循環器救急での e-MATCH の一員として貢献します

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奈良の地域医療をまもる仕組みのひとつ 奈良県として、奈良県救急医療管制支援システム事業(略称 e-MATCH)があります。

高の原中央病院かんさいハートセンターはこれに参加し心筋梗塞、狭心症、大動脈解離など循環器疾患の救急医療の一翼を担っています。

奈良市では市立奈良病院さん、奈良県総合医療センター(旧、県立奈良病院)さんらとともに、地域医療に参加する3病院の一つになっています。

奈良市消防かんさいハートセンターは心臓血管外科部門がスタートしてから1年あまり、循環器内科部門が発進してから半年あまりのまだ若い施設ですが、他施設を応援・協力し地域医療にできる限りの貢献をしたく思います。

 

具体的には、たとえば心筋梗塞の患者さんが発生し救急車がかけつけた時、 iPad等を見れば対応できる病院が救急隊員には一目でわかるのです。そして救急車はその病院に直行し、到着と同時に患者さんは適切な治療が受けられるのです。たらい回しや時間の無駄が起こらないシステムです。

 

Ilm22_ba01055-sこの e-MATCHの設立は次の課題に対応する必要があったためです。

課題1.橿原市における妊婦搬送中流産や、生駒市における心肺停止患者の県外搬送等救急搬送時の搬送困難事例が頻繁に発生し、県民の信頼が揺らぎ、地域の救急医療に大きな問題を抱えている。

課題2.適切な搬送先を決める情報が不足し、関係各機関が個別に行う改善では対応しきれない部分がある


これに対する e-MATCH の目的・目標は次のとおりです。

「時間的要因で定量化できるマッチング不全*1」と「医療の質の観点から見たマッチング不全*2」の2つの課題を解決し、県民が安心安全に生活できる環境を整備する

*1 各医療機関の受け入れ状況等が把握できず、搬送先を決定するまでに時間を要し現場滞在時間が長くなっていることなどを指す

*2 患者の病態に対応可能な専門医等を擁する医療機関以外に搬送される場合などを指す

199696376 この事業は鳥の視点(Bird’s View)で救急医療を俯瞰し、
救急医療管制支援システムで「地域医療の現状」を把握し、PDSAによる救急医療の改善を図る とされています。

PDSAは plan-do-study-act の略称です。

 

この e-MATCHに対179336369して 現場の救急隊員からは、

「病院交渉に関し、救急隊端末でリアルタイムに医療情報を確認できることで、傷病者や家族への交渉経緯の説明が行え、また、医療機関によるこれまで以上の正確な応需情報の登録を行うことにより交渉回数の減少につながる」

「医療機関の情報がタイムリーに、そして正確に反映され、救急隊の観察能力向上と受入側病院の対応がe-MATCHというシステムを通じて同じ方向性を向いたとき傷病者のために活用されると考える。」

という声が寄せられています。 168769790

また医師からは次のような意見が得られています。

「本システムの導入後は、搬送基準に基づく、患者の状況等がリアルタイムに救急隊と共有され、医療機関向けの端末では、患者の基本伝達情報、搬送中の経過が把握可能となり、状況に応じた準備を実施した上で受け入れを効率よく実施することができるようになりました。これにより適正な照会割合の増加、医療機関における対応時の応需割合の増加、照会回数削減を示す成果が得られています」

かつて救急体制が弱かった時代の試練を乗り越えて造られたe-MATCHを積極的に応援いたします。かんさいハートセンターはまだ若い施設ですが、こうして奈良県の地域医療にお役に立てればこれほどうれしいことはありません。

よろしくお願い申し上げます。


平成27年1月1日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

大動脈解離とマルファン症候群について―― 備えあれば憂いなし

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20年以上前、石原裕次郎さんという国民的大スターが急性大動脈解離になった当時の死亡率は20~30%はありましたので、無事元気に生還したということで話題になりました。

その後、加藤茶さん。作家の方もおられました。やはり、頻度が増えているのですね。

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左がA型解離、右がB型解離.

いろいろな 思い出があります。

マルファン症候群の患者さんで、下行大動脈の手術を別の病院で受けられて、ちょっとしたご縁で私の外来に来られて、術後の状態で安定して いるから、でも今後の備えのためにフォローアップしましょうかとしていた方です。

検査などでは何も問題がなかったのですが、急性大動脈解離(A型、上図の左側です)に突然なられて。

ただ、いつかそうなるかもしれないよという事で、その時はこうしてこうやってと打ち合わせを日ごろ患者さんとしていましたので、

患者さんが「先生、解離になりました」と電話をくださいました。

「じゃ、予定通りどこそこの病院に行って。私も今から行くから」と.

すぐ緊急手術し救命できました。

当時、私は大学病院にいて、そこでは緊急手術がなかなか思うようにでき なかったので前もってそれができる病院を相談していたのです。

そのくらいの心の準備ができていると、わりとスムーズにオペでき、

元気になって退院されました。

 

B型解離(上図の右側です)は、一般には薬、特に血圧のコントロールと、手足への流れ方、内臓をしっかり守っていけば、むしろ手術しないほうがいいというデータが出ていました。その後TEVARと呼ばれるステントグラフトで内張をつける方法が発展しつつあります。

そういう経過から解離の範囲によっては、ま ずA型解離をB型解離にまで治すというか変換する術式が良いわけです。

そうすることで熟練したチームなら比較的短時間で終わりますし、オペ自体は成功率が高く、ほとんどの場合うまくいけるというところまで来ています。

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しかし、一部にいろんな条件が重なって、術前から、解離して脳梗塞を起こしているというという場合などは、 まだ課題があります。

B型大動脈解離でも、時間とともに解離した大動脈が大きくなったり破れる恐れがでてくれば手術します。

下降大動脈や胸腹部大動脈が直径60mmを超えれば手術適応です。

でないと破裂して命にかかわるからです。

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マルファン症候群の患者さんの場合は組織の弱さを考えて、一歩早目にやります。

ヨーロッパのガイドラインなどでは胸部大動脈・バルサルバ洞とも直径50mmになったり年5%以上の急激な拡張があれば、

破裂や解離の心配が 高まるため外科手術を推奨しています。その後さらなる経験の蓄積で直径45mmで手術する方向にあります。

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●質問:大動脈解離を起こして、しばらく座っていたり、動かなかったら治まりますか?

お答え:昨日の晩は痛かったけれ ど、今朝からはもう痛くない。

だから家で様子をみているという方がたまにおられます。

それは盲点で、ずっと痛いという方もおられるのですが、確かに解離が進んでいる最中は激痛が走ります。

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いったんそれがとりあえず落ち着いて、解離した所はそのままであっても新しいものは起こっていないという状況で、ちょっと痛みがとれる時があります。

それは良くなったというわけではないので、何かする必要があります。

特に上行大動脈に解離があれば、

まもなく破れたり、心臓が止まる可能性が非常に高いので、「これで家でゆっくり様子をみよう」というのは危険なのです。

手術によってのみ救命できます。

一回強い痛みがあったら病院に行って頂くのは非常に大事です。

.cst027-s

家庭の医学書などでは、『強い胸の痛みや、背中の痛みがあったら、病院へ』と書いてあってそれは全くその通りなのですが、

いったん痛みが和らいで楽になったら、その時どうしたらよいかというところまでは、あまり書かれていないと思いますので、そこは注意してください。

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解離が起 こっている間が激痛ですけど、いったん広がりが一時的にでも止まったら、痛みが消える場合がある。これは盲点です。

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B型大動脈解離であれば、治まって安定させていけばいいということはよくあるのですが、

それでも、やはり血圧が高いと更に進んでいったり破けたりということがB型解離といえどもあるのです。

まずは心当たりの病院に連絡してもらって、

病院では血圧を徹底的に下げて(例えば80とか90くらいのレベルで)、

もちろん命が充分安全な範囲で思いっき り下げて、まずは大動脈を早く安定させます。

ですから、解離が起きてしばらくして治まったからそれでいいということではないのです。

十分注意してくださ い。

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●質問:大動脈解離の場合、腹部、心臓基部で痛む場所は違いますか?

お答え:腹部ならお腹か背中。

下行大動脈なら背中が多いです。

上行大動脈の場合は胸です。

みな普通の痛みではないです。

患者さんの話をお聞きすると、人生で経験したことのない強烈な痛みと言われます。

 

解離とは違いますが、腹部大動脈瘤破裂で来られた場合、背中側で破裂した場合、背骨があるのでそこで止まるんです。

外来に来られて、今日は腰が痛くて痛くてと。触ってみると腹部大動脈瘤がある。

検査しようかと思うと、道端に車を置いていて気になるのでちょっとそれを動かしますとなって、車を動かしてから検査したら破れていました。

手術で元気になりましたけど危なかった。そういうこともありました。

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何もしていないのに急に下肢が痛むときはご用心を解離の症状でもう1点。解離すると大動脈からいっぱい枝が出ていて、そこがぎゅっと抑えられて、

そこの大動脈の枝の血管に、血液が流れなくなるための症状 (虚血)いわゆる酸欠になることがあります。

例えば、大動脈が解離して左足に行く血管が抑えられたら、左足が痛いという格好で出てくることがあります。

左足が痛い、右足が痛い、左手が痛いとか。

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心臓に行く冠動脈がぎゅっと抑えられて、心筋梗塞とそっくりな状況で胸が痛いと来られて、パッ診て「この人心筋梗塞だ!」と一所懸命カテーテルで治そうとして、でもおかしいなと。

全然よくならないなと、もう一回CTを見たら「あ!これは大動脈解離だ」と。

そういうエピソー ドが全国的にけっこうあるんですね。

そこで、医者によく言っていることなのですが、

大動脈解離の症状は、大動脈が剥がれる時の痛みや、大動脈の枝(どの枝であっ ても)が閉塞する時の症状があるということです。

みなさんの観点から言えば、日ごろないような痛み、特に胸、背中が多いですけど、

そういうものがあれば、これはおかしいと思ってすぐ病院に行っていただくのがいいですね。

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●質問:ギックリ腰と、どう区別するのでしょうか?

お答え:腰の向きや姿勢とかで痛みが変化する場合は腰の可能性が大です。

どの向きでも痛むとなったら血管でしょう。

しかしひどい痛みがあったらとにかく病院へ行って調べてもらってください。

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●質問:大動脈解離かもしれない人に心臓マッサージやAEDはしてもいいのでしょうか?

お答え:心臓が止まってしまったら、やはりやらざるを得ません。

しかし原因、たとえばタンポナーデ(大動脈が破れて血液が心臓の周りに貯まり、心臓を圧迫します)が取れない限りマッサージもAEDも効きづらいでしょう。

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●質問:どうせ解離するのだから病院へは行かないというのは、どう思われますか?


お答え:それは逆です。やっぱりわかったら向き合うことは大切です。

目を反らすのは大マイナスです。

すぐ治療すれば解離は治せる病気だからです。

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●質問:頚動脈に解離が残っている場合、何もしなくてよいのですか?


お答え:症状もなくてそれほどの場合でもなくて残る場合はあります。

実害がなかったら定期検診していくのがよいです。

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手術について

●質問:解離して、弓部大動脈の手前まで手術しています。腹部大動脈はどのくらい大変な手術なのでしょうか?難しい手術ですか?

お答え:大動脈基部や弓部周辺の変化や手術後の方の場合でも、お腹は必ず調べます。

中にはだんだんお腹の大動脈も膨らんで来る場合もあります。

それはちゃんと定期検診している場合ですので、それは割と安全なのです。

もちろん小さい場合は手術しなくていいです。

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腹部大動脈を替えるのは、胸部よりもはるかに簡単です。

図1上行大動脈は、ただ遮断したら死にます。

頭に行く血管もありますし、内臓に行く血管もありますから。

腹部は、足に行く血管だけなので。足は10分20分遮断しても問題はありません。

腹部大動脈瘤の手術死亡率は1%よりもだいぶ下です。

下半身麻痺のリスク もほとんどありません。

ただし胸腹部の解離で脊髄への血流が腹部大動脈の枝から送られている場合は腹部大動脈の手術で麻痺がおこることがあり注意が必要で す。

リスクは前もってある程度以上予測ができます。

弓部は、頭や内臓心臓手などが関与するため、1%よりは手術死亡率のリスクは高いです。

年齢や状態などにもよりますが、経験豊かなチームなら5%以内というところでしょう。

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●質問:一番大変な手術は何ですか?基部、次に弓部ということになるのでしょうか?

お答え:基部弓部を両方いっぺんに替える場合は、それだけ大きな手術になりますので、それだけリスクも若干上がります。

若い人であれば体力的な面では大丈夫です が、年齢の高い方は体力に問題が出てきます。

このあたりは、手術チームの慣れも重要ですね。

基部、弓部ともやや大きな手術となるため丁寧に行います。

一発 で出血がきちんと止まれば、比較的短時間で手術終了できます。

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●質問:人工血管置換後に現れる症状にはどのような症状がありますか?血圧上昇やめまい等は必ず現れるのでしょうか?


お答え:胸部大動脈でも腹部大動脈でも人工血管に置換したあと、とくに症状はありません。ただし脊髄への動脈が影響を受けた場合は下半身が動かなくなることがあります。こうしたことが起こらないよう、脊髄動脈には十分注意します。

血圧上昇やめまいは人工血管のせいではありません。

血圧上昇はもっと端々の 細い動脈の収縮や心臓が多量の血液を送るために起こります。

めまいは脳神経や頸動脈、三半器官、心臓その他の異常によって起こります。

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●質問:ある病院ではまだ手術適応ではなく、別の病院では同じ径の太さで手術を勧められるということを聞きます。患者はどうしたらいいのでしょうか。

お答え:手術するにも多少の幅があります。

絶対やらなければいけないというまでの間に破れる率もあります。

そこまでを考え、確実に治せる、かなりの確率で治せるとい うのならケースバイケースです。

ガイドラインはあって、何ミリになったらやりましょうということはあります。

例えば、腹部大動脈瘤は普通5センチで手術し ますが、5センチまでで絶対破れないかというと結構破れるんです。

4.5センチくらいで破れたというケースを知っていますし報告もあります。

とはいえ比較的少ないので、5センチで手術というのが標準ですが、形が破れそうだとか、マルファンでは5センチより小さくても手術します。

(セカンドオピニオンでは) 「どこどこで、○センチで手術するといわれた」と言っていただいてよいと思います。

下行大動脈瘤で、これはいくら何でもまだ手術はいらないでしょ うと定期検診をしていたら、他の病院でステントグラフトをやることになりましたと患者さんが言います。

ステントグラフトだから簡単だから早くするというこ とになったのかなあとは思いますが、

まだやらなくて良いうちに手術したのではとも思いました。

やはり疑問があれば相談をされるのがよいと思います。

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●質問:緊急手術と、計画(待機)手術の違いはどういうところでしょうか?

お答え:弁置換でも大動脈弁だけ取り替える手術では、

慣れていない人で、心臓を止めている時間で70分から90分ほどかかりますが、

慣れている人ではその半分くらい でいけます。

弁を一つ替えるのに心臓を止める時間が80分でも40分でも、

結果は何も変わらないんです。

患者さんは元気になります。

ところが、もうちょっ と大きな手術になって、

慣れている人でも3時間心臓を止める手術になれば、

慣れていない人では6時間か、6時間では済まない場合もあります。

そうすると、 これは生きるか死ぬかの差が出ます。

大きい手術の場合は、その差が顕著になります。

あるいは、再手術とか。あるいは何か難しいことがあるような場合。

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それ があるので、施設集約ということが大事なのです。

あまり手術をやっていない病院を山ほど作るよりは、しっかりやっているところを少数に。

特に大きな手術ではものすごくそれがあります。

アクセスから言うと、患者さんは、私の町の心臓血管外科があるほうが便利なのですが、

それは非常に熟練度が必要で、スポーツ と一緒なんです。

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野球のピッチャーが中1週間で登板するのが多いですが、

それが中2カ月くらいで登板したらどうなるかと言ったら、

それは試合にならない、 そう言ったところがあるのです。

チーム全体として1年通して慣れている、熟練していることが大事なのです。

大きい手術になればなるほどリスクは上がって行 きますから。

医者は自分が手術する場合、病院を選びます。

近くにあるから便利という選び方は、私もしません。

大きな手術であればあるほど選ぶことが大事で すね。

ただ、緊急の場合は選んでいる暇はありません。

緊急手術は胸が痛い、苦しい、何とかしてほしい…。

CTを撮ってああこれは解離だ!今から手術だ!そうした場合です。

いろんな準備ができなくて省略があります。

また、緊急手術ですと体の状態がすでに悪いことがあって、手術前から腎不全などがあ り、このままでは死んでしまうので手術しようと。

それで緊急手術は待機手術より成績が悪いのです。

破けてからでも救命したことはありますが、

やはり破けてからでは、病院に来る前に血圧がよくても40、50くらいとかで、

非常に危ない姿になってからになります。、

破けるまでに余裕をもった計画的な手術であれば、翌日くらいには歩いたりできるようになります。
それで日ごろからの工夫ですね。

マルファン症候群の方で、「今は症状がないけれども、将来いつの日か緊急手術を受けないといけないような気がするので、

一回 顔つなぎに来ました。」という方が時々おられます。

それは非常に賢明な事です。

そうしておくと、どんな方か、どういう状況かわかっていますので、

仮に1年後に急に倒れて意識のない状況で来られても、

この人はこういう病気をもった人だということがわかり、安全性が高くなります。

家族の中でも、あるいは、かかりつけの中でも、日ごろからちょっと備えをしておくと、いざというときに強いですね。

 

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日本マルファン協会での講演と質疑応答 2010年8月 にもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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2) 大動脈解離とは?―壁が裂ける!

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◾️大動脈解離とはどういう病気ですか?

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大動脈解離とは大動脈の壁が内外に裂ける病気で、大変強い痛みが背中や胸に走ります。

大動脈解離は大動脈瘤とは違う形をしています。患者さんはそのままではまもなく死亡されるため、急いで緊急対応できる病院に行く必要があります。時間勝負ですみもいろいろですが、この大動脈解離の場合はナイフで刺されるようだとか、生まれて初めての強烈な痛みだという、最高レベルの痛みです。と患者さんたちが語っておられます。

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ただし解離の進展が一時とまると、痛みも治まることがあります。しかし解離が治ったわけではないため、要注意です。

この大動脈解離は昔、石原裕次郎さん、その後、加藤茶 さんが手術を受け元気になられたことで有名になった病気です。

2010年2月には立松和平さんがこの病気で亡くなられました。油断できません。

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病気の場所によって大きく2種類あります。

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◾️スタンフォードA型

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スタンフォードA型(左図の左側、心臓に近大動脈解離(A型)のCT写真です。大動脈の壁が裂け(矢印)、内側が2つにわかれているのが見えます。い部位が解離します)の大動脈解離では緊急手術が必要です。

手術しないと発症2日間で約半数の患者さんが、発症1週間でほとんどの方が亡くなる重い病気です。

手術が間に合えば、熟練心臓血管外科チームならほとんどの患者さんを助けることができますので迅速で的確な対応が大切です。

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写真右のCT写真(体を輪切りにした写真が撮れます)は上行大動脈の壁(矢印)が裂けて大動脈が2つに割れているのを示しています。

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◾️スタンフォードB型

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大動脈解離(B型)のCT写真(3次元再生)です。下行大動脈が2つに割れているのが見えます。スタンフォードB型(上図の右側)の大動脈解離では通常は手術ではな く点滴やお薬などで血圧等を調整しながら治します。集中治療室が必要なことが多いです。大動脈が破裂しそうなときなどには手術が必要となります。

そこで落ち着いている方でも年1-2回は定期健診し、安全を確保するようにしています。

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近年のデータで、お薬などの治療だけでは5年10年の長期の生存率が低いことがわかり、ステントグラフトTEVARなど)を活用して積極的に治療を進める方向にあります。

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左の写真はCT写真をコンピュータで3次元再現したものです。

大動脈壁(内膜と呼びます、矢印)が裂けてはがれて下行大動脈が2つに割れているのがわかります。

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3) 真性胸部大動脈瘤にはどういうものが?へ進む

3.大動脈疾患扉ページへもどる

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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5) 大動脈解離の手術はどのようにするのですか―いのちを救う緊急手術【2025年最新版】

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典型的な大動脈解離の手術後の姿です。近位弓部大動脈置換術(ヘミーアーチ置換)とよびます

最終更新日 2025年1月5日

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■急性大動脈解離の標準手術

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大動脈解離 のなかで上行大動脈がやられるA型解離の場合、殆どは緊急手術となり、上行大動脈 ないし弓部大動脈を人工血管で置換します。

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左図は急性大動脈解離によく使う標準的方法で近位弓部大動脈置換手術(ヘミアーチ置換)といいます。

つまり弓部大動脈のうち心臓に近い部分までを置き換えるわけです。

この方法は比較的コンパクトな手術にまとめられるという利点がある反面、それより末梢側に解離腔を残すという弱点があり、その後のフォローが重要となります。

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■急性大動脈解離への弓部大動脈全置換術

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図 トータルアーチしかし大動脈解離が弓部におよび、そこにエントリーつまり解離開始部があれば、弓部大動脈全置換術を行うこともあります。

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上記のヘミアーチ置換より少し大きな手術法となります。それは脳を含めた上半身へ行く3本の大きな枝を脳を守りつつ再建する必要があるからです。

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そのかわり、この弓部全置換術によって上行大動脈から弓部大動脈そしてその枝の一部まで解離を完全に治すことができるというメリットがあります。

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脳と心臓をうまく守りつつ手術操作を進めて行くのは真性大動脈瘤の場合と同じです。昔と違い、選択的脳灌流という脳にきちんと血液を流しながら大動脈を再建する方法が進化したため、弓部大動脈全置換術といえども安全かつ安心にできるようになりました。

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Ilm17_bc03012-s患者さんの年齢や体力、手術前の状態・状況を考え、もっとも適した手術法を使うようにしています。

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たとえば80歳以上の高齢者の患者さんや、全身の血管が動脈硬化で悪い方たとえば閉塞性動脈硬化症ASOがある方や、術前に内蔵がかなりやられていると考えられる患者さんではリスクをできるだけ下げるよう、近位弓部大動脈置換(ヘミアーチ置換)にとどめることもよくあります。

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患者さんが生きる可能性を最大限に引き上げることを考えているわけです。

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大動脈解離の場合は組織が脆弱なため、より丁寧な手術操作を行います(手術事例 2

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必要に応じて弱った大動脈壁を強化する糊を使うこともありますが、この糊も完璧なものではないため、必要最小限の使用にとどめています。

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■急性大動脈解離での大動脈基部につきまして

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大動脈の基部(根元 図 ルート解剖の部分つまり大動脈弁に近い場所)が解離するとしばしば大動脈弁閉鎖不全症が起こります。弁が支えを失うからです。(手術事例: 急性大動脈解離で緊急手術

これもあって緊急手術が必要になります。

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解離によっておこる弁閉鎖不全は一般に大動脈弁形成手術ができる場合が多く、こ れによって患者さんへの体力的負担も少なくなります。(心臓手術事例:急性大動脈解離と大動脈弁閉鎖不全症

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David & Bentall大動脈基部が解離で破壊されている場合は大動脈基部再建(ベンタール手術デービッドDavid手術など)を行います。

年齢や体力や全身状態を考えて、なるべくコンパクトな手術にまとめるようにしています。

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前任地・京大病院では米田着任以来、大動脈解離の患者さんを20名以上のほぼ全員救命できており一層の治療法の改善につとめています。

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術前に救急外来にて心臓が停止した一例は残念ながら救命できませんでしたが、あと半時間 早く手術室へ搬送できれば多分救命できたであろうという反省からより態勢を磨く努力をしています。

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名古屋ハートセンターでも超高齢患者さんで手術直後大動脈基部が再解離した方を例外として全員救命できており、大動脈解離は普通は治せる、というところまで持ち込めました。

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■急性大動脈解離、最近の進歩は

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私たちの大動脈解離に対する基本術式は弓部全置換術です。安全で短時間で終わる手術のあと、あるいはその最中にステントグラフト(TEVAR)で仕上げます
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ステントグラフトが入ったあとの姿です。解離腔は消失し大動脈は治りました

野崎徳洲会病院では長期成績のいっそうの向上をめざして新しい手術を積極的に行いました。

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多くの病院でもちいられている方法では解離腔(偽腔)を残して将来の心配を残すのではなく、この解離腔をきちんと解決する方法を標準術式としています。

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必要に応じてステントグラフト(TEVAR)を併用し、より確実に、より短時間で、そしてより高い長期生存率を目指しています。

さらに、手術中にこのステントグラフトを入れるフローズンエレファントトランク  frozen elephant trunkという方法を用いるようになって手術はより確実になりました。

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医学が進歩した現在でも急性大動脈解離の手術に10時間も20時間もかかる施設が少なくありません。そうした場合は輸血量も膨大で生存率も低いことが多いのです。私たちは上記のように解離腔を解決し、なおかつ平均4時間あまりで手術そのものを完了できる熟練チームです。

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■B型大動脈解離の場合は

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 下行大動脈がやられるB型大動脈解離の場合は内科による点滴、お薬その他の穏やかな治Aortic Dissect療が勧められますが、次第に拡張して瘤になると破れるまでに外科手術が必要となります。

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破れる前ならその成功率は高いですが、いったん破れてしまうと全身の状態が急速に悪化するため、手術までに死亡したり、それを乗り切る体力がなくなってしまうという困ったことになります。

そのため丁寧なフォロー(定期健診)が大切になります。

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B型大動脈解離についても、これまでの医学常識では患者さんを長期間は守りづらいため、前任地病院ではTEVARと呼ばれるステントグラフトを積極的に活用し、解離の治癒を目指しました。

どの患者さんにでもTEVARを行うというのではなく、今後大動脈が破裂したり瘤になることを予測できる場合に、先手を打つ形で行うようにしています。具体的にはエントリー(解離の入り口、大動脈内膜の裂け目のことです)が大きくリエントリー(解離の出口)が小さいときなど、解離腔に無理がかかっているときに行っています。

これらの方法は現在の勤務地である一宮西病院ではさらに進化しています。

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将来の破裂や瘤化が未然にかつ安全に防げれば長期の成績もいちだんと良くなるでしょう。時代は着実に進歩しているのです。

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■慢性大動脈解離では

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大動脈解離のあと、月日が経って、慢性大動脈解離の状態になってから解離部が膨らんで瘤になることがあります。

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この場合もその大動脈部分が破れたり弁が壊れたりすると手術治療が必要となります。

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弓部大動脈に対してはその瘤の大きさ・範囲に応じて、たとえばA型慢性解離には弓部大動脈全置換術や大動脈基部再建術を行います。

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その中で、基部再建術では、大動脈弁が壊れていなければ、自己弁温存式大動脈基部再建手術、いわゆるデービッド手術を行います。(手術事例

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B型慢性大動脈解離に対しては下行大動脈置換術や胸腹部大動脈置換術などを行うことがあります。

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こうした治療が手遅れになると、せっかく急性期を乗り越えても、慢性期の合併症とくに瘤の破裂で命を失うことがあります。

そこで大動脈解離の患者さんにおかれましては、元気になったあとも、定期健診を欠かさないようにお願いします。状況によりますが、安定していれば、年一度や2年に一度などの健診で安全が確保しやすくなります。

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◆メモ1: 急性大動脈解離のA型は数ある心臓血管の病気の中でも一番急ぐ病気のひとつですが、ある意味、一番頑張りがいのある病気でもあります。

オペに間に合えば、特殊なケース以外はほぼ元気になれます。

キーは早期診断です。

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A307_004その一方、病院に来られ、診断に必要なCTなどの検査中に心臓が止まり、救えなかったという無念の経験が何度もあります。

つまりもうあと1時間早く来院して下されば結果は違ったかも知れないというケースです。

 .

そこで患者さんにもご家族にも、開業医の先生方にも、強い胸痛背部痛があれば、遠慮なく心臓血管外科へご連絡されることを望みます。

中でも胸痛に加えて手足の血圧や脈の強さが違えば一層解離の疑いが強くなります。

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それと強い痛みがいったん治まったため朝まで待ったというケースがあります。これは大変危険なことです。大動脈解離は進行中のときだけ痛むことがあり、痛みがなおったからといって解離も治ったわけではないのです。

聞くは恥ではありません。どんどん聞きましょう。

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◆メモ2: 急性大動脈解離(A型、B型)の治療ガイドラインはこちらです

◆メモ3: 慢性大動脈解離(A型、B型)の治療ガイドラインはこちらです

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CTは大動脈解離の診断に絶大な威力を発揮します

◆患者さんの想い出: Aさんは50代女性で、来院までは普通の健康生活を送っておられました。ところがその日の午後、急に背中に激痛が走り、私の病院へ来られました。

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急いでCTの検査をしたところ、上行大動脈の壁が裂ける、いわゆる急性の大動脈解離の診断になりました。緊急手術が必要なスタンフォードA型解離です。

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緊急手術を行いました。胸を開けると上行大動脈は壁が裂け血液がその裂け目に入って全体として紫色で膨れ上がっていました。まもなく全破裂する所見でした。体外循環のもと、上行大動脈を人工血管で取り換えました。

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術後経過は良好で翌日には話ができるようになり翌々日には一般病棟へ戻られました。まもなく元気に退院され、時々外来へ定期健診に来られます。

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大動脈解離のうちA型は緊急手術をしないとほとんどの方が亡くなる怖い病気ですが、慣れたチームで手術すれば95%以上は元気になれるのです。ただ病院に間に合わないと、助かるものも助かりません。

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Aさんは素早く病院にお越し下さり、本当に良かったと思います。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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