第二回Mitral Conclave(僧帽弁手術の研究会)

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5月2日、3日にアメリカはニューヨークで開かれたMitral Conclaveという学会に行って参りました。いつものことながら、学会印象記は一般の方々にはわかりづらいと思いますので、こんな汗を流しているのだという程度に読み流して頂ければ幸いです。若い先生方には海外の学会の雰囲気を知ったり勉強のきっかけになればと思います。

この会はアメリカ胸部外科学会(略称AATS)という心臓血管外科では世界の頂点に立つ学会が、僧帽弁手術にテコ入れするために2年前から始めた会です。

さすがにAATSの分科会だけあって、僧帽弁手術については世界の権威のほとんどが参加し、勉強や情報交換の場としてこれ以上のものはないという印象です。実質的に僧帽弁手術のサミットのようになっています。

MitralConclave2013bそのディレクターつまり日本でいう会長はニューヨークのDavid Adamsアダムズ先生で、プログラム委員会には畏友Michael Borger(ボーガー、ドイツのライプチヒ)、元AATS会長のIrving Kron(クローン、アメリカのシャーロットビル)、恩師でもあるD.Craig Miller(ミラー、アメリカのスタンフォード)、Tomislav Mihaljevic(ミハルジェビック、アメリカのクリーブランド)はじめ錚々たる顔ぶれです。いずれも何らかの機会にお世話になった方々でうれしいことです。

2年前の第一回のときにも参加し、ポスターで発表しましたが、今回は口演の機会を与えられ、少しレベルアップしたというところです。

僧帽弁手術の中心はなんといっても僧帽弁形成術で、これがさまざまな視点からじつに詳細に論じられました。

たとえばミックス手術(創が小さい手術)、再弁形成術、こどもの弁形成、手術のコツ、後尖の形成、前尖の形成、正しい手術適応、ロボット手術、などなどが一日目の午前中に論じられました。

分科会ではカテーテルによる僧帽弁クリップ手術(Mクリップ)のディベートを拝聴しました。Mクリップのもとになっているアルフィエリ法という手術は僧帽弁輪形成術とセットで行って初めて威力が発揮される(だからMクリップではダメ)というアルフィエリ先生のは、さすがにこの方法の本家本元のお言葉だけに大変重く、効きました。やはり逆流本当に治すべきときには外科手術の僧帽弁形成術が必要であり、カテーテルを使うMクリップは手術できないときだけ、というのが現実のようです。アルフィエリ先生は以前からお世話になっている先生なのでお礼を言っておきました。

午後にも同じテーマの発表が続き、休憩をはさんで特別講演がありました。

僧帽弁手術の領域で歴史に残る功績のあった方が講演をされるセッションですが、第一回目は言わずと知れたパイオニア・フランスのカーパンチエ先生で、今回はニューヨークのRobert Frater(フレーター)先生でした。僧帽弁についての多大な業績のある先生ですが、ゴアテックス人工腱索を実用化にまで完成させられ、今日のハイレベルの僧帽弁形成術の礎を築かれた先生です。その講演のなかで私の仕事まで紹介して下さったのは驚きで光栄な限りでした。思えば多くの先達のご指導でここまでやって来れたとあらためて感謝のかたまりになっていました。

そのあと分科会で私はミックスのセッションに参加しました。日頃やっているポートアクセス手術がどういう位置づけにあるかを知るために参加しましたが、手術成績や創のきれいさではすでに良いところにつけており、これから装備を充実したく思いました。

2日目は早朝7:15から始まるというアメリカらしいスタートで、参加したい分科会はいくつもありましたが、そこは午後に発表するのと同じテーマである心不全への僧帽弁手術に参加しました。移植が多数できない日本ではこの領域の心臓手術が進化しているという印象をこれまで以上に持ちました。なんだか数年前に自分たちがやっていた苦労を今頃やってるよという印象でした。

それからもう一人の恩師であるTirone E. David(デービッド、カナダのトロント)が胸骨正中切開による僧帽弁形成術を、さらに畏友Borger(ボーガー、ドイツのライプチヒ)がポートアクセス法による僧帽弁形成術をディベート風に論じました。

ディベートということもあって、Borgerは若いだけにDavidや他の大物から散々批判されちょっと気の毒でしたが、多くの批判を跳ね返すことでポートアクセス法がより大きなものに成長する、良い機会とも思えました。狭い視野で行う手術が、僧帽弁形成術としての成績をいささかでも落とすことが無いように、というご意見に対して、堂々と、手術の質は落としたり妥協したりしていない、こう言えることが大切と思いました。

翌日、Borgerにポートアクセス法だからこそ僧帽弁形成術としての質が上がるポイントを言うべきだよと進言しておきました。しかし若いのに多数のベテランにひとりで対抗したのは立派でした。

そのあとも実用的なセッションが続き、失敗例の検討や虚血性僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁輪の石灰化(いわゆるMACと呼ばれる状態)、などで知識のまとめや経験の交換ができました。

そのあと機能性僧帽弁閉鎖不全症への弁下組織(腱索や乳頭筋など)の形成というセッションで発表しました。

私の方法が一番進んでいるため(というより昔使っていた方法を他の先生らが使っているため)、皆さんいろいろ質問くださり、セッションのあとまで使いたいから教えてくれなどと言って下さり、光栄なことでした。東京医科歯科大学の荒井先生の発表もあり、そのデータが私の方法を支持する内容のものであったため日本ではこうした手術がはやっているのかと聞いて下さる方もあり、盛り上がっていました。

Facebookにもお書きしたのですが、私の発表のときの座長のひとりが恩師Miller先生で、彼は鋭い科学の眼をもつ辛口批評で有名なひとですので、何を言われるかわからないという心配をしていました。しかし意外に好評で、「今日の発表を聴いて君がやっていることが理解できた。これからさらに進めるように」と言っていただき、ほっとしているというのが正直なところです。しかし彼の厳しい眼をパスしたというのはこれからはずみがつくのではないかと少々元気モードです。

そのあとも三尖弁形成術や心房細動など、いろいろ相談したい内容のものが並んでおり、最後まで退屈しない学会でした。

日本から術者レベルの先生方はもちろん、若手の先生方もけっこう参加しておられ、中には懐かしい方々も複数あり、こうした会をきっかけに大展開してほしいと思いました。自分が初めてアメリカの学会に発表に行ったとき(1986年大昔!)には、未知との遭遇という不安と希望の混じった、しかし熱くなれる素晴らしい機会だと思いましたが、もし若い先生の心に火が付けばうれしいことです。

IMG_1722b一日目の夜、日本の先生方とカリフォルニア・サクラメントのFrank Slackman先生を囲んでの夕食会があり、Slackman先生がスタンフォードの先輩であることもあって、話がずいぶん進んで遅くまで遊び過ぎました。川崎医大の種本先生、大分医大の宮本先生、東京女子医大の津久井先生はじめ数名の先生方に申し訳なく思っていますが、若い先生方を激励した内容が受けたのか、何度もお礼を言っていただき、こちらこそありがたく思っています。Slackman先生が翌日、お礼のメールを下さり、はしゃぎ過ぎて無礼にまではなっていなかったようで安堵しました。写真では偉そうに真ん中に立っていますが、これはやや端にならぶつもりがたまたまこうなっただけで、やはりちょっと酔っ払い気味だったようです。

2日目の夕方はニューヨークの大渋滞の中を何とか空港に間に合い、そこから恩師Miller先生やクリーブランドで昔お世話になったGillinov先生らとゆっくり話しながら次の目的地ミネアポリスへと向かえてラッキーでした。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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Keio Mini Mitralに参加して

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この4月27日に慶応大学にて行われましたKeio Mini-Mitral(慶応ミニマイトラル)という研究会に参加しました。

この会は2年前に第一回研究会が行われ、今回は2回目になります。

ポートアクセス法で僧帽弁形成術をおこなう施設は今なお少ないですが、これを日本では一番最初に導入し、今日まで発展させてこられた四津教授と慶応大学チームならではの企画で2年前にも参加いたしましたが、今回はライブ手術の司会という大役を仰せつかっての参加でした。

ポートアクセス法はスタンフォード大学で開発されました。私自身もスタンフォード大学に留学中の1993年ー1996年にこのポートアクセス法による心臓手術を学びましたが、その後、オフポンプ冠動脈バイパス手術や再生医療はじめ、さまざまなプロジェクトに忙殺されてポートアクセス法は封印状態でした。4年ほど前から名古屋ハートセンターにて本格的に開始し、内外の先生方のご支援をいただき、ポートアクセス手術を含めた100数十例のミックス手術を事故なく実施し、これまで手術が危険と言われたタイプのものまで安全手術ができるようになったというおまけまでついたという状況でした。

そこで日本のポートアクセス手術の安全で堅実な発展を願うという四津先生のお考えに全面的に賛同して、この会をもりあげるべく参加いたしました。

会は前回と同様、ポートアクセス法で僧帽弁形成術を慶応病院にて行われたものを、会場で皆さんと共に拝見しながら徹底したディスカッションを加え、さらに重要ポイントをミニレクチャーしていただき、それについてもディスカッションして、皆の経験や情報を共有するという形で進められました。

朝8時に集合して夕方6時の懇親会までの間の大半を、榊原記念病院の高梨秀一郎先生と私、米田正始で司会させて頂きながら、じつにいろいろな勉強や情報交換ができ、充実このうえない一日でした。会場は満席、隣の予備室も満席状態でこの領域への関心の高さをうかがわせるものでした。

ライブ手術では慶応大学の岡本先生や工藤先生が確たるルーチンにのっとって、開胸し準備を進められ、僧帽弁が見えるあたりから四津先生が登板されました。

僧帽弁は後尖のP2と呼ばれる真ん中部分の腱索という糸のような組織が切れ、そのため弁の逆流が起こり、時間とともにそのP2が伸びて大きくなりさらに逸脱し逆流を増やすという状態になっていました。

近年の僧帽弁形成術の進歩により、こうした病変の弁形成には何通りかの方法があり、適材適所で活用すればそのいずれでも良い結果を出せるのですが、この患者さんにとって何がベストかという観点から熱いディスカッションができました。東京医大の杭の瀬先生、新東京病院の山口先生、榊原記念病院の田端先生、榊原病院の坂口先生、大阪大学西先生はじめポートアクセス僧帽弁形成術に熱心な先生方はじめ循環器内科や麻酔科を含めた多くの先生方が内容の濃い討論をして下さいました。

手術は上記P2を三角切除し、あとの微調整をゴアテックス人工腱索で行い、きれいに決まりました。

このライブは同じ時期に開催された日本心エコー図学会の会場にも中継され、より開かれた情報公開や教育の場として多くの先生方やコメディカルの皆さんのお役に立てたようです。

私自身、ライブ手術はこれまで10回ほど経験があり、ライブの司会も同じぐらいの経験をもっておりますが、安全性を維持しつつ内容充実で楽しく盛り上がり、、という目標はなかなか難しく、あとでいろいろ反省しています。とにかく手術成功で盛会に無事完了し、四津先生はじめ関係の皆様にお役に立てたようですのでほっとしています。何か昔の結婚式で、仲人として長時間壇上にずっと座り続けていたのを想い出しました。

現代はチーム医療の時代です。これは医師同士、あるいは医師とコメディカル、さらに事務職員はじめ一般職の方々とのチームワークを示すことが多いのですが、病院や大学を超えたチーム同士の協力もまた含まれるものと思っています。今回のライブ研究会は一つの大きな目標を実現するために皆で協力する楽しみを与えてくれた会でもあったと思います。

四津先生、慶応大学の皆様、ご参加の皆様、ありがとうございました。

 

2013年4月29日

 

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
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第21回アジア心臓胸部外科学会ASCVTSにて

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IMG_1668この4月4日から7日までの4日間、神戸の国際会議場で第21回アジア心臓胸部外科学会(ASCVTS)が開催されました。そこでの見聞録です。

例によって学会での見聞録、印象記で一般の方々には専門的すぎるかと思います。現在の心臓血管外科ではこんな努力と展開があるのだと、読み流して頂ければ幸いです。

この学会は古瀬彰先生ら日本の心臓血管外科医が立ち上げられたアジアの学会ですが、早いもので20年が経ち、世界から評価される立派な学会に育ったことを感じさせてくれる学術集会でした。

私もかつては理事のひとりとして、どう盛り上げて発展させるかをアジアの仲間たちと考えていました。それを懐かしく想い出します。

今回の会長であられる高本眞一先生(三井記念病院院長)らが大いに努力され、あの伝統ある米国胸部外科学会(AATS)や欧州心臓胸部外科学会(EACTS)と並び立つ、国際的に評価される学会となったことは、よろこばしい限りです。

それを象徴するかのように、学会の前日に開催された卒後教育セミナーでは欧米の有名どころが多数講演されました。

私が参加した成人心臓血管外科関係では、アメリカのダミアノ先生(Dr. Ralph Damiano、セントルイスにあるワシントン大学)、カメロン先生(Dr. Duke Cameron、ジョンスホプキンス大学)、ラトーフ先生(Dr. Omar Lattouf、エモリー大学)、ヨーロッパのカパテイン先生(Dr. Peter Kappetein、オランダのエラスムス大学)、ノラート先生(Dr. George Daniel Andreas Nollert、ドイツのミュンヘン大学)、コール先生(Dr. Philippe H Kolh、ベルギー)や、アジアからはサン先生(Dr. Li Zhong Sun、中国)と、もちろん地元日本から多数の先生が講演されました。ロシアや中央アジアからも参加者があったのは時代の流れとうれしく思いました。

内容的に、冠動脈つまり狭心症や心筋こうそくの治療で内科のカテーテル治療PCIと外科の冠動脈バイパス手術の協力協調が求められるハートチームが浸透しつつあることを改めて感じました。これは重症例では冠動脈バイパス手術のほうがPCIより成績が良い、つまり患者さんが長生きできることが証明されたことを受けての変化です。

またそのハートチームが、TAVI(カテーテルで入れる生体弁)の進歩によって弁膜症の世界にも必須のものとして認識されるようになり、あわせて心エコーの重要性がひろく認められるようになりました。

同様に、大動脈の治療でもこれまで大きな成果を上げ治療成績のめざましい外科手術に加えてステントグラフト(EVAR、TEVAR)が一層進化し、両者をうまく組み合わせた治療体系が治療成績をさらに押し上げることを実感しました。

またHOCM(肥厚性閉塞性心筋症)あるいはIHSS(特発性肥厚性大動脈弁下狭窄症)の外科治療と内科カテーテル治療(PTSMA)の進化と協力についての講演もありました。私ごとながら、IHSSの治療はトロントのウィリアムズ先生直伝の方法(モローの手術の変法です)で多数の患者さんの治療にあたって参りましたが、日本全体の1割ちかくをこなしているのがわかり、努力の成果が少し形になって見えたような気持ちがしました。内科の治療では治しづらいものが外科手術で治せますので、今後も精進したく思いました。

それを象徴するものとして、ハイブリッド手術室(ハイブリッドOR)の最近の進展も紹介されました。外科医にとっては5感を倍増するような威力があり、内科医にとっては外科手術に大きな影響力をもつ、それぞれに役立つ、まさにハートチームのひとつのかたちです。手術室で3次元の構造が画像として把握できるDynaCTの進歩はうれしいことです。

 

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タイの畏友・タウィーサック先生と

4月5日からの学会でも同じ流れで心臓外科の上昇気流を感じる活発な議論が交わされました。

 

これからのリーダーがあるべき姿が欧米とアジアの視点から論じられました。リーダーつまり教育者を教育する重要性が近年強調され、欧米では時間をかけてこうしたセッションが行われていますが、アジアでも本格化した感があります。

この数年間ホットな心臓外科領域になった弁膜症では大動脈弁形成術、自己心膜をもちいた大動脈弁再建術それもこどもと成人のそれぞれに、そしてもちろん僧帽弁形成術では実にさまざまな方法が駆使されるようになり、その成果が示されました。なかでもかつて弁形成が困難と言われたリウマチ性僧帽弁膜症に対して果敢な努力と成果が遠隔成績として示されつつあり、さらにそれがリウマチ性弁膜症が多いアジアから主に発信されるところ新しい時代を感じました。

個人的には2つの発表(創がもっともきれいなポートアクセス法の僧帽弁形成術と、心不全で難しい機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい弁形成術)と2つの座長(ミックス手術と再生医療)が賑やかにでき、仲間とともに楽しく勉強できたことが何よりでした。

また畏友、ペンシルバニア大学のJoseph Woo先生がその講演のなかで私たちが行って来た新しい僧帽弁形成術を紹介して下さったのも友情が感じられうれしいことでした。

IMG_7739b1日目夜のディナークルーズでは神戸港から明石大橋の近くまで行き、丁度適温で心地よい海風に吹かれての神戸の夜景はなかなかのものでした。アジアや欧米からの友人たちも楽しんでいたようでした。

2日目の全体のディナーでは由紀さおりのミニコンサートで比較的年配の私たち世代には思わず青春時代にもどるようなひとときでした。欧米アジアの代表がそろ IMG_1679bい踏みで、この学会が世界に認められる位置についたことを感じました。

3日目、つまり最終日もけっこう参加者があり、虚血性心筋症・虚血性僧帽弁閉鎖不全症や大動脈基部のセッションは活発な議論が交わされました。

オーラスにアカデミックランチというのがあり、欧米アジアの学会の重鎮と若手が研修をめぐって懇談する場でした。私はペンシルバニア大学のWoo先生のテーブルで、若い先生らと語らうことができました。

いつものことながら、こうした学会活動以上に、アジアや欧米の旧友や元弟子と再会を楽しめたこと、いつまでも協力して仕事に打ち込めることを、このうえなくありがたく、感謝した4日間でした。皆さんまた会える機会を楽しみにしております。会長の高本先生、お疲れ様でした。

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第19回アジア太平洋循環器学会APSCに参加して—僧帽弁と心筋症

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この2月21日から24日まで、アジア太平洋循環器学会APSCのためタイ国のパタヤへ行って参りました。

IMG_1647パタヤはタイ国の首都バンコックから南東方向へクルマで2時間、半島の先端にある海辺の街です。

立派というより巨大なリゾート地で、その一層の振興のためか2-3年前に大型のコンベンションセンターつまり会議場が造られ、今回の学会はその新しい会議場で行われました。これは医療ツーリズムつまり海外から多くの患者さんを受け容れて治療するという国の方針と軌を一にするものと感じました。

このAPSCはアジア太平洋エリアの循環器学会として2年に一度、持ち回りで開催されていて、今回はタイで行われました。

心臓血管外科のセッションもあり、私はそこへ講演のため招待して頂きました。

1日目のオープニングセレモニーではタイの国王妃が来賓として出席され、物々しい警備の中、笑顔で歓迎のスピーチをされました。

国王妃が来られるというのは確かに大きなインパクトがあり、この学会あるいは医学医療をタイ国がいかに大切に思っているか、あるいは医学医療の領域が大きい力をもっているかを示すものでしょう。

日本ではこうしたことは稀で、医学医療よりも建設業界のほうがはるかに団結しちからがあるということを改めて感じました。福祉・医療費が5000億円削られてもそう大きな反発はない、しかし建設のため公共事業費が5000億円削減されれば大騒ぎになり、それを恐れて政治家は福祉・医療費を削ることはあっても公共事業費は手をつけないという話をときどき耳にします。国民が健康を守る、国民的運動としてこの問題を考えねばならない時期に来ているようです。

IMG_1634bともあれ学会は賑やかにスタートし、いくつかの分野に分かれて熱い講演・発表と討論が行われました。

私の担当は1日目の心筋症のセッションで、心臓外科の僧帽弁手術が心筋症治療の中で占める位置づけ、貢献についてお話ししました。

心筋症とくに拡張型心筋症といえば、治らない病気として内科の先生もお薬でそっとしておき、いよいよダメになったら心移植という考えが今なお残っています。

しかし拡張型心筋症はお薬でしっかり予防すればかなり効果があり、予防しきれない場合でも心臓手術とくにあたらしい僧帽弁形成術や左室形成術でかなり持ち直せることをお話ししました。

というのは拡張型心筋症が進行し、心不全が強くなると、左室の形が崩れて僧帽弁閉鎖不全症が発生するからです。そうなるとただでさえ弱っている心筋への負担が倍増し、患者さんは急速に力を失い、死にいたります。そこでの悪循環を心臓手術で断ち切り、安定をはかろうというわけです。

この場合の僧帽弁形成術は通常の僧帽弁閉鎖不全症にたいするものでは効果がありません。拡張型心筋症にともなう僧帽弁閉鎖不全症では治し方がちがうのです。ここまでの心臓手術の歴史を振り返りつつ、その弱点を克服すべく開発した私たちの僧帽弁形成術である乳頭筋最適化手術、英語で略称PHO法をご紹介しました。

これによって従来助けられなかった患者さんたちのかなりの部分が助かるものと期待しています。アジアの先生方の中にも、是非使いたいと言ってくれる方が増え、うれしいことです。

この発表では、それ以外にも、心臓外科のお役にたてることをご紹介しました。たとえば拡張型心筋症が悪くなったら、両室ペーシング(略称CRT)が心機能回復に役立つことがあります。また命にかかわる悪性の不整脈が出てくれば、植え込み型除細動器(略称ICD)が患者さんのいのちを助けます。さらにこれらを合体させた方法、CRTDも活躍しつつあります。

しかしこれらのペースメーカー的な治療法はどうしても三尖弁を通過して右室にリード線を配置する必要があり、それは少なからず三尖弁閉鎖不全症(TR)を引き起こします。いわゆるペースメーカーTRと呼ばれる状態ですね。この場合の閉鎖不全症は悪性で、心不全さらに肝不全まで合併して死に至ることが多くあります。これらが私たちの工夫した三尖弁形成術で、人工弁を入れることなく助かることをお示ししました。

また「僧帽弁は左室の一部である」ことは医者の常識になっていますが、この考え方をもう一歩進めて、「左室は僧帽弁の一部である」「だからこそ、僧帽弁形成術においても、左室をできるだけ治さねばならない」ことをご説明しました。これはけっこう受けたようです。

その一環として、比較的短時間で、しかも壊れた左室が最大限パワーを回復できる方法をご披露しました。私たちが考案した「一方向性ドール手術」です。これによってセーブ手術という優れた方法と同じだけきれいな形に左室を修復でき、しかもドール手術と同じぐらい短時間で仕上がることをお示ししました。

こうした心臓外科の方法を多数の内科の先生方が熱心に聴いて下さったのはうれしいことでした。

一日目はその他に心筋症、心不全、不整脈などでも最近の治療法の進歩が紹介され、充実した内容でした。ヨーロッパ心臓学会(略称ESC)から多数の先生方が参加され、東洋と西洋の交流も含めたレベルの高い国際学会となりました。

2日目は欧米の新しいガイドラインや最近の進展のまとめを各分野ごとにまとめて解説されるというセッションに参加しました。冠動脈で何でもPCIという状況が、冠動脈バイパス手術(CABG)を適材適所で使いわけるということがアジアにも浸透しつつあることを感じました。またカテーテルで植え込む生体弁(略称TAVI、タビ)の最近の進展も熱く論じられました。

Plt018b-s日本は政府の構造的問題でドラッグラグ(患者さんに必要な新薬がなかなか認可されない)とデバイスラグ(救命や治療に必要な道具類の認可に年月がかかる)のために、欧米より遅れていることは以前から問題になっていますが、アジア諸国にも後れをとっていることを改めて感じました。

これは政府・官僚が新薬や新デバイスを認可して、もしも副作用などが発生したら、その官僚が責任を取らねばならない、するとそのひとはもはや出世できない、という構造があるために起こっているのです。国民不在の構造ですね。医師だけが文句を言っても、票数ではわずかでその影響力は小さく、やはり国民がもっと声を上げるべきです。ということでこのブログにもそれをお書きし、皆さんに現実を知って頂くようにしています。

さて私の2日目の講演は、心不全や心筋症に続発する機能性僧帽弁閉鎖不全症にたいする僧帽弁形成術についてでした。

ここまでのコンセプトの変遷とともに僧帽弁形成術も進化してきた歴史を振り返り、現在のPHO法にまでたどりついたこと、そしてその手術のコツや注意点などをお話ししました。パキスタンの先生(座長)から「機能性僧帽弁閉鎖不全症もここまで治るようになったんですね!」とお褒め戴いたのがうれしかったです。せっかく皆で努力して良い手術法を創ったのですから、これからひとりでも多くの方々に使って頂けるよう努力したく思いました。

IMG_7233bそのあと、夕方までの間に時間ができたため、仲間(東邦大学の尾崎重之先生、山下先生ら)と観光に行ってきました。3時間ほどのミニツアーですが、私はぜひ仏教とトロピカルが合体したものを写真にしたいと思っていたため、無理に時間をやりくりして出かけました。ちなみに尾崎先生は自己心膜での大動脈弁再建をライフワークとして実績を上げておられ、今回もその啓蒙のために来ておられました。私もこの弁には大いに関心あり、かつてトロントでやっていたステントレス大動脈弁の発展型という気持ちもあり、お世話になっています。

IMG_7241bまずSanctuary of Truthという海辺の寺院へ行きました。フランスのモン・サン・ミッシェルを想起させる場所にあり、見事な木造の寺院と無数の仏像の四次元的な世界でした。さらに面白かったのはその近くに木工所のようなところがあり、ここで多数の仏師?の方々が仏像を造っておられたことです。そういえばこの寺院に着く直前にたくさんの見事な大木が並んでいたのはこの仏像の材料だったのだと納得しました。木造ゆえ、ヨーロッパの寺院のように何百年も持たず、改修しつづける必要があるようで、これはバルセロナのサクラダファミリアのようで、東西の共通した熱意を感じました。

その他高い岩山に仏像を描いたブッダマウンテンなどにも足を延ばしました。仏教への信仰の厚さを少し感じるところがありました。

それからまた学会場にもどり、といってもディナーパーティですが、アジアの先生方と楽しいひと時が持てました。ひとつ感じたのはアジアの循環器内科の先生方は歌が上手だということです。聞けばタイではカラオケが今も大人気とのこと、日本ではいつのころからか、あまりカラオケに行かなくなったのは残念でした。

アジアの良さと、少しは国際貢献できたかも、という満足感、なにより寒い日本から3日間だけでもトロピカルなところで骨休めできたという感謝の念をもって、そのまま学会のはしごをするためタイを後にして東京へ向かいました。

ご招待下さったタイやアジアの先生方、ありがとうございました。

 

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第三回NPO法人日本ローカーボ食研究会にて

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この1月27日に名古屋市にて第三回NPO法人・日本ローカーボ食研究会が開催されました。

心臓外科医の私が積極的に参加しているのを少し奇異に感じられる方もあるかも知れません。

私としては心臓手術の患者さんをお助けするために大いに役立つため、そして全人医療を自らもっと学びたいこともあって、前向きに勉強させて戴くというスタンスで参加しています。

今回は一般演題というよりはどちらかといえば勉強になるような教育講演、シンポジウム的な構成でした。安井廣迪先生の司会で進められました。

ローカーボ研究会 IMG_1584はじめに名古屋大学名誉教授の加藤潔先生が生命の進化における炭水化物の意義というテーマで特別講義されました。

灼熱マグマの地球の誕生からCO2の大気で包まれて保温されながら徐々に炭水化物ができ、それが生命の発生にいたり、そこから酸素が増えて高度な動物の発生にいたるなかで、炭水化物はCO2や太陽熱・光のエネルギーから由来して私たちそのものに進化していった様子が実感できました。

このように重要な炭水化物ですから、うまく活かすことが大切とあらためて一同感じ入りました。

それから村坂克之先生の恒例・好評のアルコール負荷試験シリーズ、今回は日本酒・地酒のさまざまなものを調査検討されました。中には血糖値をかなり上げるものもあり、ひとつひとつ検証が必要と納得しました。それにしても日本酒にもいろいろあると、そのバラエティーの豊富さには感心しました。

Ilm15_ai02004-s中村了先生は実に多くの文献を読破し、診療経験も含めてローカーボと高脂血症の講演をされました。LDLが必ずしも下がらない、しかしHDLの改善がしっかりしているため大丈夫というところまでわかってほっとしました。

それから不肖私、米田正始がPNASという有名ジャーナルの話題の論文、ローカーボ食で血管障害や動脈硬化が起こるという研究をご紹介しました。

そもそも血管内皮細胞が体の中でどう大切か、そしてそれを造るEPC血管内皮前駆細胞の役割を概説し、それからローカーボ+高たんぱく Ilm19_ca06088-s食のマウスでは動脈硬化がひどく進みEPCの数も機能も落ちていることを示しました。

マウスとヒトの違いはあると思いますし、中性脂肪などが低下しないあたりはそれを物語っているように感じます。しかしローカーボをきちんと評価しながら進める必要があることを学びました。

ちょっと我田引水して、血管内皮細胞が大切なので、重症の虚血性心疾患に対する冠動脈バイパス手術はカテーテルによるPCI治療より有利であることもお話ししてしまいました。まあそれぞれの特長を十分踏まえて使いこなすことが大切と思いますが。

Ilm09_cc02001-sそして畏友、新井圭輔先生が糖尿病性腎症はインスリンによる薬害であったという、衝撃的なお話しをされました。新井先生は私のクラスメートで、放射線医師の立場から糖分を食べて育つがんを抑え込むこと、老化の原因のひとつがインスリンであることからアンチエイジングとしてもローカーボを推進して来られました。血糖値と腎機能に全然相関がないというデータを示され、これは面白い、ぜひ科学的検証を進めようと思いました。今日の常識は明日の非常識というのは医学ではよくあることです。インスリンもそうなるのでしょうか。ローカーボ食を活用することで何名かの患者さんのインスリン卒業のお手伝いをしてきた私にはうれしい内容でした。

ローカーボ食のパンや飲み物、アイスクリームなどを戴いて休憩したあと、理事長・灰本元先生の特別講義2、HbA1Cレベルに応じた炭水化物制限の層別化のお話しがありました。

安全なローカーボ、大規模研究EBMにもとづくローカーボを追及するなかで確立してきたゆるやかローカーボの意義がかなりご理解いただけたものと思います。

これからきめ細かいローカーボ食へと進化していくような気がしました。

 

Ilm19_cb01025-sパネルディスカッションとして、やせる症例とやせない症例を小早川裕之先生と篠壁多恵先生が2例ずつ供覧されました。

酒飲みはローカーボ食が効きにくいこと、あるいはどうしてもローカーボが効かない体質の方はおられます。これを今後どうするか議論は尽きないものがありました。

食の問題はこれまで医療の盲点であったような印象を強くもっています。そのため、ローカーボ食を患者さんを助けるための有効な武器としてもっと進化させることで、これまでできなかった治療ができるのではないか、あるいは病気を予防して世の中を良くすることも夢ではないと思っています。

そうした夢が実現できる方向性をかんじさせてくれた研究会でした。

灰本先生はじめ関係の皆様、サポート下さった方々(大塚食品、マンナンライフ、クラシエ製薬、浅田飴、グリコ、楽園フーズなど)、遠方からお越し下さった新井先生、寒い中を参加くださったみなさま、ありがとうございました。

2013年1月27日

米田正始 拝

 

 

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執筆:米田 正始
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あけましておめでとうございます(2013)

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あけましておめでとうございます

今年もよろしくお願い申し上げます。

昨年、2012年はおかげさまで充実した一年でした

Orti046-s名古屋ハートセンターも開設から丸4年が過ぎ、心臓大血管手術も300例には及ばなかったものの、それに迫る実績をあげ、名古屋エリア屈指の施設に成長いたしました

これも多くの患者さんや開業医・内科・心臓血管外科の先生がたはじめ、院内の内科・外科・コメディカル・事務はじめとしたあらゆるチームメンバーの皆様のご尽力のおかげと深く感謝しております。

心臓手術数だけではなく、質的にも他病院で断られた再手術、再々手術、再々々手術例を始め、駆出率が10-30%つまり心臓のパワーが本来の半分から5分の1まで落ちたケース、心筋症やIHSSなどにみられる複雑な心室、冠動脈が病気でバイパスがつけられないと言われた患者さん、弁のあちこちが壊れて弁形成しづらいと言われた僧帽弁閉鎖不全症や僧帽弁狭窄症の患者さん、大動脈弁を形成で治さないと妊娠出産などの人生設計ができないというケース、その他さまざまな患者さんたちにお役に立てて医者冥利の一年でした。

また他病院で目いっぱいの手術治療のかいなく、術後経過が思わしくなく弁や左室が悪化し、どうにもならない状況からご来院いただき、出直しの再手術で元気になられば弁膜症や先天性心疾患の患者さんたちにもよろこんで戴けたことを光栄に思います。患者さんがお元気になられることで、元の病院への不満も解消し、このような形ででも同業者の方々に貢献できたのもうれしいことでした。

ミックス手術(MICS、小さい切開の、患者さんにやさしい手術)がさらに増え、私の執刀例ではほとんどのケースが何らかのミックス手術で、手術の内容や大きさだけでなく、その患者さんの年齢・状態やライフスタイルなども考慮して最適なものが選べる、ひとつのオーダーメイドのミックス手術に進化したのも昨年の成果です。20歳前後の若い女性患者さんたちにポートアクセス法を始めとしたミックス手術でこころの負担を減らすことができたのもうれしい想い出です。

Ilm22_ba01055-sもちろん地域医療のなかで、夜中などに生きるか死ぬかの状態で救急車搬送された多数の患者さんたち、とくに急性大動脈解離や大動脈瘤破裂の患者さんたちにも私たちを信じて頑張って下さったことを感謝申し上げます。

しかしその一方、あらゆる手を尽くしても救命できなかった患者さんも若干あり、深いお詫びと反省、検討と近い将来同じ病気・同じ状態の患者さんをぜひとも救命できるよう、チーム全員で努力しております。お助けできない患者さんがおられる以上、その改善や解決に向けて十字架を背負って生きて行く自覚を忘れないようにしています。

こうした努力の結果を内外の学会やシンポジウム等でも発信することができ、多くの仲間たちのお役に少しでも立てたのであれば、大変幸甚なことです。

たとえば昨年10月のヨーロッパ心臓胸部外科学会(バルセロナ、Segesser先生が会長)で新しい手術のセッションで、私たちの手術(機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋最適化・僧帽弁形成術)を発表し、ぜひ使ってみたいとのご意見を頂けたこと、あるいは3月のアジア心臓血管胸部外科学会(バリ島、畏友Hakim先生が会長)のシンポジウムでも同様によろこんで戴けたことを光栄に思います。ヨーロッパやアジアの先生方に、是非この手術を使いたいと言っていただき、ビデオをお贈りしたりご説明したりと、海外の友人仲間に貢献できるのはまさに至福の時でした。

国内でも7月の冠動脈外科学会(防衛医大前原先生が会長)、9月のMitral Conclave(慶応大学の四津先生が会長)、10月の日本胸部外科学会、11月の日本弁膜症学会(慈恵医大の橋本先生が会長)やCCTなどでも同様の貢献の機会をいただき、厚く御礼申し上げます。私のチームの若い心臓外科医諸君も大きなシンポジウムで発表でき、より自覚と誇りをもってくれたのも大きな収穫でした。国内学会ではしばしばVSP(心筋梗塞後の心室中隔穿孔)のセッションの座長を仰せつかるのですが、いつも前向きの議論をワークショップ風に進めていけるのを楽しんでいます。今、若い先生方にも安心して使って頂ける新しい手術法を開発しています。

共同研究をしていただいている川崎医大の先生方がAHA、ACC、ASEはじめ名だたる国際学会でその成果を発表したり、なかには向こうから乞われて講演したものもあり、日頃の努力が評価されたこと、大変うれしいことです。

ひるがえって毎日の仕事のなかで、患者さんや職員の皆さんとの対話の時間をもっと持ちたく思いながら十分にはできていないという反省がつのります。時間が物理的に取れないなら、せめて質を上げて、短時間でもしっかりと聴く、これを今年はもっとちからを入れて実行したく思います。

患者さんの悩みも多岐にわたります。心臓手術によって心臓は元気になっても、体の他の部分のさまざまな悩みやご家族とのこと、社会経済的なことなど、自分の領域を超えた悩みにも何かできることはないか、考えてしまいます。心臓病だけ治してもダメということをこれまで以上に実感することが増えました。できるところから手をつけていこうと思っています。

そういえば病院のコメディカル諸君が主体的に研究テーマをもち、患者さんの役に立つ研究をやろうという機運が生まれ、昨年はヨーロッパのエコー画像の国際学会で発表してくれた放射線技師さんや、国内の大きな全国学会で看護研究を発表し優秀演題賞を受賞してくれた看護師さん、MEさんの大きな学会で講演してくれた技師さん、新しい知見を報告してくれた検査技師さんなど、まさにチーム医療を担う若い諸君の活躍が始まったのも大きな収穫でした。やはり仕事は面白くなくてはいけません。汗や涙を流してでも楽しくなければならないのです。そうしたお手伝いをこれからもっとできれば、おのずとその成果は患者さんに還元できると思います。

思いつくままに昨年の努力とちょっぴり成果をお書きしましたが、こういう雰囲気で今年も皆で汗をかきながら走りたく思います。皆様のご指導やご鞭撻を頂けましたら幸いです。

2013年1月1日

米田正始 拝

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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Mitral Conclave(僧帽弁形成術の国際シンポ)に参加して

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2012-09-15 20.04.17bこの9月15-16日と、軽井沢の万平ホテルという伝統と趣のある場所で行われたMitral ConclaveにFacultyとして参加して参りました。会長は慶応大学の四津良平先生で、昨年のアメリカ胸部外科学会AATSでのそれの日本版という予想でしたが、国際シンポジウムの名にふさわしい立派なものでした。

実際心臓外科関係ではニューヨークのAdams先生とAnyanwu先生、タイのTaweesak Chotivatanapong先生、Weerachai Nawarawong先生、Chaiyaroj先生、ベトナムのPhan Nguyen Van先生、シンガポールのCN Lee先生、循環器内科ではRandy Martin先生はじめ、おなじみの有名人がFacultyとして名を連ね、これまでの交流や理解が深められる素晴らしい場となりました。個人的にはどこか弁膜症愛好会の同窓会のような雰囲気でした。

このシンポに先立って、朝からステントレス僧帽弁(Normoノルモ弁)の特別セッションがありました。ウェットラボで実技指導を頂いて、これからの臨床応用と認定施設決定に役立てるための重要な会とあって、執刀医レベルの先生が集まり賑やかでした。私も名古屋ハートセンターでこのステントレス僧帽弁を始めるための施設認定のための準備として参加させて頂きました。2012-09-15 17.21.39b

開発者の加瀬川先生、そしてその仲間である榊原記念病院の高梨先生や田端先生らを始め多数の同好の士がわいわいと賑やかに手術を行いました。もちろん動物の心臓をもちいてのシュミレーションですが、細部にわたるコツや落とし穴がわかり、有意義でした。

私はたまたまご縁あって、大阪市立総合医療センターの実力派・柴田先生とペアを組んで一例執刀させていただきました。心臓手術自体も有意義でしたが、それ以上に柴田先生や加瀬川先生らとのDiscussionが面白く、あっという間に3時間が過ぎました。できあがりは一応合格点で、こうした練習や研究を積んで十分自家薬籠中のものとしてから患者さんに使うというのは大変良いことと思いました。

15日正午からMitral Conclaveが始まりました。

興味深い発表とDiscussionの連続でした。若い先生らには得難い勉強と刺激の場になったものと思います。上記の先生方が前向きに楽しい議論をしてくれるため、退屈することのないセッションが続きました。

私に与えられた仕事は午後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症のセッションでの司会と講演でした。司会は畏友・神戸大学大北先生と一緒にやらせていただきました。

北海道大学の松居先生が乳頭筋を束ねて前方に吊り上げる術式が後方に吊り上げるよりずっと良いことを示され、東京医科歯科大学の荒井先生が乳頭筋の単独吊り上げが後方より前方が有効であることを発表されました。

前方吊り上げの効用をこの10年近く主張してきた私にとって、大変うれしいことでした。どういう術式が良いかは患者さんが教えてくれる、このことを心の支えに頑張ってきた甲斐があったと思いました。

私・米田正始は川崎医大の吉田教授らと共同研究してきた乳頭筋ヘッド最適化(略称PHO, Papillary Head Optimization)の術式を発表しました。多くの質問をいただき、これほど関心をもっていただいてうれしいことでした。大御所のAdams先生はじめ、上記の先生方がぜひ君の術式を使いたいと言って下さり、これまでの楽しい苦労が一層楽しいものになったような気がします。

外来でこのPHO術後の患者さんとよくお会いしますが、手術前の状態とくらべて大変お元気なお姿にジーンときます。一緒に苦労してくれてありがとう、今の健康はあなたが頑張って勝ち取ったものだよと言いたくなります。逆に患者さんのほうからたくさん御礼を述べていただき、一層ジーンときます。

このセッションではニューヨークのAnyanwu先生が新しいLVAS補助循環の活用も話されました。超重症で手術に耐える体力がない方や、心臓の余力があまりにも少ない患者さんたちにはLVASが役立つというのはこれまでも知っていたことですが、僧帽弁置換術後の左室破裂という稀でも恐ろしい合併症にLVASが大変有効であるというのはなるほどと膝をたたくインパクトがありました。これからはこうした超重症といいますか、どうにもならない患者さんにも救いの手が伸びるという実感を得られたことは大収穫でした。

2012-09-15 18.36.31b夜のディナーパーティでは多くの方々と歓談できました。高名な先生方はもちろん、日頃あまり話する機会のない、あちこちの若手中堅の先生方と話ができてうれしく思いました。自分が若いころ、海外の大物先生と話することがどれほど夢をかきたて、モチベーションを上げたかをふと思いだしました。

二日目の朝と午後には僧帽弁形成術の詳細・各論についての発表と議論が交わされました。ループテクニックという比較的初心者でもやりやすいと言われる方法がさまざまな形で論じられていました。それ自体は良いことと思うのですが、日本全国でも限られた数しかない僧帽弁形成術を、全国の心臓外科医が分け合ってやるとなると、不慣れな心臓外科医が年間数例ずつやる、という状況へつながりかねない話です。それは即、患者さんにとって不幸なこととなる、そういう懸念をもちました。実際、経験豊かな先生方も同じ心配をしていました。

それ以上に、このループテクニックでは僧帽弁の一か所を支えるために1対つまり2本の人工腱索がひつようで、たとえば前尖全体が逸脱している場合なら、私たちなら8-12本できれいに形成できるところを、その2倍の16-24本も人工腱索が立つことになります。これはもし腱索が硬化や肥厚をすると大問題になるでしょう。もっと議論が必要と感じました。

Adams先生の僧帽弁輪形成術つまりリングの講演はよく整理され、よくこなれていて、さすがと感心しました。

2012-09-16 12.46.47b2日目には三尖弁形成術や心房細動のセッションもありました。新田先生やChaiyaroj先生らのMICSメイズ手術は私たちもちからを入れている領域ですので興味深く拝聴しました。

三尖弁形成術で本当に難しいのは、右室機能不全が起こって三尖弁の弁尖が右室側へ引き込まれる、テザリングが起こる重症ケースです。Adams先生にそれを質問しましたが、さすがの彼もそういうケースは経験ないとのことで、彼の友人の経験談を話してくれました。正直で親切な人柄にあらためて感心しました。

もうひとつ感慨深かったことがあります。Adams先生の講演の中で、強い心不全をともなうケースでは右室と三尖弁輪が拡張しておれば三尖弁の逆流がそれほどでなくても、同時に治しておくことが良い、ヨーロッパ心臓協会の新しいガイドラインではそれはクラスIIaつまりやる意義があるという水準になった、というものでした。

このことは数年以上まえからエキスパートの中ではすでに知る人ぞ知る、方法でした。私は前任地の京大病院で必要があればこの方法で三尖弁形成術を加えていました。少しでも心機能を改善し、患者さんが永く生きられるように。

ところが前任地では、打ち合わせ会議と称する場で、ある心臓外科の先生が「米田先生は逆流があまりない弁まで形成している」と発言し、そのため「そんないい加減な適応で手術しているのか」と誤解する先生まで現れ、発言の機会さえ与えられず、心臓外科の臨床やEBMデータを知らない人たちは本当に困ったものだと、情けなくなりました。今、ヨーロッパの心臓協会がこの方法を正式に認めたというのは、ようやくお墨付きが出たわけで、自分がデータをもとに信じてやって来たことがようやく本筋の治療になったと、感慨深いものがありました。

まあ不勉強な人たちや悪意の人たちにわかってもらえなくても、患者さんや一流の人たちは理解してくれていると思えば、納得が行きます。そういう満足感が得られるセッションでした。それにしてもそうした大学病院はもはや最高学府とは言えないのではないかと残念に思いました。

もうひとつうれしかったのは、当院内科はもちろん、エコースペシャリストである川崎医大循環器内科の先生方と協力してやって来た、内科と外科のコラボレーションが、あのRandy Martin先生やAdams先生に喜んで頂けたことでした。来年の発表依頼まで頂いて、こちらも感動してしまいました。

それやこれやで忙しく賑やかな2日間でしたが、軽井沢を散策する暇もなく、しかし充実感を頂いて名古屋への帰途につきました。

素晴らしい会を開いて下さった四津先生はじめ慶応大学の先生方、国内外のFacultyの先生方、関係の皆様に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。

平成24年9月16日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
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中国での心臓外科国際シンポジウムに行って参りました

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 8月のお盆休みにたまたまご招待を頂いたため、第一回国際心臓胸部外科シンポジウムのため中国の保定市(Baoding市)へ行って参りました。尖閣諸島問題で騒々しい中をまあ何とかなるだろうと参加しました。

 
保定市と言っても日本ではあまりなじ 2012-08-17 17.51.22みがないと思います。
北京から南西方向にクルマで2時間半のところにある町ですが、なんと人口は1000万人を超える大都会です。中国は何につけてもスケールが大きいと思いました。

これまで何度か心臓手術をするために訪問した天津は北京から南東にクルマで2時間あまりのところにあるため、この3つの大都市が正三角形をなしているという位置関係です。

保定市はかつては河北省の省都だったそうですが、現在は省都を天津に譲っているそうです。
ともあれ保定市でもこれから医療を国際化、先進化して村おこしの一助にしようということでこの第一回国際心臓胸部外科シンポジウムが企画されたようです。

 

日本からは私・米田正始と東京大学教授の許俊鋭先生が招待を受けて参加しました。
許先生とは長年のおつきあいというよりお世話になって来ましたので、久しぶりに楽しいひと時になりました。

北京空港で数十名の参加者が集合し、コオディネーターの丁さんのお世話でバスで保定市まで移動しました。参加者はヨーロッパ、アジア、アフリカなど多彩で、心臓胸部外科関係はもちろん、それに関連した循環器内科、移植、腎移植、内科、脳外科、基礎医学など多彩でした。

中国といえば、英語が通じるというのがこれまでの私の印象でしたが、たった2時間地方へ移動するとあまり通じない別世界であることを知りました。この国は巨大で、医療でも何でも国の隅々まで行き届かせるのは大変だろうとすぐ理解できました。

ホテルはまずまず近代的なものでしたが、周囲の街並みは現代と過去が混在したような、あるいは豊かさと貧困さが入り混じった形で、急速に発展する中国の地方都市の姿を象徴しているようでした。地方都市といっても人口1000万人以上の、東京なみの大都市ですからこの国のポテンシャルはすごいとも思いました。

2012-08-16 19.19.22中国の良き慣例で、到着当夜の歓迎パーティは豪華かつ楽しい中華料理で、大型テーブルが電動式に動いているのが面白く、20名以上が食卓をともにすると、デーブルを動かしておかねばなかなか食べ物が回ってこないためでしょうか。

同様の部屋がいくつもあって、20名単位で親交を深めるということのようでした。

内容は数えきれないほどの中華料理のバリエーションと、マオタイやワインその他の飲み物でしたが、美味なマオタイに比べて中国のワインはまだ発展途上という印象でした。タバコとライターが時々回ってくるのと、食事中でもタバコを吸うひとがいるあたりアジアのおっさん時代の名残を感じました。
中国式に何度も乾杯しながら楽しいひとときでした。

翌日から病院(保定市第二病院)の大講堂でシンポジウムは始まりました。

二日間の予定で、心臓外科、呼吸器外科、移植とそれらに関連した領域のトピックスが論じられました。

図1

驚いたのは発表も討論もすべて中国語で行われ、許先生や私の発表はもちろん英語でなされたのですが、中国語の通訳がついてのものでした。

英語に堪能な中国人の本国で、それも人口1000万の大都市でもここは僻地じゃというのはこの国を統治することの大変さをうかがわせるものでした。

許先生と、こんな巨大な国をたかだか100万か200万の軍隊で支配しようとした旧日本軍はこの国を知らなさすぎたですねと、あらためて日本の世界知らずを実感した次第です。

さらに面白かったのは、香港の先生が中国語で発表されても、それが大半の聴衆に理解されず、やむなく英語発表に切り替えられ、それを台湾の先生がボランティアで通訳されたことでした。

この国は巨大だと再度痛感しました。ちなみに許先生や私の発表を通訳して下さったのも台湾の先生でした。

許先生はライフワークでもある補助循環・人工心臓・心移植を中心としたお話しで、この領域の目覚ましい進歩を改めて実感させてくれるものでした。

補助循環はこの数年間、日本発の小型デバイスを含めた、より優しい小さいデバイスの進歩で治療成績が格段に改善していることを確認できました。

もはや心移植の成績にさえ比肩できるレベルに来ているというのは、心不全患者を預かるものとして感謝に絶えないことでした。

私はより多くの患者さんに役立つミックス手術というテーマでお話ししました。

ミックス手術とは小切開低侵襲手術(Minimally Invasive Cardiac Surger, MICS)の略称ですが、まだ簡単な手術にしか使われていない、それもエキスパートがいる病院に限定されているという問題があります。

エキスパートややるべき手術というのは今後もそうあるべきと思うのですが、簡単な手術にしか使えないというのは世の中への貢献という意味では劣ると考え、それへの対策をお話ししました。

 

つまり、その患者さんの病気や重症度に応じて、さまざまな段階のMICSを使い分け駆使することでより多くの患者さんにお役に立とうというわけです。

ミックスが行われるのは通常、心房中隔欠損症ASDや僧帽弁形成術の簡単なタイプなどが主ですが、私たちの工夫によって、複雑弁形成でも、大動脈弁形成でも、2弁でも3弁でも、比較的高齢者でもミックス手術ができることをお示ししました。

2012-08-17 19.47.261日目のシンポジウムが終わったあと、ディナーパーティが開かれました。中国のもてなしの素晴らしさを見る思いのパーティで、力の入った出し物のあと、何度も乾杯しながら見事なご馳走を山ほど頂きました。

山ほどというのは文字通りの表現で、テーブルに乗り切らないほどの料理が出てきて、それらを互い違いに上へ上へと積んで行くのです。

 

なるほど、こうすれば普通の数倍の料理が並び、かつそのどれも選べることができます。

中国式の実用主義の一端を見せて頂いた思いです。

しかしお皿の下側はきれいなんでしょうねと確認したく思ったひともあったようで2012-08-17 20.33.05す。

冒頭にお書きしました尖閣諸島の問題は、シンポジウム中にはまったくその空気もありませんでしたが、ホテルでテレビを見ますとその報道をしていました。

 

中国政府やメディアによれば、尖閣諸島は5世紀の昔から中国人がよく訪れ魚を取ったりなじみのある島で、位置からいっても当然中国領でしょという報道でした。

英語放送で見ましたので比較的正確に聞き取れたと思います。

これは国民感情に訴えやすい論法ですが、国際法上は誤りです。

それを知っているはずの政府がこうした報道をするのは問題と思いました。

 

しかし同時に中国は今後絶対に仲良くすべき大切な国です。それは韓国を含めたすべてのアジア諸国も同じです。

どうすれば仲良くできるか、幅広く意見を集めて具体的かつ積極的に実行していくことが長期的には一番重要と思いました。

私はこれまで中国に何度も心臓手術や講演でお邪魔させていただいていますが、今回はちょっとユニークな、これまでにない経験をさせて頂いたように思います。

地方都市のためでしょうか。

上海、北京、大連などそれぞれ複数回お邪魔しても見られなかったものが見られて面白い経験となりました。

シンポジウムはもう一日あったのですが、許先生も私も、それぞれ日本で学会の公用があり、朝4時半にクルマで北京へ向かいました。

わずか3日間の旅でしたが、楽しく有意義なひとときでした。

お世話になったYao Lu先生や中国の先生方、秘書のRachelさんはじめ多数の皆様、そして許先生に感謝申し上げます。

平成24年8月18日 米田正始 拝

 

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ステントレス僧帽弁 臨床研究会

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この7月28日に第一回ステントレス僧帽弁臨床研究会が東京でありました。

当番世話人かつこの弁の生みの親である加瀬川均先生のお招きで私も参加・発表等させていただきました。

ステントレス弁とは通常の生体弁とはちがい、弁がケージの中に入っていない、自然な形の弁です。まして自己心膜で造る弁ですから、性能だけでなく耐久性も期待できます。弁形成に力を入れて来た心臓外科医なら誰でも心躍る弁です。

実はこの歴史は永く、1990年代にさかのぼり、当時北米で修業していた私も関心があってその基礎研究や検討をやったことがあります。

ちょうど大動脈弁のステントレス弁が実用化したころで、当然の流れとして僧帽弁にも注目が集まったわけです。

第一回ステントレス僧帽弁臨床研究会トロントでデービッド先生と僧帽弁のホモグラフトを検討していたこともあり、ステントレス弁と構造がよく似ているため気運の高まりがありました。

しかし当時、期待を集めたステントレス僧帽弁とくにクアトロ弁はまもなく音もなく消えて行きました。

その経緯も不明で、ただ消滅したため、何か問題があったものと考えていました。

そうした経験の中で、今回、加瀬川先生が10年間の基礎研究ののち満を持して新しいステントレス僧帽弁を臨床応用されたことを、夢よもう一度、という気持ちでお聞きしたものです。加瀬川先生が開発された弁はNormo弁と呼ばれ、正常僧帽弁に近づけようという願いが込められた名称でした。

第一回研究会ですので基調講演として加瀬川先生がコンセプトを話されました。

ついで日本発のイノベーションをどう展開するかというテーマでシンポジウムが組まれました。

こうした新たなデバイスの開発に詳しい早稲田大学の梅津光生先生、大阪大学の澤芳樹先生、東京女子医大の山崎健二先生、さらには厚労省や内閣官房医療イノベーション推進室の方々まで参加されました。

それからこの弁の生みの親のひとりでもある梅津先生のランチョン講演と動物実験報告、そして臨床実施例報告がなされました。

残念ながら私は他の学会のためこの部分までは参加できませんでしたが、活発な議論であったようです。

それからシンポジウムII「僧帽弁形成術に限界はあるか」が持たれ、神戸中央市民病院の岡田行功先生と私、米田正始で座長をさせて頂きました。

東京慈恵医大の橋本先生、長崎大学の江石先生、岡田先生らが僧帽弁形成術の難症例を披露されました。

たとえば広範囲の活動性細菌性心内膜炎(IE)やバーロー症候群の高度なもの、あるいはECDなどの先天性がらみのケースや再手術例、さらにリウマチ性僧帽弁膜症などですね。

いずれも弁形成は可能ですが、その限界に近いこともあり得るケースで、こうしたときにNormo弁は役立つかも知れないと思われました。

そして僧帽弁形成術の大御所であるPatric Perier先生が僧帽弁の各パーツのどの部分がどこまで治せるかを講演されました。大変有用なお話しでした。限界を知ること、また努力して限界点を上げること、いずれも大切と思いました。

シンポジウムIIIでは”Normo弁の良い適応について考える”というテーマで、榊原記念病院の高梨秀一郎先生、不肖・米田正始、京都府立医大の夜久均先生、東京大学の小野稔先生、そして私の共同研究者でもある川崎医大の尾長谷喜久子先生が症例や最新のデータを発表されました。座長は慶応大学の四津良平先生と産業医大の尾辻豊先生でした。

ここでも感染性心内膜炎(IE)やリウマチ性弁膜症、先天性心疾患とくにECDその他が論じられました。

尾長谷先生はステントレス僧帽弁にも対応できるだけの情報を提供するtransgastric TEEつまり胃から見る経食エコーとそれによる乳頭筋の詳細な形態情報を示されました。新たな領域を開拓するのは本当にやりがいがあると感じました。

私もリウマチ性MSRつまり僧帽弁狭窄症兼閉鎖不全症という形成しづらいケースやECDの再手術例でこれまた弁の変形が強く形成が難しいケースを供覧し、有益なご意見を頂きました。

壊れた僧帽弁の弁膜症を事故で壊れたクルマにたとえて、ガタガタに壊れたクルマをどこまで修理(つまり弁形成)するか、どこで新車に代える(つまり弁置換)かという視点で、患者さんに一番益するポイントを探ろうとしました。壊れたクルマの写真はウケました。ウケて下さった皆さんに感謝申し上げます。

さらに他の病院で高度の感染性心内膜炎への手術を受け、逆流が止まらず、次第に悪化して私のところへ来られた若い患者さんのケースをお示ししました。こうした超難易度の患者さんに新しいステントレス僧帽弁・Normo弁は役立つかもという期待が集まりました。

しかしまだ研究・検討は始まったばかりです。この弁がどれくらいの耐久性があるか、それが大切です。時間もかかりますし、合併症なく患者さんに真に益する弁に育てるためには大方の協力と努力が必要です。

川副浩平先生のビデオメッセージでも科学的な視点やきちんとした検証、教育、quality control体制が必要であることを述べておられました。

どちらかと言えば、この10年来、停滞あるいは退潮気味に見える心臓外科領域で、また新たな発展の場が生まれたと言っても過言ではないかも知れません。皆で力を合わせて優れた新治療に育て上げたいものです。

そうした熱気のもとで研究会は無事終了しました。加瀬川先生、関係の皆様、お疲れ様でした。

平成24年7月28日

米田正始

 

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天理よろづ相談所病院のレジデント同窓会

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天理よろづ相談所病院のレジデント(前期研修医や後期研修医にあたります)の同窓会が久しぶりに開催されました。

レジデントの第一期生で大先輩である上田裕一先生が院長に、また第二代総合診療部長の郡義明先生が白川分院の院長に、それぞれ就任されたお祝いをかねての同窓会でした。

300名近いレジデントのOB、OG、現役生はじめお世話になった看護師やコメディカルの方々も参加され、なつかしく楽しいひと時になりました。

大宇宙から生命の尊厳へ、そして患者さんへの献身的貢献へ初めに、病院長の上田先生がレジデントの心意気と題して、同先生が生命への畏敬の念を抱き、医師とは何かを考えて医師への道を決意し、天理のレジデントから現在に至るまでの、哲学、信念ともいえる部分をお話しされました。

医師にとって何が求められ、何が喜ばれ、何が素晴らしいか、若い先生方も道筋が見えたのではないかと感じました。

同時に医師が差別ない平等社会においてもなお特段の位置にある、誇り高い、天職であること、それは患者さんを始めとした社会から(立派な献身的貢献に対して)与えられたものである(つまり医師だから偉いのではなく、患者さんに喜ばれるから立派にあつかって頂ける)ことも理解して戴いたのではないでしょうか。

そうした中で、理不尽ともいえるほどの厳しい研修環境が若い時代に一度は経験しておくべきとのお考えには賛同された方々が多かったのではないかと思います。

私は昔から現在まで、一貫して「要するに患者さんのためにいつも全力で努力するのが良い、余計な理論も理屈もいらない、ずっとフルスロットルだ」と思って仕事をしてまいりましたが、上田先生が多くの先達、心臓手術など医学関係のみならず、哲学、芸術、科学、その他幅広い方面からの含蓄ある言葉を引用しながら、そのお考えをまとめ、提示して下さり、自らの勉強不足を恥じた次第です。

それに引き続いてシンポジウム「天理レジデント制度の過去・現在・未来」が行われました。

総合診療教育部副部長の石丸裕康先生の司会のもと、はじめに初代部長の恩師・今中孝信先生がそのご経験とメッセージをお話しされました。30年前と寸分変わらぬ、熱い、心に響く内容でした。医師という職業にかける想い、夢をあらためて聴かせていただきました。

ついで第二代部長の郡先生が、レジデント制度をいかにして発展させられたか、そのご苦労の跡を紹介されました。さらに大先輩である山崎正博先生が発足当時のレジデントの努力などを紹介され、現チーフレジデントの江原淳先生がアンケート結果をもとにしてレジデント制度がどのような貢献をなしてきたか、現在どういう努力をしているかなどを説明されました。

そして現部長の八田和大先生がこれまでの経験・実績と将来への道を話され、最後に恩師・小泉俊三先生が総合医のこれからの進むべき姿をお示しになりました。いずれも熱い、力のこもったお話の連続で予定時間をはるかにオーバーしてシンポジウムは終わりました。

懇親会の一コマです。右端は現役レジデントによるコスプレ余興です。最近の諸君は何をやっても優秀ですが、ちょっと定型的すぎるというご意見もありました

懇親会は終始和やかに進みましたが、今中先生のご挨拶は圧巻でした。

医師というよりひととしての生きる心構え、さらに言えば自らを律して、他者を益しながら自らも楽しく生きる姿勢を説かれたのです。

この10年あまりの間に人間としての今中先生のレベルに少しは追いついたのではないかとひそかに自負していた私ですが、ますます距離をあけられたことを知ってしまいました。

すでにあらゆる煩悩から脱却されたような今中先生のお言葉にはただ納得して拝聴するだけでした。

八田先生が私に発言の機会を振って下さったため、上田先生のお話しを若いレジデントの先生方に役立つ一助にと、具体的な努力の方法をひとつだけお示ししました。当直の夜、看護師さんからの連絡の電話にはベルが3回鳴るまでに受話器を取る、できれば1回目のベルで取る、これがどれだけ患者さんやチームのために役立つかをお話しさせていただきました。このとき実は同級の日村先生と漫才のような発言機会だったのですが、それぞれ循環器の内科と外科のチームワークというのりで話ができて良かったと思います。これも日村先生の温厚で優しい人がらのおかげと感謝しました。

上記の方々のみならず、かつてお世話になったレジデントの先輩、同輩、後輩の皆さんや、看護師さんらと久しぶりに歓談でき、心は30年前にタイムスリップしてエネルギーを頂いたように思います。

このような素晴らしい会を開いて下さった関係の皆様、いつも力を与えて下さるレジデント関係の皆様、ありがとうございました。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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