お便り93: 僧帽弁形成術の不成功から来院、元気に帰還した患者さん

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弁膜症の手術にも難しいタイプがあります。

下記の患者さんは70代男性で、地元(他府県)でトップレベルの病院にて、僧帽弁形成術を受けられました。


A335_012残念ながら比較的難しいバーロー症候群の僧帽弁で、その病院では対処できず、生体弁による僧帽弁置換術になりました。

ところがその時に生体弁の付け根のところから逆流する、これはおかしい、左室が破裂したのではないかと長時間かけてさまざまな処置が手術室で取られたようですが、結局うまく行かなかったようです。

そこでどうにもならないからと、ちかぢか機械弁で僧帽弁置換術をと言われ、HPで調べてから米田正始の外来に来られました。70代のご年齢で機械弁は、ワーファリンというお薬が欠かせなくなるため脳出血などの合併症が起こりやすくなり、何とか生体弁をというお気持ちで来院されたのでした。

エコーを拝見しますと、どうもおかしい、これは生体弁がきちんと左室内に入り込んでいないのではないか、と考え、それならこの生体弁を外して私たちが新たな生体弁を入れれば治せると考えました。

こうした再手術には独特のノウハウが必要で、弁膜症に熟練したものにしかわからないこともあるため、手術をお引き受けしました。

初回手術の前に来て頂ければ僧帽弁形成術ができたものと拝察しますが、この段階からは次善の策として良い弁置換をしようというわけです。

手術は予想どおりで、うまく新たな生体弁が入り、患者さんは術後11日目に元気に退院されました。やや遠方ですので少しゆっくり院内にいて頂きました。

外来でお会いするたびにお元気になられるのがわかり、うれしく思っています。

以下はその患者さんのご家族からの礼状です。

手術を受けた病院を出て治してくれる専門家をもとめて外の病院へ行く、実に勇気のいることだったと思います。しかしその決断が良い結果をもたらしたこと、敬意を表したく思います。

 

*****  患者さんのご家族からのお便り *****

名古屋ハートセンター
心臓血管外科 統括部長 米田正始 先生
スタッフの皆さま

拝啓


猛暑の候、米田先生はじめ名古屋ハートセンターの皆さまにおかれましては、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。


月日の経つのは早いもので、父が今年2月6日に僧帽弁置換の再手術を受け、本日でちょうど半年となります。
その節は大変お世話になり、ありがとうございました。

今思い返せば、あの時米田先生にご相談していなければ、今頃父はまだ原因不明の心不全に悩まされ、当時かかりつけの**病院で再度僧帽弁の置換をするのであれば血栓リスクの高い機械弁、もしくは循環器内科で処方していただく薬で何とか生き延びるか、どちらか究極の選択を迫られていたと思います。


「あの時」と申し上げるのは、その悩みの境地において米田先生のサイトを拝見してから、居ても立っても居られずご相談いたしました、昨年12月9日のメールです。

 

市川功さんメール

患者さんのご家族からのお礼メールです。本文に記載されているのは添付文書の内容ですが、このメールからも伝わってくるものがございます

当日、しかも1時間足らずで米田先生よりご返事いただいた内容は、医療現場における一般論と、名古屋ハートセンターの受入れ姿勢を綴った大変有難いお言葉でした。
メールを拝見した時の、あの安堵感は今でもはっきり覚えています。
「断らない医療」の姿勢がそこにあるのだろう、と私は思います。

今回、米田先生に執刀していただいたお陰で、懸念しておりました心不全の根本原因もはっきりし、弁置換も機械弁ではなく血栓リスクの低い生体弁を使用してくださいました。


そして何より手術時間が極めて短かったことで術後の回復が早く、父が初回の**病院で受けた弁置換の術後とは明らかに違う回復ぶりでした。


お陰で今では服用を続けていたワーファリンをはじめ、薬は殆ど飲まずに過ごすことが出来ており、この上ない喜びと感謝の気持ちでいっぱいです。

末筆になりますが、私たち家族の愛する父が、この名古屋ハートセンターでお世話になることが出来て本当に良かったと思っております。


スタッフの皆さまがこの素晴らしい場所で働いておられるのが、羨ましくも思います。
この夏の暑さはまだまだ続きそうですので、どうか皆さまくれぐれもご自愛ください。


敬具

平成25年8月*日

*****

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例:重い僧帽弁狭窄症などの患者さん

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僧帽弁狭窄症が進行すると心房細動、そして巨大左房になり、多量の血栓が左房の中にでき、脳梗塞などの大きな問題がおこります。また心不全や肺合併症のため命を落とす方が長期的に増えて行きます。

そこで僧帽弁だけでなく左房や心房細動三尖弁閉鎖不全症などをしっかりと併せ治すことが肝要です。

患者さんは75歳女性、僧帽弁狭窄症(高度)、肺高血圧症(高度)、三尖弁閉鎖不全症(中等度)、巨大左房、心房細動)のため米田正始の外来へ来られました。

心不全症状が強く心臓も大きくなっており、左房の中に血栓が多量にあるためもあり、手術することになりました。弁膜症の極めつけのような状態でした。

図1心臓手術では体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

左房は高度に拡張し、左心耳を中心に大きな暗赤色血栓(大型スプーンのサイズ)があり(写真右)、摘除しました(写真左)。

図2左心耳の中に白色血栓があり、上記の大きな新鮮血栓の起源は左心耳であることを示しました。

左房左室を洗浄し、血栓が残らないようにしました。

 

 僧帽弁は肥厚・硬化・ 図3石灰化が著明で(ようするにガチガチに硬く変化していました)、

弁口は中央部にわずかに残る程度となっていました(写真右)。

こうした弁は近年は弁形成するようにしていますが、この頃はまだ弁置換を主体にしていました。それと患者さんのご年齢から生体弁でも20年近く持ち、しかも短時間で確実に完了する意義は大きいため弁置換を行うことにしました。

図4

弁を切除しつつ左室内を観察しますと、弁下組織が短縮し弁葉にまで引き上げられる形になっていました。

左室を守るため基部腱索の一部を残してそれ以外の弁葉・ 図5腱索と乳頭筋先端部を切除しました(写真右、弁から切り離された乳頭筋はすでに正常の位置に戻っています)。

左室破裂予防と術後左室機能改善のため、

ゴアテックス人工腱索を前後乳頭筋先端に1対ずつ立て、

これをそれぞれ僧帽弁輪の10時と6時の方向に吊り上げました

(写真上、後乳頭筋の人工腱索が見えています)。

図6

ここで弁操作を一旦止め、巨大左房を左心耳も併せて私どもの心房縮小メイズ法で縫縮し、

続いて縫縮ラインを冷凍凝固にてアブレーションしました(写真上左)。

その 図7上でMosaicブタ生体弁25mmを縫着しました(写真上右、2つ前の写真と比べますとかなり小さくなりました)。

弁機能が良好であることを確認ののち、左房をさらに縫縮しつつ閉鎖しました。

 

図8心拍動下に右房をメイズ切開しました。

三尖弁そのものは健常ながら弁輪の拡張が見られたため、MC3リング28mmにて三尖弁輪形成術TAPを施行しました(写真左)。

冷凍凝 図9固法で右房メイズ手術をおこない、

さらに心房細動の予防のため峡部をも冷凍凝固し(写真右)、右房を縫縮閉鎖しました。

ANP(心臓ホルモン、大切な利尿作用などがあります)分泌能を残すため右心耳は温存しました。

離脱はカテコラミンなしで容易でした。

写真下左は術後の右房、下右は術前の右房です。

図10 図11

同じ視野でも、術前は拡張した右房しか見えていなかったのですが、

術後は右房が小さく、右室がよく見えるほどになっています。

経食エコーにて僧帽弁(生体弁)・三尖弁や左室・右室の機能が良好であることを確認しました。術前は血圧の80%前後あった重症肺高血圧は手術終了段階で約40%程度にまで改善していました。

こうした高度MS、巨大左房の症例では一般にはメイズ手術の適応にさえならないことが多いのですが、心房縮小メイズ手術にて無事除細動でき、sequential pacingに乗りました。心房の収縮も明瞭にありました。

術前肝うっ血のためか出血傾向が見られましたので、より入念な止血を行ったのち手術を終えました。リズムは心房ペーシングで良い形になりました。

術後経過はしばらく出血傾向が見られたほかは問題なく、手術翌日に抜管しました。

その後の経過も良好で手術後10日で元気に退院されました。

あれから4年が経ちますが、外来でお元気なお顔を見せて下さいます。手術後2年の時点で脈が遅くなってきたため、ペースメーカーを入れておられますが、心房細動はよく取れており、DDDタイプの自然なペースメーカーで安定しておられます。

心臓もすっかり小さくきれいな形を取戻し、しっかりと治すことの意義を感じます。

 

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原因 

弁狭窄症

リウマチ性僧帽弁閉鎖不全症

弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング

◆ 弁狭窄症に対する僧帽弁交連切開術


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

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執筆:米田 正始
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お便り85: ポートアクセスで僧帽弁置換術を

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Ilm17_da05018-s創がちいさいミックス手術とくにポートアクセス法は若い患者さんや仕事に早く復帰したい働き盛りの方々に喜ばれています。同時に比較的ご高齢のかたには痛みや苦痛を減らし、合併症を減らすというメリットがあります。

下記の患者さんは関西からこのポートアクセス法での僧帽弁手術を希望してご来院されました。

2階まで昇っても息切れと動悸がし、胸が苦しくなるという症状がでていました。

ちかくの病院で検査を受け僧帽弁閉鎖不全症の重症と診断されたのでした。

手術で僧帽弁を実際にみたところ、リウマチ性の変化があり、弁尖が短縮肥厚している箇所がいくつかあり、逸脱していた弁尖を切除しても逆流が残るという所見でした。

お若い患者さんでは生体弁が長持ちしないため、心膜パッチなども適宜使って弁形成するところですが、比較的ご高齢で体力も弱めで、生体弁も長持ちするため、

無理なく元気になれるよう生体弁で僧帽弁置換術を行いました。

術後経過は良好で、遠方のためややゆっくりと入院していただき、術後2週間で元気に退院されました。

以下はその患者さんからのお便りです。

*******患者さんからのお便り*******

 

名古屋ハートセンタースタッフ御一同さま

この度、無事に退院できました事、

お便り85
心よりお礼申し上げます。

手術には執刀して頂きました米田先生はじめ、北村先生、深谷先生、木村先生、麻酔科の先生、その他スタッフの皆様方には長時間にわたり、大変お世話になりました。

本当にありがとうございました。

手術日の朝、先生方が、お部屋にお越し下さり「頑張りましょう!!」と、優しい笑顔でのお言葉に不安な気持ちも払拭いたしました。

こんな素晴らしい先生方に手術をして頂きました事、私の一生の自慢にして行きます。

手術後も、先生の心温まる回診に心がいやされ、ホッとしたものです。

又、手術室等、色々な説明をして下さった看護師様が、夜勤明けにもかかわらず、4階からわざわざ来て下さり、

「大丈夫、大丈夫やからね!!」と私の手を両手で握って下さいました。

その優しい手の感触は、今も忘れられません。

涙が出そうでした。

看護師皆様も、ニコニコと接して下さり、こちらが色々とお世話になっていますのに。

「ありがとうございます!」と頭が下がります。

毎日毎日、手厚い看護に感謝で一杯でした。

そして子供にも、こちらの病院を選んでくれた事に感謝です。

一か月後の受診時には、ずっと元気になって先生にお目にかかれる様頑張ります。

 どうぞ、スタッフご一同様、

くれぐれもお身体を大切になさって下さいませ。

まだまだ一杯お礼を申し上げたい事多々ございますが、

これで失礼致します。

平成25年1月28日

****

 

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事例:三度目の手術、僧帽弁置換術を乗り切り元気に

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若いころにリウマチ性弁膜症で僧帽弁などをやられた方は長期的なケアが大切となります。

リウマチで弁が強く壊れた場合はもちろん、軽く壊れた場合でもそのあと何十年の間に弁破壊が進行し、重症化することが多々あるからです。

患者さんは76歳男性で、35年前に関西の大きな病院でリウマチ性の僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁交連部切開術を受けられました。

その後年月を経て、僧帽弁がまだ悪くなり、心不全症状が出たため、12年前、上記と同じ総合病院で僧帽弁置換術を受けられました。このとき、金属製の機械弁を使用されています。

その後まずまずお元気にしておられましたが、3年ほど前から次第に息切れなどの心不全症状が再発しました。

2か月前、地元の病院で中等度の僧帽弁閉鎖不全症と、溶血つまり赤血球が壊れる病気を指摘されました。

右図はその僧帽弁閉鎖不全症を示します。

術前ドップラー実際、血液検査でLDH1800台は異常高値で強い溶血の所見で、総ビリルビン4.7とかなりの黄疸が出ていることと合致する所見でした。

しかもその溶血のために腎機能が低下しつつあり、クレアチニンCrは1.14と低下傾向がみられ、コリンエステラーゼ143、総コレステロール155と肝機能の低下も見られました。

僧帽弁閉鎖不全症つまり逆流はひどくはないものの、溶血が強く、このままでは輸血が延々とひつようとなり、次第に腎不全が合併して永くは生きられないという状態でした。しかも機械弁のためワーファリンが必要で、ご高齢で血管が弱いこともあって鼻血がよく出て、大変つらいということでした。

しかし地元の大病院でも3度目の手術で全身の状態が悪すぎるとして、再手術を拒否され、米田正始の外来へ来られました。

手術はややリスクが高いものの、このままでは死を待つだけという状態で、しかもこれまで同様の再手術の患者さんを多数お助けしてきた経験から、直ちに再手術を決定しました。

しかし全身の状態が悪く、このまま手術すると体力が持たず、そのためにいのちを落とす懸念があったため、まず入院していただき、1か月近い時間をかけてさまざまな治療で状態を改善し、そこで勝負をかける、つまり手術することにしました。

人工弁のすぐ上に見える黒いところに穴が開いており、そこから血液が漏れていました。昔の手術で弁を縫い付けたところが裂けたものと考えられます手術では以前の2回の手術のため癒着が高度で、これを丁寧にはがして行きました。

心臓の中に入ると、僧帽弁は人工弁の頭側が外れており、そこから血液が逆流し、またそのときに人工弁に擦れることで溶血しているという所見でした。人工弁の動きにも問題があり、パンヌスと呼ばれる自己組織が弁の動きを妨げている様子から、この人工弁(機械弁)を切除しました。パンヌスが弁の下に確認され、弁を切除して正解という所見でした。

上図は古い機械弁をほぼ外しつつあるところで、弁の上方の黒い穴のところが逆流口です。

生体弁MVR完了そして生体弁を植え込み、きちんと乗って、組織の裂け目もないことを確認しました。

右図は生体弁がきれいに入ったところを示します。

入念な止血ののち手術を終えました。

重症のわりには術後経過は良好で、術翌日には集中治療室を退室し、病棟にて運動を開始しました。

術後ドップラー遠方のためゆっくり回復に時間をかけて術後3週間で元気に退院されました。

左図は術後のエコー・ドップラーです。僧帽弁閉鎖不全症は消失しました。

あれから丸4年が経ちますがお元気にしておられます。あれほど悩んでおられた鼻血もなく、腎臓も回復し、普通の生活を楽しんでおられます。ご高齢の患者さんにとって生体弁がどれほどありがたいか良くわかる事例です。

勇気を出して決断し、手術を乗り切って下さったからこそ、以後の平和な生活があることをしみじみ感じます。また定期健診の外来でお会いしましょう。

 

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原因 

閉鎖不全症 

逸脱症

狭窄症

リウマチ性

弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング

◆ 交連切開術


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するもの

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  

⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

 

再手術(再開心術)

どんな時に必要?

② とくに僧帽弁形成術の再手術について

 

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ミックスによる僧帽弁置換術――やさしい手術へ 【2020年最新版】

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MICS3

最終更新日 2020年2月27日

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◾️ミックス(MICS)による僧帽弁置換術とは?

ミックスつまり骨を切らず傷跡も目立たない方法で、患者さんご自身の僧帽弁を切り取り、人工弁に取り替える手術です。以下、もう少し詳しく解説します。

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ミックス(MICS、その代表格がポートアクセスです)

つまり小切開低侵襲手術による心臓手術

徐々に進化をしています。

 

この流れは私たちの経験では僧帽弁形成術でまず実現し、

 多くの患者さんたちの術後の苦痛を軽減し、

また早い回復と社会復帰をもたらし、

さらには外から見えにくい創から心の負担も少なくなるというおまけまでつき、喜ばれています。

そうした経験から僧帽弁置換術にもミックス手術を行うようになりました。

.

◾️その実際は?

上の図の左は通常の胸骨正中切開のときの創部、右はミックス(ポートアクセス法)での創部です。

MICS1c もともと僧帽弁置換術が僧帽弁手術の定番でしたので、

経験豊かなチームならミックスでもより簡単にオペができるわけです。

左の写真はミックス(ポートアクセス)による僧帽弁置換術後1か月の創部です。

創そのものが小さいのですが乳腺に隠れてほとんど見えません。

 .

患者さんの長期の寿 A302_096命や負担を考え、

弁形成で行ける場合は極力そのようにしていますが、

弁の破壊が高度であったり、患者さんがご高齢の場合は、

人工弁(この場合はブタやウシから造られた生体弁)が長持ちする上にワーファリンも不要なため、

前向きに人工弁を使うことがあります。

そうした際にもミックスによる僧帽弁置換術は患者さんの役に立ち、喜ばれています。

  183521318.

その際には肋間神経ブロックを併せ行うため術後の痛みも軽くなります。

ブロックの効果は数週間程度なので、

痛みが消える時期に神経も正常の状態にもどります。

 .

◾️ミックスに不適な場合は?

ただしこのミックスは動脈硬化の強い患者さんにはやや使いづらいため、

今後さらに改良を加えてそうした方にも恩恵が届くよう努力しています。

また当面の方法として、胸骨正中切開をしながらも、

小さい皮膚切開を行うというタイプのミックス手術(MICS)も適宜使っています。

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患者さんの想い出はこちら:

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参考ページのIndex:

MICS(ミックス手術)とは 

  とくにポートアクセス手術とは
  
  その位置づけ
  
  それ前向きに安全な場合
  
  美しいLSH法とは
  
  かかる費用は?

  ハートポートとは
  
  危険なの
  
  術後の痛み軽減について
  
  社会復帰が早いわけは?
  
  美容について
  
  胸骨「下部」部分切開法とは
  
ビデオ ポートアクセス法による僧帽弁形成術
  
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
  
僧帽弁

  ミックスによる弁形成 

  同、メイズ手術

  ポートアクセスによる弁形成術

 

患者さんやご家族からのお便り

お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん

お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん

お便り48: ミックス手術ですみやかに社会復帰された患者さん

お便り54: ポートアクセス法で弁形成を受けた若者患者さん

お便り59: 被災地支援へ!同法の弁形成術を受けられた患者さん

お便り62: ミックスの弁形成と冠動脈バイパス手術を受けた患者さん

お便り63: ポートアクセスの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん

お便り65: 同法による弁形成術で元気になられた患者さん

お便り68: 同法の弁形成を受けたバーロー症候群患者さん

お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動をミックスで克服

お便り74: ポートアクセス法で弁形成とメイズ手術を受けた患者さん

 

 

 

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お便り23 僧帽弁置換術の患者さん

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患者さんは鹿児島在住の40代の女性です。

 
20年近く前に地元の病院で僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁交連切開術を受けられました。

Tutuzi房中隔欠損症への手術も合わせて受けられました。

 

その後お元気にしておられましたが、僧帽弁は次第に再狭窄(せまくなることです) を起こし、

さらに三尖弁閉鎖不全症や慢性心房細動AFも合併したため

2度目の心臓手術が必要と言われました。

2度目の手術はご自分の納得行く病院でと考えられ、

熟慮のうえで名古屋ハートセンターまでご来院されました。

 

そして手術(僧帽弁置換術三尖弁形成術そしてメイズ手術)を受けられ、

心不全はもとより不整脈(心房細動)も治り、順調な経過で退院されました。

 

近年は狭窄といえどもなるべく弁を形成するようにしていますが、

この患者さんの場合は僧帽弁が石のように硬くなっていたことと、これで最後の手術にしようという考えで、僧帽弁置換術を行いました。

 

私たちは患者さんがじっくり納得行くまで調べ、

そして私たちの治療を求めて遠方からお越し下さったことを光栄に思い、

チーム全員、張り切って手術と治療をさせて頂きました。

遠方からも多数の患者さんが来て下さいますが、

距離のハンデを埋めるべく一層の努力をしています。

治療前からお互いの信頼関係があるとき、医療はスムースに進みます。

医療の原点と思います。

 

以下はその鹿児島の患者さんからのお手紙です。

 

*********** お手紙 ***********

 

米田先生、北村先生・深谷先生・小山先生、スタッフの皆さま

お久しぶりです。

手術の時は大変お世話になり有難うございました。

手術する前は、階段を上がることもできず主人に背負ってもらいながら周りの冷たい視線を気にしていたものでした。

 

今は、手術が無事に終わった喜びと、自分が正しい選択「病院」が出来たことへの満足の毎日です。

私は、今回2度目の開心術でした。

同じように心臓病で悩んでいらっしゃる方にとって、少しでも参考になれたらと思い、今までの経過を書いてみました。

 

最初の手術は1992年、地元の病院で受けました。

生まれつき心臓に穴があいている「心房中隔欠損症」と「僧帽弁狭窄症」で、

手術は無事成功して元気に過ごしていました。

 

今から5年前(2005年)、「心臓粗動」という不整脈になり、

カテテーションアブレションで根治手術を受け、

その時の説明の中で「僧帽弁狭窄症」は軽症という診断でした。


不整脈が治った喜びもつかの間、3年後(2008年)、

「心房細動」という不整脈になり手術が必要と言われました。


手術を受けるなら再手術の危険性も考えて自分で納得できる病院を見つけようと思いました。

大学病院の先生に手術の事を相談し、

ハートセンターへの紹介状を書いてもらいました。

私の住んでいる所から遠い病院です。

 

米田先生のブログを目にする機会があり、

先生の医療に対する取り組み、考え方に感動して、

まだ会ったことのない米田先生への尊敬の気持ちから手術をするならこの先生にお願いしたいと思ったからです。


「弁置換(僧帽弁置換術)なら手術方法にたいした差はないですよ」


「メイズ手術もこれくらいの心臓の大きさなら縮小手術はしませんよ」

 

そう言われてはいたのですが、不安な気持ちの中、初診で初めて米田先生にお会いした時、私達夫婦の「お願いします」という言葉に「はい、解りました」と答えてくれた米田先生の言葉でほっとしたのを今でも覚えています。


手術説明も解りやすく丁寧に話してくださり、

不安な気持ちも半減し安心して手術を受けることができました。

 

術後はスタッフの親切丁寧な看護のおかげで経過も良く、

日ごとに体調も回復していきました。

それと院内がとても明るく綺麗で、快適に入院生活を過ごすことができ、

また隣にマックスバリューもあり買い物とかも非常に助かり便利でした。


これからは塩分・水分の制限に気をつけながら毎日過ごしていきたいと思います。


有難うございました。

これからも宜しくお願い致します。

平成22年4月

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事例 僧帽弁の再々手術

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患者さんは 73歳男性。

35年前に僧帽弁形成術を、12年前に僧帽弁置換術を他の病院で受け、

最近心不全と溶血(赤血球が壊れ、貧血になり、かつ腎臓が弱ります)が進むためハートセンターへ来院されました。

地元では手術は危険と言われ、遠方から来られました。

 

人工弁機能不全と弁周囲逆流の診断で、このままでは体力が弱り、とくに腎不全になる可能性が高いため、手術することになりました。

 

1_2Photo_2再手術ですから心臓と周囲の組織との癒着があり得るためCTを撮りました。

そのCTにて胸骨が無名静脈に食い込んでいる所見があったため、

慎重に剥離を進め無事通過しました。

癒着の安全な剥離は安全な再手術のカギのひとつです。

体外循環・大動脈遮断下に左房を切開しました。左房の拡張は長い病悩期間を反映して高度でした。

前回縫着された機械弁(写真上左)には1cmほど弁輪がスリット状に切れて弁周囲逆流になっていました(写真上右、人工弁切除中の写真ですが裂け目が黒く見えます)。

このように人工弁が一部でもはずれたり、弁が完全作動しなくなると溶血が起こりやすいのです。

僧帽弁輪を温存しつつ人工弁を摘除しました。

左室側に輪状にパンヌスが幅5mmほどで発達し(写真下 左)、機械弁の動きを制約し、人工弁内部の逆流のもとになっていたものと推察しました。

写真下右は切除したパンヌスの一部です。
JpgPhoto_3

パンヌスを切除し、

十分な強度を保てるよう工夫して生体弁を縫着しました。

念のための逆流試験にて、人工弁・縫着部とも問題ないことを確認しました(写真下)。

経食エコーにて良好な僧帽弁機能と心機Reremvr能を確認しました。

 

術後経過は良好で、翌日には一般病室で心臓リハビリを開始し、

溶血も解消、腎臓も回復し、お元気に退院されました。

 

これまでは機械弁のため多い目のワーファリン使用が避けられず、鼻血によく悩んだとのことですが、今回はせっかく再手術するのに生体弁にしない手はありません。

そこで生体弁で僧帽弁置換を行いましたので、それからは心房細動用の少な目のワーファリンで行けるようになり、鼻血も起こらなくなり喜ばれました。

このように再手術は必要あって止む無く行うものですが、大きなメリットをもたらすのです。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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④僧帽弁置換術 【2020年最新版】

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最終更新日 2020年2月27日

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◾️まず僧帽弁置換術とは?

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これは患者さんご自身の僧帽弁を切り取って、人工弁を入れる手術です。以下、もう少し詳しく解説します。

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◾️僧帽弁閉鎖不全症の場合は?

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僧帽弁閉鎖不全症では熟練 MVRチームならほとんどの場合弁形成が可能ですが、まれに形成できない、というよりしないほうが良いという状況もあります。

 

僧帽弁形成術ができないような患者さん、

たとえば弁がカチカチに石灰化している方や弁の重要部分の大半が感染でばい菌にやられている方、

あるいは短時間に確実に手術をまとめ上げる必要のある超高齢や重症患者さんなどには、

前向きに、僧帽弁置換術を行います。(事例:僧帽弁閉鎖不全症等の高齢患者さん)

 

僧帽弁置換術といえども、乳頭筋などを温存すれば、心臓の力は保てますつまりもとの弁を切除して人工弁を入れるわけです。

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◾️乳頭筋温存するとどう良い?

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僧帽弁置換術をおこなう場合でも乳頭筋を温存して左心室の中の自然の構造を守り、良好な術後心機能を得ています(英語論文24番)。

左図で弁を支える糸のような組織につながる筋肉です。

小さい筋肉ですが効率よく作動し、状態によっては左室全体のパワーを10%―20%もアップするという研究結果があるほどです。


ともあれ乳頭筋を温存することで状況によっては僧帽弁置換手術でも心機能では弁形成術と比べても遜色ないレベルです(弁膜症 事例6)。

なお新しい工夫を重ねて弁が硬くなっているケースでも形成ができるようになりつつあり、今後の展開が期待される領域でもあります。


人工弁関係でもさまざまな形で工夫を凝らして修復をおこないます。以前に僧帽弁置換術を受け、その人工弁が壊れたり、人工弁の縫い目が破れたりした場合は、あらためて弁置換術を行うか、縫い目を補強する手術を行います。

二度目~四度目のオペの時点で、前回手術は機械弁でも今回はワーファリンが不利なご年齢になっておられる場合は、生体弁をもちいて患者さんの安全と生活の質QOLの向上を図るようにします(事例:三度目の手術、僧帽弁置換術を乗り切り元気に)。大変喜ばれます。

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◾️心筋症がらみの場合は

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心筋梗塞のあとなどに起こる虚血性僧帽弁閉鎖不全症では極力弁形成を行い、術後心機能の改善を図ります。

拡張型心筋症などに合併する機能性僧帽弁閉鎖不全症の場合も同様に、できるだけ弁形成を行います。

いずれの場合も、私たちは通常の形成術とはひとあじ違う、左心室を守る処置を加えた、その状況にあわせた新しい方法で形成を行います。

しかしこうしたケースでも、患者さんの全身状態が悪いなどの場合は僧帽弁置換術で人工弁をもちいて確実に手術が所定の時間内で終われるようにしています。

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◾️僧帽弁狭窄症では?

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僧帽弁狭窄症(弁が狭くな 僧帽弁狭窄症ります)では僧帽弁閉鎖不全症の場合とちがって、弁が硬く分厚く変化していることが多く、弁形成手術は長持ちするかどうか不明なこともあり、上記の工夫をした僧帽弁置換術が確実に患者さんを助けます。

ただし若い患者さんなどを中心に、ぜひ弁形成が必要な場合はさまざまな方法を駆使して弁形成を行うことが増えました。

全国的にはまだまだ少数の施設でしかできないようですが、専門家のチームとしてご期待に沿えるよう、工夫を凝らしています。

なお僧帽弁置換が必要な場合、現代の機械弁は以前よりずいぶん改善され、長期の成績(生存率)などが良くなりました。

それを踏まえて患者さんに有利な方を選ぶようにしています。


最近は高齢者や慢性腎不全・血液透析の患者さんが増え、僧帽弁に多量の石灰化(カルシウムで石のように硬くなっています)があり、心臓手術がやりづらいケースが散見されるようになりました。

Ilm23_fe03003-s僧帽弁輪の石灰化ということでMAC(マック)と呼びます。あの骨や石灰岩(右図)と同じ硬い成分です。

熟練チームではこうしたケースに対処するためさまざまな方法を工夫し、ほとんどの場合、スムースに心臓手術が完遂できるようになっています。

私たちはその患者さんの状況に応じて、石灰化をCUSA(キューサ)という器械で必要最小限取り去り、人工弁がしっかりと付けられるようにしています。

また場合によっては石灰を完全に取り去り、そこへパッチで左室形成を行って救命するなどします。

高齢者や体力のない患者さんでは前者が有利と考えています。

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◾️心房細動がある時は

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Ilm19_ca06079-sまた僧帽弁置換術を行う場合でも不整脈(心房細動)を治すことが患者さんに多大なメリットをもたらします。

たとえ機械弁を使う患者さんの場合でも心房細動が治っていれば脳梗塞などの合併症は長期的に減りますし、生体弁の場合はワーファリン(血栓予防のお薬)不要となり安全と便利さが得られます。

そのため心房細動に対するメイズ手術を併せ行い、メイズ手術が効かない重症例では私たちが開発した心房縮小メイズ手術を行い、除細動率を高めるようにしています。(事例:重い僧帽弁狭窄症などの患者さん

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メモ1: やむなく僧帽弁置換術となる場合、人工弁の選択は大切です。

その患者さんの年齢、ライフスタイル、心房細動の有無や除細動に適しているかどうか、などを相談・勘案して一緒に決めて行くことが重要です。

 

Tissue valveたとえば30歳前半の若い女性の患者さんで、感染性心内膜炎のため弁がほぼ全体に壊れていたケースでは、患者さんやご家族が将来の妊娠出産を強く望まれたため、生体弁を選びました(右図はその一例です)。

もちろん将来の再手術の際にもっとも安全が確保されやすい形で、つまり癒着をできるだけ減らす形でオペしました。

将来の再手術のときには機械弁を選択するかも知れません。

 

これらによって安全に、患者さんのライフスタイルを守り易くなったわけです。

あとで悔いを残さないよう、将来を見据えてできるベストを選択するのが良いと考えます。

 

メモ2: 僧帽弁狭窄症に対する僧帽弁置換術などの手術の日米ガイドラインはこちら

患者さんの想い出1はこちら:

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