虚血性僧帽弁閉鎖不全症とは 【2025年最新版】

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最終更新日 2025年9月23日

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◆はじめに ― この記事を読んでほしい方

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  • 心筋梗塞を経験された方

  • 息切れや動悸が続く方

  • 心臓の弁膜症と診断されたが詳しく知りたい方

  • 僧帽弁逆流・虚血性心筋症といわれ不安を感じている方

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症(Ischemic Mitral Regurgitation:IMR)は、心筋梗塞後に僧帽弁がきちんと閉じなくなり、血液が逆流する病気です。
放置すると心不全が進行し、突然の呼吸困難や脳梗塞、生命に関わるリスクが高まる危険な病気です。
しかし現在は薬・カテーテル治療・外科手術の進歩によって、多くの患者さんが改善できるようになっています。

この記事では、虚血性僧帽弁閉鎖不全症の原因・症状・診断・治療法の選択肢について、患者さんやご家族にも分かりやすく解説します。

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◆虚血性僧帽弁閉鎖不全症とは

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症(Ischemic Mitral Regurgitation:IMR)とは、心筋梗塞や虚血性心筋症の後に生じる僧帽弁の逆流症です。
一見すると「弁膜症」に分類されますが、実際の原因は弁そのものではなく左心室の障害にあります。

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心筋梗塞や虚血で左室が拡張・変形すると、僧帽弁を支える腱索が横方向に引っ張られ(=テザリング)、弁がきちんと閉じなくなり逆流が生じます。
このテザリングの解明と治療法は、1990年代に私がスタンフォード大学で研究を重ねてきたテーマでもあります。

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👉 関連ページ: 機能性僧帽弁閉鎖不全症とは

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◆症状

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初期は運動時の息切れ・動悸が中心ですが、進行すると**安静時や就寝時の呼吸困難(起坐呼吸)**が出現します。
胸痛を伴う場合は虚血が進んでいる可能性があり注意が必要です。

危険な兆候としては:

  • 夜間の強い息苦しさ

  • 下肢のむくみ

  • 突然の胸痛や動悸

これらがあれば早めの受診が推奨されます。

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◆治療法

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内科的治療

  • 薬物療法(利尿薬、β遮断薬、ACE阻害薬など)

  • 心臓リハビリ

  • **ASV(加圧式マスク)**による補助

  • **MitraClip(Mクリップ)**などのカテーテル治療(軽中等度例に限られる)

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外科的治療

薬やカテーテルで十分な改善が得られない場合、外科手術が選択肢となります。
虚血性僧帽弁閉鎖不全症はかつて「難病」とされていましたが、現在では**僧帽弁形成術や乳頭筋最適化術(PHO)**などの進歩により、多くの症例で良好な成績が得られるようになっています。

👉 詳細はこちら: 虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術

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◆なぜ症状が変動するのか? ― ロプノール湖の比喩

.IMRとロプノール湖

かつてこの病気は「消えたり現れたりする不思議な病気」と思われていました。
入院中は塩分制限・安静・点滴で一時的に改善し、退院すると再び逆流が悪化する…その原因を説明するのがテザリング現象です。

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左室が少し拡張するだけで、腱索が引っ張られ弁逆流が一気に増えるのです。(右下図、状態悪化すれば左図から右図へと変化)
このため手術(PHO)では前尖・後尖の両方を調整し、テザリングを解消することが重要になります。

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この詳細はPHO(乳頭筋最適化術)のページをごらんください。また開発の歴史もご参照ください。

テザリングと弁逆流.

 

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◆検査の進歩と注意点

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従来は心臓カテーテル検査が中心でしたが、現在では心エコーが診断の主役です。
理由は:

  • 心エコーは血流・弁の動き・ジオメトリーを詳細に評価できる

  • 外来や症状が強い時に繰り返し検査が可能

  • カテーテル検査は入院・安静下で行われ、実際より逆流が軽く出ることがある

現代では、心エコーを主体にカテーテルを補助的に利用するのが標準的です。

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◆ハートチームでの治療

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虚血性僧帽弁閉鎖不全症は、心臓外科・循環器内科・麻酔科・リハビリ科が連携するハートチームでの治療が不可欠です。
患者さんごとに最適な治療法を選び、内科治療・カテーテル治療・外科手術を組み合わせることで、より良い予後が期待できます。

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◆まとめ

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  • 虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心筋梗塞後に起こる僧帽弁逆流

  • 本質は弁の病気ではなく左室のリモデリングとテザリング現象

  • 初期は薬・リハビリ、進行例ではMitraClipや外科手術が有効

  • 最新の僧帽弁形成術・PHOで治療成績は大きく改善

  • エキスパートチームによる個別化治療が重要

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👉 関連記事:

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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循環器救急での e-MATCH の一員として貢献します

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奈良の地域医療をまもる仕組みのひとつ 奈良県として、奈良県救急医療管制支援システム事業(略称 e-MATCH)があります。

高の原中央病院かんさいハートセンターはこれに参加し心筋梗塞、狭心症、大動脈解離など循環器疾患の救急医療の一翼を担っています。

奈良市では市立奈良病院さん、奈良県総合医療センター(旧、県立奈良病院)さんらとともに、地域医療に参加する3病院の一つになっています。

奈良市消防かんさいハートセンターは心臓血管外科部門がスタートしてから1年あまり、循環器内科部門が発進してから半年あまりのまだ若い施設ですが、他施設を応援・協力し地域医療にできる限りの貢献をしたく思います。

 

具体的には、たとえば心筋梗塞の患者さんが発生し救急車がかけつけた時、 iPad等を見れば対応できる病院が救急隊員には一目でわかるのです。そして救急車はその病院に直行し、到着と同時に患者さんは適切な治療が受けられるのです。たらい回しや時間の無駄が起こらないシステムです。

 

Ilm22_ba01055-sこの e-MATCHの設立は次の課題に対応する必要があったためです。

課題1.橿原市における妊婦搬送中流産や、生駒市における心肺停止患者の県外搬送等救急搬送時の搬送困難事例が頻繁に発生し、県民の信頼が揺らぎ、地域の救急医療に大きな問題を抱えている。

課題2.適切な搬送先を決める情報が不足し、関係各機関が個別に行う改善では対応しきれない部分がある


これに対する e-MATCH の目的・目標は次のとおりです。

「時間的要因で定量化できるマッチング不全*1」と「医療の質の観点から見たマッチング不全*2」の2つの課題を解決し、県民が安心安全に生活できる環境を整備する

*1 各医療機関の受け入れ状況等が把握できず、搬送先を決定するまでに時間を要し現場滞在時間が長くなっていることなどを指す

*2 患者の病態に対応可能な専門医等を擁する医療機関以外に搬送される場合などを指す

199696376 この事業は鳥の視点(Bird’s View)で救急医療を俯瞰し、
救急医療管制支援システムで「地域医療の現状」を把握し、PDSAによる救急医療の改善を図る とされています。

PDSAは plan-do-study-act の略称です。

 

この e-MATCHに対179336369して 現場の救急隊員からは、

「病院交渉に関し、救急隊端末でリアルタイムに医療情報を確認できることで、傷病者や家族への交渉経緯の説明が行え、また、医療機関によるこれまで以上の正確な応需情報の登録を行うことにより交渉回数の減少につながる」

「医療機関の情報がタイムリーに、そして正確に反映され、救急隊の観察能力向上と受入側病院の対応がe-MATCHというシステムを通じて同じ方向性を向いたとき傷病者のために活用されると考える。」

という声が寄せられています。 168769790

また医師からは次のような意見が得られています。

「本システムの導入後は、搬送基準に基づく、患者の状況等がリアルタイムに救急隊と共有され、医療機関向けの端末では、患者の基本伝達情報、搬送中の経過が把握可能となり、状況に応じた準備を実施した上で受け入れを効率よく実施することができるようになりました。これにより適正な照会割合の増加、医療機関における対応時の応需割合の増加、照会回数削減を示す成果が得られています」

かつて救急体制が弱かった時代の試練を乗り越えて造られたe-MATCHを積極的に応援いたします。かんさいハートセンターはまだ若い施設ですが、こうして奈良県の地域医療にお役に立てればこれほどうれしいことはありません。

よろしくお願い申し上げます。


平成27年1月1日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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