第二回日本ローカーボ食(糖質制限食)研究会

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第二回日本ローカーボ食研究会(糖質制限食の研究会です)の学術集会がこの2月5日に名古屋で開催されました。

この研究会は昨年2011年に発足し、同年6月に第一回学術集会を開催し、幸い多くの先生方や栄養士さん、コメディカルの方々や食品企業の皆様らのご助力で盛会に終えることができました。

それを受けて今回はさらに内容あるものを目指して開催されました。

IMG_0420b8題の一般演題発表およびディスカッション、そして灰本元先生の教育講演、さらに8題の演者をパネリストとしたパネルディスカッションで賑やかに討論がなされました。その詳細は日本ローカーボ食研究会のホームページをご参照ください。

一般演題ではローカーボ食(糖質制限食)の指導に難渋した症例をいくつかの施設から発表され、苦労と工夫が論じられました(写真は準備中です)。

また効果的で安全な治療法としてのローカーボ食(糖質制限食)をもちいた経験を小早川医院の小早川裕之先生や四日市糖尿病クリニックの東盛亜美先生らが発表されました。

ローカーボ食指導の上での血糖値コントロールの課題を西伊豆病院の野々上智先生が、また同様の課題を不安定ローカーボとして灰本クリニックの篠壁多恵先生が発表されました。

ローカーボ食(糖質制限食)に難渋した症例の経験を中京クリニカルの中村了先生や、名古屋ハートセンターの白戸絵里奈先生・田中舞子先生が発表されました。膵臓の石灰化著明な糖尿病でのローカーボ治療経験を中京クリニカルの前田恵子先生が発表されました。

こうした難渋例や教訓例のご検討は、ローカーボ食(糖質制限食)治療が進化していることを示すものと感じました。

お酒にもダイエットに良いものからそうでないものまでいろいろありますまた前回にひきつづいて、小又接骨医院の村坂克之先生のアルコールの研究のご発表があり、皆の注目を集めました。前回の結果、つまり赤ワインや辛口白ワインは血糖値をほとんど上げないという事実は愛飲家患者さんには朗報だったのですが、今回は純米酒や本醸造酒も良い結果で、今後うまく活かせばより楽しいダイエットが実現できそうな有用情報でした。糖質ゼロや糖質減量ビールもかなり行けるとはありがたい限りのお話しでした。

ちなみに私ども名古屋ハートセンターの症例は、高度肥満と脳梗塞既往のため手術も術後リハビリもままならない重症例に弓部大動脈置換術+大動脈弁置換という大きな手術をローカーボ食(糖質制限食)を効果的にもちいてスムースに乗り切るという、心臓手術や血管手術の新たな補助手段としてのローカーボ食の応用の一例として発表したものでした。同時に、軽快退院後、体重リバウンドと肥満再発・心不全再発で再入院するという、ダイエット指導のむずかしさも示したものでした。皆さまからご教示をいただき、うれしく存じました。

この会の御大である灰本 元先生の教育講演「海外大規模研究から」は糖尿病コントロールの最適レベルはどこにあるかという課題、あるいはそれに関連して糖尿病患者さんに多い低血糖のリスクや心臓死、あるいはがんをどう予防するかという課題など、まさに全人的治療の一環としてのローカーボ食(糖質制限食)治療の位置づけや最適法の探求というスケールの大きな内容でした。

パネルディスカッションでは安井廣迪先生の総合司会のもと、灰本元先生と私、米田正始の司会で進めさせていただきました。

個々の発表の際に論じきれなかったいくつかのポイントをもう少し掘り下げてみました。たとえば大酒のみの代謝はどうなるか、とくにTCAサイクルがアルコールで「占拠」されてメタボになるメカニズムや、脂肪を食べてはいけないと刷り込まれた患者さんをどう教育するか、そもそも脂肪を食べて血中脂肪が下がる理由、ローカーボ食(糖質制限食)がうまく遂行されていることを確認する指標は何がベストか、内蔵脂肪を簡便に計測する器械、などなど、内容ある議論をしていただき、司会者としてうれしく存じました。

これらのご発表や議論はちかぢか、一冊の本として出版予定です。発表者の皆様にはぜひよろしく執筆お願いするとともに、読者の皆様には乞うご期待です。

研究会のあとはローカーボ食(糖質制限食)企業の展示とともに懇親会が行われ、賑やかに歓談のときが持てました。クラシエ薬品の新しいスポーツ飲料、大塚食品のヘルシーなごはん、楽園フーズの新しいパン、サントリーの新しい試み、その他今後が期待される食品が展示試食されました。

新しいヘルスケアを担うこの研究会が多くの方々のご協力でさらに発展することを期待しつつ、第二回研究会を終了しました。みなさん、どうもありがとうございました。次回は半年後になる予定です。よろしくお願い申し上げます。

2012年2月6日

 

米田正始 拝

 

日本ローカーボ食研究会のホームページはこちら

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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全国お茶サミット2012

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 2月3日に第16回全国お茶サミットが静岡県島田市で2日間にわたって開催されました。

IMG_0408bこのサミットはお茶の普及やお茶産業の振興のために毎年開催されている、文字通りお茶産業関係者の方々の大きなイベントです。

会長は島田市長の桜井勝郎さん、来賓は静岡県副知事の岩瀬洋一郎さん、農林水産省関東農政局の唐沢武さん、日本茶業中央会理事長の榛村順一さんはじめ、日本のお茶産業の重鎮の方々がずらりと並ばれるものでした。

榛村さんはお茶サミットの生みの親とお聞きしました。

さまざまな展示や講座、闘茶会、緑茶のアロマセラピー、その他のイベントとともにアトラクションと記念講演が企画されました。

私はご縁あってこの会から講演をご依頼いただき、これまで京都大学時代に緑茶ポリフェノールの心臓保護作用を研究した経験や自分自身お茶好きということもあってお引き受けしました。

日本人は毎日の生活の中で「日常茶飯事」という言葉にもあるように、ごく普通にお茶を愛飲していますが、

その医学的メリットについては必ずしも意識されず、お茶の良さも十分には活かされていない感があります。

IMG_0410bそこでまずなぜ心臓外科医の私がお茶のお話をするか、つまりお茶は心臓や全身に良いことから始めました。

 

ついで鎌倉時代から古文書にも記載されるお茶の効用や、生活に溶け込み、

あるいは茶道として芸術の域にまで高められたお茶と健康の歴史を概説しました。

そこで経験的になんとなく体に良いと言われるお茶の医学的科学的メリットを京都大学での実験研究の結果を紹介しながら紹介しました。

緑茶ポリフェノールを前もって飲んでいたラットと飲んでいなかったラットに心筋梗塞をつくり、そのダメージの度合いを調べたところ、

緑茶を飲んでいたラットは心機能、浮腫、組織所見、水分含有量とも緑茶を飲んでいなかったラットより優れていたのです。

お茶に含まれるポリフェノール、カテキン、ビタミンC、ギャバ、βカロチンその他さまざまな物質が健康に良い、そのカギのひとつが抗酸化作用であることを示しました。

抗酸化作用があるとなれば、それは当然、アンチエイジングや美容、がんの予防などにも役立つわけで、そうした効果も紹介しました。

せっかくの機会ですから、心臓病の予防や早期診断、早期治療という観点から、

虚血性心疾患、弁膜症、動脈硬化、大動脈疾患などの注意点を解説しました。

ポイントを知り、危険なサインがでればすぐかかりつけ医や専門医に相談すれば、心臓血管病の多くは治せる、あるいはもっと長く生きられることを示しました。

あわせて緊急の心臓手術や血管手術が必要な状態、ただちに病院へ行くべき状態をお話ししました。

こうしたちょっとした知識をもつことで、いのちが救われることはしばしば経験します。

そういう観点から、放っておくべきでない症状を解説したわけです。

病院へ行くと怖い検査や治療が待っていると考えられる方も少なくないと思います。

そこで苦痛なく冠動脈を調べられるCTや、

仮に手術が必要となっても患者さんにやさしいカテーテル治療、

大動脈瘤へのステントグラフト(EVAR)、

さらに小さい創で社会復帰も早いミックス手術やポートアクセスの心臓手術なども紹介しました。

それらのお話しが終わってから、質疑応答の時間になりました。さまざまな積極的なご質問をいただき、その関心の高さをうれしく思いました。

ご質問のひとつにワインとの比較がありました。赤ワインのポリフェノールは確かに心臓などを守るのですが、それほど効かせようとすればアルコール中毒になりかねない、しかしお茶ならその心配もないことをお話ししますと受けました。

また抗酸化物にいろいろあっても、それぞれ意義があるため、たとえばビタミンCさえ摂っておけばビタミンEやポリフェノールなどは不要かといえば、そうではなく、それぞれ大切であることもお話ししました。

引き続いて「付録」講演としてローカーボ食ダイエットを簡略にご紹介しました。

心臓血管外科の患者さんの治療をする中で、ただ単に手術するだけでは患者さんの長期の健康が守りきれないと思っていました。

もちろん長期間のフォローアップは大切ですし、実践して来ました。

しかしそれだけでは不十分なのです。

それは、心臓手術で心臓が良くなると、患者さんは食欲も増えふっくらと太られることが多々あるからです。

そこまでは良いことですが、そのまま太り続けて生活習慣病やメタボになってしまうとせっかくの心臓手術があだになって新たな病気を造っていることになりかねません。

そこでたまたま春日井市の開業医・灰本元先生と知り合い、

そこで学んだローカーボ食ダイエットが、正しく使えば患者さんたちに大きな恩恵となると思ったわけです。

逆にあやまった使い方では長期的には合併症がおこる可能性があります。

それらをふまえてローカーボ食のやりかたを簡略にお話ししました。

時間の都合でイントロ程度しかお話しできませんでしたが、

多くの方々が健康管理・予防や早期診断早期治療に関心をもって頂ければうれしいことです。

関心がおありの方々は私のホームページ(心臓血管外科情報WEB)や日本ローカーボ食研究会のホームページをご参照頂ければ幸いです。

ともあれお茶サミットの講演は賑やかに閉幕し、私なりにお役に立てたのであれば大変うれしいことです。

お世話になりました島田市お茶がんばる課の戸田さん、当日お世話して下さった中野さん、きれいな司会をして下さったアナウンサーの好本さん、ありがとうございました。

またこの機会を下さった上記の桜井さん、岩瀬さん、唐沢さん、榛村さんはじめ、関係各位に深く感謝申し上げます。

 

平成24年2月4日 米田正始 拝

 

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執筆:米田 正始
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第64回日本胸部外科学会総会にて

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この10月9日から12日までの間、名古屋国際会議場にて日本胸部外科学会総会が開催されました。この会は心臓血管外科領域では最高峰に位置する学会ですでに64回を重ねる歴史をもっています。今回の会長は畏友かつ大先輩でもある上田裕一教授(名古屋大学胸部外科)でした。

64JATS2011伝統ある学会であまり斬新なことはやりづらいというのが世の常ですが、上田先生はテーマをProfessionalismプロフェッショナリズム(註:プロの精神やあり方)とされ、学会が単なる勉強の場にとどまらぬ、もっと高い視野で社会貢献や仲間の支援あるいは後進の育成などができる組織になることを願った内容でした。

その哲学と姿勢は上田先生の会長講演に凝縮されていました。プロと呼ばれるに値する外科医とその集まりである学会のなすべきこと、進むべき方向性を示されたと思います。なかでも指導者レベルの胸部外科医に対するリーダーシップ教育、最近話題のnon-surgical skill教育の重要性にも言及されました。アメリカの胸部外科領域の最高峰、指導的位置にあるアメリカ胸部外科学会AATSでもこのテーマが近年積極的に取り入れられ、いかにしてプロにふさわしい外科医になるかの教育が進められています。私もそれに参加して反省と発奮の塊になっていたのを覚えています。日本の学会でもかつての勉強中心の場から脱皮して社会貢献を果たす場になる時が来たように感じます。

Ilm17_ca05007-sこの方向性は元ハーバード大学准教授(天理病院レジデントの同窓生でもあります)の李啓充先生の特別講演とも密にリンクし、理解を深めるのに役立ったと思います。医師や病院が有するある種の権限は、もともと持っている固有のものではなく、社会貢献したおかげで社会から与えられたものであり、正当な貢献ができなくなれば当然権限は減らされていくものです。つまり医師は医師だから偉いのではなく、社会に貢献し、評価され、感謝されてはじめて何らかの権限や尊敬を与えられる。常に謙虚に社会貢献つまり患者への貢献に邁進しなければならないというわけで、100%その通りと感じ入りました。しかし医学にも医師にも完璧医療はなかなか難しいもので、だからこそそれを追及する飽くなき情熱が求められるとも言えましょう。

その時に会場から前向きのご質問があり、公務員制度のもとでどのようにしてプロフェッショナリズムを遂行できようか、もっと構造を改革しなければならないというご意見には皆共鳴されるところがあったものと思います。公務員制度のもとでは勤勉なものは不遇な状態になりがちで、滅私奉公で日々頑張っても9時ー5時の給与待遇しか得られない、頑張れば頑張るほど組合系の人たちに嫌われる、などの問題があり、今後も続くでしょう。こうしたインフラから始まる根底的問題を医師だけのプロフェッショナリズムでどこまで解決できるか、まだまだ考え、努力すべきことは多いようです。当然コメディカルのプロフェッショナリズムも検討されていますが。

話は少し飛躍しますが、民間の病院なら比較的自由度が高いため、プロフェッショナリズムを実践しやすいように感じています。もちろん経営を成り立たせながらという別の課題も背負い込むのですが。民間病院がいくつかの突破口を開けることができれば、それもまた立派な社会貢献かも知れません。ハートセンターで断らない医療、(あまり)待たせない医療、満足度の高い医療、質の高い医療を行うなかで自分たちなりにお役に立てるということを感じています。外来ひとつをとってみても、公的病院では患者さんが何度も往復しないと治療方針が立たないときでも、民間なら一往復で方針がしっかりと立ちますし、手術を例にとっても、公的病院ではがんの患者さんを何か月も待たせたりするのが慣例となっているところもあります。患者中心ではない、プロフェッショナルでないと言われても致し方ない状態です。民間のほうがはるかにプロフェッショナルと言えましょう。

上田先生の会長講演の話にもどりますと、この講演は、これまでの日本の学会にありがちな、会長あるいは教室の業績を披露するレベル(それはそれで聴く側の姿勢によっては大いに有益ではあるのですが)から脱皮し、日本の学会や医療をいかにして社会に役立ち評価されるものにするかという信念に沿って組み立てられたもので、講演のあとも、周囲の先生方から格調高い、立派な内容という声が聞かれました。

余談ながら講演の終わりごろ、人生の転機に指導や支援を下さった恩師の先生方の話になって上田先生が思わず声がつまってしまったのには聴いていた私もジーンとしてしまいました。昨年の胸部外科学会会長の佐野俊二先生の会長講演のときには、その類まれな貢献と仕事を支えたご家族に言及したときに声が詰まってしまい、ちょうどその講演を一緒に拝聴していた上田先生に、「先生、来年は泣かないでくださいね!」と私が余計なことを言ってしまったのがたたっのではないかと反省しきりの一日でした。実際、あとで上田先生から「君のせいだ」と笑いながらのお叱りを頂戴してしまいました。そのあとの田林晄一先生の理事長講演ではこれまで着実に積み重ねて来られた立派なお仕事のサマリーのような、地味でも良心的で内容豊かなものでした。プロフェッショナリズムにも言及されていました。これが展開するのはこれからの努力次第かと感じました。

学術集会そのものは多くの優れた発表や、世界から参集された一流の演者の先生方のおかげで充実したものでした。個々の内容には触れませんが、イブニングビデオの大動脈セッションではHimanshu Patel先生や畏友John Ikonomidis(サウスカロライナ大学教授)らの講演を司会させて頂き、たくさんの有益な質問やコメントを頂き、感謝しております。それ以外のセッションでも時代の流れをくんで、カテーテル弁(TAVI)やステントグラフト(EVAR)、カテーテル冠動脈治療PCIとくに薬剤溶出性ステントDESバイパス手術の位置づけ、弁膜症とくに弁形成手術や自己弁温存手術、低侵襲手術つまりミックス手術(MICS)とくにポートアクセス手術その他のホットトピックスでは活発な議論がなされました。午前7:45分からのクリニカルビデオセッションでは早朝にもかかわらず熱い議論が交わされ、私もつい自分のつらい経験や楽しい経験を知って頂こうといろいろしゃべりすぎたような気がしています。ともあれ良いものに多く触れることができたように思います。

学会の最終日には、グリーンセッションと称して、Johnと仲間とゴルフに行って参りました。私はトロントに留学していた20年ほど昔に下手なゴルフを時々やっていて、2回ばかりJohnと一緒に回ったことがあり、それ以来のラウンドでした。相変わらずジェット機のような球を打つJohnのゴルフに感心しました。遊んでいても、手術や勉強の話でにぎわうあたりは20年前の修業時代と同じで、うれしく思いました。

その前日に招待外国人演者の先生方とのパーティがあり、上記の先生方やAlfieri先生、Woo先生、Taweesak先生、Sundt先生、肺外科・食道外科の先生方はじめ皆さんとゆっくり話できました。海外との交流は年々盛んになっており、大変好ましいことですが、研修の仕組みでは日本が一番立ち遅れています。そこに経験例数の問題があり、そのベースに公務員や組合の問題なども垣間見えます。皆でProfessionalの英知を出し合って解決すべき時期が来ていることをまた痛感しました。

第64回日本胸部外科学会総会は胸部外科の領域に新たな歴史の一ページを刻んだ学会となったように感じます。上田先生、名古屋大学の先生方、胸部外科学会の皆様に一会員として敬意を表したく存じます。ありがとうございました。

平成23年10月19日記

 

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クアラルンプール・バルブ(弁膜症)サミット印象記 2

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弁膜症サミットは一日目から盛り上がり、勉強になるというよりはクラブ活動のような雰囲気でした。僧帽弁を中心にさまざまな観点から検討しました。

二日目は大動脈弁を中心に幅広く討論しました。まずエコーとMRIを中心とした画像診断の最近の成果が講演されました。エコーはKhanderia先生のいつもの親切・丁寧で熱いお話しでした。弁膜症の画像診断は現時点でもほぼ満足できるレベルにあると個人的には思っていますが、さらにその精度やわかりやすさが進歩しそうで楽しみです。

KLVSfaculty診断関係のお話しのあとに、不肖私、米田正始がデービッド手術つまり自己弁を温存する大動脈基部再建の手術を供覧しました。私はデービッド先生がこの手術を開発された1980年代の終わりごろからその手術を直接学び、ある意味、この手術を一番草創期から知っている一人なのですが、弁尖が弱そうなケースも多く、この術式がどれぐらい長持ちする良い術式か、確信がなく、日本に帰ってからはほとんど行っていませんでした。しかしデービッド先生らの遠隔成績が出て、世界のあちこちからそれを支持する報告が相次ぎ、また自信を回復させてこのところ積極的に行っています。患者さんが自己弁での手術を大変喜んで下さり、楽しい手術のひとつになっています。こつこつと遠隔成績を出して下さった先生方に感謝してこの手術をやっています。(写真は海外からの招待講演者のリストです)

ただ手術を供覧するだけでは皆さんに申し訳ないため、新しい日本製の人工血管で、しかもそれを難なくこなすシャープな針をもつ日本製のポロプロピレン糸という組み合わせでできる、いくつかの工夫と成果をご紹介しました。何人もの人たちに私も同じ方法でやってみたい、とお褒めいただき、うれしく思いました。この領域の世界的権威、ジョンスホプキンス大学のCameron先生も評価して下さり、私も使いたいと言って下さるなど、光栄なことでした。

引き続いてライブ手術でペリエ先生(もとはフランス、現在はドイツです)の僧帽弁形成術でした。バーロー症候群の予定でしたが、たまたまぴったりの症例がなかったのか、普通の僧帽弁逸脱・MRへの形成術でした。しかしペリエ先生は弁評価法の基本から掘り起し、系統的に評価する実際を供覧されました。多くの若い先生方の参考になったと思います。こうした教育セッションも今後使えると感心しました。

それからEdwards社の畏友Duhay先生(企業勤務とは言っても立派な心臓外科医です)が縫合しない生体弁AVRを供覧されました。いわばカテーテル弁TAVIを開心術の形で行うもので、いったんなれれば大動脈遮断時間つまり心臓を止める時間はごく短くなり、しかも脳梗塞などはTAVIよりもかなり低く抑えられる可能性があると個人的に期待していたものですが、実際かなり使えるという印象を得ました。こうしたさまざまな選択肢を内科外科の弁膜症の一体化チームで自由自在に選択したり組み合わせたりして最高の成績を上げることができれば素晴らしいと思います。

それからTAVIのセッションでビデオライブなどが供覧され、ちょっと飽きて来た感もありながら、この治療法のさまざまな側面を熟知する良い機会と思いました。ハイブリッド手術室のありかたなどの発表もあり、参考になりました。外科医の姿はこれからダイナミックに変わっていくのでしょう。ランチオンでも同様の議論が行われました。Partnerトライアルの結果が論じられ、有望な結果とともに、脳梗塞がやはり多すぎること、弁周囲の逆流・リークがまだまだ多いこと、TAVIが使えない状況がかなりあること、などなど今後検討すべき課題が多く論じられました。

午後には大動脈弁のシンポジウムで私もModerator、日本でいうコメンテーターで仕事させて頂きました。大御所のDuke Cameron先生のビデオライブはやはり貫禄もので頭の中が整理され勉強になりました。私のDavid手術の発表も何度か引用いただき、光栄なことでした。

それからライブでカテーテルによる腎動脈周囲の神経ブロックが供覧されました。これまで見たことのないカテーテル治療法でなかなか面白いものでした。こうした方法がどんどん実用化するとまた治療成績が向上するでしょう。新しいデバイスや方法がすぐに使えるアジアの友人たちがうらやましいとも思いました。日本は官僚の保身のために、多くの患者さんが犠牲になっているという一面があり、原発事故をきっかけにこうしたこれまでの構造をあらためる機運が生まれると良いのですが。

それから一見、低い圧較差のAS大動脈弁狭窄症の検討がなされました。ASを評価するときに常に念頭におくべき必須の事項でした。つづいて、麻酔をかけずに行うAVR大動脈弁置換術がトルコのOto先生によって紹介されました。硬膜外麻酔をうまく活用する方法で、たしかに患者さんは手術中も話ができるほどの状態で、体外循環・大動脈遮断下にAVRはきちんと行われていました。経済的に必ずしも恵まれない開発途上国のほうがこうした実用的で安価な職人芸が生まれやすい印象があり、大いに参考になりました。

SANY0242それやこれやで一日中大動脈弁の勉強をして二日目は終わり、関係者で中華海鮮のディナーに行きました(写真)。レベルの高い、きわめて美味な店で、舌鼓をうちながらまた勉強の続編をやっていました。

ライブできれいな手術を見せてくださったペリエ先生やヤクブ先生を皆でねぎらいながら、これからの弁膜症外科の在り方を相談しました。

いろいろ馬鹿話をしているなかでひとつ面白いと思ったことがありました。それは北京の安全病院、年間7000例も心臓手術を行う立派な病院ですが、そこの畏友Haibo先生が、弁形成をあまりやれないというのです。どうしたん?と聞きますと、毎日4例も手術する必要があり、一例に十分な時間が確保できないので、複雑な弁形成をやるなら短時間で終わる弁置換になるというわけです。こういう悩みもあるのだと感心してしまいました。いろいろ工夫して打開できると思いますし、ぜひそうしてほしくお願いしておきました。

最後の3日目にも朝から僧帽弁のビデオセッションがあり、十分な時間がとってあるため良い検討や討論ができました。複雑僧帽弁形成術のための、ゴアテックス人工腱索のよりうまい使い方や、リウマチ性僧帽弁閉鎖不全症に対する心膜などを活用した積極的な弁形成、ミックス手術(MICS手術)ポートアクセス手術などによるより低侵襲な手術など、最近の弁膜症治療の進歩が十分反映された楽しいセッションでした。

それからマルファン症候群のシンポジウムがありました。病気のメカニズムから全身各部、さらに心臓血管までの病気の説明から治療や手術、そして例の自己弁を温存する大動脈基部再建手術つまりデービッド手術まで系統的なシンポジウムとなりました。デービッド手術ではCameron先生が講演され、その中でデービッド手術が患者さんにとって福音であること、しかし同時に人工弁を使うベントール手術も素晴らしい長期成績をあげており、これらをうまく活用することが患者さんの幸せにつながることを話されました。私の話も引用して下さったので、お礼に、「かつてデービッド手術ではなくベントール手術を行った患者さんにも胸を張って話できます、先生のおかげです」とお礼を述べたところ、大うけでした。

閉会式で何度か名前を呼んでいただき、光栄なことでした。皆さん、ずいぶん実績と自信をつけ、産業全般と同様、これからはアジアが世界に貢献する時代であることを感じました。

午後はエコーの実践教室や弁膜症心臓手術のウェットラボがあり、私はホテルの部屋で山積している仕事をやっていました。

3日間の弁膜症サミットは楽しく充実した内容で幕を閉じました。皆さんありがとうございました。

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クアラルンプール・バルブ(弁膜症)サミット印象記 1

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この10月6日から9日まで、マレーシアはクアラルンプールのバルブサミット(弁膜症の国際シンポジウムです)に講演のため行って参りました。例によって学会の印象記は一般の方々にはわかりにくいかも知れませんが熱い雰囲気を感じ取って頂ければ幸いです。

KLVS1心臓血管外科の手術関係のなかで今一番熱いのは弁膜症ではないかと思います。冠動脈バイパス手術は今なお健在といっても数の上では薬剤溶出ステントDESに代表されるカテーテル治療PCIに押され、大動脈はステントグラフト(EVAR)にある程度置き換わりつつあり、弁膜症が外科らしい心臓外科の最後の砦という感があるからでしょう。しかしながら弁膜症にもカテーテルベースの治療が入りつつあり一層関心が高まっていることも一因と思います。

心臓弁膜症の手術では長年欧米が世界をリードして来ましたが、このところ少し変化が見られます。というのはアジア諸国が力をつけ、近代化を進めた結果、心臓外科も大きく進歩し、弁膜症では弁形成術が難しいリウマチ性のものがアジアではいまだに多いため、おのずと弁形成の技術が磨かれるからと思います。

そういう背景もあって3日間のサミットは熱気に包まれたものでした。地元マレーシアはもちろん、シンガポール、タイ、インドネシア、オーストラリア、インド、中国などからの参加も多く、加えて欧米の実力派の先生が多数参加しておられたことも一因かと思います。

一日目の朝はまず心エコーやMRIなどの画像診断のセッションがありました。そして僧帽弁閉鎖不全症のシンポジウムが行われ、さっそくカテーテル治療であるMitraClipの発表と議論が行われました。まず内科からアメリカのCedars Sinai病院のSaibal Kar先生が、ついで外科からドイツのPerierペリエ先生が解説されました。この治療法はカテーテルで僧帽弁の前尖と後尖をクリップでパチンとはさみ、逆流口を小さくするというもので、EVEREST IIトライアルの結果などをもとに議論が進みました。治療法としてはかなり雑で不十分なことは大方の認めるところですが、何しろ低侵襲であるため高齢者や全身状態の悪い患者さんには使えると思いました。

しかしこれは現在アメリカではFDAによって「さし止め」になっているため、まだまだ課題が多いものと感じました。弁そのものが変化している通常の僧帽弁閉鎖不全症よりも、弁は正常でただ閉じなくなっているだけの機能性僧帽弁閉鎖不全症に好適かという議論もありました。私もそう考え、先日重症の患者さんで時間を短縮するためにこのクリップと同様のAlfieriという心臓手術を行ったところ、全然良くならないので急きょ他の弁形成操作を加えてきれいに治ったという経験があり、単なるクリップでどこまで行けるか、ちょっと疑問があることを提議しました。

それに続いてメルボルンのAlmeida先生はロボットによるミックス手術での僧帽弁形成術を講演されました。以前からよく知っている先生で、ロボットを使わない弁膜症ミックス手術(MICS手術)も多数やっておられるため偏らない議論ができました。その中で、普通のミックス手術で十分小さい創で手術ができても、ロボットを使うことでより発展性のある手術ができるという印象を持ちました。これからの楽しみということでしょうか。

SANY0225早朝セッションが終わったところで開会式がありました。マレーシアの厚生大臣(写真前列の黒髪の男性)が来られ、握手してくれたので私も思わず日本をよろしくなどと言ってしまいました。日本の心臓外科の学会に厚生労働大臣が来られることはまずないため、海外では心臓外科医や循環器内科医、さらには医療者が大切にされているのだなあとうらやましく思いました。

コーヒーブレイクのあと、機能性僧帽弁閉鎖不全症とリウマチ性僧帽弁閉鎖不全症のシンポジウムがありました。つまり弁形成や手術が難しい僧帽弁閉鎖不全症MRのセッションという位置づけです。

このシンポの目玉商品ともいえるライブ手術を畏友Taweesak Chotivatanapong先生(タイ)が執刀されました。彼のリウマチ性MRへの手術は私もその長期データを検討しながら参考にさせて頂いているため楽しみにしていましたが、なぜかMRはリウマチ性ではなくバーロー症候群のそれでした。たぶんぴったりしたケースがなかったのでしょう。前尖逸脱が主なためゴアテックス人工腱索を数本立てて、大きめのリングで弁輪形成しおよそきれいにまとまりました。それは良かったのですが、皆さんリウマチ性の難手術を議論したかったので少し拍子抜けしてしまいました。しかしまずはGood Job!ということで皆で讃えました。

リウマチ性MR弁形成というタイトルで地元クアラルンプールのAzhari Yakub先生が講演され、自己心膜パッチ形成などを軸にしてこれまでの方針をさらに進め、完成度を上げようという雰囲気でみな勇気づけられたと思います。たしかに数年ぐらい前まではリウマチ性MRはどちらかと言えばあまり無理せずに弁置換するのが患者さんへの親切という印象があったため、時代の変化を感じました。

ここから機能性MRの話題となり、アメリカ・メイヨクリニックのKhandheria先生のいつもの元気いっぱいで親切なエコーの講演がありました。それを受けて、不肖私、米田正始が機能性MRへの新しい手術法であるBileaflet Optimization両弁尖形成法をご紹介しました。京大病院時代に当時の仲間たちと開発したChordal Translocation腱索転位法という方法をさらに発展させたもので、これは現在の共同研究チームである川崎医大循環器内科吉田清教授や尾長谷喜久子先生、斉藤顕先生らのお力により手術と評価検討そしてさらに改良というサイクルがきれいに回ったおかげです。感謝しながらの講演でした。半年前にアメリカ胸部外科学会AATSの前にMitral Conclaveという僧帽弁シンポジウムで発表してから例数も3倍近くになり複数の検討ができたこともあってか、反響は多く、ぜひ使いたい、コツを教えてと言ってくれる先生が多く、光栄なことでした。

ランチオンセミナーではTAVIつまりカテーテルで入れる大動脈弁の発表がいくつかありました。TAVIはどんどん進化し、今後ハイリスクの患者さんはもちろん普通の患者さんにも使えるとする意見もでていました。もちろん普通の患者さんは現在でも安全に手術ができ、TAVIで高率に弁周囲逆流が発生していることや二尖弁その他TAVIが禁忌になっている患者さんも少なくないことから、弁膜症の外科がさらに進化することでできる貢献は多いとも感じました。MICSポートアクセス心臓手術でより小さな創と早い社会復帰が推進できればより貢献度があがると思いました。

午後には心室中隔欠損症VSD+大動脈弁閉鎖不全症ARのライブ手術がYakub先生の執刀で行われました。この病気はアジアに多いため欧米からも問い合わせがあるほどの領域ですが、立派な形成手術でした。私たちの手術方法と共通するところが多いのですが、弁のちょうつがいの部分の扱いが少し違うため質問し、参考になるご意見を戴きました。名古屋でも若い患者さんで大動脈弁形成術を喜んで下さるかたが多く、さらに精進する意欲がわいた一日でした。

それからカテーテルで行う簡単な僧帽弁形成術、さらに同じく左心耳閉鎖のライブがありました。カテーテルでの弁膜症治療が複雑になればなるほど、心臓外科の協力が必要ですし、外科医もこうした低侵襲技術を若手を中心にどんどん学び、老若男女・低高リスクを問わずすべての弁膜症の患者さんが元気に社会復帰できるような、総合循環器科を創る夢がまた膨らみました。循環器内科の先生方の中にもこうした考えに賛同協力して下さるかたが増え、これから積極的に進めたいものです。

毎晩アジアの友人たちに欧米の招待演者の先生らを交えてディナーパーティで楽しく遊ばせていただき、感謝の塊になっていました。

 

(長くなりましたので、次回につづきます)

 

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福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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第59回日本心臓病学会の印象記

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59thJCCpresident 日本の臨床心臓病のトップの学会と言われる日本心臓病学会が

この9月23日から25日まで神戸で開催されました。

会長は川崎医科大学循環器科教授の吉田清先生(写真)で、

臨床や臨床研究にちからを入れて来られた吉田先生のスタンスがよく反映された、

患者さんのための心臓病学を意識した内容でした。

メインテーマ「臨床心臓病学を極める」は

まさに同先生のライフワークそのもので充実感あふれる学術集会になったと思います。

 

  私自身が直接関与させて頂いたセッションの印象記を以下にお書きします。

 

まずYIAつまり若い先生方の将来性ある研究のコンテストでは

臨床研究から基礎研究まで優れた、興味深い研究が多く、

予選の段階から優劣をつけるのが申し訳ない気持ちになるような力作ぞろいでした。

しかしコンテストですから客観的に点数をつけ、

4人の若手が最終選考に残られました。

心房細動に対するカテーテルアブレーション治療の新たな方法や、

iPS細胞から誘導した心筋細胞がQT延長症候群の治療に役立つことを示唆したもの、

あるいは周産期心筋症の発生と高血圧の関連を示した全国レベルの臨床研究、

そして薬剤溶出ステントの再狭窄の早期発見に血漿BNPが役立つことを示した研究などがあり、

いずれも優れた内容をもっていました。

最終的にアブレーションの研究が選ばれました。

どの方々にも益々の進展を期待したく思いました。

 

一日目午後のパネルディスカッション2「最新の弁膜症治療:外科治療からカテーテル治療まで」では

優れた演題に交じって私たちと川崎医大循環器内科の先生方(尾長谷先生、斉藤顕先生、吉田清先生ら)との共同研究も発表されました。

同科の尾長谷喜久子先生が機能性僧帽弁59thJCC閉鎖不全症に対する両弁尖形成法(Bileaflet Optimization法)を3次元エコーや手術ビデオを含めて発表され、

良い反響を戴きました。

 

このパネルディスカッションでは

産業医大の竹内正明先生が3D経食エコーの有用性を弁膜症からTAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)への応用まで含めて講演されました。

心エコーもここまで進化したと感慨深いものがありました。

 

また鹿児島大学の窪田佳代子先生は

虚血性僧帽弁閉鎖不全症のテザリングとくに拡張期のそれが機能性僧帽弁狭窄を発生させることを示され、

同チームのこれまでのご研究をもとにして上記のBileaflet Optimizationを開発し

問題の解決に取り組んできた私たちにとっても貴重なご発表でした。

 

北海道大学の松居喜郎先生は虚血性MRに対する乳頭筋接合術や左室形成術の有効性を発表されました。

また乳頭筋の吊り上げに対しても必要に応じて使用しておられ、

同じ方向性で努力しておられることをうれしく思いました。

虚血性MRは弁膜症の顔をした左室の病気であるため、

私たちも賛同できることが多く、力を頂いたように思います。

 

榊原記念病院の加瀬川均先生は心膜で作成したステントレス弁の臨床試験例を報告されました。

私(米田正始)もこの僧帽弁ステントレス弁をトロント時代に研究していたため、

大変興味深く拝聴し、今後共同研究に参加させて頂くことになりそうです。

将来的には弁形成術とならぶ弁膜症手術の軸になるよう努めたいものです。

 

最後に大阪大学の倉谷徹先生がハイリスクの大動脈弁狭窄症に対するTAVIの臨床試験の結果を報告され、

今後有望な治療法であることを示されました。

 

このように弁膜症治療の新たな展開が見られるだけでなく、

内科と外科あるいは大学や病院が協力してより進化した弁膜症治療を求める素晴らしいパネルだったと思います。

 

その日の午後に教育講演として、私、米田正始が「虚血性僧帽弁閉鎖不全症」のお話をさせて頂きました。

広義の弁膜症のなかでもっとも複雑で不思議なこの病気を、

シルクロードで旅人を迷わせたロプノール湖にたとえてお話しさせていただきました。

そして1960年代のBurch先生の乳頭筋不全から始まり、

1980年代からは心エコーが病態解明に大きな貢献をし、

今日の進んだ僧帽弁形成術に至った経過をお話ししました。

さらに現在残された課題のひとつである後尖のテザリングに対して

私たちが川崎医大の先生方と共同開発した両弁尖形成術(Bileaflet Optimization)を解説し、

今後さらに進めていくべき方向性にまで言及させていただきました。

 

弁膜症といってもこの病気は心筋症・心不全という左心室の病気でもあり、

この解明と解決には内科、外科、はじめ集学的なチーム医療が必要であることもお話ししました。

 

講演のあと、多くの先生方から前向きのご質問やコメントをいただき、

そのあと別のところでも講演を聴かせてもらったよと激励のお言葉を頂戴し、

光栄に思った一日でした。

 

一日目夜の会長主催ディナーでは多くの先生方と懇談できうれしいことでした。

私のテーブルは外科の先生がほとんどで、仲間内で好きなことを雑談できました。

そのときにStanford大学のPeter Fitzgerald先生と久しぶりにお話することができ、

大学病院から民間専門病院へ移って具体的にどういう進展があったか質問いただき、

ここまで実現できたことをお話しし、喜んで頂けたのは光栄なことでした。

優れたエコーが外科医を育てることをお話ししますとガッツポーズを戴きました。

川崎医大の大倉先生と英語のきれいな女医さん(お名前わからずすみません)の軽快な司会が光っていました。

 

翌日の朝いちばんには若い先生方がこれから大きく展開されることを願ったキャリアパスのシンポジウムが行われ、

和歌山医大の赤坂教授と私、米田正始で座長をさせて頂きました。

鹿児島大学の尾辻豊先生、府中恵仁会病院の本江純子先生、スタンフォード大学の本多康浩先生、そして湘南鎌倉総合病院の斉藤滋先生という、

錚々たる、しかも多様な顔ぶれでした。

 

個々のの先生方はそれぞれユニークな道を歩んでこられたとも言えますが、

困難に直面しても夢を失わず、努力や工夫を重ねて問題を解決し、

人生を切り拓いていかれたことは見事に共通していました。

座長の特権でちょっとつまらぬコメントをさせて頂きました。

それは、私の研修医時代にある先輩から「どんなところでも育つひとは育つよ」という一言でした。

これは教える立場の人が言ってはいけないことと思いますが、

学ぶ立場の人にはぜひ知っておいて戴きたいことで、

このシンポジウムの4名の先生方はおそらくどんな環境でも展開されるだけの夢や情熱、信念を持っておられたからこそ今日の姿がある、

ということをお伝えしたくコメント致しました。

 

この学会ではその他にも多数の優れたセッションぞろいでした。

たとえばDES(薬剤溶出ステント)時代の冠動脈生理やアジアエコー、

冠動脈CT・MRI・RIのセッション、

大阪大学の小室一成先生と医仁会武田総合病院の河合忠一先生らによる循環器タイムトラベルフォーラム、

心房細動への最新アプローチ、

左主幹部病変に対する治療はPCIか外科治療かのセッション、

心臓移植の現状、

そしてもちろん吉田清先生の会長講演など山のような内容でした。

 

立派な機会を下さった吉田先生はじめ川崎医大の先生方と日本心臓病学会の先生方に厚く御礼申し上げます。

ありがとうございました。

2011年9月25日記

 

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第一回ハートバルブカンファランスの御礼

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昨日2011年9月17日に東京で第一回ハートバルブカンファランス(Heart Valve Conferenceつまり弁膜症の研究会です)

(代表:川副浩平・聖路加国際病院心臓センター長)

が盛会裏に行われました。

ご参加くださった多くの先生方や協賛のメーカーの方々に幹事のひとりとして御礼申し上げます。

(本記事はやや専門的で一般の方にはわかりにくいかと思います。

私たち弁膜症専門家の熱い空気だけ知って頂ければ幸甚です)

 

HVC2011 このハートバルブカンファランスは

川副先生が発起人となり、

内科・外科の弁膜症の実力派の先生方が集まり、

これまでの学会では十分できない患者目線の実際的議論と考察の場をつくるため、

できたものです。

 

幹事は外科系では榊原記念病院の加瀬川均、

日本医大の新田隆、慈恵医大の橋本和弘の諸先生

不肖私、米田正始

そして内科系では産業医大の尾辻豊、大阪大学の中谷敏の先生方です。

内科・外科の熱い論客ぞろいで、内容豊かな、

ただちに患者さんに役立つ情報交換が期待されていました。

第一回のカンファランスの内容を顧みますとその目的は十分に達成できたように思います。

(写真はプログラムの表紙です)

 

実際の症例をもとに十分な議論を尽くすというポリシーから

4症例をめぐって丸一日にぎやかに勉強しました。

前日の世話人会と打ち合わせ会のときからすでに熱い議論が多く、

本番の研究会でも予想どおりの力のはいりようでした。

 

まずmorning lectureとして中谷先生がとくに僧帽弁に力を入れて

 手術中経食エコーの方法から意義特徴までを講演されました。

座長の野村実先生(東京女子医大麻酔科)からしっかりとコメントを頂き、

神戸大学の大北裕先生と慶応大学の四津良平先生がコメントというよりミニレクチャーをされました。

大北先生は大動脈弁の解説を、

四津先生はポートアクセスミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)の観点からも解説されました。

経食エコーを誰がやるべきかというのは簡単なようでなかなか難しい問題で、

これも議論の的のひとつとなりました。

 

それからこのカンファランスの真骨頂であるCase Studyに移りました。

合計4例を4時間以上もかけてじっくりと議論しました。

新田先生がプレゼンされた拡張型心筋症+軽中度の大動脈弁狭窄症ASの症例はそのASの心負担の度合いの評価が難しく、

カンや経験で患者さんを治療せざるを得ない領域のひとつで、

今後さらに経験と研究を重ねる必要を感じました。

まずCRT両室ペーシングをしてどこまで心筋症の影響が大きいかを治療診断してから大動脈弁をどうするか考えるのが良いか、

その間にさらに心筋症が悪化することや手術リスクを考えて最初からCRTと大動脈弁置換を行うか、微妙でした。

しかし四津先生、新田先生、東京女子医大の谷本京美先生や天理よろづ相談所病院の泉千里先生はじめオーソリティの皆さんのお考えを聴けたことは収穫でした。

 

加瀬川先生が発表されたバーローBarlow病僧帽弁閉鎖不全症MRでは形成の方法が多数あり、

どの場合にどうするのが一番良いか、考えさせられる症例でした。

長崎大学の江石清行先生が余剰な組織を適切に切除して弁を整える心臓手術を供覧し、

Barlow病では上手にやるならばこれが理にかなっているように思えました。

またBarlow病で組織に変性を起こしているのが実感できました。

聖路加国際病院の新沼広幸先生がBarlow病を概説されまとまりました。

個人的にはBarlow病の弁形成では弁組織が余っているためなるべく悪い組織はきれいに取り、

かつ将来の再発の原因となる病変は軽いものでも是正するようにしているため

大いに参考になりました。

 

川副先生は非定型的なIHSS(HOCM)の手術例を供覧され面白いディスカッションになりました。

私も力を入れている病気のひとつであるため、

いろいろコメントをつけてしまい、あとで失礼を反省したほどです。

しかし難しい心臓手術を最終的にきれいに良い状態でまとめられたのはさすがと思いました。

榊原記念病院の高山守正先生と順天堂大学の大門雅夫先生のミニレクチャーでよくまとまりました。

 

香川大学の堀井泰浩先生はサルコイドーシス心筋症に合併する僧帽弁閉鎖不全症の一例を提示されました。

産業医大の竹内先生と私が座長をさせて頂きました。

これも非定型的症例で、左室形成術と僧帽弁輪形成術で治されたのは立派でした。

同時に私自身も10年ほど前に同様の手術を行い、

いったん元気になられたものの、

また弁の後尖のテント化が何年か後に起こり弁置換で元気になられたという、苦い経験から辛口の討論をしてしまい、

あとで要求しすぎと反省してしまいました。

しかしこうした経験を皆でシェアする中でより優れた手術法を開発して行った経過から、

将来お役に立つ討論と位置付けて頂ければうれしいことです。

大阪医大の寺崎文生先生のサルコイド心のレビューは豊富な経験にうらづけられた優れたものでした。

 

症例の検討の間をぬって、お昼時に大動脈弁狭窄症の治療の新しい方向性について3つの観点から発表と討論がなされました。

池上総合病院の坂田芳人先生はPTAVつまりカテーテルによる大動脈弁形成を、

大阪大学の倉谷徹先生はTAVIつまりカテーテルで植え込む生体弁の話を、

そして榊原記念病院の高梨秀一郎先生は外科的大動脈置換術AVRの有用性を講演されました。

神戸大学の大北裕先生が座長で進んでいきましたが、同先生が所要のため神戸へもどるべく早退され、私が座長を引き継ぐ形で議論させていただきました。

侵襲ではPTAV、TAVI、AVRの順番で優れており、

治療の完成度の高さではAVR、TAVI、PTAVの順と考えられましたが、

今後のTAVIの展開によって治療戦略にも変化があるものと思いました。

また誰がTAVIを行うか、内科医か外科医かという議論のなかで、

やはりハートチームが内科外科麻酔科コメディカルをすべて含んだ形で行うのがベストというのが大方のご意見で、正当なものと感じました。

さらに、TAVIを行うハイブリッド手術室については、

手術室でカテ操作を行うほうがカテ室で手術操作を行うよりも安全性で勝ることをお示しし、

大方の賛同を戴きました。

 

それやこれやで丸一日、よくこれほど勉強ばかりやれるものだと感心するような充実したハートバルブカンファランスを無事終えて、

懇親会で楽しい時間を皆さん過ごされたようです。

私は他の公用のため懇親会は残念ながら失礼しましたが。

 

これまでにない新機軸の、内容ある研究会を立ち上げられた川副先生に感謝しつつ、

来年の研究会をさらに内容充実した盛会としたいと感じました。皆様ご苦労様でした。

 

2011年9月18日記

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第一回日本ローカーボ食(糖質制限食)研究会

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昨日、日本ローカーボ研究会(糖質制限食の研究会です)の第一回研究会(学術集会)が名古屋で開かれました。

 

立ち上げて間もない新たな研究会の、それも第一回集会とあって、

少人数で親しくアットホームにやろうと考えていましたが、

IMG_0013ふたを開けてみますと70名を超える方々のご参加があり、会場は満員の盛況でした。

 

今回は初めての集まりのため、世話人を中心として基調講演を行い、

そこからより多くの方々のご意見や次の活動へとつないでいこうというスタンスでした。

まずこの会の代表世話人である灰本元先生(春日井市の灰本クリニック)からご挨拶がありました。

 

基調講演は医史学と漢方内科の大家である安井廣迪先生(安井医院)で進められました。

Ilm15_bb02002-s まず(1)灰本クリニック 灰本 元先生が、ローカーボ食(糖質制限食)の現状と課題を概説されました。

8年以上の経験の中から築き上げて来られた安全なローカーボ食の方法が、

この1年間でさらに磨きがかけられたと感嘆いたしました。


ついで
中村 了先生(中京クリニカル)が

 (2)ローカーボ食(糖質制限食)の症例: 糖尿病と肥満について実際の治療経験の中からお話しされました。

プライマリケアと地域医療を熱心に進めて来られた中で、

ローカーボ食(糖質制限食)を無理なく患者さんが実践できるよう工夫されているのが良くわかりました。


名大名誉教授(生物学) 加藤 潔先生は

 (3)稲作民にとってのローカーボ食(糖質制限食)というテーマでご自身の20年以上の糖尿病対策のご経験を披露されました。

いかにも本物の学者らしい、緻密なデータの集積に感心しました。

CIMG1918 不肖、私(米田正始)は

(4)血圧管理へのローカーボ食(糖質制限食)の応用というテーマで、心臓外科医の立場からなぜローカーボ食に関心をもち、なぜそれを推進するようになったかをお話ししました。

まず名古屋ハートセンター心臓外科での実際の心臓手術事例を3例ほど提示しました。

患者さんの術後の苦痛をやわらげ早い社会復帰をうながすMICS(低侵襲心臓手術)ポートアクセス法)の実際を供覧し(写真はポートアクセス法での僧帽弁形成術のあとの創です、右乳腺のすぐ横にある短い線が創部です)、それがメタボの方の場合どのように難しくなるか、また術後もどういう対策が必要かなどを解説するなかでローカーボ食の意義をお話ししました。

さらに急性大動脈解離緊急手術で助かった若い患者さんが108kgの体重のままでは長期的な健康は守りきれないことからローカーボ食(糖質制限食)で肥満を減らす中で高血圧を改善する様子をお示ししました。

さらにオフポンプ冠動脈バイパス手術でカテーテル治療PCIではできないような長期安定した状態を示すなかで、二次予防のためローカーボ食(糖質制限食)でのメタボ改善が役立つことを示しました。

そのうえで実家の内科外来でローカーボ食で体重を大きく減少させるのに成功された患者さんのデータの中から、高血圧の治療への貢献を示しました。

Health_0110

小又接骨院 村坂克之先生は 

(5) 食事と飲酒前後の血糖値測定の体験というテーマで、実にユニークな講演をされました。

堂々としたご体格と酒のことなら何でも聞いて下さいといわんがばかりのお酒好きの先生が、

さまざまなお酒、たとえば赤や白のワインからビール、日本酒、焼酎、梅酒その他の飲用後の血糖値の変化を自らが被験者となって調べられました。

ワインは赤だけでなく白でも辛口なら血糖値はそう上がらないことや、焼酎やシャンパンも良いことが示されました。

しかし血糖値が上がる甘口ワインやビールなどのほうが酔い心地が強かったとされたあたりはお酒を心から愛する先生の想いが伝わり納得してしまいました。

Illust1447

最後に灰本クリニック 管理栄養士 篠壁多恵さんが(6)ローカーボ食(糖質制限食)の指導方法 というテーマで有効なローカーボ食指導の実際を紹介されました。

医師の講演とはまた一味ちがう、管理栄養士さんからの、実用性あふれるお話しでした。

笹壁さんはこれまで実によく勉強し毎日の医療の仕事から論文を含めた学術的ことまでこつこつと積み上げて来られた方ですが、

その努力の一部がよく見える充実した内容でした。

 

この会が今後、医師や医療、厚生省、製薬会社といった従来のパラダイムから、

さまざまな医療者、農水省、食品会社といった、

より幅広い枠組みで展開することを予想させてくれる内容でした。

 

IMG_0101基調講演のあと、安井廣迪先生の司会でパネルディスカッションが行われ、さまざまな質疑応答が行われました。

満員御礼の会場にはローカーボ食(糖質制限食)を医療の中ですでに実践しておられる先生方や栄養士さん、看護師さんらも多数おられ、

これからの大きな展開を予感させてくれる熱い雰囲気でした。

ご参加も名古屋市内各地はもとより東海地方全域、さらに関西や裏日本、中には下関から来て下さったかたもあり、うれしく思いました。

料理000679m

研究会のあと、懇親会が行われました。普通の研究会後の懇親会と違うのは、

ローカーボ食品(糖質制限食品)がメーカーさんのご協力で並べられ、実際に味見をしながら説明が聞けたことです。

まだlow carbo+high fatまでは熟し切れない傾向を感じながらも、

これからの展開が楽しみになる、すでに基盤はできつつあることを感じました。

 

ご参加の方々と直接お話ししていますと、従来の食事療法とローカーボ食(糖質制限食)が違いすぎて、なかなか受け入れられないのではないか、というご意見もあり、

実際糖尿病学会やそのジャーナルではローカーボは排斥される傾向があるようで、

いつの時代もパイオニアは大変だと思いました。

しかし患者さんが元気になるという結果が蓄積され、より多くの患者さんや市民が賛同・参加され、

より多くの医師・医療者・健康関係者が集うようになればおのずと道が拓けるように感じました。

 

昔ある先生から別件で教えられた、パイオニアの概念を以下に記します。

 

「10人の人間がいる中で新しいことをする人が1人いるとき、彼は単なる変わり者だ。誰も彼を相手にしないかも知れないし、迫害さえする人もあるかも知れない。

しかし新しいことをする人が3人になれば、少し事情は違ってくる。その3人はもはや変わり者ではなくパイオニアであり、他の7人は正常人というよりは時代遅れだ。

新しいことをやる人が5人になれば、残る5人はもはや焦りと不安にかられる存在に堕落するかも知れない」と。

 

良いものは良い、という信念をもちつつ、着実に結果を残して行く、

また従来の方法を実践する人たちを決して批判したり無視したりするのではなく、

一緒に勉強するというスタンスで進めるのが望ましいように思った研究会でした。

次回は半年後ですが、より多くの先生方・医療者・健康関係者の方々のご発表やご参加を頂けるのが楽しみです。

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学会の「ガイドライン」を考える

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さまざまな病気の治療を全国どこにいる人にも、高いレベルで正しく、かつ最適なタイミングで提供できれば、素晴らしいことと思います。読者の皆様も同感と思います。

 

Ilm01_bb02033-s この目的で作られているのがガイドラインです。

心臓病、心臓血管病の場合は日本では日本循環器学会というトップの学会が代表的な心臓病の治療や診断のためのガイドラインを作成しています。

アメリカ(AHAやACC)やヨーロッパ(ESC)にも同様のものがあり、

いずれもその国の心臓病・循環器疾患を代表する学会が、

多数の専門家が時間をかけて十分検討し、その時代の正しい医療の目安になる、立派なものです。

 

私自身、このガイドライン作成や評価にご指名にて委員として参加させて頂き、

これまで何度もご協力させていただいて参りました。

直接お目にかかる患者さんたちはもちろん、

お会いする機会もない全国のさまざまな心臓病患者さんにお役に立てる、光栄な仕事と思い、ご協力して来ました。

多数の専門家だけでなく、それ以外の専門家にも数名以上参加いただき、

時間をかけてダブルチェック、トリプルチェックして、内容的に万全を期するようにしてあります。

 

JCSguideline たとえば弁膜症の治療についても立派なガイドラインがあります(事例1事例2)。

これを念頭において治療方針を立てれば、的確かつ適切な、安全な治療ができます。

心臓手術を例にとっても、早すぎる手術つまり不急や不要な手術を避けることができますし、

逆に手遅れを回避することもできます。

 

世の中の医師には、循環器を標ぼうしている医師といえども、

このガイドラインを知らない、あるいは多少は知っていてもまじめに順守しない向きがあり、困ったことです。

そのために患者さんが的確な治療とくに心臓手術のタイミングを失い、突然死あるいはそれに近い状態で命を落とすというケースが後を絶ちません。

 

患者さんが適切なタイミングで手術を受けて、もしも不幸にして亡くなった場合、

それを心臓外科医の責任とするのは当然のことと思います。

そうした場合、心臓外科医は甘んじてそのご批判を戴き、

謝罪だけでなくしっかりとしたご説明をし、また改善策を示す義務があると思います。

 

その一方、患者さんを納得させられず、心臓外科医と相談する機会も得られず、

心臓手術の恩恵を受けることなく患者さんが合併症などでお亡くなりになるとき、

それは内科医の責任なのです。

決して患者さんや病気の責任ではありません。

こうした医師としての基本がわかっていない、そういう方がまだ世の中におられると聞きます。残念なことです。

 

Illust205 患者さんはまさにさまざまな悩みや人生を抱えた、生きたひとですから、

ガイドラインがそのまま適応しづらいこともあります。

しかしそれを十分に、わかりやすく説明し、

それこそ池上彰さんレベルのわかりやすさでお話し、考える材料を提供するのがプロの務めというものです。

またガイドラインを活かすためにさまざまな工夫をして患者さんから話や情報を聴きだすことも臨床医の基本です。

 

また専門家によっては自分の関心のないことに力を入れないというケースが少なからず見られます。

こうしたことは医療以外の、世間一般的にはある程度は個人の自由として認められていますが、病院や医療の世界では危険なことです。

 

医療は家電製品のように均一化がまだできていない領域ですつまり医療はまだまだ他の産業のような品質管理や均一化ができていない領域なのです。

これをひとは「医者選びも寿命のうち」と言われます。

残念ながら現在もそれは本当です。

 

患者さんや地域医療の先生方にあっては、病気の治療とくに心臓手術などの大きな治療を考えるとき、ガイドラインとともに複数の専門家のご意見を聴かれることをお勧めします。

同じ科でも複数の病院で意見を聴いてみる、

あるいは同じ病院でも内科と外科の意見を聴いてみる、

そうすることで、幅広い視野や十分な情報が得られ、安全性が確保されやすくなるでしょう。

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第2回名古屋ハートフォーラムのご報告と御礼

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昨日(平成23年6月4日)、第二回名古屋ハートフォーラムを名古屋市錦にある名東京第一ホテル錦にて開催いたしました。この会はもともと春日井ハートフォーラムとしてスタートしたものですが、多数のご参加をいただき、春日井だけではもったいない、もっと広域でやろうという声を頂いて、名古屋の会に発展したものです。

循環器関係の先生方だけでなく、循環器を専門としない一般開業医の先生方にもお役に立てるようにという趣旨しから、内容を吟味しました。

そして2部構成とし、第一回のときと同様に、前半は心臓血管外科の新情報を、後半は循環器内科の中から心エコーのお役立ちセッションとしました。灰本クリニックの灰本元先生の軽快な司会で研究会は進みました。

MICS3  まず心臓血管外科の情報として、私、米田正始が「心臓血管手術、低侵襲化への努力」ということで、最近私たちが力を入れている小切開の心臓手術(略してMICS、左図をご参照ください。左が従来の胸骨正中切開、右がMICSです)やステントグラフト(EVAR)、カテーテルで入れる大動脈弁(略してTAVI)をご紹介しました。

とくにMICS手術(ミックス手術、小切開低侵襲手術)は創がほとんど目立たないのと術後痛みが少なく社会復帰が早いため患者さんの評判がよく、ご参加の先生方にも関心をもっていただけたようでした。僧帽弁形成術それも比較的複雑なものや、難治性心房細動へのメイズ手術などの症例を提示しました。

ステントグラフト(EAVR)は内科と共同作業をする今日的な方法で、余病をもつ患者さんにも安全に大動脈瘤が治せるため、今後の展開が楽しみといわれました。TAVIはまだこれからの技術ですが、これによってこれまで手術・治療ができなかった患者さんを始め、さまざまなところでお役にたつものとして期待が集まりました。同時に、これまで力を入れて来た大きな手術や重症心不全の手術ももっと短時間で、患者さんの体力を温存しつつ手術する方法をご紹介しました。

循環器内科のほうでは、川崎医大循環器内科教授の吉田清先生に心エコーの基本講座を行って頂きました。これは6回連続の講義で、これをすべて学べば、心エコーの基本は習得できるとあって、多数の先生方の関心を呼んだようです。それに引き続いての実習セッションでは吉田先生と、その教室の尾長谷喜久子先生がコーチをやって下さった、参加者全員に実技練習して戴きました。

VScanEcho またVスキャン(左図)という、白衣のポケットに入る、しかも画像がきれいで精度の高い優れたエコーマシンでも実習していただき、会場は熱気に包まれました。こうした聴診器レベルの便利な器械を使いこなせば、プライマリケアでの循環器診療もさらに精度があがり、患者さんへの恩恵は大変大きなものがあると思いました。

循環器や心臓血管外科の話題にとどまらず、最近立ち上げたローカーボ食研究会の話題も出て、充実した楽しい会になりました。循環器道の大先輩であるSLクリニック(SL医療グループ)の中川喬市先生にもご参加いただき、光栄に思いました。

次回、第三回名古屋ハートフォーラムは8月27日土曜日午後4時半から開催されることになりました。場所は未定ですが、名古屋駅になるべく近い、便利なところを考えています。7月24日午後2時からの日本ローカーボ食研究会ともどもよろしくお願い申し上げます。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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