冠動脈疾患にたいするハイブリッド治療とは【2020年最新版】

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最終更新日 2020年3月11日

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◾️ハイブリッド治療の背景は

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冠動脈疾患の治療法にはまず食事や運動による予防、軽症例にはお薬や生活指導、重症例になるとカテーテルによる冠動脈形成術(PCI)、さらに冠動脈バイパス術CABGなどがあります。最重症は補助循環(人工心臓)さらに心移植になってしまいます。

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冠動脈バイパス手術の一例です

冠動脈バイパス手術の一例です

とくに重症例でカテーテル治療PCIと冠動脈バイパス術CABGのうまい使い分けが議論の対象になっています。

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かつては重症例とくに左主幹部病変にはバイパス術という考えたが主流でしたが、その後PCIの進歩で一部の積極的な先生方は何でもPCIという時代もありました。

その後シンタックス研究(Syntax Trial)で冠動脈3枝病変の多くや左主幹部のある種のタイプにはバイパス手術が有利つまり長生きできることが証明され、時代は変わりました。ちょうどそのころ天皇陛下バイパス手術を受けられて、医療者でない一般の方々にもそのことは知られるようになりました。

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◾️そしてハイブリッド治療の誕生

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この2つの治療法の長所短所をよく吟味してみますと次のようなことになります。

1.内胸動脈をLAD左冠動脈前下降枝にバイパスすることは絶対的な意義がある。これはPCIの追随をゆるさない世界である

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DES02

ステントの一例です。これが冠動脈の中に入ります

2.他の枝つまり右冠動脈や左冠動脈回旋枝の通常の病変ならPCIは有用。そしてPCIは侵襲の低さでは絶対優位。

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これらを考慮すると、バイパス手術とPCIの良いところだけを選んで使う、いわばいいとこ取り治療が浮かび上がってきます。それが冠動脈病変におけるハイブリッド治療なのです。

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◾️ハイブリッド治療の代表例としては

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MIDCABミッドキャブ手術つまり左ミニ開胸で左内胸動脈を左前下降枝にオフポンプでつける。そののち他の枝はPCIで治療する。これが代表例です。

その後、さまざまなケースに対して内科と外科で協力するようになり、いわゆるハートチームですね、さまざまな応用例が出てきました。

たとえばバイパス手術のあと弁膜症手術が必要となったとき、冠動脈はPCIで済ましておいて、外科は弁を治すとか(お便り86などをご参照ください)、

患者さんの仕事や生活の都合上、どうしてもポートアクセス手術を希望されるとき、弁膜症だけならそれはできますが、バイパス手術も同時に必要な場合、正中切開が必要となります。そんなときにPCIで冠動脈を治しておけば、ポートアクセスで弁を治すことに専念でき、患者さんも速やかに仕事復帰できます。

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◾️その他のハイブリッド治療

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その他さまざまな応用があります。

冠動脈疾患以外でも、ハイブリッド治療は大動脈疾患における外科手術(人工血管置換術)とステントグラフトEVAR)の組み合わせなどの形も増えました。

あるいは拡張型心筋症に対して左室形成術僧帽弁形成術などの外科手術に加えてCRTやCRTDなどのカテーテル+ペースメーカー治療などですね。

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これからはバイパス手術のあと何年も経って大動脈疾患が発生したときのTAVIなども役立つことでしょう。そもそも生体弁による弁置換のあと、10-20年経って弁が壊れたときにバルブインバルブというTAVIをやれば再手術が回避できます。

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◾️まとめ

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要は英知を結集して患者目線で最高の結果をもとめる、内科が偉いとか外科が立派だなどという偏狭な考え方をすてて、皆で頑張る、当然といえば当然の治療、それがハイブリッド治療です。こうした考え方がこれからさらに進化していくと、さらに治療成績が上がり患者さんのハッピーライフにつながることでしょう。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り88: 冠動脈バイパス手術後、北欧から

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冠動脈バイパス手術とくにオフポンプバイパス手術は狭心症・心筋梗塞の治療のなかで大切な位置をしめています。

もちろん中心は予防つまり食生活や運動、ストレス軽減、リスクファクターの軽減などが本質的ですが、忙しい現代人にはなかなか予防しきれないという現実があります。


A335_016そこでお薬による治療、それでだめならカテーテルによるPCI治療が威力を発揮します。いわゆるステントという金属製の筒のようなものを冠動脈の中に植え込んで冠動脈を広げるわけですね。

しかしそのステントも、いれるべき冠動脈がひどく壊れて血管の本来のちから、たとえば油分をみずからきれいに掃除して血管が詰まらなくなるなどの作用はありません。なので血管が悪い重症患者さんではステントの効果は長持ちせず、患者さんも長生きできなくなります。

ここで長持ちする治療法としての冠動脈バイパス手術が見直されることになるのです。

その象徴的な出来事が天皇陛下の冠動脈バイパス手術でした。

そして多くの実際のデータをもとにして、ガイドラインが改訂され、EBM(証拠にもとづく医学医療)重症の冠動脈病変のほとんどは冠動脈バイパス手術が第一選択となりました。


A310_065かつてのように、カテーテルPCIできる場合は何でもPCIやれば良いという考えはこうして時代遅れとなって行きました。とくに若い先生方の間に、EBMを順守しようという考えが広がり、ガイドラインを無視するのを男の心意気のように感じていた古い世代とのギャップがはっきりして来ました。

このお手紙(絵葉書)の患者さんもこうしたEBMの時代に、冠動脈バイパス手術をハートセンターで受けられた患者さんです。

もともと大学病院に通院しておられ、右冠動脈100%閉塞、回旋枝付け根に90%、左前下降枝近位部にも90%の狭窄がありました。

私たちのところでの手術を希望され、来院されました。

冠動脈バイパス手術後の経過は良好で、まもなく退院されました。

あれから1年半が経ち、以前から行きたいとおっしゃっていた北欧の旅行が実現しました。

美しいお葉書をいただき、うれしく思います。

元気で長持ち長生き、これが冠動脈バイパス手術の良さです。今後も楽しく元気にお暮しください。

 

*********患者さんからの絵葉書********


IMG_1763お陰さまにて、元気で北欧三ヶ国の旅を楽しんでおります。

スウェーデン、ノルウェー、デンマークをまわります。


うつみさん絵葉書爽やかな空気のもと、素晴らしい歴史の重さに感じ入っております。

体調も万全です。

有難く幸せをかみしめております。

ストックホルムより 感謝を込めて ****

 

PS. 米田先生、文芸春秋5月号の記事拝読させて戴きました

 

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お便り86: 虚血性僧帽弁閉鎖不全症の再々手術で

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虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症は心筋梗塞のあと心臓が次第に壊れて強い心不全になる病気です。

一般には心臓の力が心移植レベル近くまで落ちて、全身の体力も衰弱状態となれば、心臓手術も拒否、あとはお薬でなるべくそっと持たせた後、お見送りをするだけということが多いです。

つぎの患者さんもそのお一人です。

ある日、沖縄から一通のメールが届きました。

その方のお義父さん(80歳近いご年齢)が危篤状態で何とか助けて下さいとのことでした。

患者さんは大動脈弁置換術を昔受 A335_009け、その後何年も経ってからこんどは冠動脈バイパス手術を受けられました。さらにペースメーカーの植え込み術まで必要あって受けられ、心不全がいよいよ悪化して近くの病院に入院されました。

心臓のちからはひどく落ちていました。

もうあまり生きられない、しかし手術は危険、そもそも沖縄本島でもこの手術ができるところはない、かといって飛行機で本土まで行くことさえ危険すぎるという状況で、本土でも受け入れてくれる病院はわからないというなかで、思い余って私にメールを送ってこられたのでした。

これまでも同様の患者さん・ご家族と向き合ってきた経験から、現地の状況はよく理解できました。

沖縄の主治医の先生が送って下さったデータを拝見し、虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症が悪化しており、しかもせっかくのペースメーカーもそのリード線が三尖弁を圧迫して高度の三尖弁閉鎖不全症を合併していました。すでに2度の心臓手術を受けておられ心臓は周囲の組織に癒着しており、かつ上行大動脈も拡張ぎみで、うかつに触れない状態でした。

このままでは死を待つだけの状態、しかしこの虚血性僧帽弁閉鎖不全症もペースメーカー三尖弁閉鎖不全症も再手術も私たちがちからを入れて来た病気で、手術そのものはできると考えました。

そこで当院の心臓外科医を沖縄まで派遣し、患者さんに随伴する形で守りながら名古屋までお越し頂きました。

治療戦略をチーム全員でとことん検討しました。冠動脈に新たな狭窄ができていたため、これをまず内科の先生がカテーテル治療(PCI)で応急治療してくれました。いわゆるハイブリッド治療ですね。

そして手術ではできるだけ体に負担をかけぬよう、ミックス手術を応用して右胸をやや小さ目に開け、これまでで最も有効と考えられる乳頭筋最適化術(PHO手術)を行い僧帽弁形成術としました。

さらに右房も開け、私たちの方法で三尖弁形成術を無事に完成しました。

手術前は強心剤の点滴なしでは血圧が十分には出せないほど重症でしたが、術後は次第にお元気になられ、毎日心臓リハビリで運動をこなし、栄養をつけ、心臓と全身の体力をつけて頂きました。

もとの状態よりはるかにお元気に退院され皆、うれしく思いました。

以下はその患者さんのご家族からのお礼のメールです。

こうした重症になりますと、いつもうまく行くとは限りません。しかし多くの方々が元気に生還し長生きしておられるのも事実です。やはりネバーギブアップで、まず相談と思います。

お互い、一緒に考えてそんすることは何もないと思います。

 

********患者さんのご家族からのお便り********

 

米田先生へ

おかげさまで義父は孫と話したり、少し外を歩いたりと、元気に過ごしております。

もちろん以前のように苦しがって不安で夜中に病院に行くようなこともなく、家族みな安心しております。

これも米田先生はじめ、チームの先生方のおかげです。

わたくしが3か月前、一番初めに先生にメールでご相談したとき、先生はお忙しい身でありながら、しかも紹介でもない見ず知らずの私に、3時間後にすぐさまお返事くださいましたね。

あの時は涙が止まりませんでした。


そしてこちらの病院では、高齢で余病が多く三度目の手術になることと心臓の弱り方からして、空路で転院させるのも危険だと言われた状況下、名古屋からわざわざチームの先生が迎えに来ていただいたこと、無事に手術を成功させていただいたこと、元気に帰していただいたこと、本当に本当に感謝しております。

またこれまで長年にわたって義父を守り、米田先生のところまでいのちをつないで下さった地元の病院の先生や関係の皆さんにも感謝の気持ちで一杯です。

本来なら、そちらに出向きお礼を申し上げたいところですが、取り急ぎメールにて失礼いたします。

また近況報告させていただきます。

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事例: 数回のPCIのあと冠動脈バイパス手術の患者さん

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狭心症、冠動脈狭窄症の治療はその重症度に応じて何段階かあります。

軽症なら食事、運動療法とお薬による治療、もっと重症になればカテーテルによる冠動脈形成術(PCI)、さらに重症になれば外科による冠動脈バイパス手術があります。

患者さんは70代半ばの男性で、四国からお越し頂きました。

もともと糖尿病をお持ちで狭心症となり、地元の病院で4年あまり前に薬剤溶出性ステント(DES)による治療を受けられました。

お元気にしておられましたが、4年半後、狭心症が再発し、再度カテーテルによるPCI治療を受けました。

残念ながらその1か月後にまた狭窄し、3度目のPCI治療を、その1か月後に4度目の治療を受けられましたが、うまく行きませんでした。

冠動脈がすでにうんと悪くなり、ステントではどうにもならなくなったのです。

術前LAD2この間の心筋梗塞などのため、左室のちからは駆出率25%と、通常の半分以下に落ちてしまいました。

思い余ったご家族が米田正始のところへ連絡をしてこられ、ハートセンターでの治療となりました。

手術前の冠動脈造影では右写真のように前下降枝がステントで覆われていますが、完全に詰まっていました。

術前LADしかし他の冠動脈からかろうじて流れてくる血液をみると、この左前下降枝は内胸動脈を丁寧につなげば何とかなるだろうという判断となりました。

さらに右冠動脈にもバイパスがつけられる血管があり、ここから何本かの枝へ血液が流れ、前下降枝へもつながりがあるため、患者さんの虚血の改善はかなりできそうと考えました。

状態が悪いため、安全を見越してIABPという補助の風船ポンプを入れてオフポンプバイパス手術を行いました。

前下降枝はさすがに 4回のPCI治療で傷んではいましたが、内胸動脈の血管保護作用で使えそう、右冠動脈もあまり良い血管ではないものの、使える所見でした。

術後LITA_LADそれぞれに内胸動脈グラフトと静脈グラフトをつなぎ、手術は問題なく終わりました。

術後の冠動脈のCT画像を示します。2本のバイパスは良く流れ、かなりの広範囲の心筋を灌流しているようです。

右図は内胸動脈が左前下降枝を灌流している所見です。その右上にミミズのように見える白っぽい構造物がステントと肥厚内膜です。

下図は静脈グラフトが右冠動脈を灌流している所見です。何本かの枝に流れるためこれも役に立つバイパスになる術後SVG_4PDでしょう。

これなら患者さんの予後の改善に役立つでしょう。地元の先生と協力して、心臓を守る薬をしっかりと使えば効 果はさらに上がるかも知れません。

遠方かつ体力のない患者さんのため、通常よりややゆっくり入院していただき、術後12日目に元気に退院され、四国へ戻られました。

その後もお元気に暮らしておられます。

こうした患者さんのお役にも立ててうれしいことです。

 

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冠動脈の治療、日本の新しいガイドライン

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狭心症や心筋梗塞に代表される虚血性心疾患の治療の中で冠動脈の治療はその中心を占めます。

医学の歴史のなかではお薬などの内科的治療(保存的治療とも言います)から始まり、外科的治療つまり心臓手術でしっかり治せるようになり、さらにまた内科的治療(こんどはお薬だけでなくカテーテルとか内視鏡その他も含めて)が皮膚を切らずに治せる、患者さんに優しい治療として進歩する、という変遷をたどることが多くありました。

冠動脈治療も同様に、お薬の治療から1960年代に冠動脈バイパス手術が始まり、効果があるため世界中に広がって行きました。1980年代にカテーテル治療が発達し、1990年代にはステントが広がって次第に外科治療に代わる代表的治療法となって行きました。

2000年代にはいって薬剤溶出ステント(略称DES)という抗がん剤などをコーティングしたステントができ、再狭窄が少ないためこれまでのステント(ベアメタルあるいはBMSと呼ばれます)に代わって増えて行きました。

当時はこれでバイパス手術が次第に消えて、ステントに代表されるカテーテル治療(PCI)で冠動脈治療のほとんどは行われるのではと予想されたものです。

ところがこの素晴らしいDESにも弱点があることが判明し、雲行きはまたあやしくなりました。DESを入れた冠動脈は、プラビックスなどの強いお薬(抗血小板剤)を複数使わないと心筋梗塞を起こして患者さんが突然死することが以前から知られてはいましたが、いつまでたってもなかなかそのお薬が切れないのです。

さらにそれまでのBMSと呼ばれるステントは患者さんの生命予後を改善する傾向がありましたが、DESではその効果がないのです。

その一方、冠動脈バイパス手術(略称CABG)は皮膚や骨(胸骨)を切るという、野蛮な一面はあるものの、手術のあとの安定度が良く、患者さんの生命予後を改善するつまり長生きできることが次第に明らかになりました。

冠動脈バイパス手術(CABG)は当初は大伏在静脈が中心でしたが、1980年代から内胸動脈(略称ITA)を使用するようになり、成績が改善しました。1990年代からは左右2本の内胸動脈を使用する施設も増え、1本使用より優れた成績が次第に明らかとなりました。さらに1990年代から体外循環を使わない、オフポンプバイパスという方法が汎用されるに連れて、脳梗塞や出血などがさらに減るようになりました。

こうしたカテーテル治療と冠動脈バイパス手術の進歩を受けて、欧米で2000年代後半に行われた大規模臨床試験がシンタックス研究(Syntax Trial)です。

この臨床研究にはもともと外科のバイパス手術の対象となっていた重症例たとえば3枝病変や左冠動脈主管部病変などが主であるため、外科の特長がよく見えるのではないかという期待がありました。たぶん5年から10年の間に大きな差がでるのではと思っていた医師も多かったと思います。

ところが、治療後わずか3年で重症例では生存率の差がはっきりと出て、冠動脈バイパス手術の良さが見直されることになりました。

それを受けて2年前のESC(ヨーロッパ心臓学会)、EACTS(ヨーロッパ心臓胸部外科学会)のガイドラインが改訂され、重症の冠動脈病変の大半で冠動脈バイパス手術をクラスIつまり強くお勧めという位置づけになりました。

日本でも上記のシンタックストライアルの結果や、国産データベースであるKredo Kyotoあるいは多数の臨床検討をもとに新しい冠動脈治療のガイドラインが発表されました(Medical Tribune誌などで)。

日循ガイドライン2012これを見ますと、重症冠動脈疾患の多くは外科手術が勧められ、カテーテルによる治療は主に軽症の疾患に良いという方向性が明らかになりました。

左図でIAとあるのは本格的・科学的なデータにもとづいて、しっかりお勧めできる治療法という意味です。IIaはお勧めできる可能性が高い、IIbはお勧めできるかも知れないレベルとお考えください。IIIはやってはいけないレベルです。

このガイドラインでは、すでに欧米では常識になっているハートチームという考え方も導入されました。

つまり内科、外科その他関係の領域のチーム全体で治療方針を熟考し決定することが日本では初めて求められたのです。

またステートメントとして、DESが患者の生命予後や心筋梗塞発症率を改善するというエビデンスがないことも明記されました。

同時に冠動脈バイパス手術が生命予後や心筋梗塞発症率を改善する、つまりそれだけ長生きできることも明記されたのです。

 

かつては冠動脈の領域ではガイドラインを無視する医師も少なくなく、カテーテル治療ができるなら何でもカテーテル治療すれば良いとする空気が日本ではありました。

Illust215bしかし最近の流れは、医療の客観化・公正化や安全管理の徹底、あるいはEBM(証拠にもとづく医学・医療)が年々定着し、医師が独断で治療法を決めるという昔の風習が廃れる方向にあります。これは若い医師の間でとくに顕著です。

どんな治療でも、それができるからやる、というのではなく、それが患者さんにとってベストだからやる、それも科学的データに基づくものだからやる、これが現代の医療の正しいあり方です。

その意味で冠動脈治療の新しいガイドラインは大きな影響力をもつものと考えられています。

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冠動脈バイパス手術のふしぎな力【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月2日

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◼️天皇陛下のご選択

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天皇陛下(現在の上皇陛下)が冠動脈バイパス手術を受けられてから、この心臓手術は存在を認められ、国民的支持を頂いたような雰囲気があります。

それでは冠動脈バイパス手術はなぜ選ばれたのでしょうか。あるいはなぜ優れているのでしょうか。

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まず冠動脈バイパス手術にもちいる内胸動脈という血管が優秀であることが挙げられます。

この血管は動脈硬化がほとんど起こりません。冠動脈よりも血管年齢が若いとも言えます。つまり冠動脈バイパス手術によってその心臓は多少とも若返るわけです。

これは悪くなった冠動脈を力で広げてそこへ金属の筒を入れるステント治療よりはるかにバイオなわけです。

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◼️内胸動脈なぜ若い?

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ではなぜ内胸動脈はそれほど「若い」のでしょうか。その理由はまだ不明なところもありますが、いくつか解明されています。

Haru_0155ひとつには、プロスタグランディンEという活性物質・ホルモンを自ら造るちからがあり、このために動脈が老化しにくく、血栓もできにくいのです。

またNO(エヌ・オー、一酸化窒素)という物質も造るため、血管がリラックスし、良い状態が続きやすいのです。

内胸動脈の内側の表面にある細胞(内皮細胞)はそれ以外の、血管を守るちからも持っています。

神が与えた血管と言われるゆえんです。

内胸動脈でバイパスをつけた冠動脈の下流には動脈硬化が起こりにくいという意見もあります。

つまりその冠動脈全体にわたって何らかの保護効果があり得るのです。

SYNTAX_logo

 

こうした効果のおかげで、冠動脈バイパス手術を受けた患者さんはステントの患者さんよりも長生きできることが欧米の大規模臨床試験(シンタックストライアル試験と言います)で示されています。

これは冠動脈の病気が複雑なタイプの場合で、なるほど、実感と一致すると私たちは感心しました。

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胃01b

◼️バイパス手術のもう一つの利点

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また同じ理由で冠動脈バイパス手術のあとは、強いお薬が要りません。

とくに抗血小板剤のプラビックスやパナルジンなどが不要となります。

バイパスピリンさえ必要あらば止めることができます。

 

このおかげで、早期がんの生検や手術、あるいは背骨の手術など、中高年の患者さんによく必要となる検査や治療が、バイパス手術のあとは問題なく行えるのです。

前立腺がんを治療された陛下にとっては、つよいお薬の不要なバイパス手術は一段とお役に立てる治療法だったものと思います。

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◼️他にもあるバイパス手術の利点

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それ以外にも、冠動脈の入口が通常は2つしかないのに、冠動脈バイパス手術によって2-5つも入口が増えて、さまざまな角度から血液が行き、余裕が生じるという説もあります。

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また内胸動脈や胃大網動脈は、「時間差攻撃」の力もあります。

つまり血圧のピークが大動脈よりも遅れるため、心臓がリラックスする拡張期の圧が内胸動脈では高くなるのです。

拡張期こそ、冠動脈に血液が良く流れる時期ですから、この効果は大きいのです。

Trp1006-sクルマのエンジンに例えれば、ターボを付けて性能をアップしたような印象です。

それやこれやで、冠動脈バイパスはカテーテルによるPCI治療、ステントとは違う利点をもつのです。

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◼️バイパス手術だけが良いというわけではなく

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ただし誤解のないように申し上げれば、私はどちらが良いとか悪いとかを論じているのではありません。

それぞれ使い道があるのです。

適材適所でこそ、威力を真に発揮するのです。

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Ilm20_ae04023-sたとえば冠動脈の病気がシンプルな場合はPCI・ステントが良い場合が多く、冠動脈が複雑に壊れているときには冠動脈バイパス手術が威力を発揮します。

このことは、重症の糖尿病や、慢性腎不全・血液透析の患者さんではいっそう顕著です。

 .

それを裏付けるように、透析30年の患者さんでも、その内胸動脈はきれいでやわらかかったのを覚えています。

ちなみにそれらの患者さんたちの冠動脈は硬化のためガチガチのボロボロでした。

その血管を守るためにも内胸動脈は役立っているでしょう。

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こうした利点をもつ冠動脈バイパスがステントとうまい使い分けのもと、天皇陛下をはじめ多数の患者さんのいのちと健康を末永く守ってくれることを期待しています。

 

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天皇陛下の冠動脈バイパス手術成功を慶ぶ

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2012年2月18日土曜日、天皇陛下の冠動脈バイパス手術が成功しました。

朝日ドットコムの速報は次のように伝えています。

***********************

天皇陛下の手術無事終了 集中治療室に移る

狭心症の治療のため東京大病院(東京都文京区)に入院中の天皇陛下は、18日午前9時半ごろから心臓の冠動脈バイパス手術を受けられ、手術は午後3時半ごろまでに無事終了。午後3時55分に手術室から集中治療室(ICU)に移られた。

***********************

車から挨拶される天皇陛下天皇陛下が狭心症を冠動脈バイパス手術によって克服され、ますますお元気に活躍されることをお慶び申し上げます。

執刀にあたられた畏友・天野篤先生(順天堂大学)や小野稔先生(東京大学)、それを循環器内科の立場からサポートされた永井良三先生(東京大学)、麻酔科の先生方、コメディカルの方々はじめ関係の皆様に敬意を表したく思います。

とくに大変な重圧のなかをゆるぎない信念と技術で心臓手術を完遂された天野先生を誇りに思う次第です。

私見ですが、この先生たちが助けられたのは、天皇陛下だけではないと思います。

虚血性心疾患の治療にいのちをかけて来られた多くの循環器内科医や心臓外科医、さらに冠動脈バイパス手術が適応となる無数の患者さんたちも含まれるのです。

それは狭心症の中には冠動脈が複雑に壊れていて、カテーテル治療よりも冠動脈バイパス手術のほうが長生きできることがすでに示されている患者さんが少なくないからです。

しかしそうした患者さんたちも、皮膚を切らずにできるカテーテル治療を選ばれることが日本では多く、必ずしも安全な治療選択がなされているとは限らない現状があるのです。それでもそれらの患者さんがお元気なうちはまだ良いのですが、死亡する方が長期的に発生するのは残念なことです。

天皇陛下が医学的にベストの治療を選ばれた勇気と決断、それを支援された医療チームの皆さんに私が敬意を表するのはそれもあるからです。

今回の冠動脈バイパス手術の成功は、かつて天覧試合でサヨナラホームランを放ってプロ野球を国民的なものとした長嶋茂雄さんの貢献に匹敵するものと個人的には思っています。

すでに冠動脈バイパス手術を受けられた患者さんたちも、今回の手術を慶んでおられます。自分たちの決断は間違っていなかったと。

多くの患者さんたちとともに、今回の手術成功を慶び、関係の皆様に感謝するものであります。

平成24年2月18日

米田正始 拝

 

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【第三十号】 天皇陛下のご全快を祈ります

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 【第三十号】
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発行:心臓血管外科情報WEB
http://www.masashikomeda.com
編集・執筆:米田正始
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

寒い日が続きますが皆様いかがお過ごしでしょうか。

心臓血管外科情報WEBの情報が冬の健康生活に多少でもお役にたてば幸い
です。

患者さんへのお知らせのページをごらん下さい。

https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2008/11/post-4fa5.html

です。

さて天皇陛下がこの2月18日に狭心症のため冠動脈バイパス手術を受けら
れることになりました。

狭心症の治療にはその重症度におうじて、お薬やカテーテル治療(PCIや
ステント)さらに外科手術(冠動脈バイパス手術)などがあります。

その患者さんの状態に一番適した治療法を選ぶことが欧米では常識となって
いますし、日米欧のガイドラインでも示されています。

天皇陛下が治療を受けられる東京大学の先生方が的確な治療方針を立てられた
ことに敬意を表したく思います。執刀予定のA先生にも激励のメールをお送り
しました。友人・仲間として大変うれしいことです。

皆様のお役に立てるよう、関連記事を心臓血管外科情報WEBとオール
アバウトに載せました。ご参照ください

心臓血管外科情報WEBでは

https://www.shinzougekashujutsu.com/web/2012/02/emperorcabg.html

オールアバウトでは
http://allabout.co.jp/gm/gc/390317/

です。

春はもうすぐそこまで来ています。皆さん、ご自愛のうえ、お元気で
お過ごしください。

平成24年2月15日

米田正始 拝

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Copyright (c) 2009 心臓血管情報WEB
http://www.masashikomeda.com
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天皇陛下が冠動脈バイパス手術を受けられるわけは?

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朝日新聞などの各種報道によれば天皇陛下が2月18日に冠動脈バイパス手術を受けられることになったとのことです。天皇陛下の一日も早いご全快を祈るものです。

 

私のこの心臓血管外科情報WEBにも多数の閲覧があり、報道当日は通常の3倍近い、5700もの閲覧がありました。

また直接、なぜ天皇陛下は冠動脈バイパス手術を受けられるのですか?なぜカテーテル治療(PCI)じゃだめなんですか?とのご質問を戴きました。

 

天皇皇后両陛下。いいお写真ですね。もちろん私は主治医団の一員ではありませんので、周辺状況から推測するだけなのですが、

主治医の先生方はかなり多角的に、陛下の冠動脈や心臓だけでなく、長期間の健康や、以前に受けられた前立腺がんの治療なども総合的に考えられたからではないかと愚考します。

 

カテーテルによる冠動脈形成術(PCI)はメスを使うことなく、冠動脈の狭いところにステントと呼ばれる金属の網の筒を入れるため、患者さんにやさしい治療として広く使われています。

優れた治療法と思います。

 

しかしステントは、現在その多くが薬剤溶出性ステントという、抗がん剤などを表面に塗ったものが多く、患者さんの細胞を寄せ付けない傾向があり、金属がむき出しの状態のままになることがよくあります。

そこでは血栓ができやすく、いったん血栓ができると、冠動脈は血栓で詰まって、患者さんは心筋こうそくとなって死亡します。

こうしたことを防ぐため、強力な血栓予防のお薬、抗血小板剤を長期間にわたって飲む必要があります。

 

その抗血小板剤のため、他臓器の手術や出血しやすい検査がやりにくくなるのです。

Ilm09_dd04001-sたとえば大腸にポリープと呼ばれるきのこ状のできものができると、いずれがんになる可能性があるため内視鏡で切除するのですが、抗血小板剤が入っていると切除は出血の危険性のため消化器内科の先生も二の足を踏むことがしばしばなのです。

あるいはせっかく早期胃がんがみつかっても、あるいは歩けなくなるような背骨の病気が手術で治せるときでも、抗血小板剤が入っていると手術しづらくなるのです。

 

こうしたPCI・ステントの影の部分が最近指摘されることが増えました。

冠動脈バイパス手術のあとなら、こうした問題はほとんどありません。

 

ここで大切なこと、それはPCI・ステントと冠動脈バイパスのどちらが良いかという偏狭な議論をしているのではないということです。

それぞれの特長を活かし、患者さんの状態や年齢・生活・仕事などを勘案してベストのものを選ぶのが良いという意味です。

 

欧米の大規模臨床試験であるSYNTAXトライアル(シンタックストライアル)では冠動脈の病変が複雑な場合、冠動脈バイパス手術のほうが患者さんは長生きできるという結果がでています。

そのため複雑な冠動脈病変の患者さんには欧米では公式ガイドラインでバイパス手術を第一選択として推奨されているのです。

天皇陛下の場合は今後のがん治療のことも考慮して冠動脈バイパスを選択されたものと考えます。

もちろん抗血小板剤が不要で、長期安定性も良いため、公務やスポーツなどものびのびやれるため、というのも理由のひとつでしょう。

■追補: 手術の後の経過が良好で陛下はお元気に公務に戻られたのは皆さんご存じのとおりです。強いお薬や冠動脈血栓症などの心肺なく仕事に打ち込めるのがバイパス手術の特長です。詳細はこちらをどうぞ。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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冠動脈バイパス手術の良さ―SYNTAX研究4年目の結果

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冠動脈バイパス手術

薬剤溶出性ステントDESによるPCI(カテーテル治療)の

どちらがどう良いかという大規模前向き研究であるSYNTAXトライアル

満4年のデータが先日の欧州心臓胸部外科学会EACTS(リスボン、ポルトガル)で発表されました。

PCIの大御所であるSerruys先生(オランダ)が発表者でした。

 

SYNTAX4yr resultsこの研究が始まって満4年、

今回初めて冠動脈バイパス手術がPCIよりも生存率ではっきりと上回ることが示されました。

つまり、バイパス手術を受けた方が患者さんは長生きできるわけです。

 

死亡+脳卒中+心筋梗塞の全体では両群に大きな差はありませんでした。

これは1年目にバイパス手術群で脳卒中がやや多かったことが影響したためですが、

4年目では脳梗塞でも冠動脈バイパス手術はPCIと同レベルにまでつけています。

 

表のなかでMACCEは心臓や脳の大きな問題の発生、

Death/stroke/MIは死亡/脳卒中/心筋梗塞です。

またAll-cause mortalityはがんや事故その他を含めたすべての原因による死亡、

cardiac deathは心臓が原因の死亡、

repeat revascularizationは追加治療です。

 

その結果、

複雑な冠動脈病変に対しては冠動脈バイパス手術を標準治療として考えるべきで、

冠動脈病変がそれほど複雑でない患者さんつまりSYNTAXスコアが22点未満ではPCIは選択肢になり得ると述べられました。

つまり左主幹部病変や3枝病変の患者さんの75%は冠動脈バイパス手術がベストな治療であり、

残りの25%の患者さんにPCIを行うことができる、というわけです。

 

Jab110-sこのあと白熱の議論が交わされ、

外科からは、4年でこれほどの差が出る以上、もっと長期になればいっそう大きな差が出る、

冠動脈バイパス手術が優れているのはもはや明らかだ、という意見がでました。

その一方、

内科からはこの研究で使われたTaxusステントよりも新しいXienceステントを今は使っているので、

この結果はもはや古いという声も。

卑怯千万、正面から堂々と勝負せよという声が外科医から聞こえてきますが、

何しろ患者さんの多くはまず内科の門をたたくため

どうしても内科の先生の好みが反映されがちなのです。

ともあれこうした研究と議論を延々と続けていくことになるということになりました。

 

Ilm17_ca05007-sこのように外科の冠動脈バイパス手術の優位性が示されたSYNTAX4年の結果でしたが、

ESCヨーロッパ心臓協会のガイドラインはこれまでと同様でした。

つまり冠動脈複雑病変には冠動脈バイパス手術をというわけです。

これが世界の主流の考えです。

 

日本はさまざまな理由によって必ずしもそうではありません。

今後さらに多くのデータを突き合わせていく必要があるでしょう。

 

その後、今年3月の日本循環器学会の内科外科合同シンポジウムでも、

「これまではガイドラインを守らずにステントをどんどん入れる内科医が多かったが、これからの若い内科医はガイドラインを順守するような気がします」

といったご意見が権威筋の内科の先生からも出され、流れがすこし変わって来たという印象をもちました。

患者さんのほうからも勉強し、「患者力」を発揮するときが来ているのかも知れません。

医療の主体は患者さんなのですから。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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