事例: 急性大動脈解離で緊急手術

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急性大動脈解離は大動脈の壁が内外に裂けておこる病気です。

このなかでスタンフォード分類A型とよばれる上行大動脈が解離するタイプは緊急で手術しなければ発症2日間で患者さんの約半数が亡くなるという大変な病気です。

慣れたチームなら緊急手術することで 95%以上の確率で治すことができ、的確な治療がいかに大切かがわかる病気です。

以下の事例は57歳女性で、急性大動脈解離(スタンフォードA型)に大動脈弁閉鎖不全症を合併し、危険な状態になっていたため近くの病院から緊急搬送されました。

心膜切開後の所見手術にて心膜を切開したところ、心のう内には血液はありませんでした(左図)。

上行大動脈が解離して太くなり、かつ表面が赤黒くなり破れる寸前の状態であることがわかります。

手術開始直前の血圧低下はおそらく解離した上行大動脈がSVCを圧迫していたためと推察しました。

解離は弓部大動脈から大動脈基部近くまで見られました。

Ao切開体外循環を開始しました。体温が21℃まで低下したところで循環停止としました。

上行大動脈を横切開しました(右図)。

エントリーらしいものを切開部付近に認めた以外は末梢側・中枢側とも内膜は大丈夫でした。

 

GRF糊注入上行大動脈遠位部を近位弓部大動脈まで切除し、

外膜と内膜をGRF糊(のり)で固めたあと(写真左)、

ダクロンヘマシールド人工血管24mmを吻合しました(写真下右)。  遠位部吻合チェック

エア抜きののち、22分で循環停止を完了し、通常の体外循環に復しました。

 

吻合部の止血確認・補強ののち、大動脈基部を剥離・トリミングしました。

AVP大動脈基部は無冠尖NCCと右冠尖RCCを中心に解離していたため、GRF糊を用いて解離部を固定し、さらに各交連部をすべて吊り上げ固定して解離やARの進展を防ぐようにしました(写真左)。

その 中枢側吻合上で上記のダクロン人工血管を縫合しました(写真下右)。

 63分で大動脈遮断を解除し、105分で体外循環を容易にカテコラミンなしで離脱しました。

 

十分な止 完成図血ののち手術を明け方に終えました(写真左)。

術後経過は順調で、手術翌日には集中治療室を元気に退室され、10日後には退院されました。

手術から4年経つ現在も、ときどき定期健診のため外来へ来られます。

お元気なお顔を拝見するたびに、急性解離は患者さんが生きているうちに熟練チームでしっかり治すことが大切と実感します。


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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 重い肺高血圧症を合併した心房中隔欠損症 (ASD)の高齢患者さん

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患者さんは70代後半の女性で九州南部から来られました。

心房中隔欠損症(ASD)が悪化し末期状態で、高度の肺高血圧症(血圧の70%)と三尖弁閉鎖不全症や慢性心房細動を合併し、右心不全のため肝臓も弱り血小板も減っていました。肺も弱く、肺活量は本来の半分以下の量にまで減っていました。

地元の大病院では心臓手術は危険すぎる、お薬で様子を見るしかないとのことでした。

それはすなわち、打つ手なし、ただ死を待つのみ、という意味でした。

患者さんのご子息は内科の先生で、お母様をなんとか助けようと調べ、私のところへご連絡を取ってこられました。

私の外来には九州・沖縄からもちょくちょく患者さんが来て下さいますが、それほど信頼して戴いたことを光栄に思いますし、来て良かったと言って頂けるよう、襟を正して頑張るきもちがこみあげてきます。

この患者さんの場合も何とか元気に九州へ戻って頂こうと努力しました。

まず調べた結果、肺高血圧症は重症でしたが左―右シャントが多量にあり、条件によって肺動脈圧も改善することがわかり、手術が成り立つことが判明しました。

さらに手術によって体力とくに心臓や肝臓や肺のちからは落ちていましたが、それぞれまだ回復の余地を残していること、とくに心臓のパワーアップが手術で図れればあとはうまく上昇気流に乗れると確信しました。肺については手術のあとじっくりと運動療法をやるしかないと開き直っていました。

そこで手術を行いました。

  上妻 左房メイズM弁輪周囲まず左房を開けて左心耳縫縮とメイズ手術を行いました。

左図はそのときの情景です。

心房細動対策を確実にするため左心耳を閉鎖しました。

あの天皇陛下の手術のときに左心耳を閉鎖されたのと同じコンセプトで、血栓ができたり脳梗塞になるのはぜひとも防ぎたいという方針でした。

ついで心房中隔欠損症( 上妻 ASDパッチ閉鎖ASD)をゴアテックスパッチで閉鎖しました。

右図の白いものがそのパッチです。

さらに三尖弁形成術をリングをもちいて行い、逆流がほぼゼロになるのを確認しました。

左下図はそのリングに糸をかけているところです。

上妻 TAP中後に右房のメイズ手術を行い、操作を完了しました。

右下図のように、キモになるところをしっかりと冷凍凝固して、悪い電気信号が通らないようにしました。

術後経過はまずまずで術翌日には集中治療室をでることができました。 上妻 右房メイズ Isthmus

しかし肺が悪く、すぐひしゃげて無気肺と呼ばれる状態になり、呼吸リハビリにじっくりと時間をかけ、お元気に退院されました。

あれから4年近くがたちますが、お元気に暮らしておられ、うれしいことです。

 

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事例: 僧帽弁閉鎖不全症などで心不全となった高齢の患者さん

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成人先天性心疾患つまり生まれつきの心臓病をもった成人の患者さんの場合は、もとの心臓病と、加齢にともなって発生あるいは二次的に合併した病気の両方を考えて治療に臨むことが大切です。

患者さんは80歳代半ばの女性。

つよい息切れで安静にしていても苦しくなりかかりつけ医を受診されました。

高度の心不全と心雑音もあるため私の外来へ紹介されました。遠方の長野県からお越し下さいました。

心エコーにて心室中隔欠損症(略称VSD)と僧帽弁閉鎖不全症00033274_20090408_US_1_8_8bが高度にあることがわかり(左図にて両方が見えています)、

Pro-BNPという心臓のホルモン上昇傾向で、なにより起坐呼吸という高度の心不全症状が取れないため手術することになりました。

ちなみにエコーでの左室拡張末期径は51mmと小柄な体格を考えると左室もかなり大きくなっておられました。

かなりリスクつまり危険性が高い状態で、手術しないのもひとつの手であるという意見さえ聞かれました。

しかし私の信念として、このまま座して死を待つ患者さんなら、手術で助かる可能性がある以上は見捨ててはいけないと考え、手術を決断しました。

図2 VSDパッチ閉鎖心臓手術ではまず肺動脈を切り開き、右室の中を調べますと直径4mmの心室中隔欠損症VSDを認めました。

これをゴアテックスのパッチで閉じました(写真右の白いものがパッチです)。

その際に心房中隔欠損症ASDの小さいものも見つかったため、これを閉鎖しました。

さらに左房を開き、僧帽弁を調べました。

図4 僧帽弁観察僧帽弁はバーロー病(Barlow病)という、弁全体がもこもこと変性したタイプで、一般に弁形成は難しいといわれるタイプでした(写真左)。

私たちはバーロー病の弁形成にはちからを入れており、ほとんどの患者さんで僧帽弁形成術を成功させていますが、この患者さんは80代半ばとご高齢で、手術前の状態が悪い ことから、ごく短時間で決めるほうが患者さんにとって安全上有利という方針から、迷うことなく生体弁僧帽弁置換術を行いました(写真右)。

もう少し若い患者さんなら弁形成がながもちし有利図5 MVR完成ですが、80代半ばなら生体弁は20年は持つと予想されるため、耐久性でも十分、それなら早く確実に手術を完成できる弁置換が患者さんのためになるというわけです。

その甲斐あって、手術当日には人工呼吸を離脱し、手術翌日には集中治療室を無事に退室されました。

体力がひどく落ちておられたため、十分な運動を行い、術後1か月で元気に退院されました。

いまも定期健診に外来へ来られ、お元気なお顔を拝見しています。

高齢者でしかも複数の心臓病があり、状態も悪くて「もうダメ」と言われても経験豊富なエキスパートに相談すれば道が拓けるかも知れないことを皆さんに知って頂ければ幸いです。


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僧帽弁膜症のリンク

原因 

閉鎖不全症 

逸脱症

狭窄症

リウマチ性

◆  HOCM(IHSS)にともなうもの

◆  機能性僧帽弁閉鎖不全症

弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング

◆ バーロー症候群

◆ 三笠宮さまが受けられたもの

◆ 交連切開術


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術

腱索転位術(トランスロケーション法)

両弁尖形成法(Bileaflet Optimization)

乳頭筋最適化手術(Papillary Head Optimization PHO)

 

④ 僧帽弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

 

先天性心疾患 (成人期)

1) 先天性心疾患について

2b) 僧帽弁疾患

  ■ ミックス手術(MICS、低侵襲小切開手術、ポートアクセス)による僧帽弁形成術僧帽弁置換術

5) 心室中隔欠損症(VSD)

心室中隔欠損症に対するミックス手術(MICS手術)

 

 

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事例: 二弁置換の術後20年、高度の心不全で再手術を受けた患者さん

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弁膜症患者さんは機械弁で弁置換を受ければ、元気になります。

しかし10年、20年、30年と時間が経つと、人工弁やその周囲組織に新たな問題が起こることがあります。

日々の健康管理をしっかりする必要があるのです。

この患者さんは53歳男性で、起坐呼吸つまり横になると息苦しくなるという高度の心不全となって来院されました。

20年前に他院で大動脈弁置換術僧帽弁置換術を受け、元気にしておられました。

術前XPところが4年前に糖尿病と心不全のため、赴任地の病院で3回、入院治療が必要となりました。

以後も半年前と1か月前の2回、心不全のため近くの病院に入院を余儀なくされました。

そこで人工弁の機能不全という困った問題を指摘され、米田正始の外来へ来られました。

来院時の胸部X線では心臓が高度に拡張していました(右図、胸の大半が心臓になっています)。

心エコーでも左室拡張末期径73mm、左房前後径67mmといずれもひどく拡張していました。

術前エコーDさらに僧帽弁(機械弁)のむかし縫い付けた場所が裂けて逆流が発生し、肺高血圧も52-57mmHgと高くなし、三尖弁も強く逆流していました(左図、赤白黄青まじりのジェットが逆流です)。

心臓のホルモンであるProBNPも3260と極めて高く、総ビリルビンも2.4と上昇していました。

人工弁周囲の逆流のため赤血球が日々壊れているのです。

これまで重症心不全や肝臓・腎臓・肺などを含めた多臓器不全の患者さんへの治療に取り組んできた経験から、まず入院いただき時間をかけてじっくりと全身状態を改善しました。

その結果、1か月で体重は10kgも減少し体内の余分な水分が取れました。

まだ弁を治す前の段階ですから、左室や左房のサイズはさすがに不変でしたが、左室駆出率も18%から30%へ改善しました。

肺動脈圧も52-57mmHgから33-38mmHg へと軽減し、IVC下大静脈径も31mmから20mmへ改善しました。

術中PVL発見そのタイミングで満を持して心臓再手術を行いました。

人工弁(機械弁)は一部はずれて穴が開いた形になっており(右図、黒い人工弁の右側に見える黒い穴が逆流口です)、

それ以外の部位も今後はずれそうに弱いため、この古い機械弁を切除し、新しいものをしっかりと入れ直しました。

Done新しい機械弁のすわりはしっかりとし、良好でした。

左図は新しい人工弁を示します。

かつて穴が開いていたところもがっちりと補強し、安定をはかりました。

術後経過は、手術前の状態を考えると良好で、出血も少なく心不全も軽く、手術翌朝一般病棟へ戻られました。

術後2日目から歩行練習を開始、10日目に軽快退院されました。

術後XP術後胸部X線写真でも明らかな改善が認められ、ちょっと大げさに言えば人間らしい心臓になりました(右図)。

3年近く経った現在も外来でお元気な姿をみせて下さいます。

これからさらに健康管理し、楽しく元気に暮らして頂ければと思います。

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原 因 

閉鎖不全症 

逸脱症

狭窄症

リウマチ性

弁形成術

虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対するもの

④ 弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

生体弁 

       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

 

 

5) 再手術(再開心術)

どんな時に必要が?

② とくに弁形成の再手術について

 

 

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事例: 僧帽弁閉鎖不全症と巨大左房・心房細動に僧帽弁形成術と心房縮小メイズ手術

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僧帽弁閉鎖不全症心房細動はよく合併します。

これは左房が僧帽弁の逆流のため拡張するためもあって起こります。

左房が巨大となると僧帽弁を治しても心房細動は治りません。

心房細動に対するもっとも強力な治療法といわれるメイズ手術も巨大左房には歯が立ちません。いわゆる「適応なし」として手術をやれないのです。

これを何とかしようと心房縮小メイズ手術を10年以上まえに開発しました。

患者さんは50歳女性です。

20年前から僧帽弁閉鎖不全症を指摘され他院で経過観察されていました。

5年前から心房細動になり、1年前から心不全症状が出てきました。

そこで私の外来へ来られました。 術前エコー2

心エコーにて高度の僧帽弁閉鎖不全症を認めるほか、

左房径(前後径)が76mmと巨大左房になっていました。

上図左は経食エコーで拡張左房を示します。同右では僧帽弁後尖の逸脱(弁が左房側へ落ち込む)を示します。

左室拡張末期径は58mmとやや拡張、左室駆出率は53%とやや低下していました。

心房細動にメイズ手術が効くことは知られていますが、いっぱんに左房径が60mm前後を超えたあたりから、メイズ手術はあまり有効でなくなり、ましてカテーテルアブレーションでは治せないと言われています。

そこでこうした患者さんたちのために私たちが開発した心房縮小メイズ手術をもちいることにしました。

四角切除手術では

まず僧帽弁形成術を行いました。

逸脱している後尖を四角切除し、リングをもちいて弁のサイズを正常 MVP完了化し、逆流が止まることを確認しました。

それから左房を縫縮つまり折りたたむ形で小さくしました。これで出血することなく左房を調整できるからです。

左房縮小中バチスタ先生がかつて提唱された自己移植術とほぼ同じ縫合線で左房を折りたたみ、きれいになりました。

そのうえで、その縫合線を冷凍凝固し、悪い電気信号が通らないようにしました。

三尖弁も形成し、 クライオメイズ右心房にも冷凍凝固でメイズ手術を行いました。

術後経過は順調で、術中から正常リズムとなり、術後3年以上経過した外来でも正常リズムを維持しておられました。

術後心エコーでは僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不 術後えこー1全症とも消失し、左房径は術前の76mmから46mmまで改善しほぼ正常域にもどっていました。

この症例は2005年 術後えこー2のライプチヒシンポジウムでも発表し、多くの心臓外科医に喜ばれました。

その後、欧米やアジアでもこの心房縮小メイズ手術に関心を持って下さる心臓外科医は徐々に増え、これからもっと啓蒙活動をしてより多くの心房細動の患者さんたちをお助けできればと念じています。

心房細動は意外に怖い、いのちや仕事を奪う恐れのある病気だからです。

 

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原因 

閉鎖不全症 

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事例:三度目の手術、僧帽弁置換術を乗り切り元気に

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若いころにリウマチ性弁膜症で僧帽弁などをやられた方は長期的なケアが大切となります。

リウマチで弁が強く壊れた場合はもちろん、軽く壊れた場合でもそのあと何十年の間に弁破壊が進行し、重症化することが多々あるからです。

患者さんは76歳男性で、35年前に関西の大きな病院でリウマチ性の僧帽弁狭窄症に対して僧帽弁交連部切開術を受けられました。

その後年月を経て、僧帽弁がまだ悪くなり、心不全症状が出たため、12年前、上記と同じ総合病院で僧帽弁置換術を受けられました。このとき、金属製の機械弁を使用されています。

その後まずまずお元気にしておられましたが、3年ほど前から次第に息切れなどの心不全症状が再発しました。

2か月前、地元の病院で中等度の僧帽弁閉鎖不全症と、溶血つまり赤血球が壊れる病気を指摘されました。

右図はその僧帽弁閉鎖不全症を示します。

術前ドップラー実際、血液検査でLDH1800台は異常高値で強い溶血の所見で、総ビリルビン4.7とかなりの黄疸が出ていることと合致する所見でした。

しかもその溶血のために腎機能が低下しつつあり、クレアチニンCrは1.14と低下傾向がみられ、コリンエステラーゼ143、総コレステロール155と肝機能の低下も見られました。

僧帽弁閉鎖不全症つまり逆流はひどくはないものの、溶血が強く、このままでは輸血が延々とひつようとなり、次第に腎不全が合併して永くは生きられないという状態でした。しかも機械弁のためワーファリンが必要で、ご高齢で血管が弱いこともあって鼻血がよく出て、大変つらいということでした。

しかし地元の大病院でも3度目の手術で全身の状態が悪すぎるとして、再手術を拒否され、米田正始の外来へ来られました。

手術はややリスクが高いものの、このままでは死を待つだけという状態で、しかもこれまで同様の再手術の患者さんを多数お助けしてきた経験から、直ちに再手術を決定しました。

しかし全身の状態が悪く、このまま手術すると体力が持たず、そのためにいのちを落とす懸念があったため、まず入院していただき、1か月近い時間をかけてさまざまな治療で状態を改善し、そこで勝負をかける、つまり手術することにしました。

人工弁のすぐ上に見える黒いところに穴が開いており、そこから血液が漏れていました。昔の手術で弁を縫い付けたところが裂けたものと考えられます手術では以前の2回の手術のため癒着が高度で、これを丁寧にはがして行きました。

心臓の中に入ると、僧帽弁は人工弁の頭側が外れており、そこから血液が逆流し、またそのときに人工弁に擦れることで溶血しているという所見でした。人工弁の動きにも問題があり、パンヌスと呼ばれる自己組織が弁の動きを妨げている様子から、この人工弁(機械弁)を切除しました。パンヌスが弁の下に確認され、弁を切除して正解という所見でした。

上図は古い機械弁をほぼ外しつつあるところで、弁の上方の黒い穴のところが逆流口です。

生体弁MVR完了そして生体弁を植え込み、きちんと乗って、組織の裂け目もないことを確認しました。

右図は生体弁がきれいに入ったところを示します。

入念な止血ののち手術を終えました。

重症のわりには術後経過は良好で、術翌日には集中治療室を退室し、病棟にて運動を開始しました。

術後ドップラー遠方のためゆっくり回復に時間をかけて術後3週間で元気に退院されました。

左図は術後のエコー・ドップラーです。僧帽弁閉鎖不全症は消失しました。

あれから丸4年が経ちますがお元気にしておられます。あれほど悩んでおられた鼻血もなく、腎臓も回復し、普通の生活を楽しんでおられます。ご高齢の患者さんにとって生体弁がどれほどありがたいか良くわかる事例です。

勇気を出して決断し、手術を乗り切って下さったからこそ、以後の平和な生活があることをしみじみ感じます。また定期健診の外来でお会いしましょう。

 

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事例:「末期」心臓腫瘍に手術で立ち向かい2年間立派に生きられた患者さん

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心臓の悪性腫瘍つまり肉腫やがんは稀な病気ですが、いったんこれにかかると予後は不良です。

臓器の性質上、全摘除したくてもできないからです。

心移植できれば話は別ですが、日本ではそううまくは行きません。

下記の患者さんは約80歳の男性で、来院1年前から空咳がでるようになりました。

PreopXP近くのかかりつけ医院で心拡大と言われ、病院でエコーとMRI検査を受けた結果、心臓腫瘍と言われました。

すでに臓器のかなりの部分を侵しており、手術不能と言われ、心不全症状が急速に悪化して、あと1週間のいのち、と言われて米田正始の外来へ来られました。

右図は来院時の胸部X線写真です。

心拡大が著明です。

高度の心不全で息がつまりそうなぐらい苦しくなっておられました。

PreopCT調べますと、右室から主肺動脈さらに左室までを浸潤(しみこむように侵していく)する腫瘍で、その形と性状から悪性であることは確実でした。

左図は造影CT所見です。

さしあたり主肺動脈と肺動脈弁を閉塞すれば血圧がでなくなって突然死する恐れが高いため、救命措置として手術することにしました。

というのは、このタイプの心臓腫瘍の中には、ゆっくり増殖するタイプがあり、それなら当分は生きられる可能性があるからです。

さらに手術で腫瘍の標本が得られれば、それを精密検査することで、抗がん剤や放射線治療がある程度効くことがわかれば、さらに予後を良くする可能性もあったからです。

Tumor1手術ではまず主肺動脈を開け、右室流出路まで切開延長しました。

予想どおりこの部分は腫瘍で満杯状態となっていたため、これを徹底切除しました。

右図は腫瘍を摘除しているところです。スプーンで持ち上げているたまごのような形の赤黒いものが腫瘍です。

このとき肺動脈弁は腫瘍とともに切除しました。

左室に浸潤している部分だけは、いのちを守るために最小限切除にとどめました。

手作りの肺動脈弁をつけたパッチで切開部の天井を造るように閉鎖しました。

PostopXP将来腫瘍が再度増えて水などがたまっても困らないように、右胸とお腹に水抜きの窓を開けました。

こうして手術は無事終わりました。

術後経過は順調で、術翌日にICUを退室され、術後2日目には歩行を開始されました。

術後エコーやCTでも腫瘍はほとんど取れ、肺動脈弁はじめ心臓は良い状態となりました。

左図は術後の胸部X線写真です。術前よりうんと改善しました。

手術で切除した腫瘍の顕微鏡所見では肉腫つまりある種のがんであること以上は不明ということでした。心臓腫瘍ではしばしばこうしたことがあります。まだまだ不明な病気なのです。

術後ゆっくりとリハビリなどで体力回復していただき、3週間で退院されました。

その後、ご自宅でまずまず楽しく暮らしておられましたが、4か月後に心臓腫瘍が背骨に転移したことが判明、その治療をがんセンターで受けていただき、軽快しました。

痛みもペインクリニックの先生のおかげで和らぎました。

術後1年が経過し、患者さんはまずまずの状態で食欲もあり、家の中で運動し楽しみをもって暮らしておられました。

この時点でエコーではいったん再発気味だった腫瘍がまた小さくなり、ProBNP(心臓ホルモン)も2200から460まで改善するなど、奇跡に近い状態でした。

術後1年半たち、背中の痛みが次第に強くなりました。転移した腫瘍が神経を圧迫している所見でした。

さらに左眼が見えにくくなり、検査の結果、左眼の奥の部分への腫瘍転移と判明しました。

しかし患者さん・ご家族がよく頑張って下さり、放射線治療にて転移した腫瘍は治まり、視力さえ回復しました。これは皆安堵するだけでなくすごい!と感心しました。

術後1年8か月ごろに次第に動けなくなり近くの病院やご自宅で過ごされることが増えました。

1年9か月の時点で呼吸不全となり全身衰弱が進みご家族が見守られる中で息を引き取られました。

あと1週間ほどのいのち、と医師から宣告されてから2年近く、最後まで意欲をもち、弱音を吐くこともなく、前向きに頑張られました。その間、何度も家族団らんの楽しいひと時をもち、ご自宅だけでなく外出を楽しみ、がんの転移による危機を何度も乗り切るなかで、最後の最後まで人間としての尊厳を保ちつつ逝かれたこと、誇らしく思います。またそれを支えて下さった奥様はじめご家族の皆様に敬意を表したく思います。

この患者さんは見事にその人生をまっとうされただけではありません。

この患者さんのお話を聴いて、「自分も頑張ってみよう」と仰り、実際頑張って下さっている患者さんが何人もおられます。

心臓悪性腫瘍が稀な病気であることを考えると、数名の患者さんが年単位で生活できていることは、予想より高い確率で頑張れるともいえ、これは大きなことです。

心臓腫瘍とくに悪性、がん、肉腫と言われて生きる元気がなくりそうな方、まずはご相談下さい。

 

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福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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事例: 先天性僧帽弁閉鎖不全症・バーロー症候群の弁形成術

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先天性つまり生まれたときからの僧帽弁閉鎖不全症は心臓専門病院では少なからずみられる病気です。

逆流が強くなり心臓とくに左室が大きくなったり、心不全の症状がでると手術が必要になります。

また時間とともに左房も大きくなり、その結果心房細動などの不整脈が出てくると手術が勧められることもあります。

次の患者さんは当時31歳の女性で、僧帽弁閉鎖不全症に発作性心房細動を合併し、手術を希望して来院されました。術前エコー長軸

そのころ、疲れやすくなり、会社の健康診断で僧帽弁閉鎖不全症を指摘され、ホームページを見て米田正始の外来へ来られたのでした。

術前の経胸壁エコーでも術中経食エコーでも前尖後尖とも全体的に逸脱しているように見えたため(右図をご覧ください)、

そして強い僧帽弁の逆流も、逆流ジェットが複数ある(左図)ことから複数病変それも通常と少しちがうものなど、様々な状 術前エコー4CVD況と対策を考えて手術に臨みました。

皮膚をなるべく小さく切開し、心臓にアプローチしました。今ならポートアクセス法などのミックス手術でより小さい創で手術するでしょうが、当時としてはかなり小さい創で手術しました。

僧帽弁は後尖の中央部分にクレフトつまり裂隙があり先天性のものと思われました。

さらに後尖の後交連近くに腱索断裂があり、その部分は逸脱つまり左房に落ち込む傾向にありました。

また後交連部は大きめで腱索伸展著明で逸脱していました。(手術写真準備中です)

前尖はやや逸脱傾向はありながら、後尖の上記以外の部位とはちょうどバランスが取れた形でした(つまりどちらもやや逸脱傾向にありました)。

前尖と後尖の逸脱部は慢性MRのジェットのためか肥厚し、後尖の逸脱部は若干瘤化していました。

全体としていわゆるBarlow症候群つまり組織変性が強い弁で僧帽弁全体が弱いという印象でした。

こうした弁でも逆流が治れば長持ちし得ることが知られており、予定どおり全力あげて形成することに致しました。

まず確実に病変がある後尖中央部のクレフト部を閉鎖し、その際に余剰組織を併せて縫縮しました。

次に後交連部と後尖の後交連寄り部分を連結し、併せて余剰(瘤化)組織を縫縮しました。

この時点で逆流試験を行いますと前尖後尖はちょうどバランス良くかみ合い、逆流もほぼ消失しました。人工腱索も検討していたのですが不要でした。

そこで仕上げに前尖サイズのリングで弁輪形成を行いました。

それにより逆流試験でMRはほぼ消失しました。

冷凍凝固によるメイズ手術を行い、左房を2層に閉じて78分で大動脈遮断を解除しました。

心臓が拍動を再開しまもなく洞性リズムを回復しました。

術直後エコーD経食エコーにて僧帽弁閉鎖不全症はほぼ消失しました。

入念な止血ののち無輸血にて手術を終えました。右図は術後1週間の経胸壁ドップラーで僧帽弁の逆流は消失していました。

また下図は同長軸エコーで前尖と後尖の良好なかみ合わせを示します。

術直後エコー長軸術後経過は良好で、出血も少なく血行動態も安定しており、術当日の夕方、人工呼吸器を外し、術翌朝、一般病棟へ戻られました。

経過良好で手術後10日に退院予定でしたが、患者さんのお父さんが風邪のため、移されないようしばし入院続行し、術後経2週間で元気に退院されました。

術後3年4CVD術後3年経った現在、お元気で暮らしておられます。年一度の定期健診でお元気なお顔を見せて頂いています。

右図は術後3年のドップラーで僧帽弁の逆流はありません。

弁置換術と比べて弁形成術が優れているのはどの年代の患者さんでもそうですが、こうした若い女性の場合はとくにそれが顕著です。

この患者さんは妊娠出産も問題なくこなせますし、今後の人生が文字通り健康なものになるでしょう。実際、手術のあとは大変快活になられ、この点でもうれしく思っています。

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執筆:米田 正始
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事例: HOCMと大動脈弁狭窄症とペースメーカー三尖弁閉鎖不全症を根治

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弁膜症がらみで除脈となりペースメーカーが必要になることはときどきあります。

ペースメーカーは除脈つまり遅い脈には効果抜群の治療法ですが、電気ケーブルを三尖弁ごしに右室へ入れる必要があり、一定の確率で三尖弁閉鎖不全症が起こります。

PreopXP患者さんは77歳女性で労作時の息切れを主訴として紹介来院されました。

もともと大動脈弁狭窄症をわずらっておられましたが、除脈のためペースメーカーを入れてから息切れが悪化したといいます。 PreopCT

左図は術前の胸部レントゲン写真です。大きな心臓です。

写真の左上にペースメーカー本体も見えます。

右図は術前のCT写真です。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を横切っているのが見えます。通常はそう問題にはならないのですが、この患者さんの場合は三尖弁を閉じなくしてしまったのです。

PreopEcho調べてみますと、大動脈弁はピーク速度が4m/sに達する強い狭窄がありました。

それに加えて、弁の下、左室流出路(左室の出口近く)に異常心筋のでっぱりがあり(HOCMとかIHSSと呼びます)、弁とあわせて一層狭く危険なレベルに達していました。

それを反映して、右室圧49mmHgと肺高血圧症も合併していました。心臓が悪いため肺にも無理がかかっているのです。

三尖弁はペースメーカーケーブルに押されて高度に逆流し三尖弁閉鎖不全症になっていました。

このままでは心不全や肝不全などが悪化する懸念があり、手術することになりました。

ところが手術前の検査で腹部大動脈瘤も見つかったため、これも注意深く見張りながらまず心臓手術を行うことにしました。

A弁観察手術ではまず硬くなった大動脈弁を切除しました。

大動脈弁口ごしに左室が見やすくなりました。異常心筋が発達し、左室の中が見えなくなっていました。

つまり左室内の血液が大動脈へ駆出しづらいともいえる状態です。

異常心筋切除開始そこでこの異常心筋を切除しました。

左図は切除を開始したところです。

この時点では左室の中はほとんど見えません。

慣れた外科医には短時間で異常心筋切除後完了する手術ですが、経験の少ない外科医には危険な手術です。さまざまな落とし穴があるからです。

左室の中が見えるように なり、血液がスムースに流れる所見となりました。

右図は異常心筋切除後の姿ですが、左室の中にある乳頭筋が良く見えるまでに改善しました。

AVR完成ここで生体弁を大動脈弁の位置に縫い付けました。

十分なサイズの生体弁が入りました。

左図がそれです。

 

つぎに右房 PMケーブルと三尖弁を開けて三尖弁を見てみました。

ペースメーカーケーブルが三尖弁を圧排し弁が閉じにくくなっていました。

そこでこのケーブルを弁の付け根の安全なところに移動し、固定しました。

三尖弁形成術完成そのうえでリングをもちいて三尖弁形成術を行いました。

もう弁はケーブルに邪魔されることなく普通に動けるようになりました。

右図は術中経食エコーで、三術後TRほぼ消失尖弁はきれいに作動するようになりました。

術後経過は良好で、手術当日夜、人工呼吸器を離れ、翌朝、集中治療室を退室できました。

術後2週間目に元気に退院されました。

その後、畑仕事もできるほどに回復されました。

外来で定期健診を受けておられましたが、腹部大動脈瘤が次第に大きくなり50mmに達したため心臓手術から1年6か月後に手術することになりました。

お腹の皮膚を切らずに治せるステントグラフトEVARを第一選択として検討しましたが、腹部大動脈が屈曲し、ステントグラフトを固定するエリアが小さいことなどから、学会委員会の御意見として通常の外科手術による腹部大動脈置換が適切という判断となりました。

そこでお腹の皮膚を約10㎝と小さく切るミックス法でアプローチしました。

腹部大動脈をY型ダクロン人工血管で取り換えました。

術後経過も順調でまもなく元気に退院されました。

それから2年が経ち、外来でお元気なお顔を拝見するのが楽しみになっています。

ここまでの経過を振り返り、なんだか病気が多く、手術手術で申し訳ない気持ちですが、これで一件落着、安定された感があります。

これからさらに楽しく過ごして頂ければと思います。

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心臓手術・事例:マルファン症候群、ベントール手術1年後に腹部大動脈瘤手術

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マルファン症候群の患者さんは結合組織と呼ばれる、内蔵をつなぐ組織が弱いため、平素から定期健診を受けることが大切です。

心臓血管関係では心臓の弁や大動脈全体を定期的に調べれば、いのちを突然落とすことはほぼ防げます。

手間をかけただけ、得られるものが多くなるのです。

下記の患者さんはマルファン症候群をおもちの65歳女性で、1年前に大動脈基部拡張と大動脈弁閉鎖不全症のためベントール手術を受けられました。同時に僧帽弁閉鎖不全症に対して僧帽弁形成術も受けられました。

大動脈弁がかなり壊れていたため、患者さんご自身の弁を温存するデービッド手術は行わず、確実に人工弁をつけた人工血管で治しました。

術後経過は順調でまもなく元気に退院されました。

それから1年6か月経って、腹部大動脈瘤が健診の度に大きくなり、直径55mmに達し、このままでは破裂の心配が出てきたため、これも手術することになりました。

手術では腎動脈分岐部のすぐ遠位部から両側の総腸骨動脈をYグラフト人工血管で取り換えました。

瘤の中枢側まで大動脈は解離(壁が内外に裂けること)していたため、これを修復補強しながら人工血管を取り付けました。

それから4年近く経ちますが、心臓と腹部大動脈およびその周辺部には問題なくお元気です。ただし胸部大動脈(下行大動脈)が拡張気味なので、丁寧な定期健診を欠かさないようにしています。

このようにマルファン症候群の患者さんは大動脈全体や弁、その他の臓器などを永年守る必要があり、病気離れや医者いらずというレベルの状態は難しいのですが、手間をかけた分だけ安全性や快適性が上がるともいえ、患者さん・ご家族と相談しながらフォローアップを続けています。

iPS細胞が実用化すればまた話が違ってくると思いますし、早くそうなるのを期待していますが、当面、地道な努力が患者さんを守るのです。

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