お便り111: 珍しい心臓腫瘍からMICSで完全復帰

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心臓腫瘍にもさまざまなタイプがあります。

いちばん多いのは粘液腫(ねんえきしゅ、英語でミキソーマ myxoma) 165395249で、その多くは心房中隔という左右心房の間仕切りの左側に発生するタイプです。

私のトロント大学での100例以上の検討(当時世界のベスト3の数と言われました)ではその他の部位にできる粘液腫は悪性の恐れがあり要注意という結果でした。


完全に切除することが大切なのですが、それが普通の方法では難しいこともあります。

場合によっては僧帽弁大動脈基部の一部まで切除して再建、もちろん患者さんご自身の弁を温存して、という弁膜症手術の中でも難易度の高い技術と経験を要するものもあります。

お便り43の患者さんもそのタイプでした。

 

下記の患者さんは心房中隔の表面ではなく中に腫瘍があるという珍しいタイプで、しかも大動脈基部に迫るという危険な形のものでした。

関東在住で現地の大学病院で診断を受けられました。そこの放射線科と内科の先生方も、このタイプは特殊で大動脈弁に腫瘍が及んでいる恐れがあり、心臓手術の際にはくれぐれもご注意をというありがたいコメントも頂いておりました。

その患者さんがかんさいハートセンターまでお越し下さいました。

精密検査ののち、確かに大動脈基部を含めた大きな手術になるかも知れないという見立てで、もともとはポートアクセスによるMICS手術(右胸を小さく切るだけです)を考えていましたが、もしもの場合を考え、正中からアプローチすることにしました。

ただしMICSご希望のため、小さい創で、40歳代の若いご年齢から夏服が楽しめるように配慮しつつ、安全重視の布陣で臨みました。

 

結果的には心房中隔の中でうずら卵状の腫瘍がコロッときれいにとれて、周囲への浸潤つまりしみこむような広がりもなく、良性腫瘍の形でしたので大動脈基部は触らずに完全切除できました。

術後経過も順調で、手術前に不整脈発作がよく出ていたのも次第に影をひそめ、お元気に退院されました。

 

手術のあとで顕微鏡検査の結果が送られてきました。神経鞘腫という世にも珍しい、おそらくこの部位では世界にこれまで1-2例報告あるかないかのタイプでした。

患者さんと娘さんたちの前向きの姿勢が良い結果をもたらしたと言えましょう。

これから元気な健康生活をお楽しみください。

 

ちょっと遠方ですが、お役に立つ外来を心がけていますので、また健診のため関西までお越しください。

 

******** 最初に頂いたお問い合わせメールです *******

初め PL111Aまして。

私の母は四年前に子宮けいがんで子宮全摘しています。

それで抗がん剤などの治療は受けていなくて再発もなく、

でも3ヶ月毎に受けてるCT検査で心臓に腫瘍がある事がわかりました。

再発ではなく原発みたいででも心臓腫瘍も珍しいが

もっと珍しいタイプみたいで粘液を疑っていたんですが

粘液なら左心房にちょこんと出来るみたいだけど、左右真ん中にあり

明後日カテーテル受けるですがリスク高いと言われていて…

カテーテル受けないと手術は出来ないのでしょうか?

よろしくお願いします

********* 術直後に頂いたメールです *********

こんにちは。**です。 PL111B

昨日は手術どうもありがとうございました…。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
米田先生に母をみてもらえて本当に本当に良かったです。米田先生に出会えて良かったです。

昨日のICUでの母との対面は、手術終わったんだなってゆう気持ちと当たり前だけど子宮癌手術よりも昨日受けた心臓の手術のほうが何倍も大変?
な手術で前の手術よりも沢山沢山器材がついていて怖くなってしまいましたが…

私も口唇口蓋裂とゆう病気で全身麻酔の手術沢山受けてるから術後の辛さもよくわかります…。
私の場合は病室戻る時には人工呼吸器も取れているから、実際呼吸器つけてる母をみて怖くて…でも無事に手術終わったって事で安心と恐怖?で涙出てきました…。

今日午前中、母に会ったら会話も出来たし、リハビリで座ってたし本当に良かったです。

米田先生…

母はずっと傷跡の事も気にしていて地元病院だったら沢山切っていたと思うのに
先生に執刀して頂いたお陰で傷跡も母は気にしないでいけると思います。

言葉では上手く言えないけど本当に本当にありがとうございます。

 

********* 退院のころ頂いたメールです *********

 こんにちは。**です。 PL111C

約1ヶ月間母の入院、手術、色々本当にどうもありがとうございました。

米田先生に執刀していただいて本当に嬉しく思います。

米田先生をはじめ、グループの先生、母と関わっていただいた全ての人に感謝します。
本当にありがとうございます。

退院の日、米田先生にお礼の言葉を直接言えなくて残念ですが、米田先生に出会えて本当に良かったです。

ありがとうございます。

外来の日、母と一緒に行きますのでまた先生に会えるのを楽しみにしています。

ありがとうございました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例:「末期」心臓腫瘍に手術で立ち向かい2年間立派に生きられた患者さん

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心臓の悪性腫瘍つまり肉腫やがんは稀な病気ですが、いったんこれにかかると予後は不良です。

臓器の性質上、全摘除したくてもできないからです。

心移植できれば話は別ですが、日本ではそううまくは行きません。

下記の患者さんは約80歳の男性で、来院1年前から空咳がでるようになりました。

PreopXP近くのかかりつけ医院で心拡大と言われ、病院でエコーとMRI検査を受けた結果、心臓腫瘍と言われました。

すでに臓器のかなりの部分を侵しており、手術不能と言われ、心不全症状が急速に悪化して、あと1週間のいのち、と言われて米田正始の外来へ来られました。

右図は来院時の胸部X線写真です。

心拡大が著明です。

高度の心不全で息がつまりそうなぐらい苦しくなっておられました。

PreopCT調べますと、右室から主肺動脈さらに左室までを浸潤(しみこむように侵していく)する腫瘍で、その形と性状から悪性であることは確実でした。

左図は造影CT所見です。

さしあたり主肺動脈と肺動脈弁を閉塞すれば血圧がでなくなって突然死する恐れが高いため、救命措置として手術することにしました。

というのは、このタイプの心臓腫瘍の中には、ゆっくり増殖するタイプがあり、それなら当分は生きられる可能性があるからです。

さらに手術で腫瘍の標本が得られれば、それを精密検査することで、抗がん剤や放射線治療がある程度効くことがわかれば、さらに予後を良くする可能性もあったからです。

Tumor1手術ではまず主肺動脈を開け、右室流出路まで切開延長しました。

予想どおりこの部分は腫瘍で満杯状態となっていたため、これを徹底切除しました。

右図は腫瘍を摘除しているところです。スプーンで持ち上げているたまごのような形の赤黒いものが腫瘍です。

このとき肺動脈弁は腫瘍とともに切除しました。

左室に浸潤している部分だけは、いのちを守るために最小限切除にとどめました。

手作りの肺動脈弁をつけたパッチで切開部の天井を造るように閉鎖しました。

PostopXP将来腫瘍が再度増えて水などがたまっても困らないように、右胸とお腹に水抜きの窓を開けました。

こうして手術は無事終わりました。

術後経過は順調で、術翌日にICUを退室され、術後2日目には歩行を開始されました。

術後エコーやCTでも腫瘍はほとんど取れ、肺動脈弁はじめ心臓は良い状態となりました。

左図は術後の胸部X線写真です。術前よりうんと改善しました。

手術で切除した腫瘍の顕微鏡所見では肉腫つまりある種のがんであること以上は不明ということでした。心臓腫瘍ではしばしばこうしたことがあります。まだまだ不明な病気なのです。

術後ゆっくりとリハビリなどで体力回復していただき、3週間で退院されました。

その後、ご自宅でまずまず楽しく暮らしておられましたが、4か月後に心臓腫瘍が背骨に転移したことが判明、その治療をがんセンターで受けていただき、軽快しました。

痛みもペインクリニックの先生のおかげで和らぎました。

術後1年が経過し、患者さんはまずまずの状態で食欲もあり、家の中で運動し楽しみをもって暮らしておられました。

この時点でエコーではいったん再発気味だった腫瘍がまた小さくなり、ProBNP(心臓ホルモン)も2200から460まで改善するなど、奇跡に近い状態でした。

術後1年半たち、背中の痛みが次第に強くなりました。転移した腫瘍が神経を圧迫している所見でした。

さらに左眼が見えにくくなり、検査の結果、左眼の奥の部分への腫瘍転移と判明しました。

しかし患者さん・ご家族がよく頑張って下さり、放射線治療にて転移した腫瘍は治まり、視力さえ回復しました。これは皆安堵するだけでなくすごい!と感心しました。

術後1年8か月ごろに次第に動けなくなり近くの病院やご自宅で過ごされることが増えました。

1年9か月の時点で呼吸不全となり全身衰弱が進みご家族が見守られる中で息を引き取られました。

あと1週間ほどのいのち、と医師から宣告されてから2年近く、最後まで意欲をもち、弱音を吐くこともなく、前向きに頑張られました。その間、何度も家族団らんの楽しいひと時をもち、ご自宅だけでなく外出を楽しみ、がんの転移による危機を何度も乗り切るなかで、最後の最後まで人間としての尊厳を保ちつつ逝かれたこと、誇らしく思います。またそれを支えて下さった奥様はじめご家族の皆様に敬意を表したく思います。

この患者さんは見事にその人生をまっとうされただけではありません。

この患者さんのお話を聴いて、「自分も頑張ってみよう」と仰り、実際頑張って下さっている患者さんが何人もおられます。

心臓悪性腫瘍が稀な病気であることを考えると、数名の患者さんが年単位で生活できていることは、予想より高い確率で頑張れるともいえ、これは大きなことです。

心臓腫瘍とくに悪性、がん、肉腫と言われて生きる元気がなくりそうな方、まずはご相談下さい。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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原発性心臓悪性腫瘍【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月27日

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◼️原発性の心臓悪性腫瘍とは

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心臓から発生した悪性腫瘍(がんあるいは肉腫)です。
Ccbo024-s大変稀で2000人に一人の頻度という報告もあります。

悪性中皮腫、肉腫たとえば血管肉腫、悪性リンパ腫などが代表的です。

さまざまなタイプがあり、またその発生部位や患者さんの年齢体力などに応じたキメ細かい対応が必要です。

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多くの場合、薬や放射線が効きづらく、手術が治療の中心となります。

しかしその一方、悪性リンパ腫の一部など、薬や放射線が効くものもあり、しっかり調べることが大切です。

悪性腫瘍の原則は心臓原発の悪性腫瘍にも当てはまります。

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◼️完全切Ilm14_bf01002-s除できる場合は、

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しっかり切除して、手術後の心臓機能が維持できるよう、再建を行います。

そのため多くの場合、体外循環(人工心肺)をもちいて、徹底的に切除します。

この場合、私たちの方針は、

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①腫瘍が冠動脈を巻き込んでおれば、冠動脈ごと腫瘍を全摘除し、その末梢側の冠動脈にバイパスをつける、

②左室や右室などパワーをだす必要がある部位は切除に限度を設けてあとの心不全が悪化しすぎないようにする、

③洞結節は必要があれば腫瘍とともに切除し、その分、ペースメーカーを入れて洞結節の肩代わりをする、

などで、要は完全切除を安全に目指すようにしています。

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これらは患者さんが生き延びるために必須であるために行うのですが、こうした完全切除の場合、体への負担も大きくなり、高齢者や体力がすでに低下している場合は要注意です。患者さんの状態に合わせた最適治療法を考えるわけです。

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◼️完全切除Ilm02_ab04001-sできない場合

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あるいはすでに転移している場合は、全身状態を改善し、なるべく苦痛少なく、なるべく永く生きられるようなやさしい治療を行います。

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たとえば心嚢内(心臓の周囲のふくろ状の膜で囲まれた空間)に水や液体が貯まって心臓の働きを妨げている場合、心膜に穴を開けるだけの心膜開窓術が患者さんの体力回復と症状緩和に効くことがよくあります。

水は胸腔へ抜けて吸収されるか、適宜針や管(くだ)などを入れて抜くこともできます。

ただこの場合、腫瘍の本体は手つかずのため、そのあと腫瘍が発育してくる恐れがあります。可能ならこのときに薬や放射線が使えれば少しは有利に傾くことがあります。

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心臓の弁や大動脈・肺動脈などが腫瘍のため閉塞しつつある場合は根治性がなくても救命措置として、人工心肺をもちいて腫瘍を切除することがあります。

この場合も長期間の予後には懸念があるため、さまざまな後治療を考えます。

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◼️腫瘍にはゆっくりタイプもある

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Ilm01_ab03005-s心臓原発悪性腫瘍には slow growing tumorというゆっくりと大きくなるタイプがあります。悪性といっても比較的穏やかなタイプです。

このタイプでは完全切除できずとも、年単位で生きることが可能です。

だからこそ、原発性心臓悪性腫瘍だからといって、あきらめたり自暴自棄になってはいけないのです。

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私のトロントの経験では「末期」と言われた状態から心膜開窓術のあと、3年半も元気に暮らした方がありますし、

名古屋でもあと1週間と言われて強い心不全状態で来院され、緊急手術で2年近く生存された患者さんがおられます(心臓手術事例)。

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◼️頑張りましょう

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このように米田正始が心臓腫瘍に経験が豊富なためか(トロント大学で多数経験したものを発表しました, 英語論文156参照)、原発性悪性腫瘍の患者さんが全国から来られる傾向があります。

心臓手術・事例:右房全置換にて完全切除できた心臓腫瘍)

この手術治療に際しては、平素の弁形成術や左室形成術、血管手術の経験が大変役立っています。腫瘍を切除するために弁や左室や血管の一部を切除することがよくあるからです。

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悪性腫瘍はさまざまな科の専門家のちからを集める集学的治療が威力を発揮する病気です。

地元や他科・他病院の先生方と協力して、できるだけお役に立てるように努力しています。

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執筆:米田 正始
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お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん

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心臓腫瘍はまれな病気ではありますが、

突然患者さんを襲ってくる、無視できない病気です。

 というのは心臓腫瘍のタイプによっては悪性度が高く、そのままでは転移したり、

全身を壊すことがあるからです。

悪性でなくても、心臓腫瘍がちぎれて血流に乗って脳へ流れて行けば、

脳梗塞になってしまいます。

 いずれの場合もすみやかに治療することが勧められています。

治療は手術が基本です。

 

Ilm10_dh03003-s 心臓腫瘍の多くは粘液腫というゼリー状のもろい状態の腫瘍です。

しかし中には悪性腫瘍や、その他の腫瘍もあり、

もともとまれな病気のためかなりの経験量をもつ心臓外科医でないと初めてとかそれに近い心臓手術となり、

少しでも教科書からはずれた所見があると困ってしまいます。

以下は心臓腫瘍がたまたま発見され、

希望して名古屋ハートセンターへ来られた患者さんからのお手紙です。

その少し前に乳がんが見つかり、手術や薬の治療を受けられたところでした。

不運が相次ぐ形となり、患者さんにはまことにお気の毒でしたが、

前向きに頑張って下さり、

また私たちもこれで不運は打ち止めにしていただこうという意気込みで一緒に頑張りました。

 

Ilm09_ag04009-s手術では普通の左房粘液腫とは違う、

僧帽弁輪から発生し、左房壁の中にうずもれた、

どちらかと言えば悪性度が高い形でしたが、

悪性腫瘍の可能性を考えてそれらを二方向から徹底切除し、完全切除できました。

それを弁形成の経験を活かして再建しました。

顕微鏡で調べて頂いた結果、良性の左房粘液腫でしたが、

粘液腫と言えども、不完全切除すると後で再発することが報告されているため、良かったと思います。

MiniSkinI手術はミックス手術(MICS)法に準じた形で小さな皮膚切開で行い、

比較的お若いご年齢の女性の心の負担をなるべく軽くするように努めました。

患者さんも喜んで下さり、努力の甲斐があったとチーム全員うれしく思いました。

 

私たちはがん治療の専門家ではありませんが、

がんの先生方と力を合わせて心臓病の視点から今後も治療支援をしていく予定です。

 

なおお便り11も粘液腫の患者さんからのものです。ご参考に。

 
*************************

米田正始先生

先週7月1日に無事退院することができました。

 
先生に一言ご挨拶をと思いましたが、ご不在とのことでしたので、お礼も申し上げず失礼いたしました。
この度は私の左房内の腫瘍をきれいに切除していただき大変ありがとうございました。

思えば1月に「乳がん」の告知を受け、胸を切り取られてからのこの半年はつらい日々でした。それでも現実をしっかり受け止め、前向きに治療に取り組んでいた私に、次に告げられた病名が「左房粘液腫」でした。

正直なところ「目の前が真っ暗」というよりは、「今度は何?」という気持ちでした。でも偶然にもハートセンターさんと米田先生のことを知ることができ、あの日思い切って先生にメールでご相談してつくづく良かったと思っております。

先生の手術のおかげで心臓も元気になり、手術の傷跡も小さく外見からはほとんど気にならない程度で、大変ありがたく感謝しております。

2週間の入院中はとても苦しい時期もありましたが、深谷先生、北村先生、小山先生にはとても優しく丁寧に診ていただきました。また看護師さんやヘルパーさんの方々にも親身にお世話していただき、みなさんのおかげで退院できるまでになれたと思います。どうもありがとうございました。

今日はいただいた診療情報提供書を持って**病院に行ってまいりました。中断していたハーセプチンの投与は再開しましたが、放射線治療についてはとりあえず傷が治るまで延期ということになりました。

ハートセンターさんを退院する時は「これで私も健康になれた!」と一瞬うれしく思えましたが、実際は私の場合単に「乳がん治療ができる体になった」というだけのことで、病気との闘いはこれからもまだまだ続きます。

でも必ず元気で健康な体を取り戻すべく、気持ちを強く持ってこれからもがんばっていこうと思います。
私に元気な心臓と明日への希望を与えてくださいました先生に、心より感謝しております。
本当にありがとうございました。

暑さきびしき折、先生もどうかお体ご自愛ください。

 

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心臓腫瘍について―しっかり取って確実に再建すれば多くは治せる 【2022年最新版】

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最終更新日 2022年2月3日

心臓腫瘍という病気はあまり知られていないと思いますが、少数ながら存在し、患者さんにとってはその確実・的確な治療が大切です。
心臓腫瘍の多くは良性腫瘍ですが、ときに悪性のものもあります。
また良性であっても心臓という場所がら、その一部がちぎれて血流に乗って飛べば脳梗塞などを起こすものもあり油断できません。
ここでは大人の心臓腫瘍で主なものを挙げます。

心臓腫瘍のばあい、悪い細胞をただやっつけるだけでは患者さんが救えないこともあります。しかしそのままではさらに困るものです。的確な作戦と実行が大切です

1. 粘液腫(ねんえきしゅ)

心臓腫瘍で一番多く、3分の1を占めるものです。
とくに左房粘液腫が多いです。
これがちぎれて飛ぶと脳梗塞などの問題が起こるため、速やかにオペすることが必要です。
良性腫瘍ではありますが、不完全に切除すると何年か経って再発することがあり、あくまでも完全切除が手術の原則です。

もっと見る

1. 粘液腫は腫瘍?それとも?

かつては謎の病気でした

粘液腫は腫瘍について

ご参照ください

2. 粘液腫にたいするミックス手術

比較的お若い患者さんをはじめ、創も痛みも小さいためお役に立ちます

粘液腫にたいするミックス手術について

2. 弾性線維腫

弁に発生しやすく、ちぎれて飛ぶという心配があります

良性腫瘍ではありますが、もしちぎれて飛ぶと右心系なら(右図の紫色のところから肺へ肺塞栓に、左心系なら脳梗塞や腎梗塞その他の梗塞(右図の赤い色の大動脈から脳や腎臓へ)が起こり、危険です。
良性だからといって、油断は禁物なのです。


3. 脂肪腫

厚い脂肪組織のように見えることもあります
脂肪浸潤と呼ばれるものと見極めがつきにくいこともあります。

4. その他の良性腫瘍

横紋筋腫、線維腫、血管腫、房室結節中皮腫、奇形腫などなど

5. 転移性悪性腫瘍

他の臓器のがんが心臓まで転移したものです。
次項の原発性悪性腫瘍の30-40倍と多いです。
肺がんや乳がんの患者さんの10%で同様の転移が見られます。
悪性黒色腫では75%に心臓転移が認められます。
この場合は根治術は不可能ですので、たとえオペする場合でも対症療法としてのそれを考えることになります。

6. 原発性悪性腫瘍

心臓からがんあるいは肉腫(にくしゅ)が発生したものです。
悪性ゆえ治療に際してはさまざまな注意が必要です。
しかしそれでも生きる望みが絶たれたとは限りません。
頑張れる場合もあるのです。
なおこどもの心臓腫瘍では、良性腫瘍で一番多いのは横紋筋腫で40%を占め、ついで線維腫が挙げられます。こどもの粘液腫は悪性あるいは悪性になりやすいため注意が必要です。
それぞれの心臓腫瘍の詳細は別頁にゆずります。

もっと見る

心臓外科の観点からはできるだけ腫瘍をすべて切除し、再発を防ぐとともに、心機能が損なわれないように確実な再建を行うことが重要と考えます。
とくに悪性度が高く、まだどこにも転移していないという状況のときには完全切除をめざし、そこでできた大きな欠損を確実に再建することが予後を改善し患者さんの寿命を長くするのに役立ちます。
そこでは弁形成術左房形成術、大動脈・肺動脈などの血管形成術、さらに左室形成術などの経験が役に立ちます。
逆に心臓のさまざまな部分が再建できるからこそ、腫瘍を完全に切除できるわけです。

腫瘍がすでに周辺に波及するなどして完全切除できない場合は大きな手術はかえって患者さんの寿命を縮めることがあります。
なのでできるだけ苦痛を減らす、その中でできるだけ寿命を延ばす、人間らしい状態での寿命を延ばすことが大切です。

7. 心膜嚢腫(しんまくのうしゅ)

心臓の周りにある心膜という膜から発生する腫瘍で多くは良性です。
中に水がたまり心臓を圧迫したり、悪性との見極めがつきにくいときなどに手術します。
傷跡が見えにくいMICSで手術することが増え喜ばれています(心膜嚢腫のMICS)。

8. 患者さんの想い出

Aさんは60代男性で、北海道から連絡をして来られました。もとプロ野球チームのスカウトをしておられた元気な方です。
地元の立派な大学病院で心臓悪性腫瘍のためもう手術できない、手が打てないと言われたそうです。そのため2か月以上もそこでじっとしているだけの入院生活を送っておられました。たまりかねたご家族が私のところへ連絡を取って来られたのです。
データを送って頂き、拝見しますと右室に腫瘍が充満し、危険な状態です。このままでは突然死の恐れもあるほどでした。
腫瘍の広がり具合から根治術は難しい状態でしたが、このまま突然死するよりは、まず当面生きられる状態にすることが必要と判断しました。というのは心臓腫瘍の中にはゆっくりと増殖するタイプがあり、腫瘍が全部取れなくても当分はまずまずの状態で暮らせることが経験上、あったからです。
しかし動くこと自体が危険な状態で搬送も難しい状態でしたので、ハートセンターから医師を派遣し、飛行機+空港から救急車で随伴して病院まで来て頂きました。
まもなく心臓手術を行いました。腫瘍は取れる限り取り、取れないところも冷凍凝固などをもちいてできるだけ腫瘍細胞が死ぬか弱るようにしました。とりあえず突然死の恐れは消えました。
顕微鏡検査の結果が出て、悪性リンパ腫という、薬や放射線治療が効く可能性のあるタイプであることが判明しました。薬を使う化学療法や放射線療法は北海道の地元の病院がやって下さることになりました。
まもなく患者さんはお元気になられ退院して北海道へ戻られました。
これから化学療法などで腫瘍をうんと弱め小さくできると期待していましたが、そうするまでに患者さんはがんの全身転移のため地元で亡くなられました。
そうなるとあの何も手が打てずただじっとしていた2か月以上の時間が悔やまれます。すぐに心臓手術し、まもなく薬を使えば当分は元気に暮らせた可能性があったからです。
この教訓から心臓腫瘍の患者さんには、あきらめずに速やかにかつ広く情報を集め、セカンドオピニオンをもらって治療してくれる病院を探ることを一度は御検討頂ければと思うのです。
心臓腫瘍とくに悪性心臓腫瘍のように稀な病気ではその経験が豊富なチームでしかできない治療があるのです。

(後日談:数年前、この記事を読んだ別の心臓腫瘍患者さんの息子さん(奇遇にもプロ野球の選手でした)が連絡を取ってこられました。直ちに来院即入院いただき、2日ほどの間にPETや心カテーテルを含む検査を一気に行い、何と悪性リンパ腫であることが判明しました。すでに腫瘍が広がり手術よりも薬の方が良い形のため、直ちに優れた血液内科医に相談し、化学療法を実施、あれから4年が経ちますが患者さんはお元気で私の外来に通院中です。私は患者さんに一言言いました。あなたは立派な息子さんを持って幸せですね、と。)
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