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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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狭心症、冠動脈狭窄症の治療はその重症度に応じて何段階かあります。
軽症なら食事、運動療法とお薬による治療、もっと重症になればカテーテルによる冠動脈形成術(PCI)、さらに重症になれば外科による冠動脈バイパス手術があります。
患者さんは70代半ばの男性で、四国からお越し頂きました。
もともと糖尿病をお持ちで狭心症となり、地元の病院で4年あまり前に薬剤溶出性ステント(DES)による治療を受けられました。
お元気にしておられましたが、4年半後、狭心症が再発し、再度カテーテルによるPCI治療を受けました。
残念ながらその1か月後にまた狭窄し、3度目のPCI治療を、その1か月後に4度目の治療を受けられましたが、うまく行きませんでした。
冠動脈がすでにうんと悪くなり、ステントではどうにもならなくなったのです。
この間の心筋梗塞などのため、左室のちからは駆出率25%と、通常の半分以下に落ちてしまいました。
思い余ったご家族が米田正始のところへ連絡をしてこられ、ハートセンターでの治療となりました。
手術前の冠動脈造影では右写真のように前下降枝がステントで覆われていますが、完全に詰まっていました。
しかし他の冠動脈からかろうじて流れてくる血液をみると、この左前下降枝は内胸動脈を丁寧につなげば何とかなるだろうという判断となりました。
さらに右冠動脈にもバイパスがつけられる血管があり、ここから何本かの枝へ血液が流れ、前下降枝へもつながりがあるため、患者さんの虚血の改善はかなりできそうと考えました。
状態が悪いため、安全を見越してIABPという補助の風船ポンプを入れてオフポンプバイパス手術を行いました。
前下降枝はさすがに 4回のPCI治療で傷んではいましたが、内胸動脈の血管保護作用で使えそう、右冠動脈もあまり良い血管ではないものの、使える所見でした。
それぞれに内胸動脈グラフトと静脈グラフトをつなぎ、手術は問題なく終わりました。
術後の冠動脈のCT画像を示します。2本のバイパスは良く流れ、かなりの広範囲の心筋を灌流しているようです。
右図は内胸動脈が左前下降枝を灌流している所見です。その右上にミミズのように見える白っぽい構造物がステントと肥厚内膜です。
下図は静脈グラフトが右冠動脈を灌流している所見です。何本かの枝に流れるためこれも役に立つバイパスになるでしょう。
これなら患者さんの予後の改善に役立つでしょう。地元の先生と協力して、心臓を守る薬をしっかりと使えば効 果はさらに上がるかも知れません。
遠方かつ体力のない患者さんのため、通常よりややゆっくり入院していただき、術後12日目に元気に退院され、四国へ戻られました。
その後もお元気に暮らしておられます。
こうした患者さんのお役にも立ててうれしいことです。
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大動脈炎症候群(大動脈炎)は今も油断ならない病気です。
放置すると大動脈だけでなくあちこちの動脈がやられてその結果、眼が見えなくなったりします。大動脈のどこかの部分が瘤つまりこぶのように広がると破れる心配がでてきます。大動脈基部が壊れて広がると破裂の恐れもありますし、大動脈弁閉鎖不全症となって弁膜症を合併してしまいます。
若い女性が多いだけに、弁膜症となると長持ちする機械弁をと短絡すると将来の妊娠や出産に大きな困難を残しますし、生体弁では長持ちしません。
ライフスタイルを含めた長期的なプランにしたがって治療戦略を立てる必要があり、とくに予防と二次予防つまり治療のあとの再発防止も大切です。
患者さんは20代前半の女性で近くの大学病院にて大動脈炎症候群の診断でステロイドによる治療を受けておられました。
しかし病気が進み、大動脈基部は拡張し(左写真)、その結果、大動脈弁は寸足らずとなり大動脈弁閉鎖不全症を合併していました(右図)。
労作時の息切れが強くなり、ときどき胸痛を覚えるようになって私の外来へ来られました。
ステロイド剤が一日 10mgを割ったタイミングで、手術することになりました。
ステロイドが多量に入った状態では創が治りにくくなったり、酷い時には人工弁や人工血管がはずれることもあり得るからです。
そもそもこの患者さんの将来設計とくに妊娠出産のためには自己弁(弁尖)を温存するデービッド手術が必須で、極力これを行う方向で準備しました。
弁尖は大動脈炎にはやられないというデータがあるからです。
大動脈基部再建手術の世界的権威であるペンシルベニア大学のバーバリア先生(Prof. Joseph Bavaria)の御意見もいただき、
私の意見(弁尖はこの病気にやられないから温存する)を支持していただき、
勇気百倍で手術に臨みました。
周囲組織と癒着し(右図)、壁はもろく弱くなっていましたが、
大動脈弁の弁尖はきれいで温存すべき所見でした(左下図)。
そこでまず大動脈弁の弁輪部と弁尖および左右冠動脈入口部を残して大動脈基部を切除し、
これをダクロン人工血管の中に入れ込み、縫着しました。
ついで3つの弁尖が正しいレイアウトになるように3交連部の三次元位置を調整してから大動脈弁輪部付近の大動脈壁を縫着し、
人工血管を上行大動脈の遠位部に連結して手術を終えました。
術翌日には集中治療室を退室して一般病棟へ戻られました。
大動脈炎のコントロールがたいせつなため、
しば し入念にステロイドを調整し、CRPも1.9まで低下改善したため、
術後約2週間で元気に退院されました。
その後は膠原病の専門の先生と、私たちの外来の両面からフォローし、
お元気にかつ大動脈炎症候群も軽快安定した形で暮らしておられます。
今後は健康生活を楽しむとともに、
二次予防つまり大動脈炎を再燃させないように外来でしっかり見守って行く予定です。
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ミックス手術つまり低侵襲小切開手術はどちらかといえば若い元気な患者さんたちの、美容上の利点のために行われる印象があります。
もちろん安全性が確保される限り、そうした美容上のメリットも意義のあることと思います。
しかしそれにおとらず、痛みや苦痛を減らし、早く社会復帰・仕事復帰ができるミックス手術あるいは術後の運動・リハビリを促進して肺炎などの術後合併症を防ぐことで安全性を高めるのもミックス手術の利点と思います。
そのため私たちは合併症がおこりやすいと言われるご高齢の方にも安全性を確認しながらミックス手術を行っています。
患者さんは80歳男性で紀伊半島から来られました。私自身、時間があれば旅行したい素晴らしいところです。
10年前から大動脈弁閉鎖不全症と僧帽弁閉鎖不全症のため近くの病院へ通院しておられました。
農業を営んでおられ、
最近仕事のあとの疲れがひどくなったため、困って私の外来へ来られました。
実際、心臓のホルモンであるProBNPは2464もあり、
これは重症心不全のレベルでした。
同時に慢性の腎機能障害(CKD)もおありです。
心不全に対する利尿剤なども次第に使いづらくなってきていました。
中等度の僧帽弁閉鎖不全症、そして中等度の三尖弁閉鎖不全症(下図)があり、
左室拡張末期径LVDdも60mmを超え、左室駆出率も51%と低下傾向にあり、
ガイドラインでも手術の適応に入っていました。
また早く農業に復帰して戴くためもあり、
そして肺炎などの合併症を防ぐためにミックス法で3弁の手術をすることになりました。
この患者さんの場合は、3弁すべてを治す大きな手術でしたので、右小開胸によるポートアクセス法ではなく、胸骨下部部分切開という胸骨の一部だけ切る方法をもちいました。
生体弁をもちいて僧帽弁置換術ついで大動脈弁置換術を行い、
心臓を動かしつつ三尖弁形成術を行いました。
ミックス法では視野が多少狭くなり、時間がかかることが多いのですが、
心臓を止める時間が長くならぬように工夫しました。
手術はスムースに終わり、
手術翌日には集中治療室を退室し、一般病棟へもどられました。
その 後も経過良好で、通院に時間がかかる遠方のため、十分元気がでてから退院して戴こうという方針にて、
術後3週間あまり入院してリハビリなどを行っていただき、元気に退院されました。
退院時のレントゲン写真でも心臓はすでに小さくなり肺もうっ血が取れてきれいになっておられました。
80歳というご年齢でこれだけの回復はご本人様やご家族の努力と姿勢の賜物ですが、
痛みが少ないミックス手術も一役買ったのであればうれしいことです。
この患者さんの場合は美容よりも安全重視のため、皮膚切開は思い切りは小さくありませんが、それでも通常よりかなり小さく、夏に畑で半そでシャツを着ていただいても、創がそれほど目立たない程度になったものと思います。
外来でもお元気で、
今は真冬ですが、春になれば農作業も順次楽しくこなして頂けるものと期待しています。
心臓手術とは単に生きるだけのために行うものでなく、
前向きに、元気に建設的に生きるためにも行うものと私は考えています。
こうした考えを共有して下さる患者さんが増え、
その分さらに安全性を追求し、ご希望にお応えしたくチーム全員で思っています。
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参考ページのIndex:
ポートアクセス法にかかる費用は?
ミックスは危険なの?
術後の痛み軽減について
社会復帰が早いわけは?
美容について
胸骨「下部」部分切開法とは
ビデオ 連合弁膜症のご高齢患者さんへのミックス法・3弁手術
僧帽弁
ミックスによる弁形成
同、弁置換
ポートアクセスによる弁形成術
大動脈弁
ミックスによる弁置換
同、弁置換
三尖弁
ミックス法による弁形成
患者さんやご家族からのお便り
お便り43 がんの手術後に心臓腫瘍がみつかった患者さん
お便り46 遠方からご自分の信念で来院下さった患者さん
お便り48: ミックスですみやかに社会復帰された患者さん
お便り50: 大動脈二尖弁と上行大動脈瘤の患者さん
お便り54: ポートアクセス法で弁形成を受けた若者患者さん
お便り59: 被災地支援へ!同法の弁形成術を受けられた患者さん
お便り61: ミックスのデービッド手術のため三重県からお越し下さった患者さん
お便り62: 同、弁形成術と冠動脈バイパス手術を受けた患者さん
お便り63: ポートアクセスの複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん
お便り65: 同法による弁形成で元気になられた患者さん
お便り66: バルサルバ洞破裂と心室中隔欠損症などを克服した患者さん
お便り68: ポートアクセス法の弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん
お便り70: 自己心膜で大動脈弁形成術(再建術)をミックス法で受けた患者さん
お便り71: ミックス手術で大動脈二尖弁形成を受けた15歳の患者さん
お便り72: 二弁置換とメイズ手術をミックス法で受けた患者さん
お便り73: リウマチ性連合弁膜症と心房細動をミックス法手術で克服
お便り74: ポートで弁形成とメイズ手術を受けた患者さん
お便り78: ベントール手術をミックスで受けられた患者さん
心臓腫瘍の大半は粘液腫で、中年期以後はその多くが良性腫瘍です。
まれに心臓原発の悪性腫瘍が見られます。
悪性腫瘍の場合、極力完全切除することが長期間生きるために必要です。
そのためには心臓をしっかりと再建する技術が求められます。
下記の患者さんは3か月前、呼吸苦と前胸部圧痛のため近くの大学病院を受診されました。
そこで心臓腫瘍の診断を受けました。
心臓の周りに多量の水が貯まっていましたが、そこからは悪性腫瘍細胞は検出できませんでした。
MRIやCT検査で体の他の部位にとくにがんらしきものはありませんでした。
消化管や子宮・卵巣にも問題なく、PET-CTで心臓の悪性腫瘍の疑いとなりました。
造影CTと心エコーで右房腫瘍が確認され、その範囲は上は上大静脈の洞房結節の一部を巻き込んでいるものの、下大静脈や右冠動脈までは進展していない、というものでした。
こうした結果を踏まえて、専門家の手術を受けたいと、米田正始の外来へ来られました。
最終的には実際に胸を開けて右房腫瘍を見てからの判断になると考えられましたが、根治性つまり完全切除できるなら腫瘍の全摘除と右房再建を、完全切除ができないときには腫瘍摘除か心膜開窓術というおよその方針を確認しました。
また心臓手術のあとで抗がん剤や放射線治療になる可能性を考え、できるだけ早く創が治り体力が回復するようにミックス法で手術することにしました。
さらに、もしもあまり永く生きられないという状況になったとしても、その間、できるだけ苦痛が少なく楽しく有意義に暮らせるようにとの気持ちもあってミックス法を選びました。
この患者さんの場合は右開胸のミックスつまりポートアクセス法は少々無理があると判断し、胸骨下部部分切開による方法を選びました。
こうして小さい創で心臓に達しました。
右房全体が腫瘍で充満する形でしたが、心膜との癒着は右側だけで、この部は心膜も切除して、万一そこにがん細胞がいても困らないようにしました。
予想どおり洞房結節の一部までがんにやられていましたので、この結節の一部も切除しました。
下大静脈のところも無事に腫瘍全摘除できました。
右冠動脈にも問題なく、ただしその近くまで右房壁をほぼ全部取る形で腫瘍摘除しました。
右心耳のところだけ腫瘍がなく、この部は温存できました。これはあとで心臓ホルモン(利尿ホルモン)を出してくれるので、術後の心不全を予防できて幸いでした。
腫瘍を肉眼的には全摘除できましたが、念のため、冷凍凝固で見えない癌細胞がもし残っていてもこれを死滅させるようにしました。
それからウシ心膜をもちいて右房を再建というよりあらたに造りなおすようにしました。
術後経過は良好で、手術翌日、一般病棟へもどられ、術後10日で元気に退院されました。創の痛みも少なそうでした。
切除標本の検査の結果は、血管肉腫という、ある種のがんでした。
前もって打ち合わせどおり、近くの大学病院のがん専門の先生に集学治療を行って頂いています。
これまでのところ、転移も再発もなく、経過良好です。
ぜひがんばって根治し、元気に永く暮らして頂きたく思っています。
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バルサルバ洞(右図の「バ洞」のところです)は大動脈のいちばん根っこの部分、大動脈基部にあるふくろ状の構造物で、これが弱くなり膨らんで瘤(りゅう、こぶのこと)になりますと隣接する右房や右室に破れることがあります。
いわゆるバルサルバ洞破裂というものです。
とつぜん血液が多量に右房か右室へ流れ込むため、すぐに肺がうっ血し苦しくなります。酷い時には倒れてしまいます。いのちの危険があることもあります。
治療法は手術でこのやぶれたバルサルバ洞を修復することです。
心室中隔欠損症を伴っている場合はこれを閉じてバルサルバ洞を守るようにします。
さて患者さんは20代の男性で大阪から来られました。
その2か月まえにこのバルサルバ洞の破裂に対して現地の病院にて緊急手術を受けられました。
術後まもなくバルサルバ洞が再破裂し、このままではどうにもならなくなって私の外来に来られました。
エコーで見ますと、バルサルバ洞が再破裂しており、しかも右房と右室の両方に血液が噴射されていました(写真右)。
このままでは心不全が進行し、いのちにもかかわってくるため、再手術することになりました。
前回の手術から2か月ほどしか経っていないため、癒着が高度で、ひとつ間違うと大出血する状況でした。
そこで丁寧に癒着を剥離し、心臓の全貌が見えました。
ここで体外循環を回し、心臓を止めてから右房と大動脈を開けて中を見ました。
前回の手術ではバルサルバ洞瘤が破れたところを大動脈側からと右房側からの両方で糸で閉じてありました(写真左)。
しかし残念ながら、瘤のところを縫われていたため、その組織が大変弱く、せっかく縫ったところがちぎれて穴が開いていました。
これでは血液がまた漏れて、瘤破裂の再発です。
瘤でない、しっかりとした組織を縫ってバルサルバ洞を守りつつ穴をふさぐことが大切です。
そこで私たちがいつも大動脈基部で行っているデービッド手術の要領で、大動脈弁輪に糸をかけ、そこへウシ心膜を縫着してバルサルバ洞を内側からガードし、あわせて血液の漏れを消すようにしました(写真右)。
同様に右房側からも前回の瘤を閉じたところを、もう少し遠巻きにして、三尖弁輪などのしっかりした組織を活用でして、右房側のバルサルバの破裂口をしっかりとふさぎました。
術後経過は順調で、手術翌日には集中治療室ICUを退室され、一般病棟へ戻られました。
術後エコーでバルサルバ洞の穴はきれいに取れ、正常の血流にもどっていました。
やや遠方からお越しのため、通常よりじっくり入院期間をおきましたが、13日目に元気に退院されました。
その後も外来でお元気なお顔をみせて下さいます。
手術後1年の心エコー検査でもバルサルバ洞はきれいで、血液の漏れもゼロで正常、心臓の大きさや形、パワーも正常でよろこんで頂けました。
これから自信をもって普通の生活を、スポーツなども含めて楽しんで頂ければと思います。
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三尖弁閉鎖不全症(略称TR)は高度かつ長期間になると肝臓のうっ血から肝硬変を引き起こします。
こうなると心不全だけでなく肝不全となり命を落としてしまいます。
三尖弁閉鎖不全症だけだからと内科の先生が放置した結果、気が付いたときにはすでにDICという全身が危険な状態で出血のため手術もできなくなっていたという不幸なケースを聞いたこともあります。
油断してはならない病気なのです。
患者さんは大阪から来られた80歳近い男性で、10年前に近くの大学病院で高度の三尖弁閉鎖不全症と心房細動と診断され、薬などで治療されていました。
4か月前から急に息切れが強くなり、手術が必要だが危険だと言われて私の外来へ来られました。
高 度の三尖弁閉鎖不全症(TR)があり、その背景に左室の強い拡張機能障害つまり左室壁が硬くなって、血液を入れ込むべき拡張期に血液を取り込みにくくなる、吸い込みにくくなる状態がありました。そのために血圧と同じほどの、高度の肺高血圧症もありました。
心臓のホルモンであるProBNPは3170と極めて高くなり、重い心不全の所見でした。
さらに調べますとチャイルド分類Aの肝硬変を合併していました。コリンエステラーゼChEは148と低下し、内蔵うっ血のため血小板は9.3万、ヘマトクリットも25.5とかなり少なくなっていました。CTで肝臓は縮小気味でした。さらに悪いことにクレアチニンCr 1.45と腎臓も弱っている、いわゆるCKD状態でした。
そこで私たちの方法をもちいて、まず入院していただき、たっぷり時間と手間をかけて心臓や肝臓のうっ血を軽減するようにしました。
努力の結果、6週間後には肝臓も少し落ち着き、水分が取れて体重も軽くなり、上記の肺高血圧も血圧の半分ぐらいまで改善し、全身状態も改善したため、このベストタイミングで手術しました。
患者さんのからだへの負担を最小限とするため、ポートアクセス法という右胸に小さい創をひとつつけるだけの、患者さんにやさしい手術法でアプローチし、三尖弁形成術を行いました。
三尖弁だけの手術で、かつ安全性を高めるため、心臓を止めずに動かしたまま三尖弁形成術を行いました。
術後経過は順調で、翌朝には集中治療室ICUを出ることができました。心配された肝機能もまずまずよく持ちこたえ、総ビリルビンも4弱で治まり、あとは正常化して行きました。自然のペースメー カーが弱く、術後は心房細動は取れて正常リズムにはなりましたが、徐脈(脈拍が遅いこと)のため、術後2週間でペースメーカーを入れて改善安定しました。
遠方でかつ重症であることを考慮し、術後3週間入院治療を行い、それから元気に退院されました。
比較的ご高齢で肝臓も腎臓も弱っている状態でも心臓手術に耐えられることを示して下さったと思います。外来でお会いするのが楽しみです。
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参考ページのIndex:
とくにポートアクセス手術とは
ハートポートとは
ポートアクセスの位置づけは
それが前向きに安全な場合
美しいポートアクセス・心臓手術のためのLSH法とは?
かかる費用は?
ミックスは危険なの?
術後の痛み軽減について
社会復帰が早いわけは?
心臓手術と美容について
胸骨「下部」部分切開法とは
ビデオ 心臓手術:ポートアクセス法による僧帽弁形成術
三尖弁
ミックス法による三尖弁形成術
同、メイズ手術
患者さんやご家族からのお便り
お便り48: すみやかに社会復帰された患者さん
お便り54: 僧帽弁形成術を受けた若者患者さん
お便り59: 被災地支援へ!ポートアクセス法の僧帽弁形成術を受けられた患者さん
お便り63: 同、複雑僧帽弁形成術を受けられた患者さん
お便り65: 同、僧帽弁形成術で元気になられた患者さん
お便り68: 同法の僧帽弁形成術を受けたバーロー症候群患者さん
お便り74: 同法で僧帽弁形成術とメイズ手術を受けた患者さん
肝硬変の患者さんとくに病気が進んだ肝硬変はいろいろな注意が必要な重い病気です。
そのため肝硬変の患者さんが心臓病になり、心臓手術が必要になると、手術を断るケースが多数あります。危険すぎるからです。
しかし手術しないと肝臓がさらに悪くなる、まもなく命を落とすという状況ではどうすれば良いのでしょうか。
私たちはこの問題に長年向き合い、努力して治療成績を改善して来ました。
患者さんは手術当時60歳男性で九州から来て下さいました。
10歳のときにリウマチ熱を患われています。これが弁膜症の原因になりました。
30代後半に地元の大学病院で連合弁膜症の診断で機械弁 による僧帽弁置換術と大動脈弁置換術および三尖弁形成術を受けられました。
それから20年間、経過良好でお元気にしておられましたが、2年前から労作時の息切れが強くなりました。
大動脈弁(機械弁)はパンヌスと呼ばれる自己組織の張出しで平均圧較差が39mmHgとかなり狭くなり、動きが妨げられていました。ポンプである左室のサイズは拡張末期径44mmは正常で、駆出率76%も正常、つまり正常のちからが保たれていました。しかし強烈な三尖弁閉鎖不全症を合併しており、肝臓を含めた全身がうっ血し、内蔵の傷害が起こっている状況でした。
しかも不運なことに、昔の心臓手術のときに輸血を受けられ、当時のことですのでC型肝炎になってしまわれたのが、次第に進行していました。現代なら輸血でC型肝炎になるのは万にひとつ、千にひとつのまれなことなのですが、当時は少なからずあったのです。
その病院でチャイルド分類Bの肝硬変の診断を受けました。つまりかなり重症で、心臓手術に耐えるちからがないかも知れないレベルというわけです。
実際総ビリルビン値は3.4と高めで肝臓のちからを示すコリンエステラーゼは141、同じくコレステロールは154と低く、肝臓がかなりやられている所見でした。
CT写真で長年の弁膜症のため巨大化した心臓と、しぼんで小さくなってしまった肝臓が見られました。肝硬変が進行したときの姿です。
地元の大学病院で心臓手術は危険すぎると言われたのは当然のことでした。しかしこのままではそう永くは生きられない、もし生き残ろうとするなら、何としても弁膜症を治すしかないという抜き差しならぬ状態でした。
私たちはこうした患者さんを京大病院時代から全力をあげて手術治療して来ました。
何とかご期待に沿えるよう、これまでの経験、ノウハウを駆使して治療を開始しました。
まず何週間もかけて、適正な減塩食、くすり、点滴、ストレス軽減などでじっくりと肝臓のうっ血を減らし、少しでも肝臓のちからを回復させるようにしました。
その結果体重は3kgは減り、つまり水がそれだけ抜けましたが、それ以上は改善できませんでした。
ビリルビン(黄疸の原因色素です)も2.6前後までは下がりました。
しかし肝硬変のため血小板や白血球という、手術を乗り切るために必要なものが正常よりはるかに少なく、血小板4万、白血球は1600と危険なレベルでした。
このままでは死を待つという状況でしたので、せめて患者さんが歩く体力のあるうちにということで手術に踏み切りました。
丁寧に剥離し、心臓が見えてきました。
パンヌスが弁の周囲に造成していました。
パンヌスを取り去り、大動脈弁を新しい高性能機械弁で取り換え(大動脈弁置換術)、
三尖弁はすっかり弁が縮
まって使えない状況でしたので生体弁で取り換え(三尖弁置換術)しました。
手術がスムースに完了したため、手術の翌日には人工呼吸を外れ、話ができる状態になりました。
2日目には強心剤も不要になり、3日目にはICU(集中治療室)を無事に出て一般病棟へもどりました。
毎日歩き、食事も増え、思ったより楽でしたと笑顔が見られました。
しかし大変なのはこれからと皆、用心をしていました。
実際、手術から3日目ごろから次第に熱がでるようになり、検査や治療にもかかわらず1週間で高度の発熱をみるようになりました。
創もきれいでとくに悪いところはなく、おそらく術後よくある小さい無気肺が肺炎を起こしたものと考えられました。
それらへの治療を進めつつ、しかしビリルビンが急に上昇して9に達したためICUに戻っていただき、透析やビリルビン吸着などの集中治療を肺炎治療などとともに行いました。
一時は危険な状況のときもありましたが、術後経過2週間半で何とか落ち着き、一般病棟へ戻られました。
その後は毎日運動や食事を進め、術後4週間で元気に退院されました。
退院の日には腕をとって、私も思わず泣いてしまいました。
あれから2年以上が経ち、九州から飛行機で外来へ定期健診に来られます。お元気なお顔を見るたびに苦しかったときを想い出します。
いのちがけの戦いに勝った人だけがわかる、生きることの素晴らしさを共に感じています。
頑張ってくれたチームの諸君と、誰よりも患者さんに感謝申し上げます。
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機械弁つまり金属でできた人工弁は多くの弁膜症患者さんをお助けして来ました。
今後もその貢献は続くでしょう。
しかし自然の弁とくらべて弱点があり、注意が必要です。
以下の患者さんは10年前に他院(関東地方)にて機械弁の手術を受けられました。
その2年後、感染つまりばい菌が機械弁を襲い、弁が外れていのちの危険が迫ったため、再度機械弁を入れる手術を受けられました。
しかし人工弁は異物であり、ばい菌に対する抵抗力はありません。これが自然の弁と大きく違う点のひとつです。
ばい菌がいるところへ人工物・異物を植え込まざるを得ない状況から、また新たな感染が起こり、新しい人工弁もまたはずれるという事態が起こったようです。
こうして2年後に3度目の僧帽弁手術を同じ病院で受けておられます。
3度目の手術で何とか落ち着いたようですが、やはりまた弁を縫い付けたところの一部が外れ、そこから血液が漏れ、逆流したようです。
こういう場合、その逆流は次第に増加し、そのために溶血(血液が壊れる)が起こり、高度の貧血のために頻繁に輸血を行わねばならなくなりました。
また溶血が続けば腎臓が次第にやられていきます。
人工弁とその周囲の逆流による貧血、心不全、腎機能障害、そしてやむなく輸血を続けておればいずれは肝炎にもなるでしょう。
ちなみにProBNP(心臓のホルモン)は6330と異常高値、総ビリルビン3.9と黄疸あり、LDH 1964と強い溶血の所見、輸血にもかかわらずヘマトクリット30と貧血が進行していました。
心エコーでも僧帽弁(人工弁)周囲に強い逆流が2つもあり、右室圧も50-55mmHgと肺のうっ血が進んでいました。
しかし4度目の心臓手術とは世間一般にはかなり危険なこととされています。
再手術や弁膜症になれたチームだけが救命できる、そういう手術です。
患者さんとそのご家族は生きるために一生懸命勉強され、弁膜症や再手術を得意としている外科医や病院を探されました。
そして私の外来へ来られました。遠い関東から手術を求めて来て下さったのです。
調べますと機械弁が僧帽弁の位置に縫い付けられているはずのものが、すでにかなり外れており、逆流も強く、貧血と腎不全が進行していました。
もはや手術しか救命する手立てはないという判断になりましたが、前回の手術で大動脈の枝が胸骨に食い込んだ形になっており、胸骨をのこぎりで開けたとたんに大出血が起こりやすく、いったんそれが起これば命にかかわる事態になるため、対策を考えました。
その結果、若い患者さんたちに行っているミックス手術とくに右開胸で小さ目の創で手術をするポートアクセス法が一番良いのではということになりました。
右開胸ならば大動脈の枝と胸骨が癒着していても出血などの問題は起こらず、スムースに手術できます。
ポートアクセス法は一般には創を小さくするという若者向けの美容効果狙いの手術という一面がありますが、この患者さんの場合は一義的に安全狙いでした。
特殊な状況のためいつものポートアクセス法よりは大きめの切開をもちいました。
しかしさすがに上行大動脈付近がガチガチに癒着し、これを遮断できない状態です。(左写真の矢印は剥離中の左房を示します)
そこで風船を上行大動脈の中に入れて内側から遮断しようとしましたが、
これもなかなか良い位置で安定せず、ここは人為的な心室細動で短時間心臓をけいれんさせ、その間に左房を開けて治すことにしました。
この方法はいざという時に有用な方法ですが、短時間しか安全には使えません。
左房を開け、直ちに僧帽弁を調べると、
すでに3分の1周は外れており、残りもかなり弱っていました。
右写真の矢印は人工弁の一部、はずれていた部位を示します。
これは縫合部を補強するより新しい人工弁を入れ替えるほうが早いと判断。
(左写真は取り外した古い人工弁です。
右上の少し白っぽいところが完全にはずれていた部分で、その前後もすきまが開いていました。)
ただ以前の手術で裂けて外れていた部位は自然の弁輪がなく、
そのまま人工弁を縫い付けてもまた外れかねない状態でした。
そこでウシ心膜であらたな弁輪をつくりつつ、新しい機械弁をがっちりと縫い付けました。
時間の余裕がないため、すべて一発で決める必要がありましたが、確実に処理しうまく行きました。
短時間で左房閉鎖まで進み、心臓の拍動を再開し、無事手術は終わりました。
(下の写真は新しい人工弁を取り付けつつあるところです。)
術後経過は4回目の手術とは思えないほど順調で、翌朝には集中治療室を退室し、一般病棟へもどられ、
術後10日あまりで元気に退院されました。
外来の定期健診でお会いするのが楽しみです。
心臓が良くなったため、貧血は消え腎臓も回復し、これから体力をつけて元気に楽しく過ごして頂ければ幸いです。
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右室二腔症は生まれた時からの病気で、右室の中にくびれがあり、血液の流れが悪くなります。
大人になってそのくびれがきつくなり、次第に悪化することがあります。
あまり進むと心不全や不整脈、突然死などの原因にもなります。
患者さんは53歳の女性で、関西の大病院から紹介を受けて来院されました。
5年前に不整脈のためカテーテルアブレーションつまりカテーテルで悪い心臓神経を焼く治療を受けておられます。
右室内のくびれが強くなり、くびれの手前側の圧が血圧を大きく超えるという危険な状態で手術を希望して来られました。くびれの部分での圧較差は126mmHgにも達していました。
実際、運動時などに息切れや動悸が強くなるなどの症状がでていました。
また右室圧が上がり過ぎて、右室から左室へ血液が流れる、右―左シャントと言われる状態ではちょっとした足の静脈の血栓でも脳梗塞などが起こりやすくなります。
患者さんが仕事で忙しいこともあり、心臓手術後の痛みが少なく、社会復帰・仕事復帰が早いミックス手術にて右室二腔症と心室中隔欠損症VSDを治すことになりました。結果的に創も小さく、夏服でもあまり見えず、術後の心臓リハビリなどもやりやすいため、前向きに検討するようになられました。
手術では長さ10㎝あまりの小さい創で、胸骨も部分的にしか切らないようにしました。
人工心肺のもと、心臓を一時止めて右房と右室流出路を切開して、中へ入りました。
まず右房から三尖弁ごしに右室の中を調べました。VSDは右房からは見えない位置にありました。
そこで右室流出路から右室を見ますと、右室心筋が高度に肥大し右室の中がほとんど見えないほどになっていました
(左上図、この向こうに狭窄があり右室の中がほとんど見えません)。
そこで右室の異常心筋を順々に切除し、しかし三尖弁の乳頭筋には影響を与えないように注意しつつ、狭窄を完全に取り去りました
(右図、異常心筋を多量に切除し、右室の入口にある三尖弁乳頭筋まで見えています、広々としました)。
狭窄をある程度以上残せば、狭窄が狭窄を呼び、将来また同じ二腔症が再発する恐れがあるため、完全に狭窄を解除したわけです。
VSDは右室のやや肺動脈弁に近い、しかし肺動脈弁から少し離れたの筋肉にぽっかり空いており、これを直接閉鎖しました。
右室の切開部にはドーム状の天井のようなパッチで閉鎖しました。
この結果、右室内の狭窄は完全に取れ、直接圧測定しても圧較差はゼロという良好な結果でした。
VSDもきれいに閉鎖していることが心エコー・ドップラーで確認できました。
術後経過順調で、ミックス手術のおかげで痛みも軽く、運動も順調に進み10日と経たず元気に退院されました。
ミックス手術すなわち小切開低侵襲手術は美容上の目的で行われるような印象がありますが、それだけではなく、痛みの軽減や早い社会復帰、そして合併症の防止にも役立ち、安全性の向上にもつながるのです。
もちろんミックス手術の創の小ささから、「夏服が着れる」というのは術後の楽しみが増えるというものです。
患者さんは遠方からまた外来へ定期健診にお越し下さるとのことで、再会を楽しみにしています。
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