お便り109 巨大な心房中隔欠損症などのためMICS手術を

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心房中隔欠損症(略称ASD)はそう怖くない心臓病と思われている 142991182ふしがあります。

しかしその穴が大きく、多量の血液が漏れたり、心臓や肺が壊れてくると危険なことさえあるのです。

つぎの患者さんは50代の男性で働き盛りの中、心房中隔欠損症のため心不全が発生し苦しくなって遠方から米田正始の外来へ来られました。

穴は巨大で、もれる血液が多いことから右心房や右心室も巨大、そのため三尖弁も付け根が広がり強い逆流つまり三尖弁閉鎖不全症を合併していました。心房細動などの不整脈も併発していました。

患者さんが安全に確実にお元気になれるMICSの皮膚切開よう、そして早い時期に仕事復帰ができるよう、ミックス(ポートアクセス)で手術を行いました。

巨大な穴を患者さんの自己心膜で閉鎖し、三尖弁を形成し、右心房のメイズ手術を行いました。

術後経過は不整脈などのため少し時間を要しましたが、おおむね良好で日一日と回復され、お元気に退院されました。

外来でも体力がついてきておられることがわかり、喜んでいます。

以下はその患者さんからのお便りです。これから楽しく活発に仕事や楽しみに熱中してください。

***** 患者さんからのお便り*****

 前略 IMG_0626

朝夕はずいぶんと涼しくなりました。米田先生はじめハートセンターの皆様にお

かれましては、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。

この度は私の心臓手術に関しまして本当にお世話になりありがとうございました。

当初はあまり自覚症状も無く病気に対してただ漠然と考えているだけで月日が経
つばかりでした。

しかし、二年ぐらい前から動悸、息切れなどを感じるようになり、地元病院の先生からも手術の事を促がされるようになり、不安も募ってきて、病気に対して真剣に向き合っていかねばと思うようになりました。

一年前ぐらいから自分の病気がどのようなものであるか、又、それの治療方法、手術と調べるようになり、今年の春先から手術をお願いする病院、先生を捜し始めました。

っと決めかねていた時に、七月初め、米田先生並びにかんさいハートセンターの
事を知りました。目の前が明るくなり、進むべき道が現れたと思いました。そし
て、ここでお世話になり手術受けようと思いました。

とは言っても人生で初めての入院、手術。しかも心臓という事で不安が無かったとは言えませんでした。

も先生に初めてお出会いした時から、判りやすい説明と身近に感じる先生の人柄
で、何の不安も無く手術に望む事ができました。

術後も何らかの症状が出る度に、先生方の説明や看護師さん達の暖かい対応により無事退院を迎える事ができました。

一カ月余りの入院生活を、このような環境の中で、送らせてもらったこと、本当にありがたく思っております。

今退院を終え、長い間頑張ってきてくれた心臓にお礼をいいたい気持ちで一杯です。そして、今回の手術によって、治していただいた心臓とうまく付き合っていけたらと思っております。

これからも、このハートセンターが多くの患者さんを救ってくれる事と信じております。皆様の御健康と御活躍をお祈り申し上げます。

本当にありがとうございました。

草々  

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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お便り95: 絶体絶命の中から生還された修正大血管転位症の患者さん

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修正大血管転位症は長期的にはまだまだ重く厳しい病気です。


A335_020それは全身に血液を送る大型ポンプの役割をもつ左心室と肺に血液を送る小型ポンプである右心室が入れ替わっているために、小さいポンプで全身の血液循環を担わねばならず、長い間には無理が重なり、拡張型心筋症のような心不全になるからです。

私たちはこうした患者さんを長期的に支援する取り組みをして参りました。修正大血管転位症の小型ポンプをできるだけ守り、チューンナップして、できるだけ補助循環(VASやVAD)や心移植を避けられるように、かりに避けられない場合でもその時期を遅らせ、自然に楽しく暮らせるときを永くするように努力しています。

患者さんは10代半ばの少年で、肺動脈閉鎖と心室中隔欠損症も合併しており、小さいころ手術でそれらを治していちおう元気になられ、10歳代に2回の手術でさらに修復され、健康を維持しておられました。

ところが2年前から三尖弁閉鎖不全症(健康な心臓では僧帽弁閉鎖不全症に相当)を合併し、そのために心不全や重い肺高血圧が進行し、5分も歩けないほどの状態になって米田正始の外来に来られました。

先天性心疾患で高名な先生のところや、東京の高名な先生のところへも相談に行ったそうですが、いずれも手術は無理とのことで、最後の望みをかけて私の外来に来られたのです。

これまで何人もの修正大血管転位症の患者さんをお助けして来ましたので、そのノウハウを結集して何とか元気になっていただこうと、心臓手術をお引き受けしました。

この患者さんの主治医は関西の有名大学病院小児科の先生で、その先生の想いと私の想いがぴったり一致したこともあり、何としてもこの難局を突破しようということになりました。

4回目の手術で、心不全が強く、肺高血圧が極度に悪化という条件で、なかなか苦労しましたが、さまざまな工夫を凝らして手術(三尖弁置換術、通常の心臓でいう僧帽弁置換術)は無事に完了しました。

じぶんで言うのも何ですが、京大病院を辞めて6年間、心臓手術を磨いて来たつもりですが、この間、無駄飯を食べていなかったと実感できる内容でした。ミックス手術や心臓再手術の経験も活きました。

しかし手術のあともしばらくは肺高血圧クリーゼと呼ばれる、いのちにかかわる発作が起こりやすい状態のため、2日かけて心臓と肺の補助をそれぞれ行い、時間を稼いで安全を守り、それから徐々に運動を始め、体力をつけて頂きました。

患者さんは大変頑張り屋さんで、心臓リハビリを積極的にこなしてくれて、体力を次第につけて行ってくれました。

一時、脚の創にばい菌が入ったための治療を行うことで入院は長引きましたが、術後1か月で入院時とはずいぶん違う元気な状態で退院されました。

外来でお母さんの笑顔とともに患者さんの元気な顔を拝見し、よく頑張ってくれた!と賞賛したい気持ちがこみ上げてきました。これからも長い道のりですが、それだけ楽しみも増えるわけで、しっかりサポートしたく思いました。

下記はこの患者さんと、そのお母様からのお便りです。本当によく頑張った!とほめてあげたく思います。

 

***** 患者さんからのお便り *****


米田先生、深谷先生、北村先生、木村先生へ

今回は手術して頂きありがとうございました。

四度目の手術でリスクも高く、色々な病院にも断られ、最後の最後にこの病院に訪れました。

最初は診察室に入った時、また断られるんじゃないかと思っていましたが、すぐに手術の話になり、手術自体も「やる」と言って下さいました。


あの時は本当に嬉しかったです。先生方に人工弁の弁置換術の手術をして頂きました。


さらに、剥離がデメリットにならないように左脇からの切開で行って頂きました。

しかも、僕のためにわざわざ、小児心臓の先生まで呼んで頂きました。工夫を重ね、少しでもリスクのないように手術をしてくれた先生方には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

本当にありがとうございました。先生方に救って頂いたこの心臓を大事に使っていきたいと思います。

手術してくれてありがとうございました。

****

 

 

***** 患者さんのお母様からのお便り *****


この度の手術入院では大変お世話になりました。ありがとうございます。

米田先生初め医師の皆様、看護師の皆様、手厚い治療と看護に心から感謝致します。

幾度と重なる手術でなかなか回復の見込みもなく、絶望的になっていた頃、米田先生の事を子供から聞きました。

その時に僕の心臓は米田先生にしか治す事が出来ないと言われ今回の手術に挑みました。

一時はどうなるかと不安でしたが、日増しに元気になって行く姿を見て名古屋に来て良かった、先生方皆様に感謝の心持でいっぱいです。


先生本当に救って頂きありがとうございました。7月10日退院致します。

帰ったら一番心配していた亡き夫に元気にして頂いた事を報告します。

皆様 本当にありがとうございました。

平成25年7月10日

****

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
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元・京都大学医学部教授
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お便り90: 肝機能障害のある三尖弁閉鎖不全症にミックス手術を

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患者さんは80歳男性で三尖弁閉鎖不全症のため心不全を合併し、近くの大学病院で手術が必要と言われてから米田正始の外来へ来られました。やや遠方の大阪からお越しになりました。


A335_010心不全で労作時の呼吸困難と肝うっ血のため肝機能障害も発生していました。夜間も苦しいため在宅酸素治療も受けておられました。

検査の結果、高度の三尖弁閉鎖不全症と高度の肺高血圧症が認められました。肺高血圧の原因は左室の拡張機能障害つまり左室が硬くなって広がりにくいためと判断されました。

そのままでは三尖弁だけ治すと肺高血圧に打ち勝って血液を送り出すちからが右室にない場合、いのちにかかわる事態になります。そこでまず入院していただき、肺高血圧や肝臓を含めた全身の治療を行い、幸い肺動脈圧が改善したため、そのタイミングで手術を行いました。

手術はポートアクセス法のミックス(小切開手術)で、三尖弁形成術と心房細動へのメイズを行いました。

幸い、術後経過は良好で、術後まもなく元気に退院されました。

 

以下はその患者さんのご家族からのお便りです。

 

*********** お便り ***********

 

名古屋ハートセンター
米田正始先生

昨年十月、父、****の手術では大変お世話になりありがとうございました。
 


辻野信雄さん十一月七日に無事退院させて頂きましたが、退院後胃の拡張血管からの出血でひどい貧血のため、近隣の**病院で緊急入院いたしましたが、十二月末に退院いたしました。

今年に入り、少しずつ体力回復し、杖なしでも軽く散歩が出来、入院で細くなっていた足が、ふと気づくと筋肉がしっかりとつき出し、嬉しくなりました。


三月になると急に大変元気になり、積極的に外出も仕事も、車の運転も依然と変わらず出来る様になりました。

 

入院前、父が酸素をつけていた姿を見ている近所の友人が、酸素も杖も不要になった父の歩く姿を見てとても驚いています。
 

二月六日には、八十歳を迎えることが出来、これもひとえに米田先生はじめ、皆様のおかげと毎日感謝しております。
 

もちろん減塩食をしっかりやっております。やっとそちらの外来に行く事が出来そうです。

近々予約をとらせて頂きます。

米田先生に助けて頂いた貴重な命を毎日感謝しながら家族と共に楽しく有意義に大切に使っております。

日頃の失礼をお詫びしつつ、此の機会に改めて心よりお礼申し上げます。

遅ればせながらお礼と直近の報告をさせて頂きました。

深谷先生、北村先生にもよろしくお伝えください。

本当にありがとうございました。

 

平成二十五年 四月二十五日
**** ***

 

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事例:ペースメーカー三尖弁閉鎖不全症で心不全と肝不全となった再手術患者さん

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三尖弁閉鎖不全症(TR)は軽いうちはとくに問題にならないのですが、僧帽弁膜症などに合併して高度になりますと長期の間に肝臓や全身を悪くすることがあります。

とくにペースメーカーのケーブルが三尖弁を押さえておこるTRは重症化しやすく、要注意です。

00056432_20091029_CR_1_1_1この患者さんは70代の女性です。

鹿児島でかつて機械弁による僧帽弁置換術を来院18年前に受けられました。

来院5年前に洞結節不全症候群(SSS、つまり脈が遅くなりすぎる病気です)のため、永久ペースメーカーを埋め込みされています。

それ以後はお元気にしておられましたが、次第に三尖弁閉鎖不全症TRが発生し心不全、うっけつ肝が発生、悪化して行きました。2か月まえには心不全がさらに悪化し危険な状態となったため現地の病院に入院されました。

手術するとなれば再手術でリスクが高く、肝臓も弱っており、さらに腎臓もCKDと呼ばれる慢性腎機能障害(GFR41と低下)の状態で、現地の病院では手術できないと言われ、米田正始の外来へ来られました。(写真右上はそのときの胸部X線です)

とくに肝臓はChild分類(チャイルド分類)Bで、つねに総ビリルビンが4を超えるという危険な状態でした。

来院時は総ビリルビン値は5.74もあり、このままでは手術は危険なため、まず時間をかけて心不全や肝不全、体調を改善するようにしました。1か月でできるだけ改善したところで手術に踏み切りました。

肝不全のため血がなかなか固まらないため、正中切開(胸の真ん中にある胸骨を縦に切って心臓にアプローチします)をやめて右開胸でアプローチすることにしました。

体外循環を開始し、心拍動下に右房を房室間溝に平行に切開しました。

三尖弁は弁輪拡張し、ペースメーカーケーブルが中隔尖の後尖寄りに強く癒着し腱索を巻き込んでいました。長期間のTRのためか前尖・後尖ともやや短縮傾向にあり、先端部が肥厚していました。

まずペースメーカーケーブルを中隔尖から剥離しました。このときケーブルが右室内側から外れたため、まずケーブルを中隔尖と後尖の間に埋め込みつつ、先端を右室肉柱に挿入しました。ケーブルが癒着していた腱索は肥厚短縮しており、その部分の中隔尖は右室側へ牽引されていたためこの肥厚腱索を離断し、ゴアテックス人工腱索でもとの腱索の長さより約5mm延長して再建しました。これによって三尖弁のかみ合わせは改善しました。

その上で柔軟リング27mmを縫着しました。ペースメーカーはリングの外側に位置し、リングはその部分のみ屈曲しケーブルを守る形でその部のTRもありませんでした。ペースメーカーの閾値が術前より改善しているのを確認し、念のため、ケーブルを右房側でも固定し、はずれないようにしました。

体外循環を離脱しました。離脱はカテコラミンなしで容易でした。心臓は一度も止めることなくすべての操作を完了できました。
経食エコーにてTRが軽微であることを確認しました。入念な止血ののち手術を終了しました。

術後経過は予想以上に順調で、出血も少なく、術翌朝抜管(人工呼吸の管から外れること、良いことです)し同日、一般病棟へ戻られました。術後2日目からは歩行も開始され、食欲も良好でした。ビリルビンは術直後は5前後まで上昇しましたが、術後4日目には約2.7まで改善し、うっ血が取れ肝腫大も軽快しました。術後3週間を待たずに元気に退院され鹿児島へ戻られました。

心臓手術から3年半が経ちます。お元気に半年ごとの定期健診に来院され、笑顔を見せて下さいます。心臓ホルモンであるProBNPは術前1740と大変高かったのが、いまでは367まで改善しています。肝機能も正常化しました。手術後は畑仕事も楽しんでおられるそうで、うれしいことです。

蛇足ながら、手術後しばらくしてから、患者さんのご主人さまも弁膜症になられ、手術をさせて頂きました。その時にはこの患者さん(奥様)が付き添いをして下さいました。

今後もお二人の元気なお顔を拝見するのが楽しみです。

 

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事例: 重い肺高血圧症を合併した心房中隔欠損症 (ASD)の高齢患者さん

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患者さんは70代後半の女性で九州南部から来られました。

心房中隔欠損症(ASD)が悪化し末期状態で、高度の肺高血圧症(血圧の70%)と三尖弁閉鎖不全症や慢性心房細動を合併し、右心不全のため肝臓も弱り血小板も減っていました。肺も弱く、肺活量は本来の半分以下の量にまで減っていました。

地元の大病院では心臓手術は危険すぎる、お薬で様子を見るしかないとのことでした。

それはすなわち、打つ手なし、ただ死を待つのみ、という意味でした。

患者さんのご子息は内科の先生で、お母様をなんとか助けようと調べ、私のところへご連絡を取ってこられました。

私の外来には九州・沖縄からもちょくちょく患者さんが来て下さいますが、それほど信頼して戴いたことを光栄に思いますし、来て良かったと言って頂けるよう、襟を正して頑張るきもちがこみあげてきます。

この患者さんの場合も何とか元気に九州へ戻って頂こうと努力しました。

まず調べた結果、肺高血圧症は重症でしたが左―右シャントが多量にあり、条件によって肺動脈圧も改善することがわかり、手術が成り立つことが判明しました。

さらに手術によって体力とくに心臓や肝臓や肺のちからは落ちていましたが、それぞれまだ回復の余地を残していること、とくに心臓のパワーアップが手術で図れればあとはうまく上昇気流に乗れると確信しました。肺については手術のあとじっくりと運動療法をやるしかないと開き直っていました。

そこで手術を行いました。

  上妻 左房メイズM弁輪周囲まず左房を開けて左心耳縫縮とメイズ手術を行いました。

左図はそのときの情景です。

心房細動対策を確実にするため左心耳を閉鎖しました。

あの天皇陛下の手術のときに左心耳を閉鎖されたのと同じコンセプトで、血栓ができたり脳梗塞になるのはぜひとも防ぎたいという方針でした。

ついで心房中隔欠損症( 上妻 ASDパッチ閉鎖ASD)をゴアテックスパッチで閉鎖しました。

右図の白いものがそのパッチです。

さらに三尖弁形成術をリングをもちいて行い、逆流がほぼゼロになるのを確認しました。

左下図はそのリングに糸をかけているところです。

上妻 TAP中後に右房のメイズ手術を行い、操作を完了しました。

右下図のように、キモになるところをしっかりと冷凍凝固して、悪い電気信号が通らないようにしました。

術後経過はまずまずで術翌日には集中治療室をでることができました。 上妻 右房メイズ Isthmus

しかし肺が悪く、すぐひしゃげて無気肺と呼ばれる状態になり、呼吸リハビリにじっくりと時間をかけ、お元気に退院されました。

あれから4年近くがたちますが、お元気に暮らしておられ、うれしいことです。

 

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お便り53: 修正大血管転位症と三尖弁閉鎖不全症の患者さん

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修正大血管転位症は医学が進歩した現在も油断ならない病気です。

右心室という小さいポンプが左心室という大きなポンプの役割を果たさねばならない病気で、そのために長期的には無理が生じてしまうからです。

医学教科書では、心室中隔欠損症や肺動脈弁狭窄症などを合併しなければ予後は良いとされていますが、修正大血管転位症で60歳以上まで生存するひとは少ないのです。

 

しかしその死亡原因をみると、解決策がある程度以上は見えてくるのです。

たとえば心不全、三尖弁閉鎖不全症(通常の心臓でいう僧帽弁閉鎖不全症に相当します)、房室ブロック、不整脈などなどがあります。

逆に、それらを一つひとつ入念に治療あるいは予防して行けば、予後はもっと良くなるはずです。

Phm26_0027-s

そこで、私たちは拡張型心筋症の手術や治療の経験を活かし、かつ先天性心疾患の治療経験を活かして、この修正大血管転位症の患者さんの治療にあたっています。

元気に長生きする記録を更新しましょうと頑張っています。

 

下記はその修正大血管転位症に三尖弁閉鎖不全症を併発し、最近三尖弁の手術を受けられた患者さんのご主人さまからのお手紙です。

まだ30代というお若いご年齢から、将来を見据えた心臓手術だけでなく、その後の薬の使い方で、さらに予後を良くしましょうと患者さんや地元の先生方と相談して、チームワークで治療をしています。

 

********患者さんのご家族からのお便り*******

 

名古屋ハートセンター 心臓血管外科 御中 米田先生様

このたび、3月1日手術で大変お世話になりました、*****の夫です。

丹後もやっと桜が満開になり春らしくなってきました。

 
術後の経過も、順調で末っ子の入学式に無事出席できました。
患者さんのご主人様からの礼状メールです

手術前、入学式には出たいとの希望が叶いましたのも、
名古屋ハートーセンター・先生方看護師スタッフの皆々様のおかげで感謝申し上げます。

 

****病院・**先生様の連携にも
ご尽力いただき安心して暮らしております。

ネットで名古屋ハートーセンターのHPを見つけて
手術室の笑顔の集合写真を見たときに
この病院ならなんとかしてくれると直感しました。
 

1月11日のメールにすぐにご返信いただいてから
1月19日検査入院・3月1日手術とレスポンスの速さに
名古屋ハートーセンターでよかったと感謝感謝です。

米田先生、ありがとうございます。

今後とも、妻の経過診察よろしくお願い申し上げます。

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三尖弁閉鎖不全症の治療ガイドライン―患者さんの救命に役立つことも

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米国のACC学会とAHA学会の合同ガイドラインが2014年に改訂されました。

その概要を以下に記載します。

的確な適応とタイミングで患者さんの予後がさらに改善することが期待されます。

2014AHA-ACC_GL TR

このガイドラインの原文は英語で、一般の方々にわかりづらそうなところは日本語訳いたしました。

症状がある、高度のTRが手術適応になりやすいのはわかりやすいところですが、高度でないTRでも左心系弁手術のときに三尖弁輪拡張が著明ならやる意義があるというのを知らない方が多いようです。患者さんのためにこうしたことをガイドラインが明記したのは素晴らしいと思います。


なお以前のガイドラインと解説をご参考のため以下に示します

 

****** 以前のガイドライン ******

三尖弁閉鎖不全症(TR)は油断すると命にかかわる重い病気です。

そのため内外の主要学会でもガイドラインが作成され、三尖弁

手遅れのないように、また不要な手術や治療も避けられるように、

努力がなされています。

 

私たちはガイドラインやEBM(証拠にもとづく医学医療)を基準にして手術や治療にあたっています。

三尖弁閉鎖不全症については三尖弁輪形成術つまりリング(右図)をつけるだけでは治せないケースに対して

僧帽弁 RingTAP形成術で培った人工腱索の技術をもちいて三尖弁置換術を避けて

形成術を完遂することがあるため将来のガイドライン発展にも貢献できればと考えています。

 

以下にアメリカの心臓関係でのトップ学会であるAHAとACCの三尖弁閉鎖不全症などへのガイドラインを引用します。

正確を期するために原文と著者の邦訳を併記します。
(JACC Vol. 48, No. 3, 2006 Bonow et al. e71 August 1, 2006:e1–148)

 

Class I (著者註:有効性が証明済み)
Tricuspid valve repair is beneficial for severe TR in
patients with MV disease requiring MV surgery.
(Level of Evidence: B)
手術が必要な僧帽弁膜症をもつ患者で高度なTRをもつ方に三尖弁形成術は有用です

Class IIa (著者註:有効である可能性が高い)
1. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is reasonable
for severe primary TR when symptomatic.
(Level of Evidence: C)
症状ある高度TRに対して三尖弁形成術や三尖弁置換術は理にかなっています

2. Tricuspid valve replacement is reasonable for severe
TR secondary to diseased/abnormal tricuspid valve
leaflets not amenable to annuloplasty or repair. (Level
of Evidence: C)
三尖弁輪形成術で治せないような高度TRに対して三尖弁置換術は理にかなっています

Class IIb (著者註:有効性がそれほど確立されていない)

Tricuspid annuloplasty may be considered for less
than severe TR in patients undergoing MV surgery
when there is pulmonary hypertension or tricuspid
annular dilatation. (Level of Evidence: C)

僧帽弁手術を受ける患者さんで肺高血圧症や三尖弁輪拡張があるときは、TRが高度でなくても三尖弁輪形成術を考慮できることがあります

Class III (著者註:有用でなく有害になる恐れあり)
1. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is not
indicated in asymptomatic patients with TR whose
pulmonary artery systolic pressure is less than 60 mm
Hg in the presence of a normal MV. (Level of
Evidence: C)
僧帽弁が正常で肺動脈の収縮期圧が60mmHg未満で、症状がないTRの患者さんには三尖弁置換術や三尖弁輪形成術は勧められません

2. Tricuspid valve replacement or annuloplasty is not
indicated in patients with mild primary TR. (Level of
Evidence: C)
軽度の原発性TRでは三尖弁置換術や三尖弁輪形成術は勧められません


以下に日本循環器学会の三尖弁閉鎖不全症のガイドライン(2006年、合同研究班報告)を引用します。基本コンセプトは大変近いものと思います。元ページもご参照ください(第14ページです)。

表30 三尖弁閉鎖不全症に対する手術の推奨

クラスⅠ
(著者註:有効性が証明済み)


1 高度TRで,僧帽弁との同時初回手術としての三尖

弁輪形成術

クラスⅡa
(著者註:有効である可能性が高い)


1 高度TRで,弁輪形成が不可能であり,三尖弁置換

術が必要な場合
2 感染性心内膜炎によるTRで,大きな疣贅,治療困
難な感染・右心不全をともなう場合
3 中等度TRで,弁輪拡大,肺高血圧,右心不全をと
もなう場合
4 中等度TRで,僧帽弁との同時再手術としての三尖
弁輪形成術

クラスⅡb
(著者註:有効性がそれほど確立されていない)


1 中等度TRで,弁輪形成が不可能であり三尖弁置換

術が必要な場合
2 軽度TRで,弁輪拡大,肺高血圧をともなう場合

クラスⅢ
(著者註:有用でなく有害)


1 僧帽弁が正常で,肺高血圧も中等度(収縮期圧

60mmHg)以下の無症状のTR

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お便り13 三尖弁閉鎖不全症などの患者さん

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患者さんは 60代後半の女性です。

僧帽弁の手術を受けられ、近年になって三尖弁閉鎖不全症などの連合弁膜症と心不全が再び悪化し、手術も断られ、

何か月も入院し闘病の末、腎不全・肝不全まで合併し、生きる最後のチャンスをということで主治医の先生からご相談を受けました。

神奈川県の患者さんのため、当時私が勤務していた大和成和病院へ転院して頂きましたが、すでに強心剤が外せないショック状態で、重い三尖弁閉鎖不全症のために肝臓もうっ血性肝硬変という危険な状態になりつつあるところでした。

 

000496mご家族やチームで何度も相談し、心胸郭比95%という巨大心でしたが、これしかないという事で心臓手術に踏み切りました。

僧帽弁置換術三尖弁形成術その他を行いました。

状態が悪くしかも再手術ということもありさまざまな工夫を凝らしました。

 

術後も皆で汗(熱い汗も冷や汗も)を流しましたが、お元気になられ退院されました。

僧帽弁も三尖弁閉鎖不全症も治り、肝臓や腎臓のちからももどって来ました。

 

それから一年近くたち、年賀状でお元気な状態を伝えて頂きました。

短い文章ですが、ともに悩み、決意し、頑張って生還してくれた患者さんや全力のご協力を下さったご家族(息子さん)の姿が目に浮かび、熱くなります。

 

「医療安全」が叫ばれる今日、こうしたハイリスクの患者さんの治療を断る病院が増え、大変です。

断らないことをモットーにする私たちでさえ、チーム全員とよく相談の上で慎重に方針を決める必要があります。

しかし日本の医療の良さはこうした患者さんの治療にも全力で取り組んできた、患者を自分の肉親と思って接するスタンスにもあったのではないかと思い、

そうした哲学を守るためにどういう仕組みを創れば良いかを考える昨今です。

 

******************************

賀正

お陰様で新年を迎える事が出来ました

ご多忙の日々をお過ごしの事と存じます

どうか先生のお力で、生きる事に困難な毎日を過ごしている人々に生きる喜びを与え、助けてやって下さい

寒さ厳しき折からご自愛下さいませ

一月吉日

******************************

上記の年賀状の掲載許可をお願いしたところ、快諾のみならず、次の体験記を書いてくださいました。

******************************

私の体験記を読むことで病で苦しんでいらっしゃる方、悩んでいらっしゃる方、また落ち込んでいらっしゃる方々に勇気と元気と希望を持ってもらえれば、役に立つ事であればと思い、ペンを走らせました。

私は46歳と66歳の2回、心不全の病いで弁の心臓手術を受けました。

46歳の術後、子育てと仕事の両立に悩んだり、落ち込む暇もなく、母親としての責任と義務を果たすため、懸命な毎日でしたが、無理が影響したせいで、入退院を繰り返す日々が続き、ついに余命幾ばくと宣告される体になってしまいました。

幸いにして主治医の先生を通して心臓血管外科医の米田先生とお会い出来まして、米田先生の心温まる激励と周囲の方々のやさしい後押しで、命をかけた手術にのぞみました。

46歳の時の手術に比較すれば、年齢的・体力的に大手術で大変な状態である事は十分解っていました。正直悩み、精神的にも落ち込みましたが、私があれこれ考えても何のプラスにもならないと思い、不安を明るさに変えるのが自分に出来る責務だと切り替え、ベッドで横になっていてもつとめて明るく振舞うようにしました。

お陰様で手術も成功しました。2か所の弁膜症も1か所は弁形成で、あとの一か所に人工弁が入ったとの事でした。

麻酔から覚めた時、「ああ、私は生きているのだあ」と涙がこぼれ落ち、命の尊さを痛感しました。米田先生をはじめ、私の命を助けて下さった諸先生方、そして息子に心から感謝しています。本当にありがとうございました。

米田先生、病で戦っていらっしゃる方々に生きる力を与えてやって下さい。お願いします。手術から1年3か月経ちますが、あの時の感動を忘れる事なく、これからも懸命に生きて行こうと思っています。

病いと戦っている皆さま、つらくても一つしかない命です。命の尊さを大切にして、治るという希望をもって頑張ってくださる事を心から祈っています。

 

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手術から6年が経ちました。昨年の年賀状へのお返事が出せなかったので今年はちゃんとお出ししたところ、下記のお手紙を頂きました。

お元気そうで何よりです。

健康に留意され、永く楽しくお過ごしください

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前略ご免下さいませ。

いただきました賀状、息子と共に嬉しく拝見させて戴きました。

数多くの患者さん方を診察なさっていらっしゃるのに記憶の中に留めて頂き心から嬉しく思って居りました。

私が今日あるのは米田先生のお陰と感謝して居ります。姫野先生のサポートもあってどうにか今日を過ごさせて頂いています。此の度は米田先生のご努力が実を結び、心臓血管外科を立ち上げをなさったとの由、心からお喜び申し上げます。

横浜の地よりご成功をお祈りしております。

ご多忙な毎日だと存じますが、どうかご自愛下さいまして私達患者のためにご努力下さる事をお祈りしております。取急ぎお礼とお祝いを申し上げます。

乱筆乱文の程、お許し下さいませ。

******拝 (横浜の地より)

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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①三尖弁閉鎖不全症について―あなどれない病気です、しかし、、【2025年最新版】

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最終更新日 2025年1月6日

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◾️三尖弁閉鎖不全症とは

 三尖弁の位置と構造.

三尖弁が閉じにくくなり血液が逆流する病気です。三尖弁の弁膜症のほとんどがこの三尖弁閉鎖不全症で、弁が狭くなる三尖弁狭窄症は先天性やリウマチ性で起こりますが、まれです。

軽い三尖弁閉鎖不全症は健康人でもよく見られます。症状はありません。逆流が増え重い三尖弁閉鎖不全症になれば、下肢の浮腫(むくみ)や運動時の息切れなどが起こったり、頚の浮腫やお腹に水が溜まって(腹水と言います)腫れたりします。こうなれば危険です。

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◾️三尖弁閉鎖不全症にはどんなタイプが?

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さまざまなタイプがあります。たとえば:

① 弁の付け根(弁輪と呼びま す)が広がって、弁尖つまりひらひら開閉する部分が届かなくなるタイプ。僧帽弁の弁膜症やときに大動脈弁の弁膜症が遠因となって起こることもよくあります。

②肺高血圧つまり肺動脈圧が高くなり、右室が無理をしてその入り口の弁である三尖弁が逆流するタイプ。これもよくあります

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それ以外には

③ 生まれたときから弁の一部が発達不十分などのためにおこる先天性や、

感染性心内膜炎(略称 IE)が三尖弁に起こって弁に穴があいたりちぎれるタイプなどもあります。

Fotosearch_CCP02051⑤ 近年増えている印象があるのは右室の不全のため右室が大きくなりかつ形が崩れて三尖弁を支える乳頭筋が引っ張られて弁尖が閉じにくくなる、狭義の機能性三尖弁閉鎖不全症もあります。

⑥ ペースメーカーのケーブルが弁尖を圧迫しておこるペースメーカー三尖弁閉鎖不全症、じつはこれがもっとも多い原因です。右図はペースメーカーとそのケーブルの位置をしめします。ケーブルが三尖弁を横切るため弁が圧迫されて漏れることがあるのです。

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◾️三尖弁閉鎖不全症の治療は

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三尖弁閉鎖不全症が軽ければ、心臓の他の弁や部位が大丈夫であれば、定期健診やお薬などの内科的治療でじゅうぶんこなせます。

しかし逆流が増えて心不全症状が強くなったり、肝臓や全身に無理がかかりだすと手術が必要になります。手術の詳細は三尖弁形成術のページで詳しくのべ、ここでは概略を解説します。

三尖弁閉鎖不全症の手術には弁形成術とくに弁輪(弁の土台の部分)を縫い縮める弁輪縫縮術が一番基本です。

三尖弁輪縫縮術(三尖弁輪形成術)の一例を示します弁輪縫縮術には糸で弁輪を小さくするDeVega (ドゥベガ) 法リングを用いる方法があります。

一般にドゥベガ法は簡略法で手軽に短時間でできます。

その一方、リングを用いる方法は多少手間と時間がかかるかわりに効果がより確実で長持ちする傾向があります。

 

 私達は重い三尖弁閉鎖不全症にはリングを用い、軽いものには糸で対処できるドゥベガ法を用いて患者さんのニーズにあった方法を使い分けています。とくにドゥベガ法は一般に長期成績がリングより劣るという報告があるため、EBMデータにもとづいて逆流再発しにくいような工夫をしています。いずれ発表予定ですがここまで結果は上々です。

必要があればさらに効果的な方法も使います。

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さらに右室が壊れて大きく拡張し、弁尖が右室内に落ち込んで(テザリングの状態です)、単なるリング弁輪形成では逆流が止まらない場合は、スパイラル法(当時長崎大学の江石清行先生がご開発)などの右室乳頭筋を寄せる方法を使います。それでもダメなら人工弁を用いた弁置換を考えますが、今後は弁置換をしなくて済むケースが増えると期待しています。

 

長い年月の間に複数回の弁手術(たとえば僧帽 MICS3弁置換術とか大動脈弁置換術、ときには三尖弁形成術や置換術)を受けられた患者さんで三尖弁のみ問題というケースがときにあります。

そうしたケースではミックス手術(MICS、ポートアクセス法)の方法を活用し、右開胸の小さい創で最小限の剥離操作で三尖弁のみ治し、不要な操作は避けるようにしています。これまで長時間かかった手術がそれだけ短時間ででき、手術の安全性を上げるほどの効果を発揮しています。

参考: 三尖弁閉鎖不全症などの治療ガイドライン

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◾️重症の三尖弁閉鎖不全症での注意点は

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三尖弁閉鎖不全症でも二次的な問題が発生すれば命にかかわることがあります。うっ血性肝硬変はその一例です。 通常、三尖弁閉鎖不全症自体で直ちに死亡するケースは少ないです。

しかし、三尖弁閉鎖不全症のため肝臓がうっ血し(うっ血肝と呼びます)、次第に肝臓が破壊され機能も低下し、その状態が続けば うっ血性肝硬変にまで悪化します。

 

こうなると重症肝硬変のため肝不全で死亡する危険性が高くなります。

三尖弁閉鎖不全症でも重症となると油断できないのはそのためです。

 

うっ血肝は三尖弁閉鎖不全症を手術で治せば治ります(心臓手術・事例:肝硬変でもミックス法で三尖弁形成術)。

 

しかし肝臓の力があまりにも落ちて肝不全になってしまうと、心臓手術の負担に肝臓が耐えられなくなってしまいます。この状態になってしまうと手術を断る病院が多くなります。

またうっ血性肝硬変にまで進んでしまうと、心臓を治しても肝臓はもとの状態にはもどれず、結局肝不全で死亡する危険性が高くなります。こうなると手術そのものが成り立たなくなる恐れがあります。

昨今の公的病院では院内「安全管理委員会」がそんな状態の悪い患者さんに手を出してはいけない、と止めるケースが増えました。まだまだ手術で回復できる患者さんでさえ断られたというケースを少なからず知っています。しかし断られた患者さんはどうなるのでしょうか。そこを考える必要があるわけです。

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◼️うっ血性肝硬変

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なおうっ血性肝硬変の重症度分類としてよくもちいられるものとしてChild分類(チャイルド分類)などがあります。私たちはチャイルド分類のAの三尖弁閉鎖不全症の患者さんを多数救命して参りました、チャイルド分類Bになりますと、さすがに慎重になりますが、年齢や体力なども考慮し、これは行ける、と判断して救命できた事例は複数あります。

 

こうした患者さんたちを多数救命して来た実績のある私たちも、肝臓が限度を超えて壊れていると手術できないことはあります。

しかし患者さんはそのままではもはや生きるすべはありません。

そこで勝算がある程度以上あれば頑張るべきときには頑張る、しかしそれ以上に、ある程度早めのタイミングで手術すること、そしてそのために経験豊かな専門家と早めに相談することが大切です。

ぜひ勇気を出して一歩早くご相談下さい。

 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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