HOCMフォーラムに参加して

Pocket

閉塞性肥大型心筋症、別名HOCMは今なお難病として課題が多数残っています。

私たちはこの病気に HOCMフォーラム2014
対して積極的に治療を行い良い成績をあげて来ました。

東京でこの研究会が開催されたため参加しました。榊原記念病院の高山守正先生が代表幹事で、今回は日本医大の高野仁司先生が当番でした。

テーマは「治療困難なHOCM症例に対する戦略の工夫」で、まさにタイムリーなものでした。ことしの日本循環器学会総会でこのテーマで私たちが発表したときにも多数のご質問をいただき、うれしく思ったものです。

始めに榊原記念病院の歌野原祐子先生がHCMのMRI診断、CT診断、病態に迫るというタイトルでお話されました。MRIがこれからさらに有用になること、中でもLGE(心筋の壊れたところが造影剤で光って見えること)所見が重要で、これが患者さんの予後を教えてくれること、さらに左室構築がわかることなどを示されました。

左室流出路狭窄があるとき、これを外科で心筋切除(モロー手術)すれば患者の生命予後が改善すること、さらにこのHOCMの病態の中に乳頭筋の異常がかなり含まれていること、そしてこれをより正確に行えるよう画像診断の組み合わせが役立つことなどを解説されました。

乳頭筋の異常は私たちも以前から取り組んできた課題で、悪い心筋をかなり切除でき、それによってさらに狭窄が解除されることを実感してきました。これがより正確なデザインと評価で完成度が上がるのではと楽しくなってきました。

日本医大の坪井一平先生は新しいHOCMガイドラインを解説されました。日進月歩のこの領域で、ガイドラインはとくに大切です。欧米が日本に先んじていることを感じました。

植え込み型除細動器ICDの適応基準や、心臓突然死のリスクファクター(年齢、左室壁厚、左房径、左室内圧較差、心臓突然死の家族歴)がさらに重要になったことを示されました。

榊原記念病院の矢川真弓子先生は同院でのICD経験やカテーテルによるアルコールアブレーション治療(PTSMA)の成績を検討されました。拡張機能はβ遮断剤では改善しないが、アブレーションでは改善しやすいというのはなるほどと思いました。心筋内カルシウムを調節することの重要性ですね。

 それから内科的、外科的症例の検討が数例ありました。どの症例も興味深く拝聴しました。

とくにPTSMAでうまく行かなかったケースが異常腱索のためであり、心臓手術で改善したというのはなるほどと思いました。高度あるいは広範囲の心室中隔肥厚があるHOCM症例の手術を積極的に手掛けている経験からDiscussionをさせて戴きました。心臓外科医が少数しか参加していなかったため、質問を頂いたり、多少でもお役に立てたとすれば光栄なことです。

Na₋Ca交換剤であるシベンゾリンの有用性と課題も聴けて良かったです。

特別講演として高山守正先生がゲストスピーカーの代演を見事にこなされました。欧米と日本の新たなガイドラインが望むHCMの臨床というホットなテーマでした。

心臓突然死と心不全の克服、心臓MRIで肥厚心筋の中で壊死が進むことへの対策、利尿剤への警告、ACEやARBが適しないこと、同じβ遮断剤でもカルベジロールはあまり良くないこと、などなど盛りだくさんの内容でした。

内科のPTSMAと外科の心筋切除(モロー手術)の使い分けでは、若い患者さんには外科手術であとあと薬があまり要らないように配慮しておられるのも賛同できました。

それからComplex Caseへの診断治療というテーマで何例かの症例が検討されました。

大動脈弁置換術後にHOCMが悪化し、PTSMAで救命できたケースには私もコメントさせて頂きました。同様のケースがあり、これは生体弁ごしにモロー手術を行って無事に切り抜けたのですが、確かにこの病気は経験豊富なプロのチームでこそ安全にできることを実感しました。

それから榊原記念病院心臓外科の内藤和寛先生が外科症例の検討をされました。

手術適応は若く、心室中隔肥厚(30mm以上)、弁膜症とセットの場合、腱索乳頭筋の異常があるとき、内科のPTSMAが不成功のとき、など、理にかなったものと思いました。

最近増えている広範囲の心室中隔肥厚例に対して、経僧房弁アプローチと経左室心尖部アプローチを紹介されました。それぞれ興味深いところで私たちの経大動脈弁アプローチの改良型と対比してDiscussionさせて戴きました。

こうして心臓手術が磨かれていけばうれしいことです。

心臓の構造のため、PTSMAでは約3分の1に右脚ブロックが発生し、外科の心筋切除では左脚ブロックが発生しやすいことを考えると、前者のあとで後者の治療をするときには注意が必要であることもわかりました。

ファイアサイドセッションは東邦大学の佐地勉先生が小児・若年の多彩な心筋症のレビューをされました。さすがこの道のオーソリティで、幅広い遺伝子異常の研究と実用化から始まり、さまざまな心筋症から私たちがちからを入れている左室緻密化障害にいたるものまでカバーされ、勉強になりました。

教育セッションIIでは高知大学の北岡裕章先生がHCMの診断基準を、九州大学ハートセンターの有田武史先生が心エコーによる左室流出路の考察、そして市立宇和島病院の濱田希臣先生が非閉塞型肥大型心筋症の薬物療法を解説されました。

いずれも心臓外科医の私にとっては貴重な勉強の場となりました。

有田先生のお話のなかで乳頭筋の異常は上述のお話とあいまって大変面白く思いました。私個人の経験では前乳頭筋の異常がよく目につくと感じていましたが、有田先生が引用された報告も同様でした。これと榊原記念病院の先生方が示された後乳頭筋の異常と合わせてかなり高精度の治療ができるものと確信しました。

濱田先生のお話は熱いお人柄のおかげか大変迫力があり、有用なメッセージを頂きました。とくにシベンゾリンの有用性は納得いたしました。拡張機能を改善すればHCMの患者さんには大きな福音となるでしょう。

帰りの電車の都合で最後までは参加できませんでしたが、大変有益で楽しいHOCMフォーラムでした。高山先生、高野先生、関係の先生方、お疲れ様でした。

 

ブログのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

日本胸部外科学会2014にて

Pocket

ことしも恒例の胸部外科学会に行ってまいりました。心臓血管外科の関係では国内最高峰に位置づけられる伝統ある学会です。会長 IMG_0586bは九州大学の富永隆治先生で、テーマは「Noblesse Oblige」(高い立場に立つひとほど、責任が重い)でした。

高の原中央病院かんさいハートセンターとしては初めての参加で、シンポジウムその他の発表もあり、かつ懐かしい内外の旧友らとの再会などもあって、心臓手術をしばらく止めて行ってきました。

前日夜の全員懇親会ではジョンスホプキンス大学の Duke Cameron先生とひさしぶりに話ができ、最近たまっていた疑問が相談できて何よりでした。大動脈基部手術を重症例に行うときにちょっとしたヒントを頂けるのはありがたいことです。

一日目のミックスの妥当性というパネルディスカッションでは当科の松濱君が初めてのパネル・シンポ類での発表ということで何度も予行演習や質疑の練習を直前にやりました。

国立循環器病研究センターの藤田知之先生、名古屋第一日赤の前川厚生先生、大阪大学の西宏之先生、東京都立多摩総合医療センターの大塚俊哉先生、慶応大学の岡本一真先生といった当代の売れっ子ともいえる立派な先生方のなかでまあまあの仕事ぶりでした。

MICSの一回目のブームが去っていちど廃れた印象がありましたが、今回の二回目のブームはどうでしょうか。私たちは前回のブームの際にはまだ安全上の懸念があり、通常の心臓手術をもっと磨いてからという気持ちで流行には乗りませんでした。

私たちは今回もべつに流行がどうこうということはなく、ただそれこそ目をつぶってでもできる弁形成弁置換が増えたという中で、手術の質や安全性を確保しながらより苦痛がすくなく、早く仕事復帰ができるという目的が達成できるという読みのなかからやり始めました。4年あまり前のことです。

内外のさまざまな先生方やMEさんらとの交流の中、いつのまにか私たちのMICSは進歩をとげて僧帽弁形成術とくに複雑弁形成や僧帽弁置換術、さらに大動脈弁置換そして大動脈弁形成術あるいはそれら二弁三弁手術までルーチンにこなす稀有なチームになりました。そうした中で各施設の貴重な経験と報告は目新しいものはそれほどなくても細部が参考になりました。

私たちはミックスでのメイズ手術を発表しました。まだそれほど多くの施設で行われていないようで、高い除細動率と心房縮小メイズ手術までできる完成度はあとで多数の先生方からお褒めいただき光栄なことでした。

同時に私たちのように弁膜症手術と同時に行うのではなく、心房細動だけのために、内視鏡をもちいて手術する大塚先生らの経験談はあらためて参考になりました。これからこうした方法も使えるようにしたく思いました。

それから2日目に当科の増山先生がLSH法のポートアクセスによる弁膜症手術について、小澤先生が成人先天性心疾患のニッチ領域について発表しました。

LSH法は大変創がきれいとよく言われますが、さらに磨いて安全性、仕上がりともよりレベルアップしたいものです。成人先天性では欲張ってさまざまな疾患の経験を発表したため、所定時間内にプレゼンするのは結構大変でした。修正大血管転位症と三尖弁閉鎖不全症、HOCM、左室緻密化障害、大動脈二尖弁、冠動脈ろう、その他について内容あるディスカッションができました。ニッチとは言えないほど重要なテーマですねと座長の先生にコメントいただきました。

Northwestern大学の畏友・Pat 223893McCarthy先生は僧帽弁形成術での新たな試みなどをお話されました。よりきれいでながもちし、かつ短時間でできる工夫を拝見しました。かつて、約16年ほど昔に、クリーブランドクリニックにて同先生を訪問し、学んだことが今も役立っていることをお礼とともにお伝えしました。

学会の内容はいつもどおり多岐にわたり、かつ最新のホットな話題が満載で、どのセッションを聴こうか、選択に苦労するほどでした。

心臓リハビリテーション学会とのジョイントシンポも参考になりました。

 

2年前の天皇陛下への冠動脈バイパ 天皇陛下ス術の話題が今回、正式にとりあげられました。執刀医の天野篤先生(順天堂大学)と主治医代表の小野稔先生(東京大学)そして富永会長のトーク(司会は横浜市立大学の益田宗孝先生)が企画されたのです。

複合チームでちからを合わせて頑張ったこと、カテーテルによるPCIか外科によるバイパス手術かの選択に2日もかけて皆で徹底議論されたこと、陛下が元気かつ安全に海外でも国内でも行けるように、そしてきついお薬を飲まずにすむように、また内科そして全体の主治医であった永井先生が定年退官直前であったため、ここで陛下の完全に病気を治して後任の先生方にご迷惑をかけぬような配慮もあって、バイパス手術が選択されたようです。決断したひとも、それを受け容れ協力したひとも立派だったと拝察します。

実際、陛下は手術からわずか1か月後には東北大震災1周年の鎮魂の集まりに参加され、術後3か月でイギリスのエリザベス女王即位60周年の記念式典に出席されるなど、すばらしい成果を上げたバイパス手術でした。

天野先生、小野先生とお話する機会がありましたが晴々した良い顔をしておられ私もハッピーな気持ちになれました。この手術によって冠動脈バイパス術が国民的理解がえられ、患者さんに恩恵が届きやすくなったことは特筆すべき快挙と思いました。


2日目の富永会長の Tominaga講演も心に残るものでした。非拍動流の補助循環の良さを信じて長いあいだ苦労された富永先生の仕事の正当性が今、証明された、うれしい限りです。パイオニアの苦労というのはいつの時代にもあるようです。富永先生お得意の剣道が心臓外科の成績向上に役立つことも理解できました。

 

今回の日本胸部外科学会の中で重症心不全研究会もサテライトとして行われました。世話人会ではデータベースの確立へむけ、これからの研究テーマを検討することができ、いよいよオール日本で心不全の外科治療の研究ができそうで大慶でした。

研究会では国立循環器病研究センターの小林順二郎先生の当番世話人で、同内科の安斉俊久先生が心筋梗塞のあとの炎症反応が左室瘤や左室破裂などの原因となるリモデリングへとつながることをお話され大変勉強になりました。

それに引き続くワークショップでは虚血性僧帽弁閉鎖不全症左室形成術HOCMへの外科治療などが論じられました。それぞれこれまでちからを入れて来た領域ですのでディスカッションに加わらせて頂きました。

かんさいハートセンターは弁膜症や心不全に強い内科チームと、柔軟性に富む病院やセンター、そして熱い外科を含めたハートチームがあるため、これまでより強力に心臓手術や治療を進め、患者さんのお役に立てるとあらためて思いました。

最終日にテキ Michael-J.-Mack-MD
サスのマイケルマック先生が特別講演をされました。2020年の弁膜症治療というSFっぽいタイトルでした。私は他セッションの都合で講演の後半しか聴けませんでしたが、心を打つには十分でした。

40年前の医療を想いだしてみなさい。白血病、弁膜症、股関節、その他さまざまな病気がどれだけ治せたか。ひるがえって現代はどうか。それぞれ治る病気になりつつある。弁膜症でも過去に発表され、多くの患者を助け一時代をつくった術式の多くがすでに過去のものになっている。新しい治療をつねに開発しなければならない。楽をするということで大きな対価を払っていることに気づかねばならない。努力して自分が自分の将来を切り開かねば、誰かが切り開いた道をむりに進まされるようになってしまう。マック先生はこれから弁膜症治療の中で起こるであろう変化予測をしたうえで、一番確実なのは変化自体が必ず起こることだということで話を閉められました。パイオニア精神にあふれるアメリカ人マック先生だから説得力が一段と増すようなお話でした。

講演のあとで久しぶりのご挨拶をしたら、ドクターコメダ、最近どうしてる?とのことでしたので、変化に順応してミックス手術にはまってます、と答えました。満面の笑みを返して下さいました。

オーラスに畏友、トロント時代からの25年 Rao来の友であるVivek Rao先生が臨床研究の話をされました。現代の若手のなかで、これだけのリサーチマインドのあるひとがどれだけいるかなあと他先生らと愚痴ってしまいました。優れた臨床研究をすることで臨床とくに執刀するチャンスが増える(少なくとも欧米では)のだということを会場の若い先生方に知って頂きたかったのですが、ちょうど時間となってしまいました。このブログの場でそれを若い先生方に知って頂ければ幸いです。

あっという間に過ぎた3日間でした。富永先生、九州大学心臓血管外科の先生方、お疲れ様でした。学会の大成功、おめでとうございます。

平成26年10月3日

米田正始

 

ブログのトップページにもどる 

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

芝蘭会奈良県支部総会にて

Pocket

この歳になりますと同窓会がこれまで以上に楽しみになります。

小学校、中高、大学いずれの同窓会も同じです。

芝蘭会というのは京大医学 IMG_2114b部の同窓会ですが、京大らしくていいなあと思うのは出身大学にかかわらず、大学院や関連病院で同じ釜の飯を食べた先生方を分け隔てなく遇し、一緒に楽しめることです。

私が5年間お世話になった名古屋を去り、郷里の奈良に高の原中央病院「かんさいハートセンター」を立ち上げたのは昨年10月でした。ことし初めて芝蘭会奈良県支部総会に会員として参加させていただくことになりました。

この会には私なりに熱い想いがあります。数年前、京大病院でトラブッていた私を講演に呼んで下さり、激励していただいたのです。英語で誰もが知っている A friend in need is a friend indeed. まさかの時の友こそ真の友、という諺を想いださせるような経験でした。今でもその時の会場であったレストランへ行くと、何だか心温まるような気持ちになれるのです。

ともあれこうした会ですので楽しみにしていました。

懐かしい、かつてお世話になった天理よろづ相談所病院の先生方をはじめ、村田医院、坂口医院、大和高田市立病院、岡谷病院、土庫病院、大和郡山病院(昔の奈良社会保険病院)、高井レディスクリニック、東大寺福祉療育病院、西大和リハビリテーション病院その他の病院の先生方と再会でき、うれしく思いというより感謝の念で一杯でした。

郷里でこうした先生方のお役に立って心臓外科医としての人生を締めくくりたいとあらためて思いました。(皆さん、心臓病や血管病でお困りのときにはぜひとも救命したく、救急車でお迎えに参ります!)

恒例の特別講演では京都大学腫瘍薬物治療学の武藤学先生が京大病院がんセンターでの新たな試みをお話されました。集学的、横断的に、さまざまな科というより臨床も基礎も含めた総合戦力で患者さんを軸として動けるシステムを構築しておられるのを知り、感嘆いたしました。iPS細胞などのサイエンスを基盤にした研究、学際的スタッフによるスーパーコンピューターをもちいた臨床研究から近隣の病院群とタイアップした緩和医療まで取り組んでおられるというのは圧巻でした。

昔からプロのClinical Oncologistが必要という声が多かったのですが、武藤先生こそがそれであり、がん治療のハブそのもので、これは大きなインパクトになるものと思いました。

ひとつ余計なコメントをしてしまいました。がんではなく救急や循環器関係のお話ですが。中部地方の大学で、救急医療、地域医療、そのネットワーク、コンピュータを駆使した連携システム、ドクターヘリも含めた高度かつ機動力をそなえた体制など、見事な医療体制を構築しておられる大学の先生が講演されたとき、ひとつ聞いてしまいました。「これほど立派な医療システムを構築しておられる先生の大学病院で、しかも優れた心臓外科医がいるのに、なぜ年間数十例しか心臓手術ができないのですか?」と。答えは頂けませんでした。ほとんど絶句状態ですね。これが日本の大学病院の二面性なのです。もっともこれは循環器などの大学病院が苦手とする領域の話で、がんのような、本来集学的、学際的、横断的でかつ循環器ほど緊急態勢が要らない領域ではこれから大きな改善が期待されます、と。

重要課題とはいえぶしつけなコメントに対して武藤先生は後で真摯にお答えくださいました。さすが、プロのがん専門家は違う、あらためて同先生が構築して行かれる新しい大学病院のがん医療が楽しみになりました。

会には京大の学生さん、正確には芝蘭会雑誌部の部員さんも複数、取材のために参加しておられました。実は私も昔、雑誌部で同様のことをやった想い出があり、思わず激励してしまいました。雑誌部員がすごいのは、京大総長レベルの大先輩にも正面から話ができることです、ぜひその特権を活用して、多くを学んで下さい、とお願いしました。

皆さんと歓談しているうちに時間が来てしまいました。来年もまたよろしくお願い申し上げます。支部長の松村忠史先生、お世話下さった大和高田市立病院の砂川昌生先生、ありがとうございました。

 

ブログのトップページにもどる

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

第4回伊賀塾

Pocket

医の心、幅広い医療者の倫理や志を論じる学び舎として高い評価を受けている伊賀塾、その第4回の集まりに行ってまいりました。

私、米田正始は前回の第三回からの出席ですが、専門領域の学会などではそう学べない医学医療全域にわたる重要テーマを学べるため楽しみにしていました。

第4回伊賀塾
この伊賀塾はもともと伊賀上野市民病院の活性化のために始まったとのことで、行政当局から同病院の展開にあまり貢献していないため塾をやめるかもしれないという噂を聞き心配していました。案の上、今回をもって終了することになったようで残念なことです。最後の会ということで無理してでも参加することにしました。

 

塾長の小柳仁先生の開会挨拶ののち、伊賀上野市民病院院長の三木誓雄先生が同病院改革の来し方行く末をご紹介されました。一時寂れていた病院をここまで引っ張って来られた同先生の想いが伝わって来ました。老舗ののれん、中国の病院での軍服ユニフォーム、イギリスのがんセンターの構造、さまざまな実例と考察の中から初速ゼロの病院を立派なスピードがでるところまで造り上げられたご努力には感嘆いたしました。ご意見を求められたため、同じ想いをもつ医師としての努力のあり方をお話させていただきました。


カルビー社長の松本晃先生は熱い会社を育てるまでの考え方、哲学とその実践法をお話されました。日本の医療は医療従事者の犠牲の上に成り立っているということを認識しておられることに感心いたしました。

お話のなかでとくにDiversityつまり多様性は松本先生の真骨頂と思いました。たとえば女性を管理職とくに執行役員に多数取り立て成長のエンジンとするなどですね。大学に女性学長がこれまで少なかったのも如何なものでしょうかと問題提議されていました。講演のあと、私は思わず質問してしまいました。Diversityは欧米では当然のことですが、日本式の村社会つまり自分と違う属性の人間を否定する社会の中では、真逆の考えであり、革命的な発想です。しかし頭がやわらかいこどもたちでさえ、自分と違う属性をもつ仲間を、たとえば体が弱い級友がいればそれだけの理由でいじめる、つまり日本人はこどもの時からすでに村社会に毒されている、これを大人になって突然変えるのは大変なことではないでしょうかとお聞きしてしまいました。松本先生がこれを決意をもって努力して克服しておられるご様子がうかがえました。


聖路加国際大学学長の井部俊子先生はこれまで執筆してこられたエッセイの中からとくに面白いものを選んで朗読されました。看護師としての視点とひとりの人間としての視点の微妙なずれを克服する努力は初心を忘れないこととも共通しなるほどと思いました。最後の引用「Do your best, it must be the first class」は皆で肝に銘じたいところです。

 

名古屋大学の杉浦伸一先生は薬剤師の立場から医療改革への努力を続けてこられた経過をお話されました。医療は資本主義社会では測れない暗黙知の上に成り立っている。その暗黙知を形成知へと進化させねばならないことを強調されました。クリニカルパスや医療安全でのさまざまな努力はこの線の上にのっており、大学病院での臨床試験などの膨大な書類もこの観点から考えると手間はかかるが正当性のあるものとあらためて理解できました。人が職を失うと不安になるのは社会とのきずなが切れるから、というのは言いえて妙でした。最後にネルソン・マンデラの言葉、教育は最強の武器(education is the most powerful weapon)という引用に私は感動いたしました。

質疑応答の時間に、あつかましいとは思いながら次のことを申してしまいました。

教育を軽視し、わずかな出費を嫌ったために大きなものを失ったという実例をひとつご紹介します。それは舞鶴市民病院の一件です。かつてアメリカのプロの家庭医をお招きし、すぐれた総合診療教育を行っていた同病院は、全国から多数の若く熱い医師が集まり、隆盛を極めていました。しかし舞鶴市議会から「なぜ一地方都市の病院が教育にお金をかける必要があるのか」という圧力を受けていました。そしてあるときその教育ができなくなり、若い医師たちは去り、病院は崩壊し老人ホームになっていきました。教育へのわずかな出費を渋った市議会のために優れた病院がつぶれてしまったことを皆さんに、とくに伊賀上野市議会の皆さんに知って頂きたい。

もっとも市会議員の皆さんは次の選挙までに実績を出さねばならないため、5年10年先のビジョンまでつきあっていられない、そういうご事情がおありかと思います。いたし方ないものと思いますが、日本で病院医学教育や伊賀塾のような優れた事業を続けるには別の手立てが必要と感じました。


作家の後藤正治先生はベラ・チャスラフスカのお話をされました。最近話題になっている書籍でもあり、私たちの世代には想い出のシーンも多く、熱中して拝聴いたしました。東京オリンピックでもメキシコオリンピックでも優勝した同選手ですが、メキシコの時は厳しい社会情勢のもとでの優勝でした。まだ冷戦時代の中、プラハの春と言われた民主化改革が旧ソ連軍などのために占領、弾圧されていたのです。2000語宣言という改革派の署名をチャスラフスカは撤回せず、苦しくとも「節義」を貫いたことをお話されました。チャスラフスカは冷遇の日々を送りましたが、ベルリンの壁崩壊、東西雪解けのあとはオリンピック委員長にまでなったと聞き、救われた思いがしました。後藤先生の結語、人生は撤回できない、困難な時代はない、を襟を正して拝聴いたしました。

 

京都大学の光山正雄先生は基礎医学者としての40年から想う医学の将来展望というタイトルでお話されました。京大教授会でも良識派であった先生ですので大変参考になりました。たまたま病院から電話があり、拝聴を中座したため全部は聴けませんでしたが、一見地味でも感染と免疫をセットで深く探求されたお仕事は素晴らしいと感心いたしました。個人的には、その時代のトップトピックス以外にも優れた研究があることを皆さんに知って頂きたく思いました。上記の教育と同様、研究費を倹約するというのは長期的に国益を損なうものと思いました。


最後に小柳仁先生がこの伊賀塾を締める講演をされました。テーマは「渾身の心臓外科ーー医療人が人間であること」で、熱い、ほれぼれする人生をあらためて見せて頂きました。志の高さ、患者への愛、自己犠牲、努力、継続、リスク克服、どれをとっても心臓外科医という人種はもっとも臨床医らしい臨床医であると私は思っています。要するに誇り高い医師群と思います。大学を去って、医局などの属性とは関係なく、全国の若手とひとりの医師としてつきあえる現在、彼らが完全燃焼できるようなお手伝いをと思います。小柳先生の生きざまを拝見するなかでそうしたことが湧き上がって来ました。

平素の学会では学べないことが学べる、貴重な場である伊賀塾はこうして終了しました。小柳先生、関係の皆様、お疲れ様でした。


平成26年7月27日

米田正始

 

ブログのトップページにもどる 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

Edwards Heart Valve Front Line 2014

Pocket

この7月12日に東京で弁膜症のサミットともいえる研究会が開催されました。

演者として招待されたので行ってまいりました。

メーカー主催とはいえ、内容の充実した、興味深い会でした。出席者は原則部長クラス執刀者レベルで、高水準のディスカッションを目指したものでした。最近は若手向けのセッションが増え、好ましいことと思うのですが、たまにはこうした会も有意義かと拝察していました。

東京ベイ浦安市川医療センター循環器内科の渡辺弘之先生がディレクターを務められ、外科のアドバイザーは神戸大学の大北裕先生、榊原記念病院の高梨秀一郎先生、京都府立医科大学の夜久均先生という充実の顔ぶれでした。

渡辺先生の絶妙かつフレンドリーな司会で和やかに会は進んでいきました。ちょっと珍しいほどのエンターテイナー兼学術モデレーターでした。心エコーの講習会として有名な東京エコーラボが人気を博している理由がわかりました。

まず内科と外科で考える治療戦略というセッションで、岩手医大の岡林均先生と森野禎浩先生がそれぞれ興味深い症例を提示されました。

ついで大北裕先生と田中秀和先生の神戸大学チームから出血性脳梗塞をともなう感染性心内膜炎IEの症例を出されました。同じ脳出血でも危険なものと比較的穏やかなものがあり、皆さんこれまでも悩み苦しみ解決策をなんとか見出す努力をしてきた病態だけに議論が盛り上がりました。MRIによるT2スターは脳出血の検出や評価に有用となる可能性があり、ひとつの解決への方向が見えたのは幸いでした。

さらに羽生道弥先生と有田武史先生の小倉記念病院チーム(註:有田先生は現在九州大学)から低心機能にともなう低圧格差の大動脈弁狭窄症を提示されました。

私の経験ではこうしたケースは術後を乗り切ることができればあとの心機能は格段に改善するため、どのようにして乗り切れるようにするかに焦点を絞り、乗り切れないときに限り内科的に治療するというのが良いと思いました。二尖弁ではカテーテルバルン形成術は危険であるというのはなるほどと納得しました。

さてそこでミックス(MICS)のセッションです。

リスク回避のためのコツを新進気鋭・東京ベイ浦安市川医療センターの田端実先生と老舗慶応大学の岡本一真先生が解説されました。これまでの経験の蓄積を皆で共有できたことは素晴らしいと思いました。

ここでミックスとは低侵襲手術なのか、小切開手術なのかという本質的議論が併せてなされました。皆さん真面目で妥協のない姿勢での議論をされ、感心したのは私だけではないと思います。ただこの領域はまだ一般化できない、一部の先進施設で行う手術という印象が強く、すべては今後の展開次第というところでしょうか。

ついで安全なMICSのための工夫ということで光晴会病院の末永悦郎先生が胸骨部分切開での大動脈弁置換術、そして心臓病センター榊原病院の都津川敏範先生がポートアクセスでのそれを話されました。

そして話はコスメティックなミックスの追及へと進みました。

まず私、米田正始がLSH(Less Satelite Hole)法つまりミックス手術にありがちな副次創を最小限に抑えてきれいな創と少ない出血を達成するオリジナルな方法を解説しました。あとで多くの人たちからきれいな創を褒めて頂きましたが、それを僧帽弁だけでなく大動脈弁なかでも弁形成にまで使えることは驚きであったようです。ここまで国内外の友人たちのお力を借りて、手術を磨いてきた甲斐があったとうれしく、また感謝でいっぱいでした。このLSHに賛同してくれるひとは手術が難しいだろうという先入観からか少なかったのですが、最近シンガポールのグループもSIMICS(単一切開創のMICS)などで本格的に取り組むようになり、他にも同様の動きがでてようやく皆さんの認識が得られたようです。

私は副次創を少なくすることで質の高いミックスを目指していますが、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生は内視鏡を活用してメインの創を小さくする方法を発表されました。内視鏡を使うと副次創が増えるため私はやや後ろ向きだったのですが、若手の教育なども加味して考えると今後の方向として、こうした努力も大切と感じました。ともあれこうした高いレベルのMICSにはなかなかついて行けないという空気が感じられ、誰もができる完成度の高い心臓手術と言えるまでにはまだまだ努力が必要と思いました。

次のセッションは複雑症例に対する手術でした。

東京医科歯科大学の荒井裕国先生は昨日までの冠動脈外科学会の会長の大任を立派に果たされた翌日のことで、お疲れかと思いましたが頑張って興味深い症例を提示されました。冠動脈バイパス術後の虚血性僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁狭窄症のケースでした。乳頭筋を前方に吊り上げる方法できれいに治されました。私、米田正始といたしましては、この前方吊り上げ(PHO法など)をこの10年間提唱して来ただけに、仲間が増えたことをうれしく光栄に思いました。荒井先生ありがとう。

葉山ハートセンターの磯村正先生は重症の拡張型心筋症にともなう機能性僧帽弁閉鎖不全症の一例を提示されました。重症なるがゆえに、できるだけ簡略に手術をまとめあげ、見事に救命されたこと、敬意を表したく思いました。なおこうしたケースのために私が開発した大動脈弁越しに両側乳頭筋を吊り上げる方法なら、同じ短時間でもっと心機能が良くなるというデータをもっており、今度同様の患者さんがおられたら是非活用していただければと思いました。

ディスカッションの中で大北先生が、これまでの多くのEBMデータや科学的データをもっと踏まえて手術することを勧められました。まったくその通りで、ぜひ私が提唱する前方吊り上げ(PHO)をと願わずにはおれませんでした。

札幌ハートセンターの道井洋史先生はHOCM(閉塞性肥大型心筋症)の一例を示されました。後尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症を合併していた症例で、普通の僧帽弁形成術ではSAMつまり収縮期の前尖の前方移動が起こってあらたな僧帽弁閉鎖不全症が発生しやすい症例で、道井先生はうまく解決されたと思いました。

ただこれまでこうしたHOCMや僧帽弁形成術を多数こなして来た経験からは、後尖の高さをさらに下げるとSAMは極めて起こりにくいとも思いましたが、こうした治療は高度にケースバイケースなので何にでも対応できる経験と実力が大切と思いました。

この疾患で最近言われている異常筋束についてはなかなか術前診断まではできておらず、今後エコーやCTなどでの一層の研究が待たれます。

宮崎県立宮崎病院の金城玉洋先生は高齢者の大動脈基部拡張大動脈弁閉鎖不全症の一例を示されました。高齢者なるがゆえに、どこまで治すのが最適か、熱いディスカッションがされました。

最後に倉敷中央病院の小宮達彦先生がやや複雑なデービッド手術の一例を提示されました。デービッド手術での大動脈弁形成術は近年進歩がみられますが、弁の付け根を小さくすれば弁は当然余ることになり、余れば下垂するのは理の当然のため、何らかの対策が必要です。そこで弁の縫縮で下垂を治すことがまず考えられますが、やりすぎると弁の他部位や基部とのアンバランスが生じます。これを難症例で示されました。大動脈基部のジオメトリーがかなり実用化して来た印象があり、これからさらにデータ蓄積して僧帽弁レベルになればと思いました。

最後まで熱いディスカッションが続いた充実の一日でした。

この会は渡辺先生のお人柄もあり、ワークショップのように皆で見える成果を造っていくということで、各セッションごとに1センテンスで持ち帰りメッセージを造って行かれたのですが、私が発表させて頂いたミックス部門では「ミックス戦国時代」でした。的を得た表現と思います。HOCMのところでは、高梨先生が上の句「逆流が、止まったあとの」を言われたあとの下の句がなかなか出てこないため、不肖私が「流出路」と発言させて戴きました。なぜか大変受け、会場全体で「オーー」という声とともに拍手頂き、面白いところで評価いただき、不思議な光栄な気分でした。後の懇親会で大北先生が「米田先生が過去20年間発言した中で一番のでき」というご発言でもう一度バカ受けしていました。口の悪い先輩は良いとして、まあ皆さんの酒の肴になれて楽しいひとときでした。

会場のホテルは東京ベイを見渡せる素晴らしいところで、来年もぜひここでという希望が多数出ていました。

渡辺先生、アドバイザーの先生方、エドワーズ社の皆さん、お疲れ様でした。


平成26年7月13日

米田正始 拝

 

ブログのトップページにもどる

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

オフポンプバイパス研究会の見聞録

Pocket

OPCAB研究会(日本AHVS研究会)に参加しました。

この会はかつて日本にまだオフポンプバイパス手術が普及していなかった頃、1990年代の終わりごろ、小坂眞一先生や南淵明宏先生らのご努力で立ち上がった研究会です。日本でのOPCABの普及に歴史的貢献をしたことで知られています。

私も2001年ごろ、まだ京都大学で勤務していたころに会長を務めさせて頂き、こうした研究会では初めてライブ手術を企画し、多くの皆様のご協力を得て大きな会場は満員御礼となり、将来ある若手に真剣な勉強の場を提供できたという想い出のある会です。

今回は北斗病院の藤松利浩先生が会長で、東京にて開催されました。

藤松先生の並々ならぬ熱意が伝わってくるような充実した会になりました。

というのはそのテーマ内容とファカルティがなかなかのものであったからです。

まず同先生の長年の友人である Mr. Paul Bannon(オーストラリア)、Mr. Hugh Paterson(同)、Dr. Deepak Puri(インド)がこの会のために来日され、熱演を振るわれたこと、力のこもった日本の現役プレーヤーが多数参加されたこと、そして研究会では珍しく全員参加の懇親会があったこと、2会場をもうけてコメディカルや若手に的を絞ったセッションがあったこと、などなどが印象的でした。

デービッド手術のセッションでは多数の経験を持つDr. Bannonが詳細な解説をされ、ついで神戸大学の大北裕先生が工夫して乗り切った難症例を提示されました。ここまでやれるのだという限界点を見せて頂きました。

石灰化大動脈における大動脈弁置換術AVRのセッションでも興味深い発表が続きました。このぐらいまでは我慢できるというレベルも術者によって意外に幅広いこともわかりました。岸和田徳洲会病院の東上震一先生の大動脈弁石灰切除はその再発率の高さから過去の手術になったとはいえ、含蓄が深く、工夫次第では今後また使えるような予感がしました。名古屋第二日赤の田嶋一喜先生の石灰化上行大動脈の処理は私たちも多数活用しており、心臓外科の進歩に貢献しておられる内容でした。

ランチョンセミナーは左室形成術がテーマでした。北海道大学の松居喜郎先生がここまでの世界と日本の左室形成術をレビューされました。私、米田正始は「左室形成術を失ってはならない」という大げさな(恐縮)テーマで、これほど患者さんに役立つ手術を、EBMデータをしっかりと蓄積検討し、育てていかねばならないことを解説しました。

というのは、術前に生きるか死ぬかの大変な状態だった患者さんたちが左室形成術によって蘇り、10年経っても元気に暮らしておられる、そうしたケースが増えて来たことを具体例をもってご報告しました。

会場のコンピュータの不都合で時間が不足し、重要症例を一例ご紹介できなかったのが残念です。それはある地方の大学の循環器内科で、この患者は重症なのでもはや心移植しかない、と断定されたあとで、移植を嫌って私のかんさいハートセンターまで来られたケースです。左室形成術(プラス私が考案した乳頭筋吊り上げ術・PHO)によってすっかり元気になられ、心機能も改善しました。これをその循環器内科の先生方にもぜひ知って頂きたく思いました。左室形成術がこれほど患者さんのお役に立っているのに、まだ内科の先生がご存じない、これは極めて残念なことで、そのために多数の患者さんが不幸になっているのは放置できません。

国際セッションではインドの先生らのご発表と、順天堂大学の加藤倫子先生がVADのエコーの発表をされました。さらにDr. Patersonが両側ITA(内胸動脈)でのYグラフトのお話をされ、内容だけでなくその見事な手術テクニックにも感嘆しました。この先生は私の左室形成術の発表にも敬意にあふれたご意見を下さり、昔からの仲間とはいえ、うれしく光栄に思いました。上記のBannon先生も含めて、オーストラリアは心臓外科先進国であることをあらためて感じました。世の中は広い、学ぶべきものは無限にあるといつも思います。

ビデオライブでは僧帽弁形成術がテーマで、小牧市民病院の澤崎優先生が弁尖の切除と人工腱索の比較を、東京医大の杭ノ瀬昌彦先生が高齢者へのミックス弁形成術を、倉敷中央病院の小宮達彦先生がバーロー症候群での弁形成を、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生が完全内視鏡下のミックス手術でのループテクニックを披露されました。私はその一部しか参加できませんでしたが、勉強になりました。

そのあと研究会らしからぬ懇親会がありましたが、残念ながら他学会の会議のため参加できませんでした。

総じてことしの日本Advanced Heart & Vascular Surgery/OPCAB研究会は内容的にも盛り上がり方でも大成功だったと思います。

会長の藤松先生、サポートを下さった北斗病院の皆様、ご苦労様でした。北斗病院ハートセンターの名前は十分に浸透したものと存じます。来年北海道で再会できればと楽しみにしております。

平成26年7月10日

米田正始 拝

 

ブログのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

MICS SUMMIT 2014

Pocket

この6月21日に大阪で恒例のミックスサミットが開催されたため参加しました。

これまではサミット IN OSAKAとして内容ある研究会が大阪にて行われており、私も参加して楽しいひと時をもっていましたが、今回から全国区の研究会として正式に発足したのです。

 IMG_0450
会長はこの会を育てられた大阪大学の澤芳樹先生で、最近話題の新しいグランフロント大阪にあるナレッジキャピタルにて開催されました。

関西胸部外科学会の翌日で皆さんの勉強疲れがちょっと懸念されましたが、なかなかどうして、熱い議論が多数でて大変盛り上がったように感じました。

朝一番はビデオセッションで心臓病センター榊原病院の都津川敏範先生が前側方開胸によるMICS₋AVRを、大和成和病院の菊地慶太先生がMICS₋CABGを話されました。

それから「MICSをはじめよう」という特別企画がありました。大分大学の宮本伸二先生がその開始時の苦労と工夫を、東京医大の杭ノ瀬昌彦先生はMICS₋AVRに進むにはというテーマで、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生は内視鏡下MICSへのステップアップ、そして心臓病センター榊原病院の坂口太一先生はMICS₋CABGをはじめるにはというテーマでお話されました。

いずれもこれからこうした心臓手術を始めようという先生方には参考になったものと思います。ただ短時間の発表を聴くだけでは、通常と少し違う状況でおこるさまざまな問題や合併症とその対策までは手が回らず、やはり時間をかけてチームを育て、熟練させるという作業が不可欠と感じました。

たとえばこの方法は良く見えるよと言われて、はいそうですかとやってみたら、全然見えない、さあ困ったどうしよう、というのが熟練していないチームではよくあります。私もポートアクセス手術の経験量が100例を大きく超えて、僧帽弁や三尖弁だけでなく大動脈弁もこなすようになって、さらにさまざまな心臓手術や再手術などもこなすようになって、本当に安心してできるようになったという覚えがあります。

そこからは趣向をかえて国際セッションとなりました。

イタリアのCampus Bio-Medico医科大学の Francisco MusumeciはヨーロッパにおけるMICSの現況を解説されました。大変幅広くやっておられるのは知っていましたので、あとで細かいところを質問などして充実したひとときでした。中でも開胸時から人工心肺に乗せることで肺を保護するというのは、体への侵襲つまり負担を増やすという一面はあるものの、肺にはやさしい、検討の価値があると思いました。1年ほど前から考えて来たのですが、そろそろ実行するときが来たように感じました。

オーストラリア・ブリスベーンの Prince Charles Hospitalの Trevor Fayers先生は弁膜症のミックスというテーマで話されました。私にとって懐かしの地であるオーストラリアでも盛り上がりがみられるようで、ロボットもぼつぼつ導入されているとのことでした。ひとつご質問をしました。オーストラリアは私的保険と公的保険の二本立てで前者は保険料が高いが選べる病院や医師が多く、公的保険ではその逆なのです。万民の平等が原則である日本では受けない制度ですが、ようするにお金持ちは多少の便宜を受ける代わりにより多額のおかねを出し、保険制度じたいが潤うのです。聞いてみますとロボットなどの高額医療はすべて私的保険の患者さんとのことでした。日本ではこうした高額医療を進めるのは患者さんの負担が極端に増えて大変だとあらためて思いました。

それからアメリカはNorthwestern大学の畏友、Chris Malaisrieが低侵襲のAVRを解説されました。これは関西胸部外科学会のときと同じテーマでしたので、もう少しつっこんだ質問をしてみました。彼の方法は私たちのポートアクセス法よりは創も目立ち社会復帰も遅れますが、動脈硬化が強い患者さんにも使えるという利点があり、私はこれまでも似た方法を使っていますが今後導入してみようかと思いました。患者さんの状況状態に合わせて一番適した方法を選ぶ、そうしたラインナップを増やせるという意味で有意義なお話でした。

ドイツはLubeck大学の Thorsten Hanke先生はドイツにおけるMICSを概説されました。新進気鋭のためかまだ三尖弁形成術などはやってないということで、もう少し頑張っていただきたく思いました。僧帽弁だけでなく必要に応じて三尖弁も治せることが患者さんの長期予後の改善に役立つからです。

午後の後半は臨床工学士(ME)、麻酔科、リハビリ、内科の先生方からそれぞれのお立場からの発表がありました。どれも優れた内容でした。とくに心臓病センター榊原病院のME長である畏友・中島康佑君の安全モニターのお話は出色のできで、これからこうした優れたMEさんが活躍してくれれば医療はさらに良くなるという意味でも素晴らしかったと思います。私のところのMEさんたちも立派に頑張ってくれていますが、彼ら同志の交流を図りたく思いました。プロとして最高の仕事をする、国際的にも活躍する、こうしたコメディカルが増えていくのが楽しみです。

また慶応大学循環器内科の鶴田ひかる先生は内科からみた適切なMICSはというテーマで心エコーの専門的立場からお話されました。見事なエコーと深い読み、鋭い考察、さすがエコーと弁膜症のスペシャリストと賛辞を贈ろうと思いました。長崎大学の江石清行先生が私が申し上げたかったことを全部述べて下さったため私は何も申しませんでしたが、私自身、かんさいハートセンターを立ち上げてこうした心エコーの本物の専門家と初めて一緒に仕事するようになってからの感動をあらためてかみしめていました。

ともあれこうしたチーム医療は極めて重要で、参考になりました。最後に慶応大学の岡本一真先生がMICSの合併症と注意点を話しされ、これまでの経験を活かすという観点から活発な議論がありました。私も発表で気になった左室破裂のケースについて質問討議いたしました。こうした負の側面を真摯に議論し、再発予防や的確な対処法を平素から鍛えあげておくことが何より重要かと思います。大阪大学の西宏之先生はレジストレーションの必要性を話しされました。これから重要になると思います。

日本の現況つまり心臓手術を行う施設が多すぎて、弁形成やミックスなどをあまりやっていない施設が大半という状況のなかで、これから安全にこれらをやっていくためには、ほんらい施設集約つまり病院を束ねて数を絞るという作業が必要です。しかしそれは各病院や大学の事情がありなかなか進みません。現実には治療成績が良い施設がより数を伸ばし、良くない施設は閉鎖して結果的に集約化が進むというのが日本の現実です。その過程で患者さんついで若い先生方やコメディカル諸君に迷惑がかからぬように守る、これが大切と感じました。

真剣でも楽しい勉強と交流をもてたMICS SUMMITでした。今回当番世話人の澤先生、お疲れ様でした。素晴らしい会をありがとうございました。

 

平成26年6月22日

米田正始 拝

 

ブログのトップページにもどる

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

関西胸部外科学会にて

Pocket

この6月19日、20日に大阪で関西胸部外科学会第57回総会が開催されました。会長は畏友かつ大先輩の佐賀俊彦・近畿大学教授でした。

この IMG_0449 (2)学会は昔から多数の熱い先達の想い入れからユニークな発展をしてきたものです。ふつうは学会の地方会といえば近畿地方とか九州地方などの限定されたエリアでアットホームにやるのですが、この関西胸部だけは西日本の大半を網羅する大きな学会です。当然これまで多数の若手を育て、登竜門としても、また心臓血管胸部外科の学術的発展にも貢献してきました。私自身もその昔、何度も発表の機会を頂き、尊敬する先生方から何度も貴重なコメントを頂き勉強の糧とした思い出があります。

ちょうどそれは世界の心臓血管胸部外科の最高峰と言われるアメリカ胸部外科学会(AATS)に対してアメリカ西部の先生方が西部胸部外科学会(WTSA)を隆盛に維持してこられたのに似ていると私は思っています。

今回は佐賀先生がそのユニークさをいかんなく発揮された素晴らしい内容になったと思います。多数の座長を若手から登用し、若手の登竜門を前面に打ち出すべく症例報告のAwardセッションを多数組んだり、ヨーロッパ心臓胸部外科の受賞論文を発表していただいたり、海外からの招請演者も来日歴のないフレッシュな顔ぶれになったり、海外で活躍する同朋にシンポジウムをやってもらったり、腕によりをかけた学会でした。

中でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)のプロダクトマネージャーである森田泰弘さんに教育講演・安全管理セミナーとして講演していただいたのは圧巻でした。日本が世界に誇るイプシロンロケット、ミューVの開発秘話とその品質管理つまり医療における安全管理への努力を知ることができました。そもそも糸川博士のペンシルロケットからラムダロケット、ミューロケットがそれぞれ時代の最先端を行く優れものであったことをあらためて知りました。予算も少ない人員も少ない恵まれない環境の中で、これほどのものができたこと、さらにイプシロンロケットの場合はたった3年で完成させるという離れ業であったこと、その合間に皆で撮った写真の中の笑顔が素晴らしい、疲労困憊のはずなのに、なぜこれだけの笑顔があったのか、そこから先駆的プロジェクトにおける人材の大切さ、チームワークの大切さが実感できました。

最後にイプシロンロケットの打ち上げのシーンを見て私は感動し涙を抑えるのに苦労しました。ただ美しいロケットが飛翔しているだけではない、それを支える人たちの尊さを実感したからです。素晴らしいセッションでした。

それ以外でも興味深いセッションは多数ありました。

たとえば最近ホットな領域のひとつであるMICSでは教育セッションが2つ組まれ、MICS手術を安全確実に導入するかを大阪大学の西宏之先生、慶応大学の岡本一真先生、愛媛大学の泉谷裕則先生らが解説されました。これからミックス手術をやっていこうという若い先生らの参考になったと思います。

ミックスの教育セッションの後半の前に、アフタヌーンティセミナーというちょっとおしゃれな休憩が入りました。ここではちょっと方向を変えて滋賀医大の浅井徹先生が冠動脈バイパス手術のときに高速エコーとドップラーでより精度の高い手術を行うことを紹介されました。これは私が10年前に発表(論文のページ参照)した内容を器械の進歩でさらに便利に進化させたもので、あの頃の努力が無駄ではなかったとうれしく思いました。

ミックス教育セミナーの後半はより細分化した領域の話でした。心臓病センター榊原病院の坂口太一先生はMICSでの冠動脈バイパス手術を、金沢大学の石川紀彦先生はダビンチをもちいたロボット手術を、そして都立多摩総合医療センターの大塚俊哉先生は心房細動のミックス手術を解説されました。それぞれこれからの展開が期待される、ホットな領域で皆の参考になったと思います。

なかでも大塚俊哉先生のオフポンプで左心耳を切除する方法はこれでワーファリンが安全に止められるデータとあいまって、これから皆で推進しようと盛り上がりました。循環器内科の先生方と一緒に展開したいものです。

ミックス関係では会長要望ビデオ演題で不肖私・米田正始もポートアクセス法による僧帽弁形成術と大動脈弁形成術の同時手術をご紹介し、さまざまなご意見を頂きました。私自身、つい数年前まではこのような手術ができるとは思っていなかったため、今昔の感がありました。

若手のための症例報告コンテストはにぎやかに多数の発表が行われました。私のかんさいハートセンターからも松濱稔先生と小澤達也先生が面白い症例を報告してくれました。松濱先生は、あと1週間のいのちと言われた心臓悪性腫瘍を心臓手術で治し、2年近くも自宅で人間らしく生きられたケースを報告しました。ネバーギブアップ精神が患者さんを2年とはいえ、有意義に延命できたこと、これからさらに治療法を磨きたく思いました。小澤先生は肝硬変と三尖弁閉鎖不全症の患者さんにポートアクセス法で三尖弁形成術を行い、元気に退院されたケースを発表しました。ポートアクセスに代表されるミックス手術は美容に良いだけでなく、体力の落ちた患者さんの救命にも役立つことを示してくれました。ご苦労様でした。

恒例の会長講演はもちろん佐賀先生がされました。ドン・キホーテ・デラマンチャの心臓外科人生というタイトルで、力強い心臓外科医の半生を知るなかから、どうすれば立派な心臓手術ができるか、どうすれば一流になれるのかというヒントを多くの若手諸君が学んでくれたのではないかと期待しています。

弁膜症のシンポジウム「複雑な修復法を用いた僧帽弁形成術の遠隔成績と成績向上のための工夫」ではさまざまなタイプの僧帽弁閉鎖不全症への外科治療の検討がなされました。倉敷中央病院の小宮達彦先生はBarlowタイプ(バーロータイプ)のそれを、小牧市民病院の澤崎優先生は砂時計型切除法を、大阪大学の戸田宏一先生は1ノットループテクニックを、大阪市立大学の柴田利彦先生はループ法200例の検討を、名古屋第一日赤の伊藤敏明先生は自己心膜による僧帽弁再建を、そして私・米田正始は機能性僧帽弁閉鎖不全症に対する乳頭筋吊り上げ術(PHO法と呼んでいます)を検討報告しました。なかでも機能性僧帽弁閉鎖不全症は世界的に予後が悪く、心臓外科の位置づけも不透明になっていますが、これから優れた治療成績を世に問うて、安心して心臓手術を受けていただけるよう、努力したく思いました。

興味深いディスカッションが続き、時間の都合で尻切れになりましたが、大変有意義なシンポだったと思います。たとえば僧帽弁形成術のあとSAM(前尖がまくれ上がってMRが再発する)をどうするかで熱い議論になりました。私はSAMは解決できる、だからSAMのために弁置換になるのはもったいない、手術中に十分直し、患者さんがスポーツでもなんでものびのびできるようにしよう、とコメントしました。静岡県立総合病院の坂口元一先生、良い質問と議論をありがとう。

大動脈のシンポジウムでは広範囲に進展した弓部大動脈病変に対する治療戦略と展望というタイトルでこれまた熱い議論が交わされました。大阪大学の倉谷徹先生と国立循環器病研究センターの湊谷謙司先生の軽快な司会のもとで、通常手術、術中ステントグラフト、ステントグラフト+デブランチ、などの方法が詳細に論じられました。倉敷中央病院の島本健先生の発表はそれぞれの方法の弱点を正視した優れもので大変参考になりました。他先生方のご発表もいずれも立派で今後に役立てるセッションになったと思います。

招請講演ではメルボルン大学 IMG_0435オースチン病院時代の畏友・George Matalanisが弓部大動脈手術と大動脈基部再建の講演をされました。私も是非聴きたかったのですが、同じ時間帯に別のセッションの司会がありできませんでした。しかしGeorgeとはその前の夜のパーティでゆっくり話でき、相変わらず活躍している内容を子細に学べてうれしく思いました。

アメリカはNorthwestern大学の Chris Malaisrie先生は2回講演されました。そのうち1回はランチオンセミナーで私が司会をさせて戴きました。講演は僧帽弁形成術と、MICSのAVRでいずれもしっかりとした準備と勉強・研究の上に成り立つ立派な内 IMG_0431容でした。実際米国を代表するアカデミック外科医になりつつあると思いました。この先生はかつて私の古巣であるスタンフォード大学で修練を受けたことがあり、いっそう親しみがわきました。講演のあとも一緒に食事しながら将来の交流がますます楽しみになると思いました。

学会1日目の夜に全員参加の懇親会がありました。和やかな楽しい会でしたが、近大マグロの解体ショーがあり、とれとれのマグロがふるまわれました。とくに中トロは絶品でした。これからマグロが入手困難になるだろうという予想のあるなかで、これだけ立派なマグロが養殖できるとなれば、私たちは一生マグロに別れを告げることなく楽しめることになり、一同感謝感謝の夜でした。

こうしてユニークかつ立派な関西胸部外科学会総会は盛会裏に終了しました。

会長の佐賀先生、関係の皆様、お疲れ様でした。おめでとうございます。

 

平成26年6月22日

米田正始 拝

 

ブログのトップページにもどる

 Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

 

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

アジア心臓血管胸部外科学会にてーー雑感とともに

Pocket

恒例のアジア心臓血管外科学会(ASCVTS)に参加して参りました。

今回は久しぶりのイスタンブール(トルコ)で皆楽しみにしていましたが期待を裏切らぬ、面白く楽しい学会になりました。会長は Cicekシチェック先生でした。写真下は学会HPでのイスタンブールです。海はボスポラス海峡で、最近話題の黒海とマルマラ海ー地中海を結ぶ要衝です。

Ascvts2014_90616549

 

 

まずその直前に低侵襲心臓手術(MICS、ミックス手術)のワークショップが2日にわたって開催されました。

MICSにちからを入れている私ですので、かんさいハートセンター心臓外科の二番手増山慎二先生と一緒に参加しました。

IMG_0266b
一日目にはセットアップや麻酔などの総論、僧帽弁、大動脈弁、CABG、左房アブレーション、企業参加の順で講演とディスカッションが行われました。

シンガポールの畏友 Theo Kofidis先生やハンブルグのHendrick Treede先生、ベルギーのFrank van Praet先生、マレーシアのJeswant Dillon先生らをはじめ、この領域の熱心な先生らが話をされました。私たちもディスカッションにはいり、なかなか実りあるワークになりました。Praet先生はかつてご教示をいただいた Hugo Vanerman先生の後継者で話が盛り上がりました。慶應大学の畏友・岡本一真先生もここまでのポートアクセス法の経験からセットアップをお話されました。

IMG_0288b
二日目には人間の模型である「マネキン」にウシ心臓を取り入れたウェットラボでの練習がまず行われ(写真右)、それから実際のヒトCadaver(つまりご遺体)での実技練習という、日本では考えられない実践的なコースが行われました。

ウェットラボでは話題のSutureless 大動脈弁つまり糸を多数かけて縫い付ける従来の大動脈弁置換から一歩抜け出して、TAVI(タビ、カテーテルで入れる人工弁です)を術中に行うことで短時間の心停止・手術時間で弁置換する方法を学びました。以前から勉強していることではありますが、まだ日本で使えないこの弁を実際に使い、これから高齢者や重症例に役立つと想いました。おそらくこれまでのTAVIよりも漏れの少ない弁置換ができ、弁膜症患者さんの生存率の改善つまり長生きに役立つでしょう。

全体として感じたのはMICSをやっているのは未だに少数派ではあるが、やっているところではしっかりやっていること、そして着実に進歩のあとが見えること、ロボットへの模索が続いているがまだそのメリットがはっきりしないということでした。

旧友との交流をあたため、また新たな仲間を得て楽しいワークショップでした。さらに手前味噌にはなりますが私たちがかつて杭ノ瀬先生や四津良平先生らにご教示いただき努力してきた和製ミックスはたとえば私たちのLSH法(最少副次創によるミックス)等に至って創の美しさではすでに最高水準にあり、扱っている手術でも難易度の高いものが多いということがわかり、とくに2弁形成のポートアクセスなどはやっている施設がほとんどなく、報われた想いです。関係の先生方に実際の創部写真をお見せするとけっこう感心して頂けました。

IMG_0300b
いま一つ、心に強く残ったのは地元イスタンブールの医学教育レベルの高さです。Acibadem大学の教育施設の中でこのワークショップが行われたのですが、実践的なドライラボ、マネキンをもちいたシュミレーション、Cadaverをもちいたより高度な練習、さらにロボット手術の練習などが広大で美しい部屋の中で行えるという、すばらしいものでした。

日本の大学では予算難でできないことが開発途上国のトルコで実現できているところに日本の教育研究予算の貧困さを物語っていると実感しました。


このようになった原因のひとつは、医療が福祉だけでなく産業として国や社会に役立つ、いわゆる経済賦活効果があることをこれまでなんとなく否定され、結果として予算を削減されてきた歴史にあると思います。道路工事などの公共事業よりも医療のほうが日本経済を強化するというデータがあるのにそれを誰かが隠し、医療や福祉予算を削減され公共事業に回されても誰も異議を唱えなかったのです。医師会や文科省・大学医学部の方々にもっと奮起と努力をお願いしたいところです。

たとえば国家予算を5000億円削減されそうになれば建設業界は強烈な反対運動を起こすそうですが、医療業界は何も言わないという話を聞いたことがあります。これでは医療業界に勝ち目はありませんし、患者さんも国民も不幸です。医療業界は大学間・医局間の競争よりも他業界との競争にも目を向ける必要があるのではないかと想います。大学を離れ、患者目線の民間病院で日々患者さんと向き合っていると物事がかえってよく見えます。

話がそれましたが内容あるMICSのワークのおかげでASCVTSの卒後教育セミナーには参加できませんでした。このセミナーは私がまだこの学会の理事を拝命していたころ、高本眞一先生のもと皆で努力してアメリカ胸部外科学会AATSとの合同セミナーが実現し、以来続いているものです。アジアがアメリカに並ぶ扱いを受けた記念すべきセミナーです。


翌日からASCVTSの本会が始まりました。

心に残ったセッションをいくつか紹介します。


TAVIのご本家ともいえる Alain Cribier先生の講演がありました。同先生の開発からすでに14年の歴史がありますが、かつてバルン大動脈弁形成からスタートし、長期成績が悪く1990年代に次第にTAVI開発へと進んだものの、なかなかスポンサーが得られず苦労されたこと、

2000年ごろから動物実験を進め、2002年4月16日にRouen大学の「D-day」を迎えたこと、つまり人間での第一例ですね。予想以上に成績が良く、しかし合併症もまだまだ多く、改良を続けて2011年にアメリカのFDAの承認に至ったこと、

2012年からそれまでの手術不能患者から一歩進めてハイリスク患者にもTAVIが使えるようになり、以来世界で10万例を超える隆盛な治療法に至ったことをお話されました。

現在は新型のSapien3やCentra弁が使えるようになり成績の向上が期待されています。世界各国でレジストリが作られ、現在の問題点として、高度の動脈硬化、人工弁周囲逆流、脳卒中、完全房室ブロックつまり永久ペースメーカーなどが残っていることもお話されました。

今後の5年間で中等度リスク患者にも適応が広がるかも知れないこと、10年たてばさらに展開するであろうことも述べられました。この領域のパイオニアのお話を感動をもって拝聴しました。

同時に心臓外科の領域がまたひとつ減るともいえる状況で、それに対しては心臓外科がTAVI以上の成績と患者満足をあげなければならないと想いました。

おそらく方向性として、若く将来の永い患者さんには弁形成・弁再建の心臓手術でしかもMICSでしっかり治す、ご高齢の患者さんにはTAVIや改良Sutureless弁で簡略安全に治すという二段構えになり、高度な手術ができない施設は整理縮小になるものと予想されます。


今ひとつ印象深かったのはディベートセッションで内科つまり経皮的
僧帽弁形成術と外科手術による僧帽弁形成術の「対決」でした。

内科の E.Murat Tuzcu先生はMクリップの有用性を説明され、Everest IIトライアルの結果で有望な結果が得られたことを示されました。これまで外科でよく行われてきたCABG+MAPでは虚血性MRの再発が問題であることを理由のひとつにあげられました。同時に長期の予後がどのくらい改善するかという課題があることも話されました。

私が疑問に想うのはMAPでは虚血性MRの重症例を制御できないのは当然のことなのに、それを理由に外科手術がだめという発想です。MAPより優れた方法たとえば私たちのPHO法などの強化法があるのに、なぜ陳腐で弱小なMAPを外科治療の代表とするのか理解できません。もっとデータを出し、啓蒙や情宣が必要なのでしょう。

外科のほうは Robert Dion先生が話されました。Mクリップはもともと外科のアルフィエリ法をカテーテルで行うものですが、アルフィエリ法はリングをもちいたMAPとセットにしてこそ良く効くもので単独では成績があまり良くないのです。つまりMクリップの効果はもともと限界があるのです。これは私がずっと主張してきた内容で、大変うれしく思いました。

そしてMクリップのあとMRを残すと患者さんの予後が悪くなるのです。またMクリップ失敗後の僧帽弁形成術の成績は振るわないことも示されました。

まだまだこの領域はデータとくに長期データが不足でこれからの検討が大切と思いました。かつ外科の立場からは良好で安定した僧帽弁形成術を虚血性MRや機能性MRで心機能が良くなることをしめす必要があるようです。 


他のセッションでは南アフリカのWilliams先生らが機械弁の弁置換後、なんと50年のフォローの結果を発表され、二葉弁の中でのSJM弁の優位性と、OnX弁でパンヌスがきわめて起こりにくいことを示されました。


私、米田正始の発表の一つ目は機能性
僧帽弁閉鎖不全症に対する新しい僧帽弁形成術であるPHO法の検討でした。榊原病院とのコラボで、PHO法では従来のMAPよりも後尖のテザリングだけでなく前尖の拡張期テザリングも軽減するという内容で、いろいろと具体的な質問とくにどうやってつり上げ張力を調整するのかなどを頂き、ディスカッションに花が開いてうれしいことでした。最後に座長がElegant Study!と締めくくってくださり感謝に堪えませんでした。

このPHO法は重症例の一部ではまだ弱点があり、ちかいうちにこれを克服し、広く活用して頂ける方法にしたく、決意を新たにしたところです。


ASCVTSの2日目も面白い発表がありました。

僧房弁形成術のセッションで Randolph Chitwood先生がきれいなレビューをされました。彼のクランプを愛用する私としては声援を送りながら拝聴しました。

香港のSong Wan先生は私もかつてお世話になったスタンフォード大学Craig Miller先生などの科学的研究の成果を実際の僧帽弁形成術に応用しようという方向性のある優れものでした。たとえば僧帽弁輪のDysjunctionの問題や、前尖弁輪の折れ曲がり現象、僧帽弁輪サドルシェイプの平坦化現象、などなどを考慮した手術が必要と述べられました。心臓外科医の中には切って貼るだけを好む向きもあり(とくに非医局若手?)、それではすぐに壁に突き当たることを知って頂ければと思いました。

来年のこの学会の主催地香港でもあり、これからの展開が楽しみになりました。


畏友Taweesak Chotivatanapong先生(バンコック)は十八番のリウマチ性
僧帽弁膜症の弁形成術を解説されました。いまやリウマチ性はこのひとと言われるほどの展開でうれしい限りでした。これまで以上に細部にわたって完成度が上がり、より成績が向上するものと思いました。私のところへもリウマチ性弁膜症の患者さんがちょくちょく来られるため、さらに精密な形成術でご期待に応えたく、あとで直接ディスカッションに花を咲かせてしまいました。


モナコのGilles Dreyfus先生は三尖弁形成術のこれからの方向性を話しされました。三尖弁閉鎖不全症がそれほど強くなくても、弁輪と右室の拡張が著明なら弁輪形成を行うのが良いことをデータとともに示されました。

このことはヨーロッパのガイドラインでもすでにクラスIIaで支持されています。かつて京大病院でこうした患者さんに三尖弁形成術を行ったことを後日のごたごたの際に「やらなくても良い手術をやった」と言われ、臨床医学を知らぬ人たちと議論するのはホントに疲れると失望したのを思い出しました。まあ正しくやる者が結果を出して隆盛になっていくことを考えればもうそれで良いかと割り切っていますが、ちょっと残念なことです。


もうひとつ面白かったセッションは左室流出路の手術という、先天性のセッションです。とくにHOCMなどは成人例もけっこうあり私もちからを入れているためです。

Iyer先生はこの領域の手術をきれいに概説されました。HOCMの肥厚部が大動脈弁下に限局している場合はエキスパートなら比較的容易な手術ですが、肥厚が広がっている場合には工夫が必要となります。私たちはモロー手術という大動脈弁越しの方法を改良し、難しいといわれる心尖部まで直せるようにしましたが、先天性領域ではKonno手術がまだ中心のようで、参考になりました。ただ、きちんと治せるのであれば、短時間で侵襲の少ないモロー方のほうが有利かとも思いました。これから交流を持ち検討を進めたく思いました。

RFなどのカテーテル法では狭窄が残っており、これは根治性という点で劣るようです。


私の第二(第三?)の故郷ともいえるメルボルンの畏友 Tatoulis先生がRadial Artery(とう骨動脈)の15年のデータを発表されました。私がお世話になっていたころからのデータで懐かしい限りでした。

とう骨動脈は内胸動脈よりも成績が見劣るということで最近はあまり人気がないようですが、この15年の、それも前向きランダム化研究ではLADにつけた場合の15年開存率は96%と優秀で、内胸動脈の代用として十分に役立つことが示されました。これからまた多くの患者さんを助けることになるでしょう。


それ以外にも面白いものがありました。メイヨクリニックのDaly先生はオフポンプでおこなうゴアテックス人工腱策での僧帽弁形成の成績を発表されました。以前から注目していた方法ですが、3D(三次元)エコーでのガイド下に簡単な形成なら80%の成功率ということで、今後全身状態の悪い患者さんや高齢者の方々にお役に立つかもません。

この方法は生理学的にはちょっと弱点があり、左室の容積の変化によって僧帽弁の形が変わるというデータを私はもっているので、それを踏まえた術式に仕上げればと考えています。何かと楽しみが増えて退屈しません。何より衰弱した患者さんには朗報になるかも知れず、力が出てきます。


シンガポールの畏友・Kofidis先生がSIMICSという副次創の少ないMICS手術を発表されました。私たちのやっているLSH法(最少副次創法)と同じ方向性の、創の数が少ない、創がより目立たずきれいな方法で、ようやく仲間ができたとうれしく思いました。まだ改良の余地があるためこれからコラボして進めればと懇談しました。


台湾の畏友・KuanーMing Chu先生は一見30代に見まがうほどの新進気鋭の心臓外科医です。その優れたMICS手術のためすでにBig Nameになっておられます。私たちのMICSでの大動脈弁手術もこのChu先生から教わったものです。まさに台湾の天才と私は強い敬意をもっていますが、何より礼儀正しく、日本びいきでもあり、東日本大震災のときの台湾の世界一と言われるご支援を思い出すまでもなく、永くおつきあいしたい先生のひとりです。

このChu先生が最近の工夫をお話されました。傍胸骨アプローチ法で、この方がやりやすいようです。ただ創はこれまでの腋か(Subaxillary つまり脇の下)の方が遙かに見えにくくきれいなためこれは少し逆戻りではないかと感じ、直接ディスカッションしました。確かにSubaxillary法はきれいだが少々やりにくいからということでした。現在進めている工夫で解決できれば今度はお礼に逆輸出したく思いました。


京都府立医大(夜久均教授ら)から乳頭筋前方つり上げによる僧帽弁形成術の報告がありました。これまでの弁輪形成MAPよりも有意に逆流再発が少ないとのことでこの前方つり上げ法を最初に発表提唱したものとしてうれしく思いました。

東邦大学の尾崎重之先生らのグループからは2題の発表がありました。自己心膜による大動脈弁再建、いわゆる尾崎法の報告と、その基礎研究報告でした。こうして術式が着実に進化し磨かれるのは大変好ましいと感心しました。これからこの方法がどれだけ生体弁を上回れるか、そこが焦点のひとつと思います。


さて今回は会長Cicek先生がHOCM(閉塞性肥大型心筋症)にちからを入れておられるためもあってか、HOCMの面白い発表がいくつかありました。前述のIyer先生の発表も良かったですし、さらに

ロシアのBockeria先生らのグループによる、経右室の心室中隔切除術も興味深いものでした。HOCMで左室中程の深いところにある肥厚を切除するのは一般には難しいとされています。私たちは工夫してこれをモロー手術でもできるようにしたのですが、彼らは右室側の心室中隔を削ったのです。面白い方法ですが、それで左室側の肥厚つまり出っ張りが常に取れるかどうか、これから検証が必要と思いました。しかしひとつの考え方を頂き、これから役立つかも知れません。


それを受けて、私たちのHOCMへの取り組みを発表しました。

モロー手術は大動脈弁ごしに左室の心室中隔の異常心筋を切除する方法ですが、左室の深いところは大変見えにくくやりづらいのが普通です。私たちはそれをミックス技術を活かして左室中部はもとより、左室心尖部までできるようにしました。その余勢をかって、MICSの小さい創でできることも示しました。さらにメイズ手術も適宜行いました。

評価は上々でしたが、上記のロシアの先生からその小さい創でメイズ手術までできるはずがないというコメントを頂き、私たちの方法ならそれも十分できる、よろしければモスクワまで行ってご教示したいとお話したところ、是非にとのことで、思わぬところで友人ができてしまいました。

この手術は半月前の日本循環器学会でも発表し、いくつもの有り難いコメントや質問を頂きました。立派な先生方と友人になれるというのは光栄なことです。外科医冥利ですね。

IMG_0962b
イスタンブールは東西の接点でさまざまな文化・経済交流や戦争まで含めた行き来のなかでできた人類文化のるつぼのようなところです。

実に興味深い、かつその地形から美しい町でもあります。学会のあと夕方から町へ出て写真を撮りました。


さまざまな想い出と収穫を得てイスタンブールをあとにしました。この経験をもとにして、皆さんとまた楽しく勉強できればと思います。

平成26年4月6日

米田正始

 

ブログのトップページにもどる

 Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

 

 

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

第4回ハートバルブカンファランス

Pocket

恒例のハートバルブカンファランス(心臓弁膜症のユニークな研究会)が今年は大阪で行われました。当番世話人(会長)は大阪大学の中谷敏教授でした。

例年熱く楽しい、ときには厳しい議論に花が咲く研究会ですが、ことしは中谷先生のご尽力でいっそう盛り上がる内容となりました。参加者も年々増える中、記録となる300人に達しました。

IMG_0204bオープンしてまだ新しいグランフロント大阪のナレッジキャピタルが会場で、便利でした。

まず大動脈弁狭窄症(略称 AS)の治療の最先端が論じられました。

東京慈恵会医科大学の橋本和弘先生が外科のAVR(大動脈弁置換術)の観点から、大阪大学の倉谷徹先生が低侵襲治療の観点からTAVI(カテーテルで埋め込む人工弁)の現況を講演されました。

私は自分の発表を前にしてパソコンが壊れたためその修理に忙殺され、部分的にしか聴けませんでしたが、倉谷先生の「日本人の大動脈基部の構造は欧米人とはちがう」というのが大変印象的でした。例えばバルサルバ洞が狭く、冠動脈入口部の弁輪からの距離が短いとなると、TAVIの際に冠動脈入口部をふさいでしまう恐れが増え、それへの対策がよりしっかりと求められます。欧米のEBM(証拠にもとづく医学医療、またそのデータ)は極めて重要かつ有用ですが、こうした人種差を考慮してベストの医療をこの国で行うことは極めて意義あることと思いました。

それからTAVIではPPMつまり患者さんのサイズや必要度に対して弁が小さすぎるという現象はあまりないという議論も面白いと思いました。軽い狭窄を残しても治療前より明らかに良ければ、患者さんにとって益する治療法ということになれば、より多くの患者さんのお役に立てるでしょう。

大阪大学の前田孝一先生と慶応大学の林田健太郎先生のエキスパートコメントも有用でした。前田先生が報告されたポンプ(人工心肺)下のTAVIは低心機能の患者さんでは有用で、これから心臓外科が循環器内科とハートチームで治療に当たるときにいざというときの切り札のひとつになると感じました。心臓外科と内科が普通のAVR、短時間で植え込める sutureless弁でのAVR、そしてオンポンプTAVI、最後にTAVIというラインナップの中で患者さんに一番適したものを選ぶ、これは治療成績が上がると思います。

林田先生は世界の現況も解説されました。ドイツではすでにTAVIを12万例もやっており、大動脈弁手術の43%を占める、これから二尖弁にもTAVIを検討する、血液透析も視野に入れるなどをお話しされました。TAVIの後もII度の大動脈弁閉鎖不全症を残すと予後が悪化つまり長く生きられなくなるため注意が必要です。

その他、サピエン弁は僧帽弁のバルブインバルブに使えること、コアバルブ弁は小さいサイズの生体弁へのバルブインバルブに適していること、冠動脈狭窄に対するOPCABとTransAortic TAVIつまり上行大動脈ごしにTAVIを入れる手術などもお話しされました。大変参考になりました。

ドイツなどではTAVIの出現後も外科のAVRは減ることなく、TAVIだけが増えるという現象が続いており、つまりTAVIは心臓手術を受けられない患者さんを助けるのに役立っていることを示され、これは以前からヨーロッパの報告で知ってはいたものの、現在も同じであることがわかり、興味深く拝聴しました。

引き続いて高度の左室機能不全つまり心不全にともなう中等度の機能性僧帽弁閉鎖不全症の治療のセッションがありました。

まず大阪大学循環器内科の坂田泰史教授が内科の立場から講演をされました。運動負荷試験とくに運動負荷エコーの有用性を示され、さらに左室の直径(Dd)65mm以上か左室収縮末期容積係数LVESVIが150cc以上が予後不良との中間解析結果を報告されました。私も比較的近いラインをこれまで発表しており、納得できました。さらに右室のDdや右房圧が予後に影響することを示され、これはいっそう同感しました。左心不全は補助人工心臓まで行かずともさまざまな工夫ができますが、右心不全の治療は打てる手がやや少なく、大きなブレイクスルーが必要と常々感じていたため、心強い仲間を得た感がありました。心拍数が心臓の予備力を反映するかも知れないという御意見も検討の価値があると思いました。

私・米田正始はこれまで進めてきた乳頭筋最適化手術(略称PHO)による僧帽弁形成術の最近の成績をご披露いたしました。

これまでこうした心機能の悪い患者さんへの僧帽弁形成術はあまり寿命を延ばさないという報告が多かったのですが、私たちの新しい術式(PHOによる僧帽弁形成術)では5年経っても心不全で死亡するひとが10%と、従来より成績が良いため今後さらに検討して行きたい旨をお話ししました。

このハートバルブカンファランスは症例検討中心の会ですので、心に残る一例をご披露しました。昨年末の日本冠疾患学会でも発表した症例で恐縮ですが、これがこのPHO手術の意義がいちばん判りやすいためご披露しました。

なにしろ、80歳近いご高齢で7年前に左室形成術(バチスタ手術と同タイプの手術です)と僧帽弁形成術を行った重症例でしたが、術後お元気でしたが7年後に大動脈弁閉鎖不全症を発症して僧帽弁閉鎖不全症を合併するに至り、危険な状態になって私のところに戻ってこられたのです。通常なら2弁置換をするか、1弁置換+薬治療で不完全治療で苦労するとことですが、私たちの方法で1弁手術の負担で3弁とも治し、わずか1日で集中治療室を退室されたのは、この手術の良さを示すものと思います。

川副浩平先生や新田隆先生、夜久均先生はじめ多数の方々から貴重なご質問やコメントをいただき、感謝するとともに充実感をもてたひとときでした。

ランチョンセミナーは聖マリアンナ医科大学の鈴木健吾先生の弁膜症における運動負荷エコーの重要性で、大変役立つ、面白い内容でした。鈴木先生は運動負荷エコーはこれまでのドブタミン負荷エコーと比べて血圧や心拍数の増加だけでなく全身の筋肉ポンプからの静脈還流増加も加わりより本物の、生理的な負荷であることを強調されました。運動負荷の終了基準の大切さや、運動で誘発される機能性僧帽弁閉鎖不全症の予後が悪いこと、CPXの有用性、とくにMRの量が15%を超えるといけないこと、大動脈弁膜症などでも手術前にこうして心臓の予備能を知っておくと役立つこと、運動負荷をかける時のエコーの画質の維持、などなど大変ためになりました。

午後のセッションは弁膜症症例を若手中堅の先生ががんばって苦労して乗り切ったケースを発表され、それに対してベテランが辛口の評価をするという面白いものでした。

聖路加国際病院の阿部恒平先生、慶応義塾大学の岡本一真先生、大阪大学の西宏之先生がそれぞれ含蓄ある弁形成手術症例を提示され、みどり病院の岡田行功先生、榊原記念病院の高梨秀一郎先生、さらに会場のベテランからさまざまな意見が寄せられました。こうした冷や汗症例を提示された若手中堅の先生方に敬意を表するとともに、皆で良いものを創るという方向のワークショップ的なディスカッションの場を企画された中谷先生に世話人のひとりとして御礼申し上げます。

最後のセッションでは同様の苦労症例を内科の立場から提示されました。川崎医科大学の林田晃寛先生、東京大学の大門雅夫先生、小倉記念病院の有田武史先生のいずれの症例も示唆に富むものでした。

女性の透析症例では圧回復現象が起こりやすくASの評価に注意を要すること、心房細動のときには先行RR間隔で計測値を補正する必要があること、PPM(人工弁のサイズが患者の必要に合わないこと)は生存率だけでなくQOLつまり生活の質も考慮すべきこと、巨大左房のAFで弁形成より弁置換すべきかどうか、高度のTRをどうするか、などなど有用な情報が山盛りでした。

なお巨大左房では私たちがこの10年間ちからを入れて来た心房縮小メイズ手術で除細動率が上がり、かつ左房内の血流がスムースになり血栓ができにくくなるため、この手術を取り入れれば今後の治療戦略も変わることを提案したかったのですが、その機会がありませんでした。

高度のTRつまり三尖弁閉鎖不全症では患者さんはたとえ生きておられても下肢が腫れ、体も動かしづらく、見ていて気の毒な状態の方が多いため、もっと積極的に手術を進めるべきであるという意見が多くありました。

世の中では、たかが三尖弁のために大きな創で手術するのは気が引ける、それと三尖弁置換術の長期成績が悪いため三尖弁形成術がやりづらいケースでは何もしない、などの考えが今も多くあると思います。そこで僭越ながら以下を意見させて戴きました。まず現代はポートアクセス法などで小さい創で三尖弁を治せること、そしてもし三尖弁形成術弁が不適である場合、生体弁で三尖弁置換術をやっておけば、将来TAVIでValve in Valveができることをお話ししました。

多くの活発な発表と討論で勉強になったカンファランスは無事お開きとなりました。懇親会でもまだ話が尽きないという印象でした。中谷先生、川副先生、世話人の先生方、ご苦労様でした。

来年度の当番世話人は誰になるのかと思っていたところ、代表世話人の川副浩平先生から私にご指名があり、来年度の当番をさせていただくことになりました。

これまでの同様、あるいはそれ以上に皆さんが楽しめる、勉強できる、普通の学会とは少しちがう良さのある会にしたく存じます。皆さんよろしくお願い申し上げます。

平成26年3月10日

米田正始 拝

 Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

ブログのトップページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。