事例 ちょっと変わった僧帽弁形成術

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患者さんは26歳女性。

活動期の感染性心内膜炎( IEと呼びます)に対して僧帽弁形成術を施行しました。

4111.細菌感染のため破壊された僧帽弁の前尖・後尖が見えます。

最初は前尖から発症したものと考えられますが、感染があちこちに波及して破壊された部位がいくつも見られました。

若い女性の患者さんですので、通常以上に(人工弁による弁置換ではなく)僧帽弁形成術を行う意義が大きいため、じっくり形成をしすることにしました。

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42_22.上記の感染部をひとつ一つ (僧帽弁前尖、後尖、弁輪それぞれに) 切除・再建・形成し、

感染部を完全に切除するとともに弁が確実にかみ合い、逆流が再発しないようにしました。

普通の僧帽弁形成術と違うのは、感染組織を徹底して摘除することと、それを確実に再建すること、糸やリングなどの異物はなるべく使わないか、感染の無い安全な部位での使用に限定することです。

リングをつけて逆流も止まりました

 

431_23.逆流試験OKです。

これでほぼ手術完了です。

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444.心エコーで見ても弁は正常化し、その後5年以上経っても感染再発ありません。

弁形成術によりこの患者さんはワーファリンが不要となります。普通の妊娠・出産なども可能になりますし、生活や仕事もより病気離れした形になります。

外科医として患者さんの人生をお助けできるほどうれしいことはありません。
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今後妊娠出産を考えておられる女性や、格闘技などの激しいスポーツを続けたい男性、あるいは毎月の通院を忘れて仕事等に没頭したい人たちには弁形成術は極めて有効です。

人工弁(機械弁)はずいぶんよくなりましたが、まだQOL(生活の質)においては弁形成には及びません。

僧帽弁形成手術の弱点は、必ずしもワンパターンの手術ではなく、豊富な経験と深い研究・考察が求められるため、一通り修練すればどの心臓外科医でもできるという手術ではないことです。

僧帽弁形成術が複雑になればなるほど、経験量の差がものを言うのでます。

さらに現在ではポートアクセス法などのミックス手術つまり創が小さく、骨も切らずにできる心臓手術で痛みも軽く、仕事復帰も早く、心の創もちいさくできるようにしています。若い女性患者さんにはとくに適していますが、男性にも、そしてご高齢の方にも喜ばれるのは人間みな美しいものを愛するのは同じだからと思います。

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例 大動脈弁形成術

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患者さんは17歳男性。

大動脈弁閉鎖不全症 III-IV度、二尖弁です。

患者さんの年齢や希望を考慮して大動脈弁形成術を施行しました。

8年後も健康な日常生活を送っています。

 

81_21.III度以上の大動脈弁閉鎖不全症が認められます。

高校生で機械弁の大動脈弁置換術AVRは毎月病院通いとなるのはかわいそうですし、

生体弁は成長期でカルシウムの代謝が盛んなため長持ちしません。

 

ロス手術では肺動脈弁のホモグラフトが日本では入手困難という問題と長期成績に疑問のデータもあるため選択肢からはずしました。

大動脈弁形成手術がこの患者さんに最も適切な術式との判断に至りました。

 

822.大動脈弁尖の余剰部分を形成するため評価とデザインをしているところです。

弁の形を直すことは難しくないのですが、それが長持ちするように、耐久性のあるものにすることは、必ずしも簡単ではありません。

組織そのものが弱い、あるいは病気で壊れていることがしばしばあり、肉眼では見えないレベルの病変も少なくないからです。

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83_33.交連部の形成中です。

この患者では交連部に小穴があいていたため、

弁中央部ではなく交連部で形成し、

穴の部分を補強しました。

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844.問題にならない程度の軽微な逆流のみ残し大動脈弁形成は完了しました。

もうすぐ術後10年になり、この大動脈弁形成術は患者さんに役立ったと言えるかもしれません。

青春時代をワーファリンなしで行けるというのは様々な点で患者さんに大きなメリットがあります。

 

現在ゴアテックス糸を用いた弁の形成・補強や自己心膜・ゴアテックスをもちいた弁の補充その他の工夫が報告されています。

まだ僧帽弁形成術ほどの完成度には至っていませんが、わたしたちも海外の仲間たちの経験と私たちのこれまでの大動脈弁形成術のデータを突き合わせ、より安定度の良い自己心膜による弁形成術を進めています。


それと並行して、ポートアクセス法(創が小さく仕事復帰も早いです)をもちいて大動脈弁形成術や大動脈弁置換術を行うことも推進しています。患者さんはご自身の仕事や生活にもっとも適したものを選べるわけです。

今後さらなる進展が望まれる領域です。

 

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事例 複雑な僧帽弁形成術

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31_2患者さんは58歳男性。

僧帽弁前尖・後尖の逸脱と前尖の瘤化による僧帽弁閉鎖不全症に対して僧帽弁形成術を施行しました。

Barlow病(バーロー病またはバーロー症候群)つまり組織が弱く弁全体が伸びて変化する病気に近い状態でした。

 1.

体外循環下に左房を右側から切開して僧帽弁にアプローチしました。

僧帽弁をしっかりと見ることのできる術野を出すことが良い手術を行う第一段階となります。

前尖(弁の一部)の腱索が切れ、その断端が見えています。311_11

 

さらに長期間の逆流による二次的変化も加わったためか、前尖は伸びきって瘤のようになり、後尖も腱索の伸展を合併して逸脱しています。

弁葉(リーフレットと呼びます)は柔らかさが十分保たれているため、僧帽弁形成術の適応と判断しました。

複雑弁形成ではありますが、患者さんの強いご希望もあって、弁形成術を行うことにしました。               

 

322.

まず後尖の逸脱部分を切除再建するところです。

パリのCarpentier先生が確立した僧帽弁形成術である四角切除法を行い、その部の弁輪を再建してから弁葉も再建しました。

弁葉が余り過ぎている場合は三角切除を活用するケースもあります。

弁葉の再建に使う糸の結び目にも注意を払います。

前尖と接触する部位の後尖の再建では結び目が左室側にできるようにし、長期間の弁の保護を図ります。

これはEBMに基づいた考えです。


333.

前尖の強い病変部を切除し、多数の人工腱索を立てているところ。

 

前尖のほとんどが支えを失って逸脱していたため、合計8本の人工腱索を立てて、前尖全体がかみ合うようにしました。

複雑な僧帽弁形成術には、こうした方法以外に、後尖の腱索を移動させる方法や伸びた腱索を縮めて使う方法その他さまざまな方法があります。

私は病気の可能性のある腱索を使わないことと、後尖に新たな病変を作らないことを基本方針とするため、人工腱索を好んで用いています。

実績あるアメリカのクリーブランドクリニックのデータで病気のある腱索を短縮する方法は良くないことが示されており、私自身、人工腱索はトロント時代から20年近い経験を持っており、すでに10数年以上の長期成績が良好であることが示されているのも理由の一つです。

 

344.

リングをつけた後、水を注入して逆流が無いことを確認(逆流テスト合格) 白い帯状に見える物がリングです。

 

このケースではDuranリング(柔軟リング)を用いました。

僧帽弁形成術で広く使われている逆流試験(生理食塩水を左室に注入して逆流の有無を調べます)にはいくつかのピットフォール(落とし穴)がありますので、それを十分考慮にいれて弁の状態を評価します。

 

351_235115.術前エコー・ドップラー。

前尖後尖の逸脱と弁の肥厚・瘤化、複数の病変のため複雑な逆流(矢印)が見られていました。

                                    

6.術後エコー・ドップラー。逆流は消失し僧帽弁の形も改善しました。3612_2

3611これによって僧帽弁形成術後、長年月の健康な生活が期待されるようになりました。

ワーファリンも不要で病院にも定期健診程度の通院で済むようになりました。

この患者さんのような複雑僧帽弁形成例ではさまざまな方法をその患者さんの特徴に合わせて選択し駆使することで良い結果が得られます。

ひとつのオーダーメイド治療と言えるかも知れません。

 

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事例 やや複雑な僧帽弁形成術

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患者さんは55歳女性。

僧帽弁前尖の腱索断裂による逸脱のための弁閉鎖不全症に対してゴアテックス人工腱索と僧帽弁輪形成術(MAP)を組み合わせた僧帽弁形成術を行いました。

また慢性心房細動に対してMaze(メイズ)手術を併せて施行しています。

21_31.僧帽弁前尖の腱索が断裂し(矢印、ピンセットで断裂した腱索を引いています)、前尖は強く逸脱しています。

前尖そのものの変形や変化は軽いため、腱索を人工のものに変えるだけで弁の逆流は解決できると判断しました。

私は1988年から僧帽弁形成術の際に人工腱索(ゴアテックス製です)をトロント大学のDavid先生のご指導で使用しており、20年のノウハウ蓄積があります。.

22_22.前尖に人工腱索(矢印)を刺入したところです。

この人工腱索の適切な長さの設定が手術成績を左右する重要項目です。

この術式はさらに進化を遂げ、人工腱索のフォローアップが10年を超えたことを受けて、現在は必要があれば12本まで人工腱索を立てて僧帽弁を再建するようにしています。

つまり弁葉(弁のひらひらした部分)さえ大丈夫なら、腱索は全部だめな状況でも弁形成はできるというわけです。

 

23_33.僧帽弁輪形成 (MAP) のリングを取り付けているところ。

これは長期成績を改善する上で極めて重要です。

僧帽弁形成術に使うリングには硬いタイプと柔軟なタイプ、全周性とそうでないもの、患者さんの心膜使用のものなどがあり、適宜選択しています。


24_34.左室へ生理食塩水を注入しても弁逆流なく、弁を押して逆流することを確認(逆流試験OK)。

これで僧帽弁閉鎖不全症は解消しました

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25_35.肺静脈隔離術のあと僧帽弁輪周囲部を冷凍凝固(矢印がその器具)して心房細動を治しているところ。

これをメイズ手術と呼びますが、肺静脈隔離術単独よりも効果が高いことが本家Cox先生などから報告されています。

現在はさらに強化した方法をもちいています。

通常のメイズ手術が効きにくい巨大左房の患者さんや心房細動期間が10 年ー20年を超える患者さんでは心房縮小メイズ手術を開発し、十分除細動が可能な状況になりつつあります。

左上に僧帽弁輪形成(MAP)のリングが見えます。

僧帽弁形成術の良さの一つは手術のあと、血栓ができる心配が少ないため、ワーファリンを飲まずにすむことです。

しかし僧帽弁の患者さんはしばしば心房細動を手術前にもっておられ、それをそのままにしておけば、せっかくの手術の後もワーファリンを飲む必要が生じます。

そうすると年1-2%の割合で脳出血や脳梗塞などの合併症がおこってしまいます。

そこで僧帽弁形成術にメイズ手術それもより効果的なものを行う意義ができるわけです。

心房細動を治してこそ、弁形成術の意義が100%に高まります。

 

さらにこの程度の僧帽弁形成術なら現在はミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)で形成し、術後のすみやかな社会復帰を促進しています。

創も小さく、見えにくいため若い患者さんたちにはとくによろこばれています。

 

メモ: 形成にもちいるリングや人工腱索(糸)は人工物ですが、人工弁とは違うのですか? と聞かれることがあります。

お答えは: 人工弁とはまったく違います。

リングや糸は手術のあと、まもなく患者さんご自身の組織が張ってなめらかになり、患者さんご自身の組織のような形になります。

そのためリングや糸のためにワーファリンが必要になることはありません。

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事例 典型的な僧帽弁形成術

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患者さんは39歳女性。 後尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症

海外(フィリピン)のご出身で将来もしもの帰国などの場合の安全性も考え、僧帽弁形成術が極めて意義ある状態でした。もし僧帽弁置換術になってしまうとワーファリン(血栓予防剤)のお薬が一生必要となり、国や地域によってはきちんと使えず危険なことになりかねないからです。

11_71.  僧帽弁後尖の一部が伸びきって だらだらになっています。

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典型的な後尖逸脱による僧帽弁閉鎖不全症です。

前尖は問題ないという所見でした。僧帽弁形成術のもっともやりやすい、良い適応といえましょう。

現在ならミックス手術(MICS、小切開低侵襲手術)とくにポートアクセス手術で小さい皮膚切開ごしに行い、早い社会復帰を促すケースでしょう。


12_52.  伸びきった後尖の一部を切除 (矢印)しているところです。(憎帽弁四角切除術)

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これは30年以上の長年の歴史と実績がある方法で、一旦弁の逆流が止まれば僧帽弁形成術として良い結果が長持ちします。

 

 

 四角切除以外に三角切除、ゴアテックス人工腱索設置その他いくつかの変法があり、患者さんの状況に合わせて適宜活用しています。
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13_23.  一部切除した後尖を再建修復したところ。

組織がちぎれないように工夫しながら再建します。

また切除範囲が大きくなりすぎると問題が生じるため、他の方法と取捨選択したり時には併用するケースもあります。              .

僧帽弁形成術では必要に応じて後尖の高さ調整をしてSAM(収縮期の前尖前方移動)が起こらないようにします。

 .
14_44.  僧帽弁輪も形成し(リングが一部見えています、矢印)、

管から左室に水を入れて逆流がないことを確かめています。逆流試験です。

僧帽弁形成術に使うリングは大きく分けて柔らかいタイプと硬いタイプがあり、それぞれ特長があり、使い分けています。
 

15_25.  ここで弁を押して多量の水や血液が流れで出る(矢印)のを見て、

僧帽弁が漏れなくなったことを確認しました。

逆流試験合格です。

逆流試験にも多少の弱点があるため、最終的には体外循環を降りてから、経食道エコーで確認します。

僧帽弁形成術がこのようにきれいに仕上がりますと、10年後もほとんど(90数%)の患者さんは問題なく、20年後でも大半の患者さんはお元気です。

しかもワーファリン不要のため病院に毎月通って血液検査と処方を受ける必要がないため、健康人と同じ形でのびのびと普通に暮らせます。

激しいスポーツや妊娠出産なども可能になります。

僧帽弁形成術は少し複雑になりますとワンパターンの操作では治し切れないため、豊富な経験量がものをいう手術です。実績で医師や病院を選ぶことが安全上大切です。

それは患者さんの権利なのです。

 

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事例 3 EVARを活用するハイブリッド治療 

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<手術前> 77歳女性、胸腹部大動脈瘤の破裂で重篤な状態で他病院からのご紹介で来院されました

全身の衰弱で状態が悪く、通常の手術は難しいということでステントグラフトEVAR)と従来型手術を組み合わせたハイブリッド治療を選択しました。

つまり腹部大動脈の重要な枝たとえば腎臓へ行く動脈や胃腸・肝臓へ行く動脈をバイパスし温存したうえで、大動脈にステントグラフトEVARを入れて瘤をつぶすようにしたわけです。

腹部血管のバイパス手術は腹部大動脈瘤手術に準じたリスク、つまりかなり低いリスクで安全に行えますし、

その後であればステントグラフトEVARで大動脈瘤を細くしてもそう危険ではありません。

手術もステントグラフトEVARも順調に行えました。

 

<手術後>

 

破裂性胸腹部大動脈瘤のCT写真です。体の半分近くが大動脈瘤または出血の血液という恐ろしい状態でした 32_2

 

 

 

 

 

 

ステントグラフトを入れたあとの姿です。もとの瘤はかなり落ち着きました

34_5

超重症の患者さんでしたが、

ハイブリッド手術の低侵襲性つまり体への負担が軽かったおかげで、元気に退院されました。 こうして腹部大動脈の重要枝にバイパスを付けてからステントグラフトを入れれば、低い侵襲で大きな治療ができ、体力の弱った患者さんに有利です。これこそ患者さんに優しい治療です

胸腹部大動脈瘤へのステントグラフト(EVAR)治療に先立ち、

 腹部動脈にバイパスをつけて内臓が守られるようにしたのが画像にて見ることができます(矢印1)。

これでステントグラフトEVARが遠慮なく力を発揮できます(矢印2)。

 

 

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事例 2 急性大動脈解離に対するヘミアーチ置換術 (73歳女性、AS、MR、大動脈解離)

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21_2手術事例2-1上行大動脈は解離のため膨れかつ青くなっています(矢印)。

破裂寸前の状態でした。

急性大動脈解離の手術では心膜を開けるときの対応が重要で、

ある程度以上タンポナーデになっているケースではそっと開けて血圧が急激に上昇しないよう注意が必要です。

ショック状態や心停止なくここまで来れば救命率は極めて高くなります。

 

22_2症例2-2低体温循環停止のもと、上行大動脈を切開しました。

解離腔が見えます(矢印)。

急性大動脈解離に対しては約8年前まではGRFグルーを使用し、実際有用で便利な道具ですが、その後組織を壊死させるという報告が出されたため個人的には使用はケースバイケースにしています。

吻合は外膜を活用し強度と止血を達成するようにしています。

Davidの方法で、グルーもプレジェットも使わないテレスコープ法(望遠鏡のような構造で人工血管が内側に入る)でプロレーンの連続縫合で一気に終わります。循環停止時間15分程度であれば脳保護の点でも有利です。


23_2症例2-3人工血管(矢印)を用いた遠位側吻合が完了しました。
循環再開しています。

適宜プレジェット付きプロレーンで吻合部を補強します。

テキサスのサフィー先生・コセリ先生のご推薦の方法です。この10年以上使って来ましたが、良い方法と思います。

日本では山本晋先生らも愛用しておられます。

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症例2-4 大動脈基部での吻合準備中。
24_2   解離がおよんでいるのが見えます(矢印)

この吻合も人工血管を内側におくテレスコープ法でとくにプレジェットを使いません。

なお大動脈基部に解離が及んでいる場合、冠動脈口とくに右冠動脈口の周囲をプレジェット付き糸で内外に補強(リベット打ちと呼んでいます)し、大動脈弁の3つの交連部も同様に補強し安全を期します。

GRFグルーは使わないか、使っても少量が良いと考えています。

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25症例2-5 大動脈弁(矢印)に狭窄と病変があったため、
通常とは異なり弁置換することにしました。

このように弁の破壊が進んでいるケースでは、患者さんの年齢によっては生体弁の方が有利なことがよくあります。

内容をしっかり吟味して方針を決めることが大切です。

急性大動脈解離でも高齢者の症例が増え、こうしたケースがよく見られるようになりました。

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26 症例2-6 僧帽弁(矢印)を観察すると弁輪形成が必要な
状況でした。

弁葉がやや短縮し、弁輪が広がり気味であることも加わり、弁葉が閉じられなくなったようです。

術後の心不全を防止し立ちあがりを促進するために僧帽弁輪形成術は有用なことが多々あります。

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27症例2-7 僧帽弁輪を形成しました。

矢印は形成用リング。

.

できるだけ患者さん自身の僧帽弁を活用するようにしています。

.工夫して左室内圧を高め、逆流試験にも合格です

 

28症例2-8 大動脈弁置換(AVR)完了しました。
矢印は生体弁です。

なお弁尖が柔軟に保たれている場合であれば、大動脈弁形成術David手術(自己弁温存式大動脈基部再建)を行います。

70歳以上の高齢者では自己弁と生体弁のどちらがその患者さんの長期予後に有利かを考慮して術式決定します。

この年齢であれば生体弁は確実に20年前後持つため有利なことが多いと思います。

 

 

29症例2-9 右冠動脈に静脈グラフトを吻合しているところ。

.

.冠動脈をしっかり再建しておくことは、安全上からも、術後の患者さんの生活の質(QOL)を守る上からも大切です。

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.

 

 

210症例2-10 冠動脈バイパス手術の中枢側吻合が仕上がり、すべての操作が完了しました。

急性大動脈解離の手術の仕上がりです。

最初の写真と比べると、上行大動脈がかなり細く、正常のサイズに戻ったのが判ります

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患者さんは元気に回復されました。

急性大動脈解離では手術しない場合のリスクは極めて高い(発症2日間で50%近い患者さんが死亡される)ですが、手術のリスクはそれよりはるかに低く(術前心停止などがなければ100%近い救命率)、手術はリスクベネフィット比が高い治療法の一つです。

 

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事例1 弓部大動脈全置換術 (79歳女性、ステップワイズ・アーチファースト法)

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11_2手術事例 1-1 まず体外循環で体温を冷やします。

79 歳女性でややご高齢のため脳と脊髄保護に特に注意して手術法を考えました。

矢印は弓部大動脈。

写真の左側が頭側です。

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12_2症例1-2 弓部大動脈を切開しました(矢印)。

血液が貯まっているところから奥が下行大動脈につながります。

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13_2症例1-3 弓部大動脈全置換を開始。まず第3枝(矢印A)を人工血管(矢印B)とつないでいます。

テレスコープ式プロレーン連続縫合で一気に縫いあげます。

この吻合は止血や確認も容易です。

なお吻合部はプラークのない、きれいな部位をもとめて末梢側に進み、そこで吻合します。

.

 

14_2症例1-4 つぎに第2枝(矢印)を再建しています。

血管そのものはいじらず、もしも血管内にプラークなどのゴミがあっても逆行性脳灌流を適宜使用して洗い流し、脳梗塞等を予防します。

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15_2症例1-5 そして第1枝(矢印)をつなぎます。

逆行性脳灌流ついで巡行性灌流をもちいてエア抜きとゴミ取りを行います。

これで脳や上半身は循環再開できます。

20℃の低体温で20分台の脳虚血ですので余裕があり、術後の覚醒は良好です。

.

16症例1-6 下行大動脈にもう一本の人工血管をつなぎます(矢印)。

ステップワイズ法 stepwise法を用いることで、深い場所ですが結構良く見えます。

吻合部全体を常に見ながら縫えるのは便利です。

またこの方法はステントグラフトを用いた追加治療が必要な時にも便利です。

.

 

17症例1-7 これら2本の人工血管をつないで通常の体外循環を再開し、

心臓側の上行大動脈(矢印)とつないで弓部大動脈全置換術の完成です。

ここでもテレスコープ(望遠鏡)式の連続縫合を使います。

そのあと補強を行い止血します。十分な止血が有用です。

.

 

 

18症例1-8 上行大動脈から弓部大動脈まで完全に人工血管で置き換えられ、瘤破裂の心配は消えました。

近年はこの方法をベースに、より体温を上げて、選択的脳灌流(脳を含む上半身に別回路から血液を送ります)が安全なケースではこれを活用し、スピードアップと低侵襲化(手術が短時間になるため患者さんへの体への負担が軽くなります)を図っています。

また針穴出血が少ない新型人工血管を使うことで今後一層出血が減り安全性が高まるものと期待されます

さまざまな有用な方法が使えるようになり、それらの適切な選択や併用などが重要になると思います。

これらにより弓部大動脈全置換術の成功率は95%レベルに達し、すでに安全な手術に入りつつあります。

近年急速に進歩をとげたステントグラフトを併用する、いわゆるハイブリッド手術も活躍を始めています。

 

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