事例: ポートアクセス法の、やや複雑な僧帽弁形成術

Pocket

ポートアクセス法による僧帽弁形成術はまだまだ一部のエキスパートによる心臓手術で、どこでも安全に受けられる手術にまでは成熟していないと言われています。

しかしこのポートアクセス法に力を入れている施設の一部では、より複雑な僧帽弁形成術も安全にできるようになりつつあります。

私たちもこれまでの豊富な経験から、これは十分形成ができると判断した場合、それが比較的短時間にまとまるというめどが立てばポートアクセスでできるだけ行うようにしています。

こうした日々の努力によって、より多くの患者さんたちにポートアクセスやミックス手術の恩恵が行きわたるものと考えています。

術前胸部X線さて患者さんは67歳女性です。

労作時の動悸と呼吸困難感を主訴として来院されました。

検診で心雑音と心拡張を指摘されました。

近くの病院で高度の僧帽弁閉鎖不全症と診断され来院されました。

来院時、心尖部に4度の収縮期雑音あり、腋かへの放散が見られました。僧帽弁閉鎖不全症の所見です。胸部X線でも心拡大がありました(写真右上)。

術前心エコー当院での心エコーにて 高度の僧帽弁閉鎖不全症が確認され、駆出率も 54%とやや低下傾向が認められました(写真左)。

写真左上は左室長軸像で後尖の逸脱と瘤化が見られます。

写真左下はそのドップラー像で前向きに変位した逆流が見られます。

写真右下の4室像でも前向きの強い弁逆流が確認されます。

 
血液検査で ProBNP 1730と著明に亢進し、やや強い心不全が疑われました。

術前MDCT冠動脈、ABI には問題なく、

単純CTにて腹部大動脈、腸骨動脈に石灰化ありました(写真右)。

すでに症状のある高度の僧帽弁閉鎖不全症ですから、ガイドライン上、僧帽弁形成術の クラスI 適応として手術予定となりました。

患者さんとご相談のうえ、ポートアクセス法による僧帽弁形成術に決定しました。

手術1 三角切除x2手術では後尖のP1とP2と呼ばれるところに瘤化と逸脱、逆流による変化がみられました(写真左)。

P1とP2のそれぞれに、瘤化した部位を三角切除しました。

右上にそのシェーマを示します。

これは患者さんのご家族に術後、ご説明したときのメモの絵です。

その三角切除したP1とP2をそれぞれ縫合再建しました。手術2 後尖再建

かなり弁のかみ合わせは回復しましたが、その三角切除したP1とP2がまだ逸脱するため、

ゴアテック スの人工腱索をもちいて、P1とP2を左室側へ少し牽引しました。

それからリングをもちいて僧帽弁輪形成術つまりMAPを施行しました。

最後に生食を左室内へ注入して逆流試験を行いました。

手術5逆流試験OK逆流はほぼ消失しました(写真左)。

写真の左側は生食を左室へ注入したときのもので、前尖と後尖がしっかりとかみ合い、「もれ」つまり逆流はほとんどありません。

写真の右側は前尖を吸引管で押して弁を開くと多量の水が噴出し、しっかりと圧が左室にかかっていたことを示します。つまり逆流試験 術後心エコー合格です。

術後経過は良好で術翌朝には集中治療室を退室し、一般病棟へもどられました。

術後の心エコーをしめします(写真右)。

僧帽弁の逆流つまり僧帽弁閉鎖不全症はほぼ解消していました。

左上の長軸ドップラー、真ん中の3室像のドップラー、右上の短軸ドップラーのいずれも弁逆流はほとんど認めません。

術後胸部X線と創部写真術後1週間の胸部X線と、退院時の創部の状態をしめします。

創はあまり目立ちません、というよりちょっと見ただけではわかりにくいほどです。

痛みも少なく、迅速な回復にさらに役に立っているようです。

術後10日で退院され、お元気に外来に定期健診に来られています。

やや遠方からお越し頂いたのですが、それだけのメリットが提供でき、うれしいことです。やはり患者さんによろこんで戴けてこその医療ですね。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

弁膜症のトップページへもどる

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例: 視野出しがちょっと難しいポートアクセスの僧帽弁形成術

Pocket

ポートアクセスによる僧帽弁形成術はまだ一般の病院ではできない、先進技術です。

視野が狭く、ピンポイントで視野を作る必要があり、ピンポイントできないときには通常の正中切開に切り替えることになり、創が増えて通常より悪い仕上がりになるため難しいのです。

そこには経験が必要です。それもポートアクセス法の経験と、僧帽弁形成術そのものの経験の両方が必要です。

僧帽弁形成術じたいが、冠動脈バイパス手術などに比べて全国的に手術数が少なく、すべての心臓外科医が習得することが難しいと言われる領域ですが、その中でさらに習得しづらいのがこのポートアクセスでの僧帽弁形成術なのです。

このポートアクセス手術は難易度が高いため、何らかの医学的問題や障壁があれば、専門施設でさえ通常の大きな正中皮膚切開で手術を行うことが少なくありません。

しかしごく一部の選ばれた患者さんだけが恩恵を受けるようなポートアクセスでは、医療として不十分と考えます。

安全を確保し、技術的な課題はしっかりと解決し、より多くの患者さんのお役に立てればと私たちは考えています。

次の手術事例は、ポートアクセス法が使いづらいと言われているタイプの患者さんでした。しかし工夫と努力で安全を確保しながら患者さんのご要望にお答えすることができました。

 

患者さんは33歳女性です。

労作時の呼吸困難感を主訴として来院されました。

術前エコー短軸もとの病院で高度の僧帽弁閉鎖不全症が診断されており、手術の相談に来られたわけです。

明らかな症状をともなう高度の僧帽弁閉鎖不全症のため、日本循環器学会ガイドラインでクラスIの適応つまり、手術が強く勧められる、またその根拠がある状態でした。

この患者さんの場合は、それに加えて近い将来、妊娠出産を希望されての心臓手術のご相談でした。つまり手術で人工弁を入れる弁置換手術になってしまうと、機械弁つまり金属製の弁ではワーファリンという奇形を起こす薬が必須となるため妊娠が危険なものとなり、生体弁つまりブタやウシの材料で作った人工弁では妊娠中に劣化が早いという問題があるのです。

僧帽弁形成術だけがこの患者さんの希望を満たす方法であったわけです。

若い女性ですから、創も見えにくく、痛みも少ないポートアクセスは当然有力な選択肢として考えられました。

 心電図では正常リズムですが、しばしば頻脈発作や動悸が起こり、僧帽弁閉鎖不全症のための左房や左室の負担のため心房細動になり始めている可能性が考えられました。術前胸部X線

術前心エコーでは、僧帽弁前尖のA3と言われる、後交連部に近い部位が逸脱し、左房側に落ち込んでそこがかみ合わず逆流が発生していました。写真上は術前の左室短軸ドップラーを示します。交連部という、弁のヒンジの部分での逆流のため通常の角度からは見落としやすいタイプです。強い逆流が確認されました。

このA3の逸脱を人工腱索その他の方法で治せば、逆流は止 まると判断し、僧帽弁形成術を予定しました。
術前CT解析
しかし、診察および胸部X線で扁平胸みられました。つまり胸の前後径が小さい、要するに胸が薄いわけです。

こうしたケースではポートアクセス法はエキスパートでも通常よりは視野が確保しづらく、手術もやりづらいのです。

検討の結果、視野を出す工夫を重ねることで、手術が成り立つ可能性が大という判断で手術を決定しました。

人工腱索設置手術では確かに普通のポートアクセスの方法では僧帽弁が見えづらい状態でした。

そこで前もって準備していた道具で骨を軽く吊り上げ、スペースを確保して、さらに僧帽弁そのものを見やすく引出し、

それからゴアテックス人工腱索をもちいて僧帽弁前尖を正常の位置にもどしました。

写真右は術中写真です。その左上はゴアテックス人工腱索を後乳頭筋に刺入しているところです。

下中と右上は僧帽弁前尖に糸をかけているところです。合計4本の人工腱索がつきました。これで前尖の逸脱部分は逸脱なく正しく支持されます。

逆流試験とメイズ写真左は術中写真の続きです。

冷凍凝固によるメイズ手術の最中のものです。

術前に動悸発作がよく出ていたため、メイズ手術は術後の心房細動の予防に有益です。

生食注入による逆流試験でも僧帽弁の逆流はほぼゼロであることが示されました。

術後経過は順調で術翌朝には集中治療室を退室し、一般病棟へ戻られました。

その後、偶然脳静脈の合併症が発見され、ただちに連携している脳外科の先生と協力し対応、後遺症なく解決しました。チーム医療の時代ですが、地域のさまざまな病院と協力してのチーム医療も大変役立つことがあらためてわかりました。

患者さんは元気になられ定期検診にときどきこられます。

これから健康な楽しい人生を送って頂ければ幸いです。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

弁膜症のトップページにもどる

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例: 標準的なポートアクセス法の僧帽弁形成術

Pocket

ポートアクセス法はまだまだ普及するには至っていませんが、一部のエキスパートのいる病院では安全な標準手術の位置を確保しつつあります。

私たちも十分な準備のもと、2010年からポートアクセスを開始し、現在は日本でも一番積極的な施設のひとつになっています。

ここまでこのポートアクセス法での死亡例などはありませんし、これによる大きな問題もありません。

より高い安全性と手術としての質の高さをもとめて、内外の専門施設と協力して日々改良を加えています。

 

術前胸部X線さてここでお示しする患者さんは61歳男性です。

5年前から僧帽弁閉鎖不全症を指摘されていましたが、

7か月まえに失神発作を起こされ、併せて不整脈を指摘されました。

心臓手術相談のため米田外来に来院されました。

前立腺がんを3か月まえに指摘され、ホルモン療法を受けておられました。

そこでもとの病院のがんの主治医の先生と相談し、ホルモン療法が一段落したところで心臓手術するというタイミングがベストという結論に達し、数か月後に手術予定となりました。

手術前の胸部X線(右上写真)では心臓とくに左房の軽い拡張がありました。

術前エコーとドップラー心エコーでは僧帽弁前尖の逸脱と強い逆流(僧帽弁閉鎖不全症)が確認されました(左写真)。

写真の左上の左室長軸像では前尖の逸脱(左房側に落ち込むこと)がみられます。

写真中下の長軸ドップラーでは後ろ向きの逆流ジェットが見られ前尖逸脱に合致します。また吸い込み血流からも逆流の強さがわかります。

写真右上の4室像ドップラーでは僧帽弁の逆流ジェットが後ろ側へ飛び、左房後壁で跳ね返って前方までもどってきている、強い逆流所見が見られます。

左房、左室も拡張していました。

症状がある、高度の僧帽弁閉鎖不全症のため、日本循環器学会のガイドラインでクラスI適応つまり手術を強くお勧めできる根拠がある状態でした。

術中写真冠動脈CTなど、他検査でとくに問題なく、CTでも肋骨や心臓の位置がポートアクセス法の手術に支障ないことを確認しました。

手術ではまず第4肋間を小さく開けて、右肺をていねいに横へよけて、心臓に達しました(写真右)。

手術写真では小さい穴から僧帽弁を形成する様子がうかがえます。

 

心膜を、横隔神経から距離をおいて切開し、上行大動脈や上大静脈まで操作ができる視野を確保しました。

大腿動脈と静脈、右内頚静脈にエコーのガイドで管を入れて体外循環を開始しました。

僧帽弁は前尖がバサッと逸脱つまり左房側へ落ち込む状態でした。

弁尖が壊れていればそれ自体にも形成を加えるのですが、それは不要な所見でした。

そこでゴアテックス人工腱索を4本立ててA2(前尖中央部)を本来の位置にまでもどし修復する僧帽弁形成術を施行しました。

手術写真の右下ではゴアテックス人工腱索が取り付けられつつあるところが見えます。

術中逆流テストできれいな弁のかみ合わせと逆流ゼロを確認し、左房を閉じて手術を終えました。

術後3日目の創部写真なお手術中に、肋間神経ブロックを行い、術後の創の痛みが少なくなるようにしました。

手術翌朝には集中治療室を退室され、一般病棟へ戻られました。

術後3日目の写真を左に示します。

創も小さく、痛みも小さいことがうかがえます。

安全のために術後しばらくドレーンと呼ばれる管(くだ)を残しておくのですが、それが抜けたあとはバンドエイドが貼ってあるのが見えます。

術後エコーとドップラー術後1週間の心エコー(写真右)では逆流や弁逸脱はきれいに取れ、心臓もすでにかなり小さくなって順調な経過です。

術後エコー写真で左上の左室長軸像では前尖と後尖が逸脱なくきれいにかみあっていることがわかります。

写真中下の長軸ドップラーでは僧帽弁の逆流がほぼゼロになっていることを示します。

写真右上の4室像ドップラーでも僧帽弁の逆流はほとんどありません。

このポートアクセス法では骨を切らすにすみ、かつ痛みの神経(肋間神経)をブロックするため、ほとんどの患者さんで術後の痛みも軽く、短期間ですみますし、仕事復帰や社会復帰も早いです。

クルマの運転や、荷物の持ち上げ、棚まで乗せるなどの作業も、通常の胸骨正中切開の患者さんより数段早いです。

もちろん創が小さいため美容上の効果も優れています。

女性の患者さんはもとより、男性の患者さんたちにも喜ばれています。

この患者さんの場合は、がん治療が一段落し、がんが実質消えた状態にもちこんでからの計画手術でした。

その場合でも、早く元気な生活に戻れるとがんの再発予防のために役立つ可能性があります。体力がすぐに戻ればがん免疫も早くもどりやすいからです。

患者さんの他の病気や仕事・生活、心の創まで考えた医療としてポートアクセス法は役立つと思います。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちら

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

弁膜症のトップページへもどる

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例: 腹部大動脈瘤に安全のため通常手術を行ったケース

Pocket

腹部大動脈瘤の治療では、ややご高齢で全身の体力もそれほどない患者さんではなるべくステントグラフト(EVAR)が低侵襲ゆえ望ましいものです。

もちろん瘤の形や状態がEVARに適していることが条件です。

もしEVARで無理をして瘤が治らず、そのまま破裂すると、外科手術で腹部大動脈瘤の成績がきわめて良好な今日、大きな悔いを残すことになってしまいます。

そこでEVARに無理があるとき、効果が不十分と思われるときには外科手術を前向きに考えることがあります。

 

術前CT患者さんは76歳女性で

6年前に狭心症に対してカテーテル治療PCIを受けておられます。

またCKD(慢性腎機能障害)があります。

 

以前から指摘されていた腹部大動脈瘤が直径5cmを 術前CT側面超え、

瘤の拡張速度も速いため、治療することになりました。

ただし狭心症が再発していたこと、そして冠動脈の状態がカテーテル治療PCIに不向きなことから、オフポンプバイパス手術を行いました。

3本のバイパスグラフトはすべて開存で、患者さんは元気になられました。

そこで腹部大動脈瘤の治療をということになりました。

できればステントグラフトEVARでと考えていましたが、

両側腸骨動脈の状態が悪く、蛇行と石灰化そして狭窄が見られます。

ステントグラフトを下肢の動脈から届けることができない所見でした。

術後CT側面 術後CT正面そこで開腹し、瘤の部分を人工血管で取り換えました。

術後経過は順調で、人工血管は良い状態で安定し、

患者さんはまもなくお元気に退院されました。

術後1年が経ちましたが経過はおおむね良好で安定しておられます。

開腹手術といえども、創はなるべく小さくして患者さんの苦痛が少なくなるようにしました。

こうした患者さん個々の状態を考えてベストの治療を選ぶことが大切と考えています。

 

メモ: 最近の医療界では、大動脈に限らず、どの治療でも、それが「やれるからやる」というレベルを脱却して「患者さんに良いからやる」というレベルが求められるようになりました。

さらに申し上げれば「患者さんにベストだからやる」と科学的データにもとづいて判断するのが正しいと言えましょう。

 

Heart_dRR
血管や心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例:胸部大動脈瘤へのハイブリッドのステントグラフト

Pocket

胸部大動脈瘤の中には単純な一か所の瘤から、複数のあるいは広範囲の瘤もあり、その患者さんに応じたベストな治療法、手術法が大切です。

心臓血管手術のなかでもやや大きめのものになりますので、十分な考察と戦略が求められます。

近年のステントグラフト(略称EVAR、胸部の場合はTEVAR)はこうした治療にも役立つことが多くあります。

ステントグラフト単独で、あるいは心臓血管手術と併用(いわゆるハイブリッド治療)で、あるいは手術単独で、などの中からその患者さんにとってベストのものを選ぶ時代になりました。

 

患者さんは79歳男性で、高血圧症をはじめ、さまざまな生活習慣病をお持ちでした。

術前CT弓部大動脈瘤と下行大動脈瘤のため手術が必要という判断になりましたが、近くの病院の小さいチームでは不安と私の外来へ来られました。

たしかに弓部大動脈瘤が大きくなり、瘤が二段になって危険な所見でしたし、下行大動脈瘤も長くは無視できない状態でした。さらに腹部にも小さい大動脈瘤がありました。

かつてはこうした瘤は、患者さんの年齢や体力などを考慮して、必要なら一気に全部を人工血管で置き換えるなどして治したものですが、患者さんの体への負担は少なくありません。

とくに79歳の比較的ご高齢の患者さんではその負担は無視できません。

そこでまず弓部大動脈全置換術を前からのアプローチで行いました。

術後CTこれはすでに確立した安全な方法、選択的脳灌流という方法をもちいて、脳を守っている間に下行大動脈に人工血管をつなぎ、全身の血流再開ののち、上行大動脈を人工血管でつなぎ、最後に弓部大動脈3分枝を上記の人工血管と連結すれば完成です。

これによって25℃程度の中等度の低体温で手術ができ、止血にもあまり時間がかからず、体への負担も小さくすみました。

もう少し体温を上げれば、さらにスピードアップが図れるのですが、選択的脳灌流の最中の脊髄保護を確実にするために、私たちはあまり温度を上げ過ぎないようにしています。

そのおかげか、手術で脊髄などがやられたことはありません。

術後経過は順調で、術後2週間を待たずに元気に退院されました。

EVAR後術後3か月経って安定したところで、こんどはステントグラフトで下行大動脈から2つめの瘤、さらに上記の手術でつけた人工血管までをすべて内張りをつけるように治しました。

こうすることで創を一か所にとどめ、出血や苦痛もより少ない状態で手術が完成しました。

手術からまる2年がたち、お元気に暮らしておられます。

腹部にも大動脈瘤ができており、現在直径44mmのため経過観察しています。

将来必要が生じればそれもなるべくステントグラフトEVARで治したく思っています。

 

高齢化社会を迎えて、広範囲の胸部大動脈瘤も増える傾向にあります。

ステントグラフトのうまい活用で、こうした患者さんの心臓血管手術成功率を上げ、さらに体の負担を減らすことでより早い社会復帰を促すように工夫しています。

Heart_dRR
血管や心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

 

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例: 慢性大動脈解離への自己弁温存式大動脈基部再建手術(デービッド手術)

Pocket

慢性大動脈解離つまり大動脈解離のあと、手術を受けても月日が経って、手術以外の部位が膨らんで瘤(大動脈瘤)になることがあります。

いくつかのパタンがありますが、いずれにせよ、瘤が破れれば死亡しますし、そうでなくとも、場所によっては大動脈弁が瘤の影響を受けて弁膜症さえ合併することがあります。

つぎの心臓手術の事例はそうした慢性大動脈解離のケースです。

胸部XP
患者さんは51歳男性で、8年前、急性大動脈解離のため、近くの病院で上行大動脈置換術を受けられました。

それからはお元気に生活しておられましたが、徐々に大動脈基部つまり大動脈の一番根本の部分が拡張し瘤になったためハートセンターの米田外来へ来院されました。

胸部X線写真(右写真)ではかつての解離の跡かたで弓部大動脈大動脈がやや突出して見えましたが他には異常所見ありませんでした。

PreopCT2造影CT(左写真)にて以前手術を受けられた部位つまり上行大動脈は人工血管で安定していましたが、その根本の、大動脈基部とくにバルサルバ洞と呼ばれるふくらみ部分が直径60mmと異常に拡大し、破れそうになっていました。

さらにその基部の拡張のため、そこに付いている大動脈弁が閉じられなくなり、大動脈遮閉鎖不全症つまり逆流が発生し始めていました。

そこでガイドラインに沿って、瘤の破裂や弁膜症を防ぐため手術をすることになりました。

手術では以前の手術で人工血管が使われているため、その人工血管と周囲の組織との癒着が強く、そのままでは心臓や大動脈の中に入れないため、丁寧に剥離を進めました。あとで出血しやすい状況のため、入念に止血しながら進めました。

AvalveOKそして体外循環という、一種の人工心臓を回して安全確保ののち、心臓を止めて、大動脈と心臓の中に入りました。

まだ51歳とお若いご年齢のため、人工弁をもちいるベントール手術ではなく、患者さんご自身の大動脈弁を温存・修復してきれいな形にまとめつつ、大動脈を人工血管でとりかえるデービッド手術を行いました(写真右)。

米田の恩師・デービッド先生に直伝して戴いた方法にその後の磨きをかけた方法で手術を進めました。

PostOpCT無事、人工血管の中に患者さんの大動脈弁が入り、逆流なくきれいに開閉し、かつ左右冠動脈の根本部分も人工血管につないで修復は完成しました。

術後のCTでは大動脈基部はきれいに安定し、もはや破れる心配は消えました。大動脈弁の逆流も解消し、心機能も良好でした(写真左)。

手術後10日でお元気に退院されました。

術後まる2年が経ちましたがお元気に定期健診のため外来へ来られます。

この手術のおかげで、ワーファリンは無しで、かつ長期間の安定が期待でき、再手術の見込みはかなり低いと考えられます。

つまり機械弁をもちいたベントール手術では大動脈基部の安定は図れても、ワーファリンが一生必要ですし、生体弁をもちいたベントール手術では基部の安定やワーファリン無しはできても、10年あまり後に再手術が必要となります。

やはり親からもらった自然の弁を活かしつつ、大動脈のみ人工血管に代える手術が望ましいわけです。

今は外来に定期健診にてお元気な顔を拝見するのが楽しみなこのごろです。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらへどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

大動脈解離の手術のページにもどる

大動脈基部の手術のページにもどる

 

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例: 大動脈弁形成術を行った10代の患者さん―弁置換と比べると利点は

Pocket

若い患者 Ilm18_aa03009-sさんたとえば10代から30代の方々にとって

弁膜症に対して弁形成術ができるか、弁置換術になってしまうかはおおごとです。

 

というのは若いゆえに、人工弁ではさまざまな問題がおこり得るからです。

たとえば生体弁では60代の患者さんの場合ほど長持ちしませんし、

機械弁ではワーファリンという血栓予防の薬が一生涯必要なため、

毎月病院で血液検査を受けるという不便さを一生抱えることになってしまいます。

弁形成がばっちり決まればワーファリン不要で、かつ長持ちしやすいのです。

 

この弁形成術のメリットは僧帽弁形成術でまず明らかになりましたが、

大動脈弁形成術でも同様になりつつあります。

 

Preop3CVD Preop3D 患者さんは19歳の男子大学生で、

健康診断で重い大動脈弁閉鎖不全症

(つまり弁の逆流です)

が診断され、精密検査の結果、手術を勧められました。

 

左図は手術前の心エコー・ドップラー画像です。

高度の弁逆流が見られます。

右図は3次元エコーで二尖弁とその性状がわかります。

 

それから患者さんはみずから勉強し、私のホームページを見つけてハートセンターへ来院されました。

大動脈弁は二尖弁で、高度の逆流が発生し、

心臓に負担がかかってきていました。

ご本人とご両親と何度か相談した結果、大動脈弁形成術でがんばろうということになりました。

 

手術では、まず上行大動脈が細くなっていました。

 

ExamineAV 体外循環つまり人工の心臓をスタートし、

心臓を眠らせてから大動脈を開けました。

 

大動脈弁は無冠尖と左冠尖が一体化した二尖弁で、

無冠尖+左冠尖が落ち込んだために逆流が発生していました(左図)。

 

そこでこの落ち込んでいる弁尖の中央部を三角切除し、

肥厚した弁組織を活用して再建しました。

大動脈弁はほんらい、かみ合わせが少なく、

かつ高い圧がかかるため形成は難しいという一面があります。

 

そこでそれらを考慮し、組織の耐久性や無 RepairDone AVopenOK 理なストレスがかからないデザインを意識して形成しました

(左図は弁形成のできあがり)。

 

大動脈基部そのものが小さいため、弁輪縫縮(形成)などは行わず、

また生体弁を入れると不十分なサイズのものしか入らない状況のため、

一段と弁形成術がこのましいと考えられました

(右図、弁形成のおかげで十分な開口が確保されました)。

 

弁のかみ合わせをさらに改善するためもあって、

上行大動脈を調整・縫縮しながら閉鎖しました。

 

心臓は活発に動きを再開し、体外循環を容易に離脱しました。

Postop3CVD PostopLA 術後の心エコーにて軽微な大動脈弁閉鎖不全が見られましたが

(左図)、

弁のかみ合わせや形もきれいで(右図)、

まずまず良好な結果でした。

弁形成のおかげで弁のサイズでも十分なものが確保されました。

術後経過も順調で、術後9日目に元気に退院されました。

 

あれから3年経ちますが、お元気で定期健診に外来へ来られます。

心臓ホルモンであるProBNPは35と正常で、大動脈弁、左室も良好です。左室径LVDdは48.6mm、駆出率66%と正常です。

もちろんワーファリンなしです。

ご両親も喜んで下さり、患者さんらと定期健診でお会いするのが楽しみです。

 

大動脈弁形成術は若い患者さんが心不全や病院通いの重圧から解放されて

学生らしい青春時代を送るために役立つことでしょう。

ちなみにこの患者さんのお母様からの感謝状を頂いたので

お便りのコーナーにアップしました。ご参考になれば幸いです。

 

MICS-AVRorAVPまた私たちの経験では、大動脈弁形成術はその後も進化を続け、

自己心膜を活用して弁のかみ合わせや安定度を向上させたり、

ミックス手術(MICS、たとえばポートアクセス法)(図の真ん中)を適宜もちいて、

より小さい創で早い社会復帰を促すなどを行っています。

図の左は通常の心臓手術の皮膚切開、右は正中からのMICSでの皮膚切開です。

今後さらに発展する領域と思います。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

大動脈弁形成術のページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例: デービッド手術を受けたマルファン症候群の患者さん―安心生活へ

Pocket

マルファン症候群の患者さんは結合組織が弱いため、

大動脈や弁がしばしば壊れます。

また同じ原因で目が強い近視になったり背骨が曲がったりすることがあり、

きちんとした予防や定期健診などによる早期発見、早期治療が大切です。

また日頃から勉強や相談をして病気の理解に努め、

いざという時に備えることが長期の安全に役立ちます。Ilm16_ad03009-s

 

次の患者さんも定期健診の中から、次第に大動脈の基部が拡張し、

ガイドラインを満たすサイズになったところで

十分な医学的準備と心の準備のもとに心臓手術を受けられ、

心配を解決し、妊娠出産などの人生の次のステップへのスタートとされました。

 

PreopCT 患者さんは34歳女性でマルファン症候群のため脊椎側彎をもっておられます。

大動脈基部が次第に拡張し直径50mmに達したこと、

さらにそのために大動脈閉鎖不全症が起こりつつある状態から

デービッド手術という患者さんご自身の大動脈弁を温存する大動脈基部再建手術をすることになりました。

 

最近結婚され、妊娠出産をご希望という事情もあり、

デービッド手術のあとなら大動脈解離などが起こりそうな部位もなく、

かつワーファリンも不要なため、

じっくり相談の上、このタイミングで手術することになりました。

手術では、体外循環・大動脈遮断下に上行大動脈を横切開し、

 
PreopEchoLAx 大動脈弁が3尖とも長期間使えるだけの質を持っていることを確認し

デービッド手術に適していることを確認しました

(手術写真は準備中です)。

 

まず大動脈弁輪のすぐ下に糸をかけ、

人工血管が弁輪をも守れるようにします。

人工血管に微調整の切れ込みを入れてから大動脈基部の外側へ落とし込みます。

サイズの調整を正確に行い弁の構造に無理がかからないようにします。


人工血管の内側で3つの交連部を適切な高さに吊り上げて、これを固定します。

そして弁のすぐ近くの大動脈組織を人工血管に隙間なく縫い付けて弁の再建は完成です。

水テストや心筋保護液注入テストで弁に漏れがないことを確認します。

必要があれば弁尖の形成を追加します。


ここで左ついで右の冠動脈入口部を人工血管に小穴をあけてそこへ縫い付けます。

冠動脈がねじれたり折れたりしないように工夫しています。

冠動脈入口部の吻合に漏れがないことを確認し、

人工血管を上行大動脈の遠位部と連結して操作は完成です。

PostopCT 術後経過は順調で、出血少なく、

心不全や不整脈もとくに無く、

術翌日には一般病棟へ戻られ、

心臓リハビリ(運動)ののち、術後 1週間あまりで元気に退院されました。

 

心臓手術からまる2年が経ちました。

お元気にしておられ、心臓も大動脈も安定しています。

 

今後も外来でフォローアップ・健康診断を行いつつ、

長期的な安全対策とくに脊椎の治療などを専門医と相談しながら検討しています。

大動脈の他の部位は現時点でまったくきれいなため、予防策もより効果が期待できます。

 

大動脈基部拡張症の患者さんとくにマルファン症候群や大動脈二尖弁の患者さんは

大動脈壁が構造的に弱いため、破裂や解離などへの注意や対策が必要です。

逆に、こうしたことを注意しておけば安全性は大きく高 PostopEchoLAx まります。

この患者さんの場合はデービッド手術によって妊娠出産の安全性が高くなり、

より安心した人生の設計が立てられるようになりました。


このデービッド手術は大動脈基部がもっと拡張し、

大動脈弁閉鎖不全症(つまり弁の逆流)が強くなってからでも可能な手術です。

しかし高度の逆流になってあまり弁が壊れてから形成するよりは

まだ比較的良い状態が保たれているうちに弁を守る手術をするほうが長期的に有利です。

そうしたことは患者さんやご家族の方々とのきめ細かい相談によって解決できるのです。

David & Bentallメモ: ベントール手術でも生体弁をもちいたものであれば、

このデービッド手術と同様のことができます。

ただしその場合、妊娠出産によって生体弁が急速に劣化し、

数年後に再手術となることもあり、

この点でデービッド手術は有利です。

自然の弁はカルシウムなどを自ら掃除するちからがあるからです。

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

大動脈基部拡張の手術のページへもどる

マルファン症候群のページへもどる

 

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例:川崎病のあと、冠動脈瘤の患者さん

Pocket

PreopCAG1川崎病そのものは

ガンマグロブリン療法その他の治療法が確立したおかげで

患者さんたちは早期発見・早期治療を受ければ安全安心な生活を続けられるようになりました。

しかし冠動脈瘤をはじめ、冠動脈とくに内膜に傷がつくと長期的に注意が必要です。

 

   手術事例、患者さんは34歳男性です。

 

7歳のときに川崎病を患われましたが回復されました。

PreopMDCTその後、何度か心臓カテーテル検査を受け、冠動脈瘤を指摘され定期検診を受けていました。

 

このところ検診を受けずに元気に暮らしておられましたが、

1か月前に地下鉄の階段を上がるとき息苦しくなり近くの病院を受診されました。

そこで狭心症の疑いとなり当院へ紹介されました。

 

検査の結果、冠動脈瘤と冠動脈の狭窄が数か所見つかり(写真上左と上右)、

冠動脈瘤の部分を中心に石灰化も強いため、

カテーテル治療(PCI、ステント)よりも冠動脈バイパス手術が適しているという判断で手術となりました。

 

PostopCAG1手術は体外循環を使わないオフポンプ冠動脈バイパスを行いました。

 

   まず左内胸動脈を左前下降枝ついで対角枝に取り付け(術後写真左)、

さらに右内胸動脈を中間枝に(術後写真右)付けて完了しました。

 

良好な血流パタンと良好な心機能を手術中に確認して手術を終えました。

 

PostopCAG22枚の写真は術後1週間後の冠動脈造影のものです。

術後経過良好で外来フォローとなりました。

 

心臓手術からまる2年が経ちました。

お元気で定期健診のため外来へお越しになります。

術後2年の冠動脈CTでもバイパスグラフトはすべてきれいに開存していました。

 

川崎病の患者さんの冠動脈内膜は傷がついていることがよくあり、

こどもの間以上に大人になると注意が必要です。

普通の生活習慣病以上のスピードで動脈硬化が進む懸念があります。

しかしできるだけの予防、定期検診、早期発見によって安全を確保することはできるでしょう。

いざ冠動脈が危険レベルにまで狭くなった場合は、そのパタンにもよりますが、

冠動脈バイパス手術が役立つことが多々あります。

 

川崎病の患者さんの血管内膜は壊れていることがあり、そこでは動脈の硬化や狭窄が進みやすいのですそれは冠動脈の内膜は川崎病や瘤のために壊れていても、

内胸動脈の優れた内膜(強力な動脈硬化抑制作用があります)のおかげで冠動脈や心臓が守られるからです。

 

こどものころに川崎病の既往のある方、

とくに冠動脈瘤と言われたことがある方は川崎病を熟知した専門医にご相談下さい。

 

Heart_dRR
心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

川崎病の成人期の冠動脈疾患のページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。

事例 腹部大動脈瘤へのステントグラフト 2 ―楽に治せます

Pocket

腹部大動脈瘤の治療法としてステントグラフト(略称EVAR)が進歩しつつあります。

これまでの手術法もさらに磨きがかかり、

安全性と完成度、長持ち度が増し、皮膚も小さく切るだけになっていますが、

ステントグラフトも進化しています。

 

Preop 患者さんは55歳男性で腹部大動脈瘤が大きくなってきたため、

近くの開業医の先生からのご紹介でハートセンターへ来院されました。

 

拝見しますとこの半年間で直径が42mmから47mmまで大きくなり、

現在はとくに症状がなくてもこのままでは早晩破裂してしまう状況でした。

Postop

従来型の手術でも小さい皮膚切開で安全に治せるのですが、

この患者さんは以前に脳出血を起こされたこともあるとのことで、

できるだけ体への負担が少ない方法が良いという判断で、ステントグラフトで治療することにしました。

 

  右図のようにきれいにステントグラフトが腹部大動脈瘤を閉鎖し安定しました。

患者さんは翌日から普通に食事も再開され、まもなく元気に退院されました。

ステントグラフト手術から2年が経ち、CTにて瘤の消失が認められました。

大変良い経過です。

 

この所見であれば長期的な安定度もよさそうですが、

油断なく、定期健診で安全安心を確保していく予定です。

 

ステントグラフト(EVAR)は通常のリスクより長年月の安定度がまだ不明な面がありますが、

このようにリスクをもった患者さんに役立つ治療法です。

また長期の安定度も改善しつつあり、

今後の研究成果が期待されています。

 

Heart_dRR
血管や心臓手術のお問い合わせはこちらまでどうぞ

pen

患者さんからのお便りのページへ

 

ステントグラフトのページにもどる

Pocket

----------------------------------------------------------------------
執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
----------------------------------------------------------------------
当サイトはリンクフリーです。ご自由にお張り下さい。