2010年1月25日 地震と心臓

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阪神大震災の惨状 阪神大震災から15年が経ちました(写真左)。最近はハイチの地震で何十万人の被害者がでています(写真最下段)。地震は本当にやっかいなものです。一日も早く予知ができるようになればと思います。

地震の原因はよくメディアでも報道されています。地球のマントル対流のためにプレートが移動し、そのプレート同士の接点のところでひずみが蓄積されそれが何かのきっかけで一気に取れるとき、振動が起こって周囲が揺れるのです。そのプレートの動きが心臓の心室心筋の動きに似ていて、解決のための何かのヒントにならないものかと思うことがあります。

心臓の中で全身ポンプの役割を果たす左心室は何層にも心筋(心臓の筋肉なので心筋と呼びます)が折り重なり、ベストの動きができるようになっています。地球で言えば多数のプレートがお互いになじみ、きれいにすべりながら動いているのです。すべりながら動くお蔭で心筋へのストレスが分散され安全に仕事ができるというわけです。もっとも心臓自体はよく動きますので、ミクロの地震をいつも起こしているとも言えるのかも知れませんが。

心臓のプレートがずれて行くために左心室のねじれ運動や血液を送り出している最中の壁のねじれ運動とバチスタ 肥厚(収縮期肥厚)がスムースに行われます。写真右はバチスタ手術の最中の心臓とねじれ運動(矢印)を示します。心筋梗塞のあとや心移植後の拒絶反応のときにはこのねじれ運動が障害されたりパタンが変わったりします。心筋梗塞でやられた部位とねじれ運動の変化が起こる部位が必ずしも同じでないところに絶妙の構造がうかがえます。

つまり心臓全体のバランスの中で局所の動きが成り立っているということです。ねじれ運動や収縮期肥厚のおかげであまりエネルギーを使わずに左心室は血液を全身に送りだせるのです。おもえば地球もひずみの蓄積が地震で取りはらわれなければ地球そのものが壊れてしまうのかも知れません。

ハイチ地震 mirror.co.ukより だからと言って地震をそのまま容認するわけにはいきませんので、やはりエネルギーの蓄積とその放出(つまり地震)の関係やタイミングを正確に測定・予知できることが大切と思います。どういう所見が出てくればまもなくプレート境界部でエネルギー放出が起こるのか、ということですね。

逆に、地震の予知ができる技術が進歩すれば、心臓のエネルギー効率もより改善でき、心不全などの治療にも役立つようになる、などと考えるのは心不全や心臓病の治療に命をかけて来たものの性癖とでも言えるのでしょうか。ともあれ地震の被災者の方々のご冥福や一日も早いご回復を祈らずにはおれません。

 

2010年1月25日 米田正始

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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2010年1月18日 初煎会にて

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この17日に京都で初煎会に行ってきました(関係の皆さま、ご招待ありがとうございます)。煎茶の初釜の会方円流です で、煎茶道方円流の水口豊園家元の主催で(写真右)、京都らしい雰囲気でした。

高台寺はじめいくつかの有名なお寺の高僧や山田京都府知事さんはじめ地元関係の政治家も参加され、伝統文化の行事と選挙の年が合わさった雰囲気も感じられました。しかしお茶というのはおごそかな心地良い緊張感とともにどこかなごむところもあり、和気藹々とした雰囲気で会は進められました。

高僧のお話で、お茶を単なる飲み物から精神文化へと発展させたのは東洋のユニークな努力の結晶とのことで、確かに単なる飲み物や楽しみとはずいぶん違う、文化の香りをあらためて感じます。あの秀吉はじめ戦国武将らもそれにはまってしまう魅力が現代にも通用するのはうなづけることです。

今回は台湾の煎茶の会の人たちが数名参加され、お茶を入れて下さいました(写真下)。台湾でもお茶は人気があるそうで、来年は国際交流の会が台湾で催されるとのこと、良いことですね。

私は講演や学会で台湾へは2回ほどお邪魔させて頂いたことがあります。何となくその場の空気が暖かい、台湾は亜熱帯だからというだけでなく、日本が好きという空気を感じます。そこで何人かの若者台湾の煎茶の人たちがお茶を入れて下さいましたに聞いてみました。君らはお金を貯めて何につかいたいの?すると彼ら(彼女ら)は異口同音に「日本に遊びに行きたい」と。うれしい一瞬でした。

さらに案内の方が、あそこに見えるクラシックな建物は昔日本が私たちのために建ててくれた病院です。今も大切に保存しています、と。日本はアジアでかなり悪さをしていたと恐縮していた私には驚きで、昔の日本も国によっては愛されることもしていたのだとうれしくなりました。中国大陸や朝鮮半島でも同様にしておけば良かったのにとふと思うのは私だけではないようです。

話が脱線しましたが、煎茶の会はお抹茶の会よりもややカジュアルな雰囲気があり、こうした会も文化とコミュニケーションの場として貴重と思いました。せっかくですので、来賓の中で将来の日本の政治を担ってくれそうな若手政治家に医療崩壊の現場のお話をちらっとさせて頂き、国民は医療の回復を切望していますとご説明したところ、積極的なご意見を戴き、ちょっと報われたような気になりました。僭越ながら例のお話、毎年2200億円の医療費等を5年間も削られたそのダメージの大きさもあらためてお伝えしてしまいました。

お茶はからだに良いというのは広く知られていますが、具体的にどのように良いか、意外に皆さんご存じありません。私はかつて京都大学で緑茶ポリフェノールが心臓の手術や治療に役立つことを動物実験で証明し、アメリカ等で発表したことがあります。昔の人たちは科学的証明手段は持たずとも、経験や直感でそれを知っておられたのは見事と思います。

楽しい文化的雰囲気の中で飲むお茶の味はまた格別という気持ちにさせてくれた一日でした(お世話して下さった松岡さんに感謝!)。

 

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2010年1月14日 手術の待ち時間

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1月12日の中日新聞によれば、がんの手術の待ち時間が長くなり問題になっています。

以下、中日新聞WEBの記事から抜粋します:「ほぼ半数(の病院)が3つのがん(胃、肺、乳がん)のいずれかで、最近5年間に「延びたと感じている」ことが分かった。現在の手術待ち期間は最長で「3カ月」との回答もあった。病院側は拠点病院への患者集中や外科医、麻酔科医不足を主な理由に挙げている。」理由はともあれ、がんと診断されたのに、手術してもらえずに無為に待たされている患者さんがおられるわけです。

ベストの手術をベストのタイミングで さらに次のような記載がありました。 「がんの進行度にもよるが、医学界では一般的に1カ月未満が望ましいとされる手術待ち期間は、肺がんでは1カ月以上の回答が4割を占めた。岐阜県のある病院は「2~3カ月」と答えたほか、「2カ月」「1・5~2カ月」「1・5カ月」とした病院が、それぞれ1病院ずつあった。 1カ月以上の回答は、乳がんでは45%、胃がんでは37%を占め、どちらも最長は2カ月だった。」つまり手術を待たされている間にがんが増大したり運が悪ければ転移して取り返しがつかなくなる心配さえあるわけです。

この記事を読んで、かつて国立大学病院で勤務していたころの苦労を思い出しました。患者さんは心臓病が悪くなった段階で突然来られることがよくあります。そして同じ時期に何人も来られることがよくあります。そうした時に、手術は(心臓手術も)週何例などと人為的に決められている国立施設では対応が難しくなります。結局、待てる患者さんはうまく時間稼ぎをして何週間とか何カ月後に手術をし、急ぐ人はできるだけ早く、といっても医学的な観点から心臓手術のタイミングを決めるとは限らず、順番待ちタイミングになってしまいます。それでは良くないと考え、まだ待てる患者さんに直接相談しお願いして延期を快諾して戴き、それに代えて待てない患者さんの手術をさせてもらうとか、どうにもならない時は救急車で近くの病院へ転送してそこで手術させて戴くなどもよくやりました。

そこにいる誰もが、「これは良くない、おかしい」とは認識していましたが、次第に「どうにもならない」、「まあ仕方がない」、さらには「ベストタイミングでベスト手術をやりたいなら、そういう態勢のある病院で仕事すれば良い」、などという開き直り議論まで出る始末。国民の血税で支えられている病院という空気はそこでは希薄です。さらに残念だったのは病院のトップレベルの立派な先生からそうした意見が出たことです。

私は内科研修医のころ、自分の受け持ち患者さんにがんが見つかれば、外科の先生にお願いしてできれば来週中に手術をお願いしますと懇願を重ね、いつも苦笑しながら許して頂きました。身勝手でうるさい研修医と自認していましたが、研修医の自分が今この患者さんにできるベストのことはこれしかないと信じて懇願しまくっていたのです。その民間病院の理念のおかげもあったのでしょうが、それを認めてくれた当時の外科や麻酔科の先生方は今振り返れば立派だったと思います。

現代はもっと医療状況は悪いため、がんでも心臓病でもさまざまな工夫が必要であることは理解できます。しかし問題を問題と認識できない、あるいは認識していても知らん顔をするという向きが多すぎるように思います。自分が今仕事している病院では、創立者がこうした問題を打破するという強い信念をもって循環器(心臓血管)専門病院を創った経緯から、無用な手術待ちやたらい回しなどの問題がないのには救われた思いになります。しかし医療崩壊は公的病院のみならず経営努力を続ける民間病院にも影響を及ぼしています。問題を認識し、いつも皆で考えるという当然のことを再確認する必要があると思います。

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2010年1月6日 寒い日にご注意を

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寒い日が続きます。お正月明けですからあたりまえですが、この寒い季節にはハートセンターのような心臓専門病院は忙しくなります。つまり寒くなると心臓の調子が悪くなるのです。

たとえば狭心症の患者さんでは寒くなるとそれまで安定していた症状が急に悪化し、狭心症が何度も起こったり、運が悪いと心筋梗塞を起こして緊急入院・緊急治療になることもあります。それは寒くなることで全身の動脈が縮こまって血液の流れが悪くなり血圧が急に上がったりしやすくなって心臓への負担が急に増えるからです。また寒さのために心臓に血液を送る冠動脈そのものが縮こまり血液が流れにくくなることもあります。つまり急な寒さは心臓の大敵なのです。琵琶湖西岸の冬景色

同様に、心不全をお持ちの患者さんでも、寒くなると心臓への負担が急に増え、それまでお薬や養生で何とか安定していた心不全が一気に悪くなることがあります。心不全の原因となる弁膜症や心筋症その他の病気でも同じことが起こりやすいため注意が必要です。(写真は心臓外科医の写真紀行記より引用)

昔の人は偉かったと思うことがよくあります。まだ科学技術がそれほど発達せず、医学も医療も未熟であった時代でも、心臓の悪い患者さんをみて、この冬を無事に乗り切ってくれれば良いが、などと普段以上の注意をしたものです。実経験の中には科学が息づいているという一例ですね。

また寒くなると肺や気管支などの空気の通り道が寒さのために傷み、肺炎や気管支炎のもとになります。現代のエアコン社会では暖房のために湿度が下がり、お肌もカサカサ、肺や気管支の表面もカサカサとなって抵抗力は落ちてしまいます。そこへばい菌やウィルスがつけこむと肺炎や気管支炎になりやすくなります。まして心臓がもともと悪い方の場合は二重に肺もやられやすくなります。

そのため冬にはいつも以上の、ちょっとした気遣いが心臓や肺や体を守ります。たとえば急に寒いところに行かないように、トイレは少しあたたくしておくとか、寒いときはポータブルトイレを寝室に置くとか、やむなく外へ出るときは軽くウォームアップしてから出るとか、マスクなしで冷たい空気をいきなり吸わないとか、エアコンをつけるときは加湿器も使うなどですね。それらのケアに加えて、必要なときにはお薬を出してもらえば、効き目も上がるというものです。

そして心配なときは気軽に相談できるようなかかりつけの先生とか主治医をもっておくというのも有効です。私は自分が手術させて戴いた患者さんに、何か困ったことが起こればいつでも病院まで連絡して下さいとお伝えしています。そのおかげで寒い季節でも安全に回復されたことは何度もあります。近くの患者さんでしたら直接病院へ来ていただき、関西、首都圏や九州その他遠方の方はその地域の先生にこちらからもお願いして早期発見・早期治療できるようにしています。

寒い季節を楽しく安全安心で過ごしましょう!

米田正始 拝

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2010年元旦 新年おめでとうございます

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明けましておめでとうございます

旧年中はこの心臓外科医の日記ブログを読んで戴きありがとうございました。今年もよろしくお願い申し上げます。

昨年は世の中も医療の世界もさまざまなことがありました。

政権交代があり、医療についてもこれまでの問題点とくに医療崩壊について熱い議論がさあるホテルにて、新年の飾りです れるようになっています。新年早々ですので、なるべく肩の凝る話はしたくないのですが、医療の世界とくに公的病院での税金の無駄遣い(たとえば仕事もしない天下りの人たちへの高給)に光が当てられるとともに、患者さんや社会を守るための予算を削減されないように皆で努力する必要があります。福祉や医療のための予算を毎年2200億円ずつ削減されて来たのが昨年、ようやく止めになりました。しかしその打撃から立ち直るにはまだまだ時間がかかりそうで、その間、患者さんを守る必要があります。

医療は、とくに心臓関係は365日24時間体制でなければなりません。ただし現在の医療費・医療体制では完全シフト制を敷くだけの人手は雇えず、職員の献身的ボランティア精神で何とかうまくこなしているのが現状です。たとえばハートセンターでは緊急手術となれば待機メンバーが直ちに病院へ来てくれて当直医と合流し、いつでも必要な手術ができます。私のような中間管理職?もその時のために病院から歩いて10分(走れば3分!)のところに住んでいます。

逆にそうした工夫ができない病院では診療拒否とかたらいまわしなどが起こっています。救急車でのたらいまわしなどの目に見える医療崩壊はまだ議論になりやすいのですが、重症患者さんなどをリスクが高いからと手術・治療や検査さえ拒否したり遅延させるような形での医療崩壊は社会から見えにくく、根深い問題です。名古屋で仕事を始めて1年余り、そうした公的病院内での医療崩壊を多数見て来ました。

この不況の時代で明るいニュースはあまりないのですが、これまで私たちが主張してもなかなか議論にもなりにくかった上記の話が「話しになる」状態になり、徐々に解決策へと進めそうな雰囲気になっているのは幸いです。またこれまで医療費亡国論つまり医療費に予算を投入すると日本経済はダメになるという誤解があり、そのために医療費を削って道路工事などに多額のお金を投入するというのが日本の姿でした。しかしそれは誤りであると科学的に証明がされました。その話しはまた別の機会にご紹介しますが、とにかく今後の医療や福祉の充実のためには役立つ情報です。

これからの時代は患者さんや市民の皆さんが声を出して問題を解決することも大切かと思います。結局堅苦しいお話になりました。申し訳ありません。

皆さん、今年も真摯にかつ明るく楽しく前向きに進みましょう。

平成22年1月1日 米田正始 拝

 

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2009年12月27日 散髪屋さんにて

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著者が名古屋にて新しいハートセンターを皆でスタートし一年あまりが経過しました。毎日生きがいを感じて患者さんと向き合えることを関係の皆さんに感謝してます。病院の近くに住むのが長年のポリシーなので散髪も名古屋市内の美容院に行くことが多いのですが、かつてお世話になった京都市内の散髪屋さんへも時間が取れるときには行くようにしています。この12月に久しぶりにお邪魔したのですが、いつもの元気な雑談の中に含蓄ある話がまた聞けました。

京都のど真ん中で小さな理髪店を営んでおられるこの御主人は、有名なブログ「 柳居子徒然」の作者でもありま正月の下鴨神社ですす。京都らしいとおもうのはその付き合いの幅広さで、文化・宗教・芸術関係はもとより京都大学などの大学人とも交流があるらしく、著者も昔お世話になったことのある元京大総長の岡本道雄先生の頭も刈っておられたことを知った時には、ブログ内容の奥深さの源の一つを見た思いがしました。(写真は下鴨神社、柳居子さんの写真がなかったもので)

以前、柳居子さんにブログ内容の幅広さや奥行きの秘訣をあつかましく質問すると、いやあーいろんな立派な人たちとの雑談の中で勉強した、いわば耳学問のおかげですわ、とのことでした。確かに散髪屋さんへはさまざまな年齢・職業・立場の方も行かれるし、そこで少なからぬ時間それも定期的に話しできるというのは得難い機会に違いありません。また散髪屋さんという比較的親しみやすく庶民的な空間から遠慮なく本音を言ってくれる方も少なくないのでしょう。

ふとわが身を振り返ると、医師などという一見エリートのような仕事をしているためか(本当は重症の患者さんを元気にするために日夜四苦八苦する肉体頭脳労働者です)、患者さんは遠慮されることが多いです。そのため二歩も三歩もこちらから近づく努力をする必要があるというのは昔から心ある指導者に教えられたことですし、私自身も若手や学生などにそう教えるようにして来ました。まして心臓外科医のように大げさな職業では患者さんも一層「引ける」のではないかと思います。

このHPの冒頭にもお書きしましたように、患者さんから見れば医師にものを言うのはちょっと遠慮してしまうだけでなく、医師よりは庶民的と思われている看護師にさえ気がねすることがあるのです。お掃除のおばさんにならのびのびと物が言えるということを教えられたことがあります。鋭い指摘と今も思います。そのため自分なりにいろいろ工夫してはいるのですが初対面で直ちに何でも言える雰囲気というのは容易ではありません。患者さんから愚痴や身の上相談を持ちかけられたら「ヤッター!ヨーシ」と張り切ってしまう私を周囲の仲間たちはおかしく思っていることでしょう。

その一方で、何でもただで相談に乗ってもらえると心臓手術に関係ないことを延々と質問される方もまれにあります。すでに1時間近く経過し、他の患者さんに待ってもらっているので続きはまた次にしましょうと言っても、はい、そうですね、ところで、、、と延々と質問さを続けられるケースもあります。信頼して戴いているのはうれしいのですが待ってくれている人たちの気持ちを考えると、「うー、つらい、どうしよう」という泣き笑い状態です。現代の医療制度のもとでは患者さんと医師のお互いの歩み寄りや配慮も必要なのかも知れませんね。

柳居子さんと久しぶりに話ししていてそれやこれやを思いました。

 

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2009年12月19日 冠疾患学会にて

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(註:今回のブログは医師医療者向けになってしまいました。一般の方には判りづらいかも知れません。すみません。)

この12月18日と19日に大阪の国際会議場で開催された日本冠疾患学会に行ってきました。畏友・澤芳樹先生(大阪大学心臓血管外科教授)が外科系の会長で、内科系の会長は南都伸介先生(大阪大学先進心治療学教授)でした。

この学会は会長が内科系と外科系のそれぞれにおられることに示されるように、冠動脈疾患について内科と外科が協力して学ぶという、なかなか現代的な学会で、和気あいあいとしたアットホームな雰囲気が特長です。(写真は学会の帰途に取った中之島のイルミネーションです)

私が担当させて頂いたセッションは、「外科内科合同シンポジウム 世界の大規模スタディとその解釈・適応――ガイドラインを検証する」で、帝京大学循環器内科教授の一色高明先生と二人で座長(司会)をさせて頂きました。発表は帝京大学循環器内科、三井記念病院心臓血管外科、近畿大学循環器内科、日本大学板橋病院心臓外科、国立循環器センター心臓血管外科などの先生方がいつくかの小トピックスについて発表され、それに対してディスカッションをしました。東京大学名誉教授の高本眞一先生に特別発言を頂きました。大変なにぎわいを見ていますとイルミネーションはすでに冬の楽しみになった感があります

心臓関係の内科と外科の間で今一番話題になっているのは狭心症(冠動脈病変)の治療をカテーテルでおこなう(PCIと呼びます)か、手術で行う(バイパス手術と呼びます)かということです。カテーテルは内科の先生が行い、手術は外科医が行うため、いわば競合するような形になるからです。患者さんにとってどの治療法がベストかは大切なことなので、いくつもの研究がおこなわれています。その代表的なものがSYNTAX(シンタックス)研究です。

このSYNTAX研究ではヨーロッパで比較的重症の狭心症の治療を上記のPCIかバイパス手術で行い、その成績を比較しました。最近、術後2年までの結果が出ました。外科手術つまりバイパス手術の成績の良さが次第に明らかになって来ており、中でも重症冠動脈の場合バイパス手術のメリットがより鮮明になっていますが、内科の先生の中にはそれを無視する方があるという不満が外科側から出されました。

日本国内の臨床研究ではバイパス手術のほうがカテーテルPCIよりも成績が良いという結果が出ているのに、論文の結論ではそれがあいまいにされ、PCIに有利な文言を強調しているという不満も出されました。心臓外科医が患者さんのためになる治療をしてもそれが無視されているという残念さが随所に感じられました。

現代のEBM(証拠に基づく医学・医療)を支えるのはRCT(無作為臨床研究)つまり比較する治療法をランダムに使い分けて公平かつ正確・科学的な比較をする研究なのですが、このRCTにも弱点があることもあらためて指摘されました。私が以前から提唱しているように(このHPの冒頭のページをご参照下さい)。つまり重症はランダム化しづらいためどうしても軽症でデータをとることになり、軽症では2つの治療法の差がでにくいわけです。シンポジウムではこれらに加え、RCTでは通常の医療より丁寧になりがちで、通常の成績より良い結果が出て通常の医療の現実を反映していないという一面も指摘されました。

私が理想と思うのは、PCIとバイパス手術の特長を活かした使い分けや併用を内科外科で協力して行える医療ですが、まだまだ努力が必要なようです。循環器医療の全体像が見え、公正かつ科学的に判断するような立場の方ができればと思います。

重症心不全(虚血性心筋症)に対する左室形成術の効果を研究したStich研究(スティッチ研究、欧米の多施設が参加)では左室形成術の効果がないという結論であったため、これを検証し、左室形成術の効果があまり出ない軽症例が多すぎるという、Stich研究の弱点が指摘されました。私が以前から東京の須磨久善先生らと一緒に学会などで指摘して来たことをさらに具体的に示して戴き、うれしく思いました。このような不完全な研究のために、左室形成術で助かるはずの患者さんがその恩恵を受けられなくなるのは残念ですので、今後も啓蒙活動をして行こうとい思いました。

それやこれやで有意義で内容あるシンポジウムでしたが、時間が足りず、ディスカッションが十分できなかったのは残念でした。今後の学会などでさらに深めて行ければと思いつつ、シンポジウムを締めさせて頂きました。日本冠疾患学会の特長がよく見えるシンポジウムだったと思います。(皆さんに感謝!)

 

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2009年12月18日 ライトアップとイルミネーション

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世の中は不況続きで大変ですが、ちょっと眼と心をなごませてくれるものもあります。

 

これまでいかにして心臓手術や治療の成績を良くするか、

どのようにして死にそうな患者さんを元気にするかだけ考えて毎日を過ごして来ましたが、

大学病院を去って雑用が減り、その分趣味の写真を復活させてから、周囲の美しいものに気づくようになりました。

ライアップやイルミネーションはその例です。

 

紅葉の季節にライトアップがされるようになったのは比較的最近のようですが、

そういうものがあると聞き、カメラを持って行ってみたところ随分美しいのでやみつきになってしましました。

といっても時間がそうあるわけではないので、ちょっと時間ができたらクルマかタクシーでハシゴして集中的に行くだけですが。

 

この秋に京都で将軍塚、宝泉院、青蓮院、岩倉実相院や詩仙堂、永観堂などを夜行ってみました。

ライトアップをする方もよく考えてくれているようで、ちょうど一番きれいに色づいた木に光が当たるようになっています。

ライトアップの紅葉が美しいのはそのためでしょう。

加えて、時間があまり取れない者には天気に左右されないのもうれしいですね。

さらにちょっと技術的には反射光だけでなく透過光でも撮れるというのは葉の本来の美しさが出て最高です。

それやこれやでちょっと立ち寄っただけでもかなり良いコンディションで写真が撮れます。

そのうちにこのHPの写真ギャラリ―にUpするつもりですが、あまり良いことばかり書いていると、最高のコンディションの割には作品はいまいちと言われそうなのでこのぐらいにしておきます。永観堂のライトアップ

 

ともあれ夜にも皆で紅葉を楽しめるのは楽しいことです。

入場料(拝観料)はおよそ500円ほどですが、あまり惜しいとは思いません。

皆でこの美しいプロジェクトを支えあっているという気持ちになります。

寺院によってはやや前衛的な光のアートをコンピュータ操作で演出してくれるところもあり、京都のお寺も現代化したなあと感心します。

 

もうひとつの話題、イルミネーションは冬の寒い中でも大勢の人たちが集まって楽しいものです。

こちらもコンピュータ制御で光の祭典という雰囲気で凝ったものが増えました。

神戸のルミナリエや東京の表参道へ行く時間がないため、たまたま大阪で学会があったのを良いことに、「光のルネサンス」の写真を撮って来ました。

人々の賑わいそのものが格好のテーマと思うため、写真の材料に事欠きません。

 

中国やタイ、ベトナムその他アジアへ心臓手術や講演でちょくちょく行くのですが、いつも思うのはアジアの人たちはなぜあんなに元気なのかということです。

夜中遅くまで大勢の人たちとくに若者が街に出て食べて飲んで話して、明け方になってもまだやっている。

明日は祭日かいと聞くと普通の日と答えられてまた驚く。

翌日早朝に同じ道を通るとまだ飲んでる。

同じ人たちかどうか判りませんがすごいエネルギーです。

あの元気さと比べると日本の雰囲気はどこか疲れているような、ある意味退廃的なものさえ感じることがあります。

真冬のイルミネーションに大勢の人たちが集まって楽しそうにやっているのを見てどこかほっとしました。

 

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2009年12月11日 大腸ファイバーと胃カメラ

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数日前、がん健診のため友人いるの消化器病院へ(奈良県橿原市にある錦織病院)行って参りました。

大腸ファイバーと胃カメラその他の検査を受けるためです。

小回りが効くちょうど良いサイズの専門病院で、ハートセンターの消化器版と言えましょうか。

 

友人はこれらの検査の名人なので快適に検査して頂きました。

消化管の上(胃と十二指腸)と下(大腸)を同じ日に検査するのはどちらかといえば強行軍のようですが、

そこは貧乏暇なしの職人ということで友人が理解協力してくれ、

同日検査を毎年やってくれています。

 

まず手始めに腹部エコーから。

この検査はもともと快適な検査ですからとくに問題なくパス。

といってもこの日ばか28りは患者さんの立場ですから、先生がエコーの探触子を止めてじっと画面を見ておられる時には一瞬不安になります。

いつも自分の患者さんには不安を与えているのだろうなあと反省しているうちにエコーは終わりました。

 

つぎに胃カメラは私が何より不得意とする検査で、カメラ(ファイバー)を見るだけでおえっと吐きそうになります。

こどもの頃、お腹を壊しては吐いてばかりいたヘンな習慣がトラウマになって残ったようです。

いつものことなので、友人の先生には、私がおえっとなっていても無視してどんどん進めて下さいとお願いしているのですがやっぱり大げさにちょっとお待ちを、と懇願する始末。

点滴の針を刺している間だけは全然吐きそうにならないあたりは、やはり気分的なもの、単なる身勝手と自分でも確信してしまいました。

それでも近年の鼻から通す胃カメラのおかげでなんとか快適に検査終了。

(写真は昨年ダナンで撮ったものです。検査してくれた先生に捧げます)

 

それからちょっとみじめな下剤と下痢の下ごしらえがしばらくあって、尿のような便が出て大腸がすっかりきれいになったところで大腸ファイバーへ。

ここまで来るともはやみじめさにも慣れ、あとは適当に始末して下さいというほど腹が座ります。

例の後ろ側(お尻側)に穴が開いたパンツもなんのその、まもなくその穴からファイバ―が大腸に入り検査が進みます。

昔はファイバーが腸の曲がり角に触れるとちょっと痛かったのですが、最近はそれもわずかで、集中検査の一日はめでたく終了しました。

ちなみにヨガの人たちの話しでは、断食の目的の一つは宿便を取ることらしいので、

この検査で宿便は完璧に取れると思うと、何か良いことをした気分に浸れます。

 

これら検査の結果、びらん(胃炎)があるよということでお薬を頂きました。

最近ゴルフを再開し、それまでの筋トレの成果かどうか、筋力が関節や腱の力を上回ってか、ゴルフ練習のあと腱だけが痛むため、消炎鎮痛剤を飲んでいたのが胃に悪かった様子。

週1回ほどの練習で、週1錠飲んでも胃を荒らすとなると、心臓手術後の患者さんが痛みどめを飲むことのつらさが良くわかりました。

それにしても歳をとると体中がデリケートになるものです。

昔は体だけは使い減りしないもの、使いこむほどに良くなるものと思っていましたが、、、。

 

一日患者さんになって思ったことは、自分の患者さんはよく耐えて協力してくれているなあということです。

毎年そう思いますので、この日は私の心の中の患者デーです。

 

2009年12月11日 米田正始

 

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2009年12月5日 「心臓弁膜症サミット」 

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マレーシアはクアラルンプールで開催されたバルブサミット(心臓弁膜症サミット)に行って参りました。

 

僧帽弁の話しと、大動脈弁の話しをさせて頂きました。

僧帽弁ではこれまで力を入れて来た心筋梗塞後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症の新しい手術治療を、

大動脈弁では大動脈基部拡張に対する基部再建手術(私の恩師の名前をとってデービッド手術といいます)に相当するものをより短時間で確実に行う方法を講演しました。

体力のない高齢者の患者さんや他に重い病気をもっていて余裕がない患者さんを安全に救命するための方法です。

 

ライブ手術も数件あり、パリのペリエ先生やタイのタウィーサック先生らを始めとした先生らの手術を皆で温かく厳しくDiscussionしました。

僧帽弁形成術がおおく、小切開手術(MICSポートアクセス法)もありました。

15年以上前からある方法ですが、少しずつ工夫し完成度を上げているのが判ります。

エプシュタイン病の大人の三尖弁形成術もありましたが、右心室を治していないのがちょっと不満でした。

カテーテルを用いての弁膜症手術(TAVI)もありました。

まだまだ未発達のところもありますが将来の有望治療法です。日本ではいつのことになるのでしょうか。ツインタワーは壮大です。その下は豪華なショッピングモールや市民公園になっています

 

心臓外科全般についてアジア諸国の発展ぶりは経済発展と同様、めざましく、アジアの先生方が誇りをもって頑張っていることをあらためて感じました。

心臓弁膜症についても同じで、これまでは日本の心臓外科医が指導する場面が多かったのですが、これからの時代は教えて頂くようになるのかも知れません。

(写真は有名なクアラルンプールのツウィンタワーです)

 

平等な国際交流という意味ではそれも良いのかも知れません。

ただそれが日本独特な構造的弱点のために他のアジア諸国よりも力を落としたためと考えると、次の時代に向けて何とかしなければならないと思います。

日本独特の構造的弱点というのは、要するに心臓外科医が他のアジア諸国の心臓外科医ほど手術ができない構造のことです。

日本でも民間病院では外科医一人あたりの手術数はある程度は増やせるため何とかなりますが、国全体として改善が必要です。

学会も様々な努力をしているのですが、なかなか進みません。

 

サミットには欧米の有名な心臓外科医も多数来ておられ、昔から良く知っている先生もあり楽しいひとときが持てました。

 

クアラルンプールはアジアの文化、イスラム文化、そして旧英国領ということでイギリスの影響もあり、なかなかユニークな街です。

せっかくの機会なので、ちょっと学会場を抜け出して写真を撮りに行ったりもしました。

そのうちにこのWEBのギャラリーに迷作として披露したく思います。

 

街中のショッピングモールは東京やニューヨーク、パリなどを思わせるような立派なものでしたが、聞けばイスラムのよしみで中東からリッチなお客さんが多数来られるため高価な商品もよく売れるとのことでした。

庶民での不況はないのかいと尋ねたところ、イスラム銀行が支援するので、他の国ほど不況の波を受けないとのことで、

ホントかなと思いながらも、イスラム教が多くの民衆を惹きつけて来たことの理由の一部を見た思いがしました。

 

米田正始

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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