HOCMの手術にもミックス法は使えるの? 【2025年最新版】

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Ilm03_ba01013-s最終更新日 2024年12月31日

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◾️HOCM肥大型閉塞性心筋症のミックス手術とは

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傷跡が目立たない ミックス手術つまり小切開手術は手術後の痛みを軽減し、心臓リハビリを促すことで肺炎その他の合併症を減らし、患者さんの仕事や楽しい生活を早期に取り戻すのに役立ちます。

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私たちのチームではこのミックス手術は僧帽弁膜症ASD心房中隔欠損症だけでなくさまざまな病気の患者さんに活用しています。

より多くの患者さんたちに、手術の恩恵が届くようにという考えからです。

HOCM(肥厚性閉塞性心筋症)あるいはIHSS(特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症)の手術(モロー手術と呼びます)のときにも活躍するのです。

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◾️HOCMへのミックス手術、これまでの動き

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最近までミックス法の頂点ともいえるポートアクセス法つまり右小開胸で胸骨をまったく切らない方法までは使わず、それより少し穏やかな胸骨下部部分切開法をもちいたミックスを使って成果をあげて来ました。

186218630これなら胸骨は手術後も安定が良く、痛みも減りますし、創も低い位置にとどまり、夏服などでもあまり見えません。

上記のように合併症を減らし、安全性を高めるのにも役立ちます。

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HOCMに対するモロー手術では、ときに僧帽弁形成術などを併用することもあります。僧帽弁そのものが壊れている場合などですね。このような場合にも上記の胸骨下部部分切開によるミックス法は対応できます。これは役に立ちます。
通常こうした複雑な心臓手術にはミックスは不向きという意見もあります。それは経験とたゆまぬ研究で支えられたノウハウがあってのことです。私たちの方法では大動脈弁越しに左室心尖部まで見えるためさまざまなタイプのHOCMに対応できるのです。

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MICS3◾️HOCMへのミックス、新しい動き

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さらにこれを改良し、ポートアクセスつまり胸骨を切らずに傷跡が一層目立たないHOCM手術を進めています。右図の右側のように。

僧帽弁を一部切り開いて左室に入ります。異常心筋を切除したあと僧帽弁形成術で僧帽弁を元通りに治すわけです。

良い方法と思ったのですが、僧帽弁を一度切ってまた元通りに戻す際に弁尖が小さくなり、やむなくパッチを使う必要があるとう報告がありました。パッチは年々劣化するため長期的には問題あり、これでは低侵襲とは言えないと指摘されています。

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そのため、傷跡は通常の正中切開とあまり変わらないものの、術後の痛みが軽く、退院後まもなく仕事復帰やクルマ運転復帰ができる「もうひとつのミックス」を私たちは使っています。美容目的ではなく、安全と早い仕事復帰が目的の方には良い選択肢と考えています。傷跡が小さいだけがミックスの全てではない、要は個々の患者さんが一番得する方法は何か、ということです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: HOCMと大動脈弁狭窄症とペースメーカー三尖弁閉鎖不全症を根治

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弁膜症がらみで除脈となりペースメーカーが必要になることはときどきあります。

ペースメーカーは除脈つまり遅い脈には効果抜群の治療法ですが、電気ケーブルを三尖弁ごしに右室へ入れる必要があり、一定の確率で三尖弁閉鎖不全症が起こります。

PreopXP患者さんは77歳女性で労作時の息切れを主訴として紹介来院されました。

もともと大動脈弁狭窄症をわずらっておられましたが、除脈のためペースメーカーを入れてから息切れが悪化したといいます。 PreopCT

左図は術前の胸部レントゲン写真です。大きな心臓です。

写真の左上にペースメーカー本体も見えます。

右図は術前のCT写真です。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を横切っているのが見えます。通常はそう問題にはならないのですが、この患者さんの場合は三尖弁を閉じなくしてしまったのです。

PreopEcho調べてみますと、大動脈弁はピーク速度が4m/sに達する強い狭窄がありました。

それに加えて、弁の下、左室流出路(左室の出口近く)に異常心筋のでっぱりがあり(HOCMとかIHSSと呼びます)、弁とあわせて一層狭く危険なレベルに達していました。

それを反映して、右室圧49mmHgと肺高血圧症も合併していました。心臓が悪いため肺にも無理がかかっているのです。

三尖弁はペースメーカーケーブルに押されて高度に逆流し三尖弁閉鎖不全症になっていました。

このままでは心不全や肝不全などが悪化する懸念があり、手術することになりました。

ところが手術前の検査で腹部大動脈瘤も見つかったため、これも注意深く見張りながらまず心臓手術を行うことにしました。

A弁観察手術ではまず硬くなった大動脈弁を切除しました。

大動脈弁口ごしに左室が見やすくなりました。異常心筋が発達し、左室の中が見えなくなっていました。

つまり左室内の血液が大動脈へ駆出しづらいともいえる状態です。

異常心筋切除開始そこでこの異常心筋を切除しました。

左図は切除を開始したところです。

この時点では左室の中はほとんど見えません。

慣れた外科医には短時間で異常心筋切除後完了する手術ですが、経験の少ない外科医には危険な手術です。さまざまな落とし穴があるからです。

左室の中が見えるように なり、血液がスムースに流れる所見となりました。

右図は異常心筋切除後の姿ですが、左室の中にある乳頭筋が良く見えるまでに改善しました。

AVR完成ここで生体弁を大動脈弁の位置に縫い付けました。

十分なサイズの生体弁が入りました。

左図がそれです。

 

つぎに右房 PMケーブルと三尖弁を開けて三尖弁を見てみました。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を圧排し弁が閉じにくくなっていました。

そこでこのケーブルを弁の付け根の安全なところに移動し、固定しました。

三尖弁形成術完成そのうえでリングをもちいて三尖弁形成術を行いました。

もう弁はケーブルに邪魔されることなく普通に動けるようになりました。

右図は術中経食エコーで、三術後TRほぼ消失尖弁はきれいに作動するようになりました。

術後経過は良好で、手術当日夜、人工呼吸器を離れ、翌朝、集中治療室を退室できました。

術後2週間目に元気に退院されました。

その後、畑仕事もできるほどに回復されました。

外来で定期健診を受けておられましたが、腹部大動脈瘤が次第に大きくなり50mmに達したため心臓手術から1年6か月後に手術することになりました。

お腹の皮膚を切らずに治せるステントグラフトEVARを第一選択として検討しましたが、腹部大動脈が屈曲し、ステントグラフトを固定するエリアが小さいことなどから、学会委員会の御意見として通常の外科手術による腹部大動脈置換が適切という判断となりました。

そこでお腹の皮膚を約10㎝と小さく切るミックス法でアプローチしました。

腹部大動脈をY型ダクロン人工血管で取り換えました。

術後経過も順調でまもなく元気に退院されました。

それから2年が経ち、外来でお元気なお顔を拝見するのが楽しみになっています。

ここまでの経過を振り返り、なんだか病気が多く、手術手術で申し訳ない気持ちですが、これで一件落着、安定された感があります。

これからさらに楽しく過ごして頂ければと思います。

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執筆:米田 正始
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HOCM(肥大型閉塞性心筋症)の手術のガイドライン―守られていますか?

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HOCM(別名IHSS)単IHSSの模式図です。心室中隔の一部が出っ張っています独のガイドラインはないのですが、これを含めた肥大型心筋症のガイドラインは以下のものがあります。

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006年度合同研究班報告)
肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)によりますと、

肥大型心筋症(別名HCM)の外科治療の適応はつぎのとおりです。

 
■Class Ⅰ手技,治療が有効,有用であるというエビデンスがあるか,あるいは見解が広く一致している

1.NYHA Ⅲ度以上の症状を有し,薬剤抵抗性で,安
静時に50mmHg以上の左室流出路圧較差を認めるHOCM

2.意識消失発作から回復し,安静時ないし薬物負荷時に50mmHg以上の左室流出路圧較差を認め,薬物抵抗性のもの

■Class ⅡクラスⅡ:手技,治療が有効,有用であるというエビデンスがあるか,あるいは見解が広く一致していない

1.心症状は軽度ないし認めないが,薬剤抵抗性の,安静時に50mmHg以上の左室流出路圧較差を認めるHOCM

■Class Ⅲ クラスⅢ:手技,治療が有効,有用でなく,時に有害であるとのエビデンスがあるか,あるいはそのような否定的見解が広く一致している

1.無症状ないし薬物療法にてコントロール可能なもの

2.症状はあるが運動あるいは薬物負荷試験にても左
室流出路圧較差のない肥大型心筋症

このガイドラインから、

薬が効かず、失神発作や心不全などの強い症状があるHOCM(IHSS)では

心臓手術を検討するのが安全上勧められると言えましょう。

実際、ガイドラインを無視した治療で大きな合併症を引き起こしたケースの報告があります。

私たちの経験ではMICS(ミックス手術)に準じた比較的小さい創で、モロー手術によってHOCMはほぼ確実に治せますし、ペースメーカーが必要となったケースは経験していません。

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