事例: クレフトのある先天性僧帽弁閉鎖不全症

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先天性僧帽弁閉鎖不全症にはさまざまなタイプがあります。

単にクレフトと呼ばれる弁尖のき裂から、それが大きくなって弁輪に達するもの、さらに弁輪を割って心房中隔欠損症ASDや心室中隔欠損症VSDまでに至るものなど、さまざまです。

Ilm19_cb02025-sその他にもさまざまなき裂、低形成、腱索や乳頭筋の異常などがあります。

いずれにせよ、こどもの頃からの逆流のため、長い年月を経て弁の形も正常も変化変形します。

それぞれに応じた対応が大切と思います。それによって弁形成ができるからです。この病気では若い患者さんが多いため、きわめて重要なことです。

患者さんは30代後半の女性です。

11歳のときに心雑音を近くの病院で指摘され、以後毎年2回定期健診を受けておられました。

13歳ごろに倒れて近くの病院へ行き、そこで重い僧帽弁閉鎖不全症と初めて診断されたそうです。以後、2か月ごとに外来通院し内服治療を受けておられます。

来院の前年までは毎日仕事をしておられましたが、それ以後次第に息切れが増え、旅行などのときに苦しくなったこともあったそうです。何とか一日おきの勤務で頑張っておられましたが、弁形成ができるという話を聞いて米田正始の外来へ来られました。

心不全のある、高度な僧帽弁閉鎖不全症のため手術を行いました。

全身麻酔下に胸骨正中切開・心膜切開でアプローチしました。
体外循環・大動脈遮断下に左房を右側切開しました。

図1僧帽弁は術前診断どおり、前尖に裂隙(クレフト)があり、

僧帽弁輪中央部からやや後交連側に斜めに走行する形でクレフトができており、

クレフト部の前尖は肥厚と硬化が著明でした(写真左)。

僧帽弁輪そのものは何とか保たれていました。

乳頭筋は前尖のクレフトの左右比に近い形で、前乳頭筋が後乳頭筋よりもやや発達し 図2ていました。

また後尖はP1がやや低形成で、

P3が腱索伸展のため逸脱していました(写真右のセッシでP3を把持)。

P2-P3間のScallopが前尖のクレフトの対岸にあり、ここからMRが強く発生しやすい形でした。

総じて、先天性のクレフトMRで、その後P3の逸脱という後天性疾患が加わったもので、クレフトは共通房室弁口の亜形と考えられましたがASDやVSDはありませんでした。

図3まずクレフトを僧帽弁輪から弁尖まで結節縫合にて修復再建しました。

このとき、

弁輪近くの僧帽弁輪形成術MAPの糸は左室側から、大動脈弁を直接チェックしながら弁輪に刺入しました(写真左)。

さらにP3をP2にEdge-to-edgeで連 図4結し、

P2-P3間のScallopを閉鎖しつつ、

同時にP3の逸脱を防ぐようにしました(写真右)。

Duran柔軟リング25mmで全周性にMAPを行いました 図5(写真左)。

柔軟リングを用いることで隣接する大動脈弁のジオメトリーを変えないように、

また弁輪部のクレフトが再発しないようにしました。

逆流試験にてMRの消失を確認し(写真右)、

左房を閉 図6じて87分で大動脈遮断を解除しました。

経食エコーにてMRの消失と良好な心機能および大動脈弁を確認しました。弁形成の完了です。

入念な止血ののち手術を終えました。

術後経過はおよそ順調で、出血少なく血行動態もおおむね良好で、術当夜抜管いたしました。

術翌朝一般病棟へ帰室され術後10日目に元気に退院されました。

あれから3年が過ぎ、現在は毎年1回定期健診に来られます。

心臓もすっかり小さくなり、リズムも含めて正常化しました。お元気なお顔を拝見してうれしく思っています。

 

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原因 

僧帽弁閉鎖不全症 

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◆  HOCM(IHSS)にともなう僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁形成術

◆ ミックスによるもの

◆ ポートアクセス手術のMICS中での位置づけ

◆ リング

◆ バーロー症候群


虚血性僧帽弁閉鎖不全症に対する僧帽弁形成術

④ 僧帽弁置換術

◆ ミックス手術(ポートアクセス法)によるもの  


⑤ 人工弁

    ◆ 機械弁

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       ◆ ステントレス僧帽弁: ブログ記事で紹介

心房細動

メイズ手術

心房縮小メイズ手術

ミックスによるもの:

心房縮小メ イズ手術 

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執筆:米田 正始
福田総合病院心臓センター長 仁泉会病院心臓外科部長
医学博士 心臓血管外科専門医 心臓血管外科指導医
元・京都大学医学部教授
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事例: 先天性僧帽弁閉鎖不全症・バーロー症候群の弁形成術

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先天性つまり生まれたときからの僧帽弁閉鎖不全症は心臓専門病院では少なからずみられる病気です。

逆流が強くなり心臓とくに左室が大きくなったり、心不全の症状がでると手術が必要になります。

また時間とともに左房も大きくなり、その結果心房細動などの不整脈が出てくると手術が勧められることもあります。

次の患者さんは当時31歳の女性で、僧帽弁閉鎖不全症に発作性心房細動を合併し、手術を希望して来院されました。術前エコー長軸

そのころ、疲れやすくなり、会社の健康診断で僧帽弁閉鎖不全症を指摘され、ホームページを見て米田正始の外来へ来られたのでした。

術前の経胸壁エコーでも術中経食エコーでも前尖後尖とも全体的に逸脱しているように見えたため(右図をご覧ください)、

そして強い僧帽弁の逆流も、逆流ジェットが複数ある(左図)ことから複数病変それも通常と少しちがうものなど、様々な状 術前エコー4CVD況と対策を考えて手術に臨みました。

皮膚をなるべく小さく切開し、心臓にアプローチしました。今ならポートアクセス法などのミックス手術でより小さい創で手術するでしょうが、当時としてはかなり小さい創で手術しました。

僧帽弁は後尖の中央部分にクレフトつまり裂隙があり先天性のものと思われました。

さらに後尖の後交連近くに腱索断裂があり、その部分は逸脱つまり左房に落ち込む傾向にありました。

また後交連部は大きめで腱索伸展著明で逸脱していました。(手術写真準備中です)

前尖はやや逸脱傾向はありながら、後尖の上記以外の部位とはちょうどバランスが取れた形でした(つまりどちらもやや逸脱傾向にありました)。

前尖と後尖の逸脱部は慢性MRのジェットのためか肥厚し、後尖の逸脱部は若干瘤化していました。

全体としていわゆるBarlow症候群つまり組織変性が強い弁で僧帽弁全体が弱いという印象でした。

こうした弁でも逆流が治れば長持ちし得ることが知られており、予定どおり全力あげて形成することに致しました。

まず確実に病変がある後尖中央部のクレフト部を閉鎖し、その際に余剰組織を併せて縫縮しました。

次に後交連部と後尖の後交連寄り部分を連結し、併せて余剰(瘤化)組織を縫縮しました。

この時点で逆流試験を行いますと前尖後尖はちょうどバランス良くかみ合い、逆流もほぼ消失しました。人工腱索も検討していたのですが不要でした。

そこで仕上げに前尖サイズのリングで弁輪形成を行いました。

それにより逆流試験でMRはほぼ消失しました。

冷凍凝固によるメイズ手術を行い、左房を2層に閉じて78分で大動脈遮断を解除しました。

心臓が拍動を再開しまもなく洞性リズムを回復しました。

術直後エコーD経食エコーにて僧帽弁閉鎖不全症はほぼ消失しました。

入念な止血ののち無輸血にて手術を終えました。右図は術後1週間の経胸壁ドップラーで僧帽弁の逆流は消失していました。

また下図は同長軸エコーで前尖と後尖の良好なかみ合わせを示します。

術直後エコー長軸術後経過は良好で、出血も少なく血行動態も安定しており、術当日の夕方、人工呼吸器を外し、術翌朝、一般病棟へ戻られました。

経過良好で手術後10日に退院予定でしたが、患者さんのお父さんが風邪のため、移されないようしばし入院続行し、術後経2週間で元気に退院されました。

術後3年4CVD術後3年経った現在、お元気で暮らしておられます。年一度の定期健診でお元気なお顔を見せて頂いています。

右図は術後3年のドップラーで僧帽弁の逆流はありません。

弁置換術と比べて弁形成術が優れているのはどの年代の患者さんでもそうですが、こうした若い女性の場合はとくにそれが顕著です。

この患者さんは妊娠出産も問題なくこなせますし、今後の人生が文字通り健康なものになるでしょう。実際、手術のあとは大変快活になられ、この点でもうれしく思っています。

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