お便り80: 困難な状態から再手術を乗り切った患者さん

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Ilm17_da05002-s心臓手術のなかでも再手術はさまざまな注意が必要です。

単に弁を治すだけではなく、壊れた全身を守り助けながら、周囲の組織とくっついた心臓をきれいにはがし出して、そのうえで心臓の中を治すことが必要です。

以下の患者さんは7年前、当時50代で僧帽弁交連切開術後の状態で僧帽弁が再び狭くなり(僧帽弁狭窄症)、大動脈弁まで同様に狭くなり(大動脈弁狭窄症)、心房細動を併発し、さらに大きな脳梗塞まで患っておられました。

他県の有名病院でフォローアップされていましたが、苦しくてどうにもならなくなり、意を決して当時京都大学病院で勤務していた私のところへ来られました。

大きな脳梗塞の後という状況は予断を許さぬものでした。

しかし、当時の私のチームと、なにより患者さんの前向きの頑張りでお元気になられました。

手術は僧帽弁を人工弁に置き換え、大動脈弁も同様に置換し、心房細動に対してメイズ手術を行い、左室のパワーが落ちないようにゴアテックス人工腱索を斜め方向に立てました。

それらがうまく作動し、その後も大変お元気で生活を楽しんでおられます。

私の患者さんの会にも毎回顔を出して下さり、笑顔を拝見するたびに、じいんと来るものがあります。

こちらの方こそ、あの時よく頑張っていただき、ありがとうと申し上げたくなります。

以下はその患者さんからの術後7年目のお便りです。

 

*************患者さんからのお便り************


拝啓 里山も少しづつ装い始め色濃くなってきております。

 

PtLetter80米田先生には大変御無沙汰申しております。お忙しい毎日をお過ごしの事と存じます。

手術前、心臓音は弱かったと思いますが、元気な心臓音で目覚めるしあわせな瞬間です。
 

手術していただいた2005年12月12日、麻酔より目覚めさせていただいた時、私は生かされていると先生方に心より感謝致しました。

外出以外の朝6時半頃より、里山の坂道を登り地ぞう様にお参りし、四季を愛でつつ1.5時間くらい散歩いたしております。

しあわせの時です。

手術より7年目を生かされている私です。

先生には感謝の言葉しかございません。

私より元気だった大切な友人が一人二人と旅立ってゆきさみしいです。

父の分、友の分まで大切に生きさせていただこうと思います。

初孫も2歳を迎えました。

『孫のキス スカイプ繋ぐ 冬の虹』

孫に会いにアメリカにも行こうと楽しみにしているところです。

米田先生、御自愛なさりおすごし下さいませ。

7年目の感謝状

かしこ

*****

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り 5 僧帽弁再置換術の患者さん

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Himawari_b患者さんは関西在住の70代男性です。

かつて他病院で2度の心臓手術を受けておられますが、

昔、僧帽弁に植え込まれた人工弁が血栓のため機能不全を起こして

心不全・溶血(血液が壊れて障害がおこります)・腎不全の状態となりました。

 

このままでは命が危ない状態でしたが、

地元の病院で手術は危険と言われてネットで調べてハートセンターへ来られました。

2009年2月に再手術(僧帽弁再置換術)を行い軽快退院されました。

 

僧帽弁再置換術は通常の弁置換手術と比べるといくつかの注意点があります。

しかしこれに慣れた心臓外科医にとってはそう難しいものではありません。

それよりも手術前に全身が衰弱しているという問題があり、しかも3度目の手術ということで単なる僧帽弁再置換術よりも要注意でした。

 

その患者さんの娘さんからのお礼のメールです。

******************************

米田先生御机下

父が大変お世話になり、無事に退院させて頂いたにもかかわらずお礼が遅れて申し訳ありませんでした。

退院後には徐々に体力も回復してきて、電話の度に「楽になった、先生のおかげで命拾いできた。」と喜びの声を聞くことができています。退院後の受診も無事に済み安心しております。

趣味の車の運転も12月頃より出来なくなってきていましたが、(術後の)受診後より少しずつ母親とドライブに出かけているようです。また8月には、初めての孫の結婚式にも元気な姿で出席することができそうです、

昨年の暮れの状況から考えると、先生のご助言のおかげで、あっという間に時間が経過し今があるのが奇跡のようです。

本当に有難うございました。出来るだけ長くフォローをお願いしたいと思っておりますので今後ともよろしくお願いいたします。 今後も先生のご健康とご活躍をお祈りしております。

 

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事例 僧帽弁の再々手術

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患者さんは 73歳男性。

35年前に僧帽弁形成術を、12年前に僧帽弁置換術を他の病院で受け、

最近心不全と溶血(赤血球が壊れ、貧血になり、かつ腎臓が弱ります)が進むためハートセンターへ来院されました。

地元では手術は危険と言われ、遠方から来られました。

 

人工弁機能不全と弁周囲逆流の診断で、このままでは体力が弱り、とくに腎不全になる可能性が高いため、手術することになりました。

 

1_2Photo_2再手術ですから心臓と周囲の組織との癒着があり得るためCTを撮りました。

そのCTにて胸骨が無名静脈に食い込んでいる所見があったため、

慎重に剥離を進め無事通過しました。

癒着の安全な剥離は安全な再手術のカギのひとつです。

体外循環・大動脈遮断下に左房を切開しました。左房の拡張は長い病悩期間を反映して高度でした。

前回縫着された機械弁(写真上左)には1cmほど弁輪がスリット状に切れて弁周囲逆流になっていました(写真上右、人工弁切除中の写真ですが裂け目が黒く見えます)。

このように人工弁が一部でもはずれたり、弁が完全作動しなくなると溶血が起こりやすいのです。

僧帽弁輪を温存しつつ人工弁を摘除しました。

左室側に輪状にパンヌスが幅5mmほどで発達し(写真下 左)、機械弁の動きを制約し、人工弁内部の逆流のもとになっていたものと推察しました。

写真下右は切除したパンヌスの一部です。
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パンヌスを切除し、

十分な強度を保てるよう工夫して生体弁を縫着しました。

念のための逆流試験にて、人工弁・縫着部とも問題ないことを確認しました(写真下)。

経食エコーにて良好な僧帽弁機能と心機Reremvr能を確認しました。

 

術後経過は良好で、翌日には一般病室で心臓リハビリを開始し、

溶血も解消、腎臓も回復し、お元気に退院されました。

 

これまでは機械弁のため多い目のワーファリン使用が避けられず、鼻血によく悩んだとのことですが、今回はせっかく再手術するのに生体弁にしない手はありません。

そこで生体弁で僧帽弁置換を行いましたので、それからは心房細動用の少な目のワーファリンで行けるようになり、鼻血も起こらなくなり喜ばれました。

このように再手術は必要あって止む無く行うものですが、大きなメリットをもたらすのです。

 

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5) 再手術(再開心術) ②どんな問題が? へもどる

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執筆:米田 正始
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5) 心臓再手術(再開心術) ――どんな時に必要でどんな問題点が?【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月2日

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◾️心臓再手術はどんな時に?

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弁膜症の場合、何年・何十年という長い間には人工弁やそれを支える土台がだめになることがあります。たとえば人工弁を縫い付けた弁輪がちぎれて弁周囲逆流が発生したときなどですね(事例 三度目の手術、僧帽弁置換術を乗り切り元気に)。

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またその逆流のため赤血球が壊れて溶血し、腎 機械弁パンヌス2機械弁パンヌス1などを壊して行くことも時々あり、このときにも再手術が必要となります(事例:二弁置換の術後20年、、)。

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あるいは人工弁周囲の組織(パンヌスと呼びます)が張り出して人工弁とくに機械弁が動かなくなったり血栓ができて飛ぶ恐れが出ることもあります。

そうしたときに、心臓再手術(再開心術)をしなければならないことがあります。

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右上図左側は機械弁にパンヌス(内膜組織などが異常増殖したもの)ができて一回目の心臓手術から23年目に再手術になった患者さんの写真です。白い矢印がパンヌスを示します。右上図の右側は機械弁を取り外したあと、人工弁の下側にもパンヌスができていたのを示します。いずれもきれいに切除し、新たな機械弁を入れて、弁も患者さんも元気になられました。

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◾️今日的な心臓再手術は

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生体弁(ウシやブタの組織を活かした人工弁)の場合はもとの手術から10‐20年経って、弁が硬くなったり破れたりして作動しなくなることがあります。

その場合もそのままでは危険と判断されれば心臓再手術となります。

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人工弁に感染が起こる人工弁感染性心内膜炎(略称PVE)でもお薬(抗生物質)では治らないため再手術が必要なことが多いです。(事例:僧帽弁の再々々手術 

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あるいは永い間に別の弁などがやられた結果、複数回の手術をやることもあります。

事例: バイパス術4年後に大動脈弁狭窄症を発生した透析患者さん

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◾️冠動脈や大動脈の再手術は

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また狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患では、冠動脈バイパス手術のあと、何年もたってバイパスの一部が傷んで閉塞したり新たな病変が発生すれば心臓再手術が必要になることもあります。

あるいは胸部大動脈瘤大動脈解離の手術のあと、何年も経ってから別の部位が瘤になって手術が必要となることもあります。

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◾️心臓再手術の難易度は?

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心臓再手術は一回目の手術よりも数段難しいことが多いです。

それは心臓と周囲組織が癒着し、そこをはがすために出血が増えたり、長年の病気によって患者さんの状態が悪いため癒着をはがす間に心臓や全身の状態が急に悪化したり、また感染が重症であったりするからです。

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024 このように心臓の再手術(再開心術)は困難な状況のことが少なくないのですが、患者さんのいのちを守る唯一の方法として、リスクが少々あっても、患者さん・ご家族と医療チームの団結とチームワークで敢然と挑む、誇り高い治療と信じます。

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実際、再手術がどこまでできるかはその心臓手術チームの力量がもっともよくわかる指標のひとつとする考えもあります。

たとえある種の病院が保身のために逃げ、断った場合でも、私たちは自分たちの技術・経験とチームワークで勝てると判断すれば、逃げずに頑張るようにしています。

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そのため私たちのところへは関東東北、近畿九州をはじめ全国から心臓再手術の患者さんが来られます。現在私が執刀する心臓血管手術ぜんたいの3割が再手術と多いのはそのためです。

再手術では胸骨の安全な切開と正しい面での剥離そして心臓の扱いがキーになりますが、恩師デービッド先生の方法(鋭的剥離)で剥離を行うため出血が起こりにくいです。

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◾️ Q:再手術(再開心術)ではどんな問題が?

再手術の際の所見。昔入れられた人工弁の周囲にパンヌスと呼ばれる組織が張って人工弁が動かなくなっていました.

A: 再手術では一度目の手術のために心臓と周囲の組織が癒着したり変化を起こしている場合も多いです。

それらの癒着を安全確実にはがす必要があります。

癒着をはがした後はにじむタイプの出血(ウージングと呼びます)が起こりやすいため、より丁寧な止血が必要です。

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このため、安全な胸骨再切開と、剥離には電気メスとハーモニックメスを多用して「乾いた」術野の確保をモットーとしています(事例:二弁置換の術後20年、、、)。

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中でも前回手術で心膜(心臓の周囲にある袋状の膜)を閉じられていなFotosearch_CCP01062い場合は、心臓が直接胸骨に癒着していることがあり、胸骨をのこぎりで切る際に心臓を傷つけない技術が求められます。前回手術を私たちがやっている場合は心膜を閉じてあるため再手術はその分、安全で楽です。

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右図のように、心臓や大血管はさまざまな周囲臓器や組織に囲まれているため、そのどれと癒着するかによってさまざまな注意が必要となるわけです。

私たちはトロントのDavid先生の方法で安全に胸骨再切開ができる態勢を確立しています。

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以前に、3回目の手術を希望して来られた連合弁膜症の患者さんは、前回手術のときに右室を胸骨と一緒に(!)大きく切られた経歴がありましたが、この患者さんも無事にトラブルなく手術完了しました(事例ー準備中)。

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◾️心臓再手術、その他の問題点は

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Fotosearch_CCP05018心臓再手術のなかでも前回手術が冠動脈バイパス手術で、その時のバイパスグラフトが開存している場合、そのグラフトを傷つけると危険なことが多いため、注意と経験・技術が必要です 。

(事例 バイパス術後の再手術弁置換術)

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人工弁の再手術では、もとの人工弁をただ切除すると、新しい人工弁の縫い代が不足することもあります。

それらを考慮した切除が必要です。

このことはとくに再々手術など、手術回数が増えるほど大切です。

 .

A313_098しかも心臓再手術の患者さんは長年月の間に心臓に無理がかかったりしている場合が多いため、初回手術の患者さんよりも心臓や他内臓(肝臓や腎臓、その他)が弱っていることも多く、重症の方が多いため、より的確な治療が要求されます。(事例 僧帽弁の再々手術)

(事例:肝硬変で大動脈弁の再手術)

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状態の悪い患者さんでは手術を開始してまもなく血圧が低下したり、不安定な状態になることがあります。

一回目の手術であれば直ちに体外循環を開始すれば落ち着きますが、再手術では直ちにそれができないこともあります。

それ用の対策を持つことが必要です。

たとえば胸骨と大動脈やその枝が強く癒着している時などにミックス手術とくにポートアクセス法などを活用すると危険な大出血を未然に防げます。(事例:僧帽弁の再々々手術をミックス法で

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◾️心臓再手術には熟練外科医が必要

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それらのため心臓再手術(再開心術)は心臓外科医の力量がはっきりと再手術のときの所見。昔植え込まれた生体弁が長年の疲れで破れて逆流を起こしていました現れる領域です。

豊かな経験と実績のある外科医・チームでは再手術は一回目と大差ないほど安全に行えますが、熟練していないチームでは死亡率が高まります。

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私達は心臓再手術を以前から重要種目の一つとしており、3-4回目の手術でも安定した成績を出しています。

韓国から来られた4回目手術の3弁置換手術の患者さんは当時の学会(2000年)でも発表致しました(左図)。

最初の2回は米国にて受けておられました。

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Medical_shujutsu全国から心臓再手術(再々手術、再再々手術も)の患者さんが来て下さるのは光栄なことです。(註:現在、米田は一宮西病院などで手術しています)

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こうした患者さんの中には肝臓や腎臓も弱っていることも多く、それらへの対策が必要ですし、肝臓が弱い場合やうっ血しているときには出血傾向(血が固まらない)があり、出血対策も一段と強化する必要があります。

これらのためもあって心臓再手術は普通の手術よりはリスクが高いのですが、経験がものを言う領域でもあり、全員軽快退院記録を伸ばせるよう全力を尽くしています。

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こうして今後さらに多くの患者さんの救命や楽しい生活の実現にお役に立てれば幸いです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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