事例: PCI後、急性心筋梗塞後の冠動脈バイパス手術

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冠動脈バイパス手術(CABG)の良さがあらためて認識されつつあります。

このことは昨年改訂された日本循環器学会のガイドラインが物語るところです。

3枝病変や左主幹部病変で複雑な病変があるケースはCABGが第一選択と明記されたのです。

さらに若い先生方を中心に、ガイドラインを順守する向きが増えたことも一因です。

ただしそれまでも患者さんの状況や状態によってはカテーテル治療(PCI)ができる場合でも前向きにCABGを選択されることはよくありました。

患者さんは46歳男性です。

冠動脈3枝病変があり、カテーテル治療PCI後で、最近急性心筋梗塞AMIで来院されました。

来院前は近くの診療所で心室細動VFになり、AEDで蘇生ののち救急車で当院へ搬送されるという、ぎりぎりの状態でした。

来院当夜は緊急カテーテルで右冠動脈1番にステントを入れて救命できました。しかしそれ以外の冠動脈にも問題がありました。

もともとびまん性病変つまり冠動脈のあちこちが悪くなっている、しかも若い患者さんのため、長期的な安全を考えて、PCIではなくバイパス手術を行うことにいたしました。

 

胸骨正中切開ののち両側内胸動脈と左大伏在静脈SVGを採取しました。

図1心膜を切開し、まず右内胸動脈RITAを左前下降枝LADにオンレイパッチ吻合しました。

この患者さんのLADは数か所の狭窄がありましたので、

末梢側の狭窄を切開しこれを拡大する形でバイパスをつけ、広域を灌流するよう努めました(写真左)。

切開した狭窄症は内膜が肥厚・石灰化し針を通すのに工夫を要しました。

ドップラーにて良好なフローパタンを確認しました。

図2ついで心臓を脱転し、左内胸動脈LITAをまず中間枝IMに側側吻合しました(写真右)。

IMはLAO viewで比較的良い血管に見えたためバイパスをつけることにしましたが、

血管を開けてみますとやや細く、ドップラーでのフローも少ないパタンでした。

図3このLITAをさらに末梢の鈍縁枝OMに端側吻合しました(写真左)。

この吻合もプラークを切開し灌流域を広げるようにしました。

ドップラーで良好なフローパタンを確認しました。

回旋枝末梢枝は細く、かつ病変で策状になっていたためバイパスはつけませんでした。

 

ここでSVGを 図4上行大動脈にデバイスを用いて吻合し、心臓を頭側へ脱転し、このSVGを4PD枝に吻合し、操作を完了しました(写真右)。

良好なフローパタンを確認しました。

 

手術中、血圧・血行動態は安定していました。

経食エコーにて良好な心機能を確認しました。入念な止血ののち、無輸血にて手術を終えました。

術後経過は順調で、出血も少なく、血行動態も良好なため、術当日夕方、人工呼吸から離脱し、翌朝、一般病棟へ戻られました。

00021915_20090113_CT_501_5_5 00021915_20090113_CT_501_4_4術後のMDCTでバイパスはすべて開存し、良く流れている様子でした。

左図は両側内胸動脈グラフトが開存し、

右図は静脈グラフトが開存している状態を示します。

 

その後も経過良好のため術後10日目に元気に退院されました。

来院前はAEDで蘇生救命されるなど、じつに間一髪の危ない状況でしたが、すっかり良い形になられました。

これから永く楽しく過ごして頂ければと思います。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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SYNTAXトライアル、5年の結果がでました

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SYNTAXトライアル(研究)5年のデータがでました。ライプチヒのモーアMohr先生らがとりまとめて権威あるランセットLancet誌から発表されました。

このSYNTAX研究では欧米の85施設で冠動脈の3枝病変か左主幹部LMT病変の患者さんを無作為にカテーテル治療(PCI)か冠動脈バイパス手術(CABG)に割り振り、その治療成績を年余にわたって比較検討したものです。

PCIでは第一世代のパクリタキセル徐放ステントを使用されています。

今回はその5年後の成績です。多くの循環器内科医や心臓外科医の注目のなかでの発表でした。

下のグラフで、赤い線がPCI後、青い線がCABG後の結果です。


図1

1800名という大勢の患者さんを割り振り、897名がCABG、903名がPCI治療を受けましたた。

5年間で大きな心脳血管系事故(MACCE)発生はCABG後では26.9%でしたがPCI後では37.3%と多かったです(p<0.0001)(上のグラフをご参照ください)。

心筋梗塞になるのはCABG後は3.8%に留まりましたがPCI後は9.7%にもなりました(p<0.0001)。(これらも上のグラフを。)

血行再建繰り返しはCABG後は13.7%でしたがPCI後は25.9%と多かったです(p<0.0001) 。

がんその他、あらゆる原因を含めた死亡はCABG後が11.4%、PCI後は13.9%で有意差はありませんでした。

脳卒中も3.7%対2.4%で同様に差はありませんでした。

 


図2

 

上のグラフでは両群に差がない項目は灰色で暗くしてあります。

 

冠動脈病変が軽い例(SYNTAXスコアが低い)でMACCEはCABG後28.6%に対してPCI後は32.1%と同レベルでした(P=0.43)。

LMT病変のあるCABG後では31%、PCI後は36.9%と差はありませんでした(P=0.12)。
 

しかし

冠動脈病変が中ぐらいある例(SYNTAXスコアがやや高い)では、MACCEがCABG後25.8%なのにPCI後は36%にもなり(P=0.008 )、

冠動脈病変が進んでしまったSYNTAX高スコアの患者さんにいたってはCABG後26.8%に対してPCI後44%とうんと高くなってしまいました(p<0.0001)。


図3冠動脈3枝病変の患者さんで比較検討したところ、CABGはPCIと比較して、MACCEも低く、死亡率や心筋梗塞でも大きく優れていました。

かつて脳卒中の予防ではPCIが有利と言われましたが、すでに差はないというレベルまでCABGは改善しています。

 

 

そこで結論は、、、


中または高度の病変がある(SYNTAXスコア中または高)ではCABGを今後も標準治療とすべきです。

低い病変(SYNTAXスコア低)やLMT病変(SYNTAXスコア中または低)ではPCIを行っても良い。

複雑な多肢病変がある患者さんにはすべて、心臓外科とインターベンション内科医の相談と最適治療への合意が必要です。

これまでの「PCIやれる限りやってよい」は否定されたわけです。患者さんの長生きや幸せにはならないからです。

このSYNTAXトライアルの結果は1年目からCABGが有利な傾向がありましたが、時間が経つにつれてその傾向が顕著になりました。Illust1447

ディスカッションのなかで、PCIのステントはさらに新しく良いものが出ているから、今後PCIの結果はもっと良くなるとの意見もありましたが、ここまでの内容からは第二世代、第三世代の新型ステントも結果に大差なく、このSYNTAX5年の結果と同様のものになるでしょうとの見解がありました。

また日本とくに有力施設では体外循環を使わないオフポンプバイパス術が浸透しているため、CABGは一層有利になるでしょう。

時代は進んでいます。医学医療もそれに即応して、患者さんにベストなものを常に追求しなければならないのです。

患者さんにおかれましては、これから受ける狭心症治療の内容を内科と外科の両方から聴くという慎重な姿勢が安全安心のために望まれるでしょう。

 

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執筆:米田 正始
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お便り41 冠動脈バイパス手術を受けた透析歴23年の患者さん

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血液透析の患者 Ilm09_ag07002-sさんは動脈硬化が速くなる傾向があります。

 

平素の健康管理たとえば血液透析はもちろん、

塩分や血圧の管理、コレステロール、血糖値その他の脂肪の管理をはじめ、

きめ細かい管理やケアによって長期間の健康や安全性は高まります。

 

Ilm10_df01002-s しかしそれでも冠動脈などの動脈が硬化し病気を引き起こすことはあります。

そこでは早期診断と的確な早期治療が役立ちます。

 

以下の患者さんは50歳そこそこのお若いご年齢ながら、

慢性の血液透析のため狭心症・冠動脈狭窄症を発生された大阪の患者さんです。

ふとしたご縁で、私のHPをご覧になり、名古屋まで来ていただきました。

 

冠動脈バイパス手術の代表例です血液透析の患者さんは一般には冠動脈も悪くなっていますが、

逆に、冠動脈バイパス手術が威力を発揮する状況とも言えます。

それはカテーテル治療PCIでは悪い血管を無理にひろげた上に抗がん剤を塗った金属のステントを入れるのに対して、

冠動脈バイパス手術では冠動脈よりもはるかに動脈硬化が起こりにくいスーパー動脈である内胸動脈をつなぐため、長期の安定性が良いからです。

天皇陛下もこの心臓手術を受けられたのはみなさん記憶に新しいところと思います。

 

手術では、いつもどおり体外循環を使わないオフポンプバイパス手術の方法で、

その内胸動脈2本と静脈グラフト1本を付け、

いずれもきれいに開存し、十分な血流が心臓へ行くようになりました。

 

以下はその妹さんからの感謝のお手紙です。

なお遠方からの患者さんに対しては、できるだけ距離がハンデにならないよう、

配慮しています。

アフターケアも地元の病院と協力して患者さんが困らないようにしています。

 

**************************

 

前略 先日は、兄****の入院、手術に際しまして大変お世話になり、本当にありがとうございました。

退院後10日程が経過し、まだまだ万全な体調とは申せませんが、おかげ様で順調に回復しているようです。

手術前は、いつ胸痛が起こるのかわからない不安から夜も熟睡出来ず、食も細くなって体力が落ち、兄本人だけではなく周りの私共家族としましても、大変心配な状況が続いておりました。

狭心症で手術適用と判断された場合、早急に手術をした方が良いという米田先生からの直接のアドバイスをお電話で頂いた事で、最終的に名古屋へ行く意思が固まり、この様な素晴らしい手術を施して頂きまして、本当に有難く思っております。

今となって思い返せば、既にいつまでもぐずぐずと手術を先延ばしにしておける様な状況にはなく、先生からアドバイスを頂きました通り、早急な手術が必要であったと強く感じております。この様な状況を見抜き、適切な助言と対応をしてくださった名古屋ハートセンターの先生方への感謝の念に絶えません。

8年前に兄が、大学病院で腎臓摘出手術をした際、術後に感染症から高熱と痛みに苦しみ、側にいる家族として何も出来ない辛さを感じた経験がございます。今回は、術後一度も発熱する事も無く、手術後2、3日で少し歩く事も出来ましたので、本当にその違いには驚きました。

今は、食欲も少しずつ戻りつつあり、これならば体の方も思ったより早く回復していくのだろうと、本人も手応えを感じているようです。今後、足の方のカテーテルによる手術も外科的手術とのコラボが必要との事、是非名古屋ハートセンターでまたお願いしたいと家族一同念願しております。

兄は、透析生活23年目ですが、今回の手術により、心機能が良くなりましたので、後は規則正しい生活、食生活、適度な運動を心がけ、普通の人以上に長生きをして欲しいと願っております。

私は茨城県**市にてベンチャー企業を経営しておりますので、開発関係の仕事でも一緒に出来る程に回復してくれるかも知れないという前向きな期待も、おかげ様で持てるようになりました。

名古屋ハートセンターは素晴らしい病院です。これからも激務の中、多くの患者さん達を救う為にも、どうぞ先生御自身のお体もご自愛下さいませ。

現状御報告かたがた御礼申し上げます。なお、ワープロにて大変失礼致しました。
 

草々

6月23日                          ****

米田 正始先生

 

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執筆:米田 正始
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【第二十号】 患者さんからのお便り

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【第二十号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
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ようやく秋の気配が感じられるようになりました
暑い夏を乗り切っていただきうれしく思っています

さて患者さんからのお便りのコーナーに新しい記事をupしました

今回は慢性腎不全・血液透析で狭心症のため冠動脈バイパス手術を受けられた

患者さんのご家族からのお便りです。

http://www.masashikomeda.com/web/2010/09/cvletter30.html

永く楽しく元気に暮らして頂ければ最高です。そのためのお力になればうれし

いことです。

2010年9月15日

敬具

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓血管情報WEB
http://www.masashikomeda.com
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4a) とくにオフポンプバイパス手術について: よりやさしく、よりしっかりと治す

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◾️オフポンプ冠動脈バイパス手術(略称OPCAB オプキャブ)とは

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冠動脈バイパス手術ポンプつまり体外循環(人工体外循環(人工心肺)稼働中 心肺、写真右)の器械を使わずに行う手術です。

比較のためにこれまでの体外循環を使うものはオンポンプバイパス手術と呼ばれることがあります。

 .

オフポンプバイパス手術は日本へは1990年代後半に導入され、

当初はMIDCAB(ミッドキャブ)手術という方法で、

左胸を小さく開けてその付近にある左内胸動脈を剥離し、その直下に見える冠動脈(左前下降枝)に縫いつけます。

この方法は創が小さく、ポンプも使わない、患者さんに優しい画期的なオペとして一世を風靡した感がありました。

 .

まもなく胸骨(胸の真ん中にある骨です)を縦に切って心臓に到達し、治療する、普通の心臓手術と同じアプローチ法を用いるオフポンプバイパス手術が増えて行きました。

この方法ではMIDCABと違って、必要なら何本でもバイパスを付けることができます。

MIDCABは心臓の前側に限定されるため通常1本、せいぜい2本程度しか付けられませんが、

オフポンプバイパス手術ならいざとなれば5本でも7本でも付けられます。

 .

◾️草創期のオフポンプバイパス手術は

.

ただ当初は心臓の裏側の冠動脈(鈍縁枝や回旋枝末梢部や右冠動脈 の枝)にバイパスを付けるために、安全に心臓を脱転つまりひっくりオフポンプバイパス手術中 返す技術がやや未完成であったこと、

手術器械が現在のものより性能が悪かったことなどのため、

難しいオペと思われていました

(写真右は心臓を脱転してバイパスを縫いつけているところ)。

 .

私がCalafiore先生(当時イタリア、現在サウジアラビア)のところで習ったオフポンプバイパス手術を

1999年12月の日本冠疾患学会でビデオ講演させて頂いたときはまだ変わった方法という見方をされたように記憶しています。

その後心臓を脱転するためのさまざまな工夫や器具ができ、現在はオフポンプバイパス手術が冠動脈バイパス手術の定番となりました。

虚血性心疾患・手術事例1 オフポンプバイパス手術

 .

◾️日本での展開は

.

日本では冠動脈バイパス手術の約3分の2がオフポンプバイパス手術で、これは米国等と比べて突出した高い値です。

技術的にはオフポンプバイパス手術のほうが通常のオンポンプバイパス手術より難しく、

しかも日本人の冠動脈も内胸動脈も欧米人よりは若干細いため、

日本人の冠動脈手術そのものがやや難しいです。

日本の心臓外科医が行った努力は大変なものだったと思います。

典型的なオフポンプバイパス手術

これにはオフポンプバイパス研究会(小坂真一先生、南淵明宏先生ら)が大きな貢献をしたと言われます。私も及ばすながらオフポンプのライブ手術を2001年の研究会で初めて行い、以後毎年の会長が引き継いで下さり、日本ではこれが標準!と言えるレベルまで浸透しました。

 .

◾️オフポンプバイパス手術が優れている点は

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それではオンポンプバイパスと比べてオフポンプバイパス手術はどういう点で優れているので良いものは良い!しかしその証明は容易ではないことも しょうか。

理論的にはポンプ(体外循環)がある程度リスクとなる患者さんたとえば上行大動脈ががちがちに硬化しているなどの状況ではオフポンプバイパス手術は有利です。

.

この10数年、さまざまな研究がなされました。

発表された範囲では手術死亡率には大差がなく、

輸血量や入院期間あるいは術後の神経学的異常などがオフポンプバイパス手術で減らせることが示されました。

 .

その結果はオフポンプとオンポンプの両方を多数行った心臓外科医の印象とは少し違うと思います。

かつてオンポンプバイパス時代にはハイリスクであったケースにオフポンプバイパス手術を行うと実にスムースに経過するのです。

結局こうしたハイリスク例での臨床研究が不足しているのであろうというのが経験ある心臓外科医の意見です。

それを裏付けるかのようにオフポンプバイパス手術を始めてから、バイパス手術で患者さんが亡くなられることはほとんどゼロになりました。

 .

◾️オフポンプ先進国・日本では

.

オフポンプバイパス手術では術者が経験豊かであれば手術の質でもオンポンプバイパスに抗血小板剤を切れるのがバイパス手術の利点の一つです 引けを取りません。

それは術後のバイパスの開存率(つまりどれだけ機能しているか)でも劣っていないことが判明したからです。

そうなればカテーテル治療(PCIと略します)に匹敵する安全性と、

PCIより良好な長期安定性がオフポンプバイパス手術により得られることになります。

 .

しかもオフポンプバイパス手術の術後は最近のPCI(薬剤溶出性ステントDESを使います)と違って、

きつい薬剤(抗血小板剤たとえばプラビックスやパナルディン等)を永く使う必要がないため、

患者さんにとって長期安全性で有利です。

たとえばもしがんがどこかの臓器に発生してもその検査や手術も比較的安全に受けられます。

 .

◾️カテーテル治療(PCI)との協力へ

.

オフポンプバイパス手術の後。バイパスグラフトがきれいに映っています。患者さんはお元気になりました しかしPCIは創がほとんどないという魅力があります。

またほとんどすべての患者さんはまず循環器内科の先生のところを受診されます。

それらのため、現時点ではPCIがバイパス手術より数の上で大きく勝っています。

 .

ヨーロッパで行われているSyntax研究(薬剤ステントを用いたPCIバイパス手術を比較)の3年間の成績が昨年秋に発表されました。

重症の冠動脈疾患ではバイパス手術はPCIより高い生存率を上げ、ヨーロッパのガイドラインでもバイパス手術をクラスIの適応つまり絶対推薦となったのです。

たった3年でこれだけの差がついたことは驚くべきことでした。、

そして2011年にSyntaxトライアル4年のデータが発表され、冠動脈バイパス手術を受けた患者さんはステントの患者さんより長生きできることがついに示されました

(写真左はオフポンプバイパス手術後のグラフトの姿、MDCT検査にて)。

 .

◾️まとめ

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もっとも識者の見方はどちらが絶対良いとか悪いとかではなく、

個々の患者さんに最も適した選択をする必要なら併用もする、という柔軟で患者目線の方針にあります。

 

ともあれオフポンプバイパス手術の進化により患者さんにとって、より安全で確実な治療法が増えたのは間違いないところで、

内科外科全体の総合循環器グループとして有用ツールとしてさらに育てたいものです。
心臓手術事例:数回のPCIのあと冠動脈バイパス手術を)(心臓手術事例:PCI後、急性心筋梗塞後のバイパス手術)

2012年1月18日には天皇陛下もこのオフポンプ冠動脈バイパスを受けて元気になられました。その利点が広く認識されたものと思います。

.


◆患者さんの想い出:

Aさんは50代前半の男性です。当時米田がいた P1120179b名古屋へはるばる大阪から来て下さいました。

慢性血液透析のため血管が全身的に硬化し、すでに脳梗塞を患われていましたが、幸い頭脳は明晰でした。冠動脈はがちがちに硬化していました。

オフポンプ冠動脈バイパスを施行し、3本を左前下降枝、回旋枝、右冠動脈につなぎました。良好な流量を確認しました。透析の患者さんに絶大な威力を発揮する内胸動脈はもちろん左右とも活用しました。

かつては何でもカテーテル治療PCIというのが基本方針であった病院でも近年は慢性透析の方には冠動脈バイパス手術を選ぶ傾向が強まりました。ガイドラインの改訂と、やはり患者中心の医療が浸透したためと考えられています。

術後経過は順調でお元気に退院されました。それ以後、下肢の動脈も狭くなり、これはカテーテル治療PPIで軽快しました。

オフポンプバイパス手術から3年が経ち、バイパスのグラフトは健在で患者さんを守っています。米田正始が奈良にあるかんさいハートセンターを立ち上げてからはこちらの外来に通っておられます。これからも永く元気なお付き合いで行きましょう。


◆患者さんの想い出2:

Bさんは60歳の男性で P1120188b狭心症と発作性心房細動のため米田外来へ来られました。

冠動脈が中枢部で複雑にやられているためカテーテルPCIよりもオフポンプ冠動脈バイパス手術を行うことになりました。また比較的お若くこれからがあることも一因でした。

手術ではまず右内胸動脈を左前下降枝へつけ、さらに左内胸動脈を回旋枝につなぎました。良好な流量とパタンを確認しました。右冠動脈はかつてのステントがまだ使える状態のためバイパスはつけませんでした。

術前に不整脈発作とくに心房細動AFを繰り返しておられたため、簡略に直すことになりました。心臓がかなり張っていたため、安全確実に体外循環・心拍動下に冷凍凝固を行いました。

術後経過は良好でまもなくお元気に退院されました。

狭心症に心房細動が合併するのは近年は稀でなくなりました。こうしたケースではそのどちらも治すことが大切と思います。

Bさん、これから自然な生活を十分楽しんで下さい。


◆患者さんの想い出3:

Cさんは70代後半の男性で心筋梗塞を P1120192b患われ、四国から来られました。

地元の病院ではカテーテルPCIも冠動脈バイパス手術もできないと言われ、ハートセンターへ来院されたのでした。息子さんが頭脳明晰な方でネットや本で徹底的に調べられたのです。

データを拝見しますと、前下降枝が完全閉塞しており、カテーテルの動画を見ても血管が映ってこないという困った状況でした。右冠動脈も同様につよく壊れていました。地元の病院で治療できないと言われたのはなるほどと思いました。

しかしそのままではCさんは永く生きられません。何とかする必要があります。

上記のカテーテルやCT、心機能のデータを併せ考え、私の経験上、おそらくオフポンプバイパス手術ができる血管があるだろうという読みで心臓手術に臨みました。

案の定、良い血管(左前下降枝)が隠れているのをみつけました。そこへ内胸動脈をバイパスし、良好な流量とパタンを確認しました。

これでこの患者さんの予後はぐっと改善しますが、さらに右冠動脈にもバイパスを付ける部位があることがわかりました。その一点にバイパスを付けました。これも良い流量とパタンを得ました。これでオフポンプバイパス手術の威力はさらに増します。

術後経過は良好で、以前からの心不全は少しあるものの、これから薬などで次第に改善できそうな状況でした。退院前に、Cさんは「自分は経済的にあまり余裕がないのでおしゃれな御礼はできません。そこで自分の作品でよければどうぞ」と見事な御自筆の書を下さいました。以後私のオフィスに飾ってあります。

Cさん、お元気で。遠方ですが、私が大阪に異動し、少し近づきましたので時々でもお越し下さい。

 

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執筆:米田 正始
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お便り22 オフポンプ冠動脈バイパス手術の患者さん

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狭心症・虚血性心疾患の治療には

食事や適度な運動療法、お薬から始まってカテーテル治療(PCI)さらに冠動脈バイパス手術とくにオフポンプ冠動脈バイパス手術であります。

冠動脈の重要部分が狭くなり胸の痛みが強く、あるいは痛みはそれほどではなくても心筋梗塞になりそうなときや命の危険があるときなどにはそうした強力な治療を考えます。

 

日本では手軽なことが受けてPCIが断然多いのですが、

オフポンプ冠動脈バイパス手術にも長所があり、うまく使い分けようというのが識者のご意見です。

 

前者は創も小さく回復も早いのですが、

この数年間多用されるようになった薬剤溶出性ステントは強力なお薬、抗血小板剤という血栓予防のお薬を使わないと心筋梗塞で突然死するケースがまれにあることが判り、

当初は3カ月間だけとか1年間だけという意見もありましたが、

最近は延々と使うケースが多くなりました。

その場合、がんの手術には支障があり得ますし、

たとえば大腸ファイバーでポリープ(がんの前の状態です)をせっかく見つけても普通のようにファイバーで軽く切除できないケースが多く、学会でも問題になり始めています。

もし34b出血すれば止めることが難しいからです。

前立腺がんや乳がんその他でも同様です。

つまり薬剤ステントは手軽で便利ですが新たな病気を抱え込むという一面があります。

必ずしも優しくない治療法という一面があるのです。

 

オフポンプ冠動脈バイパス手術は創は大きいですが、

あまり強力な抗血小板剤を飲まなくても良いですし、

必要なら全然飲まずとも行けますので、スポーツを楽しみたい方や山登りその他怪我をする可能性のある趣味や仕事の患者さんに適した方法です。

最近の欧米の大規模臨床試験(Syntax トライアル)でもしっかり治せる治療法として認識されました。

このSyntaxトライアルの4年後のデータでは、冠動脈バイパス手術を受けた患者さんはステントの患者さんより長生きできることが示されました。

また重症糖尿病慢性腎不全・血液透析などの方にも同様に役立ちます。

この特長はとくに人工の心臓を使わなくて済むオフポンプ冠動脈バイパス手術で際立ちます。

 

将来的には眼科や耳鼻科のように内科外科が融合した総合循環器科の中で個々の患者さんに最も適したものを選んだり組み合わせたり(ハイブリッド治療と呼び欧米では増えています)することが患者中心医療に役立つと思います。

近年、欧米で提唱されているハートチームですね。

こうすることで初めて的確な使い分けができるのです。

 

下記の患者さんは循環器内科の世界的権威である先生から、この人にはオフポンプ冠動脈バイパス手術が適切だよとご紹介頂いた患者さんです。

登山をはじめ、さまざまなスポーツを楽しむ、活発な方です。

手術のあと、安心して仕事やスポーツを楽しんでおられる姿をみて、大変うれしく思います。

 

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米田先生


私は2009年7月6日に名古屋ハートセンターで米田先生にバイパス手術をして頂きました。
一言感謝の言葉を伝えたくメールしました。
12月27日現在までの経過をお伝えします。


3年前にT病院でバイパス手術しか治療方法は無いと告げられてから、何箇所かの病院の診察を受けました。


T病院で「発作が出たら即、死です」と説明されていましたので不安と恐怖ばかりでした。
頭から離れない不安の生活を続け最後に決断できたのは名古屋ハートセンターでした。
お任せしようと決心してからは迷いは全くなくなりました。

7月3日入院
6日手術
21日退院


退院後で一番不安な時期は9月上旬から中旬の間でした。


寝返りするとき、日常生活の動作の中でいたるところに痛みが現れて、経過が良くないのかと心配が続きました。


その度に「手術後2ヶ月間は痛みがありますから」と米田先生に言われたことを思い出し焦る気持ちを抑えていました。


私独自のリハビリですが入院中は大部屋に移動した翌日から二階のフロアーを開院前後に一日一万歩から二万歩を目標に歩きました。


(我が家は二階が生活ベースなので退院する前に階段を練習したかったのですが病院の階段は段差が大きくてリハビリには無理でした。)


退院後は翌日から近くの天白川沿いを毎朝夕、2時間くらい歩きました。


そして初めての通院8月4日の翌日からスポーツジムに通いはじめました。
(ゆっくり、のんびり2時間くらい)


まだ胸を広げる動作は出来ないのでストレッチや下半身の運動から。エアロバイクでビックリ、手術前の負荷95が60でギブアップ。


それでも週に5日は通い続け(現在は負荷も90)生活の行動範囲も広くなっていきました。
(乗り物に乗り、人ごみに出る練習でこの期間は今までになく映画をたくさん観ました)

 

初めてのハイキング、軽い登山開始は9月26日、岐阜城のある金華山です。

(瞑想の小路を往復)自信を得た私は家族に元気になった姿を見せに上京。たくさんの人が喜んでお祝いをしてくれました。


その後は温泉旅行で元気になれた喜びを感じました。

 

11月には夫の釣りのお供で伊豆大島まで行き三原山を登山したり大島のなかを4日間歩き回ってきました。


その後、曽爾高原ハイキング、鳩吹山を5時間かけて縦走を何度か繰り返し、そして目標だった鈴鹿の鎌ヶ岳を歩いてきました。


回復した実感を掴み嬉しくてなりません。

 

そして12月8日に初スキー、12、13日は御岳で滑り、本格的なスキーも北海道で4日間雪の降り続く中で滑ってきました。


去年までの発作が出たらと思う不安は全くなく、スキーは上達しなくても、マイナス7~8度の寒さの中にいる自分が考えられないくらいでした。もう何でもOKです。


この元気な姿を回りに見せられることがとても幸せです。


心配をかけた人への感謝の気持ちを伝えられたらと思っています。

 

米田先生から紹介して頂いた平光先生は海外スキーも「折角元気になったのだから楽しんできてください」と言ってくれました。


「天にも昇る」そんな気持ちで有頂天になり、早速仲間のオーストリアスキーに参加申込をしました。
来年の1月30日から9日間楽しんできます。

 

入院中に見舞ってくれた友達には「二度とスキーなんかしたくない」と言っていた時から半年も過ぎないうちに「手術したのは去年だったみたい」と勘違いするほどになりました。

 

これ程の元気、幸せ、大切な命を贈ってくださった先生に心から感謝いたします。

米田先生の「祇園ホテル」講演(註:米田正始の患者さんの会のことです)にも参加したいと思っています。

 

私は今回の手術が最高な先生、スタッフ、まわりの人たちの温かい中で行われて今、とても幸せに毎日を送っています。


そしてチョッピリ勇気と頑張った自分を褒めてあげたいと思っています。

 

皆さん本当にありがとうございました。

まとまらないメールです年内に感謝の気持ちを伝えたくてお便りしました。

 

2009年12月27日  ****

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り10 オフポンプ冠動脈バイパス手術の患者さん

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Suzuran_b患者さんは大阪在住の77歳男性で、

以前から慢性腎不全のために血液透析を近くの透析クリニックで受けておられました。

ところが長年の透析の経過の中で狭心症を合併され、そのために十分な透析ができなくなり、

このままでは危険な状態になるという段階でご家族から米田正始へメール連絡がありました。

 

すでに状態もあまり良くなく、手術にもリスクがある、カテーテル治療も難しいということで、患者さんやご家族もどうしたら良いかわからない状態でした。

相談の結果、オフポンプ冠動脈バイパス手術 (オフポンプCABG、略称OPCAB)可能と判断し、ハートセンターまでご来院いただきました。

オフポンプ冠動脈バイパス手術(OPCAB)は順調に完了、術後経過も良好で手術8日目にお元気で退院されました。

手術後は透析で水を引いても狭心症もなく、心臓は安定するようになりました。

 

以下はその患者さんのご家族からの感謝のメールです。2通あります。

 

********7月5日のメールです*************************************

米田先生

メールにて失礼いたします。 このたびは父**が大変お世話になりました。昨日退院させていただき、その足で大阪へ帰宅いたしました。

入院に際しては 直接先生よりメール電話をいただき、詳しくお話を伺うことができ、また入院中は何度も病室へ来ていただいたこと 両親とともに喜んでおります。

お忙しい先生が何度も尋ねてくださり、時間をとっていただいて詳しくお話を伺うことが出来たことが手術を受ける決心へとつながったと思っています。 手術は怖いもの、出来ればしないで済めば・・と考えていた父も母も詳しく説明をしてくださったことで病気についてよく理解し安心してお任せする事ができたと言っておりました。

私も自分自身も含め子どもや夫の母の手術に立ち会ってきましたが、今回のように心が平安のうちに手術を受けいれることが出来たことはなかったように思います。本当にありがとうございました。

昨日の退院は思っていたよりもずっと早かったものですから、父も不安があったようです。**(娘さん宅)で1‐2日ゆっくりしてから帰るように勧めたのですが、退院と決まったら少しでも早く大阪に帰りたかったようでそのまま名古屋駅へと送りました。近鉄特急とタクシーで自宅まで帰るのは大丈夫かな?と心配しましたが、無事に着いたから・との電話の声は思ったより元気そうで安心しました。

米田先生より**病院の先生も紹介いただけるとのことで安心して帰ることができたようです。 親身な治療、対応をありがとうございました。

ハートセンターの皆様にも大変お世話になりました。看護師さんにはいつも笑顔で接していただきました。無理をお願いしていたのでは?という事にも丁寧に対応して頂き感謝しています。受付、検査室、食事をはこんで下さる職員のかた・・どこへいっても気持ちよい対応をしてくださり、患者や家族として大変慰められました。

また深谷先生、北村先生、小山先生には毎日揃って回診に来ていただき励ましていただいたと喜んでいました。

これだけの先生方が揃って担当してくださり手術にも診察にも関わってくださるのは貴センターならではの医療に対する姿勢だと感じました。患者の立場に立った体制で治療にあたってくださっていると両親、娘である私たち姉妹、そして私たちの家族、それぞれが強く感じています。

皆様おひとりおひとりにご挨拶とお礼をもうしあげるべきですが、昨日はお目にかかれないままに失礼いたしました。 どうぞ皆様によろしくお伝えください

また今後も診察に伺いたいと思います。 どうぞよろしくお願いします。

心より感謝して・・      7月5日

 

********7月5日のメール続編です*************************************

ハートセンター
米田先生

お忙しい中、すぐにお返事を頂き恐縮いたしております
(中略)
次回診察の件についてもハートセンターさんよりお電話を頂き7月29日(水)にうかがうことになりました。
また よろしくお願いいたします。

メールの掲載の件、お役に立てるのでしたら幸いです。 私たちとしては今まで全く存じ上げなかった先生、病院でしたのにメールやお電話を通してここまで信頼してお任せできたことを感謝しています。

手術(註: オフポンプ冠動脈バイパス手術)で執刀してくださる先生から直接説明を聞き、病状やどのような手術をするのか、またそれが どうして良いのか、ということを知識のない患者に対してわかりやすい言葉で説明していただけたことが決心につながったと思います。

顔が見える治療と言うのでしょうか、チームを組んで治療にあたってくださった深谷先生、小山先生が米田先生とのお話の後、私たちを捜してくださっていて談話室で親しくお話をしてくださり、その日は勤務しておられなかった北村先生も次の日病室まで来てくださったと聞きました。このことでお会いしたばかりの先生方への信頼も深まり、治療をしていただくならここで、という気持ちになったようです。

今まで診察を受けていたところと診断としては同じで、バイパス手術を受けることを勧められていたのも同じです。
説明で違っていたのは心臓を止めなければ十分な治療が出来ないというところだったと思います。そのために手術の時間は7~8時間とのことでこの点が父や母の不安を大きくしていたように思います。 

高齢になって理解が遅くなってきていますので、説明をするのは大変なことだと思います。説明を聞いてもよくわからないことばかりで、何を質問すればよいのかもわからなかった・・と言っていました。手術の安全性を尋ねても「やってみなければわからない」という話しだったそうで、決心がつかないまま2~3ヶ月がたってしまっていました。

初めて米田先生にお話させていただいた際、親身になってお話し頂き、また心臓を止めない方法も可能であることがわかった時 道が開けたという気持ちになりました。今にして思えばあっという間に過ぎた10日あまりの日々でした。

今後もわからないことが出てきましたらお尋ねさせていただきたいと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

先生のお働きが一人でも多くの尊い命に関わってくださいますよう心よりお祈りいたします。 ありがとうございました。

7月5日

******** さらにメール続編です *************************************

米田 正始先生

退院から明日で一週間になります。

手術を受けたのが二週間前だとは信じられないような気がします。 電話での声も少しずつ元気になってきているように思います。

昨日 実家近くに住んでいる妹から連絡があり、ひと月ほど前には半ば投げやりな気持ちになっていた父から、元気になったら美味しいものを食べに行こうとか、どこかへ遊びに行こうという言葉が出るようになってきたと言っていました。

前向きに生きようという気持ちになってくれたことがとても嬉しく、先生にくれぐれもよろしくとのことでした。(中略)

これからもお世話になりますが よろしくお願いします。

 

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事例:典型的なオフポンプバイパス手術

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患者さんは 67歳男性、冠動脈3枝病変左主幹部病変のためオフポンプバイパス手術(オフポンプCABG手術、OPCAB)のため来院されました。

心臓病だけでなく糖尿病もお持ちで、しかも右椎骨動脈閉塞、右外頸動脈狭窄、両側内頸動脈プラークがあり脳梗塞になりやすい懸念があり、オフポンプバイパスのメリットが一層活かせるケースです

Ritalad全身麻酔下に血行動態は安定していました。

                                                      .

頸動脈領域の病変を考慮して通常以上に血圧安定を意識しました。

.

                                                      . 

Ritadiagoグラフトを準備したのち、まず心臓を軽く脱転し右内胸動脈 RITAを左前下降枝 LADに側側吻合しました(写真上左)。

これで以後のオフポンプバイパス操作が大変やりやすくなります。

さらにこのRITAを第一対角枝D1にU字グラフトの形で端側吻合しました(写真左)。

通常はSカーブを描くなどのレイアウトを取りますが、この患者さんの狭窄部の位置特徴からこのようにしました。

                                                 .

Litaom1_2ドップラーにてそれぞれの吻合で良好なフローパタンを確認しました。

フローパタンが良好ならそのグラフトの開存率は極めて高く、良好な結果となります。

  ここで心臓を右側へ脱転し、左内胸動脈 LITAを第一鈍縁枝OM1に側側吻合しました(写真左)。

心臓を脱転しても血圧は低下せず安心な手術ができます。                     .

Litaom2

さらにこのLITAを第二鈍縁枝OM2にU字グラフトの形で端側吻合しました(写真下左)。

 

ドップラーにて良好なフローパタンを確認しました。

 

 

                                                       .

通常この部位のグラフトレイアウトもSカーブのITAで側側吻合するのですが、この患者さんの場合は最適吻合部がたまたまOM1でやや遠位部に位置したためスムースな血流を重視してU字グラフトとしました。

                                                          .

Svg  ここで大伏在静脈SVGの上行大動脈への中枢吻合を自動吻合器にて行いました(写真左)。

静脈グラフトよりも動脈グラフトが良いと信じられた時代もありましたが、最近はやり方や部位や状況によっては静脈グラフトは一部の動脈グラフト(たとえばとう骨動脈や胃大網動脈)に匹敵する長期成績がでており、静脈グラフトには血流競合に負けにくい特長もあり、しかも患者さんの体への負担が少ないため、私たちは臨機応変に静脈グラフトを患者さんの役に立つ形で活用しています。

Svg4pd心臓を頭側へ脱転し、このSVGを右冠動脈4PD枝に端側吻合し(写真左)、すべての吻合操作を完了しました。

ドップラーにてこのSVGの良好なフローパタンを確認しました。

オフポンプバイパス手術操作中、血行動態は一貫して安定していました。経食エコーにて良好な心機能と弁機能を確認しました。

術後経過は良好で、出血少なく血行動態良好で、神経学的異常等もなく、翌朝抜管し2週間程で元気に退院されました。MDCTで術後検査を 手術のあと、バイパスはいずれもきれいに開存していました 行い、すべてのバイパスグラフトは開存していました。

こうした心臓(冠動脈)と他臓器(頚動脈など)が同時にやられた状態の患者さんでは複数の病変と同時に向き合う必要があります。心臓が良くならないとその他の臓器の治療が進まないので、私たちがまず先陣を切るようにしています。

もちろん他臓器が断然重症のときにはそちらの治療を心臓の観点から支援し、他臓器が軽快してから心臓の手術ということもありますが。こうした科を超えた、さらには病院や地域を超えたチーム医療も患者さんには福音となり有意義と思います。

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オフポンプバイパス手術について(解説)

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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事例 1 オフポンプバイパス手術

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患者さんは53歳男性、ステント治療後の狭心症のため手術になりました。糖尿病が背景にあります。
オフポンプバイパス(OPCAB、1999年当時はまだ比較的珍しかったのですが、現在は標準手術となりました)を施行しました。

私たちがオフポンプバイ パス手術(OPCAB)をやり始めた1990年代後半はまだ器械も未発達で、オンポンプバイパスより危険という印象を持たれていましたが、イタリアのカラフィオーレ先生の方法を用いて努力しました。

 

10年間の進歩でオンポンプよりむしろ 楽という感じさえあります。

 

豊橋ハートセンターの方法を加味し、さらに安定感が増しました。

大学病院では日によっては麻酔の先生が不慣れなときなどに不安定気味だった血圧もうそのように 安定し、やはりすべての職種・スタッフが一定し熟練している専門病院は有利と実感しています。

111.左冠動脈の前下降枝(心臓の前部にある最重要血管です)に内胸動脈(矢印)を吻合しています。

左が頭側です。

内胸動脈は最強のグラフトでカテーテル治療でもこれにはおよばない安定性と安全性があります。

近年発展めざましい薬剤溶出ステント(Drug Eluting Stent, 略称DES)といえども、患者さんによっては内胸動脈グラフトにはかなわないという認識がすでに欧米ではできています。

たとえばDESでは強力な抗血小板剤が長期にわたって必要になり、がんなどが見つかって手術が必要なときも薬を止めると冠動脈内に血栓ができて死亡するケースが少なからず出現しました。

一方、内胸動脈グラフトはそうした薬は不要かごく軽く使う程度ですし薬を安全に止めることもできます。バイパス手術はステント治療よりも自然で安定した治りができるわけです

122.心臓を頭側へひっくり返して胃大網動脈(矢印)を右冠動脈の枝に吻合しているところです。

右がお腹側です。

10年前はまだ心臓をひっくり返すことは大変なことと言われましたが現在は普通のことです。

胃大網動脈GEAはITA(内胸動脈)よりスパスム(血管が縮んで細くなることです)を起こしやすいのですが、吻合後拡張する分を見越して吻合すれば(つ まりより小さい歩みで吻合する)、あとの吻合形態やフローは良好です。

ただし冠動脈側の狭窄があまり高度でな い、たとえば70%程度の狭窄の場合はフロー(血液の流れ)競合に負けてGEAがやせ細ることがあり、注意が必要です。そういう場合はフロー競合に強い静 脈グラフトを活用することもあります。適材適所ですね。

 

133.左とう骨動脈を回旋枝(心臓の裏側にある血管)に吻合しています。

とう骨動脈は有用なグラフトですが以前ほどは多用していません。

静脈グラフトはそれとは違う特徴があり、それぞれの特徴を活かしたグラフト選択を心掛けています。
と う骨動脈は比較的扱いやすくサイズもちょうど便利なものであるため一時多くの心臓外科医に好まれました。私もメルボルンにいたころはルーチン使用しまし た。

当時進めていた無作為割り付け前向き臨床試験の結果が出るにつれて、静脈グラフトに対する優位性が期待したほどではないということになり、現在は両側内胸動 脈が使いづらい状況など、特殊な場合に限定した使用になっています。

ということでやはり左右の内胸動脈がベストの質と長期安定 性をもち、それに次ぐグラフトという位置づけです。

再 生医学・組織工学の進歩でとう骨動脈がリバイバルする日がくると冠動脈バイパス手術とくにオフポンプバイパス手術OPCABはさらに発展するだろうと期待 しています。

144.とう骨動脈と内胸動脈を吻合してY字グラフトを作成し糸結び中です。

このYグラフトもかつては多用した有効な方法 ですが、フローの取り合い現象が起こる時は不利な ので狭窄が強いとき、両側 in situ 内胸動脈が使いづらい状況などに限られた適応になりました。

ま た優れた中枢側吻合デバイスの出現により、一段とYグラフトの使用は限られるようになりました。ただし時に患者さんの救命に役立つバックアップ法として、 使えるようにしておくのは賢明と思います。

ハートセンターのような専門病院ではすべての職種のスタッフがこうした手術に熟練しているため、オフポンプバイパス手術も安全・安定・快適にできます。

 

オフポンプバイパス手術OPCABの特長はやはり体外循環にともなう合併症を減らせることです。

もちろん弁膜症その他の体外循環が必要なケースでは適宜オン ポンプバイパスとして行うこともあります。

総合的に体への負担が軽くなり、手術治療成績がより向上すれば良いと考えています。

薬剤溶出性ステント(DES)の問題点や限界が次第に明 らかになり、糖尿病や慢性腎不全・透析例をはじめ、バイパス手術のメリッ トが再認識されています。

 

今後もバイパス手術の特長を活かして、内科の先生方と協力して虚 血性心疾患・冠疾患の治療成績の向上に貢献したいものです。

2012年2月に天皇陛下がこのオフポンプバイパス手術で健康を取り戻されたことも、この手術の優秀さを示すものと歓迎されています。

ハートセンターでは緊急手術・準緊急手術とも病院全体の支援とチーム医療体制で円滑に行えるため、患者さんに長期間待たせることなく必要な手術が必要なタ イミングでできますので、患者さんに喜ばれています。


メモ:  冠動脈バイパス術後の患者さんの安定度には定評がありますが、最近の欧米の臨床研究(Syntaxシンタックス研究)でも術後のくすりによるケアの大切さも認識されるようになりました。

患者さんの全身を守る、心臓はもちろん、糖尿病やコレステロール、脳血管その他も考えたトータルケアを行うことで、バイパス手術の良さはさらに光るでしょう。

 

メモ: このSyntaxトライアルの3年後のデータが2010年に発表されました。

冠動脈バイパス手術は薬剤ステントと比べて長期成績で優れているというデータが、冠動脈病変が進行したケースで示されました。

 

メモ: Syntaxトライアル4年後のデータが2011年に発表されました。冠動脈バイパス手術を受けた患者さんはステントの患者さんより長生きできることがより鮮明になりました。

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