三笠宮さまが受けられた僧帽弁形成術とは?

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◾️報道によりますと、、

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三笠宮さま(三笠宮崇仁親王)がこの7月11日に僧帽弁形成術という心臓手術を受けられ、96歳というご高齢にもかかわらず経過良好でがんばっておられます。

2012年7月13日の毎日新聞は次のように伝えています。

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三笠宮さま<三笠宮さま>食事始める 呼吸数などの数値も安定

毎日新聞 7月13日(金)15時1分配信
<三笠宮さま>食事始める 呼吸数などの数値も安定

心臓の手術を11日に受け聖路加国際病院(東京都中央区)に入院中の三笠宮さま(96)が13日朝、食事を始めた。血圧、脈拍、呼吸数などの数値も安定しているという。

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同病院関係者によると、専門医のチームが食事を再開する時期を検討。容体が安定していることから13日に開始した。三笠宮さまは手術後は感染症などの恐れがあるため集中治療室で手当てを受けているが、12日正午過ぎには人工呼吸器を外して会話ができるようになり、妃殿下の百合子さま(89)と言葉を交わした。【真鍋光之】

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宮さまは天皇陛下の伯父にあたられ、国民からも親しまれている方です。

宮さまは腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全症のため、心不全がお薬や点滴などではどうしても治せず、危険な状態になっておられました。

96歳というご年齢は確かにかなりのご高齢ですが、日頃お元気に歩いたり普通の生活が送れる方ならば、経験豊富なチームなら心臓手術はある程度は可能です。

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◾️私たちの経験でも

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私たちの経験でも90歳代のご高齢患者さんの心臓手術は何度か経験がありますが、ポイントを押さえてできるだけコンパクトに手術をまとめあげ、万事において慎重にかつてきぱきと、そして手術のあと積極的に普通の生活に戻す努力がひつようです。こうしたキメ細かい配慮によって90歳代の患者さんでもお元気に社会復帰できるのです。

もししばらく寝たきりになったら、そのまま寝たきり状態が固定したり、痴呆症になったりと、困った事態になりやすいため油断は禁物です。

聖路加病院の川副浩平先生はじめスタッフの先生方に敬意を表するものです。

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以前に高円宮さまが心臓病のためスポーツの最中に突然死されたとき、私は2つの意味で残念と思いました。ひとつは高円宮さまの、罹患されたと伝えられる病気(HOCM)が心臓手術で治せるものであったこと、いまひとつは宮さまが医学学会によく出席され応援して下さったということへの感謝の気持ちからです。

この意味でご高齢とはいえ、勇断をされた三笠宮さまやご家族、また医療チームの皆様は立派と思います。

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僧帽弁閉鎖不全症は簡単な病気ではありません。しかし僧帽弁後尖の腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全症なら、心臓外科とくに僧帽弁形成術のエキスパートなら、そう困難なく、治せるものです。

宮さまの場合、一般的には弁形成がもっともやりやすい、また良く効くタイプです。もちろん皮膚と言わず、骨と言わず、心臓や大動脈をはじめ、すべての組織が弱く、相応の対策が必要だったものと拝察いたします。

すべてがぴたりと決まった一件と言えるかも知れません。

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◾️患者さんたちに福音

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天皇陛下冠動脈バイパス手術のときにもお書きしたことですが、宮様のようなご高名な方が僧帽弁形成術を受け、ご高齢にもかかわらず見事にそれを乗り切り、お元気になられれば、全国の僧帽弁閉鎖不全症はじめ心臓病の患者さんたちに大きな福音となることでしょう。

実際、僧帽弁形成術をうけなければならないのに、どうしても決心がつかず、心不全や肺うっ血のため肺炎になっていのちを落としたり、心房細動という不整脈を合併して心臓の中で血栓ができ、これが脳に流れて脳梗塞になったり、などのケースが今なお見られます。

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また内科の先生の中には心不全で入院するほど悪くなるまで手術を勧めないという方もあります。こうした不幸を避けるため、日本循環器学会が多数の専門家を集めてガイドラインを作成し、適切なタイミングで、手術がもっとも患者さんに益するようにしていますが、このガイドラインさえ否定するような医師が今なおおられます。そうした方々は、患者さんが手術を受けないために亡くなられても、「病気だから仕方ないよ」「手術を拒否したのは患者さんだから」と言われるのです。これは医療者として問題です。医師・医療者は患者さんが必要な手術を受ける決心ができるようにご説明・指導する責任があるからです。

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◾️患者さんにおかれましては

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患者さんにおかれましては、本やネットなどで知識を得て、複数の専門家とくに内科と外科の両方から意見を聴き、ご自身やご家族でじっくりと検討することが勧められます。

三笠宮さまの心臓手術の一件は世の中に勇気を与えてくれたと思います。

宮さまのご全快をこころから祈るものです。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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第17回日本冠動脈外科学会の見聞録

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この7月12日と13日に東京で日本冠動脈外科学会の学術集会がありました。

以前から楽しく勉強させていただいている学会でもあり、dutyもあって参加いたしました。

今回の会長は防衛医大心臓外科の前原正明先生で、学術集会のテーマは「チーム医療における冠動脈外科」でした。

第17回冠動脈外科プログラムの表紙を見た瞬間、納得いたしました。4機の航空自衛隊戦闘機の編隊飛行の写真で、かつてブルーインパルスと呼ばれた特殊チームで現在の名称は存じませんが、東京オリンピックの開会式で国立競技場の上空に五輪の輪を描いて一世を風靡した、あのチームの最近の写真です。

4機の機体がほとんど触れそうなほど近接して飛んでいるようすは、まさに高度の技術と4名のパイロットの厚い信頼、そしてそれを支えるチーム全体の素晴らしさを一目で実感させてくれるものでした。なにしろ4名のうちひとりでも、ほんの少し間違えれば接触して少なくとも2機は墜落する状態ですから。それが前原先生からのチーム医療へのメッセージでした。まさにお互いのいのちを預けるレベルの信頼関係ですね。

夕食会のときに、「先生のメッセージ、確かに頂きました」、とお伝えしたところ、満面の笑みを返して頂きました。

さて学術集会は盛況で、最近の冠動脈外科の復活を印象づけるようでした。

Ilm09_aj06015-s日本循環器学会の冠動脈治療のガイドライン冠動脈バイパス手術が冠動脈の複雑病変の大半のケースでクラスIやIIaの適応、つまり前向きに勧められる治療法という位置づけが得られたのは最近のことですが、バイパス手術関係ののセッションでも元気が感じられました。

またハートチームが正式に提唱されるようになり、その中で循環器内科とくにPCIの先生方との協力が進めやすくなったことも大きいと思います。

心臓手術をめぐるチーム医療の中で、心臓外科医だけが疲弊している現実を打破するための特定看護師の制度が実現に近づいていること、その中で前原先生が尽力されていることを改めて認識し、日本もようやくここまで来たかと感嘆いたしました。

かつて留学中に欧米のすぐれたナースの制度、とくにPA (physician’s assistant)外科助手やNP (nursing practioner)の制度が素晴らしく、しかし日本では夢物語と思っていたのを想い出しました。

また外科が貢献しやすい領域でもある、虚血性僧帽弁閉鎖不全症のビデオシンポジウムは満員盛況で、名古屋ハートセンターからも発表ができ、私たちの新しい術式である乳頭筋適正化(papillary heads optimization)もそれなりの評価を得て、この領域に貢献できうれしく思いました。発表してくれた北村英樹先生、お疲れ様でした。

そのビデオシンポに先立って、テキサスの Dewey先生の講演で、私たちが考案した手術である腱索転位法(chordal translocation)を有用な方法として引用してくださり、地道が努力を知って頂いたことを光栄に思いました。

そのあと、腱索転位法の改良版ともいえるpaillary heads optimizationを紹介するとそれは使えそうだと評価していただき、自由に語り評価してくれる米国の良さをあらためて感じました。

また学会2日目のメインホールでのシンポジウム、心室中隔穿孔の外科治療では小原邦義先生とともに司会をさせて頂きました。名古屋ハートセンターから深谷俊介君が発表してくれ、私たちが開発し長年育ててきた Exclusion法、いわゆるDavid-Komeda法を標準治療として、新しい経右室法との比較を中心に熱い議論が交わされました。

それぞれの方法のメリットとデメリットをなるべくわかりやすく浮き彫りにし、今後の発展を期した議論を進めるよう、努力しました。

Exclusion法の弱点と言われた遺残シャントはほぼ解決の方向にあり、しかし経右室法もそれが適切と判断できるときに活用するという適材適所戦略をお示しできたことは幸いでした。

名古屋ハートセンターができてまもなく4年、こうした全国学会の目玉シンポにて複数の発表ができるようになったことをうれしく思います。日々、手術や治療内容を反省検討し、多くの仲間たちのご意見を頂きながら、ひたすら改良を加え、それが患者さんの幸福に直結するというのは、心臓外科医冥利につきることです。

その他にも、オタワのMarc Ruel先生のMICSでのオフポンプバイパス手術が紹介され、私も質問コメントなどさせて頂きましたが、内科と協力し、内科の先生方にも喜ばれるような心臓手術がさらに展開しそうで、満足の学術集会でした。

インド・ニューデリーのSudhir Srivastava先生のダビンチ・ロボットをもちいての完全内視鏡下、オフポンプバイパス手術も大変興味深く、ロボット手術もここまで来たかと感慨深いものがありました。

Srivastava先生にはインドの弁膜症サミットで講演したときにお世話になり、なつかしく思うとともに、インドの発展のすごさを見せて頂いたように感じます。

その他にも興味深い、内容あるセッションが多数ありましたが、これは省略します。

会長の前原先生、防衛医大の先生方、立派な学術集会のご成功、おめでとうございます。お疲れ様でした。

 

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第二回豊橋ライブ・TAVIコースにて

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第二回豊橋ライブに参加して参りました。

 

技術の伝承をメインテーマとした実際的な勉強会研究会で、おもに内科の会ですのでPCI(冠動脈のカテーテル治療)が中心ですが、最近の流れのなかでTAVI(TAVR、カテーテルで行う大動脈弁置換術)のセッションもまる一日あり、それに参加しました。

 

豊橋ライブ2012TAVIの会場では、大動脈弁の解剖整理から始まり、心エコー、外科治療の現状とTAVIへの期待、バルーン大動脈弁形成術、TAVIの総論、Sapien弁とCore Valveの使い分け、Transfemeralアプローチ、Transapicalアプローチ、合併症や対策、コメディカルの役割などが半日かけて論じられました。

いずれも基礎から応用までをきちんとまとめられた聴きごたえのあるものでした。

 

Massyの林田健太郎先生の見事なオーガナイズによるものでした。

林田先生ご自身の講演、さまざまな合併症と対策も実に示唆に富む、貴重な内容の連続でした。

 

東京ベイ・浦安市川医療センターの渡辺弘之先生(最近、榊原記念病院から異動されました)のエコーの講義は圧巻でした。

高齢者などの重症ASの手術適応のなかで、こんなになるまで放置するほうが問題と、すばり本質を突く鋭い内容でした。

 

私の担当は外科治療の現況とTAVIに期待するものでした。

 

大動脈弁狭窄症ASは高齢化社会のため増加の傾向にあり、患者さんの重症化も進んでいます。

その中で死亡率や合併症を最小限に抑える努力をして成績を予想死亡率の3分の1近くまで下げているところをご紹介しました。

そうした中で全身状態が悪い患者さんとくに超高齢の方を中心にTAVIが役立ちそうなお話しをしました。

 

また生体弁での大動脈弁置換術AVRの患者さんで、将来再手術が必要になったとき、TAVIによるバルブインバルブつまり新しい生体弁を古い生体弁の中で広げることは、患者さんにとって大きな福音になることをお話ししました。

そうした考え方をすでに治療方針に組み込み、大動脈弁形成の患者さんでも、生体弁AVRの患者さんでも、将来必要におうじてTAVIの恩恵が受けられるような心臓手術を現在すでに行っていることをお示ししました。

 

そしてSutureless valveつまり手術中にTAVIのように入れる方法の良さをご紹介しました。PARTNER試験という臨床研究で、超ハイリスク例ではTAVIと外科AVRの成績に差があまりないことが示されましたが、今後外科がさらに良い仕事ができる可能性が示唆されたわけです。

 

ランチオンでは豊橋ハートセンター・名古屋ハートセンターの大川育秀先生の司会で、榊原記念病院の田端実先生がASの治療戦略をハートチームの観点から話されました。

田端先生は心臓血管外科の若手のホープでTAVIを含めたMICS手術で活躍中の先生です。

 

この中でTAVIのあとはPLVつまり隙間からの血液の漏れが起こるケースが多く、しかもその漏れが軽度でも患者さんの生存率が下がるというデータが紹介されました。

 

私もこの研究には注目していたため、少し討論に参加しました。

まだまだ外科のAVRは患者さんの役に立つとあらためて思いました。そのためには外科の治療成績をさらに向上させることが大切で、その観点で上記の Suturelessバルブはこれから期待できると思いました。

 

午後にはビデオライブが2つあり、1つはTransapicalアプローチ(小さく左胸を開けてそこからTAVIを行います)、もうひとつはTransfemoralアプローチ(下肢の付け根の動脈からTAVIを行います)の実例でした。

小倉記念病院の白井伸一先生や川崎市立川崎病院の古田晃先生、昭和大学藤が丘病院の若林公平先生ら熱い若手のディスカッションが良かったと思います。

すでに大御所の渡辺弘之先生はここでも存在感のあるコメントをして下さいました。

 

私はTransapicalアプローチの方のコメンテーターのひとりでしたので、外科の観点からさまざまな議論をさせて頂きました。

倉敷中央病院の小宮達彦先生と田端先生そして私と外科系が3名参加していましたので活発な論議ができ、Transapicalアプローチの問題と解決が比較的まとまったように思いました。

出血がきれいに予防あるいはコントロールできればこの方法は安全で応用範囲も広く、患者さんに益するものであるとあらためて実感しました。

 

一日中TAVIばかり議論した最後の締めくくりは「ハートチームの構築」のシンポジウムでした。

それぞれの施設でこのハートチーム作りのためにどういう努力をしているかが紹介されました。

 

私たち名古屋ハートセンターでは毎朝、循環器内科と心臓血管外科の医師および一部コメディカルが集まり、親睦や密な連携をかねた症例検討を行っていることをご紹介しました。

以前からこうした会を開きたく思っていましたが、事情あって計画倒れでとどまっていました。

構造改革が実ってようやくこの4月から実現したもので、ようやく先進的な施設の先生方と一緒に議論できるレベルになって少しうれしく思いました。

 

休憩時間ほとんど無しの充実した一日を終えて、豊橋ライブはめでたくお開きになりました。

鈴木孝彦先生や関係の皆様方に厚く御礼申し上げます。

 

平成24年5月26日

米田正始 拝

 

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第92回アメリカ胸部外科学会AATSにて――その2

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左が今回の会長・Craig Smith先生、右が来年の会長・畏友 Schaff先生です冠動脈関係では、バイパス手術CABGがPCI治療に対して成績が有意に良好であることがSyntaxトライアル4年目のデータでほぼ確立し、外科の盛り返しの雰囲気がありました。

まもなく5年目のデータがでればその差はさらに広がりそうで、CABGの復権は本物になるかも知れません。

同様のことがTAVI(またはTAVR)でもあり得て、その旗手がsutureless valveなのかもしれないと思いました。

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に代表される機能性僧帽弁閉鎖不全症(FMR)の治療では僧帽弁クリップが外科治療(僧帽弁形成術)にそん色ないとするエベレストトライアル結果が報告され外科が少し失望しているように見えました。

私はこの考え方には賛同できません。

十分な効果がないとわかっている僧帽弁輪形成術(略称MAP、弁輪という弁の付け根を治す心臓手術です)とクリップを比較されるのは遺憾です。

すでにMAPよりはるかに弁逆流解決に有効な方法が外科からはいくつも発表されています。

その中でもっとも難しいと言われる後尖にも効きしかも左室機能を改善させる方法(Papillary Heads Opimization乳頭筋ヘッド最適化と呼んでいます)を発表している立場からコメントしようと思いましたが、時間の都合でできませんでした。

次の機会に皆とディスカッションしたく思いました。

弁膜症関係では学会直前のskill courseで大動脈弁のルート拡大デービッド手術、より低侵襲な再手術の方法などが講演されました。

僧帽弁関係でも通常の僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成や虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成、ロボット手術などが論じられました。

その他心房細動に対するメイズ手術IHSSに対する心室中隔心筋切除術なども講義がありました。

あまり新しいものはありませんでしたが、地道が進歩が感じられて良かったとおもいます。

大動脈関係ではステントグラフトEVARの講演がありましたが、大きな変化はなく、今回の学会全体としてそれほど多くの内容はありませんでした。

これはこのAATSの直前にニューヨークで恒例の Aortic Symposiumがあったことも関係していたのかもしれません。

いずれにせよ内科と外科がこれまでのような独立独歩ではなく、常に歩み寄り、常に相談して個々の患者さんにベストの治療をオーダーメイド的に創るというハートチームの発想が冠動脈だけでなく弁膜症、大動脈などすべての領域に広がった感があります。ilm20_ae04023-s

上記のTCT@AATSの最後の発表4題は有力施設で内科と外科がどのように協力しているか、どういう組織でどういう運営をしているかの報告がありました。

Cleveland Clinic クリーブランドクリニック、Vanderbilt バンダービルド大学、Columbia コロンビア大学、そしてPennsilvania ペンシルバニア大学からの報告でした。

連携もここまで来ましたという良いセッションだったと思います。

心不全の Heartmate領域では補助循環がさらに進化を遂げ、ますます小型化しDestination therapyが一層改善した感があり、まもなく心移植の成績に並ぶ気配さえ感じられました。

軸流ポンプや遠心ポンプを中心とした非拍動性の小型ポンプでさらに改良されそうな雰囲気でした。

2日の昼に国際交流の委員会が開かれ、AATSの重鎮の方々やアジアやヨーロッパの先生方とともに参加しました。

これからAATSはより国際学会としての性格を濃くする方向が示唆され、教育でも国際フェローが検討され、好ましいことと思いました。

IMG_5136b学術的なこと以外では、カリフォルニアらしく会員懇親会がワインの当て比べ会を兼ねたパーティで(右図)、

それも恐竜や水族館が併設された博物館で行われ、遊び心のある懇親会でした。

今回の会長であるCraig Smithと来年の会長Harzell Schaffから挨拶があり結構力が入っている様子でした。

個人的にはトロント、スタンフォード、メルボルンの恩師や仲間と歓談できたり、日本を含むアジアの先生方やヨーロッパの友人らと話できたのがうれしいことでした。

またかつて京大の研究室でお世話させて頂いた王 健先生がテキサスでの成果をもとに立派な発表をしてくれたり、かつての仲間の指導する研究がいくつか発表されたのも良かったです。

夜にはサンフランシスコの夜景の写真を撮りに歩きまわっていました。

20年前は治安が悪く夜は歩く気がしなかったのがウソのようでした。

もっとも危なそうなところは近づかないようにはしましたが。

心臓血管外科の立ち位置が変化しているときに、AATSのような世界の仲間が集まるレベルの高い学会で仲間と語らうことは大きな意義があると思います。

留守番しながら手術を楽しんでいる名古屋ハートセンターの若手諸君や関係の皆さんに感謝しつつ充実した時間を過ごせた5日間でした。

 

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第92回アメリカ胸部外科学会AATSにて――その1

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Natu_0022第92回AATSに参加して

AATSは本来は北米の胸部外科つまり心臓外科、血管外科、肺外科を代表する学会で100年近い歴史をもつものですが、同時にこの領域で世界の頂点に立つ学会と言われています。

そのため北米はもちろん、ヨーロッパ、アジア、南半球からも多数の参加がありました。

 

今年はコロンビア大学のCraig Smith会長(写真はこちら)のもと、サンフランシスコで開催されました。

心臓血管外科の世界の流れをつかむにはこの学会に出るのが最も手っ取り早いことと、欠席が続くとメンバー資格を失うため毎年参加しています。

昨年から学会の直前のセミナーとして、外科医あるいは外科研究を超えた、リーダーを養成するためのセッションが出来ており、ことしもそれがありましたが、学会直前まで手術予定が入っており、これには参加できませんでした。

学会の前々日午前中には外科のskillつまり技術のコース、午後にはロボット手術のskillつまりテクニックのコースがありそれぞれ参加しました。

4月30日から始まった学会本体もいつもの通り盛況でした。

 

CatheterValve全体としてまず感じたのはTAVIあるいはTAVRつまりカテーテル等で行う大動脈弁置換術や僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁クリップなどのカテーテル的な低侵襲治療の発表がさらに増えたことでした。

PCIの黎明期に循環器内科の先生方を日夜、冠動脈バイパス手術でバックアップあるいはレスキューしてその発展に貢献したのにPCIが進化してちからをつけると内科の先生方から捨てられてしまったという苦い反省からでしょうか、こうしたカテーテル治療にできるだけ外科も参画しようという空気がありました。

TAVIについて言えばPARTNERトライアルで、ハイリスクの患者さんではTAVIとAVRに1-2年の生存率に差がないという結果が出たため、TAVIの適応がさらにリスクの低い、普通の症例に広がるのではないかという外科側の危機感は大きなものがあると思います。

MitraClipそれもあってかTAVI(TAVR)や僧帽弁クリップの治療に外科医が参画することが増えた印象です。

それを裏付けるかのように企業展示にもそれらのデバイスやハイブリッド手術室などの展示が増えました。また外科の中ではもっとも低侵襲といわれるロボットの発表や展示も活発で、展示場のミニレクチャーには多数の参加者が見られました。

TAVI(TAVR)のひとつの発展型ともいえるSutureless Valveつまり開心術として大動脈遮断下に縫わずに植え込む生体弁の発表も複数あり、TAVIへの対抗策のひとつとして力が入っている感がありました。

確かにこの方法はこれまでの弁置換AVRよりかなり短時間でできる上に、石灰化した大動脈弁を切除するためTAVIよりも大きなサイズの生体弁が入り、かつTAVIの弱点である脳梗塞を予防しやすいという、AVRとTAVIの良いところを併せ持つような一面があり、今後の方向のひとつかも知れません。

例によって日本にはまだすぐには入らないようですが。

学会最終日の新しいテクノロジーのセッションもこうしたデバイス類の発表が主でした。

IMG_0724こうした低侵襲治療への大きな流れを象徴するもうひとつの例として、最終日に TCT@AATSというカテーテルインターベンションのセッションが組まれたことです。

TCTとはある意味、内科でもっとも外科医と競合している先生方の集まりで、いわば「商売仇」No.1.のような学会ですが、このTCTとジョイントセッションを組むのは外科がこれからより大きく低侵襲治療へとシフトする決意の表れと言えましょう。

正しい方向性と思いました。

今回、良識ある方々の間で使われた言葉、インターベンションと心臓外科の関係は「competitive」(競合的つまり邪魔しあう)ではなく「complimentary」(相補的つまり助け合う)だというのはまったくその通りと思いました。

こうでなければ患者さんは救われません!

このTCT@AATSに参加しましたが、インターベンション内科の先生方のお話しを拝聴していますと、確かにカテーテルでほとんど何でもできるという気持ちになります。

弁膜症に限って言えば、外科手術と比べて見るからに不正確で不十分ですが、放射線被ばくがかなり多そうな点を除けば低侵襲というところが光ります。

つまりダメもとという発想です。

たとえば僧帽弁クリップやTAVIで少々逆流を残しても構わない、治療前より良ければやった分だけ得したのだ、という考え方です。

実際、患者さんは逆流が減った分だけ元気になっておられるようですし、低侵襲ということはすごいことと感じました。

またTAVIで問題になっている脳梗塞(外科手術の2倍は起こります)についても、その塞栓をつかまえるネット状のデバイスが何種類もトライされており、いずれ脳梗塞でも改善を見る可能性がでて来ました。

ただあまり複雑になれば、あたかもPCIをPCPSのもとで行うような無駄と無理を感じるようになるかも知れません。

すでにコストがかかりすぎることが問題になっていますし。

この点は日本で保険適応がどういう形になるか、かなり紆余曲折があるものと予想されます。

PCIでさえ、韓国のようにその患者に使えるステント数を3つに限定するなどの措置が取られそうな雲行きですので。

ここで大切なことは、できるからやる、というのではなく、患者や社会にとって有益だからやる、という視点かと思います。

私個人の考えでは、医学的な正当性とくにEBMガイドラインの支持があればひとりの患者さんにステントを5つでも6つでも使うのは良いことと思います。

ただどんな患者にもどんどんステントを入れまくるといったことがもし行われると、いずれそれは厚労省の気づくところとなり、一気に制限をかけられて多数のステントが本当に必要な患者さんにも十分使えない、という事態を招くことを危惧するものです。

 

AATSの報告、その2へ続く

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第42回日本心臓血管外科学会の見聞録

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この4月18日から20日まで日本心臓血管外科学会の総会があり秋田へ行って来ました。

 

今回は秋田大学の山本文雄先生が会長で、山本会長というだけでもどこかほっこりした温かいものを感じるうえに、

秋田という個人的に魅力的な場所でしたので、いろいろとデューティがあることをこれ幸いと参加して参りました。

その間、患者さんたちには心臓手術をしばしお待たせして申し訳ありませんでした。

 

あの東日本大震災からまだ1年あまりしか経っていない中で、

東北地方でこの大きな学会が開催できたこと自体、立派なことと思いました。

学会のテーマも「医療再考―先進医療の地方での展開」というこれまでにないユニークな、しかし切実なものでした。

 

実際、秋田の地で医療が大変厳しい状況にあることが特別セッションや山本先生の会長講演でもひしひしと感じられました。

さらに、学会前日の会長主催晩さん会へ秋田県知事や秋田市長といった地域の主な第42回日本心臓血管外科学会総会方々が出席されるという異例の会で、

秋田大学の学長や医学部長といった重鎮の方々さえ2番目のテーブルに座っておられること自体、山本先生や心臓血管外科学会が地域の中でどれほど頼りにされているかをよく物語っていました。

 

会長講演の中でも秋田大学が緊急手術を断ったことがない、努力の跡を述べられ、

とくに雪深い冬季に秋田県の心臓血管手術の最後の砦として県民を守ってこられたことが実感できました。

 

心臓外科の世界では施設が乱立し、一施設あたりの症例数・手術数が少なくなり、これが患者さんの治療や若手の教育に大きな障害となっていることが問題となって久しいのですが、

こと地方の医療の中ではある程度の距離に心臓手術ができる施設がなければ地域住民のいのちが守れないという問題があります。

そのため施設集約つまり施設(病院)を束ねて優れた治療を患者さんや住民の方々に提供するというこれからの方向性が、

地方では都会と同じ形では成り立たないことを実感しました。

 

学術集会としての内容も豊富で、ガイドラインの改訂や天皇陛下のバイパス手術などで示されるように、冠動脈バイパス手術の良さが見直され、

カテーテルによるPCIよりも患者さんが長生きできるというデータがさらに示されました。

たとえばCREDO-Kyotoレジストリーからの報告などがそうでした。

きちんとしたデータをもとにして内科と外科でよく相談して治療方針を立てるという当然のことが、今、真剣に論じられるようになったのは大変よろこばしいことです。

またこの研究を発表した京大の丸井晃先生が最優秀演題賞を受賞されたことは、

かつて丸井先生とともに汗を流したものとして二重の喜びとなりました。

 

虚血性心疾患のひとつである心筋梗塞後の心室中隔穿孔(VSP)の治療でも着実な努力と進歩の跡がみられ、うれしく思いました。

私がトロントのデービッド先生のご指導のもと、開発研究した心臓手術術式(Exclusion法とかDavid-Komeda手術などと呼んでいただいています)が多くの方々のご努力でされに磨かれ洗練されていることを再認識し、光栄に思いました。

蛇足ですが、座長の天野篤先生のご厚意にてコメントを何度かさせていただきました。

若い先生方がこの手術をやるときの注意点と、危機脱出法をお教えしました。

天野先生は天皇陛下の冠動脈バイパス手術をきれいにやって下さった誇らしい仲間ですのでいっそううれしく思いました。

 

また機能性僧帽弁閉鎖不全症のセッションで畏友・青田正樹先生が私たちが京大時代に開発した腱索転位(前方吊り上げ)法を引用し、さらに発展させた研究を発表されました。

先人の仕事を引用しない傾向のあるこの国で、青田先生の武士の情にはあらためて感動しました。

せっかくの機会ですので私もコメントをさせて頂きました。

現在、吉田清教授率いる川崎医大循環器内科と共同研究している「乳頭筋ヘッド最適化」手術がこの腱索転位法の発展改良型でさらに効果があることをお伝えしました。

セッションのあとで天野先生が私のところへ来られ、この新術式を2例ほど行い、良い結果を得ましたとのことで、これまた持つべきものは友達とジーンときました。

 

弁膜症関係や大動脈関係ではその他にもさまざまな工夫が発表され着実な進歩が感じられました。

僧帽弁形成術やMICS(ポートアクセス法など)でも良いディスカッションがなされました。

 

IMG_0694b1日目の夕方は恒例の3研究会が平行しておこなわれました。

アカデミック外科医の会と不整脈外科研究会と再生心臓血管外科研究会の3つです。

私はそのいずれにも関与して来ましたので、本音はすべてに参加したかったのですが、同時開催とあってはそうもいかず、今回はアカデミック外科医の会に参加しました。

 

今回は川副浩平先生が当番世話人で、テーマは「我が国で生まれた心臓血管外科手術―創意工夫の記録」という大きなものでした。

なんでも川副先生が数年前に心臓血管外科学会の会長をされたときにやりたかった企画とのことで、力が入っていました。

ポスターのように歴史的ともいえる大先輩に交じって、不肖私も講演させて頂きました。

京大病院から名古屋ハートセンターまでの14年間で15の新術式あるいは工夫を発表して来ましたが、最多賞ということで発表させて戴いたようです。

学会場7階に設けられた展示場に多数の方々が来て下さり、それらの方々からあとでお褒めいただき光栄なことでした。

これからはこうした工夫をより多数の先生方に使っていただき、真の社会貢献になるようにしたく思いました。

海外ではすでに使って頂いているところもあり、さらに広めたいものです。

 

同時開催の日本不整脈外科研究会では名古屋ハートセンター(4月から豊橋ハートセンター)の小山裕先生がMICSでのメイズ手術を発表してくれました。

けっこう好評で、良いコメントを頂いたそうです。

患者さんにやさしいメイズ手術でさらにこの領域を発展させたいものです。

 

2日目午後の会長要望演題「機能性三尖弁閉鎖不全症」のセッションでは座長を務めさせていただきました。

三尖弁閉鎖不全症は患者さんが重症になればなるほど大きな問題となります。

たとえば普通の僧帽弁膜症で三尖弁もある程度逆流しているなどの状況は治すのも簡単ですし病気もそう危険でもないことが多いです。

しかし病脳期間が長い再手術例などでの三尖弁閉鎖不全症では肝硬変などの重い肝機能障害を合併することもありいのちにかかわることもあるのです。

またこれらの中には通常の弁輪形成だけでは逆流が制御できないケースもあります。

こうした状況についての研究が君津中央病院、聖隷浜松病院、東京医科歯科大学、大阪大学、昭和大学、神戸中央市民病院、静岡市立病院、などから発表され、内容あるディスカッションがなされました。

座長としてもやりがいのあるセッションでした。

 

2日目夜の会員懇親会では秋田の良さを堪能できるパーティになりました。

地元の味自慢と観光案内、秋田美人の歓迎や伝統音楽のモダンバージョン、会長晩餐会と同じミス秋田の司会などで秋田良いとこと皆さん確信されたようです。

多数の後輩や友人と話ができ同窓会のような遊びの会のような懇親会となりました。

 

3日目は、ちょっと会場を抜け出し、男鹿半島を一周して来ました。もちろん写真を撮るためです。

干拓前の八郎潟の姿です。昭和32年撮影とありました。

同時に、小学生のころから八郎潟の干拓になぜか興味があり、日本第二の大きな湖を農地に変えた事業の結果を見る機会を待っていたのですが、チャンス到来ということで行って来ました。

初めに八郎潟干拓地を少し歩きました。

ついで寒風山の頂上にある展望台へ行きましたが、そこに併設されている八郎潟記念博物館で干拓前の豊かな自然を見ることができ、少し悲しい気持ちになりました。

 

それから男鹿半島を一周し、見事な自然を堪能しました。遠くに見える冠雪の奥羽山脈と海のコントラストや、世界でも珍しい火山爆発による湖や素朴な棚田や漁村などもどこか新鮮でした。

ということで学会3日目は会場外で自然美の学習で過ごせてラッキーでした。

 

総じて心臓血管外科と秋田の素晴らしさを実感できた学会でした。

会長の山本文雄先生や関係の皆様に感謝申しあげます。

 

平成24年4月20日

米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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第二回ハートバルブ(心臓弁膜症)カンファランスに参加して

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第二回 Heart Valve Conference (心臓弁膜症カンファランス、代表:川副浩平先生)がこの3月31日に東京で開催されました。(第一回の心臓弁膜症カンファランスのご報告はこちらです)

世話人の一人として参加させていただき、楽しく勉強できました。大変内容豊かな会でしたので少しご報告したく思います。

IMG_0652この会は心臓弁膜症の治療戦略と手術手技を考える研究会で、ケーススタディを通じてというのが特長の会です。

 

ケーススタディつまり個々の患者さんの治療経験を検討するというのは、学会とくに地方会や研究会などでも見られますが、

このハートバルブカンファランスが際立っているのは、一例いちれいに十分な時間をかけて深く掘り下げることができる点と、

そのために内科外科放射線科などを含めた心臓弁膜症のオーソリティの先生方が集まっておられ、

大変内容あるディスカッションができる点にあります。

 

今回はまず第一部として虚血性僧帽弁閉鎖不全症(虚血性MR)の術後の逆流再発が論じられました。

産業医大の尾辻豊先生と不肖私・米田正始の司会で進めさせていただきました。

前日の打ち合わせのときから、議論が盛り上がりすぎるのではという心配をしていたとおりのセッションとなりました。

 

江石清行先生と夜久均先生がそれぞれ難症例を提示されそれをもとに深く検討しました。

高梨秀一郎先生と尾辻豊先生がコメンテーターを務められました。

後尖のテザリングつまり弁尖が左室側に引っ張られる症例は心機能も悪く何かと不利な条件をもっているだけに、一層しっかりとした手術治療が必要です。

いずれもそうした一面をもった症例で、多くの意見が寄せらせ熱いセッションになりました。

 

そうしているうちに、弁輪形成用のリングのサイズ合わせも、まだしっかりとした基準がなく、おおむねのコンセンサスはあっても、細部で微妙に異なることが判明し、皆反省しながらの議論になりました。

 

私は乳頭筋を前方へ吊り上げると弁にも心臓にも良いということをこの10年間、提唱して来ましたので、その最新型である両乳頭筋ヘッドを最適化吊り上げして前尖はもちろん、後尖さらに左室もけっこう治せることをお示ししました。この術式はBileaflet Optimizationつまり両弁尖最適化と呼んでいましたが、オーソリティの先生方のご意見でPapillary Heads Optimization乳頭筋ヘッド最適化と名前を改めました。

外科医だけでなく内科の先生方からも有意義なご意見をいただき、これからの発展が楽しみな領域と思いました。

 

第二部はこれまた難しい感染性心内膜炎(IE)で感染性塞栓をともなうケースの検討でした。

大御所である川副先生みずからの力作といいますか、きれいな心臓手術を提示していただき、手術のタイミングから感染組織の処理、石灰化部分の取り方から感染に強い弁形成の方法まで話は尽きることなく盛り上がりました。

座長の芦原京美先生と大北裕先生も困るほどの議論白熱であったと思います。

 

1995年にこのIEの日本のデータを検討された江石先生のコメントと、中谷敏先生のレヴューも的確でした。

上村昭博先生のMRIの読み方の講演は外科医にとってはとくに参考になったと思います。

脳出血と脳梗塞をしっかりと区別して戦略を立てることの重要性をあらためてデータで示して頂きました。

 

第三部は不肖私・米田正始が面白い症例を提示させていただき、様々なご意見を頂くセッションとなりました。

大門雅夫先生と橋本和弘先生の安定感ある司会でした。

大動脈弁狭窄症(AS)は近年増加している疾患ですが、それへの弁置換(AVR)で、手術はきれいにできても、術直後僧帽弁前尖が左室流出路に引き込まれて起こるSAM(前尖の前方への異常運動、結果として僧帽弁閉鎖不全症が起こります)と呼ばれる現象がまれに起こります。いわゆるIHSSのかたちに突然なるわけです。

そのときどうするか、さまざまな良いご意見を戴きました。

それからそのSAMを生体弁越しに、異常心筋を切除することで治してしまうという、ちょっと珍しい方法をご紹介しました。かなりの注意が必要な方法ですが、こうした状況では患者さんを救命する特効薬と信じています。

 

きわめてまれな、しかし難しい状況だけに、実にさまざまなご意見が出て混乱するほどでした。

いわく、前もって異常心筋切除しておけば?、

患者さんが元気になったのは心筋切除のおかげではない?、

もっと別の方法で粘ったら?もっと素敵な切除方法はないの?などなど、

しかしいずれも検討の価値ある貴重なコメントでした。

泉知里先生はこうしたケースの文献的検討と、多少でも似た自験例の検討をして下さいました。

畏友大北先生は辛口のコメントだけ残して次の研究会へと去られ、食い逃げの料金は次回支払って頂こうと皆で盛り上がりました。

これだけの良いディスカッションを何かの本かビデオにして若い先生方の参考にして頂ければ良いね!と思ったのは私だけではなかったと思います。

 

最後のセッションはビデオワークショップで僧帽弁形成術で逆流が残るとき、どうやって解決するかという、なかなか奥深いテーマでした。

大西佳彦先生が国循での面白い症例を多数レヴューされ、渡辺弘之先生も矯味深い症例を提示されました。

さらに阿部先生、橋本先生、内田先生、新田隆先生らが苦労して解決したケースを提示され大いに参考になりました。形成後の後尖自然クレフト部の「漏れ」や、低形成後尖をもつ僧帽弁の形成術、バタフライ形成術のあとの遺残逆流などですね。

自分的にはすでに解決済みと思っている問題でも、さらに改善の余地があると思えたものもあり、大変勉強になりました。

どこまで行っても勉強することばかりです。

まあ磨けば磨くほど、患者さんに喜ばれる確率が上がるためどんどんやろうという気持ちでした。

 

このセッションのトリとして加瀬川均先生が以前から提唱されている自己心膜パッチによるスムースな表面を造る方式を紹介されました。

以前から直接お聞きしていましたのでその進展をうれしく思いました。これもその発展形をやりましょうと後で相談しました。

 

一日中、心臓弁膜症をよくここまで勉強したと思えるほど充実した研究会でした。

次のテーマはいくらでもあると思えるほどの盛り上がりぶりでした。川副先生、関係の皆様、ありがとうございました。

 

平成24年3月31日 米田正始 拝

 

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日本循環器学会総会の印象記

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3月17日から18日にかけて、第76会日本循環器学会のため博多へ行って来ました。ちょうど全会期の半分の参加でした。
 

日循76鹿児島大学の鄭忠和先生が会長で、本来は鹿児島で開催のはずですが、巨大な学会のため大都会での開催のほうが何かと好都合というご配慮だったようです。

私、米田正始は自身での講演はありませんでしたが、共同研究者の川崎医大循環器内科の尾長谷喜久子先生(指導・吉田清先生)が光栄なプレナリーセッションで発表されるため、外科的な質問が出た場合のバックアップとして参加しました。

このプレナリーセッションはCurrent Status and Future Perspective in Echocardiography (エコーの現況と将来展望)という重要セッションで、座長は尾辻豊先生とアメリカ・メイヨクリニックのJae K. Oh先生、発表者もUCLAの塩田先生や竹内正明先生はじめ錚々たる顔ぶれでした。

発表に先立って、Oh先生がエコーは聴診に取って代わるのかという基調講演をされました。エコーの長足の進歩とその有用性にもかかわらず、聴診は今後も重要な基本手技という、うなづける内容でした。最後に医学の歴史の中で聴診器の開発や血圧測定、カテーテルの発明から心エコーの登場、そして洗練化から現在の画像診断の時代までをショートムービーで示されました。

感動したのは私だけではなかったようです。あとでOh先生に”I was moved !!”(ジーンときました)と伝えたら喜んで頂けました。

プレナリーの内容はやはり先端的な3次元エコーでのより多くの情報や解析、Speckle
Trackingとくに3次元でのそれが主流でした。

私たちの機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい僧帽弁形成術とそのための乳頭筋・腱索などの情報ツールとしての3次元エコーというスタンスは、臨床にますます役立つ心エコーという視点でOh先生・尾辻先生はじめ高い評価を戴き、光栄なことでした。

 

私たちの僧帽弁形成術は前尖だけでなく後尖も治せるという意味でBileaflet Optimizationという名称をつけていましたが、Oh先生らはPapillary Heads Optimizationのほうが判りやすいのではないかということでありがたく戴きました。

もうひとつうれしかったのは、畏友・塩田先生と久しぶりにお会いできたことです。

UCLA(ロサンゼルス)は良い気候で快適でしょうねとお聞きしますと、クリーブランドクリニックのあるオハイオは寒くてつらかったとしみじみおっしゃっていました。

この日本循環器学会総会では他にも山ほど有用なセッションがあり、同時並行開催のためそのうちごく一部しか出席できませんでした。それらを簡略にご報告します。

プレナリーのあとで、再生医学のトピックスー基礎研究から臨床への展開ーという別のプレナリーセッションがありました。

澤芳樹先生の代理の浅原孝之先生と、福田恵一先生が座長でした。

私は大学を離れてからは臨床一本のため再生医療から少し距離をおいていましたが、iPS細胞以外にはそれほど大きな変化はありませんでした。

しかし随所に着実な進歩と改良が見られ、臨床にさらに役立つ再生医学に成長しつつあることを実感できました。

浅原孝之先生の講演で、同先生が発見されたEPC(血管内皮前駆細胞)がすでに第三世代に進化し、以前の臨床治験のデータも4年を超えて良好な成績を維持していました。

バージャー病ではとくに安定していました。今後の進展が楽しみです。

遠山周吾先生ら慶応大学のグループはiPS細胞の中で心筋細胞とそれ以外の細胞の代謝上の差を活用し、グルコース無しで乳酸ありの環境で心筋細胞以外の細胞を消し、それによってiPS細胞の副作用と言われた腫瘍形成を克服できることを示されました。

高畠先生らはVEGFをコーティングしたステントでEPCを捕捉し、ステントの表面に内膜を張らせて血栓形成を防ぐ方法を発表されました。

これは薬剤溶出ステントの欠点を補う優れた方法と思いますが、従来のBMSステントの弱点である再狭窄を起こしやすく、座長もこの点を指摘しておられました。

竹原先生らは松原先生の心臓幹細胞(Sca1+細胞)と私たちがかつて力を入れていたbFGFを併用してその細胞数を増やせることを示されました。

宮川先生らはお家芸の細胞シートをもちいて、骨格筋芽細胞シートがサイトカインを出す、いわゆるパラクライン効果を検討し、VEGFやHGFなどを発生することを示されました。

またその臨床試験での成果を披露され、補助循環が有る場合でも無い場合でも役立つケースが増えているという印象を得ました。

また細胞シートはこれまで3-4層が限界で、細胞数が不足するという問題がありましたが、大網を併用すれば、30層以上でも可能ということで、かつて大網での再生医療を提唱していた私としてはうれしい展開でした。

その前日午後、福岡に着いた直後にシンポジウム・再生医学の進歩ーiPS細胞から医工学までーにも顔を出しました。

基礎的な研究の成果発表で、なかなか難しいところもありましたが、細胞移植がより3次元的な、臓器構築を意識したものに進化していることが理解できる内容が印象的でした。

串刺しの団子のような構造で三次元構築を図ったり、細胞シートを組み合わせて臓器に近づける努力は、いずれ臨床で使えるものになるのではと思われました。

またiPS細胞が病態解明や創薬に役立つことも改めてわかりました。

そのあとで大動脈疾患に対するステントグラフト EVARのシンポジウムがありました。高本眞一先生と大木隆生先生の座長で、ステントグラフトの限界を探るという副題がついており、内容のあるものでした。

島村先生らは弓部大動脈瘤に対するステントグラフト治療の優れた成績を示されました。さまざまな形のデブランチ法を駆使して重症例でも死亡率を低く抑えているのが判りました。座長の先生との熱い討論も印象的でした。

栗本先生らは救急医療の現場でのステントグラフトEVARの現況を報告されました。大動脈瘤が食道に穿孔したケースでの成績は不良で、ガイドラインでもクラスIII(やってはいけないという意味です)のため、従来手術のうまい使い方を含めてさらなる検討が必要と思われました。

斉藤先生らはこうした難ケースで大動脈ホモグラフトが有効であることを示され、手術死亡率は9%にまで下がったことを報告されました。

まだまだ外科手術の役割は大きく、進歩の余地を感じさせてくれる内容でした。

竹田先生はステントグラフトEVARのあと、大動脈のコンプライアンスが低下するため左室拡張機能が低下し、運動能さえ低下し得ることを示されました。

貴重な報告と思いましたが、熱い議論があり、本当にEVARが悪いことをするかどうか、さらなる検討が望まれます。

金岡先生は大木先生のもと、EVARの1000例近い経験をレビューされました。

デブランチにも変遷があり、頸動脈などやや末梢部でのシャントから次第にチムニーつまり上行大動脈からの血行再建へと進化し、なお再手術時などの課題を残していることが示されました。

腹部大動脈瘤と下行大動脈瘤はEVARの価値が高く、確立した感が強いものの、弓部大動脈瘤ではその患者さんにもっとも適した戦略が必要ということで、うなづけるものでした。

また高本先生を中心にディスカッションがあり、マルファン症候群などの結合組織疾患では組織の弱さに加えて患者さんが若いためEVARよりも外科手術が良く、弓部大動脈と腹部大動脈は外科手術で、その間の胸腹部は適宜EVARでという考えにも同意できました。

結局、治療法の選択枝が増えたため、オーダーメイドでその患者さんにベストの選択を、皆で検討して決めていく、そういうことだと思います。

3月18日午後にはいつものカテーテル治療PCIと冠動脈バイパス手術CABGの熱いセッションがありました。シンポジウム・冠血行再建の最前線です。

木村剛先生と高梨秀一郎先生の座長で、例数の多い施設からの発表が内科と外科からありました。

内科のPCIとくに薬剤溶出ステント(DES)、外科のCABGとくにオフポンプバイパスOPCABと両側内胸動脈ITA、いずれも進化を続け、成績は改善しています。

ここに来て、外科の冠動脈バイパス手術CABG治療の成績が、複雑な冠動脈病変については良好であることが次第に明らかになって来ました。

たとえば内科外科とも例数が多い倉敷中央病院の検討で、内科のPCIの死亡や合併症の率が外科のそれの2.5倍というのはやはり説得力がありました。

京都大学が主導するCREDO-KYOTOレジストリーの検討でも、冠動脈の複雑病変いわゆるシンタックススコアが高いケースだけでなく、低いケースでさえ、冠動脈バイパス手術CABGの成績が優れていることが塩見紘樹先生によって示されました。

今回の日本循環器学会総会で冠動脈血行再建のガイドラインの改訂が行われましたが、やはり内容的に外科が盛り返した形になりました。

左主幹部シャフト病変のPCIはクラスIIbとなり、PCIをやるなら外科の合意ののちにという扱いになったとのことでした。

この秋にはシンタックスSyntaxトライアルの5年のデータが発表になりますが、外科の巻き返しが目立つようになりました。天皇陛下が冠動脈バイパス手術を受けられたのも伊達や偶然ではなく、主治医団が本当に患者さんつまり陛下のための治療を検討した結果と聞いていますので、納得がいく思いです。心臓手術の良さが見直されなによりです。

やはりハートチームで内科外科その他関係者皆で検討し、EBMつまり証拠にもとづいて、その患者さんにベストの選択をする、そういう時代になったと実感させてくれるシンポジウムでした。

時代の流れを反映して、カテーテルによる大動脈弁置換術、いわゆるTAVI(あるいはTAVR)のセッションも多数見られました。また補助循環の最近の進歩を背景に、より実用的になった埋め込み型補助循環のセッションもありました。時間が重なり参加できませんでしたが。

それやこれや短期間の、私の場合は部分参加の日本循環器学会総会でしたが、得るものの多い良い学会でした。

会長の鄭先生、お疲れ様でした。また、ありがとうございました。

平成24年3月18日

米田正始

 

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アジア心臓血管胸部外科での雑感

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この3月9日から11日までインドネシアはバリ島で開催されたアジア心臓血管胸部外科学会(ASCVTS)に参加して来ました。

正確にはその前日、3月8日のMitral Conclaveという僧帽弁手術おたくの集まりから参加し、最終日の11日日曜日を待たずに10日夜に帰国の途につきました。何しろ12日月曜日には駆出率17%(つまり正常の4分の1のパワー)の重症患者さんが心臓手術を待ってくれていますので。

今回は畏友・Hakim先生(インドネシア国立循環器センター)が会長で、以前から楽しみにしていたものでした。その前日のMitral ConclaveもあのDavid Adams先生とHakim先生のふたりで、アジアとアメリカのそれぞれの胸部外科学会が共同で開催する、なかなかのものでした。

Mitral Conclaveでは最近の弁膜症ブームの中で昨年も同じ趣旨の会がAdams先生を中心にアメリカで行われたばかりで、それほど目新しいものはありませんでした。しかし随所に着実な進歩がみられたこと、またアジアとの共催を意識して、アジアに多いリウマチ性僧帽弁膜症に対する僧帽弁形成術が主要トピックスのひとつになっていたのはアジアの一員としてうれしいことでした。

タイの畏友Taweesak先生が相変わらず元気に僧帽弁形成術のビデオを披露し、楽しく議論できました。この道の大先輩、インドのKumar先生の僧帽弁をきれいに削る技はさすがでした。ベトナムの友人Phan先生は大御所であるパリのCarpentier先生譲りの弁形成を発表しておられ、リウマチ性の弁形成では世界のトップという貫禄を感じました。あとで楽しく密談し勉強できました。名古屋でもリウマチ性弁形成が増えてきたことを話すると喜んでくれました。

かつて弁形成がきわめて難しかったリウマチ性僧帽弁閉鎖不全症や僧帽弁狭窄症がさまざまな手法を駆使して形成できるようになったのは数年前からですが、その長期成績が次第に安定し始めており、まだまだ多いリウマチ性僧帽弁膜症の患者さんにとって朗報です。

さらにそうした技術がその他の僧帽弁膜症たとえば、僧帽弁形成術後の弁膜症再発に対する再手術のときに役立っています。実際、これまで人工弁を入れていたようなケースや、どこかで弁形成がうまく行かなかったというやり直しのケースでも弁形成が完遂できることが増え、自分でもこの数年間の進歩、以前との大きな差を実感しています。

数年前に弁置換した患者さんに対して、当時としては先端的な手術をしていたとはいえ、申し訳なく思うほどです。

このConclaveでは低侵襲心臓手術MICS(ポートアクセス法など)も話題として取り上げられました。四津良平先生がライフワークであるポートアクセスでの経験を、ライプチヒのMohr先生のループ法とともに紹介されました。MICS好きの私としてはもっと時間をとっていろいろ議論したかったのですが、それは後のコーヒータイムまでおあずけでした。

しかしこうした複雑弁形成をMICSで行っている施設はまだあまりないようで、安全第一の観点からはそれで良いのですが、それぞれのノウハウの蓄積とレベルの向上で、いずれMICSでの複雑弁形成が専門施設ではルーチンになるものと感じました。

このMitral Conclaveと並行して、看護師さんの研究会が一日行われており、大変良いことと思いました。医師だけでなく、看護師さんも国際交流して自分たちの弱点を知り逆に貢献もするよろこびを知って頂くと面白い展開になると思いました。

 

翌日の3月9日からアジア心臓血管胸部外科学会ASCVTSが始まりました。

Hakim先生から朝7時までにおいでと勧められたので、睡眠不足の中を6時起きして開会式に参加しました。

インドネシアの厚生大臣が開会宣言のドラを鳴らしているところです

この厚生大臣は学会の最初のセッション、心臓血管胸部外科の将来やそれを担う教育の話をきちんと聴いてから挨拶をして退席されたのは立派でした。

アジア心臓血管胸部外科学会そのものは、例年どおり、成人心臓、先天性つまりこどもの心臓、そして肺などの外科の3部門が平行で行われました。肺移植の伊達洋至先生とも再会できてうれしく思いました。

この学会全体を通じて感じたことは、弁膜症に対する関心がさらに強まったこと、とくに弁形成が学会の主要なトピックスになっていること、低侵襲心臓手術MICS(ポートアクセス法など)がさらに進化しつつあること、カテーテルによる大動脈弁置換術いわゆるTAVIがさらに入りつつあること、大動脈外科でもその流れのなかでEVAR・TEVARつまりステントグラフトが一層洗練されつつあること、冠動脈バイパス手術は数を減らしながらも、その特長を示し、ハートチームで適切な選択をしようとする流れがさらに強まっていること、つまり内科外科の連携をもっと強化しようという動きなどなどを感じました

アメリカのMichel Mack先生やCraig Smith先生の心臓外科の展望、Bavaria先生のハイブリッド手術室の解説、Damiano先生のメイズ手術の展開なども参考になりました。

中国でダビンチ・ロボットが心臓外科でも多用されつつあることをGao先生の講演で知り、刺激を受けました。

私は一日目の僧帽弁形成術のシンポジウムで、機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい手術(Bileaflet Optimization、両弁尖形成術)を発表しました。昨年のフィラデルフィアでのMitral Conclaveで発表したころより数も増え、その応用範囲も広がり、皆さんからありがたいコメントを頂きました。来年のシンポジウムへ招待してくれた先生も複数あり、うれしいことでした。京大病院時代から皆の協力で進めて来た術式がかなり完成度を上げて、いまやケースによっては左房を開けず、僧帽弁輪形成術MAPさえ無しでできるとか、乳頭筋吊り上げの糸で行う左室形成術という視点が受けました。大変光栄なことであるとともに、現在の仲間や京大時代に仲間に感謝する一日でした。

二日目には大動脈のシンポジウムで恩師デービッド先生のデービッド手術つまり自己弁を温存する大動脈基部再建手術の難症例をいくつかビデオで示し、その対策を披露しました。同時に大動脈炎に対するデービッド手術が患者さんに福音となる可能性を論じました。この領域の世界的権威であるペンシルバニアのBavaria先生がこれは良い手術だやるべきだ!と言ってくれたのは光栄な限りでした。ちなみに現在は天理病院の院長となられた上田裕一先生とスペインのMestres先生らが座長で、シンポジストには大北裕先生もおられ、私にはアットホームな雰囲気でした。あとで良いコメントを頂き、感謝の塊になっていました。

バリ島と言えば、美しい夕陽や見事な棚田、寺院その他さまざまな魅力があり、しかも素晴らしいゴルフ場もありますが、今回は私の要領が悪く、そのいずれも参加できず残念でした。

まあたまには勉強三昧も良いかとわかったようなことを思いながら、皆と楽しく過ごせた4日間でした。

お世話になった会長のHakim先生と奥様に深謝と学会成功のお祝いを申し上げます。

 

平成24年3月11日

帰国直後、大震災の被災者の方々に黙とうをささげつつ

 

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執筆:米田 正始
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天皇陛下の冠動脈バイパス手術成功を慶ぶ

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2012年2月18日土曜日、天皇陛下の冠動脈バイパス手術が成功しました。

朝日ドットコムの速報は次のように伝えています。

***********************

天皇陛下の手術無事終了 集中治療室に移る

狭心症の治療のため東京大病院(東京都文京区)に入院中の天皇陛下は、18日午前9時半ごろから心臓の冠動脈バイパス手術を受けられ、手術は午後3時半ごろまでに無事終了。午後3時55分に手術室から集中治療室(ICU)に移られた。

***********************

車から挨拶される天皇陛下天皇陛下が狭心症を冠動脈バイパス手術によって克服され、ますますお元気に活躍されることをお慶び申し上げます。

執刀にあたられた畏友・天野篤先生(順天堂大学)や小野稔先生(東京大学)、それを循環器内科の立場からサポートされた永井良三先生(東京大学)、麻酔科の先生方、コメディカルの方々はじめ関係の皆様に敬意を表したく思います。

とくに大変な重圧のなかをゆるぎない信念と技術で心臓手術を完遂された天野先生を誇りに思う次第です。

私見ですが、この先生たちが助けられたのは、天皇陛下だけではないと思います。

虚血性心疾患の治療にいのちをかけて来られた多くの循環器内科医や心臓外科医、さらに冠動脈バイパス手術が適応となる無数の患者さんたちも含まれるのです。

それは狭心症の中には冠動脈が複雑に壊れていて、カテーテル治療よりも冠動脈バイパス手術のほうが長生きできることがすでに示されている患者さんが少なくないからです。

しかしそうした患者さんたちも、皮膚を切らずにできるカテーテル治療を選ばれることが日本では多く、必ずしも安全な治療選択がなされているとは限らない現状があるのです。それでもそれらの患者さんがお元気なうちはまだ良いのですが、死亡する方が長期的に発生するのは残念なことです。

天皇陛下が医学的にベストの治療を選ばれた勇気と決断、それを支援された医療チームの皆さんに私が敬意を表するのはそれもあるからです。

今回の冠動脈バイパス手術の成功は、かつて天覧試合でサヨナラホームランを放ってプロ野球を国民的なものとした長嶋茂雄さんの貢献に匹敵するものと個人的には思っています。

すでに冠動脈バイパス手術を受けられた患者さんたちも、今回の手術を慶んでおられます。自分たちの決断は間違っていなかったと。

多くの患者さんたちとともに、今回の手術成功を慶び、関係の皆様に感謝するものであります。

平成24年2月18日

米田正始 拝

 

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