊れたクルマをどこまで修理(つまり弁形成)するか、どこで新車に代える(つまり弁置換)かという視点で、患者さんに一番益するポイントを探ろうとしました。壊れたクルマの写真はウケました。ウケて下さった皆さんに感謝申し上げます。

さらに他の病院で高度の感染性心内膜炎への手術を受け、逆流が止まらず、次第に悪化して私のところへ来られた若い患者さんのケースをお示ししました。こうした超難易度の患者さんに新しいステントレス僧帽弁・Normo弁は役立つかもという期待が集まりました。

しかしまだ研究・検討は始まったばかりです。この弁がどれくらいの耐久性があるか、それが大切です。時間もかかりますし、合併症なく患者さんに真に益する弁に育てるためには大方の協力と努力が必要です。

川副浩平先生のビデオメッセージでも科学的な視点やきちんとした検証、教育、quality control体制が必要であることを述べておられました。

どちらかと言えば、この10年来、停滞あるいは退潮気味に見える心臓外科領域で、また新たな発展の場が生まれたと言っても過言ではないかも知れません。皆で力を合わせて優れた新治療に育て上げたいものです。

そうした熱気のもとで研究会は無事終了しました。加瀬川先生、関係の皆様、お疲れ様でした。

平成24年7月28日

米田正始

 

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執筆:米田 正始
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元・京都大学医学部教授
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天理よろづ相談所病院のレジデント同窓会

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天理よろづ相談所病院のレジデント(前期研修医や後期研修医にあたります)の同窓会が久しぶりに開催されました。

レジデントの第一期生で大先輩である上田裕一先生が院長に、また第二代総合診療部長の郡義明先生が白川分院の院長に、それぞれ就任されたお祝いをかねての同窓会でした。

300名近いレジデントのOB、OG、現役生はじめお世話になった看護師やコメディカルの方々も参加され、なつかしく楽しいひと時になりました。

大宇宙から生命の尊厳へ、そして患者さんへの献身的貢献へ初めに、病院長の上田先生がレジデントの心意気と題して、同先生が生命への畏敬の念を抱き、医師とは何かを考えて医師への道を決意し、天理のレジデントから現在に至るまでの、哲学、信念ともいえる部分をお話しされました。

医師にとって何が求められ、何が喜ばれ、何が素晴らしいか、若い先生方も道筋が見えたのではないかと感じました。

同時に医師が差別ない平等社会においてもなお特段の位置にある、誇り高い、天職であること、それは患者さんを始めとした社会から(立派な献身的貢献に対して)与えられたものである(つまり医師だから偉いのではなく、患者さんに喜ばれるから立派にあつかって頂ける)ことも理解して戴いたのではないでしょうか。

そうした中で、理不尽ともいえるほどの厳しい研修環境が若い時代に一度は経験しておくべきとのお考えには賛同された方々が多かったのではないかと思います。

私は昔から現在まで、一貫して「要するに患者さんのためにいつも全力で努力するのが良い、余計な理論も理屈もいらない、ずっとフルスロットルだ」と思って仕事をしてまいりましたが、上田先生が多くの先達、心臓手術など医学関係のみならず、哲学、芸術、科学、その他幅広い方面からの含蓄ある言葉を引用しながら、そのお考えをまとめ、提示して下さり、自らの勉強不足を恥じた次第です。

それに引き続いてシンポジウム「天理レジデント制度の過去・現在・未来」が行われました。

総合診療教育部副部長の石丸裕康先生の司会のもと、はじめに初代部長の恩師・今中孝信先生がそのご経験とメッセージをお話しされました。30年前と寸分変わらぬ、熱い、心に響く内容でした。医師という職業にかける想い、夢をあらためて聴かせていただきました。

ついで第二代部長の郡先生が、レジデント制度をいかにして発展させられたか、そのご苦労の跡を紹介されました。さらに大先輩である山崎正博先生が発足当時のレジデントの努力などを紹介され、現チーフレジデントの江原淳先生がアンケート結果をもとにしてレジデント制度がどのような貢献をなしてきたか、現在どういう努力をしているかなどを説明されました。

そして現部長の八田和大先生がこれまでの経験・実績と将来への道を話され、最後に恩師・小泉俊三先生が総合医のこれからの進むべき姿をお示しになりました。いずれも熱い、力のこもったお話の連続で予定時間をはるかにオーバーしてシンポジウムは終わりました。

懇親会の一コマです。右端は現役レジデントによるコスプレ余興です。最近の諸君は何をやっても優秀ですが、ちょっと定型的すぎるというご意見もありました

懇親会は終始和やかに進みましたが、今中先生のご挨拶は圧巻でした。

医師というよりひととしての生きる心構え、さらに言えば自らを律して、他者を益しながら自らも楽しく生きる姿勢を説かれたのです。

この10年あまりの間に人間としての今中先生のレベルに少しは追いついたのではないかとひそかに自負していた私ですが、ますます距離をあけられたことを知ってしまいました。

すでにあらゆる煩悩から脱却されたような今中先生のお言葉にはただ納得して拝聴するだけでした。

八田先生が私に発言の機会を振って下さったため、上田先生のお話しを若いレジデントの先生方に役立つ一助にと、具体的な努力の方法をひとつだけお示ししました。当直の夜、看護師さんからの連絡の電話にはベルが3回鳴るまでに受話器を取る、できれば1回目のベルで取る、これがどれだけ患者さんやチームのために役立つかをお話しさせていただきました。このとき実は同級の日村先生と漫才のような発言機会だったのですが、それぞれ循環器の内科と外科のチームワークというのりで話ができて良かったと思います。これも日村先生の温厚で優しい人がらのおかげと感謝しました。

上記の方々のみならず、かつてお世話になったレジデントの先輩、同輩、後輩の皆さんや、看護師さんらと久しぶりに歓談でき、心は30年前にタイムスリップしてエネルギーを頂いたように思います。

このような素晴らしい会を開いて下さった関係の皆様、いつも力を与えて下さるレジデント関係の皆様、ありがとうございました。

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お便り64: 重症連合弁膜症を乗り越えられた患者さん

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Ilm23_hg01001-s患者さんは60代の男性で、僧帽弁狭窄症と閉鎖不全症、と三尖弁閉鎖不全症、巨大左房と心房細動などの病気のため九州から来院されました。

一般には僧帽弁形成術は難しいと言われている状態ですが私たちは弁形成術にちからを入れているため、まずトライしました。僧帽弁後尖を自己心膜で形成し逆流はかなり軽減しましたが、前尖も同様に自己心膜で形成する必要があり、それでは長期的な懸念があるため、安全を期して生体弁で置換しました。

さらに心房縮小メイズ手術と三尖弁形成術も行い、患者さんは心不全も軽快し心房細動も取れて元気になられました。

遠方の方ですが、定期的に名古屋まで元気にお越しくださっています。

その患者さんのご家族からのお便りです。褒めすぎでお恥ずかしいのですが、お気持ちだけ頂いきました。

*************患者さんのご家族からのお便りです********

鹿児島より米田先生に手術をお願いしましたSの娘です。

米田先生へのお礼をそしていかに素晴らしいドクターかということをどのサイトにコメントを残せばい いか迷い、早くも1年たってしまいました。お許し下さい。

父が鹿児島で緊急入院を余儀なくされ納得のいかないドクターの対応にみかねどうせ受けるなら信用 のあるそして父の満足のいくドクターにお願いしたい一心でインターネットを開きゴッドハンド・米田先生を見つけました。

頑固な父に隠れて調べていき米田先 生に直接メールを送らせていただける当サイトを見つけメールさせていただきました。

5分もしないうちに米田先生自らお電話をいただいた時は、驚きと感動を おぼえ涙が溢れてきました。

お話をしていく中でドクターとしてではなく人間として本当に優しさと思いやりのある方だなと強く思い、患者を〝もの〟ではなく 〝人間〟としていかに助けられるか患者にとってベストに近い状態を真剣に考えて下さるお話を聞き、先生こそ父をお願いしたいドクターだ絶対父をお願いしようと強く思いました。

米田先生でだめだったらどの先生で受けてもだめだと思ったほどです。

米田先生をはじめチームの先生方、他の病院にない患者に対する愛情といかに良くしてあげようかという心から努力してくださる姿には本当に驚かされました。

心より感謝いたします。

どの病院ドクターを選ぶのかは患者の責任だと今回父の手術を通して思いました。

今月父は一人で病院へ向かいます。

毎朝散歩をし見た目も変わり健康そのものです。

1年はあっという間でしたが1年記 念をもうすぐ迎える今日、米田ドクターに巡り合えチームの先生に支えられ安心して毎日を送っている両親を目の当たりにし改めて幸せを感じます。

米田先生、 チームの先生方本当にありがとうございました。先生方のようなドクターが日本にもっと増えてくれることを日々祈ります。

諦めなくて良かったです。

これから もし家族に何が起ころうとも先生のようなドクターを探し100%信頼してお願いできるまで諦めないつもりです。

米田先生父を救っていただき本当にありがとうございました。

心より感謝申し上げます。

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事例: ポートアクセス法の、やや複雑な僧帽弁形成術

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ポートアクセス法による僧帽弁形成術はまだまだ一部のエキスパートによる心臓手術で、どこでも安全に受けられる手術にまでは成熟していないと言われています。

しかしこのポートアクセス法に力を入れている施設の一部では、より複雑な僧帽弁形成術も安全にできるようになりつつあります。

私たちもこれまでの豊富な経験から、これは十分形成ができると判断した場合、それが比較的短時間にまとまるというめどが立てばポートアクセスでできるだけ行うようにしています。

こうした日々の努力によって、より多くの患者さんたちにポートアクセスやミックス手術の恩恵が行きわたるものと考えています。

術前胸部X線さて患者さんは67歳女性です。

労作時の動悸と呼吸困難感を主訴として来院されました。

検診で心雑音と心拡張を指摘されました。

近くの病院で高度の僧帽弁閉鎖不全症と診断され来院されました。

来院時、心尖部に4度の収縮期雑音あり、腋かへの放散が見られました。僧帽弁閉鎖不全症の所見です。胸部X線でも心拡大がありました(写真右上)。

術前心エコー当院での心エコーにて 高度の僧帽弁閉鎖不全症が確認され、駆出率も 54%とやや低下傾向が認められました(写真左)。

写真左上は左室長軸像で後尖の逸脱と瘤化が見られます。

写真左下はそのドップラー像で前向きに変位した逆流が見られます。

写真右下の4室像でも前向きの強い弁逆流が確認されます。

 
血液検査で ProBNP 1730と著明に亢進し、やや強い心不全が疑われました。

術前MDCT冠動脈、ABI には問題なく、

単純CTにて腹部大動脈、腸骨動脈に石灰化ありました(写真右)。

すでに症状のある高度の僧帽弁閉鎖不全症ですから、ガイドライン上、僧帽弁形成術の クラスI 適応として手術予定となりました。

患者さんとご相談のうえ、ポートアクセス法による僧帽弁形成術に決定しました。

手術1 三角切除x2手術では後尖のP1とP2と呼ばれるところに瘤化と逸脱、逆流による変化がみられました(写真左)。

P1とP2のそれぞれに、瘤化した部位を三角切除しました。

右上にそのシェーマを示します。

これは患者さんのご家族に術後、ご説明したときのメモの絵です。

その三角切除したP1とP2をそれぞれ縫合再建しました。手術2 後尖再建

かなり弁のかみ合わせは回復しましたが、その三角切除したP1とP2がまだ逸脱するため、

ゴアテック スの人工腱索をもちいて、P1とP2を左室側へ少し牽引しました。

それからリングをもちいて僧帽弁輪形成術つまりMAPを施行しました。

最後に生食を左室内へ注入して逆流試験を行いました。

手術5逆流試験OK逆流はほぼ消失しました(写真左)。

写真の左側は生食を左室へ注入したときのもので、前尖と後尖がしっかりとかみ合い、「もれ」つまり逆流はほとんどありません。

写真の右側は前尖を吸引管で押して弁を開くと多量の水が噴出し、しっかりと圧が左室にかかっていたことを示します。つまり逆流試験 術後心エコー合格です。

術後経過は良好で術翌朝には集中治療室を退室し、一般病棟へもどられました。

術後の心エコーをしめします(写真右)。

僧帽弁の逆流つまり僧帽弁閉鎖不全症はほぼ解消していました。

左上の長軸ドップラー、真ん中の3室像のドップラー、右上の短軸ドップラーのいずれも弁逆流はほとんど認めません。

術後胸部X線と創部写真術後1週間の胸部X線と、退院時の創部の状態をしめします。

創はあまり目立ちません、というよりちょっと見ただけではわかりにくいほどです。

痛みも少なく、迅速な回復にさらに役に立っているようです。

術後10日で退院され、お元気に外来に定期健診に来られています。

やや遠方からお越し頂いたのですが、それだけのメリットが提供でき、うれしいことです。やはり患者さんによろこんで戴けてこその医療ですね。

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事例: 視野出しがちょっと難しいポートアクセスの僧帽弁形成術

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ポートアクセスによる僧帽弁形成術はまだ一般の病院ではできない、先進技術です。

視野が狭く、ピンポイントで視野を作る必要があり、ピンポイントできないときには通常の正中切開に切り替えることになり、創が増えて通常より悪い仕上がりになるため難しいのです。

そこには経験が必要です。それもポートアクセス法の経験と、僧帽弁形成術そのものの経験の両方が必要です。

僧帽弁形成術じたいが、冠動脈バイパス手術などに比べて全国的に手術数が少なく、すべての心臓外科医が習得することが難しいと言われる領域ですが、その中でさらに習得しづらいのがこのポートアクセスでの僧帽弁形成術なのです。

このポートアクセス手術は難易度が高いため、何らかの医学的問題や障壁があれば、専門施設でさえ通常の大きな正中皮膚切開で手術を行うことが少なくありません。

しかしごく一部の選ばれた患者さんだけが恩恵を受けるようなポートアクセスでは、医療として不十分と考えます。

安全を確保し、技術的な課題はしっかりと解決し、より多くの患者さんのお役に立てればと私たちは考えています。

次の手術事例は、ポートアクセス法が使いづらいと言われているタイプの患者さんでした。しかし工夫と努力で安全を確保しながら患者さんのご要望にお答えすることができました。

 

患者さんは33歳女性です。

労作時の呼吸困難感を主訴として来院されました。

術前エコー短軸もとの病院で高度の僧帽弁閉鎖不全症が診断されており、手術の相談に来られたわけです。

明らかな症状をともなう高度の僧帽弁閉鎖不全症のため、日本循環器学会ガイドラインでクラスIの適応つまり、手術が強く勧められる、またその根拠がある状態でした。

この患者さんの場合は、それに加えて近い将来、妊娠出産を希望されての心臓手術のご相談でした。つまり手術で人工弁を入れる弁置換手術になってしまうと、機械弁つまり金属製の弁ではワーファリンという奇形を起こす薬が必須となるため妊娠が危険なものとなり、生体弁つまりブタやウシの材料で作った人工弁では妊娠中に劣化が早いという問題があるのです。

僧帽弁形成術だけがこの患者さんの希望を満たす方法であったわけです。

若い女性ですから、創も見えにくく、痛みも少ないポートアクセスは当然有力な選択肢として考えられました。

 心電図では正常リズムですが、しばしば頻脈発作や動悸が起こり、僧帽弁閉鎖不全症のための左房や左室の負担のため心房細動になり始めている可能性が考えられました。術前胸部X線

術前心エコーでは、僧帽弁前尖のA3と言われる、後交連部に近い部位が逸脱し、左房側に落ち込んでそこがかみ合わず逆流が発生していました。写真上は術前の左室短軸ドップラーを示します。交連部という、弁のヒンジの部分での逆流のため通常の角度からは見落としやすいタイプです。強い逆流が確認されました。

このA3の逸脱を人工腱索その他の方法で治せば、逆流は止 まると判断し、僧帽弁形成術を予定しました。
術前CT解析
しかし、診察および胸部X線で扁平胸みられました。つまり胸の前後径が小さい、要するに胸が薄いわけです。

こうしたケースではポートアクセス法はエキスパートでも通常よりは視野が確保しづらく、手術もやりづらいのです。

検討の結果、視野を出す工夫を重ねることで、手術が成り立つ可能性が大という判断で手術を決定しました。

人工腱索設置手術では確かに普通のポートアクセスの方法では僧帽弁が見えづらい状態でした。

そこで前もって準備していた道具で骨を軽く吊り上げ、スペースを確保して、さらに僧帽弁そのものを見やすく引出し、

それからゴアテックス人工腱索をもちいて僧帽弁前尖を正常の位置にもどしました。

写真右は術中写真です。その左上はゴアテックス人工腱索を後乳頭筋に刺入しているところです。

下中と右上は僧帽弁前尖に糸をかけているところです。合計4本の人工腱索がつきました。これで前尖の逸脱部分は逸脱なく正しく支持されます。

逆流試験とメイズ写真左は術中写真の続きです。

冷凍凝固によるメイズ手術の最中のものです。

術前に動悸発作がよく出ていたため、メイズ手術は術後の心房細動の予防に有益です。

生食注入による逆流試験でも僧帽弁の逆流はほぼゼロであることが示されました。

術後経過は順調で術翌朝には集中治療室を退室し、一般病棟へ戻られました。

その後、偶然脳静脈の合併症が発見され、ただちに連携している脳外科の先生と協力し対応、後遺症なく解決しました。チーム医療の時代ですが、地域のさまざまな病院と協力してのチーム医療も大変役立つことがあらためてわかりました。

患者さんは元気になられ定期検診にときどきこられます。

これから健康な楽しい人生を送って頂ければ幸いです。

 

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事例: 標準的なポートアクセス法の僧帽弁形成術

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ポートアクセス法はまだまだ普及するには至っていませんが、一部のエキスパートのいる病院では安全な標準手術の位置を確保しつつあります。

私たちも十分な準備のもと、2010年からポートアクセスを開始し、現在は日本でも一番積極的な施設のひとつになっています。

ここまでこのポートアクセス法での死亡例などはありませんし、これによる大きな問題もありません。

より高い安全性と手術としての質の高さをもとめて、内外の専門施設と協力して日々改良を加えています。

 

術前胸部X線さてここでお示しする患者さんは61歳男性です。

5年前から僧帽弁閉鎖不全症を指摘されていましたが、

7か月まえに失神発作を起こされ、併せて不整脈を指摘されました。

心臓手術相談のため米田外来に来院されました。

前立腺がんを3か月まえに指摘され、ホルモン療法を受けておられました。

そこでもとの病院のがんの主治医の先生と相談し、ホルモン療法が一段落したところで心臓手術するというタイミングがベストという結論に達し、数か月後に手術予定となりました。

手術前の胸部X線(右上写真)では心臓とくに左房の軽い拡張がありました。

術前エコーとドップラー心エコーでは僧帽弁前尖の逸脱と強い逆流(僧帽弁閉鎖不全症)が確認されました(左写真)。

写真の左上の左室長軸像では前尖の逸脱(左房側に落ち込むこと)がみられます。

写真中下の長軸ドップラーでは後ろ向きの逆流ジェットが見られ前尖逸脱に合致します。また吸い込み血流からも逆流の強さがわかります。

写真右上の4室像ドップラーでは僧帽弁の逆流ジェットが後ろ側へ飛び、左房後壁で跳ね返って前方までもどってきている、強い逆流所見が見られます。

左房、左室も拡張していました。

症状がある、高度の僧帽弁閉鎖不全症のため、日本循環器学会のガイドラインでクラスI適応つまり手術を強くお勧めできる根拠がある状態でした。

術中写真冠動脈CTなど、他検査でとくに問題なく、CTでも肋骨や心臓の位置がポートアクセス法の手術に支障ないことを確認しました。

手術ではまず第4肋間を小さく開けて、右肺をていねいに横へよけて、心臓に達しました(写真右)。

手術写真では小さい穴から僧帽弁を形成する様子がうかがえます。

 

心膜を、横隔神経から距離をおいて切開し、上行大動脈や上大静脈まで操作ができる視野を確保しました。

大腿動脈と静脈、右内頚静脈にエコーのガイドで管を入れて体外循環を開始しました。

僧帽弁は前尖がバサッと逸脱つまり左房側へ落ち込む状態でした。

弁尖が壊れていればそれ自体にも形成を加えるのですが、それは不要な所見でした。

そこでゴアテックス人工腱索を4本立ててA2(前尖中央部)を本来の位置にまでもどし修復する僧帽弁形成術を施行しました。

手術写真の右下ではゴアテックス人工腱索が取り付けられつつあるところが見えます。

術中逆流テストできれいな弁のかみ合わせと逆流ゼロを確認し、左房を閉じて手術を終えました。

術後3日目の創部写真なお手術中に、肋間神経ブロックを行い、術後の創の痛みが少なくなるようにしました。

手術翌朝には集中治療室を退室され、一般病棟へ戻られました。

術後3日目の写真を左に示します。

創も小さく、痛みも小さいことがうかがえます。

安全のために術後しばらくドレーンと呼ばれる管(くだ)を残しておくのですが、それが抜けたあとはバンドエイドが貼ってあるのが見えます。

術後エコーとドップラー術後1週間の心エコー(写真右)では逆流や弁逸脱はきれいに取れ、心臓もすでにかなり小さくなって順調な経過です。

術後エコー写真で左上の左室長軸像では前尖と後尖が逸脱なくきれいにかみあっていることがわかります。

写真中下の長軸ドップラーでは僧帽弁の逆流がほぼゼロになっていることを示します。

写真右上の4室像ドップラーでも僧帽弁の逆流はほとんどありません。

このポートアクセス法では骨を切らすにすみ、かつ痛みの神経(肋間神経)をブロックするため、ほとんどの患者さんで術後の痛みも軽く、短期間ですみますし、仕事復帰や社会復帰も早いです。

クルマの運転や、荷物の持ち上げ、棚まで乗せるなどの作業も、通常の胸骨正中切開の患者さんより数段早いです。

もちろん創が小さいため美容上の効果も優れています。

女性の患者さんはもとより、男性の患者さんたちにも喜ばれています。

この患者さんの場合は、がん治療が一段落し、がんが実質消えた状態にもちこんでからの計画手術でした。

その場合でも、早く元気な生活に戻れるとがんの再発予防のために役立つ可能性があります。体力がすぐに戻ればがん免疫も早くもどりやすいからです。

患者さんの他の病気や仕事・生活、心の創まで考えた医療としてポートアクセス法は役立つと思います。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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三笠宮さまが受けられた僧帽弁形成術とは?

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◾️報道によりますと、、

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三笠宮さま(三笠宮崇仁親王)がこの7月11日に僧帽弁形成術という心臓手術を受けられ、96歳というご高齢にもかかわらず経過良好でがんばっておられます。

2012年7月13日の毎日新聞は次のように伝えています。

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三笠宮さま<三笠宮さま>食事始める 呼吸数などの数値も安定

毎日新聞 7月13日(金)15時1分配信
<三笠宮さま>食事始める 呼吸数などの数値も安定

心臓の手術を11日に受け聖路加国際病院(東京都中央区)に入院中の三笠宮さま(96)が13日朝、食事を始めた。血圧、脈拍、呼吸数などの数値も安定しているという。

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同病院関係者によると、専門医のチームが食事を再開する時期を検討。容体が安定していることから13日に開始した。三笠宮さまは手術後は感染症などの恐れがあるため集中治療室で手当てを受けているが、12日正午過ぎには人工呼吸器を外して会話ができるようになり、妃殿下の百合子さま(89)と言葉を交わした。【真鍋光之】

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宮さまは天皇陛下の伯父にあたられ、国民からも親しまれている方です。

宮さまは腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全症のため、心不全がお薬や点滴などではどうしても治せず、危険な状態になっておられました。

96歳というご年齢は確かにかなりのご高齢ですが、日頃お元気に歩いたり普通の生活が送れる方ならば、経験豊富なチームなら心臓手術はある程度は可能です。

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◾️私たちの経験でも

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私たちの経験でも90歳代のご高齢患者さんの心臓手術は何度か経験がありますが、ポイントを押さえてできるだけコンパクトに手術をまとめあげ、万事において慎重にかつてきぱきと、そして手術のあと積極的に普通の生活に戻す努力がひつようです。こうしたキメ細かい配慮によって90歳代の患者さんでもお元気に社会復帰できるのです。

もししばらく寝たきりになったら、そのまま寝たきり状態が固定したり、痴呆症になったりと、困った事態になりやすいため油断は禁物です。

聖路加病院の川副浩平先生はじめスタッフの先生方に敬意を表するものです。

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以前に高円宮さまが心臓病のためスポーツの最中に突然死されたとき、私は2つの意味で残念と思いました。ひとつは高円宮さまの、罹患されたと伝えられる病気(HOCM)が心臓手術で治せるものであったこと、いまひとつは宮さまが医学学会によく出席され応援して下さったということへの感謝の気持ちからです。

この意味でご高齢とはいえ、勇断をされた三笠宮さまやご家族、また医療チームの皆様は立派と思います。

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僧帽弁閉鎖不全症は簡単な病気ではありません。しかし僧帽弁後尖の腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全症なら、心臓外科とくに僧帽弁形成術のエキスパートなら、そう困難なく、治せるものです。

宮さまの場合、一般的には弁形成がもっともやりやすい、また良く効くタイプです。もちろん皮膚と言わず、骨と言わず、心臓や大動脈をはじめ、すべての組織が弱く、相応の対策が必要だったものと拝察いたします。

すべてがぴたりと決まった一件と言えるかも知れません。

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◾️患者さんたちに福音

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天皇陛下冠動脈バイパス手術のときにもお書きしたことですが、宮様のようなご高名な方が僧帽弁形成術を受け、ご高齢にもかかわらず見事にそれを乗り切り、お元気になられれば、全国の僧帽弁閉鎖不全症はじめ心臓病の患者さんたちに大きな福音となることでしょう。

実際、僧帽弁形成術をうけなければならないのに、どうしても決心がつかず、心不全や肺うっ血のため肺炎になっていのちを落としたり、心房細動という不整脈を合併して心臓の中で血栓ができ、これが脳に流れて脳梗塞になったり、などのケースが今なお見られます。

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また内科の先生の中には心不全で入院するほど悪くなるまで手術を勧めないという方もあります。こうした不幸を避けるため、日本循環器学会が多数の専門家を集めてガイドラインを作成し、適切なタイミングで、手術がもっとも患者さんに益するようにしていますが、このガイドラインさえ否定するような医師が今なおおられます。そうした方々は、患者さんが手術を受けないために亡くなられても、「病気だから仕方ないよ」「手術を拒否したのは患者さんだから」と言われるのです。これは医療者として問題です。医師・医療者は患者さんが必要な手術を受ける決心ができるようにご説明・指導する責任があるからです。

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◾️患者さんにおかれましては

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患者さんにおかれましては、本やネットなどで知識を得て、複数の専門家とくに内科と外科の両方から意見を聴き、ご自身やご家族でじっくりと検討することが勧められます。

三笠宮さまの心臓手術の一件は世の中に勇気を与えてくれたと思います。

宮さまのご全快をこころから祈るものです。

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第17回日本冠動脈外科学会の見聞録

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この7月12日と13日に東京で日本冠動脈外科学会の学術集会がありました。

以前から楽しく勉強させていただいている学会でもあり、dutyもあって参加いたしました。

今回の会長は防衛医大心臓外科の前原正明先生で、学術集会のテーマは「チーム医療における冠動脈外科」でした。

第17回冠動脈外科プログラムの表紙を見た瞬間、納得いたしました。4機の航空自衛隊戦闘機の編隊飛行の写真で、かつてブルーインパルスと呼ばれた特殊チームで現在の名称は存じませんが、東京オリンピックの開会式で国立競技場の上空に五輪の輪を描いて一世を風靡した、あのチームの最近の写真です。

4機の機体がほとんど触れそうなほど近接して飛んでいるようすは、まさに高度の技術と4名のパイロットの厚い信頼、そしてそれを支えるチーム全体の素晴らしさを一目で実感させてくれるものでした。なにしろ4名のうちひとりでも、ほんの少し間違えれば接触して少なくとも2機は墜落する状態ですから。それが前原先生からのチーム医療へのメッセージでした。まさにお互いのいのちを預けるレベルの信頼関係ですね。

夕食会のときに、「先生のメッセージ、確かに頂きました」、とお伝えしたところ、満面の笑みを返して頂きました。

さて学術集会は盛況で、最近の冠動脈外科の復活を印象づけるようでした。

Ilm09_aj06015-s日本循環器学会の冠動脈治療のガイドライン冠動脈バイパス手術が冠動脈の複雑病変の大半のケースでクラスIやIIaの適応、つまり前向きに勧められる治療法という位置づけが得られたのは最近のことですが、バイパス手術関係ののセッションでも元気が感じられました。

またハートチームが正式に提唱されるようになり、その中で循環器内科とくにPCIの先生方との協力が進めやすくなったことも大きいと思います。

心臓手術をめぐるチーム医療の中で、心臓外科医だけが疲弊している現実を打破するための特定看護師の制度が実現に近づいていること、その中で前原先生が尽力されていることを改めて認識し、日本もようやくここまで来たかと感嘆いたしました。

かつて留学中に欧米のすぐれたナースの制度、とくにPA (physician’s assistant)外科助手やNP (nursing practioner)の制度が素晴らしく、しかし日本では夢物語と思っていたのを想い出しました。

また外科が貢献しやすい領域でもある、虚血性僧帽弁閉鎖不全症のビデオシンポジウムは満員盛況で、名古屋ハートセンターからも発表ができ、私たちの新しい術式である乳頭筋適正化(papillary heads optimization)もそれなりの評価を得て、この領域に貢献できうれしく思いました。発表してくれた北村英樹先生、お疲れ様でした。

そのビデオシンポに先立って、テキサスの Dewey先生の講演で、私たちが考案した手術である腱索転位法(chordal translocation)を有用な方法として引用してくださり、地道が努力を知って頂いたことを光栄に思いました。

そのあと、腱索転位法の改良版ともいえるpaillary heads optimizationを紹介するとそれは使えそうだと評価していただき、自由に語り評価してくれる米国の良さをあらためて感じました。

また学会2日目のメインホールでのシンポジウム、心室中隔穿孔の外科治療では小原邦義先生とともに司会をさせて頂きました。名古屋ハートセンターから深谷俊介君が発表してくれ、私たちが開発し長年育ててきた Exclusion法、いわゆるDavid-Komeda法を標準治療として、新しい経右室法との比較を中心に熱い議論が交わされました。

それぞれの方法のメリットとデメリットをなるべくわかりやすく浮き彫りにし、今後の発展を期した議論を進めるよう、努力しました。

Exclusion法の弱点と言われた遺残シャントはほぼ解決の方向にあり、しかし経右室法もそれが適切と判断できるときに活用するという適材適所戦略をお示しできたことは幸いでした。

名古屋ハートセンターができてまもなく4年、こうした全国学会の目玉シンポにて複数の発表ができるようになったことをうれしく思います。日々、手術や治療内容を反省検討し、多くの仲間たちのご意見を頂きながら、ひたすら改良を加え、それが患者さんの幸福に直結するというのは、心臓外科医冥利につきることです。

その他にも、オタワのMarc Ruel先生のMICSでのオフポンプバイパス手術が紹介され、私も質問コメントなどさせて頂きましたが、内科と協力し、内科の先生方にも喜ばれるような心臓手術がさらに展開しそうで、満足の学術集会でした。

インド・ニューデリーのSudhir Srivastava先生のダビンチ・ロボットをもちいての完全内視鏡下、オフポンプバイパス手術も大変興味深く、ロボット手術もここまで来たかと感慨深いものがありました。

Srivastava先生にはインドの弁膜症サミットで講演したときにお世話になり、なつかしく思うとともに、インドの発展のすごさを見せて頂いたように感じます。

その他にも興味深い、内容あるセッションが多数ありましたが、これは省略します。

会長の前原先生、防衛医大の先生方、立派な学術集会のご成功、おめでとうございます。お疲れ様でした。

 

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お便り63: ポートアクセスの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

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僧帽弁形成術は年々進化をとげ、かつては弁形成できなかった複雑な僧帽弁閉鎖不全症(つまり逆流)が弁形成できるようになり、近年はそれがポートアクセスによって小さい創で、骨を切ることもなく、安全に手術できるようになりました。

Hana_14ちなみにポートアクセスとはミックスという小さい創で行う心臓手術の代表的なもので図のように小さい創ごしに心臓にアプローチして治す方法です。

ポートアクセス法では狭い視野で確実な手術をすべく、日々さまざまな検討を行い、国内はもとより海外の仲間とも情報交換し、技を磨き続けることに支えられています。

こうした心臓手術は熟練した心臓外科医とそのチームによってこそ行えるもので、医師はもちろん看護師、ME、検査技師はじめハートチームが一丸となって精進しています。

以下のお手紙はそのポートアクセスによる複雑弁形成を受けられた患者さんからの礼状です。

少々遠方の岐阜県からお越し下さいました。

内容はほめ過ぎで、お恥ずかしいのですが、これほど喜んで頂けたことをうれしく思っています。

バーロー症候群という、僧帽弁形成術がやりにくい病気をお持ちでしたが、逆流も取れ順調に経過し、お元気にしておられます。

ポートアクセスの利点で、痛みも少なくすぐ活発な生活を回復されました。

創はさすがに小さく、女性のため乳腺に隠れて見えません。

だれでも心臓手術を受けるというのは勇気がいるものです。そこで私たちを信じて手術を決断して下さった勇気にあらためて敬意を表するものです。

 

*********** 患者さんからのお便り **************


庭のあじさいが、いっそう色濃さを増し、くちなしの白い花も、甘く香る今日この頃でございます。

安田嘉子さんお手紙その節、米田先生には、大変お世話になり、本当に、ありがとうございました。

手術から、もう三ヶ月が過ぎ、順調に回復し、改めて、厚くお礼申し上げます。

先生のような名医に、手術して頂けるなんて、最初は、とても無理なことと思っておりましたのに、こうして、お世話になれて、私は幸せ者でございます。

入院中、同室の方々も遠方から先生を、たよっていらしている方々ばかりで、改めて、先生のすばらしさ、偉大さを、実感致したことでございます。

特に、****さんとは、親しくお話しさせて頂き、先生の手術の腕ばかりでなく、人間性のすばらしさをお聞きし、その様な先生にお世話になれたことを、家族一同、大変よろこんだことでございます。

その後、主人の入院・手術等が続き、大変遅くなり、失礼してしまいましたが、本日、おはずかしいような物ですが、お礼の気持ちの一部をお送りさせて頂きましたので、ご笑納下さいませ。

本当に、本当にありがとうございました。

今後も、先生の益々のご活躍を。お祈り申し上げております。

かしこ

六月二十七日

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